因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

日本のラジオ『カーテン』

2017-10-08 | 舞台

*屋代秀樹作・演出(1,2,3,4,5,6,7,8,9
 MITAKANeXTSelection 18th参加作品
 公演チラシに次のような文章が掲載されている。
「わたしは わたしの 居場所がなかった。
 わたしは わたしの 居場所をつくろうとした。
 わたしは わたしの 居場所をこわした。」

 この謎めいた詩のようなつぶやきは、次のように続く。「某国における独立派武装勢力による国立劇場占拠事件は 特殊部隊が化学兵器を用いた突入を敢行し 人質多数を巻き込みつつも 武装勢力の全滅により終結した」
 これは、2002年10月に起こったモスクワ劇場占拠事件(Wikipedia)がモチーフになっていることを、公演終了後に作・演出の屋代がツイッターに示している。そのほか作中の人物名(覚えにくい!)の由来なども「元ネタ」として連続ツイートされており、これは観劇前に明かせないなと思った次第。
 さてチラシのメッセージは次のように結ばれる。
「夢と死と生活と暴力にまつわる ひとごとのお話」
 ここを読むだけで
見る前からすでに翻弄される感覚があり、観劇から数日経って、あの日の舞台の印象と、この短い文章が持つ不可思議な何かは見事に一致した。

 日本のラジオが星のホールで公演を行うことを知ったとき、「一気に大きなところへ来たな」という印象を持った。少し構えながら足を運ぶと、客席は横長に設置され、目の前にカーテンがある。開演前のアナウンスは、劇場を占拠したテロリストによるもので、カーテンが左右に開くと、目の前に劇場の客席が現れるのである。登場人物は15名、いつもの日本のラジオに比べると多い印象だ。中規模程度の座席数のある客席に人物が数名ずつ点々と配置されている。顔にオレンジのカバーをかけているときは人質で、人質役だけを演じる俳優もあるが、顔のカバーを外してテロリストとして演じる俳優もあって、この構成が巧みでもあり、見る方にとってはいささか混乱するきらいも。
 
 パンフレットには例によって各人物ごとに詳細なプロフィールが記されている。テロリストも人質も過去や背景はなかなか複雑で、しかも過去公演のように、実際の物語にはほとんど反映されていないのではなく、相当に重要な情報が満載であった。
 物語は、彼らが個々に交わす会話が「点在」して、劇場が占拠されて制圧されるまでの数日間であることはわかるのだが、各人物の性質、人々の相関関係を探り、構築して物語の経過を味わうということが非常にしづらい作りになっている。

 これまで見た日本のラジオの公演は、いずれも小さな空間であり、いつのまにか自分の中に「小さめに捉える」体質ができていたようである。これは固定概念にほかならず、観劇の幅をみずから狭めるようなものだ。ある劇作家、劇団の舞台を続けて見るようになったら要注意。意識してそれまでのイメージをいったん置き、新しい気持ちで目の前の舞台に向き合うことを心掛けたい。

 今回の作品は、中央と地方、地方の土俗的な宗教と、そこに政治思想を貫くための武力闘争が加わることなど、個々の人物を超えた複雑で恐ろしいものが存在する。日本のラジオのメンバーはじめ、常連の客演陣も、「いつもの感じ」+「地味な新境地」的なものがあって、それぞれが「わたしの居場所」を探し、作り、壊していった惨劇(それが起こる直前で劇が終わる)をさまざまに想像させるのである。

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