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Waller, "Phoebus and Daphne, Applied"

エドマンド・ウォーラー (1606-1687)
「アポローンとダプネーの物語--応用編--」

テュルシスは詩人、詩の神ムーサの言葉を預かる若者で、
美しいサッカリッサが好きだった。片思いだった。
輝く太陽の神アポローンのように、恋するテュルシスは歌った。
ダプネーのように、サッカリッサは美しく、そして冷たかった。
恋の歌を歌いながら、彼は逃げる妖精を追いかける。
恋の歌、まさにアポローンが歌ったような歌を歌いながら。
恋の狩りとはそういうもの--
岩山を越え、花咲く牧場を越え、
恋する気持ちを証明すべく、
美しくも冷たい、愛しい人の姿を少しでも見たいから、
激情に駆られ、撃たれて逃げる鹿のように必死に、
テュルシスは飛ぶように走る。山を越え、牧場を越えて。そして追いつき、
美しい歌を歌いながら、妖精のようなサッカリッサに手をのばす、
どれだけ歌っても立ち止まってくれなかった彼女に--
そんな彼が歌った不滅の歌は、
サッカリッサをふり向かせることはできなかったが、まったく無駄でもなかった。
テュルシスの心の傷を癒すことのできるサッカリッサ以外、すべての者が、
彼の気持ちを思いやり、彼の歌をほめたたえたのだから。
こうしてアポローンのように、彼は、求めてもいない称賛を得る。
恋人を手に入れようとして、かわりに両手いっぱいの月桂樹の枝を手にしたのだ。

* * *
Waller, Edmund
"The Story of Phœbus and Daphne, Applied"

Thyrsis, a youth of the inspired train,
Fair Sacharissa lov'd, but lov'd in vain;
Like Phœbus sung the no less amorous boy;
Like Daphne she, as lovely, and as coy;
With numbers he the flying nymph pursues,
With numbers such as Phœbus' self might use;
Such is the chase when Love and Fancy leads,
O'er craggy mountains, and through flow'ry meads;
Invok'd to testify the lover's care,
Or form some image of his cruel fair:
Urg'd with his fury, like a wounded deer,
O'er these he fled; and now approaching near,
Had reach'd the nymph with his harmonious lay,
Whom all his charms could not incline to stay.
Yet what he sung in his immortal strain,
Though unsuccessful, was not sung in vain;
All but the nymph that should redress his wrong,
Attend his passion, and approve his song.
Like Phœbus thus, acquiring unsought praise,
He catch'd at love, and fill'd his arm with bays.

* * *
アポローンとダプネーのエピソードは、
オウィディウス『変身物語』第1巻に。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://rpo.library.utoronto.ca/poems/
story-ph%C5%93bus-and-daphne-applied

* * *
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Waller, "To Phillis"

エドマンド・ウォーラー (1606-1687)
「ピュリスに」

ピュリス、どうして後回しにするの?
一日もつづかない楽しみを?
もしかして、(絶対にそんなことできないのに)
与えられた時間よりも長く生きられると思ってる?
美しさは影のように逃げていくし、
ぼくたちの若さは、ぼくたちよりも先に死ぬ。
もし、いつまでも若く、きれいでいれたとしても、
愛には羽があるから飛んでいってしまう。
愛は時間よりも速く飛んでいって、
心変わりは天に昇っていく。
一度いったことは絶対に曲げない神々だって、
好きになったり嫌いになったり、ころころ相手を変えている。
ピュリス、そういうことが事実だから、
今、ぼくたちは愛しあえているんだ。
君も僕も、聞くのはやめよう、
前に好きだったのは誰? とか。
どんな羊飼いたちに君はほほえみかけてきたの? とか、
ぼくがだましてきたのはどんなニンフたち? とか。
それから、星にまかせて、考えないようにしよう、
ぼくたちがこれからどうなるか、ということも。
今の楽しみ・よろこびについては、
今の気持ちにしたがおう。

* * *
Edmund Waller
"To Phillis"

Phillis, why should we delay
Pleasures shorter than the day?
Could we (which we never can)
Stretch our lives beyond their span?
Beauty like a shaddow flies,
And our youth before us dies,
Or would youth and beauty stay,
Love hath wings, and will away.
Love hath swifter wings than time,
Change in love to Heaven does clime.
Gods that never change their state,
Vary oft their love and hate.
Phillis, to this truth wee owe,
All the love betwixt us two:
Let not you and I inquire
What has been our past desire,
On what Shepherds you have smil'd,
Or what Nymphs I have beguil'd;
Leave it to the Planets too,
What wee shall hereafter doe:
For the joyes wee now may prove,
Take advice of present love.

