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de la Mare, "Autumn"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「秋」

今は風が吹くだけ、かつてバラが咲いたところに。
冷たい雨が降るだけ、かつて香る草があったところに。
羊のような雲が
流れる、高い
灰色の空に。かつてひばりが飛んだところに。

もう金色がない、君の髪があったところに。
もうぬくもりがない、君の手があったところに。
幻だけが、ひとり残っている、
いばらの下に。
君の霊だけがある、かつて君の顔があったところに。

悲しく風が鳴る、君の声のかわりに。
涙、涙があるだけ、かつてわたしの心があったところに。
いつも一緒に、
君よ、いつまでも一緒にいてほしい。
沈黙があるだけ、かつて希望があったところに。

* * *

Walter de la Mare
"Autumn"

There is a wind where the rose was;
Cold rain where sweet grass was;
And clouds like sheep
Stream o'er the steep
Grey skies where the lark was.

Nought gold where your hair was;
Nought warm where your hand was;
But phantom, forlorn,
Beneath the thorn,
Your ghost where your face was.

Sad winds where your voice was;
Tears, tears where my heart was;
And ever with me,
Child, ever with me,
Silence where hope was.

* * *

英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031

* * *

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de la Mare, "Silver"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「銀」

ゆっくりと、静かに、月が今、
銀の靴で夜を歩く。
こっちに、あっちに、彼女は顔を出し、
銀の木々の銀の果実をながめる。
ひとつずつ、窓はつかまえる、
彼女の光を、銀のわらぶき屋根の下で。
犬小屋では、丸太のように、
銀の足の犬が眠る。
陰につつまれた小屋から、白い胸が見える、
鳩たちだ、銀の羽をして眠っている。
刈り入れ時だから、ネズミも走りまわっている、
銀の爪をして、片目を銀に光らせて。
水のなか、動かない魚が光る、
銀の葦のそば、銀の川のなかで。

* * *

Walter de la Mare
"Silver"

Slowly, silently, now the moon
Walks the night in her silver shoon;
This way, and that, she peers, and sees
Silver fruit upon silver trees;
One by one the casements catch
Her beams beneath the silvery thatch;
Couched in his kennel, like a log,
With paws of silver sleeps the dog;
From their shadowy cote the white breasts peep
Of doves in a silver-feathered sleep;
A harvest mouse goes scampering by,
With silver claws and a silver eye;
And moveless fish in the water gleam,
By silver reeds in a silver stream.

* * *

銀silverという語と、静寂(なにも音がないときの
シーン、という音)をあらわす/s/音を多用し、
静かで神秘的な夜の雰囲気を表現した作品。

* * *

2 her
月は、女神アルテミス/ディアナ/シンシアとして
擬人化されるから「彼女の」。

12
片目なのは、eyeとbyで脚韻を踏むため。

* * *

英文テクストは、ウェブサイトPoets' Cornerより。
http://theotherpages/poems/

* * *

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Wyatt, ("A lady gave me a gift she had not")

トマス・ワイアット (1503-1542)
(「女の人が贈りものをくれた、もっていないのに」)

女の人が贈りものをくれた、もっていないのに。
ぼくはそれをもらったが、もらわなかった。
あの人は自分からそれをくれたが、くれようとしなかった。
ぼくはそれをもらったが、もらえなかった。
あの人がそれをくれるなら、ぼくは奪わない。
それをとり返しても、あの人は喜ばない。
何のことか考えて。でも言わないで。
ぼくも言ってはいけないことになっているから。

* * *
Thomas Wyatt
("A lady gave me a gift she had not")

A lady gave me a gift she had not
And I received her gift I took not.
She gave it me willingly and yet she would not
And I received it, albeit I could not.
If she gave it me, I force not
And if she take it again, she cares not.
Construe what is this and tell not,
For I am fast sworn I may not.

* * *
5 If she gave it me
いわゆる仮定法過去。現在の反実仮想。

6 if she take it again
仮定法。三単現のsがないのは、shouldか何かが
省略されているから。

7 Construe what is this
現代英語では、Construe what this is.
文法が定められるはるか以前の英語なので。

(以上の点、19世紀のテクストでは、みな現代英語に
修正されてしまっている。"she gives", "she takes"
などと。)

* * *
リー・ハント曰く、答えはキス。(違う気がする。)

Leigh Hunt, Men, Women, and Books vol. 1 (1847), p. 252
http://archive.org/details/menwomenandbook01huntgoog

* * *
「もっていないものを与える」とは、フランスの精神分析家
ジャック・ラカンによる愛の定義。考え方は、以下の通り。

1
言葉を使う思考のなかで定義されるような自分は自分ではない。
それはあくまで言葉、語彙。

2
本当の自分自身とは、思考や理解の枠を超えたところ、
あるいはその裏側にある。(フロイトの「無意識」や、
カントの「物自体」のようなものとして。)

