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Tennyson, "The Lady of Shalott" (日本語訳)

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「シャロットの姫」

第I部

1.
川の両岸に
ずっと広がる大麦畑・ライ麦畑、
空と出会うところまで大地を装う。
そのなかを道が走る、
塔の並ぶキャメロットまで。
行ったり来たり人が通り、
咲きほこる百合のなか
川下に浮かぶ島を見つめる。
シャロットの島。

2.
柳は青白く色を失い、ポプラがふるえる。
そよ風もふるえ、暗くなる、
いつも、永遠に、流れる川の波の上。
川は島の隣を通り、
キャメロットまでつづく。
灰色の城壁が四つ、灰色の塔が四つ、
咲く花々を見下ろしている。
音のない島にはひとり、
シャロットの姫がひとり。

3.
川のほとり、柳のヴェールの向こうで、
大きな船が静かに進む、ゆっくり
馬たちに曳かれ。誰も気づかぬなか
シャロットの姫の小舟は進む。絹の帆が
キャメロットまで軽やかに、滑るように。
誰も見たことなかったはず、彼女が手を振る姿を、
窓辺に立つ姿を。
国中で誰か彼女を知っていた?
シャロットの姫を?

4.
でも農夫たちは、朝早く
ひげの長い大麦を刈りながら、
楽しげに響く歌を聞いた。
曲がりくねって流れる澄んだ川、
キャメロットの塔に向かう川から聞こえる歌を。
月の夜、疲れた農夫が、
そよ風吹く丘に麦の束をつみあげながら、
歌を聞いてつぶやいた、「おお、妖精の姫、
シャロットの姫……」。


第II部

5.
昼も夜も彼女は織る、
あざやかな色の魔法の布。
誰か・何かがささやいて、こういったから、
機織りをやめて
下のキャメロットを見たらおまえは呪われる、と。
呪いってなに……? 彼女は知らない。
でも織りつづける、
他のことなど考えず、
そんなシャロットの姫。

6.
澄んだ鏡、
目の前の鏡のなか、
外の世界がぼんやり見える、動いている。
鏡のなか、近くの大通りは、
曲がりくねってキャメロットにつづく。
鏡のなか、川は小さく渦巻く。
不機嫌な村の男たち、
赤い羽織りの物売りの女の子、みな
シャロットの島からキャメロットに向かう。

7.
時折、楽しそうな女の子たちが、
ゆっくり馬に乗る修道士が、
髪の長い、深紅の服を着た召使いの男が、
キャメロットの塔に向かっていく。
時折、青い鏡を横切って、
馬に乗った騎士が二人ずつ通る。
忠誠を誓い、仕える騎士はいない、
シャロットの姫に。

8.
でも機織りは楽しかった、
魔法の鏡にうつるものを織ることは。
なぜなら、静かな夜に、よく
葬列が通ったから。羽で飾られ、明かりで照らされ、
歌を奏でながら、キャメロットまで。
月がのぼる夜には、
結婚したばかりの若い恋人たちがあらわれる。
「こういう幻、ちょっと飽きた」。
つぶやくシャロットの姫。


第III部

9.
彼女の部屋から矢が届くくらいのところ、
大麦の束が見えるなか、馬に乗った彼が通る。
木の葉のあいだ、日の光が輝き、
真鍮の鎧の上で熱く燃える。
あれは勇者ランスロット卿。
赤い十字の騎士が永遠にひざまずく、
貴婦人の前に……そんな絵が盾に。
盾は黄色の畑に光の火花を放つ、
シャロットから遠くて近いところで。

10.
馬具の宝石がきらきらきらめいて止まらない。
まるで星の葉をつけた枝のよう、
金色に輝く銀河の木の枝のよう。
馬の鈴も楽しげに鳴り、
キャメロットに向かうランスロット卿。
あざやかな肩の帯、そこに
音の大きな小さな銀ラッパ。
馬の上、彼の鎧が鳴る、
シャロットから遠くて近いところで。

11.
青く雲のない空の下、
たくさんの宝石で革の鞍が光る。
兜とその羽飾りが、
炎のように燃える。
キャメロットに向かうランスロット卿。
それはたとえば紫色の夜、
輝く星の房の下を、
光の髪をなびかせて彗星が
通るときのよう。静かにシャロットを越えて。

12.
広くきれいな額が、太陽の下、白熱して光を放つ。
ひづめを輝かせて軍馬は進む。
兜の下、流れるように、
艶やかな黒い巻き髪が馬の歩みにあわせて揺れる。
キャメロットに向かうランスロット卿。
川岸の道を歩む彼、川にうつる彼、
その姿が彼女の水晶の鏡にきらめき、うつる。
「ティラ・リラ……」、川のほとりの道、
歌うランスロット卿。

13.
彼女は機織りのをやめて立ちあがる。
三歩歩いて部屋の反対側へ行く。
そして花咲くスイレンを見てしまった……
兜と羽飾りを見てしまった……
川の先、遠くのキャメロットの町までずっと見てしまった。
織っていた布が窓から飛び出て風に舞う。
鋭い音を立てて鏡に亀裂が走る。
「呪い……!」、思わず声をあげる
シャロットの姫。


第IV部

14.
嵐のように歌う東風、
黄色く色あせる林の木々。
大きな川が嘆き悲しみ、
重い空から激しい雨が降る、
キャメロットの塔に。
シャロットは下りてきて、柳の下に
浮かぶ小舟を見つけて舳先(へさき)に名を書いた、
「シャロットの姫」。

15.
うす暗く、広い川……
幻視者は我を忘れ、この世を忘れ、
未来の自分の不幸を見る……
そんなガラスの目で見つめる、
シャロットはキャメロットを。そして
舟を留める鎖をはずして横になる。
大きな川がかなたに運ぶ、
シャロットの姫。

16.
横たわる彼女の白雪のドレスが
ゆるやかに左に右に風になびく……
彼女の上に木の葉が静かに舞い落ちる……
夜の喧騒のなか
彼女は漂い、キャメロットに向かう。
小舟は進む、
柳の丘、野原や畑のあいだを。
そして響きわたる
シャロットの姫の最後の歌。

17.
悲しげで、でも清らかな歌。
時に大きく、時に小さく。
やがて、しだいに、血は凍っていき、
彼女の目は真っ暗になる、
キャメロットの塔を見つめて。
川の上、
最初の家に着く前に、
歌いながら、歌のなか、死んだ……
シャロットの姫。

18.
塔の下、バルコニーの下、
壁と回廊の脇、
彼女のからだは静かに輝いて漂う。
大きな家のあいだ、死んで青白く音もなく
彼女は着いた、キャメロットに。
みな波止場に出てくる、
騎士も町の人々も、貴人も貴婦人も。
そして舳先(へさき)の名を読む、
「……シャロットの姫」。

19.
誰? なぜここに?
明かりの灯った宮殿、
王侯の笑い声が死んで消える。
恐れて十字を切る、
みなキャメロットの騎士たちは。
ランスロットはもの思い、じっと見つめて
いった、「かわいい……
神のご慈悲とお恵みを。
シャロットのお姫さま……」。

*****
20180701 修正

*****
Tennyson, "The Lady of Shalott" (英語テクスト)
Tennyson, "The Lady of Shalott" (解説)

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Tennyson, In Memoriam 54

アルフレッド・テニソン
『追悼 A. H. H.』
54

でもぼくたちは信じる、幸せがある、と、
不幸を乗り越えたその先に。
病に苦しみ、罪を犯し、
疑念を抱き、汚れを受け継ぐーーその先に幸せがある、と。

目的をもたないものはない、と。
誰も、何も、滅びない、
ごみのように虚空に見棄てられたりしない、と。
神がつくった完璧なこの世のなかで。

みみずがちぎられる、
蛾がみずから
火に飛びこんで焼かれる、
これらにも何か意味・目的があるのだと。

そう、ぼくたちは何も知らない。
信じることしかできない。幸せが
いつか、最後に、すべてのものにやってくる、と。
冬のあとには春が来る、と。

そんな夢を見るぼくは、
夜に泣く、
暗くて怖くて泣く、こどものよう。
ことばを知らず泣くことしかできないような。

*****
Alfred Tennyson
In Memoriam A. H. H.
54

Oh yet we trust that somehow good
Will be the final goal of ill,
To pangs of nature, sins of will,
Defects of doubt, and taints of blood;

That nothing walks with aimless feet;
That not one life shall be destroy'd,
Or cast as rubbish to the void,
When God hath made the pile complete;

That not a worm is cloven in vain;
That not a moth with vain desire
Is shrivell'd in a fruitless fire,
Or but subserves another's gain.

