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Marvell, "The Gallery"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「画廊」

I.
クローラ、来て、わたしの心を見て、それが
よくできているかどうか、聞かせてほしい。
それは、いくつかの部屋からなる
ひとつの画廊のよう。
いろいろな人が描かれた豪華な
アラス織の掛け物ははずしてあって、
そんな装飾のかわりに、
君の絵だけがわたしの心のなかにある。

II.
この絵の君は、冷酷な
殺人者のように描かれている。
わたしたちの心に対して、たくさんの
君の残酷な恋の道具を実験している。
それはまさに切れ味抜群、
暴君の秘密の部屋を飾る拷問道具以上のもの。
なかでも、もっとも強力に痛めつけるのが、
黒い瞳、赤い唇、そしてカールした髪。

III.
でも、裏の絵も見て。そこでは、君は
夜明けの女神アウローラのように描かれている。
東のほうでうとうと寝ていて、
乳白の太ももをまっすぐつき出している。
朝の合唱隊が歌い、
マナが降り、バラもはじけるように咲いている。
君の足下では、恋人同士の鳩が、
無垢な愛を成就している。

IV.
また別の絵では、君は魔法使いのよう。
君に恋した男の霊から安らぎを奪い、悩ませている。
そして、うす暗い明りの下、狂ったようにわめく、
彼の腹を開き、内臓を見ながら。
ぞっとするほど注意深く占っているのだ、
自分がいつまで美しくいられるのか。
そして(結果を見て)その内臓を投げ捨てる。
飢えたハゲタカたちの餌として。

V.
でも、その裏の絵では、君は
真珠貝の舟に乗って浮かぶウェヌスのよう。
まわりのものをすべて静まらせるカワセミたちが、
空と海のあいだを飛んでいる。
波がうねってやってくるのは、
竜涎香をたくさん運んでくるときだけ。
風が吹くのは、
そのいい香りを運ぶためだけ。

VI.
これらや、ほかにも
千もの君の絵が、わたしの心の画廊にある。
君が思いつき、演じるすべての姿を描く絵が。
わたしを幸せにしてくれる君も、わたしを苦しめる君も。
君はひとりなのに、わたしのなかにはたくさんの君がいて、
まるで、わたしのなかに君の植民地があるよう。
ホワイト・ホールやマントヴァ所蔵のものより、
ずっといいコレクションが、わたしのなかにあるよう。

VII.
でも、これらやほかのすべてのものより、
わたしは入口に飾ってある絵が好き。
その絵のなかで、君は同じポーズ、同じ表情を
してる。わたしの心を最初に奪ったときと。
やさしい羊飼いの少女、髪は
ゆるやかに、風にはためいていて。
緑の丘から花を摘んで、
頭に飾ったり、胸に抱いたりしていて。

* * *

Andrew Marvell
"The Gallery"

I.
Clora come view my Soul, and tell
Whether I have contriv'd it well.
Now all its several lodgings lye
Compos'd into one Gallery;
And the great Arras-hangings, made
Of various Faces, by are laid;
That, for all furniture, you'l find
Only your Picture in my Mind.
(1-8)

II.
Here Thou art painted in the Dress
Of an Inhumane Murtheress;
Examining upon our Hearts
Thy fertile Shop of cruel Arts:
Engines more keen than ever yet
Adorned Tyrants Cabinet;
Of which the most tormenting are
Black Eyes, red Lips, and curled Hair.
(9-16)

III.
But, on the other side, th' art drawn
Like to Aurora in the Dawn;
When in the East she slumb'ring lyes,
And stretches out her milky Thighs;
While all the morning Quire does sing,
And Manna falls, and Roses spring;
And, at thy Feet, the wooing Doves
Sit perfecting their harmless Loves.
(17-24)

IV.
Like an Enchantress here thou show'st,
Vexing thy restless Lover's Ghost;
And, by a Light obscure, dost rave
Over his Entrails, in the Cave;
Divining thence, with horrid Care,
How long thou shalt continue fair;
And (when inform'd) them throw'st away,
To be the greedy Vultur's prey.
(25-32)

V.
But, against that, thou sit'st a float
Like Venus in her pearly Boat.
The Halcyons, calming all that's nigh,
Betwixt the Air and Water fly.
Or, if some rowling Wave appears,
A Mass of Ambergris it bears.
Nor blows more Wind than what may well
Convoy the Perfume to the Smell.
(33-40)

VI.
These Pictures and a thousand more,
Of Thee, my Gallery dost store;
In all the Forms thou can'st invent
Either to please me, or torment:
For thou alone to people me,
Art grown a num'rous Colony;
And a Collection choicer far
Then or White-hall's, or Mantua's were.
(41-48)

VII.
But, of these Pictures and the rest,
That at the Entrance likes me best:
Where the same Posture, and the Look
Remains, with which I first was took.
A tender Shepherdess, whose Hair
Hangs loosely playing in the Air,
Transplanting Flow'rs from the green Hill,
To crown her Head, and Bosome fill.
(49-56)

* * *

3 lodgings
借りた部屋(OED 3a, 5b)。

7 furniture
掛け物、装飾用の織りもの、布地(OED 4d)。

9-24
表裏両面に、正反対のイメージで「君」の肖像画が
描かれている。

12 Shop
店にあるもの(OED 2c, 1906からの例しかないが)。

13 Engine
道具(OED 4)。戦いのための道具(OEd 5a)。
拷問道具(OED 5b)。

14 Cabinet
私室、寝室(OED 3)。
ギャラリー、美術館(のような部屋)(OED 4)。
宝物、秘密のものなどの入れもの(OED 5)。

20
(たぶん)夜明けの光がまっすぐさして来ているようす。

21 the morning Quire
(たぶん)鳥たち。

22-23
バラはアプロディーテー/ウェヌスの花。
鳩も彼女の鳥。

つまり、このスタンザの絵では、「君」が、夜明けの女神
アウローラと愛と美の女神アプロディーテー/ウェヌスを
重ねたようなイメージで描かれている、ということ。

24 Sit
なんらかの状態で、そのままで、いる(OED 7)。
鳥が止まっている、飛んでいない(OED 10a)。

24 perfect[ing]
成就する、達成する(OED 1)。
このOED 1にあるように、= consummate,
つまり、この鳩たちは、恋愛を成就する行為として
ことに及んでいる。

ちなみに、だんだん減ってきてはいたが、16-17世紀の
イギリスでは、最低限二人だけで誓いのことばをいい、
その後に行為に及べば、それは正式な結婚であった。
(聖職者たちはこのような結婚を批判し、教会での結婚を
推進していたが。)

シェイクスピアの『尺には尺を』、Ingram, Church Courts,
Sex and Marriage in England, 1570-1640
(1987) など参照。

25-40
ここでも表裏両面に、正反対のイメージで
「君」の肖像画が描かれている。

25-32
「君」を古代ギリシャの預言者として描いた絵の描写。
グロで恐ろしい絵。

古代ギリシャでは、いけにえの動物を殺し、開いて内臓の
ようすを見て、また焼いてその様子を見て、占いを
おこなった。John Potter, Archaeologia Graeca:
Or the Antiquities of Greece, new ed.
(1813), vol. 1, pp. 365-72.
http://books.google.co.jp/books?id=cIjUAAAAMAAJ

26
「君」に恋する男性をいけにえの動物のように殺し、
その死体を使って上記の占いをしているから。

28 Cave
空洞、空っぽの場所(OED 2)。ここではおなかのこと。

33-34
ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」など参照。


http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/botticelli/botticelli.venus.jpg

35 Halcyons
古代より、冬至の頃に海を静まらせ、そこに浮かぶ巣で
ヒナを育てるとされた鳥。ギリシャ神話のアルキュオーン。

38 Ambergris
アンバーグリス、竜涎香(りゅうぜんこう)(香料の原料)。


By Peter Kaminski
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambergris.jpg

これを扱っているこんな会社もある。
http://www.ambergris.co.nz/

40 the Perfume
ここでは竜涎香の香り。

43 invent
思いつく(OED 1)。あみ出す(OED 2a)。
フィクションとしてつくる(OED 2c)。

47-48
構文は、And [thou] were [= would be] a Collection
choicer far Then or White-hall's, or Mantua's.

