クライシスとは危機のことです。2024年4月からトラック運転手の時間外労働が年960時間までに制限されます。人手不足に加え労働時間が短くなることで、物流が停滞する「2024年問題」が迫ります。経済の血液とされる物流を止めない取り組みは、待ったなしの段階に入りました。そのような、物流クライシスについて書いてみたいと思います。
鉄鋼流通加工業の業種・業態は、物流を抜きにして語れません。仕入れた物を引き取りに行くとか、販売したものを配達するとか、運送手配はわが社の日常業務です。鉄鋼メーカーから仕入れた鋼材はメーカー傘下の物流会社がわが社に持ち込んでくれますし、販売した物でも販売先がわが社に引き取りに来てくれることもあります。しかし、どこの手配かに関わらずトラックによる運送は業界にとっても生命線です。
私の弟が社長として経営する会社は運送会社です。元々、梶哲商店の運輸部門が独立して、新たに運送会社を興した経緯があります。その総合トラックは今日では鋼材以外の色々な荷物を運んでいますが、そこから派生したメタル便はその名の通り鋼材の小口混載の会社です。他の一般貨物運送会社と同じく、慢性的な低運賃の改善や運転手不足への取り組みは長年の懸案として取り組んできました。
そこに「2024年問題」が、わが社にも総合トラックにもメタル便にももれなくのしかかってきます。以前より、運送業界は時間外労働が異常に多く、大きな課題でした。例えば、時間指定ロス(余裕をもって早く着く)や待ち時間(先着に左右される順番待ち)によるムダな待機が時間外労働賃金に反映されずにきました。そこに待ったなしのメスが入るのです。日経新聞は今年9月『物流クライシス』と題して特集を組みました。以下、第一回目のその抜粋です。
“トヨタは値上げ”。トヨタは物流会社に支払う料金を上げる方針を打ち出した。1次取引先からトヨタへ部品を運ぶ20~30社が対象。24年4月から残業時間が短くなると運転手は手取りが減ってしまう。トヨタは料金を引き上げて運転手の年収を維持し、部品輸送の担い手の離職を防ぐ。運び方も変えた。料金引き上げに先駆けて、複数の部品メーカーを1台のトラックで回って部品を引き取る方式を一部地域で導入した。部品メーカーからトヨタに納入していた従来の「お届け物流」より必要な運転手が12%少なくてすむようになった。
日本の多くの企業にとって、物流はコスト削減の対象でしかなかった。1990年の通称「物流二法」の施行に伴う規制緩和で運送業者が増加。荷主側の力が大きくなるとその傾向が強まった。日本ロジスティクスシステム協会によると、全業種の売上高に占める物流費比率は新型コロナウイルス禍前の2019年で4.9%。1995年と比べ1ポイント以上低い。日本のものづくりの強みである「ジャストインタイム」は、無駄な在庫を持たないために、多頻度少量の配送が欠かせない。その影響が物流の現場に及んでいた。
そうした状況が人手不足で一気に変わる。
NX総合研究所(日本通運の子会社の物流に関するシンクタンク)によると25年度で14万人の運転手が足りず、13%の物が運べなくなる。物流の停滞による需要減で、30年には国内総生産が10兆円押し下げられるとの試算もある。企業にとってトラック確保が事業継続の上で最優先課題となる。
“積載率低く4割”。物の値段の上昇は避けられない。物流各社は値上げ交渉を進めており、運賃相場は1~2割上がるとの見方が強い。就労人口が減る日本では、24年問題は賃金改善だけでは解決しない。4割程度と低い積載率を向上させるなど、新たな対策が求められる。輸送を鉄道や船舶に切り替える「モーダルシフト」も重要だ。
政府は10月、24年問題に対応するため「物流革新緊急パッケージ」を打ち出した。共同輸送の促進や、自動フォークリフトの導入などで運転手不足を補う。日本ではどこから仕入れるかというサプライチェーン(供給網)戦略はあっても、誰がどう運ぶかという物流戦略はメーカーにも小売りにもほとんどなかった。運転手を増やす取り組みもなされてこなかった。官民を挙げてデフレ時代の物流システムを見直す時だ。
要約がちょっと長くなりましたが、単に一企業だけの物流戦略ではなく、「2024年問題」は国をあげて抜本的に取り組んでいかざるを得ない危機的な状況が窺えます。トヨタのような日本を代表する大企業が、自ら支払い運賃を上げる対処は前代未聞です。荷主による運送会社への運賃還元は、言い過ぎかもしれませんが、物流に関わる運転手の争奪戦に他なりません。