3
そんな、言葉や思考の枠を超えた(自分でも理解できない)
自分自身を与えることが、愛するということ。

* * *
1817年の『マンスリー・レヴュー』p. 409のコメント:
「あえて言わせていただきますが、わざわざ答えを
送ってくれなくて結構ですから。」

http://books.google.co.jp/books?id=UgkoAAAAYAAJ

* * *
英文テクストは、The Poetical Works of Surrey and Wyatt
(1831) のものをベースに、Oswald, ed. Sir Thomas Wyatt (2008)
を参考に編集。1831年のテクストは、次のURLに。
http://books.google.co.jp/books?id=Rbw4AAAAYAAJ

* * *
20200114 修正

* * *
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Carew, "Mediocrity in Love Rejected"

トマス・ケアリ (1595-1640)
「中途半端な愛はいらない」

もっと愛をください。でなければ、もっと冷たくしてください。
熱帯、寒帯は、
等しくぼくの痛みを和らげてくれます。
その中間の温帯ではダメなんです。
愛か憎しみ、どちらかの極端が、
そのあいだの穏やかさよりもうれしいのです。

嵐をください。もし、それが愛の嵐なら、
黄金の雨に襲われているダナエーのように、
わたしは、よろこびに溺れるでしょう。もし、
それが軽蔑の嵐なら、その洪水が、ハゲタカのように
わたしをむさぼり食う希望を流し去ってくれるでしょう。
地獄から解放された者だけが、天国に行けるのです。
だから、究極のよろこびをください。でなければ、苦しみを取り除いてください。
もっと愛してください。でなければ、もっと冷たくしてください。

* * *

Thomas Carew
"Mediocrity in Love Rejected"

Give me more love, or more disdain,
The torrid, or the frozen zone
Bring equal ease unto my pain;
The temperate affords me none:
Either extreme, of love or hate,
Is sweeter than a calm estate.

Give me a storm; if it be love,
Like Danae in that golden shower,
I swim in pleasure; if it prove
Disdain, that torrent will devour
My vulture-hopes; and he's possess'd
Of Heaven that's but from Hell releas'd:
Then crown my joys, or cure my pain;
Give me more love, or more disdain.

* * *

8
ダナエーはアルゴスの王女。ゼウスは、黄金の雨の姿になって
彼女と関係をもち、彼女はペルセウスを生んだ。


http://www.theoi.com/Gallery/K1.12.html
腰あたりに黄金の雨が。

ダナエーを描いた絵はたくさんあるが、クリムトの絵がいちばん
直截的で、しかも(逆説的に)いやらしい感じがなくていいと思う。
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gustav_Klimt_010.jpg
(画像は自粛。)

* * *

英文テクストは、The Works of the English poets,
from Chaucer to Cowper (1810) より。
http://books.google.co.jp/books?id=-jgpAAAAYAAJ

* * *

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Pope, "Epigram on the Collar of a Dog"

アレクサンダー・ポウプ (1688-1744)
「わたしが皇太子閣下にお贈りした犬の首輪に
刻まれたエピグラム」

ぼくはキューの閣下の犬だワン。
ねえ旦那さま、あなたは誰の犬ですかワン?

* * *

Alexander Pope
"Epigram, Engraved on the Collar of a Dog
Which I Gave to His Royal Highness"

I am His Highness' dog at Kew;
Pray tell me, sir, whose dog are you?

* * *

何気ない犬同士の会話、ではなくて、この首輪の言葉を
読む人に対する強烈な皮肉。誰の犬、って・・・・・。

* * *

キューKewは地名。王立植物園がある。

* * *

英文テクストは、Poetical Works of Pope,
Vol. II (1856) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/9601

* * *

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道端アート/素人アート (7) + 自然

道端アート/素人アート (7) + 自然



仮題「バベル」(自作)



華厳の滝(20120824)



身内のアーティストS



身内のアーティストS
(おまえ何者?)

* * *

画像は私が撮影したもの。

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花火 (2)

花火(地元)





















* * *

画像はすべて私が撮影したもの。


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Shelley, "To Music"

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「断片--音楽に--」

君は、涙の泉を開く銀の鍵。
その泉の水を、魂は飲んで酔う、我を忘れるほどに。
君は、千もの「恐れ」の静かな墓。
君のなか、「恐れ」の母の「心配」は眠る。まるで子どもが眠るように、
花畑のなかで。

* * *

Percy Bysshe Shelley
"A Fragment: To Music"

Silver key of the fountain of tears,
Where the spirit drinks till the brain is wild;
Softest grave of a thousand fears,
Where their mother, Care, like a drowsy child,
Is laid asleep in flowers.

