“オータム・リーブス”の季節へ

2022-11-09 | 【樹木】エッセイ

 もうすぐ、本格的な紅葉・黄葉の季節となる。
 それが過ぎれば、木の葉は小枝をはなれ、枯葉が舞う。
 時の流れは速い。
●男の胸を焦がさせる
 某日、国会の議員会館の廊下で、数十年間を秘書仲間としてともに過ごした美女と出会う。 かつて民社党に集った仲間のひとりだ。皆、仲が良かった。
 彼女は、多くの男性諸氏の胸を焦がさせてきた美形の方。過去形で言うのは失礼か、今なお素敵な方だ。
 立ち話で、「元気にしてますか」と聞くと、「立憲民主党でやってます」と言わずもがなの返答。
 なんともつまらないやりとりをした。以前なら、アフロディテの愉しみを唆したり、それをにおわせたり、もっと互いの琴線を刺激するやりとりをしていたはずだ。
 振り返れば、よく一緒に、秘書仲間のさまざまな集まりをセットしたりした。誕生日や結婚の祝う会、亡くなった友の偲ぶ会等々。集まれば、気心をゆるしあう楽しい時となった。
 それらが、懐かしい過ぎし日のことになりつつある。
 それに、政党の再編などで、立場が変わるなど、つきあいの間に夾雑物も多くなってしまった。いくらか距離ができたことで、それまで気づかなかった側面が気になるようにもなった。
 齢も重ねてしょうがない面はあるが、“僕たちが楽しくやった時代は過ぎ去ったのか”とさみしく感じる。
●恋をしていた季節
 さて、ジャズのスタンダード・ナンバーともなっている「オータム・リーブス」の美しい演奏でも聞いて、少しばかり冷えた心を慰めようか。
 「オータム・リーブス」は、英語名あって、日本語では「枯葉」として親しまれている。
 「枯葉」は、もともとはシャンソンの名曲。1945年にジョゼフ・コスマがバレエ音楽として作曲し、映画「夜の門」の中で、イブ・モンタンが歌って広く知られるようになった曲だ。
 詞は、フランスの詩人ジャック・プレヴェールによるもので、「ああ思い出してくれないか ぼくらが恋していた幸福な時代を・・・」(小笠原豊樹訳)と、過ぎしよき日を回想する曲だ。
 その後、1950年にジョニー・マーサーが英語の詞をつけた。そして、「オータム・リーブス」とのタイトルで、ナット・キング・コールが歌って、より広く知られるようになった。
 ヴォーカルでは、何と言っても、ナット・キング・コールなんだろうが、娘のナタリー・コールのもしっとり歌い上げていて素晴らしい。
 ジャズの女性ヴォーカリストで、人気・実力ナンバー・スリーにはいるサラ・ヴォーンには、「枯葉」なるアルバムもある。ここで歌われている「枯葉」は、ジャズ化はなはだしく、スキャット・オンリー、原曲のもつ哀愁に浸るにはふさわしくない。
 ニューヨークのため息と言われ、ハスキー・ボイスで日本人好みのヘレン・メリルも英語で歌っている。
 男性では、メル・トーメがフランス語でも歌っていて、これは情緒たっぷり。
 インストゥルメンタルでもマイルス・ディビス、バルネ・ウィラン他に多くの名演がある。
 秋の日、「オータム・リーブス」の聞きくらべをして愉しむのは如何ですか。
(月刊誌「改革者」2022年10月号)