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Keats, ("In drear-nighted December")

ジョン・キーツ (1795-1821)
(「わびしく、夜のように暗い十二月」)

I.
わびしく、夜のように暗い十二月の
幸せな木、幸せすぎる木よ。
おまえの枝はけっして覚えていない、
緑色だったころの幸せを。
それらは枯れて落ちない、
みぞれまじりの北風が音を立てて通りすぎても。
雪どけ水はまた凍り、おまえの枝も固まって、
春に芽を出すことなど思い出さない。

II.
わびしく、夜のように暗い十二月の
幸せな川、幸せすぎる川よ。
おまえに浮かぶ泡はけっして覚えていない。
夏のアポローンのまなざしを。
心地よい忘却のなか、それらは水晶のように凍り、
過去についてなどくよくよしない。
けっして、絶対に、文句をいわない、
凍える季節に対して。

III.
ああ、そうだったらいいのに、
心やさしい女の子や男の子、みんなにとって。
だが、そんな人はいただろうか?
過ぎ去った幸せに、身をよじるほどの痛みを感じない人は?
その痛みを感じないという感じ、
それをいやすものはなく、
鉄のように感覚を麻痺させることもできない、
そんな痛みを感じないという感覚を、歌った人はいない。

* * *
John Keats
("In drear-nighted December")

I.
In drear-nighted December,
Too happy, happy tree,
Thy branches ne'er remember
Their green felicity:
The north cannot undo them,
With a sleety whistle through them;
Nor frozen thawings glue them
From budding at the prime.

II.
In drear-nighted December,
Too happy, happy brook,
Thy bubblings ne'er remember
Apollo's summer look;
But with a sweet forgetting,
They stay their crystal fretting,
Never, never petting
About the frozen time.

III.
Ah! would 'twere so with many
A gentle girl and boy!
But were there ever any
Writh'd not of passed joy?
The feel of not to feel it,
When there is none to heal it,
Nor numbed sense to steel it,
Was never said in rhyme.

* * *
以下、訳注と解釈例。

5 undo
多義的な表現。(下のgentleも参照)。
服を脱がす(OED 3b)、元に戻す(OED 7a, 7b)、
破壊する(OED 8)。

7 Nor
= Or (OED 4)。

8 From
なんらかの状態、状況、行為が奪われること、そこから
切り離されること、解放されることをあらわす(OED 6b)。
"Prevent (人/もの) from -ing" といういい方などのfrom.

8 budding
芽を出すこと。過去のものか、これからのものか、あいまい。

8 prime
春(OED 7)。

12 Apollo's summer look
Apolloはギリシャ神話の太陽神アポローン。太陽のこと。
そのsummer lookとは、夏の太陽の光。

14 stay
止める(OED III)。

15 crystal
川の水が水晶のように透きとおり、また水晶のように
凍っているようすをあらわす。

18 gentle
やわらかい、しなやかな(木の枝; OED 5)--第1スタンザにつながる。
静かに流れる(川; OED 6b)--第2スタンザにつながる。
もともと「高貴な生まれの」という意味の言葉だが、ここでは
この意味は無関係。

24
つまり、そのようなもの(過ぎ去った幸せを思い出して
苦しまない、ということ)はありえない、ということ。

* * *
全体の要約:

I.
枯れてしまった冬の木は、夏、緑色に生い茂っていたときのことを
覚えていない。

II.
凍った冬の川は、夏、太陽に照らされて流れていたときのことを
覚えていない。

III.
しかし、幸せを失った人は、幸せだったときのことを忘れられない。

* * *

By Stanley Howe
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Frozen_river_bank_-_geograph.org.uk_-_1640260.jpg

* * *
この詩のポイントは、第1-2スタンザで、過去の幸せを覚えていない
木や川を「幸せすぎる!」といっているが、本当にそれは幸せか?
という疑問が残ること。

満たされていない状態にあって、満たされていた過去を
思い出すことはつらいことかもしれないが、満たされていない状態のなか、
凍った木の枝や川のように心を凍らせてしまうというのは、どうなのか?

鉄のように心を麻痺させて生きるということは可能か?
可能であったとしても、それは幸せなことか?

