カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ズバリ温泉宿の娯楽作   ひばりの森の石松

2013-01-13 | 映画

ひばりの森の石松/沢島忠監督

 美空ひばりを知らない訳ではないが、若いひばりを知っていた訳ではない。大変なアイドルだったらしいことは聞いていたが、なるほどここまで凄かったのか。それというのも、実に板についていて、当たり前だがちっとも素人くさくない。そうして観ている人を引き付ける術をちゃんと身につけている。男らしいけど可愛らしい。いわゆるグラビア的でないのだけれど、そういう好かれ方をしていることをしっかりとアピールできている。なおかつやはり芸達者。唸るような見事さも同時に披露している。はっきり言って今見てもかなり凄い。時代とはいえ、こういう人がスターなんだろうね。
 森の石松のようなヤクザ者が好かれるというのは分からないでは無い。しかし馬鹿と何とかは紙一重で、いや、馬鹿のままでも好かれるという稀有な存在かもしれない。実際にはこういう人はたやすく生きていけない世の中に違いないのだが、人間性の関係で、ちゃんとポジションがある。そういうところも見てとれて、それを平たく言うと人情なのだが、任侠ものとこの一般の人の感覚がつながっていた時代というのが、つい最近までは存在したということが、なんだか今の目からは不思議な感じもしないではない。
 活劇も派手だし、やり取りもすっちゃかめっちゃかだけど、しかしそれなりに世界観がしっかりもしている。そういうものだというお約束が確立されているというか、変な安心感の元、身を委ねて楽しむことが出来る。実は昔の温泉宿なんかで旅の一座の演芸を見たことがあるんだけど、そういうものの古臭さをぬぐい取ってしかし、新しいけれど新し過ぎないというちょうどいい感のバランスが素晴らしくて、江戸時代なのにボウリングがあったり、妙な歌謡曲があったりしても、ぜんぜんOKな見事なファンタジー世界なのである。もちろん外国人には分かりづらいかもしれないが…。
 映画的にどうこういうようなものではないのかもしれないが、考えようによっては、このような娯楽こそ本来的な映画の素晴らしさかもしれない。アカデミックには見られる事の無い映画かもしれないけれど、アカデミックよりは価値の高いものかもしれないではないか。そのような評価のされる時代も来るかもしれなくて、やはり先見性の高い娯楽作というべきなのではなかろうか。

コメント
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