梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

物流クライシス(その2)

2023年12月23日 03時26分22秒 | Weblog
トラック運転手が不足する「2024年問題」は産業資材の物流現場にも変革を迫ります。産業資材のメーカーは納入期間の柔軟性など、運転手の負担軽減に動き出しました。膨らむコストを誰が担うのか、課題は山積しています。業界の新聞や一般の新聞がこの問題を取り挙げていて、その紙面から鉄鋼メーカーなどの動きを見てみます。

日本製鉄はビルの建設などに使うH形鋼について、納入先の建材加工会社と納期の見直しに関する交渉を始めました。これまでは受注から納品まで最短で2.5日程度だったものを、そのリードタイムを7日に要請。日本製鉄は同様の交渉を鋼材全般に広げています。鉄鋼メーカーが短納期に応じていたのは、加工会社の意向に配慮していたためです。

加工会社は必要最低限のH形鋼をその都度仕入れれば、余分な在庫をストックせずにすむ。メーカーはこまめに製品を運ばなければならず、そのしわ寄せは運送会社に及んでいました。納期が延びれば、運送会社はこれまでより運転手の余裕に応じて配車するなど運送スケジュールを効率化しやすくなります。

日本鉄鋼連盟の担当者らは、7月下旬から自動車や電機や建設機械などの訪問を始めました。納入時間の柔軟化など、物流の効率化に向けた協力を求めています。年末までに30超えの団体を回る予定。工場などに収める鋼材は納入時間が分単位で決まっているケースが多く、運転手は納品に遅れないようあらかじめ工場付近で待機。こうした待ち時間が運転手の拘束時間を長くしていました。朝一番指定を午前中までとすれば、待ち時間は減らせる。連盟の担当者は、訪問先の業界から前向きに対処するとの返答が得られたといいます。

運送体制の見直しに向け、インフラを整える動きもあります。東京製鉄は鋼材の一時保管ができる中継拠点を全国で増やしています。現在の拠点は38カ所。22年以降で14カ所新設しました。運転手の日常的な時間
外労働を考慮すると、日帰りの陸上輸送では300キロが限界とされています。東京製鉄は全国に4つ製鉄所があり、より多くの中継地点を経由すれば、運転手一人あたりの超過労働時間を抑えられます。

日本製鉄も需要家や商社と連携し、製鉄所の出荷から納品までの配送状態や運転手の配置などを一元管理できる基盤を24年春までに導入。物流の非効率を即座に把握し対処できる体制を整えます。

わが社はこの二つの鉄鋼メーカーから、過去多くの鋼材を提供してもらいました。メーカーが物流に介在してくるこのような対策は前代未聞です。「2022年問題」の危機感が伝わります。産業資材の業界で物流の見直しが進むのは、運転手の高齢化も大きいとされます。鋼材を運ぶ運転手も例外ではありません。

東京都トラック協会が22年に実施したアンケートによると、鋼材輸送を手掛ける運転手の平均年齢は50.9歳。19年度の前回調査の48.6歳から上昇したとあります。鋼材を運ぶトレーラーの運転には特殊免許が必要なうえ、荷台の鋼材を雨風から守るのに重いシートで覆うなど、体力仕事も多くあります。若い運転手は、鋼材など重くてかさばる産業資材を運ぶ業務を避ける傾向にあります。

東京製鉄は50社程度の運送業者と個別に協議し、10月までに運賃の大幅引き上げを受け入れました。引き上げ合意は5年振り、運転手の賃上げや、輸送時間を短縮するために使う高速道路の料金などを加味されているとされます。しかしこれは、いずれメーカーの製品価格に上乗せされることを忘れてはなりますせん。

そこには鉄鋼の川上と川下の力関係があります。鉄鋼メーカーは原材料の高騰や諸経費増を、需給のバランスに左右はされるものの、ほぼ一方的に製品価格に転嫁してきました。しかし我々加工流通業は、しかたなくその仕入れ価格を受け入れたとしても、販売先のユーザーに転嫁できる保証はありません。我々中間流通は自助努力しかないのです。

また運送会社自体の課題も見逃せません。運賃を事前に大幅に上げてもらっても、若手の運転手確保は容易ではありません。24年4月からの改正労働基準法で、ドライバーの時間外労働時間の条件に規制がかけられることはおおいなる前進ですが、運送会社同士のドライバー奪い合いになること必定です。運送会社に限らず、ドライバー不足は他へ波及し、その予兆が表面化しています。   ~次回に続く~

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