カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

聖地の当時の様子を見る   トキワ荘の青春

2022-04-30 | 映画

トキワ荘の青春/市川準監督

 漫画家の聖地ともいえるトキワ荘で、まだまだ卵時代の若き日の漫画家たちの姿を、主人公に寺田ヒロオを据えて描いた作品。すでに漫画家の巨匠であった手塚治虫と入れ替わるように、藤子不二雄の二人が上京してくる。先輩漫画家として居住している寺田ヒロオが、世話をするわけである。そのようにして、漫画家として新人賞などを受賞してはいるだろうけれど、漫画雑誌も黎明期にあり、皆生活は不安定である。まだ芽が出ていない赤塚不二夫や石ノ森章太郎なども、苦しい生活の中やり繰りしている。そうしてみんなで苦労しながら生活して頑張っていく中にあって、徐々に売れるものと売れないままのものとに、残酷に運命は分かれていくのだった。
 淡々と描いて当時の漫画に賭ける若者をあぶりだしているのだが、今となっては大変に著名である作家と、やはりそうでなかったものが、どうしてそうなったのか、なんとなくわかるようになる。ただし説明は少ないので、出版社に振り回されながら、本当に苦悩の連続で、食うや食わずの者たちを支えていたのが、兄貴分の寺田だった。その寺田も家族の理解の無いまま、静かながらも必死に漫画を描いている。しかし寺田には頑固なところがあって、それなりに売れはしているものの、雑誌社が求める新しい漫画というものに抵抗も感じており、自分の描きたいものにこだわりを持ち続けている、ということらしいのだった。
 ちょっと以前の作品で、当時は無名だったが今は大活躍している俳優が多く出演している。そういう意味で、改めて結果的に豪華キャストであることで知られる作品である。映画としてはあまり商業的なウケを狙ったものではなさそうで、たいした盛り上がりのあるストーリーにはなっていない上に、説明がほとんどなく、かなり意味が読み取りづらい。寺田は後に筆を折ることになったことは、後世の人間は知っているし、石ノ森の姉は後に死んだことなども知られた事実だし、赤塚は後に大ヒットメイカーになるわけだし、しかし、つげ義春がトキワ荘に出入りしていたことなどは、あんがい意外だった。そういうオタク的な面白さが無い訳では無いにせよ、本当に地味な作品なのだった。
 僕自身もコロナ禍という言葉がまだ始まっていないコロナ初期に、トキワ荘を見に行った(二年前だ)ということもあって、改めて気になっていた。残念ながらすでに現物のトキワ荘は今は無いのだが、少し離れた場所に新しいトキワ荘が再現されている。そうして当時の漫画家たちが活躍した足跡を、まちづくりとして地域全体で盛り上げようとしていた。静かな住宅街だけれど都心に近く、漫画家の卵たちは出版社に通いやすかったためにこの辺りに住んだ(もちろん最初に手塚がいたせいだけど)、と言われている。ひょっとすると今も、この辺りで漫画を描いている人間はたくさんいるのではないか(あこがれの地だし)。今はどこに住もうとあんまり関係は無いのかもしれないが、聖地としてそうあって欲しい気もするのだった。
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