カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

相手が悪いから自分を正当化できる歴史   戦争の日本近現代史

2017-03-30 | 読書

戦争の日本近現代史/加藤陽子著(講談社現代新書)

 副題「東大式レッスン!征韓論から太平洋戦争まで」。副題にある通り、大学での講義をもとに書き起こされたものらしい。第九講まであって、日本の近代の戦争に至った背景を探るという形をとっている。
 特に先の戦争において最終的に日本は米国と戦って敗れた訳だが、その原因としてあげられるというか、これまで一般的な教育において学んできたことは、日本の軍部の暴走があって、無謀な戦争に突入していったのだとするものがある。それは確かに短絡化してそのようなことではあるとは思うが、もちろんそのような結論に至るまでには、さまざま思惑や背景が重なり合って、今となっては不合理に思える結論に至ったとしても、当時としてはそれなりに合理的な判断をしたうえで、そのような結論に至ったのだということがあるはずである。その合理的と思われる道筋を追うことは容易ではないけれど、試みとしては不可能ではない。まさにそのことを試みた歴史のひも解きが、この本の内容である。
 もちろんそういう流れを紐解いたとしても、合理的に先の戦争を正当化するために行うという意味では無い。歴史の意味を読むときに、人々は安易にそのような考えに陥ってしまう。そういう意味では多少危険な匂いのする題材ではあるのだけれど、もちろん知らないでいるより知っている方が数段生きていくうえで有用である。さらに今後の日本の戦争回避ということを考える上でも、避けて通れない歴史の読み方であろう。
 また当時の世界情勢からしても、やはりその列強や地政学的な日本の立ち位置からすると、特殊だったとする考えもあるだろう。もちろんそういう時代と現在は違うと言えば違う。しかし日本の危うい立ち位置というのは、現代においてもそれなりに危うい地雷原は存在する。特に地政学的なことを考えると、国土が移動するわけではなく、やはり同じような危険は変わらず存在しているように見える。日本が日本の正当性を限りなく追及していくと、要するに周りの国々の方が、限りなく悪くなるということは言える。現実にそのように考えている大衆は存在するはずで、日本が不当に不条理な条件に陥っているという見方の出来る世界情勢は多々存在している。特に近代史の中では、日本はそのように強く考えて、戦争に踏み切った事実があるのだ。当時のソ連と今のロシヤの驚異は、日本の北側に変わらず存在し、朝鮮半島や中国の動きは、ダイレクトに日本列島に影響を及ぼす。さらに当時米国と貿易上良好だったにもかかわらず、米国国内の人種差別的な法の在り方に国連で反対する日本の姿ということがあって、結果的に長期にわたって米国を脅威とする世論が高まったことも、知っておくべきことのように思う。奇しくも現在のトランプ政権の在り方というのは、一方的に日本に威圧的である。これが直ぐに危機的な脅威と変貌するとは考えにくいにしても、無視できるものとは言えないだろう。
 多少読み解きが難解な部分はあるにせよ、読み物としても面白い。歴史の読み方というものは、事実を知ろうとすればするほど、現代の一方的な考えが邪魔をする。そういうバランス感覚を磨くためにも、読んでおくべき入門書ではなかろうか。
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