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Densmore (tr.), "Song of the Thunders"

フランシス・デンスモア (訳)
「雷たちの歌」

ときどき
飛んでいるとかわいそうになる、
自分が。
風に運ばれて
空を横切っているなんて。

* * *
Frances Densmore (tr.)
"Song of the Thunders"

Sometimes
I go about pitying
myself
while I am carried by the wind
across the sky.

* * *
英語テクストはThe Path on the Rainbow (1918) より。
https://archive.org/details/pathonrainbowant00cron

* * *
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Densmore (tr.), "Song of the Trees"

フランシス・デンスモア (訳)
「木々の歌」


だけが
こわい。

* * *
Frances Densmore (tr.)
"Song of the Trees"

The wind
only
I am afraid of.

* * *
英語テクストはThe Path on the Rainbow (1918) より。
https://archive.org/details/pathonrainbowant00cron

* * *
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Mayne, ("Time is the feather'd thing")

ジャスパー・メイン (1604–1672)
(「〈時〉には羽がある」)

〈時〉には羽がある。
君の目の火花を
称え、まるで光の矢、などとたとえているあいだに
〈時〉は飛んでいってしまう、
誰も気がつかないうちに
君の目を曇らせて。
一分、また一分と過ごしているうちに、
ぼくたちは年をとっていく。
砂時計の砂が、ひと粒ひと粒
落ちていくごとに、老いていく。
今、花やバラが咲いているところに、
いつの間にか、しわが植えられていたりする。
こうして話しているあいだにも、ぼくたちの火は
消えて氷になる。
炎も霜になる。
気づかないうちに、
からすは白鳥になり、
美しい黒玉石のあったところにも
銀の雪が生えてくる。
春は色あせ、失われ、鈍い色の冬が来る。

だから今、夜が、
闇、愛を隠してくれる陰を、
宿敵たる日の光の上に投げかけ、
世界を
かつての状態、「光あれ」以前のような、
何も見えない、かたちのないところにしてくれているのだから、
その恩恵をありがたく受けて、
陰のなか、楽しいことをしよう。
このうえなく幸せなことを一回するごとに一時間、と数えよう。
キスするごとに一分、と数えよう。
そして、星たちには新しいまわりかたを教えてあげよう、
抱きしめあうぼくたちを中心にまわるように。
ぼくたちは、
愛が魂を魂に伝え、
注ぎこむ、そんな行為をして、
そして、ひとつになりながら、
たがいに与えあう恍惚に我を忘れて
ぐったりしてしまうくらいの快楽を、
二つの魂に教えるんだ。
音楽を奏でつつ、空かけめぐる星たちの下で。

* * *
Jasper Mayne.
("Time is the feather'd thing")

Time is the feathered thing,
And, whilst I praise
The sparklings of thy looks and call them rays,
Takes wing,
Leaving behind him as he flies
An unperceived dimness in thine eyes.
His minutes whilst they're told
Do make us old;
And every sand of his fleet glass,
Increasing age as it doth pass, 10
Insensibly sows wrinkles there
Where flowers and roses do appear.
Whilst we do speak, our fire
Doth into ice expire;
Flames turn to frost
And ere we can
Know how our crow turns swan,
Or how a silver snow
Springs there where jet did grow,
Our fading spring is in dull winter lost. 20

Since then the night hath hurled
Darkness, love's shade,
Over its enemy the day, and made
The world
Just such a blind and shapeless thing
As 'twas before light did from darkness spring,
Let us employ its treasure
And make shade pleasure;
Let's number out the hours by blisses,
And count the minutes by our kisses; 30
Let the heavens new motions feel
And by our embraces wheel.
And whilst we try the way
By which love doth convey
Soul into soul,
And mingling so
Makes them such raptures know
As makes them entranced lie
In mutual ecstacy,
Let the harmonious spheres in music roll. 40

* * *
からすは白鳥に、黒玉が雪に、というところは、
黒髪が白髪に、ということ。

「光あれ」は、聖書の天地創造神話への言及。

最後の行は、天体が奏でる音楽(the music of
the spheres)への言及。

* * *
カルペ・ディエムのテーマの一変奏。

性的、肉体的な内容を、星たちの音楽を背景に、
そして一部魂のレベルで、語る。
(にしても、端的で直接的すぎるような。)

* * *
この詩の元ネタ(のひとつ)は、Donneの "The Sun Rising".
(恋人を中心に星がまわる、というところ。)

逆にこの詩は、Wordsworthの "Lines Written at a Small
Distance from My House" の元ネタ(のひとつ)になっている(はず)。
(愛が魂を魂に伝える、というところ、および、
時間の数えかたを変えよう、というところ。)

* * *
英語テクストは、Lyrics from the Dramatists of
the Elizabethan Age (1913)より。
https://archive.org/details/2lyricsfromdramat0bulluoft
(一部修正)

* * *
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Shelley (tr.), "To Stella"

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822) (訳)
プラトン、「ステラに」

君は、生きている人たちのなか、暁の明星のようだった。
君が美しく光っていた頃--
今、死んでしまった君は、宵の明星のよう。
死んでしまった人たちを、ふたたび、輝かしく、照らしている。

* * *
Percy Bysshe Shelley (tr.)
Plato, "To Stella"

Thou wert the morning star among the living,
Ere thy fair light had fled;---
Now, having died, thou art as Hesperus, giving
New splendour to the dead.