* * *

特に関係はなく、また雰囲気も違うが、クリムトの「音楽」を
ご紹介まで。


http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gustav_Klimt_026.jpg

ただの想像だが、フェルドマンの音と同じようなものを
表現しようとしているのでは。(20120503の記事参照。)

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

* * *

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Dowson, "Vitae summa brevis. . . . "

アーネスト・ダウスン (1867-1900)
「ライフ・イズ・ショート、ロング・ホープ・インポッシブル」

長くはつづかない。涙も、笑いも。
愛も、欲望も、憎しみも。
ぼくらは、これらを忘れるはず。
あの門をくぐったら。

長くはつづかない。ワインとバラの日々は。
霧のようにぼんやりした夢のなか、
ぼくらの道が見えて、そして、すぐに消えた。
夢のなかで。

* * *

Ernest Dowson
"Vitae summa brevis spem nos vetat incohare longam"

They are not long, the weeping and the laughter.
Love and desire and hate:
I think they have no portion in us after
We pass the gate.

They are not long, the days of wine and roses:
Out of a misty dream
Our path emerges for a while, then closes
Within a dream.

* * *

タイトルは古代ローマの詩人ホラティウスからの引用。

(英語中のラテン語は、日本語中の英語のようなもの、
ということで、日本語訳のタイトルは上のようなものに。
Life is short, long hope impossible. 後日、英語の
定訳を調べて記します。)

* * *

英文テクストは、The Poems and Prose of Ernest Dowson より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8497

* * *

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Dowson, "After Paul Verlaine (I)"

アーネスト・ダウスン (1867-1900)
「ポール・ヴェルレーヌをまねて (1)」

「街に静かな涙の雨が降る」--ランボー

心に雨が降る。
街に雨が降るように。
どこから来るのか、けだるさが
ぼくの心にとり憑いて離れない。

ああ、美しい雨が
大地と屋根の上に!
痛む心の上に、
ああ、雨の音楽が!

理由もないのに、涙が、
悲しい心のなか流れる。
なぜ? おかしくない?
この悲しみに理由がないなんて。

そうじゃない! 悲しくてどうしようもないのは、
その理由がわからないから。
(愛じゃない。憎しみでもない。)
悲しくてどうしようもない、その理由がわからないから。

* * *

Ernest Dowson
"After Paul Verlaine (I)"

Il pleut doucement sur la ville.-----RIMBAUD

Tears fall within mine heart,
As rain upon the town:
Whence does this languor start,
Possessing all mine heart?

O sweet fall of the rain
Upon the earth and roofs!
Unto an heart in pain,
O music of the rain!

Tears that have no reason
Fall in my sorry heart:
What! there was no treason?
This grief hath no reason.

Nay! the more desolate,
Because, I know not why,
(Neither for love nor hate)
Mine heart is desolate.

* * *

こういう作品を見ると、いろいろ想像したり、
考えたりしてしまう。

1
バイロン、シェリー、キーツから、テニソン、D・G・ロセッティを通って、
19世紀の詩は一気に感傷的になってきている。

18世紀から、演劇や小説には感傷的なものが
多くあり、またシャーロット・スミスのものなど、詩にも
この手のものがあったが(そして売れていたが)、
19世紀には、それが、何というか、一気に詩の主流の
ような雰囲気になってきている。

20世紀のパウンドやエリオットの作品は、この感傷性に
対する抵抗?

パウンドは、いわゆるモダニズム的な言葉や表現を
使う反面、内容はなかなか(だいぶ、かなり)感傷的。
有名な『詩篇』81番(「君が深く愛したものだけが残る、
あとのものはカス」)など。

エリオットの作品については、感傷的なところが
思い浮かばない。作品における視点は、個人のもの
という感じではなく、上からのもの、知性ある人が
概観する、というようなもの。(ポウプなど、18世紀の
詩人たちのよう。)

2
理由のない悲しみ、というのも、おそらく19世紀的。

近代化が進む以前の社会では、悲しみの理由と
思われるものはいくらでもあったはず。病気、貧困、
いろいろな不自由など。

そんな悲しみの理由が、社会が発展するなかで
解消されて減ってきたのに、なぜかまだ悲しい、
という現実に直面しているかのよう。

3
日常的に使われる「悲しみ」ということばは不正確。

悲しみを感じられるということは、ある意味幸せなこと。
もっと悲しいこと、もっと恐ろしくて避けたいことは、
よろこびなどプラスの感情だけでなく、悲しみなどマイナスの
感情も感じられないような、そういう状態。
上の詩でいえば、languor--けだるさ、心身が疲れて、
生きる力がない状態(OED 4-5)。

