玲瓏と臘梅の花

2016-03-24 | 【樹木】エッセイ
 福寿草、満作、その花は黄色。もうひとつ、臘梅の花も黄色。
 早春には黄色の花が多い。その理由について、誰かの本で読んだような気がするが、よく思い出せない。
 とりわけ、臘梅の花は冬の光に透けて美しい。透けていいのは、女性の衣だけではない。玲瓏としてなんとも魅きつけるものがある。
 寒風に頬を冷たくしながら見るというのもいい。
●蝋細工ですか
 名の由来には、諸説ある。ロウバイは、漢字で、蝋梅と書かれたり、臘梅と書かれたりする。
 その花びらは、飴でできているかのようでもあり、蝋細工ですと言われれば、そのようにも見える。故に、蝋梅。
 また、陰暦十二月のことを臘月といい、その時季に梅のような花をつけるからとも言われる。
 名前に梅とつくが、梅の種類ではない。どうして、梅がついたかにも、説はいろいろあるようだ。
 英語名は、ウィンター・スウィート。寒い冬に甘い香りを漂わすからだろう。
●長瀞の宝登山
 先年、長瀞の宝登山に、臘梅を見に行った。宝登山(ほどさん)は、古くは、火止山(ほどさん)と言われたそうだ。
 これは、日本武尊の東征での出来事に発する。山火事に遭った折、巨きな山犬が現れて、日本武尊を導いて救ったとの伝えによる。
 この山犬とは、狼のことだろう。山犬が日本武尊を救ったとの言い伝えは、秩父だけではない。奥多摩の高尾山や御岳山にもある。
 宝登山の斜面は見事な臘梅園となっている。その本数は約三千。東京、千葉、埼玉、神奈川のなかでは、他を圧して一番。
 山頂へのロープウェイの麓駅には、見頃情報が示されていた。約一万五千平方メートルの敷地は、西園、 東園と分かれていて、それぞれの開花状況である。
●あちらこちらの臘梅
 何かしら、古風で、懐かしさをも感じさせる花である。見れば、心の雑念も消えていく。お薦めである。
 これまでに見たあちこちの臘梅を思い出す。なんだか、よく覚えているのだ。そんなに珍しいものではないのだが。
 時折、多摩川べりの吉野街道を上流に向い、酒蔵がある澤ノ井で豆腐料理を食べる。食後、店の庭を散歩し、臘梅の花が咲いているのを見た。
 近くの吉野梅郷の入り口にも臘梅の木がある。梅がまだの時期に目を愉しませてくれる。
 吉野梅郷は、関東一の梅林とも言われたが、梅の木がウィルスに感染し、拡大防止であらかた伐採されてしまった。それで、今はさみしい。
 鎌倉、円覚寺の黄梅院で臘梅の花を見たことも思い出す。本数はないが、落ち着いた風情がある。
 京王線沿線の百草園にも。そこには、甘酒もあります。美女と訪れ、からだをあたためあうのもいいのでなかろうか。
●夏臘梅
 久しぶりに会った美女と植物の話をした。彼女は、多くの種類の草花を育てている。
 「夏臘梅(ナツロウバイ)って知ってる」と聞かれ、花の画像を見せてもらった。知らなかった。
 五、六月に枝先に半八重の花をつける絶滅危惧種。そのうち、どこかで見ることがあるだろうか。
 それはともかく、美女とそんなやりとりが出来てよかった。
木々の名前や野の草花、植物にまつわるあれこれに関心をもちだしてから、女性との話題に彩りが増えたように思う。花は交遊にひかりをもたらします。
●はなのひかり
 春を待つ季節。式子内親王作の歌をひとつ。
 この世には
 わすれぬ春のおもかげよ
 朧月夜のはなのひかりに