元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

陶芸家の後姿

2007-08-23 | 仕事について
夜8時の赤穂の駅から浅野庄司氏が運転する車に乗って、備前に向かいました。
途中の景色は神戸と時間の流れがかなり違うことが分かりすぎる静寂に包まれていて、真夜中に感じられるほどでした。
道中日生というこのあたりでは一番賑やかな町を通りますが、たくさんの建物がかえって、人通りか感じるその時間差を強調しているようでした。
ブルーハイウェイを逸れ、点在する集落抜けて、車はどんどん山の中に入っていきました。
そんな山の中の突き当たりと思えるような場所に蛍光灯の光に浮かび上がった登り窯がありました。
すでに窯には火が入っていて、これから割り木をくべて1500度まで温度を上げる助走をしているようでした。
温度をいかに1500度まであげるか、作品を焼くのではなくそれを入れている窯をいかに高熱で焼くかなどポイントがありますが、浅野氏はひとつひとつ説明してくれました。
先月神戸駅で浅野氏と会った時に。窯入れを手伝わせて欲しいと言い、浅野氏を仰天させてしまいましたが、私が本気であること分かってくれて、今回の窯入れに呼んでいただけたのでした。
窯に着いてしばらくは、何もない山の空気の匂いや雰囲気を楽しんでいましたが、11時頃から作業が始まり、それから10時間火と向き合ったまま過しました。
窯の両側の小さな穴から薪をくべて温度を上げていきますが、浅野氏が炎を見ながら、私にくべる本数、場所などを指示していきます。
窯にあけられた小さな窓から中を見ると、竹の中は炎でいっぱいになっていました。体に高温の熱というか、エネルギーを感じ、木がついたら体中から汗が噴出しています。
物珍しいことへの好奇心もあって、夢中になって作業していると3時くらいまではあっと言う間に過ぎていきましたが、日中仮眠を取ることができませんでしたので、眠気が少しずつ私の上にのしかかってきました。
空が白み始める4時半頃から7時くらいまで、強烈な眠気が襲ってきました。
夜の9時から翌朝7時までそこにいて、窯入れを体験させていただきましたが、浅野氏は5日から7日窯の側を離れることができないようです。
ひとつの焼物が出来上がるまでに作家の命を削るような作業があることを目の当たりにしました。
帰り電車のなかで眠り込んでしまい、姫路駅で車内清掃の方に起こされて、目覚めました。

2 コメント

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よい体験ですね (聖祥)
2007-08-24 00:34:50
こんにちは。

私も立杭焼や備前焼に好きな作家さんがいまして、
器を求めます。
それを聞いて、一度、値段がいくらなのか尋ねられ、答えた際に、「単なる食器にそんな値段出すの!?」と言われたことがあり、逆に驚きました(笑)

万年筆でも、焼き物でも、「作る工程」を知ればその値段が妥当、もしくは安いものであるということが、よく分かるものですよね。

当方、ホームページをリニューアルいたしました。
アドレスも変更になっておりますので、またよろしければご覧ください。
今後とも宜しくお願い致します。
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物の値段 (penandmessage)
2007-08-24 01:47:51
聖祥様
こんばんは。ご無沙汰しております。
以前からホームページを拝見しており、その記事と内容の多さにすごいと思っていました。
私のブログは言ってしまえば、仕事みたいなものなので、お仕事ではなくあれだけの内容を書き続けてこられたことに敬意いだきます。
新しいホームページはすっきりしていて、聖祥様が伝えたいことが優しく伝わってくる感じがして気持ちがいいですね。無理をなさらずにマイペースで続けられたらいいのではないかと思います。

物の値段というものは非常に難しいですね。現代の日本人が特にそうなのかどうか分かりませんが、実際の原料にどれだけコストがかかっているかということだけでしか判断されていない傾向にあるように思います。
備前をただの茶碗としか見なければ、100円でもご飯を盛ることのできる物がたくさん売られているわけですから、その切り口ではその値段は法外に感じられるのかもしれません。
しかし、登り窯で薪を焚いて、ガスや電気の窯では比べものにならないエネルギーと時間を使って、自分の身を削って作り出した数の少ないものがたまたま茶碗だったら、それは茶碗を買うという行為ですが、その作家のメッセージが込められた茶碗と言う形のものを手に入れる行為です。
数は少なくても、私はそんなものをひとつずつ手に入れていきたいと思いますし、それを伝えていきたいと思っています。
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