goo

Shelley, ("The keen stars were twinkling")

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「ジェインに」 (「刺すように星がきらめいて」)

刺すように星がきらめいて、
そのあいだをきれいな月が昇ってた、
ね、ジェイン。
ギターの静かな鈴のような音。
でも、君が歌って初めてきれいに聴こえた、
声が重なって。
月は優しい輝きを
冷たく弱い星の光の上に
投げかける。
それと同じ、君の優しい声が
魂のない弦にあげていた、
自分の魂を。

やがて星たちは目を覚ます。
月はまだ眠っていても。
今夜。
木の葉は落ちない。
君の歌がふりかけているから、
喜びのしずくを。
ギターの大きな音、でも
歌って、もう一度。愛しい声のなか聴かせて、
あの音。
遠くの、別の、世界の音。
歌と月の光と心が
ひとつになった音。

* * *
Percy Bysshe Shelley
"To Jane" ("The keen stars were twinkling")

The keen stars were twinkling
And the fair moon was rising among them,
Dear Jane.
The guitar was tinkling,
But the notes were not sweet till you sung them
Again.--
As the moon's soft splendour
O'er the faint cold starlight of Heaven
Is thrown--.
So your voice most tender
To the strings without soul had then given
Its own.

The stars will awaken,
Though the moon sleep a full hour later,
Tonight;
No leaf will be shaken
While the dews of your melody scatter
Delight.
Though the sound overpowers
Sing again, with your dear voice revealing
A tone
Of some world far from ours,
Where music & moonlight & feeling
Are one.

* * *
20190920 日本語訳修正
(下の記述は未確認。不正確かもしれない。)

* * *
以下、訳注。

1-12
星あかり = ギターの音 < 月あかり = 君の歌声
という関係。

7 soft splendour
いわゆる撞着語法(oxymoron)。矛盾する概念が
つながれている。
Soft: 静かな、抑えられた
Splendour: 強い輝き

13-14
構文は、およそ次のようなかたちで理解。
The stars will awaken [the moon] a full hour later,
[even] Though the moon [should] sleep

16-18
普通は:
風によって木の葉が散らされる(scatterされる)。

ここでは:
露(夜露)のような君の歌によって、楽しみと
よろこびがまき散らされる。

23-24
超現実的な表現:
この世では、歌と月の光と人の気持ちは、
みな別のもの。

* * *
以下、リズムの解釈例。

基調はストレス・ミーター。







改行位置を変えて示したが、この詩は、20世紀以降の
ポップ・ミュージック(ジャズ、ブルーズ、R&B, ロックンロール、
カントリーなど何でも)の歌詞によくあるように、
行頭の語が、時折その前行の最後のビートにのるように
書かれている。これにより(これだけによるものではないが)、
通常のバラッド的なストレス・ミーターとは違う、
洗練された、流れるような、リズムが感じられるように
なっている。

Shelley, Major Works (Oxford, 2003) の編者のいう、
この詩の "virtuoso rhythms and sound patterns" とは、
おそらくこのようなこと。

ワーズワースの、「わたしたちのなかで、スタイルという点では、
シェリーがもっともすぐれた職人だ」、という評価が思い出される。
(出典?)

上のスキャンジョンでやや不自然、あるいは
不器用に感じられる箇所があるのは、この詩が
未完成だからか。ジェインに対してシェリー曰く、
「この詩を大目に見て、秘密にしておいてほしい。
また別の機会にもっといいものを書くから。」

* * *
以下、詩としては行頭に置かれる語が、
歌われる際に前行に食いこむ例。

Chuck Berry, "Rock and Roll Music":
Rock and roll music
Any old way you choose it
It's got a backbeat you can't lose it. . . .
3行目のgotは2行目末のビートにのせて歌われる。
(4ビートではなく8ビートだが理屈は同じ。)

Hoagy Carmichael and Ned Washington,
"The Nearness of You":
It's not the pale moon
that excites me. . . .
この冒頭のnotはこの行がはじまる前のビートに
のせられてる。同様に、次行のthatはpale moonの
行の最後のビートに。

Queen, "I Was Born to Love You":
I was born
to love you
With every single beat
of my heart
Yes, I was born
to take care of you. . . .
各行8ビートとして表記。2行目のto, 3行目のWith,
4行目のmy, 5行目のYes, 6行目のtakeは、みな
前行の最後のビートにのせられている。

---
名誉革命の頃のバラッドにも次のようなものがある。

"A New Song of an Orange"

Good People, Come buy
The fruit that I Cry,
That now is in season, tho Winter is nigh,
'Twill do you all good,
And sweeten your Blood,
I'me sure it will please, when you're once understood,
'Tis an Orange.

詩として記せば、上記のようになる。(脚韻に注目。)
が、歌としては違う。これが楽譜。



丸で囲んだ脚韻を踏む語と、小節の句切れ目を
示す縦線のあいだに、次の行の最初のことばが
前のめりなかたちで食いこんできている。

(この詩の1-2行目、4-5行目は、次のように、
それぞれストレス・ミーター、四拍子の一行を
二行にわけたもので、しかも、このShelleyの
ギターの詩のように前行の最後のビートのところまで
食いこんではいない。ストレス・ミーターの一行と
歌としての小節が一致していない例。)



* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

* * *
英文テクストは、シェリーの手稿に若干の修正を加えたもの。
手稿は、Fair-Copy Manuscripts of Shelley's Poems in
European and American Libraries
, ed. Donald H. Reiman
and Michael O'Neill (New York, 1997) より。
(修正したのはスペリングのみ。it's --> its など。)

* * *
https://drive.google.com/file/d/18XGrUSpfGkmJm43hk7NasUfDXIPOZ88N/view?usp=sharing
GT: 曲・ギター
M: 曲・ピアノ
F, I: 声

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。

* * *
修正
20141005
20190920


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "Love's Philosophy"

パーシー・ビッシュ・シェリー
「愛について知るべきこと」

泉は川とひとつにとけあう。
川も海とひとつにとけあう。
空ではいろんな風がとけて、いつも
愛しあっている。
何もない、この世にひとりきりのものは。
すべてが、神の掟によって
とけあう。ひとつの魂になる。
ぼくと君がひとつになれないのはなぜ?

山は空に口づけする。
波はたがいに抱きしめあう。
妹花は許されない、
兄花を嫌ったら。
日の光は大地を抱きしめ、
月の光は海に口づけ。
愛のわざとはこういうこと。
君がぼくに口づけしてくれないのはなぜ?

*****
Percy Bysshe Shelley
"Love's Philosophy"

The fountains mingle with the river
And the rivers with the Ocean,
The winds of Heaven mix for ever
With a sweet emotion;
Nothing in the world is single;
All things by a law divine
In one spirit meet and mingle.
Why not I with thine?—

See the mountains kiss high Heaven
And the waves clasp one another;
No sister-flower would be forgiven
If it disdained its brother;
And the sunlight clasps the earth
And the moonbeams kiss the sea:
What is all this sweet work worth
If thou kiss not me?

https://www.gutenberg.org/ebooks/4798
Stallworthy, ed., A Book of Love Poetry (1973) 所収。

*****
「哲学」とは何?

漢字熟語は日本語に不可欠、とは思うが、
それは往々にして無知や思考放棄の隠れ蓑、
知性を装う欺瞞の手段ともなっている。
(外国語由来のカタカナ言葉もそう。)

*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, ("Music, when soft voices die")

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822)
(歌は、声が静かに死に、消えても)

歌は、声が静かに死に、消えても、
響く、記憶のなかに。
香りは、きれいな菫(すみれ)が病んでも、
残る、菫の香りで甦った心のなかに。

薔薇の花びらは、花が枯れ、死んでも、
あふれるほどに飾られる、愛しい人のベッドに。
ぼくの想いもそう。君が去っても残り、
〈愛〉の神のベッドを飾る、あふれるほどに。

*****
(20161230作)
パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822)
(歌は、静かな声が死んで消えても)

歌は、静かな声が死んで消えても
記憶のなかに響く。
香りは、かわいい菫(すみれ)が病んでも、
菫が甦らせた感覚のなかに生きつづける。

薔薇の花びらは、花が枯れて死んでも、
愛しい人のベッドに飾られる。
ぼくの想いも同じ、君が去っても残り、
〈愛〉の神のまどろむベッドになる。

*****
(20120817作)
(「音楽--やさしい歌声が死んでも」)

音楽--やさしい歌声が死んでも、
それは、記憶のなかひびく。
香り--きれいなスミレが病んでも、
それは、それが生き返らせた感覚のなかで生きつづける。

バラの花びら--バラが死んでも、
それは、愛しい人のベッドにたくさん飾られる。
そして、頭に残るいろいろな君の姿は、君が行ってしまった後でも、
ぼくの愛を抱いて眠らせてくれる。

*****
Percy Bysshe Shelley
"To ― " ("Music, when soft voices die")

Music, when soft voices die,
Vibrates in the memory―
Odours, when sweet violets sicken,
Live within the sense they quicken.