Behold, we know not anything;
I can but trust that good shall fall
At last--far off--at last, to all,
And every winter change to spring.

So runs my dream: but what am I?
An infant crying in the night:
An infant crying for the light:
And with no language but a cry.

https://en.wikisource.org/wiki/In_Memoriam_A._H._H.

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Tennyson, "Ulysses"

アルフレッド・テニソン
「オデュッセウス」

馬鹿馬鹿しい、暇な王みたいに
緑のない岩の町で火のない家に籠っているとは、
年をとった妻と。公平ともいえない法で
野蛮な連中を治めるくらいのことしか仕事がないとは。どうせ
奴らは食って寝て隠れて生きるだけ、わたしのことなど知らない。
旅をせずには生きられない。飲み干したい、
人生を最後の一滴まで。これまですべての瞬間を
存分に味わってきた、存分に苦しんできた、
愛する者たちとともに、あるいはひとりで、陸にいながら、
あるいはヒュアデスの七姉妹が降らせる雨に荒れる
暗い海の波にもまれながら。有名な話だ、
わたしは飢えた心を抱え、ずっとさまよってきた。
数々のものを見てきた、あまたの土地と町、
人の生きかた、治めかたを。
なにより自分についても学んだ、いちばん大事なことだ。
仲間と戦う楽しみに酔ったりもした、
トロイアの野原に轟音を響かせて。あれは風の強いところだった。
見てきたものはすべてわたしの一部になっている。
だが、過去の経験はアーチの門のようなもの、
その向こうに未踏の世界がぼんやり光って見える。その端は
永遠に遠ざかっていく。終わりに辿(たど)りつくことなど永遠にない。
そうだ、休んでいる暇はない。止まっていたら駄目になる。
鉄と同じで人も錆びる。磨けば光るのに!
息をしていれば生きているというわけではない。日に日を
重ねてもたいした山にはならない。しかもわたしには
もう日が残されていない。今後の毎時間をあの
永遠の沈黙から救わねばならない。もっと意味があるはず、
新しいことができるはずだ。情けない、
三日も引き籠って隠れていたとは。
髪は灰色だが、わたしにはまだ熱い欲がある。
もっと見たい、もっと知りたい。沈む星のように、
人の思考をこえてその向こうに行きたい。

息子のテレマコス、
これに島の統治を任せよう。
いい奴だし、しっかりしていて
この仕事に向いている。よく考えて治めれば、気性の荒い
人々を変えていくことができるだろう。少しずつ彼らを抑え、
善良で建設的なくらしをさせることができるだろう。
本当に非の打ちどころがない。筋が通っていて、
人としてなにをすべきかわかっていて、微妙な仕事でも
大丈夫だ。ちゃんと家の神々も
祀ってくれるだろう、わたしがいなくなっても。
そういうことが彼の仕事だ。わたしはわたしの仕事をする。

港だ。風で船の帆がふくらんでいる。
海は大きく、暗い。もう夕暮れだ。船乗りたちもいる、
ともに汗を流し、思いをひとつにしてきた者たち。
楽しかった、
雷の日も晴れの日も。なにがあっても
心は自由だった。顔も晴れやかだった。みな年をとった。だが
いい年のとりかたってものがある。年でもやるべきことがある。
死で人生が終わる。だがその前に
ひとつかふたつ大きな仕事ができるかもしれない。
なにせあの神々と戦ってきたんだから。
岩がちらちら光ってきれいだ。
長い一日の終わり、月がゆっくり昇り、いろんな悲しい声が
海から聞こえてくる。さあ行こう、みんな。
まだ間にあう。新しい世界を探しに
出発だ。ちゃんと並んで座れ、
轟く海に舟の跡をつけよう。目指すところは今でも同じ、
沈む日の向こう側、星たちの浸る
西の海だ。死ぬまでにそこに行くぞ。
さあどうなるか、渦潮にのまれて沈むか、
死んだ人々がくらすあの幸せの島に辿りつけるか。
アキレウスに会えるかもしれない、懐かしいな。
いろいろ失ってきたが、いちばん大事なものは残っている。
もうかつての強さはない。
天地を動かす力はない。だがありのままのわたしたちでいい。
気高い心は今でもひとつ、
時と運命に痛めつけられても意志まで折れてはいない。
力を尽くし、求め、探す。絶対に負けたりしない。

*****
Alfred Tennyson
"Ulysses"

It little profits that an idle king,
By this still hearth, among these barren crags,
Match'd with an aged wife, I mete and dole
Unequal laws unto a savage race,
That hoard, and sleep, and feed, and know not me.
I cannot rest from travel: I will drink
Life to the lees: all times I have enjoy'd
Greatly, have suffer'd greatly, both with those
That loved me, and alone; on shore, and when
Thro' scudding drifts the rainy Hyades
Vext the dim sea: I am become a name;
For always roaming with a hungry heart
Much have I seen and known; cities of men
And manners, climates, councils, governments,
Myself not least, but honour'd of them all;
And drunk delight of battle with my peers,
Far on the ringing plains of windy Troy.
I am a part of all that I have met;
Yet all experience is an arch wherethro'
Gleams that untravell'd world, whose margin fades
For ever and for ever when I move.
How dull it is to pause, to make an end,
To rust unburnish'd, not to shine in use!
As tho' to breathe were life. Life piled on life
Were all too little, and of one to me
Little remains: but every hour is saved
From that eternal silence, something more,
A bringer of new things; and vile it were
For some three suns to store and hoard myself,
And this gray spirit yearning in desire
To follow knowledge, like a sinking star,
Beyond the utmost bound of human thought.

This is my son, mine own Telemachus,
To whom I leave the sceptre and the isle ­
Well-loved of me, discerning to fulfil
This labour, by slow prudence to make mild
A rugged people, and thro' soft degrees
Subdue them to the useful and the good.
Most blameless is he, centred in the sphere
Of common duties, decent not to fail
In offices of tenderness, and pay
Meet adoration to my household gods,
When I am gone. He works his work, I mine.

There lies the port: the vessel puffs her sail:
There gloom the dark broad seas. My mariners,
Souls that have toil'd and wrought, and thought with me ­
That ever with a frolic welcome took
The thunder and the sunshine, and opposed
Free hearts, free foreheads ­ you and I are old;
Old age hath yet his honour and his toil;
Death closes all; but something ere the end,
Some work of noble note, may yet be done,
Not unbecoming men that strove with Gods.
The lights begin to twinkle from the rocks:
The long day wanes: the slow moon climbs: the deep
Moans round with many voices. Come, my friends,
'Tis not too late to seek a newer world.
Push off, and sitting well in order smite
The sounding furrows; for my purpose holds
To sail beyond the sunset, and the baths
Of all the western stars, until I die.
It may be that the gulfs will wash us down:
It may be we shall touch the Happy Isles,
And see the great Achilles, whom we knew.
Tho' much is taken, much abides; and tho'
We are not now that strength which in old days
Moved earth and heaven; that which we are, we are;
One equal temper of heroic hearts,
Made weak by time and fate, but strong in will
To strive, to seek, to find, and not to yield.

https://www.gutenberg.org/ebooks/8601

*****
キーワード:
神話 myth
カルペ・ディエム carpe diem
メメント・モリ memento mori
この世に対する侮蔑 contemptus mundi
劇的独白 dramatic monologue

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Tennyson, "The Lotos-Eaters"