* * *
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Densmore (tr.), ("whenever I pause")

フランシス・デンスモア (訳)
(「ふと止まるといつも」)
(『チペワの歌』より)

ふと止まるといつも

村の

* * *
Frances Densmore (tr.)
("whenever I pause")
(From Chippewa Music)

whenever I pause
the noise
of the village

* * *
アメリカン・インディアンの歌。

ただ思っただけだが、ウィリアム・カルロス・
ウィリアムズの短い詩の元ネタ(のひとつ)は、
こういうところなのか、と。

俳句のよう、とも。

* * *
英語テクストは、Chippewa Music (1913) より。
https://archive.org/details/chippewamusic02densuoft

* * *
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Shelley (tr.), ("Kissing Helena")

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822) (訳)
プラトン、(「ヘレナにキスしたとき」)

ヘレナにキスしたとき、
そのキスといっしょに、魂まで
唇にのぼってきたから、ぼくは、あわててそれを引きとめた。
だって、このバカな子は、ふらふらとそこにのぼってきて、
そして、ヘレナのキスについて行こうとしたんだから。
ああ、ぼくって、ひどい! それをとめてしまうなんて!

* * *
Percy Bysshe Shelley (tr.)
Plato, ("Kissing Helena")

Kissing Helena, together
With my kiss, my soul beside it
Came to my lips, and there I kept it,―
For the poor thing had wandered thither,
To follow where the kiss should guide it,
Oh, cruel I, to intercept it!

* * *
英語テクストは、次のページのものより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4799

* * *
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From Pope, Moral Essays, Epistle I

アレグザンダー・ポウプ (1699-1744)
『道徳論』
「書簡I--コバム卿サー・リチャード・テンプルへ--」より

行動が、常に人格をあらわすわけではない。やさしいことを
する人が、だからといってやさしいとはかぎらない。
もしかしたら、生活が潤っているから心が潤っているだけかも。
もしかしたら、たまたま南から風が吹いてきただけかも。
人目にふれず生きたいと思う人も、だからといって控えめとはかぎらない。
傲慢だから、すぐれた人と会うのを避けるために、そうしているだけだったり。
勇敢に戦う人も、だからといって勇敢とはかぎらない。
もっとも卑しい、奴隷のような人と同様、勇敢な人でも死を恐れている。
かしこく、論理的に考え、論じる人も、だからといって本当にかしこいとはかぎらない。
彼の自慢は、論理的思考にあって、行動にはないのだから。
(61-70)

同じ人でも、いろんな場面で見てみよう--元気なとき、痛風で苦しんでいるとき、
ひとりのとき、人といるとき--落ちつく場所にいるとき、いないとき--
朝、仕事をしているとき、夜、賭けごとをしているとき--
キツネ狩りに夢中なとき、難しい議論をしているとき--
町で酔っぱらっているとき、舞踏会で品よくふるまっているとき--
国会議員候補になる前はいいことばかりいっていて、議員になったら嘘ばかりで。
カティウスはいつも道徳的で、まじめで、
悪党を許す奴は悪党の次に悪い、などと考える--
が、ディナーについては話は別で、こういうに決まっている、
鹿肉を出さない聖人よりも、それを出すゴロツキのほうがいい、と。
(130-39)

常に変わらぬものは神と自然だけ。人の判断力は、
逃げる獲物を追いかける矢のように、あっちに飛び、こっちに飛ぶ。
まるで渡り鳥! 来たかと思ったら、すぐどこかに行ってしまう。
たぶん、はるか月のかなたに。それか、地面の奥深く。
(154-57)

人のふるまいはくらしぶりによって変わるし、人の気分もお天気しだい。
本を読むたびに考えが変わり、社会とともに生きかたも変わる。
(166-67)

* * *
Alexander Pope
Moral Essays
From Epistle I. To Sir Richard Temple, Lord Cobham

Not always actions show the man: we find
Who does a kindness, is not therefore kind;
Perhaps prosperity becalmed his breast,
Perhaps the wind just shifted from the east:
Not therefore humble he who seeks retreat,
Pride guides his steps, and bids him shun the great:
Who combats bravely is not therefore brave,
He dreads a death-bed like the meanest slave:
Who reasons wisely is not therefore wise,
His pride in reasoning, not in acting lies.
(61-70)