Rose leaves, when the rose is dead,
Are heaped for the beloved's bed;
And so thy thoughts, when thou art gone,
Love itself shall slumber on.

*****
7 thought[s]
頭のなかにあるひとつひとつの思考、概念(OED 2)。
[T]hy thoughts = thoughts of you.

*****
リズムについて。



一応ストレス・ミーター(四拍子)だが、歌のビート(拍子B)に
あわせるのではなく、各語の自然なストレスにしたがって読まれるべく
独特のリズムが与えられている。(特に1, 3行目。)

ひびきあう語(脚韻以外):
voices-vibrates-violets
beloved's-bed
love-slumber

*****
シェリーに関するT・S・エリオットの名言--

1
シェリーの考えるようなことは、からだが受けつけない。
I find his [Shelley's] ideas repellent.

2
年をとってもシェリーを読みつづけられる人はどれくらいいるだろう?
[F]or how many does Shelley remain the companion of age?

("The Use of Poetry and the Use of Criticism" より)

シェリーは未熟、おセンチでナルシスティックなガキ、と批判する
エリオットだが、そんなおセンチでナルシスティックなところが
一切見られないエリオットの詩や散文にも、(種類は違うが)
同レベルのナイーヴさが、実は感じられたりする。

*****
英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "Mutability"

パーシー・ビッシュ・シェリー
「無常」

1.
今日微笑む花も、
明日には死ぬ。
手にしたいと思うものはみな、
気を惹いて、そして消え去る。
この世のよろこびとは?
夜をあざける稲妻、
一瞬だけ輝く。

2.
美徳--脆すぎる!
友情--稀すぎる!
愛--貧弱な幸せのために
山のような絶望を払うとは!
ぼくたちは生きる、
これらのよろこびが、
手にしたものが、みな消えたあとも。

3.
空が青く輝くあいだに、
花がきれいに咲くあいだに、
夜には色を失う瞳が
明るく楽しげなあいだに、
時が静かに、這うようにゆっくり流れるあいだに、
夢を見よう。そして眠りからさめたら、
泣いてもいい。

*****
Percy Bysshe Shelley
"Mutability"

1.
The flower that smiles to-day
To-morrow dies;
All that we wish to stay
Tempts and then flies.
What is this world's delight? _5
Lightning that mocks the night,
Brief even as bright.

2.
Virtue, how frail it is!
Friendship how rare!
Love, how it sells poor bliss _10
For proud despair!
But we, though soon they fall,
Survive their joy, and all
Which ours we call.

3.
Whilst skies are blue and bright, _15
Whilst flowers are gay,
Whilst eyes that change ere night
Make glad the day;
Whilst yet the calm hours creep,
Dream thou―and from thy sleep _20
Then wake to weep.

http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

*****
「カルペ・ディエム」のテーマのロマン派的一変奏。

「今日という花を摘もう」ではなく、
「今日という花は儚(はかな)いから、
すべてのいいもの、美しいもの、幸せなものは
夢のように儚いから、悲しいね……」。

*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "Ode to the West Wind"

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822)
「オード--西風に--」

1
おおお、荒れ狂う西風、おまえは〈秋〉の吐く息、
姿は見えないが、死んだ木の葉を
駆りたてている。魔法使いに追われた亡霊のように、木の葉は逃げる、

黄色い、黒い、色のない、それから熱病に浮かされたように赤い、
木の葉の大群が。おお、西風、おまえは
冬の暗いベッドに戦車で追いたてる、

羽の生えた種を。種は地下に冷たく横たわる、
まるで墓の中の死体のように。が、やがて
おまえの姉の青い春風が、

ラッパを吹き鳴らすと、夢見る大地は目を覚ます。そして
(草を食べる羊の群れのように雲が空を舞い、草木が芽を出しはじめ、)
生き生きとした色と香りが野原や丘にあふれ出す。

荒れ狂う霊よ、おまえはあちこちを駆けまわる。
おまえは壊し、そして保つ。聞け! おお、西風! 聞いてくれ!

2
西風、おまえに流されて荒れる高い空のなか、
ちぎれ雲が枯れ葉のように散る--
海からの蒸気が空でからまってできた雲、

雨と稲妻の到来を告げる積乱雲の枝から。
川のようなおまえの青い流れになびいて広がる雲は、
まるでかがやく髪、どこかの狂ったバッカスの巫女が

ふり乱した髪のよう。うす暗い
地平線の端から空のいちばん高いところにまで立ちのぼり、
もうじき来る嵐を告げる。西風、おまえは、死にゆくこの一年に

弔いの歌を歌う。だんだん暗くなるこの夜が
その墓だ。蒸気の軍勢が集まって
雲のドームをつくっている。

その固体の気体の雲の丸屋根から
黒い雨が降る。稲妻が飛び出し、雹(ひょう)が舞う。おお、西風! 聞いてくれ!

3
西風、おまえは夏の夢に浸る青い
地中海の目を覚ます。水晶のような波の
子守り歌を聞いて

バイアの入り江の軽石の島のとなりで寝ていたのに。
眠りのなか、いにしえの城や塔が
波にきらめく日の光に揺れるのを見ていたのに。

海のなか、空色の苔や花につつまれた城や塔がきらきら光る・・・・・・
美しすぎる! 思い描くだけで気絶しそうだ! それから、西風、
おまえのために、大西洋の水の軍勢も

割れて道をあける。そのずっと下では
海の花、しめった海の木々が、
樹液のない葉を茂らせていたのに、おまえの

声を聞いておびえて色を失い、
ふるえ、その葉も花も散る。おお、西風! 聞いてくれ!

4
西風、俺は、おまえが運ぶ死んだ木の葉になりたい。
俺は、おまえとともにすごい速さで飛ぶ雲になりたい。
おまえの下であえいでいる波になりたい。そして、

何でも吹き飛ばすおまえの力を俺のものにしたい。この世でいちばん
自由なのがおまえで、その次は俺だ。おまえを飼いならせる者などいない!
こどもだった頃、天を舞うおまえと

俺が仲間だった頃、
空を駆けぬけるおまえより俺のほうが速く飛べそうだった
あの頃にもし戻れたなら、にっちもさっちもいかなくなって

おまえに祈ったり、はりあおうとしたり、なんてこともないのにな。
おおお! 俺を飛ばせてくれ! 波のように、木の葉のように、雲のように!
俺は落ちてしまった! 人生の茨の棘が突き刺さる! 血だらけだ!

重い時の鎖に縛られ、俺は今、ひれ伏してしまっている。
西風、おまえにそっくりなこの俺が、速くて自由で傲慢なこの俺が、だ。

5
竪琴みたいに俺を鳴らせてくれ。そう、森が鳴るみたいに。
木の葉みたいに俺の葉が飛んでもかまわない!
おまえの美しくも乱れた大騒音のなか、

俺も森も深い秋の音を響かせるだろう、
甘く、そして悲しく。西風! 荒れ狂う魂!
俺に入ってくれ! 暴れまわるおまえが俺になれ!

枯れ葉みたいに死んでいる俺の思いを世界中に
飛ばしてくれ! 新しいもの、新しい芽を生み出すために!
そしてこの詩を歌い散らしながら、

まき散らせ! 燃え尽きていない炉から
灰や火花が飛ぶように、俺の言葉を飛ばしてくれ! 人々にむけて!
眠っている大地に向かって、俺の唇をとおして、

トランペットのように天の言葉を吹き鳴らせ! おおおおお、風よ!
冬が来たら、春だってもうすぐそこ、ってことだよな!