アルフレッド・テニソン
「忘却の木の実の味を知ってしまった人たち」

「がんばれ!」と言って彼は島を指さした、
「この波にのっていけばすぐに岸に着くからな」。
こうして午後、彼らは陸にたどり着いた、
時間の止まった島に。
岸の風は失神していた。
けだるい夢を見ていた。
満月が谷の上で止まっていた。
上らない、むしろ下りてくる不思議な煙のように、細い川が
崖から落ちつつ止まり、止まりつつ落ちてきていた。

見ればいろんな川があった。薄く透きとおる
亜麻布のように下りてくる煙、と思えばそれは川。
揺れる光と影のなか流れ、
眠たげな泡の膜をつくる川。
地下からの川はきらきら光り、
海に向かっていた。遠くには三つの山。
山頂には昔からの雪があり、音もなく
夕日に光っていた。雨に濡れた松の木が
そびえ立ち、茂みの織りものを陰で覆っていた。

魔法で沈まない太陽が西の低いところに
赤くぶら下がっていた。山の裂け目、島の奥に
渓谷、それから棕櫚(しゅろ)に囲まれた
黄色い高原が見えた。曲がりくねる谷や
牧場の月桃(げっとう)も見えた。
たぶん、時間は止まっていた。
血の気のない人たちが舟に集まってくる、
薔薇色の夕焼けのなか、暗く青白い顔をして。やさしい、
でも悲しい目……忘却の木の実を食べた人たちであった。

その手には魔法の木の枝。
花が咲き、実がついている。それを
たがいに与えあい、
口にする。すると、あふれるような波の
錯乱したうめき声がはるかかなたの
見知らぬ島から聞こえてくる。誰かが話す、でも
その声はかすかにしか聞こえない。まるで墓からの声。
深い眠りに落ちているようで、実はみな起きている、
脈打つ心臓の音楽を聞きながら。

黄色の砂の上にすわり、
岸に浮かぶ太陽と月を見る。
そして、生まれ祖国の夢を見る、
こどもと妻と奴隷の夢を。でも
海は嫌、舟も嫌、
なにもない波の野原の泡の上をさまよいたくない。
ふと誰かがつぶやく、「もう帰りたくない」。
するとみな歌って応える、「昔の島は
遠い海のかなた。もう旅なんてしたくない」。


「みんなの歌」

1
美しい音楽がふりそそぐ、
そっと、薔薇の花びらが草に散るように。
そっと、夜露が静かな水におりてくるように、
御影石(みかげいし)の壁の陰、ほのかに明るい山の道で。
音楽が心を包む、
やさしく、疲れたまぶたが疲れた目を包むように。
音楽が安らかな眠りを運ぶ、天国から。
ごらん、深く冷たい苔(こけ)を。
ごらん、苔のあいだを這う蔦(つた)を。
ごらん、川に漂う花びらを。細長く、涙に濡れて。
ごらん、岩棚に吊られて眠る罌粟(けし)の花を。

2
どうして重荷を背負っている?
どうして死ぬほどつらい?
ほかはみな安らかなのに?
みな安らかなのに、どうしてわたしたちだけ苦しい?
わたしたちだけ苦しい、いちばん優れているのに
永遠にうめきつづけ、
悲しみから悲しみへと落ちていく。
羽をたたむことなく
さまよいつづけ、
神聖な眠りに沈むことが許されない。癒されない。
魂は歌う、
「安らぎだけが本当の幸せ」、と。でも
どうしてわたしたちだけ苦しい、すべての王たるわたしたちだけ?

3
ごらん、森のなか、
折りたたまれた木の葉が芽から出ようとしている、
愛を語る風に誘われて。やがて
緑に大きく育ち、心配ごとなどなにもなく、
真昼の太陽の光に浸る。月の夜には
いつも露を飲む。そして、いつしか黄色くなって
落ちる、空に浮かび、ただよいながら。
ごらん、夏の日を浴びて
甘い果汁たっぷりの林檎が熟れて、熟れすぎて、
静かな秋の夜に落ちる。
命の長さは決まっていて、
花は咲き、
咲いて、枯れて、散る。そして
深く安らかな眠りにつく、実り多き大地で。

4
もう嫌だ、暗い青空など見たくない、
暗く青い海も。
死に向かって人は生きる。なのに、なぜ
こんなにつらいことばかり?
もう嫌だ。
時間はあっという間に流れ、
唇から言葉が消える。
もう嫌だ。
なにが残る?
すべてを奪われ、わたしたちは
過去のかけら、切れ端となる。ひどい。
もう嫌だ。
なにが楽しくて
不幸と戦う? 安らぎなんて手に入らない、
昇る波に昇っても。
すべてのものが眠りにつく。熟して墓に向かう。
沈黙に向かう。熟れて、落ちて、動かなくなる。
永遠の眠り、死がほしい。暗い死、安らかな夢がほしい。

5
さぞ気持ちいいだろう、落ちていく川の音を聞いて、
半分目を閉じて、
半分夢を見ながら、眠りに落ちていけたら。
ずっと夢見て夢見ていられたら、琥珀色の光の夢を。
あの遠くの山の没薬の木を永遠に包む光のような。
ささやき声で語りあい、
忘却の木の実を毎日食べて、
岸辺にすわり、さざ波の巻き髪と、
水しぶきの描く白くてなめらかな模様を見て、
そして、心も魂もみな捧げてしまえたら、
甘くやさしい憂鬱の力に。
もの想いに浸り、記憶のなかもう一度生きることができたら、
こどもの頃、懐かしい人たちの顔を思い出しながら。
お墓の草の下で今、両手いっぱいの白い灰になって
壺から出られない人たちの!

6
妻とのくらしは楽しかった。
最後に抱きあったことは忘れない。
妻は泣いていた。でも、この世に永遠はない。
もう炉の火は消えてしまったはず。
もう家は息子のもの。帰っても誰も気づいてくれない。
亡霊のように、楽しいくらしを壊すだけ。
もしかしたら、図々しいお偉いさんに
財産をとられているかもしれない。奴らの宴で
トロイアでの十年の戦いが歌われているかもしれない。
あの凄まじかった戦い、でもまるで昔話のように。
イタケの島が乱れていたら?
それならそれでしかたない。
神々の喧嘩を止めるのは大変だ。
平和をとり戻すのは大変だ。
そんな仕事をするなら死ぬほうがまし。
苦労に苦労を重ね、痛みに痛みを重ね、
がんばるなんて年寄りにはきつい。
戦いですり切れはてたわたしたちには無理なこと。
もう目も見えない、道しるべの星を見つめすぎて。

7
永遠に咲くアマラントスと薬のモーリュのベッド……
なんて気持ちいい……やさしくあたたかい風……
目を半分閉じたまま
神々の宿る暗い空の下で
輝く川をじっと見る……ゆっくり
注ぐように赤い丘から流れてくる……
露にしめった水のこだまが洞穴から洞穴に
からまった蔦をとおって呼びかける……
エメラルド色の水が
神々に似あう葉薊(はあざみ)の冠を流れ落ちる……
遠くの海がきらめいている……見るだけでいい……音だけでいい……
聞いているだけでいい……松の木の下に寝転んで。