人、それから、たぶんすべての生きものは、
これから逃れるためだったらどんなことでもする。
社会的、道義的、健康的に、いいことも、悪いことも。

(だから人には教育や法が必要なわけで。)

* * *

英文テクストは、The Poems and Prose of Ernest Dowson より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8497

* * *

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Blake, "My Pretty Rose Tree"

ウィリアム・ブレイク(1757-1827)
「かわいいぼくのバラ」

花をくれる、といわれた。
五月にでも見たことないような、そんなきれいな花を。
でも、ぼくはいった、「ぼくにはかわいいバラがあるから」。
そして、そのまま通り過ぎた。

それから、ぼくのかわいいバラのところに行って、
朝晩の世話をしようとした。
でもバラは、ぼくが浮気したと思って、こっちを見てくれなかった。
ぼくを見てくれていたのは棘だけで。

* * *

William Blake
"My Pretty Rose Tree"

A flower was offered to me,
Such a flower as May never bore;
But I said, ‘I’ve a pretty rose tree,’
And I passed the sweet flower o’er.

Then I went to my pretty rose tree,
To tend her by day and by night;
But my rose turned away with jealousy,
And her thorns were my only delight.

* * *

英文テクストは、William Blake, Songs of Innocence
and Songs of Experience (1901)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934

* * *

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Shelley, "The Cloud"

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「雲」

あたしは、のどが渇いた花たちにきれいな雨を降らせてあげる。
海や川から水を汲んで。
木の葉たちには明るい影をつくってあげる。
真昼に夢見ながら眠っているときに。
あたしは、羽から露をふり落として目覚めさせるの、
きれいな花の芽を、ひとつずつ。
その子たちは揺られて寝てるから。太陽のまわりで踊っている
大地というお母さんの胸に抱かれて。
それからあたし、殻竿でたたいてヒョウを飛ばして、
下の緑の地面を白くするの。
それから雨でまたヒョウを溶かして、
雷のなか笑いながら去っていくの。

あたし、ふるいにかけてるみたいに下の山に雪を降らせちゃう。
すると、山の大きな松たちが真っ白になってうめき声をあげるわ。
そして夜に、その雪を白い枕にして寝るの。
風の腕に抱かれながら。
空にあるあたしの家の塔の高いところに、
あたしを操縦するパイロットの稲妻がいるわ。
下の洞穴では雷が鎖につながれていて、
ときどき暴れたり、うなったりしてる。
大地や海の上をゆっくりと、
パイロットの稲妻はあたしを操縦するわ。
彼、妖精を追いかけてるの。
紫の海深くに住んでる子をね。
小川や、けわしい岩場や、丘の上、
湖と平原の上、
どこへでも行くわ。山の下、川の下、
自分の好きなあの子がいるかも、って彼が思いつくところだったら。
そんなとき、あたしは、ほほえんでる青い空の下で日向ぼっこしてるの。
パイロットの彼は、泣きくずれて雨を降らしてるわ。

血に飢えた太陽が、彗星のように目を光らせて、
燃える羽を広げて、
風に流れるあたしの切れ端に後ろから飛びかかってくるわ。
朝の金星の光がもう死にそう、ってときに。
まるで山の岩のとがったところが、
地震でゆれていて、
そこに鷲が一瞬とまって、
その羽が太陽でピカって光る、とか、そんな感じ。
それから、沈んだ太陽が、明るく照らされた海の下から、
安らぎと愛の熱い息を吐いてる、みたいな、そんなとき、
夕暮れの真っ赤でゴージャスなかけ布が
空の深いところから降りてくる、みたいな、そんなとき、
あたしも羽をたたんで休むの。空にあるあたしの家で。
卵をかえすためにすわってる鳩みたいにじっとして。

丸くて、白い炎をもってる少女、
人が月って呼ぶあの子が、
静かに輝きながら、滑るように飛んでいくわ。羊の毛のじゅうたんみたいに、
真夜中のそよ風でまき散らされてるあたしの上を。
人に見えないあの子の足の音は
天使にしか聞こえないんだけど、
あの子が歩いてあたしのテントの屋根の薄い布が破れたかな、ってところからは、
あの子と、その後ろの星たちが見えちゃうの。
みんなあわてて向きを変えて逃げようとするから笑っちゃう。
金色のハチの群れみたい。
風がつくるテントの破れ目をあたしがもっと広げようとするから。
そうすると、寝静まってる川や湖や海はみんな、
月や星で舗装したみたいになるの。
空の切れ端があたしを通って上から落ちてきたみたいになるの。