See the same man, in vigour, in the gout;
Alone, in company; in place, or out;
Early at business, and at hazard late;
Mad at a fox-chase, wise at a debate;
Drunk at a borough, civil at a ball;
Friendly at Hackney, faithless at Whitehall.
Catius is ever moral, ever grave,
Thinks who endures a knave is next a knave,
Save just at dinner―then prefers, no doubt,
A rogue with venison to a saint without.
(130-39)

Know, God and Nature only are the same:
In man, the judgment shoots at flying game,
A bird of passage! gone as soon as found,
Now in the moon, perhaps, now under ground.
(154-57)

Manners with fortunes, humours turn with climes,
Tenets with books, and principles with times.
(166-67)

* * *
64
イングランドでは、東風は、冷たくていやなもの、健康に悪いもの
(OED, "east wind")。「南」というのは、ただの雰囲気で。

68 slave
文字どおりの意味(18世紀のイギリスはそういう社会。
古代以来の「自由民と奴隷」という対照も関係している。)

比喩的な意味(日本語でも、たとえば「奴隷根性」という
語にあるような、「気高くない」という)。

136 Catius
カティウスは、ホラティウスの『諷刺』2巻4歌で
諷刺されている美食家・快楽主義哲学者(?)。
食べものについて薀蓄を垂れる。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/2428

ホラティウスの『諷刺』はここから。
http://www.gutenberg.org/ebooks/5419

* * *
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Cowley, "Life and Fame"

エイブラハム・カウリー (1618-1667)
「生と名声」

1.
ああ、〈生〉よ、〈虚無〉の弟よ!
まさに瓜二つ、どっちがどっちかわからない!
〈存在する〉ってどういうこと? 〈存在しない〉ってどういうこと?
スコラ派が編む、蜘蛛の網のように細かい分類を見ても、
わたしたちにはわからない、
存在と非存在の違いなんて。
夢のなかの影! 色あざやかな光の反射にすぎない虹の、
偽りの輝きがさらに反射したものと比べても、
おまえ、〈生〉には実体がない。
おまえは、まるでもろい地峡。偉そうに
二つの永遠のあいだをつないでいても、
波や風に耐えられない。
すぐに崩され、のみこまれ、わかれていた二つの海が出会ってひとつになる。

2.
なんという器用な発想で、わたしたちは、
死後も生きようとすることか?
かしこくも繊細な業--まさにこのことだ、
無である人間の無知な知の産物とは。
ある者は、高い金を払って大きな墓をつくり、それで永遠の生を買おうとする--
死の証拠によって生きているふりをするわけだ。
「ここに偉大な者が横たわる」・・・・・・嘘つけ、ただの大理石め、どこにだ?
小さくて汚い、ただの塵があるだけではないか。
山のように巨大な宮殿を建てる者もいるが、
それで喜ぶのは、バカな奴らと建築家だけ。
あるいは、永遠に生きるため、りっぱな石像を立てたりする。
たとえば、何百年も前にエジプトの岸で
刺されて死んだポンペイウス。彼は、
今なお生きている。ああ、なんと幸せな、
すばらしい生きかた! まさに快楽主義者たちのあこがれ!
崩れて廃墟になった円形競技場で生きつづけるなんて。

3.
ポンペイウスの義理の父、カエサルは、さらに高い地位を求める、
天使のように実体のない名声において。
彼にとってはとるに足らない死のあとでも、
彼は人々の口にのぼる。人々の言葉、息のなか、彼はまだ息をして生きている。
確かに、彼の名の二音節は、不滅のものとして残っている。
だが、かしこい者よ、教えてくれ、
どんな本質、どんな存在なんだ、これは?
どんな実体が、どんな実体としての存在が、どんな本質の本質が、
情けない六個のアルファベットのうちにある?
この六文字のなかにのみ、偉大なカエサルは生きている--
あれだけ世界を征服しても、手に入るのはこれだけなのだ。
だが、彼らすべてより、さらに頭がおかしいのが、わたしたち詩人だ。
妄想のなか思いあがって、
自分は永遠に生きると、また、人を永遠に生きさせられると、思っているのだから。
もし、そんな浪費家がいるならぜひ会ってみたいもの--
自分の明日を棄ててまで、いにしえのホメーロスが
死んでから今まで生きてきた名声がほしい、というような。

* * *
Abraham Cowley
"Life and Fame"

1.
Oh Life, thou Nothings younger Brother!
So like, that one might take One for the other!
What's Some Body, or No Body?
In all the Cobwebs of the Schoolmens trade,
We no such nice Distinction woven see,
As 'tis To be, or Not to Bee.
Dream of a Shadow! a Reflection made
From the false glories of the gay reflected Bow,
Is a more solid thing then Thou.
Vain weak-built Isthmus, which dost proudly rise 10
Up betwixt two Eternities;
Yet canst nor Wave nor Wind sustain,
But broken and orewhelm'd the endless Oceans meet again.

