因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

唐組第61回公演【唐組30周年記念公演第1弾】『吸血姫』

2018-05-26 | 舞台

*唐十郎作 久保井研+唐十郎演出 公式サイトはこちら 大阪、新宿・花園神社、雑司ヶ谷・鬼子母神、長野市城山公園ふれあい広場、駿府城公演富士見広場をツアー 6月23日まで1,2,3,4,5,6

 1971年に産声を上げた作品が、2018年の初夏、狂おしくも鮮やかに蘇った。唐組が状況劇場時代の作品を上演するのは極めて珍しく、さらに今回の眼目は、「最後のアングラ女優」と呼ばれる銀粉蝶を客演に招いたこと、唐十郎の長女大鶴美仁音、次男の大鶴佐助きょうだいがそろって出演することである。初演を知る人にとっては切ないまでのノスタルジーを掻き立てるであろうし、50年近い年月を経て再び観客の前に現れる作品への期待もあるだろう。休憩を挟んで2時間30分の長丁場にも関わらず、紅テントの熱気はいつにも増して熱いものであった。

 大鶴きょうだいの熱演については、すでにさまざまなサイトで称賛の声が上がっている通りである。謎の引っ越し看護婦役の大鶴美仁音は、人力車に乗って声だけ聴かせる登場の場面からただ事ではない迫力を予感させ、近づけば火花が散り、触れれば血が噴き出るかのような演技で魅了する。大鶴佐助は、第25回読売演劇優秀女優賞を受賞した藤井由紀演じる主婦を口説いたあげく殺してしまうという振り幅の大きな役で、今後どのような立ち位置の俳優になるのか全く読めないところが非常に嬉しい。

 今回特筆したいのは入団して数年の若手の大健闘である。公演ごとに表情が引き締まり、声にも張りが増して舞台の立ち姿も力強くなった。本作は奇妙奇天烈なオープニングで、ごてごてと飾り立てた実に安っぽいお立ち台に乗り、既に剥げ落ちそうな厚化粧に金髪、看護婦の白衣がほとんどチンドン屋と見まごうほど珍妙な銀粉蝶が、若い看護婦の福原由加里、加藤野奈を両脇に従えて登場する。このとんでもない趣向に、福原と加藤はまったく負けていない。「いいわあ」しか言わない福原は、その不自由性を逆手に取るかのようなしたたかさを見せ、子持ち看護婦役の加藤はむち打ち症の亭主(久保井研)相手に、これまた一歩も譲らない。

 まことに地味な場面だが、謎の引っ越し看護婦の乗った人力車の車夫役の大澤宝弘も、編み笠を被って顔を伏せたままながら、わけありの佳人を乗せ、みずからもまた日陰の身であるような雰囲気を纏って台詞も明瞭。河井裕一朗は、看護婦役(福原、加藤とは別の白衣の天使隊))ではなかなか可愛らしく、それが一転、後半ではふてぶてしい老人を演じ継ぎ、ここでも成長ぶりを見せる。

 謎の引っ越し看護婦の父親役(なのに娘と結婚しようとする)清水航平は、2016『夜壺』では看護婦役とナンバー1ホストの追っかけ?の二役に抜擢され、大いに気を吐いた。今回後半まで出番がなく、しかも長く舞台にいる人々のなかに突然入り、その熱量のなかで演じるのは、ある意味で出ずっぱりよりもむずかしい面があると思われるが、物語のなかでこの人物にはどんな役割があるか、それを的確に表現するにはどうすればよいかをきちんと体現する演技であった。

 某演劇情報サイトに掲載された久保井と藤井のインタヴューによれば、劇団員には敢えて配役を発表せずに本読みを行ったとのこと。どの役が来るか、どんな台詞を言うのか日々異なるという稽古。自分の役、自分の台詞だけでなく、どこの場面のどの人物の台詞でもわかった上で、最終的な配役を演じるわけである。時間のかかる手法であり、演出、俳優双方に辛抱が必要であろう。しかし前述のように、熱いだけではない、若手の的確な演技を見ていると、このようなプロセスを経て本番を迎えたことが納得できるのである。

 演劇において、継承とはどういうことであろうか。伝統芸能であれば、師匠の技、先祖代々が受け継いできた芸、作品を現在と未来に渡って伝えていく責任と義務があるであろう。数百年前の上演と同じ形式(と思われる)を忠実に示すことは重要だ。しかし俳優、演出家はじめ作り手と観客は今生きている存在であり、基本はきちんと押さえた上で、伝統の忠実な(ある意味では単純な)再現ではない、今の呼吸と体温を伝える舞台を見たいのだ。それは舞台設定を現代に変えたり、ことば遣いを今風にするということではない。

 現代演劇においても重鎮、師匠的存在があり、鬼籍に入ってなお後輩に影響を及ぼすことも少なくない。先達への尊敬は大切だが、それが束縛になっては残念ではないか。また血のつながり、DNAということを、ことさら意識することなく、舞台そのものを味わいたいのである。

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