一夜落つるは易けれど

2014-08-21 | 読書
 近世諸国民謡集とサブタイトルが付けてある「山家鳥虫歌」(浅野建二校注・岩波文庫)の巻之上の畿内五国の部分を読んだ。
 その中で、その意味が取りやすく、なにかの折に使えそうなものを、備忘のため、記しておこうかと思った。
 ・ござる其の夜は厭いはせねど 来るが積もれば浮名たつ
  これは、女性サイドからの歌か。男がしのんで来て、ともに寝るのはいいけれど、それも度重なると、人に知られ、とかくいろいろ言われることになる。助平心と世間体のはざまに成り立つ歌か。
 ・わしは小池の鯉鮒なれど 鯰男はいやでそろ
  これも女サイドからの歌。わたしもたいしたものではないけど、鯰のような男は厭だなあというところか。鯰男というのは、どういう男がイメージされたのか。
 ・こなた思へば千里も一里 逢はず戻れば一里が千里
  恋する人のもとへ道を急ぐときは、遠くてもなんでもない。だけど、逢えずにじまいの帰り道は、足取りが重いもの。
 ・人に物云や油の雫 落ちて広がるどこまでも
  噂はあっという間に、どんどん広がるもの。特に、あいつには、気をつけないとと思いが続く。
 ・一夜落つるはよも易けれど 身より大事の名が惜しい
  これも女性サイドから詠まれたもののようだ。男に言い寄られ、一夜、身をまかせるのは、あのことも嫌いじゃないし、いいんだけれど、失うものもあることを思うと気になるなあ。
 私の好みのせいか、色恋がらみのものが多くなってしまった。「山家鳥虫歌」は、下巻を含め、日本全国を八地域に分けて、江戸中期の民謡が収められている。