8
忘却の木の花が咲く、不毛な丘の下に。
忘却の花が咲きほこる、誰も知らない小道の迷路に。
一日中、風は静かに流れて歌う、
誰もいない洞穴で、誰も来ない森の道で。
忘却の黄色い花の粉が草地に舞い、香りで包む。
仕事はもうたくさん、がんばるのはもうたくさんだ。
船の上、右に左に転がってきた、沸騰するような、
転げまわる化けもののような、波が泡の噴水を吹き散らすなか。
さあ誓おう、みんな、約束だ、
忘却の実のなる島で虚ろに生きよう、丘にもたれる
神々のようにだらだら生きよう。人のことなどおかまいなしで、
神々は酒を片手に寝転がり、適当に雷を
下界の谷に投げつける。軽やかな雲が
金の屋敷を金の光で縁どっている、そんな天にいて
神々はひそかに笑う、滅びる大地を見下ろしながら。
枯れる作物、飢饉、疫病と地震を見下ろしながら。けたたましい
戦争、燃える町、沈む船、手を握って祈る人々を見下ろしながら。
神々は笑う、悲しい歌が蒸気となって
天に昇ってくるとき。人々の嘆き、いにしえの悲惨なできごと、
まさに圧巻の物語……でも神々にはどうでもいいこと。
人は歌う、地を耕し、種をまき、耐えて働いて
実りを刈りとり、そして不幸という報酬しかもらえないから。
一年一年、少しずつ小麦をワインと油を蓄えながら生き、
そのまま死ぬ。ひそひそ話の噂によれば、あとは地獄に落ちて
永遠に苦しむか、楽園に行って
不死の花のベッドで休めるらしい、疲れた体を横たえて。
決まっている、働くより眠るほうがいい。岸にいたい。深い海の
真んなかで風と波にもまれて汗を流して舟をこぐのはもう嫌だ。
そうだ、みんな休もう。もう海の旅はおしまいだ。

*****
Alfrend Tennyson
"The Lotos-Eaters"

"Courage!" he said, and pointed toward the land,
"This mounting wave will roll us shoreward soon."
In the afternoon they came unto a land,
In which it seemed always afternoon.
All round the coast the languid air did swoon,
Breathing like one that hath a weary dream.
Full-faced above the valley stood the moon;
And like a downward smoke, the slender stream
Along the cliff to fall and pause and fall did seem.

A land of streams! some, like a downward smoke,
Slow-dropping veils of thinnest lawn, did go;
And some thro' wavering lights and shadows broke,
Rolling a slumbrous sheet of foam below.
They saw the gleaming river seaward flow
From the inner land: far off, three mountain-tops,
Three silent pinnacles of aged snow,
Stood sunset-flush'd: and, dew'd with showery drops,
Up-clomb the shadowy pine above the woven copse.

The charmed sunset linger'd low adown
In the red West: thro' mountain clefts the dale
Was seen far inland, and the yellow down
Border'd with palm, and many a winding vale
And meadow, set with slender galingale;
A land where all things always seem'd the same!
And round about the keel with faces pale,
Dark faces pale against that rosy flame,
The mild-eyed melancholy Lotos-eaters came.

Branches they bore of that enchanted stem,
Laden with flower and fruit, whereof they gave
To each, but whoso did receive of them,
And taste, to him the gushing of the wave
Far far away did seem to mourn and rave
On alien shores; and if his fellow spake,
His voice was thin, as voices from the grave;
And deep-asleep he seem'd, yet all awake,
And music in his ears his beating heart did make.

They sat them down upon the yellow sand,
Between the sun and moon upon the shore;
And sweet it was to dream of Father-land,
Of child, and wife, and slave; but evermore
Most weary seem'd the sea, weary the oar,
Weary the wandering fields of barren foam.
Then some one said, "We will return no more";
And all at once they sang, "Our island home
Is far beyond the wave; we will no longer roam".

Choric Song

1
There is sweet music here that softer falls
Than petals from blown roses on the grass,
Or night-dews on still waters between walls
Of shadowy granite, in a gleaming pass;
Music that gentlier on the spirit lies,
Than tir'd eyelids upon tir'd eyes;
Music that brings sweet sleep down from the blissful skies.
Here are cool mosses deep,
And thro' the moss the ivies creep,
And in the stream the long-leaved flowers weep,
And from the craggy ledge the poppy hangs in sleep.

2
Why are we weigh'd upon with heaviness,
And utterly consumed with sharp distress,
While all things else have rest from weariness?
All things have rest: why should we toil alone,
We only toil, who are the first of things,
And make perpetual moan,
Still from one sorrow to another thrown:
Nor ever fold our wings,
And cease from wanderings,
Nor steep our brows in slumber's holy balm;
Nor harken what the inner spirit sings,
"There is no joy but calm!"
Why should we only toil, the roof and crown of things?

3
Lo! in the middle of the wood,
The folded leaf is woo'd from out the bud
With winds upon the branch, and there
Grows green and broad, and takes no care,
Sun-steep'd at noon, and in the moon
Nightly dew-fed; and turning yellow
Falls, and floats adown the air.
Lo! sweeten'd with the summer light,
The full-juiced apple, waxing over-mellow,
Drops in a silent autumn night.
All its allotted length of days,
The flower ripens in its place,
Ripens and fades, and falls, and hath no toil,
Fast-rooted in the fruitful soil.

4
Hateful is the dark-blue sky,
Vaulted o'er the dark-blue sea.
Death is the end of life; ah, why
Should life all labour be?
Let us alone.
Time driveth onward fast,
And in a little while our lips are dumb.
Let us alone.
What is it that will last?
All things are taken from us, and become
Portions and parcels of the dreadful Past.
Let us alone.
What pleasure can we have
To war with evil? Is there any peace
In ever climbing up the climbing wave?
All things have rest, and ripen toward the grave
In silence; ripen, fall and cease:
Give us long rest or death, dark death, or dreamful ease.

5
How sweet it were, hearing the downward stream,
With half-shut eyes ever to seem
Falling asleep in a half-dream!
To dream and dream, like yonder amber light,
Which will not leave the myrrh-bush on the height;
To hear each other's whisper'd speech:
Eating the Lotos day by day,
To watch the crisping ripples on the beach,
And tender curving lines of creamy spray;
To lend our hearts and spirits wholly
To the influence of mild-minded melancholy;
To muse and brood and live again in memory,
With those old faces of our infancy
Heap'd over with a mound of grass,
Two handfuls of white dust, shut in an urn of brass!

6
Dear is the memory of our wedded lives,
And dear the last embraces of our wives
And their warm tears: but all hath suffer'd change;
For surely now our household hearths are cold:
Our sons inherit us: our looks are strange:
And we should come like ghosts to trouble joy.
Or else the island princes over-bold
Have eat our substance, and the minstrel sings
Before them of the ten-years' war in Troy,
And our great deeds, as half-forgotten things.
Is there confusion in the little isle?
Let what is broken so remain.
The Gods are hard to reconcile:
'Tis hard to settle order once again.
There is confusion worse than death,
Trouble on trouble, pain on pain,
Long labour unto aged breath,
Sore task to hearts worn out with many wars
And eyes grow dim with gazing on the pilot-stars.

7
But, propt on beds of amaranth and moly,
How sweet (while warm airs lull us, blowing lowly)
With half-dropt eyelids still,
Beneath a heaven dark and holy,
To watch the long bright river drawing slowly
His waters from the purple hill ­
To hear the dewy echoes calling
From cave to cave thro' the thick-twined vine ­
To watch the emerald-colour'd water falling
Thro' many a wov'n acanthus-wreath divine!
Only to hear and see the far-off sparkling brine,
Only to hear were sweet, stretch'd out beneath the pine.