("[D]rear-nighted December" というフレーズから、
答えはノーであることが明らか。)

このような、ものごとを両面からみるような思考のスタイルが、
「ギリシャ壺」や「ナイチンゲール」に引きつがれることになる。

「ギリシャ壺」
古代の壺に描かれた永遠と、いずれ老いて滅びる人間の世界、
どっちが幸せ?

「ナイチンゲール」
酒、アヘン、芸術などによる陶酔とシラフの状態、
どっちが幸せ?

* * *
リズムと形式について。



リズムはストレス・ミーター(四拍子)。各行とも、ビート三つに
言葉がのっている。脚韻パターンはababcccdで、aとcのところは
女性韻、またdのところは三スタンザ共通(prime/time/rhyme)。

---
ふつうの脚韻(男性韻):
行末の母音(+子音)が同じ音。この母音にはストレスあり。

女性韻:
行末の母音(+子音)+母音(+子音)が同じ音。
最初の母音にはストレスあり、あとのものにはストレスなし。
Dec-ember/rem-emberとか、und-o them/thr-ough themとか。
---

この詩形/リズムは、Drydenの劇 The Spanish Fryar
挿入された歌("Farewell ungratefull Traytor")から借りたもの。
(このドライデンの詩は、20111210の記事に。)

* * *
英文テクストは、Project Gutenberg Consortia Centerのもの。
http://ebooks.gutenberg.us/Alex_Collection/
keats-stanzas-503.htm

* * *
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浜松市楽器博物館

浜松市楽器博物館(静岡)
Hamamatsu Museum of Musical Instruments
http://www.gakkihaku.jp/
20111109

ラナート(タイ)


エチオピアの楽器


弦楽器


管楽器


チェンバロ


ダルシマー


* * *

ダルシマーを弾く少女の
幻を見たことがある。
あれはアビシニアの子。
ダルシマーを弾き、
アボラの山を歌いつつ・・・・・・。

A damsel with a dulcimer
In a vision once I saw:
It was an Abyssinian maid,
And on her dulcimer she played,
Singing of Mount Abora.
(Samuel Taylor Coleridge, "Kubla Khan," ll. 37-41)



(Bのところで軽く拍子を。ストレス・ミーターですが、
バラッド的で素朴な雰囲気ではなく、内容ともあいまって
異国的で神秘的な香りがただようリズムになっています。)

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Samuel Taylor Coleridge
、vol. 1, 1912より。
http://www.gutenberg.org/files/29090/
29090-h/29090-h.htm

* * *

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国立民族学博物館

国立民族学博物館(大阪)
National Museum of Ethnology, Osaka, Japan
http://www.minpaku.ac.jp/
20101010

農作業の道具1


農作業の道具2


漁のための舟


少し前の日本の家


衣服


装飾品


楽器

(ジャワ島あたりのもの?)

記載がないものについては、どこの国のものか不明。
(メモなどをとってきていません。)

* * *

歴史的に見て、また世界的に見て、現在の日本の
(特に都市部の)暮らしがあたりまえのものでは
ないことを感じるための場所。

* * *

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Keats, "To Autumn" (3)

ジョン・キーツ (1795-1821)
「秋に」 (3)

〈春〉の歌はどこにある?そう、それはどこへ行った?
いや、忘れよう。君には君の音楽がある。
雲を通る夕日の筋が、静かに死にゆく一日に花を添え、
刈り株の広がる畑をバラ色に染める。
そんなとき、小さなブユの悲しげな合唱団が、歌い、嘆く--
川辺の柳のあいだで、高く飛び、
あるいは低く沈みつつ--穏やかな風が生まれ、死ぬのにあわせて。
丸々育った子羊の大きな鳴き声が丘のほうから聞こえ、
垣根の下でコオロギが歌う。今、やさしい高音にのって
コマドリの口笛が庭の畑から聞こえてくる。
空に集うツバメも軽やかに鳴いている。
(23-33)

* * *

John Keats
"To Autumn" (3)

