専門家ら、朝鮮半島情勢を診断ー
「段階的・同時的非核化は入口のレベルを上げたもの」
「段階的・同時的」案は?
米国の体制保障措置のレベルが高ければ
北朝鮮核廃棄のレベルも高いと明らかにしたもの
朝中首脳会談の意味
北朝鮮、会談の主導権を奪われないようにしている
米強硬派の起用に対応するカードの意味
朝鮮半島情勢はどこへ向かうか
非核化交渉を細分化する“サラミ”式は
むしろ北朝鮮にとって大きなストレス
トランプの任期内に終わらせようとするだろう
トランプがどうするのかがカギに
電撃的な朝中首脳会談で急変する朝鮮半島情勢に南と北、米国と中国まで主要関係国がすべて全面に登場した。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が中国の習近平国家主席と固く手を握り、5月の朝米首脳会談をめぐるそれぞれの思惑はさらに複雑になった。ハンギョレは専門家らに朝中首脳会談をきっかけに変化した朝鮮半島情勢に対する分析と展望を聞いた。
■朝中首脳会談の背景と意味
イ・ヒオク成均中国研究所長
朝中首脳会談の前提条件である非核化意志表明が解決され、大きな障害が取り除かれた状態だった。非核化から平和体制論議に移行する時、休戦協定当事者である中国の介入と役割は避けられない。金正恩委員長が国際舞台にデビューするのに中国を差し置いて行くのは難しいという政治的負担感も作用しただろう。
金委員長は、米中間の戦略的不信を活用し、北朝鮮が転換を模索する際に中国が北朝鮮寄りに動いてくれることを期待したようだ。同時に朝米関係改善は中国を狙ったのではないかという中国側の憂慮を北朝鮮が読みとったものとみられる。
中国の学者たちは、北朝鮮が主導権を奪われないという意図で会談を先に提案したことに留意する必要があるという。朝中の歴史が国際社会情勢の変動に動揺しないほど戦略的な優位があることを強調した点も重要だ。結局、朝中が戦略的利益を交換するということだ。
(中国が金委員長の非核化の言及を紹介したのは)北朝鮮が(米国との交渉などに)ある程度の準備ができているので、周辺環境が整えば状況を進展させることができるというメッセージを中国が代わりに伝えたようだ。
ク・ガブ北韓大学院大学教授
朝中関係の修復は、北朝鮮と中国の内部に要因がある。北朝鮮の立場では、北京を経由せずワシントンに行くというのは、(朝米首脳会談の)政治的負担が少なくなかった。経済的にも北朝鮮の対外関係の依存度が最も高いのが中国だ。対北朝鮮制裁の刀の柄を握ったのも中国だ。短期的には経済開発と関連して中国の投資を誘導できるため、今の局面で北朝鮮にとっては首脳会談は切実だったようだ。マクロ的に見れば、米中間で「等距離外交」をしなければならないという認識の発露だったと思う。
中国はいまの局面を反対する理由はないが、自国を排除した南北米会談が結局は中国牽制用として読まれる可能性が多いため、それに対応したのだ。北朝鮮がいわゆる「親米路線」を選ぶ可能性もあるという中国の憂慮は避けられず、北朝鮮もこれを理解していた。米中関係が作動し、北朝鮮を自己勢力化しておこうとするゲームが繰り広げられるわけだ。
韓国が「南北米首脳会談」の話を早くしすぎた。南北米関係で固着されたら、最も被害を受ける国は韓国だ。2007年10月の南北首脳会談で「3カ国または4カ国(会談)」を主張した過ちを繰り返してはならない。
■金正恩委員長が言及した「段階的・同時的」非核化案とは?