あたしは王様みたいにすわってる太陽を燃える帯でしばるの。
女王様みたいな月は真珠の帯でしばるの。
火山はぼやけて、星たちもよろよろふらふらするわ。
竜巻があたしの軍旗を広げたら。
岬と岬をつなげる橋みたいに、
あたしは荒れる海の
屋根になって、太陽の光をさえぎるの。
柱は山よ。
あたしは勝ち誇って凱旋門を通っていくの。
ハリケーンとか稲妻とか雪とか
そんな空の神様たちをあたしの馬車にしばりつけて、
それで百万色の虹の門をくぐっていくの。
そのやさしくてきれいな色は、空の丸い炎みたいな太陽が前に編んでくれたのよ。
大地も下でピチャピチャ笑ってた。

あたしは雲、大地と水の娘。
空があたしを育ててくれる。
あたしは海や岸の毛穴を通ってのぼってきたの。
あたしは姿を変える。けど、死なないわ。
雨が降ったあと、しみひとつない
大きな空のテントが広がるとき、
風や日の光が、丸く光りながら、
空気で、青いドーム型のあたしのお墓をつくるとき、
あたしは、あたしの入っていないそのお墓を見て声を出さずに笑うの。
そして、雨がたまった地下のほら穴から、
子どもが子宮から出てくるように、亡霊がお墓から出てくるように、
立ちのぼって、そして青いあたしのお墓をまた壊しちゃう。

* * *

Percy Bysshe Shelley
"The Cloud"

I bring fresh showers for the thirsting flowers,
From the seas and the streams;
I bear light shade for the leaves when laid
In their noonday dreams.
From my wings are shaken the dews that waken
The sweet buds every one,
When rocked to rest on their mother's breast,
As she dances about the sun.
I wield the flail of the lashing hail,
And whiten the green plains under,
And then again I dissolve it in rain,
And laugh as I pass in thunder.
(1-12)

I sift the snow on the mountains below,
And their great pines groan aghast;
And all the night 'tis my pillow white,
While I sleep in the arms of the blast.
Sublime on the towers of my skiey bowers,
Lightning my pilot sits;
In a cavern under is fettered the thunder,
It struggles and howls at fits;
Over earth and ocean, with gentle motion,
This pilot is guiding me,
Lured by the love of the genii that move
In the depths of the purple sea;
Over the rills, and the crags, and the hills,
Over the lakes and the plains,
Wherever he dream, under mountain or stream,
The Spirit he loves remains;
And I all the while bask in Heaven's blue smile,
Whilst he is dissolving in rains.
(13-30)

The sanguine Sunrise, with his meteor eyes,
And his burning plumes outspread,
Leaps on the back of my sailing rack,
When the morning star shines dead;
As on the jag of a mountain crag,
Which an earthquake rocks and swings,
An eagle alit one moment may sit
In the light of its golden wings.
And when Sunset may breathe, from the lit sea beneath,
Its ardours of rest and of love,
And the crimson pall of eve may fall
From the depth of Heaven above.
With wings folded I rest, on mine aery nest,
As still as a brooding dove.
(31-44)

That orbed maiden with white fire laden,
Whom mortals call the Moon,
Glides glimmering o'er my fleece-like floor,
By the midnight breezes strewn;
And wherever the beat of her unseen feet,
Which only the angels hear,
May have broken the woof of my tent's thin roof,
The stars peep behind her and peer;
And I laugh to see them whirl and flee,
Like a swarm of golden bees,
When I widen the rent in my wind-built tent,
Till the calm rivers, lakes, and seas,
Like strips of the sky fallen through me on high,
Are each paved with the moon and these.
(45-58)

I bind the Sun's throne with a burning zone,
And the Moon's with a girdle of pearl;
The volcanoes are dim, and the stars reel and swim,
When the whirlwinds my banner unfurl.
From cape to cape, with a bridge-like shape,
Over a torrent sea,
Sunbeam-proof, I hang like a roof,―
The mountains its columns be.
The triumphal arch through which I march
With hurricane, fire, and snow,
When the Powers of the air are chained to my chair,
Is the million-coloured bow;
The sphere-fire above its soft colours wove,
While the moist Earth was laughing below.
(59-72)

I am the daughter of Earth and Water,
And the nursling of the Sky;
I pass through the pores of the ocean and shores;
I change, but I cannot die.
For after the rain when with never a stain
The pavilion of Heaven is bare,
And the winds and sunbeams with their convex gleams
Build up the blue dome of air,
I silently laugh at my own cenotaph,
And out of the caverns of rain,
Like a child from the womb, like a ghost from the tomb,
I arise and unbuild it again.
(73-84)

* * *

9 flail
脱穀用の殻竿。

By Przykuta
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Sierakowice_muzeum_cepy_06.07.10_p.jpg