* * *
いわゆる「カルペ・ディエム」のテーマの一変奏。

1-2行目はMarvell, "To His Coy Mistress" などと
共通する表現。

9行目にはHerrick, "To the Virgins" への言及が
あるのでは。

* * *
とても現実的な思考・議論で、恋愛詩の系譜の
一通過点としていろいろ考えさせられる。
恋愛詩が、16世紀の純愛ものから、17世紀に入って
どんどん醒めていくなかの一作品として。

(以下、ごく大まかな流れ)

シドニー、『アストロフィル』(あるいはそれ以前の
ソネット)のような甘いラヴ・ソング

--> 甘い雰囲気のない、論理的な誘惑の詩
(Carew, "Rapture"; Milton, Comus; Marvell, "Coy Mistress")

--> ドライデンなどの反-恋愛、反-結婚の詩

--> 18世紀の恋愛詩は?
(センチメンタルなテーマは詩以外のジャンルへ?)

--> Charlotte Smith などにより恋愛詩復活?
(18世紀以降、読者層・学術的に注目される
ジャンルなどが大きく変化。)

* * *
英語テクストは、Poems, &c. (1645)
(Wing W511) より。

* * *
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Waller, from "To My Lord Protector"

エドマンド・ウォーラー (1606-1687)
「護国卿を称える詩」より

わたしたちの小さな世界、イングランドでは・・・・・・
自然が望むものはみなみずから育ち、
珍しいものはすべて波からの貢ぎ物として手に入る。

わたしたちはアラビアの辛いスパイスの味を知っている、
それを育てる太陽に焼かれることもなく。
イモムシを飼わなくてもペルシアの絹を着て輝き、
ブドウを植えなくてもあらゆるワインを味わえる。

わたしたちは、富を求めて地面を掘るなど、疲れることはしない。
一番重いはずの金も、ここへは泳いでやってくる。
アメリカ人の収穫はわたしたちのものとなる。
わたしたちは海を耕し、異国の者が植えたものを刈りとるのだ。

* * *
Edmund Waller
From "A Panegyric to My Lord Protector"

Our little world. . .
Of her own growth hath all that Nature craves,
And all that's rare, as tribute from the waves.

The taste of hot Arabia's spice we know,
Free from the scorching sun that makes it grow;
Without the worm, in Persian silks we shine;
And, without planting, drink of every vine.

To dig for wealth we weary not our limbs;
Gold, though the heaviest metal, hither swims;
Ours is the harvest where the Indians mow;
We plough the deep, and reap what others sow.
(Lines 49, 51-52, 57-64)

* * *
英語テクストは、Poetical Works of Edmund Waller and
Sir John Denham (1857) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12322

* * *
(参考)
Jonson, from "To Penshurst"
Carew, from "To Saxham"

* * *
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Waller, "Go, lovely rose!"

エドマンド・ウォーラー(1606-1687)
「歌:さあ行って、かわいい薔薇!」

さあ行って、かわいい薔薇!
そして言って、若いのにぼくを無視して恋を避けるあの子に。
こんなふうに
薔薇にたとえたくなるくらい
きれいで素敵、って。

あの子に言って。若くて
きれいなのに人に見られたがらないあの子に。
薔薇だって
誰もいない砂漠で咲いたら、
きれいなんて誰にも言われず枯れる、って。

意味がない、
美しくても光が届かないところにあれば。
だからあの子に言って、出てきて、って。
求められるのはいいことだって。
きれいと言われて恥ずかしがらないで、って。

そして枯れて。あの子が
美しいものすべての運命を
学ぶように。
ほんの短い時間しかないから、
どんなにきれいで素敵な人にも、ものにも!

