塔の上のラプンツェル/ネイサン・グレノ、バイロン・ハワード監督
クリスマスに観るべき作品ということだったのだが、正月に遅ればせながら観る。そうしてディズニー映画嫌いの僕が、すっかり参ってしまうことになる。素晴らしすぎる。これはおそらく、これからの人生で何度も繰り返し観ることになるだろう、座右の銘的なおとぎ話だった。
ものすごくはっきり言ってしまうと、ストーリーはどうでもいいのかもしれない。実際ものすごく単純な話だし、スジを追ってワクワクするような話でもない。ひねりがある訳じゃないし、どんでん返しが凄い訳でもない。人間にとって夢がどうだとかいう説教も、まあ、どうだっていい。
それよりも何よりも、映像美であって、この世界を描くためだけのためにこの話を選んだに違いないと思う。スペクタクルにしたって、必ずしも必然性は無いかもしれない。しかしながら圧倒的な映像の力に心揺り動かされ、そうして本当にしあわせになれるのである。
ジブリ映画の躍動感も素晴らしいのだけれど、CGアニメの世界では、かなり日本は後れを取ってしまっているのではなかろうか。科学力後進国日本という気もしないではないが、それがやはり米国の強みであることは今も変わりが無いのかもしれない。モノづくり日本とか言ってるけど、本当の意味でエンジニアリングを使っての表現を実現できる国として、米国はやはり先んじているという圧倒的な力を見せつけられるのである。
本当はそんなことを言いたかった訳ではない。うらやましいという思いはあるにせよ、消費国日本としては、これはこれでいいのだ。もちろんその力を追っていく精神性というものは必要だとは思うのだけれど、その圧倒的な力に酔う時間だって必要なのだ。
褒めるのはアメリカばかりでは無い。日本の翻訳にも力を感じたというのもある。ミュージカルはこちらの文化ではないが、翻訳の歌もしっかりしている。つまりその様な文化であっても表現可能な下地が、日本にもある訳だ。これは本当に素晴らしいことで、そうしたタレントがしっかり育っているからこそ、実に自然にこの世界が子供にも分かるように伝えられる訳だ。もちろん大人の僕が打ちのめされるのだから、子供の為だけの文化では無い。おとなが生きていく上で、これ以上の夢のある文化の土壌は無いではないか。
ともあれ、やはり、酒が無くても人間は本当に酔う事が出来る。そうして、そのために磨かれた人間の技術がある。文化というのは、パンではないが、しかしやはり生きていくために必要なものであるのは間違いなかろう。その様な理屈をすっ飛ばしても、まずは酔いに浸ってみる。生きていることがしみじみ楽しいと実感できる、名作アニメなのだった。