このようにたたいて飛ばす穀物の粒にヒョウをたとえている。

By Thesupermat
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Plougoulm_gouel_an_eost_2007_battage_au_
fl%C3%A9au.JPG

12
雷の音を雲の笑い声にたとえて。

14 aghast
= ghastly (a) 2a = 亡霊や死体のように(青)白い。

21-28
空の上を雲がただようようすを、稲妻が地中にいる妖精を探して
雲を操縦している、と表現。

29
雨のときでも、雲の上部は太陽に照らされているということ。

30
雨を、自分の好きな妖精が見つからずに稲妻が泣き崩れている、
と表現。

31―33
ちぎれ雲の端が朝日(血のような赤)に染まっているようす。


By Calyponte
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Cirrocumuluscaribbeansea2.jpg


By Fotinakis
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
CloudColors.jpg

35―38
朝日がちぎれ雲を赤く染めるようす(太陽が、まるでちぎれ雲に
おそいかかって血を流させるかのように、それを染めるようす)
をこのようにたとえて。

岩(のとがったところ) = ちぎれ雲
地震 = ちぎれ雲が風に揺れるようす
鷲 = 太陽

41-42
夕焼けのようす。


By Dori
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
North_Point_Sunrise_20090201_0622.jpg
(ホントはこれは朝焼けの画像。)

49-52
雲の薄いところやすき間を通して月や星たちが見えるようす。

53-54
月や星たちが覗かれてキャー、みたいな。雲も月も星も女の子
という設定なので、女の子同士がいたずらしているような雰囲気。

56-58
川や湖や海に、雲のすき間から見える月や星たちが映っているようす。

59
太陽のまわりの雲が金色に輝いているようす。

60
月のまわりの雲が白く(銀色に)輝いているようす。

61-62
風になびく雲が火山や星を半分覆い隠しているような、
そんなようす。

67-70
主節は、The triumphal arch Is the million-
coloured bow.

69 chair
一頭の馬が引く小さな馬車。


By Pearson Scott Foresman
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Chaise_(PSF).jpg

71-72
ここは時制が過去。雲が通る虹は、太陽が先に
つくってくれていたもの。

72
雨の音 = 大地の笑い声。

77-80
雨が降ったあとに青空が広がるようすを、
雲が死んで消えて、そのお墓として
青空のドームができる、と表現。

81 cenotaph
死者が復活したあとの空っぽの墓(OED 2)。
ここでは、80行目の青空のドーム(the blue dome of air)
のこと。

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

Oxford版、Norton版を参照して一部修正。

* * *

学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。

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Shelley, "Two Spirits"

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「二人の妖精--アレゴリー--」

(妖精 1)
君、強い欲望の翼で
空高く飛ぼうとしてるが、気をつけろ!
炎のように飛ぶ君を影が追いかけてくる・・・・・・
夜が来るぞ!
空の世界は明るい。
それに、風や日の光が[ . . . ]とき
自由に飛ぶのは楽しいと思うが・・・・・・
夜が来るぞ!

(妖精 2)
永遠の星が空で輝いているし、
夜の影を越えられたら、
心のなかに愛の明かりがともる。
そして昼のように明るくなるんだ!
月もほほえむように静かに輝き、
どこに行ってもぼくの羽を照らしてくれる。
彗星たちも飛んでいるぼくについて来て、
だから夜でも昼のように明るいんだ。

(妖精 1)
だが、闇が竜巻のようにやってきて
ヒョウと稲妻と荒れ狂う雨を目ざめさせたらどうする?
見ろ、大気の境界線がふるえている・・・・・・
夜が来るぞ!
ハリケーンの赤い雲が、あっという間に
沈む太陽に追いついた。
地に降るヒョウも音を立てて向かってくる・・・・・・
夜が来るぞ!

(妖精 2)
赤い雲が見える、ヒョウの音も聞こえる、けれど
ぼくはあらしの暗い洪水の上を舟で行く。
心は静かに、からだは光につつまれて、
夜を昼間のように照らすんだ。
深く重い暗がりのなか、君が、
眠りにしばられつつ、動けない大地から目をあげたなら、
月のように飛ぶぼくが見えるだろう。
高く、遠いところに。

---

人はいう、ある崖のところに
大きな松が一本あって、枯れそうなほど凍えている、と。
雪の矢のような木々と氷の深淵を見おろしながら。
アルプスの山のどこかで。
人はいう、そして、力のないあらしを追い立てながら、
あの翼あるものが永遠に飛んでいる、と。
その松の白い枝のまわりの
空気の泉をたえず清めながら。