次回以降、産業資材メーカーでの新たな対応、運送会社に限らずドライバー不足が他へ波及している事例、私の身近でドライバー不足を解消しようとしている起業なども紹介したいと思います。 ~次回に続く~
鉄鋼流通加工業の業種・業態は、物流を抜きにして語れません。仕入れた物を引き取りに行くとか、販売したものを配達するとか、運送手配はわが社の日常業務です。鉄鋼メーカーから仕入れた鋼材はメーカー傘下の物流会社がわが社に持ち込んでくれますし、販売した物でも販売先がわが社に引き取りに来てくれることもあります。しかし、どこの手配かに関わらずトラックによる運送は業界にとっても生命線です。
私の弟が社長として経営する会社は運送会社です。元々、梶哲商店の運輸部門が独立して、新たに運送会社を興した経緯があります。その総合トラックは今日では鋼材以外の色々な荷物を運んでいますが、そこから派生したメタル便はその名の通り鋼材の小口混載の会社です。他の一般貨物運送会社と同じく、慢性的な低運賃の改善や運転手不足への取り組みは長年の懸案として取り組んできました。
そこに「2024年問題」が、わが社にも総合トラックにもメタル便にももれなくのしかかってきます。以前より、運送業界は時間外労働が異常に多く、大きな課題でした。例えば、時間指定ロス(余裕をもって早く着く)や待ち時間(先着に左右される順番待ち)によるムダな待機が時間外労働賃金に反映されずにきました。そこに待ったなしのメスが入るのです。日経新聞は今年9月『物流クライシス』と題して特集を組みました。以下、第一回目のその抜粋です。
“トヨタは値上げ”。トヨタは物流会社に支払う料金を上げる方針を打ち出した。1次取引先からトヨタへ部品を運ぶ20~30社が対象。24年4月から残業時間が短くなると運転手は手取りが減ってしまう。トヨタは料金を引き上げて運転手の年収を維持し、部品輸送の担い手の離職を防ぐ。運び方も変えた。料金引き上げに先駆けて、複数の部品メーカーを1台のトラックで回って部品を引き取る方式を一部地域で導入した。部品メーカーからトヨタに納入していた従来の「お届け物流」より必要な運転手が12%少なくてすむようになった。
日本の多くの企業にとって、物流はコスト削減の対象でしかなかった。1990年の通称「物流二法」の施行に伴う規制緩和で運送業者が増加。荷主側の力が大きくなるとその傾向が強まった。日本ロジスティクスシステム協会によると、全業種の売上高に占める物流費比率は新型コロナウイルス禍前の2019年で4.9%。1995年と比べ1ポイント以上低い。日本のものづくりの強みである「ジャストインタイム」は、無駄な在庫を持たないために、多頻度少量の配送が欠かせない。その影響が物流の現場に及んでいた。
そうした状況が人手不足で一気に変わる。
NX総合研究所(日本通運の子会社の物流に関するシンクタンク)によると25年度で14万人の運転手が足りず、13%の物が運べなくなる。物流の停滞による需要減で、30年には国内総生産が10兆円押し下げられるとの試算もある。企業にとってトラック確保が事業継続の上で最優先課題となる。
“積載率低く4割”。物の値段の上昇は避けられない。物流各社は値上げ交渉を進めており、運賃相場は1~2割上がるとの見方が強い。就労人口が減る日本では、24年問題は賃金改善だけでは解決しない。4割程度と低い積載率を向上させるなど、新たな対策が求められる。輸送を鉄道や船舶に切り替える「モーダルシフト」も重要だ。
政府は10月、24年問題に対応するため「物流革新緊急パッケージ」を打ち出した。共同輸送の促進や、自動フォークリフトの導入などで運転手不足を補う。日本ではどこから仕入れるかというサプライチェーン(供給網)戦略はあっても、誰がどう運ぶかという物流戦略はメーカーにも小売りにもほとんどなかった。運転手を増やす取り組みもなされてこなかった。官民を挙げてデフレ時代の物流システムを見直す時だ。
要約がちょっと長くなりましたが、単に一企業だけの物流戦略ではなく、「2024年問題」は国をあげて抜本的に取り組んでいかざるを得ない危機的な状況が窺えます。トヨタのような日本を代表する大企業が、自ら支払い運賃を上げる対処は前代未聞です。荷主による運送会社への運賃還元は、言い過ぎかもしれませんが、物流に関わる運転手の争奪戦に他なりません。
次回以降、産業資材メーカーでの新たな対応、運送会社に限らずドライバー不足が他へ波及している事例、私の身近でドライバー不足を解消しようとしている起業なども紹介したいと思います。 ~次回に続く~