* * *
Percy Bysshe Shelley
"Ode to the West Wind"

1.
O wild West Wind, thou breath of Autumn's being,
Thou, from whose unseen presence the leaves dead
Are driven, like ghosts from an enchanter fleeing,

Yellow, and black, and pale, and hectic red,
Pestilence-stricken multitudes: O thou, _5
Who chariotest to their dark wintry bed

The winged seeds, where they lie cold and low,
Each like a corpse within its grave, until
Thine azure sister of the Spring shall blow

Her clarion o'er the dreaming earth, and fill _10
(Driving sweet buds like flocks to feed in air)
With living hues and odours plain and hill:

Wild Spirit, which art moving everywhere;
Destroyer and preserver; hear, oh, hear!

2.
Thou on whose stream, mid the steep sky's commotion, _15
Loose clouds like earth's decaying leaves are shed,
Shook from the tangled boughs of Heaven and Ocean,

Angels of rain and lightning: there are spread
On the blue surface of thine aery surge,
Like the bright hair uplifted from the head _20

Of some fierce Maenad, even from the dim verge
Of the horizon to the zenith's height,
The locks of the approaching storm. Thou dirge

Of the dying year, to which this closing night
Will be the dome of a vast sepulchre, _25
Vaulted with all thy congregated might

Of vapours, from whose solid atmosphere
Black rain, and fire, and hail will burst: oh, hear!

3.
Thou who didst waken from his summer dreams
The blue Mediterranean, where he lay, _30
Lulled by the coil of his crystalline streams,

Beside a pumice isle in Baiae's bay,
And saw in sleep old palaces and towers
Quivering within the wave's intenser day,

All overgrown with azure moss and flowers _35
So sweet, the sense faints picturing them! Thou
For whose path the Atlantic's level powers

Cleave themselves into chasms, while far below
The sea-blooms and the oozy woods which wear
The sapless foliage of the ocean, know _40

Thy voice, and suddenly grow gray with fear,
And tremble and despoil themselves: oh, hear!

4.
If I were a dead leaf thou mightest bear;
If I were a swift cloud to fly with thee;
A wave to pant beneath thy power, and share _45

The impulse of thy strength, only less free
Than thou, O uncontrollable! If even
I were as in my boyhood, and could be

The comrade of thy wanderings over Heaven,
As then, when to outstrip thy skiey speed _50
Scarce seemed a vision; I would ne'er have striven

As thus with thee in prayer in my sore need.
Oh, lift me as a wave, a leaf, a cloud!
I fall upon the thorns of life! I bleed!

A heavy weight of hours has chained and bowed _55
One too like thee: tameless, and swift, and proud.

5.
Make me thy lyre, even as the forest is:
What if my leaves are falling like its own!
The tumult of thy mighty harmonies

Will take from both a deep, autumnal tone, _60
Sweet though in sadness. Be thou, Spirit fierce,
My spirit! Be thou me, impetuous one!

Drive my dead thoughts over the universe
Like withered leaves to quicken a new birth!
And, by the incantation of this verse, _65

Scatter, as from an unextinguished hearth
Ashes and sparks, my words among mankind!
Be through my lips to unawakened earth

The trumpet of a prophecy! O, Wind,
If Winter comes, can Spring be far behind? _70

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4800

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

From Shelley, Epipsychidion

パーシー・ビッシュ・シェリー
「エピサイキディオン」 より

真の愛は、金や粘土とはちがう。
わけても減らず、小さくならないのだから。
愛は、理解のよう。たくさんの真理を見つめることで
よりいっそう明るく輝く。愛は、想像力の
光のよう。大地から、空から、
そして空想の海から、
まるでプリズムが放つ千の色が千の鏡に映るかのように、
世界中にまばゆい光線を放つ。そして誤りという
蛇を殺す、日の光の矢のように次から次へとふり注ぎ、
水に映る稲妻のように輝いて。ひとりしか
愛せない心、ひとつのことしか考えれらない頭脳、
ひとつの目的しかもたない命は、みな小さくとるに足らない。
ひとつの目的と形式に自分を縛る魂もそう。永遠の
存在である自分を墓に葬ってしまっているのだから。

* * *
Percy Bysshe Shelley
From "Epipsychidion"

True Love in this differs from gold and clay, _160
That to divide is not to take away.
Love is like understanding, that grows bright,
Gazing on many truths; 'tis like thy light,
Imagination! which from earth and sky,
And from the depths of human fantasy, _165
As from a thousand prisms and mirrors, fills
The Universe with glorious beams, and kills
Error, the worm, with many a sun-like arrow
Of its reverberated lightning. Narrow
The heart that loves, the brain that contemplates, _170
The life that wears, the spirit that creates
One object, and one form, and builds thereby
A sepulchre for its eternity.

* * *
一夫一妻制に対する反論……。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4800

* * *
(あくまで私の理解と好みによるものですが)
内容と雰囲気をわかりやすく伝えるために、
自由に日本語訳をつくっています。

使用している辞書はOxford English Dictionary(のみ)。

学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "Ozymandias"

パーシー・ビッシュ・シェリー
「ラムセス二世」

いにしえの国を旅してきた人に会った。
彼は言った--「大きな足だけの石像が
砂漠に立ってて、その近くに
壊れかけた顔の部分が半分埋もれてた。しかめっ面を
してて、くちびるはしわしわで、冷たく、偉そうににやりとしてて・・・・・・
これをつくった人はそのモデルの性格をよく知ってたんだ、
命をもたない石のかたまりからそれが伝わるんだから。
これをつくった人や、そんな心の持ち主が死んだはるか後でも、ね。
石像の台のところにはこう書いてあった--
吾が名はラムセス二世、王の王なり。
強大なる者、吾なしとげたるもの見よ、して絶望すべし!--
ほかには何もなかった。この崩れた
巨大な像のまわりには、はてしなく、何もない
砂漠が寂しく広がってた。ずーっと、はるかかなたまで。」

* * *
Percy Bysshe Shelley (1792-1822)
"Ozymandias"

I met a Traveler from an antique land,
Who said, "Two vast and trunkless legs of stone
Stand in the desart. Near them, on the sand,
Half sunk, a shattered visage lies, whose frown,
And wrinkled lip, and sneer of cold command,
Tell that its sculptor well those passions read,
Which yet survive, stamped on these lifeless things,
The hand that mocked them and the heart that fed:
And on the pedestal these words appear:
'My name is OZYMANDIAS, King of Kings.
Look on my works ye Mighty, and despair!'
No thing beside remains. Round the decay
Of that Colossal Wreck, boundless and bare,
The lone and level sands stretch far away."

* * *
英語テクストは次のページから。
http://www.potw.org/archive/potw46.html

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

From Shelley, The Cenci, 5.4

パーシー・B・シェリー
『チェンチ一族』 5幕4場より

ベアトリーチェ:
[とり乱したようすで]
ねえ、神さま! おかしいですよね?
こんなにすぐわたしは死ななくてはならないの?
まだ若いのに、暗くて冷たい土のなかに埋められて、
うじ虫に食べられて腐っていくなんていやよ!
せまい棺桶に釘つきのふたでとじこめられて、
もう輝く太陽も見れない、
生きものの楽しい声も聞けない、なんて、そんなのいや!
あたりまえないろんなことを考えることもなくなって、
悲しいことすらもう頭に浮かばないなんて、絶対にいやよ!
ひどすぎる! こわい! わたしが消えてなくなるなんて!
どうなっちゃうの? え? あれ? ここは・・・・・・どこ・・・・・・?
もういや! 頭がおかしくなりそう!
やさしい神さま、わたし弱くてごめんなさい!
でも、どうすればいいの? もしこの空っぽの世界には
神さまなんていなくて、天国もなくて、この世も実は嘘だったとしたら?
広くて、灰色で、あかりもなく、底なしに深いこの世界で、
わたし、ひとりぼっちだったとしたら?
この世のものはみんなお父さまの霊が化けたもので、
お父さまの目、声、手が、わたしをとりかこんでいるとしたら?
生きながらにして死んでいるわたしのまわりにの空気みたいに?
わたし自身の息みたいに? もし、お父さまがこの世に
いたときのような姿で、わたしを苦しめたときのようなあんな姿で、
灰色の髪、しわだらけの顔、なんて仮面をつけてやってきて、
悪魔のような腕でわたしをつつんで、わたしの目を
じっと見つめて、そして下に、下に、下に、引きずり落ろそうとしたら?
だって、まるで神さまみたいに、あの人にできないことは
なかったのですもの! あの人はどこにでもいたのですもの!
だから、死んでも、あの人の魂は、生きて息をしている
すべてのもののなかで生きていて、前と同じように、
わたしや大事な人たちの破滅をたくらんでるんじゃないかしら!
わたしたちがあざけられて、苦しみ、そして絶望するように!
誰か、生き返った人っているのかしら? 誰も行ったことのない
死の王国の法律を教えてくれるような人は?
でもそれも、たぶん正しくない法律のはず。
今わたしたちを追ってくる法律と同じくらい、まちがってる。
追いかけられて、わたしたちどうなるの? ねえ、どうなっちゃうの?