48 White-hall
16-17世紀のイギリス王の宮殿。

48 Mantua
イタリアの地名。そこの公爵ゴンザーガ家は
芸術を擁護、推進していた(らしい)。

50 likes
・・・・・・を喜ばせる(OED v.1, 1)。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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Yeats, "After Long Silence"

ウィリアム・バトラー・イェイツ (1865-1939)
「長い沈黙の後」

長い沈黙の後、話そう--そう、
恋人たちがみな別れたり死んだりした後、
意地悪な明かりを鎖(とざ)して、
意地悪な夜に幕を引いて、
話そう、語ろう、
気高いことについて、芸術や歌について。
体の老い、それは知恵。若い頃には
愛しあい、そして無知だった。

*****
William Butler Yeats
"After Long Silence"

Speech after long silence; it is right,
All other lovers being estranged or dead,
Unfriendly lamplight hid under its shade,
The curtains drawn upon unfriendly night,
That we descant and yet again descant
Upon the supreme theme of Art and Song:
Bodily decrepitude is wisdom; young
We loved each other and were ignorant.

http://www.ota.ox.ac.uk/text/3019.html

*****
3 lamplight / shade
太陽/夜の闇のこと?

3-4
つまり、光も夜もありがたいものでなくなったときに、
ということ。光がありがたくない、というのは、
たとえば、年老いた姿を照らしてしまうから。

*****
20180923 修正

*****
必要以上に、というか、別に、芸術や歌や知恵が
美化されているわけではないところがポイント。

結局のところ、若くてバカで愛しあっていた頃の
楽しさ、よろこびに勝るものはない、という
(正面からは認められない、認めたくない)意識が
にじみ出ている感じ。

*****
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Marvell, "Soul and Body"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「魂とからだの会話」

(魂)
ああ、誰か、この牢獄からわたしを出して
くれないでしょうか。いろいろなかたちで自由を奪われているこの魂を。
わたしは、骨や足という足かせで
つなぎとめられていて、手という手錠でつながれています。
目という目隠しをされて、耳もいろいろな音が
聞こえることによって聞こえなくなっています。
わたしは、鎖に吊るされています。
神経、動脈、そして静脈という鎖に。
しかも、からだの各部に加え、
おろかな頭、偽りの心という拷問にもあえいでいるのです。

(からだ)
ああ、誰か、わたしをきれいさっぱり解放してくれないでしょうか。
魂という暴虐な支配者に拘束された状態から。
魂はわたしを立ったまま引きのばし、串刺しにして、
わたしはまるで自分を突き落す崖のようになっています。
この何の不自由もないからだを
魂は無理やりあたため、動かしています。ただの熱病と同じです。
その意地悪のはけ口がないから、
死なせるためにわたしを生かしているにすぎません。
このからだは完全に休息を奪われてしまっています。
病んでいて悪意ある魂にとりつかれてしまってから、ずっと。

(魂)
どんな魔法のために、わたしは閉じこめられて、
自分のものではない悲しみに苦しまなくてはならないのでしょう。
何についてであれ、からだが苦しみや不満を訴えるとき、
からだをもたず何も感じないはずのわたしも、なぜか痛みを感じます。
そして、なぜか一生懸命心を配って、
わたしを破壊するものを守ってしまいます。
病に、だけでなく、さらに悪いことに、
からだが治癒することにも耐えなくてはならないのです。
船が港に向かうように、よろこんで死に向かっているのですが、
その船が難破するかのように、また健康に陥ってしまうのです。

(からだ)
ただの薬では効きません、
あなた、魂がわたしに教えるような病には。
まず、希望という痙攣でわたしは引き裂かれ、
次に恐れという麻痺にふるえます。
愛という疫病に熱を出し、
憎しみという膿にむしばまれています。
よろこびという楽しげな狂気に心乱され、
また悲しみという別種の狂気にも悩まされているのです。
知識によって、そんなみずからの状態を思い知らされ、
記憶は、それを忘れさせてくれません。
魂以外のものに、そんな知恵はありません。
罪を犯す者としてわたしをつくりあげるような知恵は。
まるで、大工が森に生える緑の木から、
きれいな角材をつくるように。

* * *

Andrew Marvell
"A Dialogue between the Soul and Body"

Soul.
O Who shall, from this Dungeon, raise
A Soul inslav'd so many wayes?
With bolts of Bones, that fetter'd stands
In Feet; and manacled in Hands.
Here blinded with an Eye; and there
Deaf with the drumming of an Ear.
A Soul hung up, as 'twere, in Chains
Of Nerves, and Arteries, and Veins.
Tortur'd, besides each other part,
In a vain Head, and double Heart.
(1-10)

Body.
O who shall me deliver whole,
From bonds of this Tyrannic Soul?
Which, stretcht upright, impales me so,
That mine own Precipice I go;
And warms and moves this needless Frame:
(A Fever could but do the same.)
And, wanting where its spight to try,
Has made me live to let me dye.
A Body that could never rest,
Since this ill Spirit it possest.
(11-20)

Soul.
What Magick could me thus confine
Within anothers Grief to pine?
Where whatsoever it complain,
I feel, that cannot feel, the pain.
And all my Care its self employes,
That to preserve, which me destroys:
Constrain'd not only to indure
Diseases, but, whats worse, the Cure:
And ready oft the Port to gain,
Am Shipwrackt into Health again.
(21-30)

Body.
But Physick yet could never reach
The Maladies Thou me dost teach;
Whom first the Cramp of Hope does Tear:
And then the Palsie Shakes of Fear.
The Pestilence of Love does heat:
Or Hatred's hidden Ulcer eat.
Joy's chearful Madness does perplex:
Or Sorrow's other Madness vex.
Which Knowledge forces me to know;
And Memory will not foregoe.
What but a Soul could have the wit
To build me up for Sin so fit?
So Architects do square and hew,
Green Trees that in the Forest grew.
(31-44)

* * *

訳注と解釈例。

1 Dungeon
肉体のこと。

1 raise
生き返らせる、墓から出す(OED 3a)。

3-4
魂にとっては、肉体である足がそもそも足かせのようなもので、
また手がそもそも手錠のようなである、ということ。

3 bolt[s]
足かせ(OED 6)。

3 that
関係代名詞。先行詞は2行目の "A Soul".

構文は、A Soul that stands fetter'd
In Feet. "fetter'd In Feet" は分詞構文。
魂がstandsしているようすを説明。

5 blinded with an Eye
肉体的部品である目によって現世的なものが見えるから、
逆に精神的、霊的な(魂が本来求めているような)
ものが見えない、という逆説。

6 drum[ming]
太鼓のように鳴りひびく、反響する(OED 4)。

6 Deaf with the drumming of an Ear
肉体的部品である耳によってこの世の音、人の声などが
聞こえるから、逆に精神的、霊的な(魂が本来求めているような)
音や声が聞こえない、という逆説。

7-8
A Soulの後にbe動詞が省略されている。

10 vain
中身がない、空っぽ、というラテン語から来ている語(OED 語源)。
そこから、真の価値がない(OED 1)、知恵がない(OED 3)、
真の価値がないのにあると思っている、思いたがっている、
つまり、うぬぼれている、虚栄心が強い(OED 4)などの
意味が出てくる。

10 double
裏表がある、という意味で二重の(OED 5)。
ふたつの部分からなる(OED 1a)。ここでは、
心臓が左右にの心室、心房にわかれていること。

13-15
ゴロンと横になってグータラしていたい肉体を、
魂は無理やりしゃんと立たせて人間らしく生活させている、
というような内容。それを拷問の比喩で。

13 stretcht upright
[M]eにかかる分詞構文。このあたり、拷問の描写なので、
詳細は自粛。

(ギリシャやローマの神話、拷問など、あちらの人たちの残虐で
無駄な想像力の豊かさは何なのか・・・・・・。過去の日本に
ついても私が知らない、知りたくないだけ?)