8
The Lotos blooms below the barren peak:
The Lotos blows by every winding creek:
All day the wind breathes low with mellower tone:
Thro' every hollow cave and alley lone
Round and round the spicy downs the yellow Lotos-dust is blown.
We have had enough of action, and of motion we,
Roll'd to starboard, roll'd to larboard, when the surge was seething free,
Where the wallowing monster spouted his foam-fountains in the sea.
Let us swear an oath, and keep it with an equal mind,
In the hollow Lotos-land to live and lie reclined
On the hills like Gods together, careless of mankind.
For they lie beside their nectar, and the bolts are hurl'd
Far below them in the valleys, and the clouds are lightly curl'd
Round their golden houses, girdled with the gleaming world:
Where they smile in secret, looking over wasted lands,
Blight and famine, plague and earthquake, roaring deeps and fiery sands,
Clanging fights, and flaming towns, and sinking ships and praying hands.
But they smile, they find a music centred in a doleful song
Steaming up, a lamentation and an ancient tale of wrong,
Like a tale of little meaning tho' the words are strong;
Chanted from an ill-used race of men that cleave the soil,
Sow the seed, and reap the harvest with enduring toil,
Storing yearly little dues of wheat, and wine and oil;
Till they perish and they suffer ­ some,'tis whisper'd ­ down in hell
Suffer endless anguish, others in Elysian valleys dwell,
Resting weary limbs at last on beds of asphodel.
Surely, surely, slumber is more sweet than toil, the shore
Than labour in the deep mid-ocean, wind and wave and oar;
Oh rest ye, brother mariners, we will not wander more.

https://www.gutenberg.org/ebooks/8601

*****
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Tennyson, ("Now sleeps the crimson petal, now the white")

アルフレッド・テニソン
(今、深紅の花が眠りに落ちる)

今、深紅の花が眠りに落ちる。次に白い花。
風のない城の散歩道、動かない糸杉。
水晶の泉のなか、金の魚は瞬きしない。
蛍が目を覚ます。君も目を覚まして、ぼくといっしょに。

今、乳白の孔雀が頭を垂れる、亡霊のように。
そして亡霊のように、かすかに光る、ぼくに向かって。

今、ダナエのように、大地は星たちにからだを開いて
動かない。君の心も開かれている、ぼくに。

今、彗星が静かに浮かんで動かない。光の線を
残したまま。ぼくのなかの君への思いのよう。

今、百合が自分を抱きしめるように花をたたみ、
静かに、湖の胸に浸っていく。
君も、自分を抱きしめながら、静かにぼくの胸に
入ってきて。そしてぼくのなかにとけて消えて。

*****
Alfred Tennyson
("Now sleeps the crimson petal, now the white")

Now sleeps the crimson petal, now the white;
Nor waves the cypress in the palace walk;
Nor winks the gold fin in the porphyry font:
The fire-fly wakens: wake thou with me.

Now droops the milkwhite peacock like a ghost,
And like a ghost she glimmers on to me.

Now lies the Earth all Danaë to the stars,
And all thy heart lies open unto me.

Now lies the silent meteor on, and leaves
A shining furrow, as thy thoughts in me.

Now folds the lily all her sweetness up,
And slips into the bosom of the lake:
So fold thyself, my dearest, thou, and slip
Into my bosom and be lost in me.

http://www.gutenberg.org/ebooks/791

*****
だいぶ解体されたソネット。

*****
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Tennyson, "The Sleeping Beauty"

アルフレッド・テニソン
「眠る少女」

1
来る年も、また来る年も、
少女はひとり、眠っている。
赤く染まったベッドの上、
足下まで、輝く黒髪がのびていく。
意識なく横たわる少女。
真珠の髪飾り、そこから髪の川が流れ、
眠たげに、豊かに、あたたかく、光る。
渦を巻きつつ、動かない。

2
ベッドカバーには、星の光の刺繍。
少女のからだにそって、
けだるく、永遠に。黒く輝いて
流れる巻き髪。そのなかで、
少し陰になった腕。
光るダイヤのブレスレット。
いつも変わらず、美しい少女が、
静けさに愛を、朝に光を、注ぎこむ。

3
少女は眠る。その息は聞こえない、
お城の遠くの部屋では。
いい香りの髪が、ひと房、
魔法にかかった胸の上。
少女は眠る。両脇でふくらむ、
金で縁どられた枕。
少女は眠る、夢もなく。完全なる
眠りに宿る、完全なる美しさ。

* * *
Alfred Tennyson
"The Sleeping Beauty"

1
Year after year unto her feet,
She lying on her couch alone,
Across the purpled coverlet,
The maiden's jet-black hair has grown,
On either side her tranced form
Forth streaming from a braid of pearl:
The slumbrous light is rich and warm,
And moves not on the rounded curl.

2
The silk star-broider'd coverlid
Unto her limbs itself doth mould
Languidly ever; and, amid
Her full black ringlets downward roll'd,
Glows forth each softly-shadow'd arm,
With bracelets of the diamond bright:
Her constant beauty doth inform
Stillness with love, and day with light.

3
She sleeps: her breathings are not heard
In palace chambers far apart.
The fragrant tresses are not stirr'd
That lie upon her charmed heart.
She sleeps: on either hand upswells
The gold-fringed pillow lightly prest:
She sleeps, nor dreams, but ever dwells
A perfect form in perfect rest.

* * *
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601 より。

* * *
(あくまで私の理解と好みによるものですが)
内容と雰囲気をわかりやすく伝えるために、
自由に日本語訳をつくっています。
逐語訳ではありませんのであしからず。

使用している辞書はOxford English Dictionary(のみ)。

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Tennyson, "Mariana"

アルフレッド・テニソン
「マリアナ」

「マリアナは堀でかこまれた納屋に」--『尺には尺を』

真っ黒な苔が花壇を
厚く包む。あちこちの花壇を、みなすべて。
さびた釘が落ちる。家の外壁、
紐で梨がぶら下がるところから。
壊れかけた小屋は悲しげで、迷子のよう。
ドアの鍵は閉じられたまま、
わらぶき屋根も手入れのないまま古くなり。
堀でかこまれた、孤独な納屋。
マリアナの言葉はいつも同じ--「いつも暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来ない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

涙が落ちる、夕暮れ時、夜露の頃。
涙が落ちる、朝、露が乾く頃。
晴れた空は目に入らない、
朝にも、夕方にも。
こうもりが飛び交い、
真っ暗な闇が空を昏睡に陥れる頃、
マリアナは窓のカーテンを開け、
陰鬱な地平線を横目で見る。
彼女の言葉はいつも同じ--「夜は暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来ない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

真夜中、マリアナは
夜の鳥の声に目を覚ます。
夜明け前なのににわとりも鳴く。
暗い沼地から牛の声が
聞こえる。何がが変わる希望もなく、
眠りのなか、彼女はひとりさまよう、
冷たい風が灰色の目をした朝を起こすまで。
堀でかこまれた、孤独な納屋。
マリアナの言葉はいつも同じ--「朝は暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来ない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

納屋から石を投げれば届くところ、
水路に黒い水が眠る。
その上を、たくさんの、丸くて小さい
沼の苔が這いまわる。
近くのポプラはいつも震えている、
よじれた皮を緑と銀に光らせながら。
その向こうにもう木はなく、
灰色の荒れ地がただ広がる。
マリアナの言葉はいつも同じ--「いつも暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来てくれない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

月が低く、近い夜、
甲高い風が時に鳴り、時に止む。
白いカーテンを行ったりきたり、
影が風に揺れる。
月がさらに低く、近い夜、
荒れる風が牢に閉じこめられたなら、
ポプラの影が落ちてくる、
マリアナのベッドに、その額に。
彼女の言葉はいつも同じ--「夜は暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来てくれない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

一日中、暗くて憂鬱な家のなか、
あちこちでドアがきしむ。
青い蠅が窓で歌う。ねずみは、
腐った壁の後ろで金切り声をあげたり、
裂け目から顔を出したり。
知ってる顔が、ドアのところにかすかに見える、
昔の足音が天井に聞こえる、
昔の声が外から呼んでいる、気がする。
マリアナの言葉はいつも同じ--「いつも暗くて憂鬱・・・・・・
あの人は来ない」--彼女はいう、
いつも同じことを--「疲れた、ほんとに疲れた、
もう死にたい」。

屋根の上、すずめは楽しげに鳴く。
ゆっくり時計が刻む音、そして
愛を求める風に
つれないポプラが揺れる音--聞いてると、
マリアナはおかしくなりそう。でも、いちばん嫌なのは、
ほこりの粒がきらきら光る光の筋が
部屋を横切り、太陽が
西に傾いて自分の家に向かうとき。
そして彼女はいう--「わたし、ほんとに暗くて憂鬱・・・・・・
あの人はもう来ない」--彼女はいう、
泣きながら--「疲れた、ほんとに疲れた、
神さま、もう死にたい」。

* * *
Alfred Tennyson
"Mariana"

"Mariana in the moated grange."
--- Measure for Measure.