ルクレティア:
やさしい神さまの愛を信じるのよ。
やさしい救い主の約束を信じるの。
夜が来るころには、わたしたち、天国にいるはずよ。

ベアトリーチェ:
そんな話、もう聞きたくない!
これから何がおこるかわからないけど、もうわたしはどん底。
これ以上落ちこむことはないくらい。
でも、よくわからないけど、天国の話とか、心がもっと凍りそうなの。
時間の無駄で、インチキで、そして冷たいわ、何もかも。
わたし、本当にひどい目にたくさんあってきた。
神さまにも、人にも、それから、
わたしの運命を悲惨な方向に導いてきた星とかにも、
区別がついてなかったんじゃないかしら。
何が善で、何が悪か、っていう、ね。本当にそうよ。
だから、わたしの世界に、もうわたしはいないの。
光と命と愛の世界から追い出されちゃったの。こんなに若いのに。
今さら神を信じてっていわれても困っちゃう。
信じたい、とは思うわ、もちろん。
他に信じられるものなんてないもの。
でも、もうわたしの心は冷たくなってしまってるのよ。

[ベアトリーチェが話している途中から、ジャコモは
下がってカミルロと何かを話す。カミルロは舞台から去り、
ジャコモは前に出る。]

ジャコモ:
ご存知ですよね、お母さま。ベアトリーチェ、知ってるよね?
ベルナルドが今、教皇に会いに行っています。
わたしたちの恩赦を求めて、です。

ルクレティア:
そうね、たぶん、
恩赦がいただけるわ。わたしたちみんな死刑にならずにすむのよ。
そして何年か経ったら、この苦しみも昔話みたいになるわ。
ああ、本当にそうなったらいいのに! 心が熱くなるわ。
まるであたたかい血が入ってきたかのよう。

ベアトリーチェ:
いいえ、心も血もすぐに冷たくなるわ。
ねえ、そんな考えは踏みつぶしてしまって!
絶望よりも悪いのは、つらい死よりも悪いのは、希望よ。
あと少ししか生きられなくて、めまいと痛みに襲われてて、
もうふらふらで今にも倒れそうなのに、
それでも心に忍びこんでくるんだから!
あっという間に襲ってくる霜に、
春の最初に咲いた花を枯らさないで、ってお願いしたほうがましよ。
それか、目を覚ましてしまった地震にお願いしたら?
その上にある強く、美しく、そして自由な都市を助けてあげて、って。
黒くて嫌なにおいのする大地の口を開いてのみこまないで、って。
そうよ、飢餓や、風にのってくる疫病や、
盲目の稲妻や、耳の聞こえない海にお願いしたほうがまし。
人間なんかよりね! 残酷、冷酷で、
かたちだけのルールにしばられてるんだから。
いうことはりっぱでも、やることはカインと同じなの。
そう、お母さま、わたしたちは死ぬのよ。
正しく生きてきたら、そういうごほうびがもらえるの。
そうして最悪の不幸から解放されるの。
逆に、わたしたちを殺す殺し屋たち、頑なで冷たいあの人たちは、
泣いてる人々のなかでニコニコしながら長生きして、
そしてまるで眠るかのように死んでいくの。
わたしたちにとって、お墓がちょっと楽しいところだったらいいのにな。
さあ、よくわからないけど、〈死〉よ、来て。
すべてを抱きしめるその腕でわたしをつつんで!
やさしい母のように、わたしを胸に抱いて隠して。
そして揺らして、わたしが眠るまで。そしたらもう起きないから。
生きていられる人は生きればいいわ。たがいに支配し、支配されながら。
わたしたちもそうだったけど、でも、もう・・・・・・。

[ベルナルドが走って登場]

ベルナルド:
ああ、ひどすぎる!
祈りながら希望が注ぎ出した涙、そしてまなざし、
それで心が空っぽになり、希望もなくなってしまったというのに、
これがみんな無駄だったなんて! 死神の手下が
ドアのところで目を光らせてる。奴らのうちのひとりの顔には、
たぶん血がついていた・・・・・・。気のせい、かな?
でも、もうすぐ、ぼくの大切な人すべての血が
奴にふりかかるんだ。そして奴は、それをぬぐい落とすんだ、
ただの雨粒みたいに! ああ、この命! この世界!
ぼくを覆い隠して! もう消えたい!
まさに純粋さそのものであるような姉さん、
姉さんを見てたからぼくは幸せだった、いい人になれた、
そんな姉さんがこなごなの塵にかえっていくなんて!
ベアトリーチェ姉さん、
姉さんに見つめられたものは何でも美しくなった、
姉さんは命のあかりだった。
なのに死ぬなんて! 暗くなってしまうなんて!
姉さん、って呼んだときに、
おまえに姉さんなんかいない、といわれるようになってしまうなんて!
それから、母さん、母さんのやさしさがぼくたちみんなをつつんできてくれた、
そんな母さんも死ぬなんて! 大事な絆が壊されてしまうなんて!

[カミルロと護衛が登場]

あの人たちだ!
姉さん、そのあたたかい唇にキスさせて。
すぐにその真っ赤な花びらは、病んで枯れて、
白くなるのだから・・・・・・冷たくなってしまうのだから。
さよならをいって!
もうじき死神に首を絞められて、そのやさしい声も出なくなってしまうのだから!
ねえ、何かいって! 声を聞かせて!

ベアトリーチェ:
さようなら、ベルナルド。こんなふうに死ぬのは悲しいけど、
でも、とり乱したらダメよ。
ひどい、かわいそう、って思うくらいならいいけど、
でも、悲しくてもがまんするのよ。絶望して荒れたりしたらダメだからね。
泣いて、そして耐えるの。
あと、もうひとつ、お願い、
わたしたち家族を思う気持ちを忘れないで。
そして信じて、
変な雲みたいな罪と恥にまみれてしまったけど、
わたしはいつも清らかに、汚れなく生きてきた、って。
たぶん、口の悪い人たちが、わたしのこと、ひどくいうと思うわ。
わたしの家族だから、罪のないあなたも額に烙印が押されて、
後ろ指をさされることでしょうね。
でも、ごめんなさい、がまんしてね。
わたしたちのこと、悪く思わないで。
お墓に入っても、あなたを愛してるんだから。
死ぬまで安らかに生きていくのよ。
恐怖と悲しみに打ち勝つの。今のわたしみたいにね!
さようなら・・・・・・さようなら!

ベルナルド:
いやだよ! さよならなんて!

カミルロ:
ベアトリーチェさま!