Where are the songs of Spring? Ay, where are they?
Think not of them, thou hast thy music too,―
While barred clouds bloom the soft-dying day,
And touch the stubble-plains with rosy hue;
Then in a wailful choir the small gnats mourn
Among the river sallows, borne aloft
Or sinking as the light wind lives or dies;
And full-grown lambs loud bleat from hilly bourn;
Hedge-crickets sing; and now with treble soft
The red-breast whistles from a garden-croft;
And gathering swallows twitter in the skies.
(23-33)

* * *

訳注と解釈例。

25-
引きつづき、君=擬人化された〈秋〉への呼びかけからはじまる。

25 barred clouds
雲のあいだから差す光が棒状になっていて・・・・・・などという
説明より、画像のほうがわかりやすい。


By Spiralz
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Crepuscular_rays_with_clouds_and_high_contrast_fg_FL.jpg


By Fir0002/Flagstaffotos
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Crepuscular_ray_sunset_from_telstra_tower.jpg
次のライセンスにて。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Commons:
GNU_Free_Documentation_License_1.2

ただの秋の夕暮れの風景と見てもいいが、おそらく、
「ヤコブのはしご」的なイメージとして用いられているのかと。
つまり、ここを死者が天に昇っていく・・・・・・というような。
(実際の聖書中の「ヤコブのはしご」を昇り降りするのは天使。)

25 the soft-dying day
今日が「静かに死んでいく」・・・・・・もちろん、夕暮れのこと。
あえてdyingということばを使っているところがポイント。
他の描写も死の暗示として読め、というサイン。

26 stubble-plains
刈り株の広がる平らな土地(畑)

By Andrew Smith
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Farmland,_Lockinge_-_geograph.org.uk_-_938209.jpg

ただの秋の夕暮れの風景と見てもいいが、おそらく聖書における
「刈り株」stubbleの比喩を思い出すべき。

---
神の怒りがエジプト人を刈り株のように焼き尽くした。
(出エジプト記15:7)

悪人が風の前の刈り株のように吹き飛ばされることがあるか。
(ヨブ記21:18)

あなた(神)の敵を、風の前の刈り株のようにしてください。
(詩篇83:13)

地上の王たちは、刈り株のようにつむじ風に巻きこまれて消える。
(イザヤ記41:24)

見よ、占星術師(?)は刈り株のように炎に焼き尽くされる。
(イザヤ記47:14)
---

また、「刈り株」は第二スタンザの「鎌hookで刈りとる」という
イメージにもつながる。つまり、鎌で麦などを刈りとる ≒ 死神が
鎌で人間を刈りとる。


http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Drick_ur_ditt_glas.jpg
18世紀のものとのこと。

26 rosy
夕陽の色、炎の色(上記、聖書からの引用参照)、血の色・・・・・・。

29 the light wind lives or dies
風が生まれたり死んだり・・・・・・もちろん、風が吹いたりやんだり、
ということ。25行目と同様、あえてdieということばを使っているところが
ポイント。他の描写も死の暗示として読め、というサイン。

30 full-grown lambs
丸々太った子羊は・・・・・・もちろん、殺されて食卓へ。
加えて、子羊 = 神の子羊 = イエス・キリスト = 殺される。

33 swallows
集まったツバメはどこかに行ってしまう(渡り鳥だから)、
というところがポイント。

(また追記します。コオロギ、コマドリにも死のイメージが。)

* * *

以上、この最終スタンザは、表面的に秋の風景や音を描きつつ、
その裏で一貫して、執拗なまでに、暗示的なことばで「死」を描く。
死について、語らずに語る。

そもそも秋とはどんな季節?--恵みの季節、
収穫の季節であると同時に、冬の直前。

その冬とは、花が散り、草木が枯れ、虫たちが死に、動物も眠り、
あたり一面が雪に覆われたりもする、いわば死の季節。

この詩は、そんな冬=死の直前の風景/心象風景を描く。

そして、特に印象的なのは、一貫して象徴的な言葉を
用いているため、死に関する叙情性/感傷性がまったく、
あるいは必要以上に、感じられないこと。

下記のように、死とは、キーツ本人にとってもっとも身近な
ものであったはずなのに、それがまるで他人ごとであるかのように。

* * *

1818年12月
弟トムが結核で死去。彼の看病をしていたキーツには
それ以前に結核がうつっていたと思われる。

1819年
一年を通じてキーツは体調不良を訴える。

1819年9月
「秋に」が書かれる。

1820年2月
結核発症。

1820年 秋以降
療養のためにイタリアにわたるが、医師の誤診なども
あってかなり苦しむ。錯乱状態のなか、「アヘンをよこせ!」
(痛み止めとして)とわめいた、などのエピソードが残っている。
(そういわれた友人は、これを与えなかった。)

