転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



本日のネタは、仮装ぴあにすと様がお書きになった日記から、
勝手に引っ張って参りましたので、
先に、仮装様宅のほうをお読み頂ければと思います。
こちらは、『そういうお身内がいた』転勤族一家の物語です。

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うちの舅は、七十代になってから、パジャマで出歩けるようになった。
きっかけは、食道癌の診断を受けて入院したときからなので、
病気療養と関係のないパジャマ姿では、当初は、なかったのだが、
だんだん、それが日常着になり、退院しても彼は着替えなくなった。

おじーさんらしく、舅は昔からずっと浴衣で寝ていたのだが、
71歳にして入院に際し、初めてのパジャマを買った。
「わしゃー、こがいなもんは、着たことがなかったけえのう。
パジャマのズボンは、前が開いとらんけえ、
便所へ行っても不便なことよのぅと思うとったんじゃが、
この前、外へ立って煙草喫いよって、腰に手あてたら、
ズボンの尻のほうに、ぶすっと、指が入っての。
なんじゃこりゃ、今まで後ろ前はいとったんかと、わかったんよ」
と得意そうに語っていたものだった。

この話を私から聞いて主人は、
「甘いんよアンタは。どうしてそこでオヤジに、
それは大腸内視鏡検査用の特別のパジャマズボンです、
って言ってやらんかったんよ!」
と気色ばんでいたものだったが・・・

ともあれ、最初こそ、そのように不本意な思いもしたが、
舅はすぐにパジャマに慣れ、愛用者になり、手放せなくなった。
当時、私たちは転勤で今治に住んでいたので、
手術を受ける舅にも、松山の四国がんセンターに転院して貰い
(今思うと、よくぞそんな知らない土地まで来てくれたものだった)、
パーキンソン病が悪化していた姑には今治市内の病院に入院して貰い、
家族全員で、愛媛での生活になっていた。

舅は偉い人で、初めての松山を、彼なりにエンジョイしていた。
特に、食道癌手術前の抗癌剤治療の段階までは、
すこぶる元気で、日常生活上の制限も少なかったので、
道後温泉に行き、松山市内のデパートをハシゴし、
パチンコ屋を開拓し、松山城の周囲をしょっちゅう散歩していた。
パジャマ姿で(泣)。

あるときなど、私が見舞いに行くと病室のベッドがモヌケの空で、
しばらく待っていたら意気揚々と舅が戻って来、
「いやー、すまんかったの。ちょっとそこらへん歩いとって」
「・・・・・・・・(^_^;」
「三越まで行ってみたんじゃが、まあ、どういうこともなかった」
「おとーさん、無茶なさっちゃ、いけませんよ」
「わりぃわりぃ。外出届くらい出さんといけんかったよの」
そーじゃなくて、そんなパジャマ姿で三越に(涙)。
よくぞ補導ってか、保護されませんでしたね。
・・・・って、え?届けも出しとらんかったのか!?

舅が四国がんセンターを退院し、我々も広島転勤がかない、
転勤族一家で佐伯区の舅宅に帰ってきてからも、
舅は、パジャマを脱がなかった。
「じーやんじゃけ、えかろ」
とつぶやいて、そのままのナリで外出したものだった。
足下は勿論、サンダルばきだった。

姑が敗血症で長期入院したときも、舅は毎日見舞ったが、
やはりパジャマ姿のまま、自家用車を運転して出かけていた。
病院に着いて車を駐車場に入れてから、
「なんか、入院患者が外から来たみたいなのぅ」
とさすがに状況を把握しているところを見せていたが、
行動が改まることは、なかった。

姑を見舞ったあと、舅はエレベーターの中で、
「あちゃ、しもうた!」
と言い、見たら、病室のスリッパを履いたままだったことがあった。
姑の部屋で過ごすのに、サンダルをスリッパに履き替え、
帰りは忘れて、そのまま出てきてしまったのだ。
しかし彼はこれまた、
「ま、めんどくさいけ。明日も来るしの」
と、その日は、もう病室まで履き替えに戻ることはしなかった。
確かに、水虫対策の草履のようなサンダルと、病院スリッパとでは、
スタイル的に言っても、あまり落差はなかったかもしれない。

その帰りの車の中で、舅は私に、
「どや、メシ食うて帰るか」
と言った。誘ってくれたのは嬉しかったが、
「え・・・。い、いいんですか、おとーさん」
「ええよええよ!遠慮しんさんなや!」
いやその、遠慮っていうか、あのですね、
パジャマ着て、病院スリッパで、ファミレスに行くのが、
おとーさんが、いいのかなって、思って・・・・・・・・・。

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今でも、舅宅に行くと、愛用のパジャマが何枚も残っている。
これ着て、冬は襟巻きして、ちゃんちゃんこ羽織って、
くわえ煙草で、ばりばり運転して、パチンコに行ってたなー、
と、ロクなことを思い出さないヨメなのでございます~(逃)。

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