ベアトリーチェ:
悲しんでいただくことなんてないわ、枢機卿さま。
お母さま、この帯を結んで。
それから、髪もあげてくれる? かんたんでいいからね。
・・・・・・ありがと、これでいいわ。
お母さまの髪も落ちてきてるわよ。
よくふたりでこんなふうにしてたよね・・・・・・
でも、今日が最後だわ。
さあ、枢機卿さま、準備ができました。行きましょ。

[おわり]

* * *
(英語テクストどおりの改行で)

ベアトリーチェ:
[とり乱したようすで]
ああ、
神さま! おかしいですよね? こんなにすぐ
わたしは死ななくてはならないの? まだ若いのに、暗くて
冷たい土のなかに埋められてうじ虫に食べられて腐っていくなんていやよ!
せまい棺桶に釘つきのふたでとじこめられて、
もう輝く太陽も見れない、生きものの
楽しい声も聞けない、なんて、そんなのいや! あたりまえないろんなことを
考えることもなくなって、悲しいことすらもう頭に浮かばないなんて、絶対にいやよ!
ひどすぎる! こわい! わたしが消えてなくなるなんて! どうなっちゃうの?
え? あれ? ここは・・・・・・どこ・・・・・・? もういや! 頭がおかしくなりそう!
やさしい神さま、わたし弱くてごめんなさい! でも、どうすればいいの? もし
この空っぽの世界には神さまなんていなくて、天国もなくて、この世も実は嘘だったとしたら?
広くて、灰色で、あかりもなく、底なしに深いこの世界で、わたし、ひとりぼっちだったとしたら?
この世のものはみんなお父さまの霊が化けたもので、
お父さまの目、声、手が、わたしをとりかこんでいるとしたら?
生きながらにして死んでいるわたしのまわりにの空気みたいに? わたし自身の息みたいに?
もし、お父さまがこの世にいたときのような姿で、
わたしを苦しめたときのようなあんな姿で、
灰色の髪、しわだらけの顔、なんて仮面をつけてやってきて、
悪魔のような腕でわたしをつつんで、わたしの目を
じっと見つめて、そして下に、下に、下に、引きずり落ろそうとしたら?
だって、まるで神さまみたいに、あの人にできないことはなかったのですもの!
あの人はどこにでもいたのですもの! だから、死んでも、
あの人の魂は、生きて息をしているすべてのもののなかで生きていて、
前と同じように、わたしや大事な人たちの破滅をたくらんでるんじゃないかしら!
わたしたちがあざけられて、苦しみ、そして絶望するように! 誰か、生き返った人って
いるのかしら? 誰も行ったことのない死の王国の法律を教えてくれるような人は?
でもそれも、たぶん正しくない法律のはず。今わたしたちを追ってくる法律と同じくらい、
まちがってる。追いかけられて、わたしたちどうなるの?
ねえ、どうなっちゃうの?

ルクレティア:
やさしい神さまの愛を信じるのよ。
やさしい救い主の約束を信じるの。夜が来るころには、
わたしたち、天国にいるはずよ。

ベアトリーチェ:
そんな話、もう聞きたくない!
これから何がおこるかわからないけど、もうわたしはどん底。これ以上落ちこむことはないくらい。
でも、よくわからないけど、天国の話とか、心がもっと凍りそうなの。
時間の無駄で、インチキで、そして冷たいわ、何もかも。わたし、
本当にひどい目にたくさんあってきた。
神さまにも、人にも、
それから、わたしの運命を悲惨な方向に導いてきた星とかにも、
区別がついてなかったんじゃないかしら。
何が善で、何が悪か、っていう、ね。本当にそうよ。
だから、わたしの世界に、もうわたしはいないの。
光と命と愛の世界から追い出されちゃったの。こんなに若いのに。
今さら神を信じてっていわれても困っちゃう。
信じたい、とは思うわ、もちろん。他に
信じられるものなんてないもの。でも、もうわたしの心は冷たくなってしまってるのよ。

[ベアトリーチェが話している途中から、ジャコモは
下がってカミルロと何かを話す。カミルロは舞台から去り、
ジャコモは前に出る。]

ジャコモ:
ご存知ですよね、お母さま。ベアトリーチェ、知ってるよね?
ベルナルドが今、教皇に会いに行っています。
わたしたちの恩赦を求めて、です。

ルクレティア:
そうね、たぶん、
恩赦がいただけるわ。わたしたちみんな死刑にならずにすむのよ。
そして何年か経ったら、この苦しみも昔話みたいになるわ。
ああ、本当にそうなったらいいのに! 心が熱くなるわ。
まるであたたかい血が入ってきたかのよう。

ベアトリーチェ:
いいえ、心も血もすぐに冷たくなるわ。
ねえ、そんな考えは踏みつぶしてしまって! 絶望よりも悪いのは、
つらい死よりも悪いのは、希望よ。
あと少ししか生きられなくて、めまいと痛みに襲われてて、もうふらふらで
今にも倒れそうなのに、それでも心に忍びこんでくるんだから! あっという間に
襲ってくる霜に、春の最初に咲いた花を枯らさないで、ってお願いしたほうがましよ。
それか、目を覚ましてしまった地震にお願いしたら? その上にある
強く、美しく、そして自由な都市を助けてあげて、って。
黒くて嫌なにおいのする大地の口を開いてのみこまないで、って。
そうよ、飢餓や、風にのってくる疫病や、
盲目の稲妻や、耳の聞こえない海にお願いしたほうがまし。人間なんかよりね!
残酷、冷酷で、かたちだけのルールにしばられてるんだから。いうことはりっぱでも、
やることはカインと同じなの。そう、お母さま、わたしたちは死ぬのよ。
正しく生きてきたら、そういうごほうびがもらえるの。
そうして最悪の不幸から解放されるの。
逆に、わたしたちを殺す殺し屋たち、頑なで冷たいあの人たちは、
泣いてる人々のなかでニコニコしながら長生きして、
そしてまるで眠るかのように死んでいくの。わたしたちにとって、
お墓がちょっと楽しいところだったらいいのにな。さあ、よくわからないけど、
〈死〉よ、来て。すべてを抱きしめるその腕でわたしをつつんで!
やさしい母のように、わたしを胸に抱いて隠して。
そして揺らして、わたしが眠るまで。そしたらもう起きないから。
生きていられる人は生きればいいわ。たがいに支配し、支配されながら。
わたしたちもそうだったけど、でも、もう・・・・・・。

[ベルナルドが走って登場]

ベルナルド:
ああ、ひどすぎる!
祈りながら希望が注ぎ出した涙、そしてまなざし、
それで心が空っぽになり、希望もなくなってしまったというのに、
これがみんな無駄だったなんて! 死神の手下が
ドアのところで目を光らせてる。奴らのうちのひとりの顔には、
たぶん血がついていた・・・・・・。気のせい、かな?
でも、もうすぐ、ぼくの大切な人すべての血が
奴にふりかかるんだ。そして奴は、それをぬぐい落とすんだ、
ただの雨粒みたいに! ああ、この命! この世界!
ぼくを覆い隠して! もう消えたい! まさに
純粋さそのものであるような姉さん、
姉さんを見てたからぼくは幸せだった、いい人になれた、
そんな姉さんがこなごなの塵にかえっていくなんて! ベアトリーチェ姉さん、
姉さんに見つめられたものは何でも美しくなった、
姉さんは命のあかりだった、なのに死ぬなんて! 暗くなってしまうなんて! 姉さん、って呼んだときに、
おまえに姉さんなんかいない、といわれるようになってしまうなんて! それから、母さん、
母さんのやさしさがぼくたちみんなをつつんできてくれた、
そんな母さんも死ぬなんて! 大事な絆が切れてしまうなんて!

[カミルロと護衛が登場]

あの人たちだ! 姉さん、そのあたたかい
唇にキスさせて。すぐにその真っ赤な花びらは、
病んで枯れて、白くなるのだから・・・・・・冷たくなってしまうのだから。さよならをいって!
もうじき死神に首を絞められて、そのやさしい声も出なくなってしまうのだから! ねえ、
何かいって! 声を聞かせて!

ベアトリーチェ:
さようなら、ベルナルド。こんなふうに死ぬのは悲しいけど、
でも、とり乱したらダメよ。
ひどい、かわいそう、って思うくらいならいいけど、
でも、悲しくてもがまんするのよ。絶望して荒れたりしたらダメだからね。
泣いて、そして耐えるの。あと、もうひとつ、
お願い、わたしたち家族を思う気持ちを
忘れないで。そして信じて、
変な雲みたいな罪と恥にまみれてしまったけど、
わたしはいつも清らかに、汚れなく生きてきた、って。たぶん
口の悪い人たちが、わたしのこと、ひどくいうと思うわ。わたしの家族だから、
罪のないあなたも額に烙印が押されて、
後ろ指をさされることでしょうね。でも、ごめんなさい、
がまんしてね。わたしたちのこと、
悪く思わないで。お墓に入っても、あなたを愛してるんだから。
死ぬまで安らかに生きていくのよ。恐怖と悲しみに
打ち勝つの。今のわたしみたいにね! さようなら・・・・・・さようなら!

