ピース・オブ・ケイク/田口トモロヲ監督
原作漫画がある。そちらは未読だが、どこまで再現された話なのだろうか。
相手から言い寄られるとすぐにその気になって付き合い、セックスを重ねる恋愛を繰り返してきた志乃だったが、いい加減そういう恋愛に疲れたというか、暴力もふるわれるようになるし、受け身すぎる自分に嫌気がさして逃げてきた。
ところが越してきた先のお隣にいい感じの笑顔の髭の男がいて、これが今度バイトしようとして行ってみたレンタルビデオ店の店長だった。あとでわかるが店長は同棲している女性がいて、この女が庭で家庭菜園をやっていて、トマトなどを分けてもらうけれど性格は悪そうに感じられる。ともかく何か陰のあるような女であるが、それをわかりながら店長への思いは募らせていく。そうして飲み会で送ってもらったり、遅出で一緒に帰ったりなどプラトニックな思いを経験を重ね、告白にまで至るが撃沈。失意に沈んでいると、結局店長の同棲相手の謎の女は、失踪してしまうのだった。そういう店長の心の傷を埋める関係でもいい、という思いもあって付き合いだすと、もう恋愛史上最高のしあわせが訪れるのだったが……。
会話の声と心の声が同時に聞こえる、いわゆる漫画形式の心模様が観るものに分かるようになっている。心の声が突っ込みを入れることで、一人漫才のギャグになっている。いわゆる女心として発している言葉とは裏腹に、心の中では逆の疑いなどの心理が働いていることが、正直に見える。ほとんどギャグなので効果的だけれど、まあ、映画的には反則技かもしれない。そうではあるのだが、やはりこの物語には効果的で、おそらく多くの男はセックス目的に寄って来るのだが、それに合わせていれば、一応気持ちがいいし男との付き合いを埋めることができる。それだから流されてきた自分がいるというのは重々わかっているし、でもそのことを繰り返しすぎていた自分がいて、いざ本気の恋愛にのめり込んでつらくなってしまうと、またそうなってしまうような自分も怖いのである。
こんな女の人がいるのかどうかまではよく分からないのだが、そういう人がいてもおかしくはない、という感じはある。何しろ可愛いしすぐに気を許すので、男の方もすぐにその気になってしまうのだろう。これで体まで許さなければ八方美人の嫌な奴かもしれないが、セックスもするので、男たちとしたら、女神みたいな人かもしれない。でもまあ、この男たちの中には独占欲の強いのもいて厄介だけど。
さてしかし、そういう中にあって必死にもがいて純愛を勝ち取れるのか、という話でもあって、ちょっとおかしいけれど感動もできる。本当に素晴らしいです。僕はこんなにいい話だとは思ってなくて観ていたので、ずっこけるほど感動いたしました。