2.
And with what rare Inventions do we strive,
Our selves then to survive?
Wise, subtle Arts, and such as well befit
That Nothing Mans no Wit.
Some with vast costly Tombs would purchase it,
And by the proofs of Death pretend to Live.
Here lies the Great -- False Marble, where? 20
Nothing but small and sordid Dust lies there.
Some build enormous Mountain Palaces,
The Fools and Architects to please.
A lasting Life in well-hew'en Stone they rear:
So he who on th' Egyptian shore,
Was slain so many hundred years before,
Lives still (Oh Life most happy and most dear!
Oh Life that Epicures envy to hear!)
Lives in the dropping Ruines of his Ampitheater.

3.
His Father in Law an higher place does claim 30
In the Seraphique Entity of Fame.
He since that Toy his Death,
Does fill all Mouths, and breathes in all mens Breath.
'Tis true, the two Immortal Syllables remain,
But, Oh ye learned men, explain,
What Essence, what Existence this,
What Substance, what Subsistence, what Hypostasis
In Six poor Letters is?
In those alone does the Great Cæsar live,
'Tis all the Conquered World could give. 40
We Poets madder yet then all,
With a refin'ed Phantastick Vanitie,
Think we not onely Have, but Give Eternitie.
Fain would I see that Prodigal,
Who his To-morrow would bestow,
For all old Homers Life ere since he Dy'ed till now.

英語テクストは、以下のページより。
http://cowley.lib.virginia.edu/works/life&fame.htm

* * *
(イタリアのペトラルカの影響下にある)
16世紀イギリス恋愛詩の定番、「永遠」という
テーマの裏返し。

Marvell, "To His Coy Mistress" なども参照。

(16世紀の詩)
美しき君よ、永遠に・・・・・・。

(マーヴェル)
永遠なんて無理だし、あってもろくなものじゃないから、
とりあえず、今、楽しんで、子どもをつくろうよ。
それで血筋が永遠に残る、ってことにもなるし。

(カウリー)
永遠なんて無理。いろいろでっちあげたって
アホらしいだけ。死後の名声、とかいうけど、
死んじゃってたら、しょうがないじゃん?
ふつうに生きてるほうがいいに決まってるんだから。
もうそろそろ、さ、現実的な詩を書こうよ。

* * *
カウリーが20世紀半ば以降とりあげられなく
なったことには、理由が二つあるのでは。

1.
作品内の統一感、一貫性のなさ。"Life and Fame" でも、
存在なんて無意味、というスタンザ1(タイトルの
Lifeの部分)と、死後の名声なんて無意味という
スタンザ2-3(Fameの部分)の関係が微妙。

生は無意味、名声も無意味、という流れなのは
わかるが、地峡の比喩や墓の話など、具体的に
書かれていることがバラバラな感じ。

また、スタンザ1と3の結論は正反対?
「生は無意味」だが「死後の名声より生のほうがいい」?

このような作品は、作品内に統一感、一貫性を
求める、いわゆる「新批評」(死語)では扱いにくい。

思うに、作品に一貫性を求める、というのは、
小説--特に推理小説的なもの--の発達の
副産物。16-17世紀の著作には、一貫性に
関する意識が低い、あるいは、ない、と思われる
ものが多い。少なくとも、少なくない。
頭に浮かぶのは、マーロウ『エドワード二世』、
ミルトン『サムソン』など。カウリーの詩もそう。

16-17世紀の政治的、思想的な文献でも同じ。
ミルトンの政治論文や、オランダのグロティウスの
『戦争と平和の法』などに、それぞれ一貫した
論旨を読みとることは、時として困難あるいは
不可能。いろいろたがいに矛盾する論拠をあげて、
いろいろたがいに矛盾することを一度に
論じようとしているから。

そんな著作については、一貫性や統一感を基準と
しない楽しみかたや、評価・研究の方法が必要。
矛盾を解消しようとするのではなく、どこから、
どうして、矛盾が出てくるのかを調べ、考える、
というような。また、全体はともかく、ここと
ここではおもしろいことをいっている、というような。

小説以前以降の作風の違いは、たとえばシドニーの
『アストロフィルとステラ』とリチャードソンの
『クラリッサ』などを比べるとわかるのでは。
『アストロフィル』には矛盾があっても全然OK。
後者では違う(?)