17 where
場所(名詞、OED 14)。ここの構文は、
wanting where to try its spight.

22 anothers
= another's. このanotherとは、からだのこと。

23 complain
他動詞。・・・・・・について悲しむ(OED 1)。
・・・・・・について不満をいう(OED 7)。

23-30
魂にとって死はからだから解放されることであり、
望ましいことであるのだが、からだが病などで
苦しんでいるとき、魂は一生懸命その痛みを
取り除こうとしてしまい、からだからの解放を
みずから妨げてしまう、ということ。

25-26
構文は、all my Care employes its self
[in order] to preserve That which
destroys me.

32 Thou
魂のこと。

40 foregoe
=forgo

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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Yeats, "The Four Ages of Man"

ウィリアム・バトラー・イェイツ (1865-1939)
「人間の四つの時代」

人はからだと戦った。
からだが勝った。だからそれは立って歩く。

それから、彼は心と戦った。
汚れのなさと安らぎが去った。

それから、彼は思考と戦った。
そして、傲慢な心を彼は捨てた。

今、神との戦いがはじまる。
真夜中の一撃で神が勝つだろう。

* * *

William Butler Yeats
"The Four Ages of Man"

He with body waged a fight,
But body won; it walks upright.

Then he struggled with the heart;
Innocence and peace depart.

Then he struggled with the mind;
His proud heart he left behind.

Now his wars on God begin;
At stroke of midnight God shall win.

* * *

3 the heart
意志、欲望(OED7)。
感情の宿る場所としての心(OED 9a)。
愛情の宿る場所(OED 10a)。

5 the mind
意識、思考、意志の宿る場所としての心(OED 17a)。

7 God
日本人は、「仏」と読みかえてもいいと思う。

不信仰から信仰への移行を「戦い」とたとえるところが
キリスト教的。Church militantということばとか。

もちろん、この詩では、成長あるいは時間的変化の
すべての過程が、戦いという比喩で語られているわけだが。

よく知らないが、ほかの宗教はどうだろう。

* * *

まとめ。人間の四つの時代。

1
人(魂)は、みずから望んだわけではないが、
からだをもつことになった。

2
人は、みずから望んだわけではないが、
感情をもつようになり、邪悪なことを考えたり、
心を乱されたり、するようになった。

3
人は、みずから望んだわけではないが、
思慮をもつようになり、強い感情でも押し殺したり
無視したりできるようになった。

4
人は、みずから望んで、ではないが、
信仰をもつようになるだろう。

* * *

英文テクストはYeats, Collected Poems (1956) より。
http://www.ota.ox.ac.uk/text/3019.html

* * *

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Yeats, "The Mermaid"

ウィリアム・バトラー・イェイツ (1865-1939)
「人魚」

人魚は泳いでいる少年を見て、
つかまえて自分のものにした。
からだを彼のからだに押しつけ、
笑った。そして頭から海にもぐった。
残酷な幸せのなか、忘れてしまって。
恋する男でも溺れることを。

* * *

W. B. Yeats
"The Mermaid"

A mermaid found a swimming lad,
Picked him for her own,
Pressed her body to his body,
Laughed; and plunging down
Forgot in cruel happiness
That even lovers drown.

* * *

英文テクストはYeats, Collected Poems (1956) より。
http://www.ota.ox.ac.uk/text/3019.html

* * *

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Marvell, "The Fair Singer"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「美しく歌う、美しい人」

わたしを完全に征服するために、
愛はこのように美しい敵を用意してきた。
この敵のなかでは、ふたつの美がわたしの死をもくろみ、
不吉にも見事な調和のなか、共謀している。
つまり、彼女は、目でわたしの心をしばりあげ、
また、声でわたしの精神をとりこにする。

ひとつの点で美しいだけなら、逃げられたはず。
魂を振りほどくことができたであろう、
カールした彼女の髪の網の目を引きちぎって。
だが、どうして奴隷とならずにいられよう。
彼女は、人の理解を超えた見えない技で、わたしの吸う
空気から足かせを編みあげて、それでわたしをしばるのだから。

どこかの戦場で戦うほうがかんたんだ。
勝利の可能性が等しくあって。
だが、彼女にはどれだけ抵抗しても無駄だ。
目と声、というふたつの武器があるのだから。
わたしの軍の敗北は決まっている。
風と光が彼女の味方なのだ。

* * *

Andrew Marvell
"The Fair Singer"

I.
To make a final conquest of all me,
Love did compose so sweet an Enemy,
In whom both Beauties to my death agree,
Joyning themselves in fatal Harmony;
That while she with her Eyes my Heart does bind,
She with her Voice might captivate my Mind.

II.
I could have fled from One but singly fair:
My dis-intangled Soul it self might save,
Breaking the curled trammels of her hair.
But how should I avoid to be her Slave,
Whose subtile Art invisibly can wreath
My Fetters of the very Air I breath?

III.
It had been easie fighting in some plain,
Where Victory might hang in equal choice.
But all resistance against her is vain,
Who has th' advantage both of Eyes and Voice.
And all my Forces needs must be undone,
She having gained both the Wind and Sun.

* * *

訳注。

1-6
2行目のso と5行目のThatが対応している構文。

4 fatal
上の訳では、不吉な(OED 4)と訳しているが、
本来は、(わたしの)破滅や死をもたらすような(OED 6)。

11-12
振動する空気、つまり美しい声で、わたしをとりこにする、
ということ。

18 wind and sun
風は彼女の美しい声、太陽は彼女の美しい目の輝き。
実際の戦争においても、風上に、また太陽を背に
陣取ったほうが有利だった、ということに重ねた表現。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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Marvell, "The Mower to the Glo-Worms"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「草刈りの若者がホタルにいう」

命あるランプのような君たち、君たちの光のそばで
ナイチンゲールは、闇のなか、すわって、
夏の夜中にずっと、
誰もかなわないような歌を歌う。

田舎の彗星のような君たち、でも君たちは、
戦争や王様の死を予言したりしない。
ただ光って、
草刈りの季節が来たことを告げるだけ。

君たち、ホタルの光が、律儀にも、
さまよう草刈り人たちに道を照らしてくれる。
夜に道を見失って、
鬼火についていって、迷子になっているような人たちに。

でも、そんな親切な光も、もう無駄だ。
ジュリアーナに出会ってしまってからは。
あの子に心を奪われて、
ぼくはどこに帰ればいいかわからないのだから。

* * *

Andrew Marvell
"The Mower to the Glo-Worms"

I.
Ye living Lamps, by whose dear light
The Nightingale does sit so late,
And studying all the Summer-night,
Her matchless Songs does meditate;

II.
Ye Country Comets, that portend
No War, nor Princes funeral,
Shining unto no higher end
Then to presage the Grasses fall;

III.
Ye Glo-worms, whose officious Flame
To wandring Mowers shows the way,
That in the Night have lost their aim,
And after foolish Fires do stray;

IV.
Your courteous Lights in vain you wast,
Since Juliana here is come,
For She my Mind hath so displac'd
That I shall never find my home.

* * *

牧歌における羊飼いを草刈りの若者におきかえたもの。

* * *

タイトル Glo-Worms
Glow-worm

2 Nightingale
鳥の名。きれいな声で夜に(昼にも)鳴く。
ロングマン版全詩集(ed. N. Smith)の注によれば、
満たされない恋愛を象徴的にあらわす(Alpers,
What Is Pastoral? 56, n31参照)とのこと。

(テーレウスとピロメラの話は、ここでは
特に想起されていないよう。)

3-4
構文は、And [the nightingale], studying [. . .],
does meditate Her matchless Songs all the Summer-night,

3 studying
構文的には自動詞の分詞構文だが、意味的には
Her matchless Songsを目的語とする他動詞のような感じ。

(誰もかなわないような歌)を成し遂げようとする(OED 11)
(誰もかなわないような歌)のために頭を使う(OED 14)

4 meditate
心の中で考える(OED 2)。ただ、歌について使うときには、
実際に歌ったり、楽器を鳴らしたりすることをあらわすことが
多いように思う。ミルトンの『仮面劇』(『コウマス』)の
547行目など参照。

5 Comet[s]
彗星。迷信的に、不思議な災いや不幸の予兆とされた
(OED 1)。

8 the Grasses fall
= the Grasses' fall.