20230419

*****
さあ行け、かわいいバラ!
若さを無駄にし、ぼくの気持ちに応えてくれないあの子にいうんだ--
こうして、
バラである君にたとえたくなるくらい、
あの子はきれいですてき、と。

あの子にいうんだ、若くて
きれいなのに、人に見られることを嫌うあの子に--
バラである君だって、
だれもいない砂漠で咲いてたら、
きれい、なんていわれないまま枯れてしまう、と。

ほとんど意味がない、
美しくても、光の届かないところにあるものには。
だから、あの子にいうんだ--出てきて、と。
求められるのはいいこと、と。
きれいといわれて恥ずかしがってちゃダメ、と。

そして枯れるんだ、あの子が、
美しいものすべてに訪れる運命を
君から学んでくれるように。
ほんの短い時間しかあたえられていないんだ、
本当に、驚くほど、きれいですてきな人にも、ものにも!

20110702

*****
Edmund Waller
"Song (Go, lovely rose!)"

Go, lovely Rose!
Tell her that wastes her time and me,
That now she knows,
When I resemble her to thee,
How sweet and fair she seems to be.

Tell her that's young,
And shuns to have her graces spied,
That hadst thou sprung
In deserts, where no men abide,
Thou must have uncommended died.

Small is the worth
Of beauty from the light retired;
Bid her come forth,
Suffer herself to be desired,
And not blush so to be admired.

Then die! that she
The common fate of all things rare
May read in thee;
How small a part of time they share
That are so wondrous sweet and fair!

*****

By Captain-tucker
<http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Rosa_%27Duet%27_2.JPG>

*****
(概要)

設定:
わたしが、「わたしの好きな人のところに行け、そして
こんな風にいってくれ」と、バラにいっている。

つまり:
わたしは、自分の好きな人にバラを贈ろうとしている。
そして、そのバラを通じて、こんなことが伝えられたら、
と考えている。

誰かに贈りものをするときに書かれてきたタイプの作品。
ウォーラー以前にも次のようなものがある。

Ben Jonson, "To Lucy, Countess of Bedford:
In a Gift-Copy of Cynthia's Revels, 1601:
Author ad Librum"
ベン・ジョンソンが自分の作品(Cynthia's Revels)を
ベドフォード伯爵夫人に贈ったときに添えたもの。
(ここではバラではなく、"Go, little book, go . . . "
「行け、私の本よ、行け」。)

Robert Herrick, "To the Rose: Song"
ウォーラーのものと同じく、バラを贈るという設定で
書かれたもの。はじまりは、"Go, happy rose . . . " で、
ウォーラーの "Go, lovely rose" の下ネタ的な詩。

これらすべての祖先は古代ローマのマルティアリス、
『エピグラム集』、第7巻89番。ここでも、
「行け、幸せなバラ」("Go, happy rose")と
バラが贈られている。Martial, Epigrams, ed. and
tr. W. C. A. Ker (London, 1919) 1: 484-85 など参照。
http://www.archive.org/details/martialepigrams01martiala

現代詩でも、エズラ・パウンド(Ezra Pound)の
"Envoi" (Hugh Selwyn Mauberley) に、この
パターンが用いられている。(「行け、ものいわぬ本」。)
この詩にはウォーラーの名前も出てくる。

このウォーラーの詩に曲をつけてきた作曲家の
リストが次のページにある。17世紀のHenry Lawesから
20世紀のものまで。ご参照まで。
http://www.recmusic.org/lieder/get_text.html?TextId=19488

*****
(訳注)

2 that
関係代名詞の主格。先行詞はher.

3 that
接続詞(……ということ)。

3-5
人称: I=わたし/thou=バラ/she=あの子=わたしの好きな人
バラがわたしの好きな人にいうことを間接話法で表現。
上の日本語訳は、およその意訳。直接話法で訳すと、
次のような感じ。

おわかり?
あなた、あたしにたとえてられてるのよ。
自分がどれくらいきれいですてきか、わかるでしょ?
(あなた=she/あたし=バラ)

4 resemble
たとえる(OED 2)。

13-15
構文は、Bid her come/suffer/not blush (=blush not).
「[C]omeするように、sufferするように、そしてblushしないように、
あの子にいってやって」。

14 suffer A to B (Bは動詞の原型)
AがBすることを許す、認める(OED 14)。

16 that
接続詞(……するように = so that)

*****
この詩は、いわゆるcarpe diem (= seize the day)
という古代ローマ以来のテーマの一変奏。
この言葉の意味は、

「先のことなどわからないから、あれこれ心配せず
今を楽しく生きよう」
(ホラティウス[古代ローマの詩人])