1821年2月
キーツ死去。死後の解剖では、「肺がほぼ完全に
破壊されていた」とのこと。

* * *

後日、情報の出典など、少しずつ追記していきます。

* * *

英文テクストは、Keats, Keats: Poems Published
in 1820
, ed. M. Robertson (Oxford, 1909) より。
<http://www.gutenberg.org/files/23684/23684-h/23684-h.htm>

* * *

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Keats, "To Autumn" (2)

ジョン・キーツ (1795-1821)
「秋に」 (2)

収穫されたもののなかによくいる君を、見たことない人がいるだろうか?
探しに行けば、君は必ず見つかる。
たとえば、納屋の床に何気なくすわって、
もみがらを飛ばす風に、やさしく髪をなびかせていたり。
畑の列の途中で眠りこけていたり。
ケシの香りに酔ってしまい、鎌の次のひと振りで、
作物を、からみつく花ごと刈りとることも忘れて。
またあるときには、落穂拾いをする人のように、
作物をのせた頭を支えつつ小川をわたっていたり。
あるいは、リンゴしぼりのところで、辛抱強く、
何時間も何時間も、最後までリンゴがしぼられるのを見ていたり。
(ll. 12-22)

* * *

John Keats
"To Autumn" (2)

Who hath not seen thee oft amid thy store?
Sometimes whoever seeks abroad may find
Thee sitting careless on a granary floor,
Thy hair soft-lifted by the winnowing wind;
Or on a half-reap'd furrow sound asleep,
Drows'd with the fume of poppies, while thy hook
Spares the next swath and all its twined flowers:
And sometimes like a gleaner thou dost keep
Steady thy laden head across a brook;
Or by a cyder-press, with patient look,
Thou watchest the last oozings hours by hours.
(ll. 12-22)

* * *

以下、訳注。

12- thee
第一スタンザに引きつづき、「秋」が擬人化され、
「君」と呼びかけられて、描写されている。
15行目で長い髪が想定されていることから、
「秋」は女性。

英文テクストを使用した1900年版の全集には
巻頭にこんな絵が。

(いろいろ誤解があるような気がする。)

14 granary

By Derek Harper
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Tetcott_granary_-_geograph.org.uk_-_606575.jpg

17 poppies
畑に生えるのはヒナゲシ(英語では、field poppy,
corn poppyなどと呼ばれる)だが、文学作品のなかでは
しばしばアヘン用のケシ(opium poppy)と混同される。
(マイナーな詩人だが、Francis Thompsonの "To Monica"
など参照。)

Field poppy

By Fornax
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Papaver_rhoeas_eF.jpg

Opium poppy

By Zyance
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Mohn_z10.jpg

19-20
ニコラ・プッサン(プーサンとも)の絵「秋」が
この二行の背後にあるといわれる(Ian Jack,
Keats and the Mirror of Art, 1967)。


http://www.nicolaspoussin.org/
Autumn-1660-64-large.html
右のほうで頭に作物をのせてあちらを向き、
その向こうの川の流れを見ている女性が、
この二行の「秋」の描写につながる、とのこと。

21 cider-press

By Man vyi
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Cider_press_in_Jersey.jpg

(また追記します。)

* * *

実りをあらわす表現のなかに、少しずつ
陰のある言葉が散りばめられてきています。
[D]rowse, poppy, hook, swath (flowers), lastなど。

そして第三スタンザへ・・・・・・。

* * *

英文テクストは、Keats, Keats: Poems Published
in 1820
, ed. M. Robertson (Oxford, 1909) より。
<http://www.gutenberg.org/files/23684/23684-h/23684-h.htm>