Fussell, Theory of Prosody in 18the Century England
の議論にしたがうなら(したがうべきと思う)、ロングマン版の
grass' は誤り。これでは一音節足りない。

(ジョンソンの頃には、そのような不規則もOKだったが、
17世紀が進むにつれて、音節数の統一についての意識が
高まっていった。)

ここでのgrassesは、干し草をつくるような草(OED 2c)。

ホタルが草が刈られることを告げる、というのは、
プリニウス曰く、ホタルがあらわれるころに
大麦などを刈り、そしてそこにキビなどを植えるから
(ロングマン板、p. 140の解説参照)。

15 displac[e]
(何かから)その場所を奪ってそこに入る、
占領する(OED 3b)。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

(.pdfを.htmlに変換した際のエラーと思われる
箇所だけ修正。sをfに。)

* * *

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Yeats, ("I thought no more was needed")

ウィリアム・バトラー・イェイツ
「歌」(それだけでいいと思っていた)

それだけでいいと思っていた。
若くいるためには、
ダンベルとフェンシングの剣があればいい、
それでからだを若くしていればいい、と。
思ってもみなかった、
心も年をとるなんて。

おしゃべりならできるが、
それだけでは女の人は満足しない。
あまりにきれいで気が遠くなる、なんてことがもうないから。
となりにいても。
思ってもみなかった、
心も年をとるなんて。

欲望がなくなったわけではない。
が、以前もっていたような熱い心が、
からだを焼き尽くすと思っていた。
死の床で。
思ってもみなかった、
心も年をとるなんて。

* * *

W. B. Yeats
"A Song" ("I thought no more was needed")

I thought no more was needed
Youth to prolong
Than dumb-bell and foil
To keep the body young.
Oh, who could have foretold
That the heart grows old?

Though I have many words,
What woman's satisfied,
I am no longer faint
Because at her side?
Oh, who could have foretold
That the heart grows old?

I have not lost desire
But the heart that I had,
I thought 'twould burn my body
Laid on the death-bed.
But who could have foretold
That the heart grows old?

* * *

英文テクストは、The Wild Swans at Cooleより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/32491

* * *

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Herrick, "To Daffadills"

ロバート・へリック (1591-1674)
「水仙たちに」

きれいな水仙たちよ、涙が出てくる、
君たちがすぐに去ってしまうから。
早起きの太陽が、まだ
一番高いところにのぼっていないのに。
待って、行かないで。
今日という日が急ぎ足で
進み、
せめて夕べの祈りの時間になるまで。
そうしたら、一緒にお祈りをして、
わたしたちも一緒に行くから。

わたしたちも少しのあいだしかここにいられない。君たちのように。
わたしたちの春も短い。
あっという間に育ち、老いて衰える。
君たちのように。すべてのもののように。
わたしたちは死ぬ。
君たちのように。そして乾いて、
消える。
夏の雨のように。
真珠のような朝露が
二度と見つからないように。

* * *

Robert Herrick
"To Daffadills"

Faire Daffadills, we weep to see
You haste away so soone:
As yet the early-rising Sun
Has not attain'd his Noone.
Stay, stay,
Untill the hasting day
Has run
But to the Even-song;
And, having pray'd together, we
Will goe with you along.

We have short time to stay, as you,
We have as short a Spring;
As quick a growth to meet Decay,
As you, or any thing.
We die,
As your hours doe, and drie
Away,
Like to the Summers raine;
Or as the pearles of Mornings dew
Ne'r to be found againe.

* * *

4 Noone
= noon. 頂点、一番高いところ(OED 5)。

5 Stay
前に進むのをやめる、止まる(OED 1)。
水仙に対してお願いしている。

* * *

命のはかなさを歌うへリックの「水仙」と、
よろこびや活力の源のようなものとしての自然を歌う
ワーズワースの「水仙」の違いはどこからくる?

そのあいだの150年ほどにあったのは、内乱
(いわゆる清教徒革命)、名誉革命、科学技術と
知識の発展と宗教の衰退(いわゆる啓蒙)、
海外への進出(帝国化)、産業革命など。

また、17世紀から19世紀にかけて、平均寿命は
どれくらい伸びたのか?

* * *

英文テクストはRobert Herrick, Hesperides
(1648, Wing H1595) より。

* * *

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Herrick, "Divination by a Daffadill"

ロバート・へリック (1591-1674)
「水仙で予言」

水仙が
こっちに頭を垂らしているのを見ると、
未来のわたしのようすがわかる気がする。
頭を垂らし、
死んで、
そして、土のなかで安らかに眠る。

* * *

Robert Herrick
"Divination by a Daffadill"

When a Daffadill I see,
Hanging down his head t'wards me;
Guesse I may, what I must be:
First, I shall decline my head;
Secondly, I shall be dead;
Lastly, safely buryed.

* * *

タイトル Daffadill
= daffodil. 16-17世紀のつづりのひとつ。

* * *

英文テクストはRobert Herrick, Hesperides
(1648, Wing H1595) より。

* * *

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Dryden, "Alexander's Feast"

ジョン・ドライデン (1631-1700)
「アレクサンドロス大王の宴」

I.
それは、フィリッポスの勇敢な息子アレクサンドロスの
ペルシア征服を祝う宴の席でのこと。
崇高、厳粛、かつ壮麗な姿で、
神とも見まごう英雄が
玉座に座していた。
貴族たちが彼をとり囲み、
彼らの頭にはバラとギンバイカの花冠があった。
(武勲にはそんな褒美がふさわしい。)
アレクサンドロスの隣には美しいタイースが、
東方の若き花嫁のように
若さと美しさにあふれて座っていた。
幸せな、幸せな、幸せな二人!
勇敢な者だけが、
勇敢な者だけが、
勇敢な者だけが、美しい女性にふさわしい。

(くりかえし)
勇敢な者だけが、
勇敢な者だけが、
勇敢な者だけが、美しい女性にふさわしい。

II.
高く座したティモテウスが、
合唱隊のなか、
羽のあるような指でリラをはじく。
ふるえ、ひびく音が空に昇り、
天にいるかのようなよろこびをみなに吹きこむ。
歌うのは、まず、ゼウスの話。
--ゼウスは天の玉座を離れ、
(偉大なる愛の力はかくも強いのです)
燃える大蛇の姿で神の身を隠し、
とがった炎のように、美しく、恐ろしく、空を駆けました。
彼は、美しいオリュンピアスのところへ突き進みます。
そして彼女の美しい胸を求め、
その細い腰にからみつき、
第二の自分、世界の支配者たる者を、彼女にはらませました--
聴く者たちは、高ぶる歌をほめたたえ、
叫ぶ--神の子アレクサンドロス!--
丸天井もこだまする--神の子アレクサンドロス!--
心を奪う歌、耳を襲う叫びを
王は聞き、
神を気どり、
うなづいて見せ、
まさに天をもゆさぶらんばかり。

(くりかえし)
心を奪う歌、耳を襲う叫びを
王は聞き、
神を気どり、
うなづいて見せ、
まさに天をもゆさぶらんばかり。

III.
つづいてバッカスを称えて、ティモテウスは高らかに歌った。
永遠に美しく、永遠に若いバッカスを称えて。
--楽しげな神の凱旋です、
ラッパを鳴らしましょう、太鼓をたたきましょう!
美しくも赤らんだ
立派なお顔で登場です。
オーボエを吹きましょう、バッカスのおでまし、おでましです!
永遠に美しく、永遠に若いバッカスが、
酒を飲んで楽しむよう定めてくれたのです。
バッカスの恵みは宝、
酒は戦士の楽しみ、
なんて豊かな宝物、
なんておいしくて楽しい、
仕事のあとの酒は、なんておいしくて楽しいのでしょう--