With blackest moss the flower-plots
Were thickly crusted, one and all:
The rusted nails fell from the knots
That held the pear to the gable-wall.
The broken sheds look'd sad and strange:
Unlifted was the clinking latch;
Weeded and worn the ancient thatch
Upon the lonely moated grange.
She only said, "My life is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

Her tears fell with the dews at even;
Her tears fell ere the dews were dried;
She could not look on the sweet heaven,
Either at morn or eventide.
After the flitting of the bats,
When thickest dark did trance the sky,
She drew her casement-curtain by,
And glanced athwart the glooming flats.
She only said, "The night is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

Upon the middle of the night,
Waking she heard the night-fowl crow:
The cock sung out an hour ere light:
From the dark fen the oxen's low
Came to her: without hope of change,
In sleep she seem'd to walk forlorn,
Till cold winds woke the gray-eyed morn
About the lonely moated grange.
She only said, "The day is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

About a stone-cast from the wall
A sluice with blacken'd waters slept,
And o'er it many, round and small,
The cluster'd marish-mosses crept.
Hard by a poplar shook alway,
All silver-green with gnarled bark:
For leagues no other tree did mark
The level waste, the rounding gray.
She only said, "My life is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

And ever when the moon was low,
And the shrill winds were up and away,
In the white curtain, to and fro,
She saw the gusty shadow sway.
But when the moon was very low,
And wild winds bound within their cell,
The shadow of the poplar fell
Upon her bed, across her brow.
She only said, "The night is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

All day within the dreamy house,
The doors upon their hinges creak'd;
The blue fly sung in the pane; the mouse
Behind the mouldering wainscot shriek'd,
Or from the crevice peer'd about.
Old faces glimmer'd thro' the doors,
Old footsteps trod the upper floors,
Old voices called her from without.
She only said, "My life is dreary,
He cometh not," she said;
She said, "I am aweary, aweary,
I would that I were dead!"

The sparrow's chirrup on the roof,
The slow clock ticking, and the sound,
Which to the wooing wind aloof
The poplar made, did all confound
Her sense; but most she loathed the hour
When the thick-moted sunbeam lay
Athwart the chambers, and the day
Was sloping 9 toward his western bower.
Then, said she, "I am very dreary,
He will not come," she said;
She wept, "I am aweary, aweary,
O God, that I were dead!".

* * *
英語テクストは次のURLのもの。後年のテニソン自身の修正を反映。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
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Tennyson, "The Lady of Shalott" (英語テクスト)

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「シャロットの姫」
(英語テクスト)

Alfred Tennyson
"The Lady of Shalott"

Part I

1.
On either side the river lie
Long fields of barley and of rye,
That clothe the wold and meet the sky;
And thro' the field the road runs by
To many-tower'd Camelot;
And up and down the people go,
Gazing where the lilies blow
Round an island there below,
The island of Shalott.

2.
Willows whiten, aspens quiver,
Little breezes dusk and shiver
Thro' the wave that runs for ever
By the island in the river
Flowing down to Camelot.
Four gray walls, and four gray towers,
Overlook a space of flowers,
And the silent isle imbowers
The Lady of Shalott.

3.
By the margin, willow-veil'd
Slide the heavy barges trail'd
By slow horses; and unhail'd
The shallop flitteth silken-sail'd
Skimming down to Camelot:
But who hath seen her wave her hand?
Or at the casement seen her stand?
Or is she known in all the land,
The Lady of Shalott?

4.
Only reapers, reaping early
In among the bearded barley,
Hear a song that echoes cheerly
From the river winding clearly,
Down to tower'd Camelot:
And by the moon the reaper weary,
Piling sheaves in uplands airy,
Listening, whispers "'Tis the fairy
Lady of Shalott".


Part II

5.
There she weaves by night and day
A magic web with colours gay.
She has heard a whisper say,
A curse is on her if she stay
To look down to Camelot.
She knows not what the curse may be,
And so she weaveth steadily,
And little other care hath she,
The Lady of Shalott.

6.
And moving thro' a mirror clear
That hangs before her all the year,
Shadows of the world appear.
There she sees the highway near
Winding down to Camelot:
There the river eddy whirls,
And there the surly village-churls,
And the red cloaks of market girls,
Pass onward from Shalott.

7.
Sometimes a troop of damsels glad,
An abbot on an ambling pad,
Sometimes a curly shepherd-lad,
Or long-hair'd page in crimson clad,
Goes by to tower'd Camelot;
And sometimes thro' the mirror blue
The knights come riding two and two:
She hath no loyal knight and true,
The Lady of Shalott.

8.
But in her web she still delights
To weave the mirror's magic sights,
For often thro' the silent nights
A funeral, with plumes and lights,
And music, went to Camelot:
Or when the moon was overhead,
Came two young lovers lately wed;
"I am half-sick of shadows," said
The Lady of Shalott.


Part III

9.
A bow-shot from her bower-eaves,
He rode between the barley sheaves,
The sun came dazzling thro' the leaves,
And flamed upon the brazen greaves
Of bold Sir Lancelot.
A redcross knight for ever kneel'd
To a lady in his shield,
That sparkled on the yellow field,
Beside remote Shalott.

10.
The gemmy bridle glitter'd free,
Like to some branch of stars we see
Hung in the golden Galaxy.
The bridle bells rang merrily
As he rode down to Camelot:
And from his blazon'd baldric slung
A mighty silver bugle hung,
And as he rode his armour rung,
Beside remote Shalott.

11.
All in the blue unclouded weather
Thick-jewell'd shone the saddle-leather,
The helmet and the helmet-feather
Burn'd like one burning flame together,
As he rode down to Camelot.
As often thro' the purple night,
Below the starry clusters bright,
Some bearded meteor, trailing light,
Moves over still Shalott.

12.
His broad clear brow in sunlight glow'd;
On burnish'd hooves his war-horse trode;
From underneath his helmet flow'd
His coal-black curls as on he rode,
As he rode down to Camelot.
From the bank and from the river
He flashed into the crystal mirror,
"Tirra lirra," by the river
Sang Sir Lancelot.

13.
She left the web, she left the loom;
She made three paces thro' the room,
She saw the water-lily bloom,
She saw the helmet and the plume,
She look'd down to Camelot.
Out flew the web and floated wide;
The mirror crack'd from side to side;
"The curse is come upon me," cried
The Lady of Shalott.


Part IV

14.
In the stormy east-wind straining,
The pale yellow woods were waning,
The broad stream in his banks complaining,
Heavily the low sky raining
Over tower'd Camelot;
Down she came and found a boat
Beneath a willow left afloat,
And round about the prow she wrote
The Lady of Shalott.

15.
And down the river's dim expanse ­
Like some bold seër in a trance,
Seeing all his own mischance ­
With a glassy countenance
Did she look to Camelot.
And at the closing of the day
She loosed the chain, and down she lay;
The broad stream bore her far away,
The Lady of Shalott.

16.
Lying, robed in snowy white
That loosely flew to left and right ­
The leaves upon her falling light ­
Thro' the noises of the night
She floated down to Camelot;
And as the boat-head wound along
The willowy hills and fields among,
They heard her singing her last song,
The Lady of Shalott.

17.
Heard a carol, mournful, holy,
Chanted loudly, chanted lowly,
Till her blood was frozen slowly,
And her eyes were darken'd wholly,
Turn'd to tower'd Camelot;
For ere she reach'd upon the tide
The first house by the water-side,
Singing in her song she died,
The Lady of Shalott.

18.
Under tower and balcony,
By garden-wall and gallery,
A gleaming shape she floated by,
Dead-pale between the houses high,
Silent into Camelot.
Out upon the wharfs they came,
Knight and burgher, lord and dame,
And round the prow they read her name,
The Lady of Shalott

19.
Who is this? and what is here?
And in the lighted palace near
Died the sound of royal cheer;
And they cross'd themselves for fear,
All the knights at Camelot:
But Lancelot mused a little space;
He said, "She has a lovely face;
God in his mercy lend her grace,
The Lady of Shalott".