「時間はすぐに過ぎ去ってしまうから、いつ死んでしまうか
わからないから、今すぐ恋愛しよう」
(17世紀のイギリス詩--作品によって、「ぼくと」や、
「からだ的に」、などの詳細が加わる。)

ホラティウスのものは、Odes 第1巻、11番から。
Horace, Horace, ed. and tr. P. Francis
(London, 1831), 19 など参照。
http://www.archive.org/details/horace00phaegoog

17世紀のイギリス詩では、Robert Herrick, "To the Virgins,
to Make Much of Time" や "Corinna"、Andrew Marvell,
"To His Coy Mistress" がこの主題の定番だが、
マルティアリスの「バラよ、行け」のテーマと組みあわせて
うまくまとめてあるウォーラーの詩も、もっととりあげられていい。

*****
イギリス文学史の本でほとんどとりあげられないが、
ウォーラーは「耳に心地よく、おだやかで、そしてなめらかな」
詩を書くとして、17世紀にとても高く評価されていた詩人。

17世紀後半から18世紀にかけてのイギリス詩のスタイルに
決定的な影響を及ぼしたドライデン(John Dryden)などは、
「わかりやすく書くことを芸術に高めた最初の詩人」として
ウォーラーに最大級の賛辞を捧げていた。曰く、「言葉を
上手に並べてその音を美しく響かせることは、ウォーラー氏が
イギリス詩に導入するまで知られていなかった。」

なお、ウォーラーは18歳から国会議員を務めた政治家でも
あった。1640年代、内乱の時期に一度失脚し、国外に
追放されている。(もともと家が裕福だったので、相当な
わいろで処刑だけは免れた。)

1650年代初期、共和国期に赦されてイギリスに戻り、
その後も1670年代までずっと政治に携わった。
ちなみに、クロムウェルと親戚同士だったりもする。

(詳細はDNBを。第一版は以下のURLで。
http://en.wikisource.org/wiki/Waller,_Edmund_(DNB00)

*****
以下、リズムについて。

上記の通り、ウォーラーの詩は、心地よくなめらか、
ということで17世紀後半にとても高く評価されて
いたが、その具体的な要因のひとつとして、彼が、
各詩行の音節数をそろえたことがあげられる。



この「行け、バラ」のような四拍子のストレス・ミーター、
いわば「歌もの」の作品は、ウォーラー以前には、まずは
四拍子にのればいい、というかたちで書かれがちであった。
(ジョンソンの「こだま」、ミルトンの「五月の朝」など参照。)

これに対してウォーラーのストレス・ミーターは、
各行にビートは四つ、音節は八、と固定されている。
(「行け、バラ」の場合、短い行はその半分。)

各行のビート数のルールのみをもつ伝統的なストレス・
ミーターを、各行のビート数と音節数のルールをあわせもつ
シラブル・ストレス・ミーター(syllable-stress meter;
accentual syllabic meter という表現のほうが一般的)の一タイプ、
いわゆる四歩格(tetrameter)へと、ウォーラーらが
移行させた。

四歩格:
弱強( x / )、強弱( / x )、強弱弱( / x x ) など、
ストレスの規則的配置によってつくられることばのリズムの
最小単位、いわゆる音歩(foot)が各行に四つある、という
詩のリズム。

(原則として各行五ストレス十音節固定の弱強五歩格も、
シラブル・ストレス・ミーター。)

このような各行の音節数に対する意識が、ドライデンや
ポープに受けつがれ、17世紀後半から18世紀にかけての
主流となっていく。(あと、「クロムウェルを
称える詩」などに顕著な、格言的にすっきりしていて
読みやすい、対句のカプレットも。)

カプレット:
連続する二行で脚韻を踏むもの

(詩形の歴史においては、このようなスタイルが、
ロマン派、特にシェリーなどによって踏みにじられる。)

*****
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.
(後日ページを追記します。和訳あり。)

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説がある。)

*****
英文テクストは、Edmund Waller and John Denham,
Poetical Works of Edmund Waller and Sir John
Denham
(1857) <http://www.archive.org/stream/
poeticalworksofe12322gut/12322.txt>より。
(1645年版や1690年版を参照し、手を加える予定。)

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