ベルナルド:
いやだよ! さよならなんて!

カミルロ:
ベアトリーチェさま!

ベアトリーチェ:
悲しんでいただくことなんてないわ、
枢機卿さま。お母さま、この帯を
結んで。それから、髪もあげてくれる?
かんたんでいいからね。・・・・・・ありがと、これでいいわ。
お母さまの髪も落ちてきてるわよ。よく
ふたりでこんなふうにしてたよね・・・・・・でも
今日が最後だわ。さあ、枢機卿さま、
準備ができました。行きましょ。

[おわり]

* * *
Percy Bysshe Shelley
From The Cenci, Act 5, Scene 4

BEATRICE [WILDLY]:
O
My God! Can it be possible I have
To die so suddenly? So young to go
Under the obscure, cold, rotting, wormy ground! _50
To be nailed down into a narrow place;
To see no more sweet sunshine; hear no more
Blithe voice of living thing; muse not again
Upon familiar thoughts, sad, yet thus lost―
How fearful! to be nothing! Or to be. . . _55
What? Oh, where am I? Let me not go mad!
Sweet Heaven, forgive weak thoughts! If there should be
No God, no Heaven, no Earth in the void world;
The wide, gray, lampless, deep, unpeopled world!
If all things then should be . . . my father's spirit, _60
His eye, his voice, his touch surrounding me;
The atmosphere and breath of my dead life!
If sometimes, as a shape more like himself,
Even the form which tortured me on earth,
Masked in gray hairs and wrinkles, he should come _65
And wind me in his hellish arms, and fix
His eyes on mine, and drag me down, down, down!
For was he not alone omnipotent
On Earth, and ever present? Even though dead,
Does not his spirit live in all that breathe, _70
And work for me and mine still the same ruin,
Scorn, pain, despair? Who ever yet returned
To teach the laws of Death's untrodden realm?
Unjust perhaps as those which drive us now,
Oh, whither, whither?

LUCRETIA:
Trust in God's sweet love, _75
The tender promises of Christ: ere night,
Think, we shall be in Paradise.

BEATRICE:
'Tis past!
Whatever comes, my heart shall sink no more.
And yet, I know not why, your words strike chill:
How tedious, false, and cold seem all things. I _80
Have met with much injustice in this world;
No difference has been made by God or man,
Or any power moulding my wretched lot,
'Twixt good or evil, as regarded me.
I am cut off from the only world I know, _85
From light, and life, and love, in youth's sweet prime.
You do well telling me to trust in God;
I hope I do trust in him. In whom else
Can any trust? And yet my heart is cold.

[DURING THE LATTER SPEECHES GIACOMO HAS RETIRED CONVERSING WITH CAMILLO, WHO NOW GOES OUT; GIACOMO ADVANCES.]

GIACOMO:
Know you not, Mother . . . Sister, know you not? _90
Bernardo even now is gone to implore
The Pope to grant our pardon.

LUCRETIA:
Child, perhaps
It will be granted. We may all then live
To make these woes a tale for distant years:
Oh, what a thought! It gushes to my heart _95
Like the warm blood.

BEATRICE:
Yet both will soon be cold.
Oh, trample out that thought! Worse than despair,
Worse than the bitterness of death, is hope:
It is the only ill which can find place
Upon the giddy, sharp, and narrow hour _100
Tottering beneath us. Plead with the swift frost
That it should spare the eldest flower of spring:
Plead with awakening earthquake, o'er whose couch
Even now a city stands, strong, fair, and free;
Now stench and blackness yawn, like death. Oh, plead _105
With famine, or wind-walking Pestilence,
Blind lightning, or the deaf sea, not with man!
Cruel, cold, formal man; righteous in words,
In deeds a Cain. No, Mother, we must die:
Since such is the reward of innocent lives; _110
Such the alleviation of worst wrongs.
And whilst our murderers live, and hard, cold men,
Smiling and slow, walk through a world of tears
To death as to life's sleep; 'twere just the grave
Were some strange joy for us. Come, obscure Death, _115
And wind me in thine all-embracing arms!
Like a fond mother hide me in thy bosom,
And rock me to the sleep from which none wake.
Live ye, who live, subject to one another
As we were once, who now . . .

[BERNARDO RUSHES IN.]

BERNARDO:
Oh, horrible! _120
That tears, that looks, that hope poured forth in prayer,
Even till the heart is vacant and despairs,
Should all be vain! The ministers of death
Are waiting round the doors. I thought I saw
Blood on the face of one . . . What if 'twere fancy? _125
Soon the heart's blood of all I love on earth
Will sprinkle him, and he will wipe it off
As if 'twere only rain. O life! O world!
Cover me! let me be no more! To see
That perfect mirror of pure innocence _130
Wherein I gazed, and grew happy and good,
Shivered to dust! To see thee, Beatrice,
Who made all lovely thou didst look upon…
Thee, light of life … dead, dark! while I say, sister,
To hear I have no sister; and thou, Mother, _135
Whose love was as a bond to all our loves…
Dead! The sweet bond broken!

[ENTER CAMILLO AND GUARDS.]

They come! Let me
Kiss those warm lips before their crimson leaves
Are blighted…white…cold. Say farewell, before
Death chokes that gentle voice! Oh, let me hear _140
You speak!

BEATRICE:
Farewell, my tender brother. Think
Of our sad fate with gentleness, as now:
And let mild, pitying thoughts lighten for thee
Thy sorrow's load. Err not in harsh despair,
But tears and patience. One thing more, my child: _145
For thine own sake be constant to the love
Thou bearest us; and to the faith that I,
Though wrapped in a strange cloud of crime and shame,
Lived ever holy and unstained. And though
Ill tongues shall wound me, and our common name _150
Be as a mark stamped on thine innocent brow
For men to point at as they pass, do thou
Forbear, and never think a thought unkind
Of those, who perhaps love thee in their graves.
So mayest thou die as I do; fear and pain _155
Being subdued. Farewell! Farewell! Farewell!

BERNARDO:
I cannot say, farewell!

CAMILLO:
Oh, Lady Beatrice!

BEATRICE:
Give yourself no unnecessary pain,
My dear Lord Cardinal. Here, Mother, tie
My girdle for me, and bind up this hair _160
In any simple knot; ay, that does well.
And yours I see is coming down. How often
Have we done this for one another; now
We shall not do it any more. My Lord,
We are quite ready. Well, 'tis very well. _165

THE END.

* * *
父に性的虐待を受けてきたベアトリーチェは、
義母ルクレティアや兄弟の支援を得て父を殺す(史実)。
(この劇では暗殺者を使って殺す。)
この罪(?)に問われて彼女たちは処刑されることになる。

その最後の場面より。

* * *
シェリーの著作中、彼が生きているあいだに
売れた(二版が出た)唯一のもの。

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley (tr.), "To Stella"

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822) (訳)
プラトン、「ステラに」

君は、生きている人たちのなか、暁の明星のようだった。
君が美しく光っていた頃--
今、死んでしまった君は、宵の明星のよう。
死んでしまった人たちを、ふたたび、輝かしく、照らしている。

* * *
Percy Bysshe Shelley (tr.)
Plato, "To Stella"

Thou wert the morning star among the living,
Ere thy fair light had fled;---
Now, having died, thou art as Hesperus, giving
New splendour to the dead.

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley (tr.), ("Kissing Helena")

パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1822) (訳)
プラトン、(「ヘレナにキスしたとき」)

ヘレナにキスしたとき、
そのキスといっしょに、魂まで
唇にのぼってきたから、ぼくは、あわててそれを引きとめた。
だって、このバカな子は、ふらふらとそこにのぼってきて、
そして、ヘレナのキスについて行こうとしたんだから。
ああ、ぼくって、ひどい! それをとめてしまうなんて!

* * *
Percy Bysshe Shelley (tr.)
Plato, ("Kissing Helena")

Kissing Helena, together
With my kiss, my soul beside it
Came to my lips, and there I kept it,―
For the poor thing had wandered thither,
To follow where the kiss should guide it,
Oh, cruel I, to intercept it!