* * *

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Browning, R., "Eurydice to Orpheus"

ロバート・ブラウニング (1812-1889)
「エウリュディケがオルペウスに--レイトンの絵--」

それだけでいい、あなたの口、目、顔が見たい!
吸いこまれたい! 一目見てくれるだけでいい、
それがわたしをずっとつつみこんでくれる。わたしが
その光のなかから出ないように、外に広がる闇に出ないように。
しっかりわたしを抱きしめて、拘束して、
永遠のまなざしで! 過去の悲しみ、
そんなのみんな忘れる。これからあるかもしれない怖いこと、
それもみんな平気--過去も未来もどうでもいい。今、一目わたしを見て!

* * *
Robert Browning
“Eurydice to Orpheus: A Picture by Leighton”

But give them me, the mouth, the eyes, the brow!
Let them once more absorb me! One look now
Will lap me round forever, not to pass
Out of its light, though darkness lie beyond:
Hold me but safe again within the bond
Of one immortal look! All woe that was,
Forgotten, and all terror that may be,
Defied, --- no past is mine, no future: look at me!

* * *
ギリシャ神話中の有名なエピソードを、ブラウニングお得意の
独白スタイルで。エウリュディケの視点、彼女の言葉だけを
切りとっている。

タイトルにあるフレデリック・レイトンの絵は、このURLに。
http://www.rbkc.gov.uk/lordleightonsdrawings/
ldcollection/paintingrecord.asp?workid=1642

とりあえず、ここではモノクロ版を。

Ernest Rhys, Frederic Lord Leighton, 1900より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/30262

この絵のポイントはオルペウスの顔・・・・・・
ではなく、中央に描かれた彼の右腕と右手。

次のURLのデッサンでも強調的に。
http://www.rbkc.gov.uk/lordleightonsdrawings/
ldcollection/drawingrecord.asp?workid=1014

オルペウスの右腕の筋肉の張りは、力がかなり
入っているようすを示している。

それに対して、彼の手がおさえているエウリュディケの
肌は、ほとんど凹んでいない。

つまり、この絵は、エウリュディケを見ない、
というオルペウスの強い決意のようなものと、
彼女に対するやさしさ、いたわりのようなものを
同時に描こうとしている。

(彼女を見てしまったら、永遠に彼女を失うことになる
--Herrickの "Orpheus" を参照。)

成功しているかどうか、オルペウスのなんとも
いえない微妙な表情も、この葛藤をあらわそうと
している。

デッサンにはっきり見られるように、力の抜けた
状態で宙に浮いているオルペウスの左手も重要。

見えない左腕が腰までまわっている
(ほとんど抱きよせるかたちになっている)のは、
オルペウスがエウリュディケを愛おしく
思っていることを示す。

最終的に彼の左手が彼女を抱きよせていないことは、
そうしてはいけない、彼女を見てはいけない、という
彼の意識をあらわす。

* * *
リズムは弱強五歩格(歌ではなく、散文や会話に近いリズム)。
最後の行だけ弱強六歩格--"Defied"(二音節)+ 弱強五歩格。

* * *
英文テクストは、The Poetic and Dramatic Works of
Robert Browning
, vol. 4 (1890) より。
http://books.google.com/books/about/The_Poetic_and_
Dramatic_Works_of_Robert.html?id=9jAwAAAAYAAJ

* * *
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Herrick, "Orpheus"

ロバート・ヘリック (1591-1674)
「オルペウス」

詩人たちは語る--オルペウスは、エウリュディケを
連れ戻すために地獄に行った。
そして彼女をとり返すが、
短くも厳しい条件つきであった。
彼は、後ろを見てはいけなかった、黄泉の国の
暗がりのなか、彼女の手を引いていくあいだは。
しかし、ああ! 彼は、
あの恐ろしい薄闇を通っていたとき、
愛しげなまなざしでふり返ってしまった、
不安、やさしい気づかいから。
こうして後ろを向いたとき、そのまなざしが、
彼とエウリュディケを永遠に引き裂いた。

* * *

Robert Herrick
"Orpheus"

Orpheus he went, as poets tell,
To fetch Eurydice from hell;
And had her; but it was upon
This short but strict condition:
Backward he should not look while he
Led her through hell's obscurity:
But ah! it happened, as he made
His passage through that dreadful shade,
Revolve he did his loving eye,
For gentle fear or jealousy;
And looking back, that look did sever
Him and Eurydice for ever.

