盛田隆二さんの作品はほとんど読んできたが
最新作の本作品はもしかしたら最高傑作ではなかろうか。
盛田さんご自身のご両親の若いころ、
戦前から戦後のかけて2人が出会うまでの物語。
冒頭と最終章だけ見るとまるでエッセイのようにも読め、
ご両親が幼いころから、過酷だった戦時中の描写のリアルさなどは
あたかも近くで寄り添うように、実際に目にした実録にも見えるのだが
それこそリアリズムの名手と言われる盛田さんの真骨頂。
様々な方から聞いた話と、資料などで綿密に調べた上での
優れた想像力の賜物だろう。
子どもが目にする両親の姿は大人になった姿。
しかも(特に男の子は)ある程度生活基盤ができるまでは
自分のことで精一杯だったりするので
実際に両親に改めて向き合う時には親はもう老境に差し掛かっている。
例えて言えば、マラソンで40kmあまりを走ってきたランナーの
途中のレース展開や戦う姿を知らずに
競技場に入ってきた姿だけを見ているような感じ。
しかしどんな人にも歴史はある。
たくさんの歴史と経験がその人を形作っている。
自分の親は親である前に、
長い人生を歩んできたひとりの人間なのだということを
人は歳を重ねるごとに自分とも照らし合わせ、改めて認識するのだ。
私も本書を読み、改めて自分の両親の来し方を思った。
なにしろ私の両親は盛田さんのご両親とまったく同い歳だから。
タイトルにもなった、お母様が闇市で買った「赤いハイヒール」は
もちろん戦後手にした「自由」の象徴でもあるのだろうが
一方で、これまで家のため、国のために苦労を重ねてきたお母様が
初めて自ら歩み始めようとする「自分の人生」の象徴ではないだろうか。
だからこそ大切にしまっておいたその靴を
あの時初めて履き、1歩を踏み出したのだろう。
それではお父様にとっての「自分の人生の象徴」は?
それは最終章を読めばわかる。
子どもが見ている両親は、あくまで親として表から目にする姿。
実際の、両親2人の間のことは当事者にしかわからない。
盛田さんのご両親の来し方を一気に読んだ後
お2人の人生の最後を読むと、さらに胸に迫るものを感じる。
本書読了後、もしまだ未読であれば
「父よ!ロンググッドバイ」(双葉社)を合わせて読むことを
強くお薦めする。
「焼け跡のハイヒール」盛田隆二:著 祥伝社