* * *
英語テクストは、次のページのものより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4799

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いいたします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "Autumn: A Dirge"

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「秋--葬送の歌--」

1.
あたたかい太陽が力を失い、冷たい風が悲しみに泣き声をあげ、
葉を失った枝がため息をつき、花が色あせ、死につつあり、
そして〈一年〉が
死の床である大地に、経帷子として死んだ葉を身にまとい、
横たわっている。
来て、〈月〉たち、〈十一月〉から
〈五月〉までの〈月〉たち、さあ、出てきて、
いちばん暗い色の服を着て。
ついて行こう、
死んで冷たくなった〈一年〉の棺の車に。
そして影のように闇にまぎれて、お墓のところでお通夜をしよう。

2.
冷たい雨が落ち、凍えた虫たちがはいまわり、
川は大きくうねり、雷が弔いの鐘を鳴らしている、
〈一年〉のために。
陽気なツバメたちは飛んでいってしまい、トカゲもみな
住みかに帰っていった。
来て、〈月〉たち、出てきて、
白、黒、灰色の服を着て。
軽やかで明るいお姉さん・妹たちは遊ばせておいて。
さあ、ついて行こう、
死んで冷たくなった〈一年〉の棺の車に。
そして涙に涙を流し、〈彼女〉のお墓を緑の草で飾ろう。

* * *
Percy Bysshe Shelley
"Autumn: A Dirge"

1.
The warm sun is failing, the bleak wind is wailing,
The bare boughs are sighing, the pale flowers are dying,
And the Year
On the earth her death-bed, in a shroud of leaves dead,
Is lying.
Come, Months, come away,
From November to May,
In your saddest array;
Follow the bier
Of the dead cold Year,
And like dim shadows watch by her sepulchre.

2.
The chill rain is falling, the nipped worm is crawling,
The rivers are swelling, the thunder is knelling
For the Year;
The blithe swallows are flown, and the lizards each gone
To his dwelling;
Come, Months, come away;
Put on white, black, and gray;
Let your light sisters play---
Ye, follow the bier
Of the dead cold Year,
And make her grave green with tear on tear.

* * *
「雲」と同様、自然現象を擬人化して語る詩。

過ぎゆく〈一年〉を女性--おそらく母--として擬人化し、
同じく擬人化された〈月〉たち--ひと月ひと月、おそらく
娘たち--が嘆き、弔う場面を描く。

(日本語訳における〈 〉は擬人化されていることを
あらわす。)

この弔いに呼ばれているのは、〈十一月〉、〈十二月〉、
〈一月〉・・・・・・〈五月〉。つまり秋から春までの〈月〉。

明るく暑い、楽しげな夏の〈月〉たち、〈六月〉から〈八月〉
--これがlight sisters--は、弔いの場に
似あわないので、呼ばれていない。

最後の最後に次の一年・次の春をあらわす「緑」にふれて、
ほんの少しだけ希望のようなものを暗示。

* * *
英語テクストは、The Complete Poetical Works of Percy
Bysshe Shelley, vol. 2 (Oxford, 1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」 (日本語訳)

やあ、陽気な妖精の君!
君は絶対に鳥じゃない。
天から、あるいはそこに近いところから、
君は心そのものをそそぐ。
あふれるほどの即興のメロディというかたちに変えて。
(1-5)

どんどん高く、さらに高く、
大地から君は飛び立つ。
まるで炎の雲のように。
君は青く深い空を横切って飛ぶ。
歌いながら舞いあがり、そして舞いあがりながら歌う。
(6-10)

沈んだ太陽の
金色の稲妻のなかを、
輝く雲の下を、
君は漂い、駆けぬける。
まるで、からだをもたない「歓び」そのものが走りはじめたかのように。
(11-15)

赤くおぼろげな夕暮れが、
君が飛ぶまわりで溶ける。
天の星が
一面に広がる日の光のなかで見えないように、
君も見えない。が、君の鋭い高音の歓びが聞こえる。
(16-20)

君の声はまるで鋭い矢、
あの銀色の星から降る矢だ。
その星のまぶしい光は弱くなっていく、
透き通るような白い夜明けのなかで。
そしてほとんど見えなくなる・・・・・・が、そこに銀の星は確かにあって。
(21-25)

大地そのものが、すべての空気が、
君の声で大きく鳴りひびく。
まるで、裸の夜に、
ひとつだけ浮かぶ雲から
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水になるように。
(26-30)

君が何なのか、ぼくたちは知らない。
君に似ているものは何?
虹の雲から、
そんなまぶしい雨粒は流れてこない、
君のいるところから降ってくるメロディの雨ほどには。
(31-35)

---

By jannefoo (Janne V)
http://jannefoo.deviantart.com/art/
BowRain-34239662?fullview=1
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Rainbow_panorama.jpg?uselang=ja
---

たとえば、君は詩人のよう? 思考の光のなかに
隠れていて、頼まれもしないのに
賛美歌を歌う。
すると世界中の人々が、
これまで気にとめていなかった希望と恐れで共鳴しはじめる。
(36-40)

それとも貴族の家の少女のよう?
お城の塔のなか、
愛がいっぱいで重い
魂を、こっそり夜に癒す
愛のように甘い音楽で・・・・・・そしてそれは洪水のように部屋からあふれ出す。
(41-45)

それとも金色の蛍?
木々から露のしたたる谷で、
誰のためにでもなく、
空気のように透明な光を
草花のあいだにまき散らす・・・・・・自分はその後ろに隠れつつ。
(46-50)

それともバラ? 緑の葉の
小部屋のなか、それは
あたたかい風に散らされる。
するとその香りで、
盗人たちの気が遠くなり、その羽も重くなる・・・・・・香りがあまりにも甘いから。
(51-55)

春の雨が、
キラキラ光る草に降る音、
雨に目を覚ます花々、
その他すべての
楽しげで、透きとおっていて、新しく、いきいきしたもの。でも君の歌はさらに上をいく。
(56-60)

教えてほしい、妖精または鳥の君、
どんなすてきなことを考えているの?
ぼくは聞いたことがない、
愛やワインを称える歌が、
君の歌ほど神々しい陶酔の洪水を、熱く、大きな音で流すのを。
(61-65)

結婚の合唱も、
勝利の歌も、
君の歌に比べれば、みな
中身のないいきがり、ほらのようなもの。
はっきりわからないが、そこには必ず何かが欠けている。
(66-70)

源には何がある?
君の楽しげな歌の源には?
どんな野原、波、山?
どんな姿の空、平野?
仲間に対するどんな愛? 苦痛に対するどんな無知?
(71-75)

君の透明で鋭い歓びは
疲れることを知らない。
不満やいらだちの影すら
けっして君には近づかない。
君は愛する・・・・・・そして愛に満ち飽きる悲しみを知らない。
(76-80)

目覚めていても、夢のなかでも、
君は知っているにちがいない、
死がより真正で、より深いものであると。
ぼくたち人間が夢見るより、はるかに正しく、深いものと。
でなければ、君の歌声はそのように、水晶の川のように、流れ出ないはずだろう?
(81-85)

ぼくたちは過去ふりかえり、未来を望む。
そして、そこにないものを求めて、病み、衰える。
心の底から笑っているときにも、
どこかに痛みを抱えている。
ぼくたちのもっとも美しい歌は、もっとも深い悲しみを歌う。
(86-90)

でも、もしぼくたちに、
憎しみ、傲慢、恐れをあざけることができないなら、
生まれながらにしてぼくたちは
涙を流す運命にあるのなら、
そもそも楽しみ、歓ぶ君の歌は聞こえてこないはずではないか。
(91-95)

どんなメロディやリズム、
どんな心地よい音より、
書物に記された
どんな宝より、
君の歌は詩人に多くを教えてくれる。大地をあざける君!
(96-100)

半分でいいから教えてほしい、
君の頭のなかにあるはずの楽しみ、歓びを。
そうすれば、狂いつつ調和するメロディが
ぼくの口から流れ出て、
すべての人々に聞こえるだろう。そう、今、ぼくが聞いているようなメロディが。
(101-5)

* * *
Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)
Shelley, "To a Skylark" (解説)
"To a Skylark" (詩形・リズム)

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために
上記を参照する際には、このサイトの作者、
タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)