* * *

リズムは、ストレス・ミーター(四拍子)だが、
歌ではなく語り的な雰囲気を出すために、
ビート(拍子)と語のストレスが、頻繁に
ずらされている。

(あるいは、このような詩の場合、
とりあえず/なんとか四拍子で
物語をまとめただけ、という気が
しないでもない。)

(スキャンジョンはまた後日。)

* * *

ギリシャ神話中の有名なエピソード。
絵などの題材としても、頻繁にとりあげられる。

たとえば、コローの「オルペウスが冥界から
エウリュディケを連れ出す」。


Jean-Baptiste-Camille Corot,
Orpheus Leading Eurydice from the Underworld
Scan by Mark Harden
(Harden氏のサイトartchive.comの指示通り
HPに直接リンクを。)

(オリジナルはHoustonに。)
http://mfah.org/art/detail/corot-
orpheus-leading-eurydice-underworld/

この絵のポイントは、実に不機嫌なエウリュディケ。

顔が明らかに不機嫌。だらりと垂れた右腕もおかしい。
背中は猫背気味。踏み出した足から上半身までの
ラインを見ると、明らかに体重は後ろにかかっている。

何よりも、この手のつなぎ方はどうなのか。
エウリュディケの側からは手をつないでいない。
手首をつかまれて、「来いよ!」と無理やり
連れて行かれている・・・・・・。

それに対してオルペウスは、彼女を連れて帰る気満々。
「行くぞ!」と掲げた左腕、明らかな前傾姿勢、
エウリュディケの手首を握る右腕の力の入り具合・・・・・・
しかし、そもそもエウリュディケの手首を握る右腕に
力を入れなくてはならないとは、どういうことか。

この絵において、エウリュディケは、明らかに
帰りたがっていない。なぜか?

エウリュディケの視点から、もう一度二人の物語を
読んでみる。

---
1. 結婚直後に彼女は蛇に噛まれて死んだ。
(何よ、これ・・・・・・。ウソでしょ・・・・・・。)

2. 夫が自分を連れ戻しに、危険を冒して冥界まで来てくれた。
(やったー! 帰れる! わたし幸せかも!)

3. 帰りの道中、夫は自分を見ない。話しかけてもこない。
(え・・・・・・? これ、どういうこと?)

4. いろいろな疑念が頭をかけめぐる。
(この人、何を考えてるの? わたしに会いたいんじゃなかったの?
生きて帰れても、こんなのイヤ・・・・・・。)
---

このような、より現実に即したシナリオを、
コローは独自に想定してこの絵を描いた、と思われる。

こうして見ると、死別を悲しんでいるように見える
人々(描かれた川はステュクス、いわゆる三途の川)が
背景に描かれている意味が見えてくる。つまり、
これらの人々により、生きて帰れる幸せが理解できて
いないエウリュディケの不機嫌さが、より際立つ。

また、こうして見れば、この絵に描かれた場面に
すぐつづくシナリオも見えてくる。

(ステュクスが描かれているので、生の世界は
すぐそこ。そこでオルペウスは、ふりかえって
エウリュディケを見てしまう。)

---
エウリュディケ:
ねえ、どうしてわたしのほうを見ないの?
どうして一言もしゃべらないの?

オルペウス:
・・・・・・。(見ちゃいけない、話しちゃ
いけない、ここがガマンのしどころ・・・・・・。)

エ:
ねえ、どういうこと? わたしのこと好きだから
来てくれたんじゃないのじゃないの?