("Life and Fame" でも用いられている、
カウリーが編み出した「ピンダリック」の
詩形は、そのかたちや内容の自由さ、ゆるさが
いちばんの特徴であり魅力。いわゆる「自由詩」
以前の自由な詩形のひとつ。もうひとつは、
ミルトン流のブランク・ヴァース。)

2.
極端にシニカルで、教育上よくない内容。
19世紀後半以降、詩(や文学そのもの)が
高等教育の一部をなすようになってきたが、
それにカウリーの詩はそぐわない。
(作品によるのかもしれないが。)

たとえば、カントのいう「普遍的な立法の原理」
のようなもの(?)--すべての人にあてはまる
こと--として、カウリーの書くことはふさわしくない。
小中高の道徳の授業では教えられない。

逆に、これは、17(-19)世紀にカウリーの人気が
高かった理由のひとつであるのかも。斜に構えていて、
屈折していて、悪くて、カッコいい、みたいな。

(印象としては、ドライデンの劇作品はお笑い的、
ボケ的にシニカル。カウリーの詩は、19世紀末の
デカダン的に、美しく、不健全に、刹那的に、シニカル。)

(参照)
Cowley, "The Epicure"
Cowley, "Swallow" (ed.)
Cowley, "Grasshopper"

* * *
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Fanshawe (tr.), Martial, Epigram 10.47

リチャード・ファンショー (1608-1666) (訳)
マルティアリス、エピグラム 10巻47番

(よき友、マルティアリス君へ)
人生を楽しくしてくれるのは、以下のもの。
相続した土地と家、自分で得たものではなく--
耕したら実る畑、いつも火のともっている暖炉--
街にはほとんど行かず、裁判沙汰などいっさい避けること--
対等で、ずっと仲のいい友人--
健康なからだ、落ちついた心--
朝までぐっすり眠れること--
ものごとを単純に考える賢さ、質素な食事--
酒に酔わない夜、それでもゆっくりできる、という--
しっかりした、でも口うるさくない妻--
体の強さ、畑で働く者たちとは違う清潔さ--
自分以外の者にはなりたくない、という気持ち--
死を望まず、かつ恐れないこと。

* * *
Richard Fanshawe (tr.)
Martial, Epigram 10.47

The things that make a life to please,
(Sweetest Martial), they are these:
Estate inherited, not got:
A thankful field, hearth always hot:
City seldom, law-suits never:
Equal friends, agreeing forever:
Health of body, peace of mind:
Sleeps that till the morning bind:
Wise simplicity, plain fare:
Not drunken nights, yet loos'd from care:
A sober, not a sullen spouse:
Clean strength, not such as his that plows;
Wish only what thou art, to be;
Death neither wish, nor fear to see.

* * *
17世紀にもっとも英語訳された古典詩のひとつ。
Pope, "Ode on Solitude" 参照。)

* * *
ファンショーは政治家・軍人で文筆家。チャールズ一世、
および二世に仕えた。

1650年に爵位を与えられて貴族に。この詩の
最後から3行目に、明らかにそういう視点が見られる。
(この箇所は、マルティアリスのオリジナルにはない。
たとえば、ベン・ジョンソンの訳にもない。)

(上から3行目の内容は、オリジナルにもある。)

* * *
ラテン語オリジナルと、その直接的な英語訳は
次のページに。

http://blogs.dickinson.edu/
latin-poetry-podcast/2012/09/25/
wish-to-be-what-you-are-martial-
epigrams-10-47/

作中の "Martial" は、友人(いとこ?)。
同じ名前でまぎらわしい。

* * *
英語テクストは、A Handbook for Latin Clubs (1916) より。
https://archive.org/details/ahandbookforlat00paxsgoog

* * *
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Herrick (tr.), Martial, Epigram 11.16.9-10

ロバート・ヘリック (1591-1674) (訳)
マルティアリス、エピグラム11.16.9-10

ぼくの本を読んで、恥ずかしがりなルクレティアは
顔を赤くする、ブルトゥスが近くにいるときには。
でも、彼がどこかに行ったら、じっくり読んで、
頬が赤くなるなんてことは、まったくない。

* * *
Robert Herrick (tr.)
Martial, Epigram 11.16.9-10

To read my book the virgin shy
May blush while Brutus standeth by,
But when he's gone, read through what's writ,
And never stain a cheek for it.