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601


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Tennyson, "The Lady of Shalott" (解説)

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「シャロットの姫」
(解説)

(見出しのアラビア数字はスタンザ番号)

I.
2
Willows whiten
Four gray walls
four gray towers
色に注目。まず色がない世界の描写から
物語がはじまる。(そして色のない世界で終わる。)

the silent isle
音に注目。まず音のない世界の描写から
物語がはじまる。(そして音のない世界で終わる。)

四つの城壁、四つの塔はどこにある?
シャロットの島?
シャロットの島のある川の両岸?
キャメロット(「たくさん塔がある」)?

その下の花たちはスタンザ1のlilie(ユリ、スイレン)。
(1832年のオリジナル版ではバラ。)

「柳やポプラが恐れおののいて青白くなる」、
「そよ風がふるえる」、などという表現は、
これがおとぎ話的に不思議で、少しこわい世界の
話であることを示す。

3.
4行目のthe shallopのtheは、Shalott'sということ。
(見えない頭韻をつくっている-- "Shalott's shallop".)

こう考えれば、つぎのようなかたちで、
6行目のButが意味をなす。

シャロットの姫をのせた舟に誰も気をとめない・・・・・・
「しかし」、そもそも塔から出ない彼女を
知っている人などいるのか?

つまり、第I部は物語の「途中から」(in medias res)
はじまっている(古典叙事詩的に)。

このことは1832年版では明らか。そこでは
スタンザ3の後半で、「真珠の花冠」を
かぶって、女王のような装いで、ヴェルヴェットに
もたれかかるシャロットの姫が描かれる。
(また、スタンザ3-4の順番も逆になっている。)

1832年版はここに-ー
http://rpo.library.utoronto.ca/poems/lady-shalott-1832

(スタンザ3の2行目のbargesのtheなど、
他のtheは気にしない。)

4.
時間をさかのぼり、シャロットの姫が塔のなかにいた
ときのことを描写。第II部につづく。

reapers
the bearded barley
the reaper weary
おとぎ話的な世界の物語だが、花・妖精などまさに
おとぎ話的なものだけでなく、現実の人々・ものも
登場する。

Hear a song that echoes cheerly
音に注目。シャロットの姫の歌が聞こえてくる。
この詩は、シャロットの姫の歌とともにはじまり、
そして彼女の歌とともに終わる。

実際、パート I-IV のすべてで「歌」が聞こえる。
I: シャロットの歌
II: 葬送の曲
III: ランスロット卿が口ずさむ歌
IV: シャロットが最後に歌う歌

II.
5.
A magic web with colours gay
明るい、あざやかな色の描写がここで登場、
「呪い」の描写とともに。

6.
Shadow
反射した姿(OED 5a)。
何かを通してぼんやり見えるもの(OED 5b)。
本当は存在しないのに見えるもの(OED 6a)。

外の世界のようすをうつす不思議な鏡の描写は、
20世紀に発明された映像を先取りしたもの。

(これは、少なくともイギリスの詩では特に
めずらしいものではない。ミルトン『失楽園』の
11-12巻など参照。他にもいろいろあるはず。)

the surly village-churls
the red cloaks of market girls
おとぎ話というより現実的な登場人物たち。
服は赤。

7.
damsels glad
An abbot on an ambling pad
a curly shepherd-lad
long-hair'd page in crimson clad
現実的な登場人物たち。赤い服。

(馬に乗る修道士は、スタンザ9以降の
馬に乗るランスロット卿に対応?
デジャヴュ的に。)

8.
葬列がよく通るから楽しい、とはどういうこと?
その羽飾りと明かりの色、その音楽の音。

III.
9
the barley sheaves
現実的な描写。

The sun came dazzling
the brazen greaves
the yellow field
まぶしい光・色の描写。以下、ランスロットの
特徴は、まぶしく輝く光を発しているということ、
また炎のように熱い、ということ。

10.
The gemmy bridle
branch of stars
the golden Galaxy
silver bugle
まぶしい光・あざやかな色の描写。

The bridle bells rang merrily
his armour rung
金属的な音の描写。

11.
the blue unclouded weather
Thick-jewell'd shone the saddle-leather
"The helmet and the helmet-feather
Burn'd like one burning flame together"
the starry clusters bright
bearded meteor
まぶしい光・あざやかな色の描写。

the purple night
夜にも色が。

12.
His broad clear brow in sunlight glow'd
burnish'd hooves
まぶしい光・あざやかな色の描写。

His coal-black curls
黒も輝いている黒。

"Tirra lirra"
ランスロットの歌。

13.
She made three paces thro' the room
このようなときの「三回」は古典叙事詩以来のお約束。
ウェルギリウス『アエネーイス』におけるディドーの詩の場面、
ミルトン『失楽園』第一巻のサタンなど参照。

14.
the stormy east-wind straining
The pale yellow woods were waning
The broad stream in his banks complaining
Heavily the low sky raining
ランスロットの場面から一転して、不吉な、色のない描写に。

16.
robed in snowy white
色は白。

singing her last song
シャロットの姫の最後の歌。

17.
Heard a carol, mournful, holy. . . .
Singing in her song she died
そして、歌いながら死ぬ。

18.
Dead-pale
死者の青白い肌の色。

19.
Died the sound of royal cheer
町の音も死に絶える。

* * *
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Tennyson, ("A Spirit haunts the year's last hours")

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「歌」
(「精霊がひとり、一年の終わりにいつもやってきて」)

1
精霊がひとり、一年の終わりにいつもやってきて、
黄色に染まる木陰にたたずむ。
彼はひとり、話している。
夕暮れどき、耳をすませば、
彼のすすり泣きとため息が聞こえる、
森の道で。
地面へと、彼は茎を曲げる、
重たげに枯れゆく花々の。
重たげに、大きなヒマワリは花を垂れる、
冷たく凍る大地の墓の上で。
重たげに、アオイは頭を垂れる。
重たげに、オニユリも頭を垂れる。

2
空気は重く湿り、閉じこめられて静まりかえる。
まるで病んだ人が眠る部屋のよう、
死の一時間前に。
心うちひしがれ、わたしの魂そのものが嘆き悲しむ、
朽ちゆく花びらの、湿った、豊かな香りに。
下のほうで、
端から枯れゆくツゲの香りに。
今年最後のバラの香りに。
重たげに、大きなヒマワリは花を垂れる、
凍るように冷たい大地の墓の上で。
重たげに、アオイは頭を垂れる。
重たげに、オニユリも頭を垂れる。

* * *
Alfred Tennyson
"Song"
("A Spirit haunts the year's last hours")

1
A Spirit haunts the year's last hours
Dwelling amid these yellowing bowers:
To himself he talks;
For at eventide, listening earnestly,
At his work you may hear him sob and sigh
In the walks;
Earthward he boweth the heavy stalks
Of the mouldering flowers:
Heavily hangs the broad sunflower
Over its grave i' the earth so chilly;
Heavily hangs the hollyhock,
Heavily hangs the tiger-lily.

2
The air is damp, and hush'd, and close,
As a sick man's room when he taketh repose
An hour before death;
My very heart faints and my whole soul grieves
At the moist rich smell of the rotting leaves,
And the breath
Of the fading edges of box beneath,
And the year's last rose.
Heavily hangs the broad sunflower
Over its grave i' the earth so chilly;
Heavily hangs the hollyhock,
Heavily hangs the tiger-lily.

* * *
ワーズワース的な自然描写・自然観の一変奏。
春に心が弾む、ではなく、冬に心が沈む、というかたち。

1830年に発表された作品だが、すでにかなり「世紀末」的。
ポーは、この詩が好きだったとか。

* * *
悲しみつつ、草木を枯れさせる仕事をする精霊、
というのはどこから?