オ:
・・・・・・。(うわ、頼むよ、わかってくれよ・・・・・・。)

エ:
ねえねえ、一言もしゃべらないって変じゃない?
わたしのほうを見ないって おかしくない?
ねえ、どういうつもり? わたしを連れて帰って
何かいいことあるの? こんなのだったら、
わたし帰らないから。もう痛いから手を離して。
ひとりで行って。バイバイ。さよなら。
新しい彼女でも見つけたらいいんじゃない?
・・・・・・あ、もしかして、もう見つけた?
よかったじゃない、ここで別れましょ。さようなら。
あなたって、ホント最低。わたし、ヘビに噛まれて
よかったわ・・・・・・。

オ:
な、何いってんだ、バカヤロウ! オレはな・・・・・・・
(と、ふり返ってしまう・・・・・・。)
---

以上、一部いろいろ暴走しつつも、大筋は間違って
いないはず。オウィディウス『変身物語』(第10巻)に
ある、次のような結末とは、別のかたちで泣かせる。

(オルペウスがふり返ってエウリュディケを見る。)

エウリュディケ:
「さよな・・・・・・(冥界に迎えに来てくれるほど、
ダメだといわれているのにやっぱり後ろをふり返って
見てくれるほど、愛してくれてありがとう・・・・・・)」

* * *

英文テクストは、Robert Herrick, The Hesperides and
Noble Numbers
, ed. A. Pollard (London, 1898),
vol. 1 より。http://www.gutenberg.org/ebooks/22421

* * *

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Keats, "To Autumn" (1)

ジョン・キーツ (1795-1821)
「秋に」 (1)

秋--君は、霧と、甘く熟した果実の季節、
恵みの太陽の心の友。
君は太陽とたくらむ、藁ぶき屋根の軒下をつたう
ブドウの実を、どれくらい重く実らせようか--
小さな家の脇、コケに覆われた木々を、どれくらいリンゴでしならせようか--
果実の芯の芯まで、どれくらい熟れさせようか--
ヒョウタンや、ヘーゼル・ナッツの殻を、どれくらいふくらませようか、
その中の実はおいしくて--そしてどれくらい、さらに咲かせようか、
さらにさらに咲かせようか、ハチたちのために遅咲きの花を--
するとハチたちは、あたたかい日々がずっとつづくと思いこむだろう、
夏が過ぎても、ねっとりした蜜が巣からあふれているから。
(ll. 1-11)

* * *

John Keats
"To Autumn" (1)

Season of mists and mellow fruitfulness,
Close bosom-friend of the maturing sun;
Conspiring with him how to load and bless
With fruit the vines that round the thatch-eves run;
To bend with apples the moss'd cottage-trees,
And fill all fruit with ripeness to the core;
To swell the gourd, and plump the hazel shells
With a sweet kernel; to set budding more,
And still more, later flowers for the bees,
Until they think warm days will never cease,
For Summer has o'er-brimm'd their clammy cells.
(ll. 1-11)

* * *

以下、訳注。

タイトル
「(擬人化された)秋に(対して歌う)」ということ。
英語の詩のタイトルによくある "To. . . . " は
みなこのパターンで、「(詩人/わたしが)・・・・・・に(対して歌う)」
という意味。

1-11
1行目の "Season. . . fruitfulness" と
2行目の"Close . . . sun" は、どちらも「秋」を
いいかえた表現。このようにいって(擬人化された)「秋」に
対して呼びかけている。そして、3-11行目でそんな秋のようすを
具体的に描写。

3 bliss
贈りものをしてよろこばせる(OED 7b)

5 cottage
(自営ではない)農民などが住む小さな家(OED 1)。

By Joseph Mischyshyn
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rathbaun_Farm_-_
200_year_old_thatched-roof_cottage_-_geograph.org.uk_-_
1632126.jpg
(200年前、ちょうどキーツの生きていた頃のもの。
アイルランド。屋根は藁ぶき。)

7 hazel

By Fir0002
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hazelnuts.jpg
(ふくらんでる・・・・・・。)

* * *

三つのスタンザからなるこの詩の第一スタンザ。
「実り」という秋の側面を描いている。
やや甘ったるく感じるほど豊かな言葉で。

この甘く豊かな感じが、第三スタンザをよりいっそう
悲しいものにする。(また後日。)

* * *

英文テクストは、Keats, Keats: Poems Published
in 1820
, ed. M. Robertson (Oxford, 1909) より。
<http://www.gutenberg.org/files/23684/23684-h/23684-h.htm>

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