「お山の杉の子」

2007-05-17 | 【樹木】ETC
 もし、京都の東山がシイノキ林になったら、アカマツ林とは異なり、その常緑で厚めの葉のために、暗い林となるだろう。いささか親しみにくい林となる。シイノキ林ということで、思い出される童謡がある。

むかしむかしの そのむかし
椎の木林の すぐそばに
小さなお山が あったとさ あったとさ
まんまる坊主の 禿げ山は
いつでもみんなの 笑いもの
これこれ杉の子 起きなさい
お日さまニコニコ 声かけた 声かけた

 「お山の杉の子」の1番である。この歌詞がつくられたのは、大東亜戦争の末期、昭和19年である。作詞したのは、シイ材の名産地であった徳島県穴喰町の吉田テフ子という方で、木材の供出で、実際に山が禿げ坊主になったのを見てつくったのであろうと言われている。そして、おそらくは、伐採跡に、杉が植えられたと。
 歌詞は、大きな椎の木に笑われながらも、「杉の子」は立派に育ち、やがて大杉となり、人や国のために役に立つようになるというストーリーで続く。5番、6番は以下の通りである。

大きな杉は 何になる
兵隊さんを 運ぶ船
傷痍の勇士の 寝るお家 寝るお家
本箱 お机 下駄 足駄
おいしいお弁当 食べる箸
鉛筆 筆入れ そのほかに
嬉しや まだまだ 役に立つ 役に立つ

さあさ 負けるな 杉の木に
勇士の遺児なら なお強い
体を鍛え 頑張って 頑張って
今に立派な 兵隊さん
忠義孝行 ひとすじに
お日さま出る国 神の国
この日本を 守りましょう 守りましょう

 「お日さま出る国 神の国」を守ろうということなのである。傷痍軍人や戦争遺児への思いもあって、色濃く時代を反映している。
 戦後、この5番、6番は、サトウハチローによって、次ぎのように改作されている。

大きな杉は 何になる
お船の帆柱 はしご段
とんとん大工さん たてる家 たてる家
本箱 お机 下駄 足駄
おいしいお弁当 食べる箸
鉛筆 筆入れ そのほかに
楽しや まだまだ 役に立つ 役に立つ

さあさ 負けるな 杉の木に
すくすく伸びよう 皆伸びよう
スポーツ忘れず 頑張って 頑張って
すべてに立派な 人となり
正しい生活 ひとすじに
明るい楽しい このお国
わが日本を つくりましょう つくりましょう

 下駄も足駄もはくことが、ほとんどなくなった今、その言葉、表現になつかしいものがある。童謡において、「さあさ 負けるな 杉の木に」とか「すべてに立派な 人となり」という勝ち負けや人格の差を是認したような言い方をためらう昨今の風潮は、これでいいのだろうか。曖昧さや誤魔化しが幅をきかせているだけでないのか。