カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

設定は作り物だが、現実にある恐怖   アンテベラム

2024-03-12 | 映画

アンテベラム/ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ監督

 物語としては、おそらく米国南部の綿花プランテーションでの黒人奴隷を使っての過酷な場面から始まる。許可なく話をすることすら禁じられ、脱走を試みるだけで残酷に殺される運命にある黒人たちが、その拷問状態をただただ苦しんで耐えている。主人公のエデンは、ご主人様のお慰みの後目覚めると現代社会に戻っている。これは何かの暗示的な夢だったのかと思いながら観ていると、彼女は社会学者ヴェロニカの立場で、夫や子供もいて、講演で喝采を浴びるような、一種のスターだった。そうしてそのような講演出張の後に、友人とディナーに高じ、翌日帰るためにハイヤーに乗り込むと……。
 そこで初めて二つの話が一つに重なり、その事実に観ているものは驚かされることになる。ネタバレ厳禁のスリラー映画で、考えてみると確かに伏線は引かれてあったようで、それでもこんな仕掛けだとは、なかなか気づくものでは無かろう。その後も緊張感は続いて、さて彼女はどうなってしまうのだろうか……。
 拷問場面も多く、なかなかに観るには気分の悪くなるものだが、それはそれでそれなりに意味のあることが後でわかる。おそらく黒人社会の人間がこの映画を製作し、痛烈に現代に残る差別意識を批判しているのである。それは今も黒人の中に残る痛みであるし、潜在的に感じている恐怖かもしれない。表面的には現代においては差別はかなりのところまで改善され、そうしてそれは常識としてあってはならないことである。誰もがそれをわかっていて、特に白人はそれをすることは許されることではなくなっている。しかしホテルのフロントは黒人の客の前で平気で電話を取り、待たせたり予約を受け付けなかったりするし、レストランの接客係は、必ずしもいい席に案内しようとはしない。黒人たちは抗議の意味も込めて、時にはふてぶてしく反抗する。それをまた良くは思っていないらしい人たちは、潜在的にそこらにはびこっているはずなのである。それこそが人種問題の抱えている、黒人たちを今も苦しめていることがある。そういうものが表面化するとしたら、このようなホラー映画になってしまうということなのだろう。
 黒人に生まれてきて、白人を含む、特にアメリカ社会のようなところで生きていくということは、歴史の事実を含め、このような内在的な恐怖と共にあるということも言えるのかもしれない。そういうことは、なかなか日本に住んでいてはわかり得ないことだろう。それはもしかすると在日の問題に置き換えることができるかもしれないし、男女問題であるのかもしれない。ちょっと極端かもしれないが、そのような想像力のない人には、この怖さの本質は分からないのではないだろうか。
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