(くりかえし)
バッカスの恵みは宝です、
酒は戦士の楽しみです、
なんて豊かな宝物、
なんておいしくて楽しい、
仕事のあとの酒は、なんておいしくて楽しいのでしょう--

IV.
歌にのせられたアレクサンドロスは有頂天で、
これまでの戦いをみな戦い直した。
すべての敵を三回蹴散らし、殺した敵を三回殺す。
ティモテウスは、王が異常に興奮し、
頬を赤く染め、目をギラギラ燃えたたせ、
天や大地にすら戦いを挑んでいるのを見て、
歌を変えて高ぶる王を鎮めようとした。
悲しみの歌の女神にお願いし、
王にあわれみを注ぎこむ。
彼は歌う--偉大で善良なダレイオス王は、
残酷な運命により、
打たれて、打たれて、打たれて、倒れました。
王位から引きずりおろされ、
おのれの血の海のなかで身をよじらせます。
助けがいちばん必要な時に、
彼の恵みを受けてきた者たちにすら見捨てられ、
むき出しの大地に横たわって。
まぶたを閉じてくれる友すら、誰もいないのです--

よろこびを忘れたアレクサンドロスは、座って目を伏せた。
すっかり心は冷め、
偶然がこの世にもたらす栄枯に思いをはせる。
そして、時おり、こっそりため息をもらす。
そして、涙も流れ出す。

(くりかえし)
すっかり心は冷め、
偶然がこの世にもたらす栄枯盛衰に思いをはせる。
そして、時おり、こっそりため息をもらす。
そして、涙も流れ出す。

V.
これを見て、巨匠ティモテウスはほほえんだ。
--次は愛の歌にしよう。
同じ雰囲気の曲でいい、
あわれみにとけた心は、愛を求めるものだから--
やさしく、甘いリディアの音階で、
彼は、あっという間にアレクサンドロスの心を静め、よろこびで満たす。
ティモテウスは歌う--戦争はたんなる無益な労苦、
名誉もはかない泡のよう。
いつもかんたんにはじまり、けっして終わることがありません。
戦って戦って戦って、殺して殺して殺して、
本当に世界は勝ちとるに値するのでしょうか、
お考えを。そう、お考えを。むしろそれは楽しむべきでは?
となりにいるのはかわいいタイース、
神々の贈りものを楽しんではいかがでしょう--

空をつんざくかのように、みなの拍手が鳴りひびく。
こうして愛が王位につく。が、音楽こそ真の勝者。
恋の苦しみを隠せないアレクサンドロスは、
じっと見つめる、きれいなタイースを、
彼の苦しみの源、タイースを。
そしてため息をつき、見つめ、ため息をつき、見つめ、
ため息をついて、見つめて、また、ため息をつく。
そしてついに、愛とワインの力に押しつぶされて、
打ち負かされた勝者アレクサンドロスは、タイースの胸に落ちて沈む。

(くりかえし)
恋の苦しみを隠せないアレクサンドロスは、
じっと見つめる、きれいなタイースを、
彼の苦しみの源、タイースを。
そしてため息をつき、見つめ、ため息をつき、見つめ、
ため息をついて、見つめて、また、ため息をつく。
そしてついに、愛とワインの力に押しつぶされて、
打ち負かされた勝者アレクサンドロスは、タイースの胸に落ちて沈む。

VI.
さあ、ふたたび黄金のリラを鳴らそう、
もっと、もっともっと、音の大きな曲を。
アレクサンドロスを縛る眠りの鎖を断ち切って、
起こすのだ、ベルのような、雷のような、けたたましい音で。
聞け、見よ、棘のある恐ろしい音を聞き、
彼は頭をあげる、
死者の海から目ざめたかのように。
そして呆然とあたりを見まわす。
ティモテウスは叫び、歌う--復讐、復讐です!
復讐の女神たちが立ちあがります!
ヘビです! 髪のなかから身をもちあげ、
シューシューいっています!
目からは火花も飛んでいます!
見てください、亡霊たちです、
みな手にたいまつをもっています!
これはギリシャ人の亡霊、戦争で死に、
埋めてもらえず、
みじめに戦場に転がったままなのです。
さあ、復讐を、
これら勇者たちのために。
ご覧を、亡霊たちは頭の上でたいまつをゆらし、
ここペルシアの神殿、
敵たる神々の輝く神殿を指さしています!--
王侯たちは手をたたき、よろこびに狂ったかのよう。
アレクサンドロスもたいまつをつかみ、破壊に燃えたぎる。
タイースは先頭を行き、
明りで彼を獲物に導く。
そしてペルセポリスに火をつける、トロイを燃やしたヘレンのように。

(くりかえし)
アレクサンドロスはたいまつをつかみ、破壊に燃えたぎる。
タイースは先頭を行き、
明りで彼を獲物に導く。
そしてペルセポリスに火をつける、トロイを燃やしたヘレンのように。

VII.
かくして、遠い昔、
ふくらむふいごで空気を送る
パイプ・オルガンがつくられ、鳴り出す以前のこと、
ティモテウスは高らかなフルートと、
鳴りひびくリラで、
心に怒りを吹きこみ、また欲望に火をつけて戦いを忘れさせたりした。
その後、やがてあらわれたのが、聖なるセシリア、
音を出す機械、オルガンを発明したあのお方。
美しいセシリアは、神から霊感と知恵を授かり、
狭かったそれまでの音の世界を広げ、
聖なる音が長くつづくようにした、
母なる自然のくれた知識と、誰も知らなかった技術を用いて。
老いたティモテウスには勝利の座を明け渡させよう。
あるいは二人で栄冠をわかちあうようにしよう。
ティモテウスは人を天にも昇らせた、
が、セシリアは天使を地上に連れてきた。

(くりかえし--フィナーレ--)
その後、やがてあらわれたのが、聖なるセシリア、
音を出す機械、オルガンを発明したあのお方。
美しいセシリアは、神から霊感と知恵を授かり、
狭かったそれまでの音の世界を広げ、
聖なる音が長くつづくようにした、
母なる自然のくれた知識と、誰も知らなかった技術を用いて。
老いたティモテウスには勝利の座を明け渡させよう。
あるいは二人で栄冠をわかちあうようにしよう。
ティモテウスは人を天にも昇らせた、
が、セシリアは天使を地上に連れてきた。

* * *

John Dryden
"Alexander's Feast, or The Power of Musique:
An Ode, in Honour of St. Cecilia's Day"

I.
'Twas at the Royal Feast, for Persia won,
By Philip's Warlike Son:
Aloft in awful State
The God-like Heroe sate
On his Imperial Throne:
His valiant Peers were plac'd around;
Their Brows with Roses and with Myrtles bound.
(So shou'd Desert in Arms be Crown'd:)
The Lovely Thais by his side,
Sate like a blooming Eastern Bride
In Flow'r of Youth and Beauty's Pride.
Happy, happy, happy Pair!
None but the Brave
None but the Brave
None but the Brave deserves the Fair.
(1-15)

CHORUS.
Happy, happy, happy Pair!
None but the Brave,
None but the Brave
None but the Brave deserves the Fair.
(16-19)

II.
Timotheus plac'd on high
Amid the tuneful Quire,
With flying Fingers touch'd the Lyre:
The trembling Notes ascend the Sky,
And Heav'nly Joys inspire.
The Song began from Jove;
Who left his blissful Seats above,
(Such is the Pow'r of mighty Love.)
A Dragon's fiery Form bely'd the God:
Sublime on Radiant Spires He rode,
When He to fair Olympia press'd:
And while He sought her snowy Breast:
Then, round her slender Waist he curl'd,
And stamp'd an Image of himself, a Sov'raign of the World.
The list'ning Crowd admire the lofty Sound,
A present Deity, they shout around:
A present Deity the vaulted Roofs rebound.
With ravish'd Ears
The Monarch hears,
Assumes the God,
Affects to nod,
And seems to shake the Spheres.
(20-41)

