梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

企業統合とM&A(その3)

2024年01月27日 07時49分06秒 | Weblog
さていよいよ21年前、二つの会社が一緒になったわが社の検証です。わが社の場合は、長年かけてオーナー同士が話し合った企業統合(その1で紹介)でも、M&Aによっての色々選択した上での合併や買収でもありません。それは突発的に起こり時間の猶予も無く白黒を決めなくてはならないものでした。相手の会社(以後S社)が手形不渡り事故を起こしてから、一週間後に、その決断をせざるを得ませんでした。

S社の社長は、不動産担保を提供して借入をしている銀行関係は自分が対応するので、二つの工場(八広と千葉)はそのまま使い社員の面倒はみてもらい販売先との関係は維持して欲しいとのことでした。給料や売掛金台帳はもらいましたが、財務諸表は何回も請求するも提出されることはありませんでした。事業を引き継いで勝算はどうか、将来性はあるかを、一週間で目途をつけなくてはならない理由は顧客が他社へ鞍替えしてしまう危険(商権流出)があったからです。

そもそもS社の墨田区八広にあった工場の、わが社は材料調達の全機能を果たしていました。商店街通りにあった八広工場は狭く、在庫を置くスペースがありませんでした。月間700tほど材料を使用しますが、前もってS社が契約していた材料はわが社の江戸川区葛西の倉庫に保管してあり、その日に使用する材料だけ大型トラックで朝昼二回搬入していました。わが社にとっても全売上げの15%を占めるダントツの販売先であり、S社が破綻すれば、わが社は多額の不良債権が発生し、売上も15%失うことになったのです。

突発事故によってS社の事業継承に至ったのですが、二つの会社が一緒になったのは結果的にM&Aだったのかを考えるにあたり、次の視点でその後の処理・運営も振り返りながら整理していこうと思います。⑴金銭収支、⑵資産取得・処分、⑶人材確保、⑷技術取得、⑸マーケット開拓、がその項目です。以下順を追って説明いたします。

⑴ 金銭収支
S社とは、わが社経由で鉄鋼メーカーの先物契約をして、わが社の倉庫に保管し都度先方へ搬入している形態を続けていました。メーカーからわが社の倉庫に入った時点でS社へ売上を計上する手形決済販売でした。事故直後わが社にはS社の預かり材が600tほどあり、それを総売掛債権額(瞬間的な不良債権全額)の回収の一部として相殺しました。S社の社員の雇用を維持し販売先に迷惑がかからない事業継承の条件として、S社社長合意の上での取決めでした。

S社の銀行債務や労働債務を除く負債金額としては、材料や副資材などの支払代金である、所謂一般債務(わが社からすると一般債権)です。S社社長からS社の売掛金債権譲渡の承諾を得ました。一般債権者ではわが社が筆頭になり、他債権者を集め債権者会議を開き、回収した配当はその債権額に相応して分配する同意をもらいました。S社から債権譲渡通知書をもらい、その売掛先を回り代金を回収しました。

債権譲渡でメインは抑えたものの、譲渡に応じてくれない先もあり、小口の売掛先も多く全て網羅できず、回収率は70%弱に留まりました。わが社としては預かり材の相殺入金もあり、一般債権回収は目減りしたものの、ピークの売掛金債権額から約6割は減らすことが可能となりました。事業を継承する名目の優位性があり、引き継いだことはこの段階では正解だったといえます。

事業を再開してからの金銭的支出としては、S社の二工場と機械設備の使用料や買い取り、工場にあった材料在庫の評価、等々の計上です。二工場は格安の賃料で、機械設備は耐用年数が過ぎたものも多く在庫も正板ではないので(切残り)低額設定で、ランニングコストもイニシャルコストもかなり抑えることができました。これらは仮計上するも、売掛金債権額から差っ引きで運営することにしました。

⑵ 資産取得・処分
方向性が見えてきて体制を固める時期に入った三か月後、内容証明郵便が届きます。S社のメインバンクの弁護士からで、わが社に対する訴状が入っていました。貸付金メインの信用金庫は、S社とわが社が行なったことは「詐害行為」(注釈※)だとの主訴です。「金融債権を切り離し一般債権者だけで回収・配当を行い、その後有利に事業を運営。その経営者と結託して会社の再生を謀った」との理由で、わが社に逸失債権に対して損害金を支払へとの内容でした。この係争は半年以上にも及ぶものとなりました。   ~次回に続く~

※詐害行為
債務者(S社)が債権者(信用金庫)を害することを知りながら自己の財産を減少させる行為のこと。債権者はこれを一定の場合に取り消すことができる[民法424条:詐害行為取消権]





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