元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

物の見方

2013-06-15 | 仕事について

私たちが扱っている商品のほとんど、特に革製品、木製品は最低限の表面加工しか施されていない、天然の素材が使われています。

それらはその素材の感触が直接手に伝わりますし、使い込むと光沢が出たり、色が変化したりというエージングをしてくれます。

美しいエージングを実現しようと思ったら、扱いを丁寧にしたり、手入れをしたりする必要がありますが、必ず新品の時よりも魅力を増したものになってくれます。

買った時が一番美しい物よりも、使い込むほどに美しさを増すものの方が良いと多くの人が思われると思いますが、そういうものは材質の状態にバラつきがあったり、作りが不揃いだったりすることがよくあります。

平均的にきれいなものが作りやすくするという選択肢も物作りにはあって、そういう素材、そういう作りをすればバラつきも出にくい。

当店と関わってくれている職人さんの目指すところはそういうところにはなくて、不揃いという危険を冒しているとも言えます。

それらはあまりたくさんの数を作らなくてもいい体制ででき得ることであって、例えば世界的な規模で仕事をしているブランドはそういう方法論を取りません。

両者はおそらくその物の楽しみ方、見方が違うのだということを今まで直感的、感覚的に分っていましたが、上手く言葉にすることができませんでしたが、あるお客様からそういう物をどう思うか?という問い合わせをいただき、初めて言葉にできました。

物の見方について理解されているお客様から教えていただいた言葉だったと思います。

その言葉を持たなかったら、私たち店は職人さんたちにきれいな製品のさらに奥にある、あえて冒険をしているものを要求しにくくなり、少量生産のものは大量生産のものに食われてしまう。

それは万年筆に関しても言えることで、大量生産を前提に作られている大メーカー、大ブランドのものはどうしても思い切ったことがやりにくく、価値の持たせ方が工房生産のものと違ってきます。

どのメーカーがどちらでということは言いたくありませんが、当店ではなるべく工房生産のものを扱いたいと思っています。

店もまた同じで、私たち小さな店は大きな店ができない冒険を冒してこそ価値があるのだと思っていて、物の楽しみ方が違うように、店に求められるものも違うのだと、全てが繋がって思い当たりました。