CHORUS.
With ravish'd Ears
The Monarch hears,
Assumes the God,
Affects to nod,
And seems to shake the Spheres.
(42-46)

III.
The Praise of Bacchus then, the sweet Musician sung;
Of Bacchus ever Fair, and ever Young:
The jolly God in Triumph comes;
Sound the Trumpets; beat the Drums;
Flush'd with a purple Grace
He shews his honest Face,
Now gives the Hautboys breath; He comes, He comes.
Bacchus ever Fair and Young,
Drinking Joys did first ordain:
Bacchus Blessings are a Treasure;
Drinking is the Soldiers Pleasure;
Rich the Treasure;
Sweet the Pleasure;
Sweet is Pleasure after Pain.
(47-60)

CHORUS.
Bacchus Blessings are a Treasure;
Drinking is the Soldier's Pleasure;
Rich the Treasure,
Sweet the Pleasure;
Sweet is Pleasure after Pain.
(61-65)

IV.
Sooth'd with the Sound the King grew vain;
Fought all his Battails o'er again;
And thrice He routed all his Foes; and thrice he slew the slain.
The Master saw the Madness rise;
His glowing Cheeks, his ardent Eyes;
And while He Heav'n and Earth defy'd,
Chang'd his Hand, and check'd his Pride.
He chose a Mournful Muse
Soft Pity to infuse:
He sung Darius Great and Good,
By too severe a Fate,
Fallen, fallen, fallen, fallen,
Fallen from his high Estate
And weltring in his Blood:
Deserted at his utmost Need,
By those his former Bounty fed:
On the bare Earth expos'd He lies,
With not a Friend to close his Eyes.
(66-83)

With down-cast Looks the joyless Victor sate,
Revolving in his alter'd Soul
The various Turns of Chance below;
And, now and then, a Sigh he stole;
And Tears began to flow.
(84-88)

CHORUS.
Revolving in his alter'd Soul
The various Turns of Chance below;
And, now and then, a Sigh he stole;
And Tears began to flow.
(89-92)

V.
The Mighty Master smil'd to see
That Love was in the next Degree:
'Twas but a Kindred-Sound to move;
For Pity melts the Mind to Love.
Softly sweet, in Lydian Measures,
Soon he sooth'd his Soul to Pleasures.
War, he sung, is Toil and Trouble;
Honour but an empty Bubble.
Never ending, still beginning,
Fighting still, and still destroying,
If the World be worth thy Winning,
Think, O think, it worth Enjoying.
Lovely Thais sits besides thee,
Take the Good the Gods provide thee.
(93-106)

The Many rend the Skies, with loud Applause;
So Love was Crown'd, but Musique won the Cause.
The Prince, unable to conceal his Pain,
Gaz'd on the Fair
Who caus'd his Care,
And sigh'd and look'd, sigh'd and look'd,
Sigh'd and look'd, and sigh'd again:
At length, with Love and Wine at once oppress'd,
The vanquish'd Victor sunk upon her Breast.
(107-15)

CHORUS.
The Prince, unable to conceal his Pain,
Gaz'd on the Fair
Who caus'd his Care,
And sigh'd and look'd, sigh'd and look'd,
Sigh'd and look'd, and sigh'd again:
At length, with Love and Wine at once oppress'd,
The vanquish'd Victor sunk upon her Breast.
(116-22)

VI.
Now strike the Golden Lyre again:
A lowder yet, and yet a lowder Strain.
Break his Bands of Sleep asunder,
And rouze him, like a rattling Peal of Thunder.
Hark, hark, the horrid Sound
Has rais'd up his Head,
As awak'd from the Dead,
And amaz'd, he stares around.
Revenge, Revenge, Timotheus cries,
See the Furies arise!
See the Snakes that they rear,
How they hiss in their Hair,
And the Sparkles that flash from their Eyes!
Behold a ghastly Band,
Each a Torch in his Hand!
Those are Grecian Ghosts, that in Battail were slain,
And unbury'd remain
Inglorious on the Plain.
Give the Vengeance due
To the Valiant Crew.
Behold how they toss their Torches on high,
How they point to the Persian Abodes,
And glitt'ring Temples of their Hostile Gods!
The Princes applaud, with a furious Joy;
And the King seiz'd a Flambeau, with Zeal to destroy;
Thais led the Way,
To light him to his Prey,
And, like another Hellen, fir'd another Troy.
(123-50)

CHORUS.
And the King seiz'd a Flambeau, with Zeal to destroy;
Thais led the Way,
To light him to his Prey,
And, like another Hellen, fir'd another Troy.
(151-54)

VII.
Thus, long ago
'Ere heaving Bellows learn'd to blow,
While Organs yet were mute;
Timotheus, to his breathing Flute,
And sounding Lyre,
Cou'd swell the Soul to rage, or kindle soft Desire.
At last Divine Cecilia came,
Inventress of the Vocal Frame;
The sweet Enthusiast, from her Sacred Store,
Enlarg'd the former narrow Bounds,
And added Length to solemn Sounds,
With Nature's Mother-Wit, and Arts unknown before,
Let old Timotheus yield the Prize,
Or both divide the Crown;
He rais'd a Mortal to the Skies;
She drew an Angel down.
(155-70)

Grand CHORUS.
At last, Divine Cecilia came,
Inventress of the Vocal Frame;
The sweet Enthusiast, from her Sacred Store,
Enlarg'd the former narrow Bounds,
And added Length to solemn Sounds,
With Nature's Mother-Wit, and Arts unknown before.
Let old Timotheus yield the Prize,
Or both divide the Crown;
He rais'd a Mortal to the Skies;
She drew an Angel down.
(171-80)

* * *

まとめ。

I.
ペルシア征服を祝う宴の席における
アレクサンドロス大王と愛人タイースのようす。

II.
ティモテウスが、アレクサンドロスはゼウスの子、
という歌を歌い、他の者たちも彼を神の子と称え、
アレクサンドロスは有頂天。

III.
ティモテウスがワインの神バッカスを称える歌を歌う。

IV.
酒と歌に酔ったアレクサンドロスが、これまでの戦いを
思い返して再現し、そして異様に興奮してきたのを見て、
ティモテウスは、アレクサンドロスに敗れたダレイオス王の
悲しい死に際について歌う。すると大王もしんみりし、
この世のはかなさを思って涙を流す。

V.
しんみりしたアレクサンドロスに対して、ティモテウスは
愛の歌を歌う。ワインに酔っていることもあって、
これを聴いたアレクサンドロスは、愛人タイースの胸に
顔を沈める(?)。

VI.
眠りに落ちたアレクサンドロスに対して、ティモテウスは、
ペルシアに対する復讐を求めるギリシャ人の亡霊について
歌う。寝起きで、かつ酔っていたアレクサンドロスは、
そのように復讐すべく、たいまつをもってペルセポリスの
町に出る。が、先頭を行ったのはタイースのほうで、
彼女が町に火をつけて燃やす。

VII.
人の心をあやつった古代の音楽家ティモテウスは偉大だが、
神聖、荘厳、厳粛な音を出すパイプ・オルガンを発明した
聖セシリアはそれ以上に偉大、というかたちで彼女を称える。
(聖セシリア祭なので。)

* * *

訳注。

タイトル St. Cecilia's Day
11月22日。聖セシリアは古代ローマの殉教者で、
(教会)音楽の守護聖人。イギリスで、この日に
聖セシリアを記念する行事がおこなうようになったのは、
1683年から。この詩は、1697年の行事のために
ドライデンが提供し、曲つきで上演されたもの。


Guido Reni, "Saint Cecilia" (1606)
© 2012 The Norton Simon Foundation
http://www.nortonsimon.org/
http://www.nortonsimon.org/collections/
browse_title.php?id=F.1973.23.P


