風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「娼年」

2020-03-15 | 映画・芝居・TV

原作となる小説を読み、映画化された作品もよく見る。
大概「原作の方が良かった」とか「これは映画の方が良い」とか
まぁどちらかの評価を自分なりに感じることになる。
原作が気に入ったものほど映画にがっかりすることが多い。
もちろん中には「あの原作がこんな映画に!」と感動することもあるが。

さて石田衣良さん。
けっこう好きな作家で、作品はたくさん読んでいる。
中でも「娼年」は、全体を流れる優しさが気に入っていて
石田さんの作品の中では私的にNo.1だ。
それが映画化になると聞き、正直いって腰が引けていた。
あれだけの小説、その映画を見てがっかりするのではないか?
あそこまでの描写は映画じゃ無理だろう・・・
映画館での公開時は、迷った挙句見に行くことはしなかった。

今回、諸般の事情によりNetflixを契約。
ぱらぱらとコンテンツを見ていたら、「娼年」があった。
見逃していたことに心のどこかで後ろ髪引かれていたから
さっそくPCで鑑賞してみた。
素晴らしい!
原作に勝るとも劣らない作品となっている。
小説を読んだ時と、雰囲気も、場面も、登場人物も
イメージがバッチリ重なる。
そして主演の松坂桃李さんの体当たり、迫真の演技。
相手役の女優さんたちもまさに体当たりだ。
そして全体に流れる「優しさ」も原作そのまま。

主人公リョウの人間性の前に解放されていく客の女性たち。
そして彼女たちの姿を見ながら成長していくリョウ。
「欲望」はなんて「哀しい」ものなのだろう。
その「欲望=哀しさ」を受け止めていくリョウがとても優しい。
「ここでは鎧を脱いでいいんだよ」
「そのままの自分を解放する時があっていいんだよ」
普段社会の中で生きていく人たちは大なり小なり鎧を纏う。
「男らしさ」「女らしさ」「虚栄」「羞恥」「体面」「普通であること」云々
そんな鎧を、客となる女性たちはリョウの前で鮮やかに脱いで見せる。
そしてそれを何も言わずに受け止めるリョウ。
なんて優しいんだ。
中でも江波杏子さんが演じる70歳代の女性の姿が圧倒的。
(江波さんはこの映画公開の半年後に亡くなってしまう)

この映画は日本映画の金字塔のひとつだと思う。
社会の中で鎧を纏うことに、頑張って走り続けることに
疲れてしまっている人たちはぜひ見るべきだ。
そして・・・私もできることならリョウのようでありたいと思うのだ。
(別に体を売ろうとな思わないが)
気兼ねなく鎧を脱いでもらえるような
飾らない自分をさらけ出してもらえるような
疲れた時にそばにいて欲しいと思われるような
そんな存在になりたい。
コメント
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