* * *
the virgin shy
= Lucretia ルクレティア
この詩では名前があがっていないが、
マルティアリスのオリジナルでは名前で
呼ばれている。ここでは、"the" によって
特定。

人妻なので、"virgin" ではないはずだが、
おそらく、徳高き女性ということで、
こう表現されている。

Brutus
= Lucius Junius Brutus
ルキウス・ユニウス・ブルトゥス。
清廉潔白、美徳の人、というイメージの人。

カエサルの、「ブルトゥス、おまえもか?」の
ブルトゥスとは別人。

* * *
ローマ共和国建国の(伝説的な)エピソードを参照--

ローマ王国最後の王Lucius Tarquinius Superbusの
息子Sextus TarquiniusがLucretiaをレイプする。
これをきっかけとして、彼女の夫Lucius Tarquinius
CollatinusとLucius Junius Brutusが反乱をおこし、
王を追放して共和国を立てる。

シェイクスピアの『ルークリースの凌辱』など参照。

絵なども参照。
http://www.wikipaintings.org/en/titian/
tarquin-and-lucretia

* * *
英語テクストは、Hesperidesより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/22421

* * *
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Lovelace (tr.), Catullus, Epigram 70

リチャード・ラヴレイス (1618-1657) (訳)
カトゥルス、エピグラム70

ぼくの恋人はいう--あなた以外とは結婚したくない、
たとえゼウスが、結婚しよう、といってきたって嫌よ、絶対に嫌。
あの子はこういうんだけど、でも女性が、自分のことを好きな
男にいうことなんて、急流や突風に書いておこう。

* * *
Richard Lovelace (tr.)
Catullus, Epigram 70

My mistress says she'll marry none but me,
No, not if Jove himself a suitor be:
She says so; but what women say to kind
Lovers, we write in rapid streams and wind.

* * *
つまり、忘れたほうがいい、ということ。

* * *
フィリップ・シドニー訳もあり。

* * *
英語テクストは、Lucasta (1817) より。
http://books.google.co.jp/books?id=myYhAAAAMAAJ

* * *
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Jonson, "Charis IV: Her Triumph"

ベン・ジョンソン
「カリスを称える歌10篇--IV. カリスの凱旋」

愛の女神アプロディーテーの戦車がやってきます、
わたしの愛しいあの人を乗せて!
それを引くのは、白鳥と鳩、
そして、愛の女神が御者をしています。
あの人が通ると、すべての人の心が
その美しさの前にひれ伏します。
そして恋に落ち、願うのです、
ただそのきれいな姿を見ていたいと、
そして、隣に乗って走りたいと、
戦いのなかでも、海のなかでも、あの人が行きたいところへ、どこまでも。

あの人の目を見てください。それは照らします、
愛の女神の世界にあるものすべてを!
あの人の髪を見てください。それは輝いています、
愛の女神の星、金星がのぼるときのように!
見てください、あの人の表情は、なめらかでおだやかです。
男たちのおせじなどより、はるかになめらかなのです!
その額のまゆからは、美しさの光のヴェールが放たれて、
顔のすべてをつつみこんでいます。
この美しさだけであの人はすべてに勝利をおさめ、凱旋してきます。
四体液のせめぎあいで生まれる感情など、みな彼女に倒されるのです。

輝くように咲く百合を見たことがありますか、
心ない者がそれを摘んでしまう前に?
一面の雪野原を見たことがありますか、
土がそれを汚してしまう前に?
ビーバーの毛皮をさわったことは?
白鳥の羽は?
野ばらのつぼみの香りを知っていますか?
火にかけた甘松の香りは?
蜂の蜜袋をなめたことはありますか?
それくらい白く、それくらいやわらかく、そして、それくらい甘いのです! あの人は!

* * *
Ben Jonson
"A Celebration of Charis in Ten Lyric Pieces"
IV. Her Triumph

See the chariot at hand here of Love,
Wherein my Lady rideth!
Each that draws is a swan or a dove,
And well the car Love guideth.
As she goes, all hearts do duty
Unto her beauty;
And enamour'd do wish, so they might
But enjoy such a sight,
That they still were to run by her side,
Through swords, through seas, whither she would ride.

Do but look on her eyes, they do light
All that Love's world compriseth!
Do but look on her hair, it is bright
As Love's star with it riseth!
Do but mark, her forehead's smoother
Than words that soothe her!
And from her arch'd brows, such a grace
Sheds itself through the face,
As alone there triumphs to the life
All the gain, all the good of the elements' strife.

Have you seen but a bright lily grow,
Before rude hands have touch'd it?
Have you mark'd but the fall o' the snow,
Before the soil hath smutched it?
Have you felt the wool of bever,
Or swan's down ever?
Or have smelt o' the bud o' the briar?
Or the nard in the fire?
Or have tasted the bag of the bee?
O so white! O so soft! O so sweet is she!