キム・ヨンチョル仁済大学教授
北朝鮮の立場は、相応の措置だけはっきりすれば核を放棄できるということだ。同時行動原則による解決で、米国が北朝鮮の体制保障および平和プロセスと(朝米)関係正常化プロセスをどのレベルで提示するのかと、北朝鮮の(核)凍結と廃棄から不可逆的なレベルまで行く過程がつながっている。つまり、米国の相応措置のレベルが高ければ、北朝鮮の核廃棄のレベルも高いということである。
現時点で最も重要なのは、北朝鮮が言った「同時並行」の解決策に対する米国の理解だ。ところが、まだトランプ行政府がこの部分に対する理解が不足しているようだ。(新任のホワイトハウス国家安保補佐官の)ジョン・ボルトンが「リビアモデル」を話したが、これは先核廃棄モデルと見ることはできない。もちろん国交正常化は、リビアが核を放棄した後に行われたが、制裁の緩和は同時に行われた。
結局、(米国が主張する)不可逆的な非核化と不可逆的な体制保障を同じレベルで議論することが重要だ。そのような次元で見れば、朝鮮半島の平和体制や終戦宣言などにおいて中国の役割は重要だ。まとめると、金正恩が非核化という出口を明確に開いた。同時に少しレベルを高めた入り口から始めようということだ。ボルトンは言っているのとも共通点がある。入り口をどのように見せるのかは、今から議論しなければならない。
コ・ユファン東国大学教授
いまは北朝鮮が「国家核兵力の完成」を宣言した状況だ。3代にわたってようやく核を持ったのに、すぐに捨てろと言われたからといって、そうするとは言わないだろう。北朝鮮が考える交渉モデルは「部分的に認め、部分的に凍結」だと考えられる。米国から来る脅威を防ぐための戦争抑制の次元で核をしばらくは持ち、残りの核関連施設は凍結する方法だ。最終的に2つの前提(軍事脅威の解消、体制安全保障)が満たされれば、完全に廃棄するということだ。ところが、第7回党大会時に出されたものを見ると、軍事脅威の解消というのが「帝国主義の脅威が消えるとき世界の非核化のため努力する」となっている。結局、北朝鮮が考えるのは確信できるまでは完全な非核化は難しいという話だ。かなりの期間は保有するという意味だ。
米国の立場として緊急なのは、米国を威嚇する大陸間弾道ミサイルだ。ひとまず北朝鮮は止めたと宣言した。その次の段階で北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの大量生産を防ぐ凍結措置を取れば、米国としてはとりあえず目標を達成することになる。ドナルド・トランプ大統領は、そのくらいで抑留米国人を北朝鮮から連れだして、国内政治的に成果を打ち出し、(本格的な交渉を)始めていこうとする可能性がある。
■米国の反応と朝米会談の展望
ウィ・ソンラク元外交部朝鮮半島平和交渉本部長
米国は中国という要素が朝鮮半島問題で不可避的に与える影響を知っている。これまで中国が核問題で推進してきた立場も知っている。このために関係改善を通じて中国の声が高まった状況を米国が大きく憂慮はしていないだろう。しかし、嬉しいことでもないだろう。
朝中関係の悪化は、米国に戦術的な利益を与えた。それを利用して米国が北朝鮮に「最大限の圧迫」を行うことができた。中国が対北朝鮮制裁に参加し、朝中関係は距離が遠くなり、その構図は米国にとっては悪くなかった。これ続けば北朝鮮が困る状況だった。ところが、その状況が再度調整されるというのは、(米国にとって)歓迎すべきことではないだろう。
金正恩委員長の口を通じて確認し、中国が同調する「段階的アプローチ」について、どう見るか疑問だ。現実的には両者が原論的な宣言的合意を作った上で、交渉に入る方法があり得る。強硬派は「それはもうすでに観たことのある映画だ」とし拒否する可能性もある。北朝鮮が今のスタンスから変わる可能性は少ない。結局、米国の選択と韓米がどのように調整するかにかかっている。従来よりも良い方式で、いかにパッケージを構成するのか、内容は何を盛り込むかを、熾烈に準備しなければならない。
■朝中首脳会談が4~5月の朝鮮半島情勢に及ぼす影響
キム・ジュンヒョン韓東大学教授
朝中関係の修復は徹底的に北朝鮮が「保険」をかけたのだと思う。北朝鮮は、朝米首脳会談が状況によっては行われない可能性もあると考えているようだ。米国は北朝鮮が屈服して出てくる“勝者の土台”を作ろうとしている。ジョン・ボルトンを大統領国家安保補佐官に、マイク・ポンペオを国務長官に指名し、北朝鮮を圧迫している。だが、北朝鮮は米国を圧迫するカードがない。北朝鮮の唯一のカードは中国だ。
金正恩委員長が平和攻勢をしているが、米国が手を振り払えば中国とロシアが対北朝鮮制裁で足を抜いても米国は何も言えない。北朝鮮のせいではないため、北朝鮮は戻るところがある。
一部では段階論に文句をつけているが、交渉を細かく区切って行う“サラミ”式に行けば、不利なのは北朝鮮だ。北側に会ってみると、北朝鮮が最もストレスを感じるのは(交渉)相手が変わることだ。トランプ行政府の任期中に終わらせるというのが彼らの考えだろう。
問題はトランプ大統領の性格上、会談前に細かく調整しようとしない可能性があるということだ。朝中会談で気が抜けた状態だからこそ、よりいっそうドラマチックにするためにトランプ大統領がどう出るかがカギだ。「大当り」でなければ「破綻」の二つに一つとなるだろう。