ハートフォードシアのある教会の窓
By Shaggy359
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Saint_Cecilia_Wymondley.jpg


ローマのある教会に置かれた遺体の像
By Richard Stracke
Photographed at the church of St. Cecilia, Trastevere
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:CeciliaMaderno.jpg

(これら聖セシリアの画像は、アレクサンドロス大王を
主題とするこのドライデンの詩にはあまり関係ない。
彼女は最後のスタンザにのみ登場。)

2 Philip's Warlike Son
アレクサンドロス大王のこと。

2 State
身分が高く、裕福である人にふさわしいような、豪華絢爛かつ
壮麗な衣服、建物、装飾品、従者たちなどのようす(OED 17a)。

3 Aloft
地上高く(OED 5)。
階級、権力、評価などの点で高く(OED 8)。

4 The God-like Heroe
アレクサンドロス大王のこと。

7 Roses
バラは、美と性愛の神アプロディテ/ウェヌスの花。
(http://www.theoi.com/Olympios/
AphroditeTreasures.htmlなど参照。)

8 Myrtles
ギンバイカ。これも、アプロディテ/ウェヌスの花(OED 2a)。

8 Crown
勝利や栄誉のあかしとして、また装飾として、
王冠、花冠で(人の)頭を飾る(OED, v.1, 1)。

9 Thais
アテナイの娼婦、アレクサンドロス大王の愛人。

12, 15
(でも、娼婦で愛人だし・・・・・・。)

(15-16のあいだの)CHORUS
歌のくり返しの部分で、オーディエンスもいっしょに
歌ったりするところ。

20 Timotheus
古代ギリシャのアウロス(aulos)奏者で、
アレクサンドロス大王の結婚式に参列した人。
あるいはバッカスを称える歌を歌う詩人、作曲家にして
リラ(竪琴)奏者。いろいろ混乱したかたちで
彼にまつわるエピソードが伝えられていた。

アウロスは、オーボエ系の楽器。

http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Banquet_Euaion_Louvre_G467.jpg

Rossettiのこれなども参照。
http://www.rossettiarchive.org/docs/s459.rap.html

26-33
この部分がティモテウスの歌った内容。

26 seats
王や神の玉座(OED 8a)。住みか(OED III)。

28 Dragon
大きなヘビ(OED 1)。

29 Sublime
高貴、偉大で、常人を超えている(OED 5)。
美しさ、大きさ、強さなどで畏怖の念を抱かせる(OED 7)。

29 Spires
伸びてとがった炎の先(OED 5)。

33
オリュンピアスにアレクサンドロス大王をはらませた、
ということ。

35-36 A present Deity
アレクサンドロス大王のこと。

37 ravish
レイプする(OED 2b)。心を奪う(OED 3c)。

40
ギリシャ神話では、ゼウスがうなずいたこと、是認したことは、
必ず実現する、ということになっている。

47 Bacchus
ギリシャ/ローマ神話におけるワインの神。

47 sung
= sang

49 the jolly God
バッカスのこと。

51 purple
中世には赤をさすことばだった(OED a. and n., B1b)。
ここでは、赤ワインやブドウの色のこと。

52 honest
栄誉ある、ご立派な(OED, a. 1a, 1c, )

53 Hautboy[s]
オーボエ。

54-55
構文は、Bacchus ever Fair and Young
did first ordain Drinking Joys.

56 Bacchus
Bacchus' = Bacchus's

56-60
[T]reasure, pleasure, sweetなど、同じ言葉が
くり返されていることと、Rich [is] the Treasure
などのように、構文が簡略化されていることがポイント。
酔っている人の話は、たいていこんな感じ。

66 Sooth'd
Sooth = おだてる(OED 5a)。落ち着かせる(OED 7a)。

66 Sound
音楽、メロディ(OED 1b)。

67 thrice
古代ギリシャ、ローマ以来、叙事詩では何でも「三回」というのが
定番。

例:
ホメーロス、『オデュッセイア』では、冥界に行ったオデュッセウスが、
そこで母を抱きしめようとして逃げられること三回。

ウェルギリウス、『アエネイス』では、アエネイスに捨てられて、
自分の胸に剣を指したディドーが死に際に立ちあがり、
そして崩れ落ちること三回。

ミルトン、『失われた楽園』では、自分とともに地獄に落とされた
天使たちを前に、演説しようとするサタンが、思わず涙にむせび、
ことばを詰まらせること三回。

69 Madness
異常な興奮状態(OED 4)。

72 Hand
芸術などにおける作品のスタイル(OED 13)。

73 Muse
古代ギリシャの詩や音楽の女神たち(九人姉妹)。
詩や音楽とは、この女神(たち)が詩人にのりうつって
歌わせたもの。だから "music".

75 Darius
アケメネス朝最後の王。アレクサンドロス大王に敗れた。

ちなみに、名誉革命(1688-9年)直後のイギリスにおいては、
人々の支持を失い国を去ったジェイムズ二世をダレイオスに、
またオランダから迎えられたウィリアム三世をアレクサンドロスに、
なぞらえることが定番だった。

87 stole
Steal: こっそり、気づかれずに、・・・・・・をする(OED 5a)。

94 Degree
階段、はしごの段(OED 1a)。音階(OED 11a-b)。

95 move
動かしつづける(OED 2b)。
(音を)出す(OED 4)。

95 Sound
音楽、メロディ(OED 1b)。

97 Measures
曲、メロディ (OED 17)。
音階(OED 18c)。リディアの音階はやさしく繊細。
FGABCDEファソラシドレミ。

108 Love was Crown'd
愛の神エロス/クピドに王冠が与えられる。
(Loveを愛の神として擬人化して直訳すれば。)

108 Cause
(法廷における)主張、起訴事実、裁判(OED 8)。

109 The Prince
アレクサンドロスのこと。Princeとは
君主、王、ひとりによる支配における支配者(OED 1)。

111 Care
心の苦しみ(OED 1)。

124 Strain
メロディ、曲(OED 13a)。

125 Bands
(比喩的に、拘束するものとしての)「鎖」(OED 7)。
(本当の鎖ではなく。)

126 rattling
Rattle: 連続する、短く鋭い音を出す(OED 1)。

126 Peal
(もともとは)大きなベルの音(OED 2-3)。
(派生して)大きく反響する音(OED 6)。

127 horrid
棘のある、けばだっている(OED 1)。
恐ろしい(OED 2)。

129 from the Dead
死者たちのあいだから。死から。(OED [a., n.1, adv.] B, 1c)。

132 the Furies
復讐の女神。髪にヘビがからまっている(OED 5)。


http://collection.chrysler.org/emuseum/view/
objects/asitem/search$0040/4/title-asc?t:
state:flow=1ab95c78-3b8f-403a-98b0-1cb9d1f79a94


http://www.theoi.com/Gallery/T40.1.html

136-45
ペルシアとの戦いで死んだギリシャ人の亡霊が、
復讐を求めてアレクサンドロスに訴えている
(という歌をティモテウスが歌っている)。

(歌自体は131行目からはじまっている。)

144 abodes
住んでいるところ。次の行のglittering templesと同格で、
ペルシアの(ギリシャの神々に敵対する)神々の住んでいる神殿のこと。

150
プルタルコスなどによれば、ペルセポリスに火をつけたのは
アレクサンドロスのほう。(タイースにせがまれて。)

ヘレンは、トロイ戦争の原因となった美女。ゼウスとレダの
あいだに生まれた女性。

156 bellows
パイプ・オルガンのふいご、送風器。


左の人が押したりしているのがbellows.
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:OrganumFollis.jpg

158 flute
ここでは、53行目のHautboy[s]と同じものを指している?

