因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

出会ったら企画プロデュース『ガチゲキ!!~シェイクスピアでガチバトル~』

2011-09-17 | 舞台

*公式サイトはこちら 王子小劇場 25日まで
「出会ったら企画」とは、「劇団が参加するフェスティバルではなく、複数の劇団が一緒に立ち上げる合同プロデュース型のフェスティバル開催を目的としている企画グループ」で、その第一回めのフェスティバルが本公演である。
「6つの劇団が賞金30万円を賭けて行う、バトル形式のシェイクスピアフェスティバル!」(当日パンフレットより)。それぞれがシェイクスピア作品を1本60分の制限時間に再構築し、1公演で2劇団ずつ、6劇団すべての組み合わせでの総当たり戦でぶつかりあう。土日祝日は「バトル期間」として、各公演の終演ごとにビー玉による一般投票と開票を行い、勝敗を発表、最終日には特別審査委員による公開審査を開催し、一般審査の発表と合わせて「特別審査員賞」と「一般審査員賞」が決まる。

 17日の初日にふたコマを観劇した。
 観劇順に、クロカワタナカ&Co『ロミオ的な人とジュリエット』(黒川陽子 作、田中圭介 演出)、ぬいぐるみハンター『ロミオとジュリエット』(池亀三太 作・演出)、日本のラジオ『パイ・ソーセージ・ワイン』(屋代秀樹 作・演出)、だるめしあん企画『夏のひと夜のアバンチューる』(坂本鈴 作・演出)の4本である。

 4作品のなかで、日本のラジオによる『パイ・ソーセージ・ワイン』(屋代秀樹 作・演出)が最も強く心に残った。作品のタイトルをみて、これがシェイクスピアの何から来たのかがすぐにわかる人は少ないであろう。
 『タイタス・アンドロニカス』。不倫や裏切りの愛憎がどろどろと渦巻き、血で血を洗う凄惨な復讐の連鎖劇だ。自分が同劇団の舞台をはじめてみたのは、昨年末の『蛇ヲ産ム』である。このときに感じたさまざまなことを再び思い出し、一本強い筋の通った作者の創作の姿勢と着実な足どり、出演俳優の息の合った舞台を楽しむことができた。

 当日は本作について簡略な配役表が配られる。それは前述のとおり、一見して『パイ~』が『タイタス~』をベースにしていることがほとんどわからず、人物設定や物語を大幅に改変してあるためである。25日まで公演中のため詳細は書けないが、場所は現代のイタリアンレストランで、まさかの人物設定、まさかの展開になっている。

 横手慎太郎と宮崎雄真は、ある描写においてぞくぞくするような魅力を発散し、奥村拓は猜疑心や嫉妬、あきらめなどが入り混じって自滅する人物を抑制した辛抱づよい造形で演じている。中田麦平は、誰かに強く交わっていくところがないために多少もの足りない役まわりになるが、それだけに過不足ない存在のしかたが必要であり、その役目をきちんと果たしている。この3人の人物に、はるまきたわし(きのこ牛乳)、しまおみほが異物のごとく絡んでいくことになるのだが、そこにいまひとつ確かな手ごたえが得られなかったことが残念であった。

 ほかの3作品もそれぞれに工夫をし、趣向を凝らして大健闘していたと思う。
 しかし創作の手つきや、かみくだいた表現によって、おもしろさをアピールしようとするところがあざとく感じられ、舞台は大変な熱気なのについてゆけず、疲れを覚えることがしばしばあった。
 日本のラジオが印象に強く残ったのは、シェイクスピアの原作から何を描きたいかが明確であり、それ以外のことを潔く削ぎ落していた点にある。60分の上演時間は長くもなく短くもなく、静かなる惨劇というのか、単に性的趣向の特殊な人々による猟奇的事件ではなく、どうしようもなく壊れてしまう人間の悲しさが漂う劇空間であった。
 屋代秀樹が『リチャード三世』や『リア王』を描いたらどんなものになるのか。怖くもあり、楽しみでもある。

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