* * *
(スタンザ2の最後の部分について)

such a grace: 先行詞

As alone. . . . のas: 関係代名詞主格

triumphs:
関係詞節の動詞。勝利の後の凱旋行進にて
・・・・・・を誇らしげに、華々しく掲げる、
というような意味で理解。OED v. 1, 「凱旋行進をする」
(自動詞)から派生させて。
(勝手な理解だが、これでいいはず。)

to the life: まさにあるがままの姿で(OED, "life" 7b)

All the gain, all the good of the elements' strife:
Triumphsの目的語。

the elements:
古代の科学で、この世のすべてを構成していると
考えられていた土、水、空気、火(OED, II)。

これらは古代以来の四体液説における黒胆汁、
粘液、血液、黄胆汁に対応。これらの体液の
バランスが人の性格や精神状態を左右すると
考えられていた。

つまり、

such a grace . . .
As alone there triumphs to the life
All the gain, all the good of the elements' strife.
= 四体液のせめぎあい(the elements' strife)に
よって生まれる人の感情のうち、もっと美しいもの、
すばらしいもの(All the gain, all the good)を、
あるがまま、そのままのかたちで、まるで勝ち誇るかの
ように掲げて見せている、そんな美しさ(such a grace)。

それが、Sheds itself through the faceしている、という。

(参考: 四体液説について)
Duchan, Judith Felton
"Ancient Theory of Elements and Humors"
http://www.acsu.buffalo.edu/~duchan/new_history/
ancient_history/humor_theory.html
20140103

---
関係して、「彼女の額はお世辞よりもなめらか」
her forehead's smoother Than words that soothe her
というのも、そういうこと。

額は恥ずかしさなどの感情をあらわすところ
(かーっと熱く、赤くなって)(OED 2)。
あるいは、怒っているときには、しわがよったり
するところ。

そこが「なめらか」ということは、彼女の心のなかも
なめらか、落ちついている、ということ。つまり、
四体液のせめぎあいによって生まれる人の感情のうち、
もっと美しいもの、すばらしいものが、彼女の心の
うちにあり、それが表情にもあらわれている、ということ。

* * *
劇作品『悪魔は頓馬』(The Devil is an Ass)の挿入歌
(スタンザ2-3の部分)を発展させたもの。
ジョンソンの歌もののなかで、おそらくいちばんの作品。

その特徴はリズム。いちばん印象的なスタンザ3で確認。





ストレス・ミーター(四拍子)10行のなか、次のように
長い行と短い行を組みあわせ、また弱強のリズムと
弱弱強のリズムを組みあわせている。

1 弱弱強
2 弱強
3 弱弱強
4 弱強
5 弱強
6 弱強 (短い行)
7 弱弱強
8 弱弱強 (短い行)
9 弱弱強
10 弱弱強

* * *
この「カリス IV」を模倣した作品--

Thomas Carew
"Song" ("Would you know what's soft?")

Would you know what's soft? I dare,
Not bring you to the downe, or aire:
Nor to starres to shew what's bright,
Nor to snow to teach you white.

Nor if you would Musicke heare,
Call the orbes to take your eare:
Nor to please your sence bring forth,
Bruised Nard or what's more worth.

Or on food were your thoughts plac'd,
Bring you Nectar, for a tast:
Would you have all these in one,
Name my mistris, and 'tis done.

内容・詩形・リズムの点で、ジョンソンのものより
ありきたり。



これは、ケアリの詩集(1640)に掲載されたが、
後にシャーリーが、「自分の作品なのに盗まれた」
といって、自分の詩集に載せ直した作品。
そのシャーリーの作品が次のもの。

---
James Shirley
"Song" ("Would you know what's soft?")

Would you know what's soft? I dare
Remit you to the down, or air:
The stars we all acknowledge bright,
The snow too is exceeding white:
To please your scent, 'twill not be hard
To present you bruised nard:
Ana would you heavenly music hear,
I'll call the orbs to take your ear,
If old Pythagoras sing true:
But ambrosia, heavenly dew
Divinely must affect your taste,
And nectar is your drink at last:
But would you have all these delights in one,
Know but the fair Odelia, and 'tis done.

ケアリのものと同様、内容・詩形・リズムの点で、
ジョンソンのものよりありきたり。



12行目までが各行8音節の典型的な歌(ストレス・ミーター)で、
最後の二行は弱弱強調の歌とも、語り(弱強五歩格)とも読める。
最後だけジョンソンの詩のようにゴージャスに歌ってもいいし、
語りにしてもいい。

(最後二行のビートは強勢の位置からはずれていて、
少し不自然だが特徴的なリズムをつくっている。)

* * *
サックリングによるパロディ。
その他のパロディ。

(つづく)

* * *
パウンドの『歌集』81歌(Canto LXXXI, 『ピサの歌集』
Pisan Cantosの一部)の「リブレット」のところにも
用いられている。いちばんいいところ、「君が心から
愛するものだけが残る、その他のものはゴミ」の直前の
あたり。

Yet
Ere the season died a-cold
Borne upon a zephyr's shoulder
I rose through the aureate sky

Lawes and Jenkyns guard thy rest
Dolmetsch ever be thy guest,

Has he tempered the viol's wood
To enforce both the grave and the acute?
Has he curved us the bowl of the lute?