人はいう、乾き、澄んだ夜、
死をもたらす露が沼地で眠っているような、そんな夜に、
旅人は夢のようなささやきを聞く、
そして夜が昼のように輝く、と
また、初恋の人のような、銀色の何かが飛んでいくのを彼は見る。
輝き、乱れる髪をなびかせながら。
そして、いい香りのする草の上、旅人は目を覚まして気づく、
夜が昼のように輝いていることに。

* * *

Percy Bysshe Shelley
The Two Spirits: An Allegory

FIRST SPIRIT:
O thou, who plumed with strong desire
Wouldst float above the earth, beware!
A Shadow tracks thy flight of fire―
Night is coming!
Bright are the regions of the air,
And when winds and beams [ . . . ]
It were delight to wander there―
Night is coming!
(1-8)

SECOND SPIRIT:
The deathless stars are bright above;
If I would cross the shade of night,
Within my heart is the lamp of love,
And that is day!
And the moon will smile with gentle light
On my golden plumes where'er they move;
The meteors will linger round my flight,
And make night day.
(9-16)

FIRST SPIRIT:
But if the whirlwinds of darkness waken
Hail, and lightning, and stormy rain;
See, the bounds of the air are shaken―
Night is coming!
The red swift clouds of the hurricane
Yon declining sun have overtaken,
The clash of the hail sweeps over the plain―
Night is coming!
(17-24)

SECOND SPIRIT:
I see the light, and I hear the sound;
I'll sail on the flood of the tempest dark
With the calm within and the light around
Which makes night day:
And thou, when the gloom is deep and stark,
Look from thy dull earth, slumber-bound,
My moon-like flight thou then mayst mark
On high, far away.
(25-32)

---

Some say there is a precipice
Where one vast pine is frozen to ruin
O'er piles of snow and chasms of ice
Mid Alpine mountains;
And that the languid storm pursuing
That winged shape, for ever flies
Round those hoar branches, aye renewing
Its aery fountains.
(33-40)

Some say when nights are dry [and] clear,
And the death-dews sleep on the morass,
Sweet whispers are heard by the traveller,
Which make night day:
And a silver shape like his early love doth pass
Upborne by her wild and glittering hair,
And when he awakes on the fragrant grass,
He finds night day.
(41-48)

* * *

タイトル
Spirit[s]
魂、命、精神(OED 1, 2)。
超自然的、霊的で肉体をもたない存在(OED 3, 4)。

21 red
自然現象的としては、次の行の夕陽を浴びた雲の色。

21 hurricane
西インド諸島の台風(OED 1)

29 stark
かたい、ゆるぎない(OED 1)。
強い(OED 3)。
完全な(OED 5)。

35 pile[s]
矢、矢や槍の先(OED n.1, 1a-b)。
とがった草の葉(OED n.1, 2b)。
山積みされたもの(OED n.3, 3a)。
大きな建物(OED n.3, 4)。

37-40
次のように構文を解釈。

And [some say] that pursuing the languid storm[,]
That winged shape for ever flies
Round those hoar branches [of the vast pine],
aye [i.e., ay = ever, always] renewing
Its [i.e., the vast pine's] aery fountains.

45-46
光の尾を引いて飛ぶ彗星、流れ星のようなものを
髪をなびかせて飛ぶ女性にたとえて。

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

Oxford版、Norton版を参照して一部修正。


未完の作品で、メアリー・シェリーなど編集者の
手が入っている。たとえば6行目は -ire で
脚韻を踏まなくてはならないし、拍と音節の数も
足りないが、シェリーはこの行を完成させる前に
死んでしまった。

(---の前後もうまくつなげられていない。)

* * *

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花火

花火(熱海)
20120808









* * *

画像はすべて私が撮影したもの。

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詩人のことば(6)--詩とは --

詩人のことば(6)
詩とは

(シドニー)
詩とは・・・・・・模倣の芸術・・・・・・ことばで
絵を描くことであり、教え、かつ楽しませるためのものである。
Poesy . . . is an art of imitation; . . . a speaking picture,
with this end, to teach and delight.

Philip Sidney, A Defence of Poesie and Poems
http://www.gutenberg.org/ebooks/1962

詩は自然の模倣、というアリストテレスの議論と、
詩の目的は楽しみと教育、というホラティウスの議論の結合。

* * *

(ミルトン)
称賛に値することをうまく描きたいという希望を
実現したいのであれば、まずみずからが真の詩のように
生きるべきである。
[H]e who would not be frustrate of his hope to write
well hereafter in laudable things, ought himself
to be a true poem. . . .