なお、今のフルート(German flute)とは違い、古代のものには
マウスピースがあった。


http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Satyr_playing_flute_Louvre_MR187.jpg

160 soft
女性的な、男らしくない(OED 15b)。古典的な性差意識に
基づいて。たとえば、猛々しく戦うことが男らしいこと。

162 the Vocal Frame
ここでは(パイプ・)オルガンのこと。俗信で、聖セシリアはこれを
発明したとされていた。上のステンドグラスの画像も参照。

163 Enthusiast
神がのりうつった人、神によって霊感を与えられた人(OED 1)。

163 Store
蓄えたもの、宝、資源(OED 7a, c)。

165 solemn
宗教的儀礼に関連する、聖なる(OED 1)。

166 wit
知識、与えられた情報(OED 11a, c)。

170
セシリアとその夫との間のエピソードを参照。

(1)
セシリアはクリスチャンではなかった夫に、天使がわたしを守ってるの、
といって、からだを拒む。

(2)
夫はいう、その天使を見せてくれたら信じるよ。

(3)
セシリアがいう、では、洗礼を受けてクリスチャンになって。

(4)
夫がいわれる通り洗礼を受けて帰ってくると、
二人のところに天使が花冠をもってきた・・・・・・。

* * *

イギリスにおけるピンダロス風オード(不規則なもの)の
最高傑作とされる(されていた)作品。

18世紀に特に評価が高く、ヘンデルも曲をつけている。
(ヘンデルの友人のある詩人がこの詩を少し編集したものに。)
次のCDなどでどうぞ。

ヘンデル、「オラトリオ--アレクサンダーの饗宴--」
(日本フォノグラム, 1988)

ヘンデル、「オラトリオ--アレクサンダーの饗宴--」
(ポリグラム、1991)

* * *

参考までに。

海老澤豊『頌歌の詩神--英国十八世紀中葉のオードを読む--』
(2010年)

同著者によるオード関係の論文一覧。
http://ci.nii.ac.jp/search?q=%E6%B5%B7%E8%80%81%E6%BE%
A4%E8%B1%8A+%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%89&range=0&count=200&
sortorder=1&type=0

学生の方も、そうでない方も、少しでも関心のあることがあれば、
CiNiiとILL(図書館間の相互協力)を使ってリサーチしてみてください。

* * *

英文テクストは、Dryden, Fables Ancient and
Modern (1700) より。EEBO (Wing D2278) の.htm版を
使っているので、イタリック体は落ちている。
また、タイトルのパンクチュエーションなど、
一部修正を加えている。

* * *

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詩人のことば(5)--へリック、『ヘスペリスの園』より--

詩人の言葉(5)
へリック、『ヘスペリスの園』より

心配ごとは、ひとつ去れば、また新しいものがあらわれる。
このように苦しみが苦しみにつづく。波が波につづくように。
When one is past, another care we have,
Thus Woe succeeds a Woe; as wave a Wave.


昼間、わたしたちはみなこの世界にいる。が、夜には放りこまれる、
夢により、ひとりずつ、ひとりひとりの世界に。
Here we are all, by day; By night w'are hurl'd
By dreames, each one, into a sev'rall world.


ほしいものがあったら、恥ずかしがってはダメ。
求めることを恐れる人は、断ってほしいといってるようなもの。
To get thine ends, lay bashfulnesse aside;
Who feares to aske, doth teach to be deny'd.


からだにとっての塩、それが魂。もし、それがなければ、
肉体はすぐに腐ってにおうようになる。
The body's salt, the soule is; which when gon,
The flesh soone sucks in putrifaction.

* * *

英文テクストはRobert Herrick, Hesperides (1648, Wing H1595) より。

* * *

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詩人のことば(3)--ドライデン、『アブサロムとアキトフェル』より--

詩人のことば(3)
ドライデン、『アブサロムとアキトフェル』より

バカは、征服するより説得するほうが簡単だ。
Fools are more hard to conquer than perswade. (125)

大きな知性は狂気と近い血縁にあって、
その境界は紙一重。
Great Wits are sure to Madness neer ally'd;
And thin Partitions do their Bounds divide. (163-64)

政治家は愛さないし、憎まない。
. . . Polititians neither love nor hate. (223)

支配に対する欲望は、神々しい罪だ。
Desire of Greatness is a Godlike sin. (372)

もっとも不平をいわない者こそ復讐をたくらんでいる。
He meditates revenge who least complains. (446)

若くて美しく、立ちふるまいの優雅な人は、ほとんど常に勝利する。
Youth, Beauty, Gracefull Action, seldom fail. (723)

神の意に沿うこと、人々の苦しみを解消する政策、
と聞けば、人はいつもよろこび、そしていつもだまされる。
Religion, and Redress of Grievances,
Two names, that always cheat and always please. . . . (747-48)

国民の判断が正しいとはかぎらない。
一部の少数派と同様、多数派がとんでもないあやまちを犯すことがある。
Nor is the Peoples Judgment always true:
The most may err as grosly as the few. (782-83)

人々にまつりあげられ、政治家たちに利用される英雄は、
ただのバカで、国のためになったことなど一度もない。
The Peoples Brave, the Politicians Tool;
Never was Patriot yet, but was a Fool. (967-68)

* * *

政治的な風刺詩。

* * *

英文テクストは Johhn Dryden, Absalom and Achitophel:
A Poem (1681) (Wing D2214) より。スペリングもすべてママ。
行数は、ロングマンの全詩集から。

* * *

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Dryden, from "To the Lady Anne Killigrew"

ジョン・ドライデン (1631-1700)
「完璧なる若き貴婦人、アン・キリグルー様の思い出に」より

ああ、恵み深き神よ! いかにわたしたちは
詩というあなたからの聖なる贈りものを汚してきたのでしょうか?
詩神にどれほどみだらなことをさせたり、悪に溺れたりさせてきたのでしょうか?
詩神を卑しめ、あらゆるいやらしいこと、不敬なことをさせて?
その美しい歌は、もともと天上のもの、
天使たちが歌うもの、愛をたたえるためのものとされていたのに?

* * *

John Dryden
From "To the Pious Memory Of the Accomplisht
Young Lady Mrs. Anne Killigrew"

O Gracious God! How far have we
Prophan'd thy Heav'nly Gift of Poesy?
Made prostitute and profligate the Muse,
Debas'd to each obscene and impious use,
Whose Harmony was first ordain'd Above
For Tongues of Angels, and for Hymns of Love?
(56-61)

* * *

文学史の本などでは見えてこないドライデンの一面。
(もちろん、誰のものであれ、書かれた言葉をうのみにはできないが。)

* * *

訳注。

58
構文は、[How far have we] Made the Muse
prostitute and profligate?

構文的には、prostituteとprofligateを形容詞として
見るとすっきりする。(上の訳でもそのように。)

が、それぞれを動詞として見たほうが、より内容に幅が出る。
どちらも他動詞だが、目的語なしで漠然と用いられているものとして。

Prostitute: (自分を)いけない性行為のためにさし出す。
Profligate: (相手を)戦闘において打ち破る。

つまり、恋愛詩や英雄詩を詩神に歌わせるのは
正しくない、ということ。(これは、ドライデンが
他のところで書いていることともだいたい合致。)

59
58のthe Museを後ろから説明。

60
Whoseの先行詞もthe Muse.

61 Love
(文脈から見て)いわゆる恋愛(地上的な、人間的なもの)ではなく、
(被造物に対する)神の愛のようなもの。

* * *

英文テクストは、Examen Poeticum (1693, Wing D2277) より。

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詩人のことば(4)--ドライデン、『オーレン・ジーブ』より--

詩人のことば(4)
ドライデン、『オーレン・ジーブ』、「献呈のことば」より

わたしは人間なので、いつも同じではいられません。・・・・・・悪い夢、曇りの日などによって、人という哀れな生きものの気分は変わり、昨日考えもしなかったことを考えるようになります。理性的な思考をもつ、とあれほどいばっているわけですが。

As I am a Man, I must be changeable. . . . An ill Dream, or a Cloudy day, has power to change this wretched Creature, who is so proud of a reasonable Soul, and make him think what he thought not yesterday.

* * *

テクストは、Aureng-Zebe (1676, Wing D2245) より。

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