Lawes and Jenkyns guard thy rest
Dolmetsch ever be thy guest

Hast 'ou fashioned so airy a mood
To draw up leaf from the root?
Hast 'ou found a cloud so light
As seemed neither mist nor shade?

Then resolve me, tell me aright
If Waller sang or Dowland played.

ウォーラーやローズ(Lawes)など17世紀の詩人・
音楽家の名前をあげつつ、詩のベースはジョンソンの
「カリス」4番、という。

* * *
英語テクストは、以下の資料より。

(ジョンソン)
http://www.luminarium.org/sevenlit/jonson/charis4.htm

(ケアリ)
Poems (1640, STC I: 4620)

(シャーリー)
The Dramatic Works and Poems of James Shirley,
vol. 4 (1833)

(パウンド)
Modern Verse in English, 1900-1950 (1958)
https://archive.org/details/modernverseineng00unse

* * *
20131124
20140103

* * *
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Pope, "Ode on Solitude"

アレグザンダー・ポウプ (1688-1744)
「オード--ひとりで--」

1
幸せな人--それは、受けついだ若干の土地をこえることを
願ったり、気にかけたりしない人。
生まれ育ったところ、自分の土地で暮らして、
楽しめる人。

2
家の牛たちがミルクを、畑がパンを、
羊たちが服を与えてくれるような人。
所有している森の木々が、夏には木陰を、
冬には薪を、与えてくれるような人。

3
本当に幸せな人--それは、特に心配ごとなどなく、
ゆっくり、静かに流れる時間、日々、年月を楽しめる人。
からだは健康で、心穏やかで、
日の光の下、隠すものもなく。

4
夜にはよく眠り、学びとくつろぎを
ともに楽しみ、楽しく遊ぶことができる人。
そして、心に罪のない人--思いをめぐらすとき、これがいちばん
うれしいことだから。

5
そのように生きたい、誰にも見られず、誰にも知られず。
そして、誰にも悲しまれることなく、死にたい。
この世からこっそり消えたい。どこで休んでいるかを告げる
石はいらないから。

* * *
Alexander Pope
"Ode on Solitude"

1
Happy the man, whose wish and care
A few paternal acres bound,
Content to breathe his native air
In his own ground.

2
Whose herds with milk, whose fields with bread,
Whose flocks supply him with attire,
Whose trees in summer yield him shade,
In winter fire.

3
Blest, who can unconcern'dly find
Hours, days, and years slide soft away,
In health of body, peace of mind,
Quiet by day;

4
Sound sleep by night; study and ease,
Together mix'd; sweet recreation;
And innocence, which most does please,
With meditation.

5
Thus let me live, unseen, unknown,
Thus unlamented let me die,
Steal from the world, and not a stone
Tell where I lie.

* * *
ポウプが12歳のときの作品。

マルティアリスのエピグラム10巻47番と
セネカの『テュエステス』2幕のセリフを
組みあわせたもの。

Martial, Epigrams X, 47
Seneca, Thyestes, act 2.

どちらも16世紀以来、多くの詩人たちが英語に
訳してきた。

マルティアリス10.47--
サリー伯(16c)、B・ジョンソン、ファンショー
(Richard Fanshawe, 17c)、フェントン(Elijah Fenton, 18c)

セネカ、『テュエステス』2幕--
ワイアット(16c)、ヘイウッド(Jasper Heywood, 16c)、
ヘイル(Matthew Hale, 17c, 有名な裁判官)、カウリー、
マーヴェル

Charles Tomlinson, ed., The Oxford Book of Verse in
English Translation (1980) が便利。

* * *
スタンザ1-2
念頭にあるのは、裕福な田舎の土地持ち紳士の生活。
(ポウプは商人の家の生まれ。)現実的な思考ではなく、
都市や宮廷に対して田舎の平穏なくらしを理想化して
賛美するギリシャ・ローマ古典以来の考え方にもとづく。

スタンザ3-4
幸せの概念が、土地、家畜など、スタンザ1-2の
物質的豊かさから、平穏なくらし、健康、心の平安、
活動と休息のバランス、善良さなど、抽象的で
道徳的なものへと移行。

スタンザ5
誰ともかかわらずに生き、そして死にたいという
希望の表明。ここに至って読者はタイトルを思い出す。
また、スタンザ1-4を読み直し、そこに描かれた
「幸せ」に、人との関わりが含まれていないことに
気づく。

* * *
何がいいたい?

古典的・教科書的な「幸せ」の概念は、
人との関わり・交わりを含まないという点で
不完全・不正確ということ?

あるいは/加えて、人との関わり・交わり
なくして生きることが(自分にとって)
本当の幸せ、ということ?

* * *
英語テクストはThe Poetical Works of
Alexander Pope, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/9413

* * *
20131005
20140103

* * *
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