John Milton, An Apology for SMECTYMNUUS
http://oll.libertyfund.org/?option=com_staticxt&
staticfile=show.php%3Ftitle=1209&chapter=78031&
layout=html&Itemid=27

自己主張の強いミルトンは、詩についてよりも
自分を含む詩人のあり方について語る。

(人としては、クソまじめでありつつも、陽気で
わりといい人だったよう。痛風で痛いときには
歌を歌って、みたいな。また、父親としてはいろいろ
身勝手で、娘たちに嫌われていたらしい。)

* * *

(S・ジョンソン)
詩の目的は、楽しませることによって教えることである。
[T]he end of poetry is to instruct by pleasing.
Preface to The Works of Shakespeare (1836)
http://books.google.co.jp/books?id=alROAAAAYAAJ

ホラティウス的。

* * *

(ワーズワース)
質のいいすべての詩は、強い感情が自然に
流れ出たものである。
[A]ll good poetry is the spontaneous overflow of
powerful feelings. . . .

William Wordsworth, Lyrical Ballads, with Other Poems, 1800, Volume 1
http://www.gutenberg.org/ebooks/8905

アリストテレス、ホラティウス的な外向き、対社会的な定義から、
内向き、詩人の内面的な定義に移行。

このような思考のルーツ(のひとつ)は、17世紀半ば以降に
広まった、古代ギリシャのロンギノス(とされる人物)の
『崇高について』(On the Sublime)--曰く、崇高の
(第二の)源は、強くわきあがる感情という刺激。

* * *

(シェリー)
詩とは、一般的に、想像力のあらわれ、と定義できるだろう。
だから詩は、人類と同時にこの世に生まれたのである。
Poetry, in a general sense, may be defined to be
'the expression of the imagination': and poetry is
connate with the origin of man.

Percy Bysshe Shelley, A Defence of Poetry and Other Essays
http://www.gutenberg.org/ebooks/5428

同上。

* * *

(キーツ)
芸術家は悪しき富の神に仕えなくてはならない。自己中心的で、
いわばわがままでなくては。君[シェリー]も、気高く寛大で
忍耐強いその心を少し抑えて、作品のすべてのすき間に黄金を
詰めこむべきじゃないかな。
An artist must serve Mammon; he must have “self-concentration”
---selfishness, perhaps. You [Shelley] . . . might curb
your magnanimity, and be more of an artist, and load every
rift of your subject with ore.

ぼくの想像力は、現世的な富や欲望から切り離された
修道院のようなもので、ぼくはそこの修道僧なんだ。
My imagination is a monastery, and I am its monk.

John Keats, Letters of John Keats to His Family and Friends
http://www.gutenberg.org/ebooks/35698

同上。バイロン、シェリーに対して常識がある人、
そして悲しい運命の人としてとらえられるキーツだが、
特に上の発言は耽美的で芸術至上主義的。
ラファエロ前派や19世紀末のデカダン的なものを
先取りしている。

(バイロン、シェリーの短い生涯には自業自得的な
ところもあって。)

* * *

(エリオット)
詩は感情が流れ出たものではなく、感情からの逃避である。
個性の表現ではなく、個性からの逃避である。
Poetry is not a turning loose of emotion, but an escape
from emotion; it is not the expression of personality,
but an escape from personality.

T. S. Eliot, The sacred wood: Essays on Poetry and Criticism
http://archive.org/details/sacredwoodessays00eliorich

ワーズワース的な見解に対する反論としてエリオットは
こういうが、外向きか内向きか、といえばやはり内向きで、
ワーズワース的な思考の枠から出ていない。

* * *

以下、私見。

上のような見解は、詩だけでなくすべての
芸術的/娯楽的な創作物にあてはまる。
四コママンガ、歌の詞、論説、小説、映画、
TVドラマなど、なんでも。

だからさしあたり、ことばしか必要としない詩は、
(特に短いものは簡単に覚えられて紙すら必要と
しないので)、芸術的/娯楽的な創作物のうち、
もっともシンプルで、もっとも歴史の長いもの、
と考えてはどうか。しかも、19世紀までは
多かれ少なかれ創作の主流だったものとして。
(だからこそ詩人たちは、上のようにみな熱く
詩について語る。)

また、詩を研究したり教育したりする目的も、
過去の自国や異国の想像力の産物(のうち、
なんらかの点で価値が高いと思われるもの)を
現代や未来に語り伝えることと考えてはどうか。

現代であれ、いつの時代であれ、芸術や娯楽の、
ひいては文化や道徳の、土壌のようなものは、
結局過去の作品の蓄積によってつくられると
思うので。

* * *

アメリカのジャーナリストが詩の定義を集めている
次のような記事もあるので、ご紹介まで。

http://glocalman.typepad.com/_/2005/02/journalism_poet.html

(笑ってしまうくらいテキトーな寄せ集めだが、
心の底では真剣そのもの、のはず。出所がわかるのはいくつ?)

* * *

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