この精霊の悲しみは、自分の愛するものを自分で
破壊しなくてはならない悲しみ。

スタンザ2にある「人の死」のイメージにそって、
しかも少し現代的に考えるなら、愛する人に、たとえば
安楽死を与える、というようなときの悲しみ・・・・・・
精霊が出てくる空想的な短い詩だが、提示している
テーマは(軽々しくも)重い。

あるいは、空想的な短い作品だからこそ、論理的に
考えても結論の出にくいような、重いテーマを扱う
ことができるのか。

* * *
(訳注)

2 yellowing
黄色は、夕暮れどきの日の光の色、および枯れはじめた
木の葉の色。

9, 11-12
ヒマワリ、タチアオイなど、あげられている花が、
たとえばユリやカスミソウのような、見た目清らかで
はかなげなものではないところが、おそらくポイント。

色あざやかで、にぎやかで、強そうな花……これを、
上記のように「人」に重ねてみると、どのような人
(おそらく、女性)がイメージされる?

そのような人が「重たげに頭を垂れる」というのは、
どういう絵?

9, 11-12
Heavily, hangsなどにおける/h/の頭韻も重要。
/h/は息の音。ため息、および冬に手をあたためるとき
などの息、などが想像される。

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
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Tennyson, "Circumstance"

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「何気ないこと」

子どもが二人、となりあわせの村から来て、
草の広場で元気に飛びはねて遊ぶ。
見知らぬ二人が、祝祭の日に出会う。
二人の恋人たちが、果樹園の壁のところでささやきあう。
二人の生涯が、金色の安らぎのなか、かたくひとつに結ばれる。
二つの墓が、緑の草のなか、教会の灰色の塔のとなりで、
静かな雨に洗われ、デイジーの花にかこまれている。
子どもが二人、小さな村に生まれて育つ。
生はこのようにめぐる、時から時へと。

* * *
Alfred Lord Tennyson
"Circumstance"

Two children in two neighbour villages
Playing mad pranks along the healthy leas;
Two strangers meeting at a festival;
Two lovers whispering by an orchard wall;
Two lives bound fast in one with golden ease;
Two graves grass-green beside a gray church-tower,
Wash'd with still rains and daisy-blossomed;
Two children in one hamlet born and bred;
So runs the round of life from hour to hour.

* * *
弱強五歩格で9行。脚韻は、不完全なものもありつつ
aabbacddc.

タイトルにあるように、何気ない、いつもどこかで
誰かにおこっているような生の循環を断片的に描写。

* * *
思うに、ポイントは行の配分。

子どもの頃--2行
出会い--1行
恋人時代--1行
結婚生活--1行
死後--2行

個人的な実感以上の根拠はないが、もっとも時間が
長く感じられるのは子どもの頃。20-30代はあっと
いう間に過ぎる。たとえば、9歳、12歳、17歳の日々の
ことは意外に鮮明に覚えているが、27歳、33歳の
頃のことは、ほとんど覚えていない。どれがどの年の
ことだったか、何か記録を見なければまったくわからない。

そのような理由で子ども時代を長めの2行で描写。

それから、生きている時間よりも死んでからの
時間のほうが当然長いので、墓の描写にも長めの2行。

もうひとつ、見え見え感が否めないが、結婚が
人の生の中心ということで、9行構成の真ん中の
5行目に結婚の描写。(「金色の・・・・・・」
というのも、ちょっと言いすぎのような。)

* * *
6行目の /gr/ の頭韻も、ちょっとやりすぎのように
思われる。が、graves, grayというマイナス・
イメージの語とgrass-greenというきれいなイメージの
語を混在させているところ(前者で後者をはさんでいる
ところ)に、音あわせ以上の意図も感じられる。

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
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Tennyson, "The Owl"

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「歌--フクロウ--」

1
ネコが家に走って帰り、外が明るくなってきたとき、
地面が朝露で冷たく湿り、
遠くの川が音も立てずに流れ、
渦巻きのなか、帆がまわるとき、
渦巻きのなか、帆がまわるとき、
ひとり、五感をあたためながら、
白いフクロウが鐘楼に。

2
楽しげな乳搾りの女の子たちが鍵をカチャッと開けるとき、
餌用に刈られたばかりの草がいい香りを放ち、
わらぶき屋根の下でニワトリが歌いはじめたとき、
二回、三回、くり返し、
二回、三回、くり返し。
ひとり、五感をあたためながら、
白いフクロウが鐘楼に。

* * *
Alfred Tennyson
"Song: The Owl"

1
When cats run home and light is come,
And dew is cold upon the ground,
And the far-off stream is dumb,
And the whirring sail goes round,
And the whirring sail goes round;
Alone and warming his five wits,
The white owl in the belfry sits.

2
When merry milkmaids click the latch,
And rarely smells the new-mown hay,
And the cock hath sung beneath the thatch
Twice or thrice his roundelay,
Twice or thrice his roundelay;
Alone and warming his five wits,
The white owl in the belfry sits.

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
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Tennyson, "Claribel"

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「クラリベル--歌--」

1
クラリベルが深く眠るところ、
そよ風は止まり、死ぬ。
薔薇の花びらも落ちる。
厳かな樫の木はため息をつく。
葉を茂らせ、香りを放ち、
遠い昔の歌、
内なる激痛の歌を口ずさみつつ。
クラリベルが深く眠るところで。

2
夕暮れに甲虫(かぶとむし)が音を立てて飛ぶ、
誰もいない茂みを横切って。
真昼に野の蜂が音を立てて飛ぶ、
苔の生えた墓石のまわりを。
真夜中に月が来て、
ただひとり見おろす。
鶸(ひわ)の歌はしだいに大きくなり、
鶫(つぐみ)も透んだ声で歌い、
毛の生えそろわないその雛(ひな)も舌足らずに歌い、
眠たげな波が流れ出し、
小川は泡立ち、渦巻き、
誰もいない洞穴も応えて歌う。
クラリベルが深く眠るところで。

* * *
Alfred Tennyson
"Claribel: A Melody"

1
Where Claribel low-lieth
The breezes pause and die,
Letting the rose-leaves fall:
But the solemn oak-tree sigheth,
Thick-leaved, ambrosial,
With an ancient melody
Of an inward agony,
Where Claribel low-lieth.

2
At eve the beetle boometh
Athwart the thicket lone:
At noon the wild bee hummeth
About the moss'd headstone:
At midnight the moon cometh,
And looketh down alone.
Her song the lintwhite swelleth,
The clear-voiced mavis dwelleth,
The callow throstle lispeth,
The slumbrous wave outwelleth,
The babbling runnel crispeth,
The hollow grot replieth
Where Claribel low-lieth.

* * *
森のなかのクラリベルの墓。そのまわりの草木、
虫、鳥、川など、自然界のものたち。

ワーズワースの(「心が眠り、封印されていた」)とは
別のかたちで、死んだ人間と自然の関係を歌う。

このワーズワースの詩が描くのは、死んで動かない
人が地球上の石や木などとともにまわるようす=
人と自然が一体化しているようす。

「クラリベル」の場合、樫の木のため息までは
ひとり静かに眠る彼女にそのまま重なるが、
それ以降は、正反対に動的で音が響く描写と
なっている。その結果、クラリベルと自然の関係に
ついていろいろな連想がかきたてられることに。

自然=クラリベルの内なる激痛、など。

* * *
内容に加えて、この詩のポイントは、リズムと音。

ブレイク、バイロン、シェリー以降のストレス・ミーター
(四拍子)の詩は、各行のストレスの配置や母音・子音の
並びを操作して、独特の雰囲気をつくろうとするようになる。
(ベン・ジョンソンのような歌のつくり方への回帰。)

そこから、さらにテニソンは、あえて四拍子が
感じられないところまでリズムを崩しはじめる。



拍子B(= Beat)を二段にわけて記した行については、
上の段が一定の早さの四拍子にのせた読み方。
これに対し、実際に口に出して読んだときの印象は、
下の段のようになるはず。もはや四拍子ではなく、
ただ独特のリズム・雰囲気をもつ散文のように聞こえる。
カタカナで書いたときの「ポエム」のような。

そんな詩をあえて "A Melody" と呼ぶところにテニソンの
自信と自負が読みとれる。

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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