元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

ブレイスブリッジ邸(ワシントン・アーヴィング著)岩波文庫

2010-02-11 | 仕事について
表紙に惹かれて何となく手に取り、読み始めました。
挿絵やその下に書かれた、ちょっとしたことを精一杯劇的に描写しようとしている見出し文が子供の頃寝る前の布団の中で読んだ福音館の少年文学全集のようで懐かしい気持ちにさせてくれました。
旧き良きイギリスののんびりした田園暮らしを描いた小説で、封建領主の屋敷が舞台になっています。
人物描写に文字数を割き、劇的な事件やドロドロした恋愛など全くなく、静かに、ゆっくりと、そして温かく時が流れていくようです。
それぞれの人が自分の置かれた状況に満足し、より良い暮らしを目指したり、成功を狙って人生の賭けをしたりすることなく、日々の暮らしを淡々と送っていけることに、少し羨ましく思いますが、遥か遠い平和な時代のことです。
身分制度がなくなり、好きな仕事に就ける現代の自由は、誰からも支配されることがなくなりましたが、誰からも守られることがなく、自分の暮らしは自分で守らなければいけません。
少し忙しい考え方をすれば、私たちは誰からも支配されない自由を手に入れた代わりに、ストイックに自分を磨き続け、今の暮らしを保つ努力、変わらないための努力をし続けなければいけないということになります。
でもたまにはこんなゆっくりした小説を読んで、のんびりした人々の生活を見るのも悪くないと思いました。