Percy Bysshe Shelley
"To a Skylark" (英語テクスト)

Hail to thee, blithe Spirit!
Bird thou never wert,
That from Heaven, or near it,
Pourest thy full heart
In profuse strains of unpremeditated art.
(1-5)

Higher still and higher
From the earth thou springest
Like a cloud of fire;
The blue deep thou wingest,
And singing still dost soar, and soaring ever singest.
(6-10)

In the golden lightning
Of the sunken sun,
O'er which clouds are bright'ning,
Thou dost float and run;
Like an unbodied joy whose race is just begun.
(11-15)

The pale purple even
Melts around thy flight;
Like a star of Heaven,
In the broad daylight
Thou art unseen, but yet I hear thy shrill delight,
(16-20)

Keen as are the arrows
Of that silver sphere,
Whose intense lamp narrows
In the white dawn clear
Until we hardly see--we feel that it is there.
(21-25)

All the earth and air
With thy voice is loud,
As, when night is bare,
From one lonely cloud
The moon rains out her beams, and Heaven is overflowed.
(26-30)

What thou art we know not;
What is most like thee?
From rainbow clouds there flow not
Drops so bright to see,
As from thy presence showers a rain of melody.
(31-35)

Like a Poet hidden
In the light of thought,
Singing hymns unbidden,
Till the world is wrought
To sympathy with hopes and fears it heeded not:
(36-40)

Like a high-born maiden
In a palace tower,
Soothing her love-laden
Soul in secret hour
With music sweet as love, which overflows her bower:
(41-45)

Like a glow-worm golden
In a dell of dew,
Scattering unbeholden
Its aereal hue
Among the flowers and grass, which screen it from the view:
(46-50)

Like a rose embowered
In its own green leaves,
By warm winds deflowered,
Till the scent it gives
Makes faint with too much sweet those heavy-winged thieves:
(51-55)

Sound of vernal showers
On the twinkling grass,
Rain-awakened flowers,
All that ever was
Joyous, and clear, and fresh, thy music doth surpass:
(56-60)

Teach us, Sprite or Bird,
What sweet thoughts are thine;
I have never heard
Praise of love or wine
That panted forth a flood of rapture so divine.
(61-65)

Chorus Hymeneal,
Or triumphal chant,
Matched with thine would be all
But an empty vaunt,
A thing wherein we feel there is some hidden want.
(66-70)

What objects are the fountains
Of thy happy strain?
What fields, or waves, or mountains?
What shapes of sky or plain?
What love of thine own kind? what ignorance of pain?
(71-75)

With thy clear keen joyance
Languor cannot be:
Shadow of annoyance
Never came near thee:
Thou lovest--but ne'er knew love's sad satiety.
(76-80)

Waking or asleep,
Thou of death must deem
Things more true and deep
Than we mortals dream,
Or how could thy notes flow in such a crystal stream?
(81-85)

We look before and after,
And pine for what is not:
Our sincerest laughter
With some pain is fraught;
Our sweetest songs are those that tell of saddest thought.
(86-90)

Yet if we could scorn
Hate, and pride, and fear;
If we were things born
Not to shed a tear,
I know not how thy joy we ever should come near.
(91-95)

Better than all measures
Of delightful sound,
Better than all treasures
That in books are found,
Thy skill to poet were, thou scorner of the ground!
(96-100)

Teach me half the gladness
That thy brain must know,
Such harmonious madness
From my lips would flow
The world should listen then--as I am listening now.
(101-5)

* * *
Hutchinson, ed.,The Complete Poetical Works of Percy
Bysshe Shelley
, vol. 2 (Oxford, 1914)をベースに編集。
<http://www.gutenberg.org/ebooks/4798>

参照したのは以下のもの。

Shelley, The Major Works, ed. Leader and O'Neill (Oxford, 2003).

---, Shelley's Poetry and Prose, ed. Reiman and Fraistat
(Norton, 2002).

* * *
Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)
Shelley, "To a Skylark" (解説)
"To a Skylark" (詩形・リズム)


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "To a Skylark" (解説)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」 (訳注と解釈例)

1 spirit
からだをもたない超自然的存在(OED 3a, 3d)

2 wert
Were (初期近代英語における活用形、Shakespeare が
用いたかたち--OED, "Be," A.III.6b).

4-5
この「メロディというかたちで心をそそぐ」など、
シェリーの詩には共感覚的(あるいはそれ以上)に交錯した
超現実的な表現がしばしば見られる。

メロディ: 聴覚の対象
心(感情): 思考の対象(抽象概念)
注ぐ: 視覚/触覚/聴覚の対象

---
(参考)
詳しく調べてはいないが、このような表現への嗜好は
コールリッジなどから引き継いだものと思われる。
("Eolian Harp" など参照。)

コールリッジやシェリーの作品に見られる、共感覚的・
超現実的な表現は、17世紀の一部の詩人に特徴的な、
ある種行きすぎた感のある比喩(文学史上「奇想」
conceit とよばれるもの)の19世紀版とはいえないか。

実際コールリッジは、この「奇想」によって知られるジョン・
ダン(John Donne)を高く評価していた。曰く--

「ダンの "The Canonization" はお気に入りのひとつ」。

「学生に最高レベルの読み方を教えたいなら、まずダン、
特に "Satyre III" を読ませよう。・・・・・・ダンが
読めるようになったら、次はミルトンに送り込め」。

以上、Coleridge, The Major Works, ed. Jackson,
(Oxford, 2000), p. 570 より。
---

10-15
位置関係は以下の通り。
(下から順に)
- 太陽は沈んでいて見えない。
- 残り日で地平線上が明るい(稲妻が光ったときのように)。
- その上、はるか上空の雲も輝いている。

10 still
常に、継続的に(OED, adv. 3a)

11-12
超現実的な表現: 沈んだ太陽の金色の稲妻(のように見える明るさ)
- 太陽の光は稲妻ではない。

(なお、上記の通り比喩が大仰だったり、この一節のように
色彩的に強い表現が目立つこの詩ですが、実際シェリーは、
あっさり、さっぱり、しかも少しキラキラ、というような
きれいな文体をもっていると個人的に思います。)

15
超現実的な表現: ひばり=歓びそのもの

16-17
超現実的な表現: 赤くおぼろげな夕暮れが溶ける(ように見える)
- 夕暮れは固体ではないから溶けない。

(もちろん、「溶ける」という語は、かなり昔から比喩的に
用いられてきているなど、日常的な表現のうちにも
共感覚的/超現実的な表現はかなりある。
「心が痛い」とか、「冷たい言葉」とか、「おいしい話」とか。
なので、このような表現の突飛さや斬新さは、あくまで
程度の問題。)

16 purple
パープルとはもともと赤色のこと(OED B.1)

20
超現実的な表現: 鋭い高音の歓びが聞こえる(歓びの声が聞こえる)
- 歓びそのものは聞こえない。

22
銀色の星とは明けの明星としての金星、という注が
よくつけられているが、これは本当か? 詩の世界で
通常銀色と表現される星は月。弓や矢をもっているのも
月と狩猟の女神アルテミス=ダイアナ=シンシア。
たとえば、以下などを参照。

Ben Jonson, ("Queen and huntress")
Charlotte Smith, "Sonnet IV: To the Moon"
de la Mere, "Silver"

Jean-Antoine Houdon (1741-1828)
Diana. Bronze, 1790.

Digital photo by Tetraktys (Ricardo André Frantz)
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Houdon-diana.jpg

Augustus Saint-Gaudens (1848-1907)
Diana, 1892-93, 1928 cast.

Digital photo by Postdlf
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Diana_by_Augustus_Saint-Gaudens_01.jpg

「ひばりの声=星から降る光の矢」という比喩が5-6連
(21-30行)に共通することから見ても、やはり22行目の
"that silver sphere" は月と考えるべき。

25-26
このスタンザ間に、(そんな星と同様、君の姿も見えないが)
などの言葉を補うと話がつながる。

26―27
「大地と空気が大きく鳴りひびく」という表現は、
超現実的で突飛なのではなく(「音=空気や物の振動」
だから科学的に正しいが)、大地と空気が "loud" という
組み合わせ(collocation)そのものに違和感がある。
通常、何らかの音が "loud" なのであって、もの
(楽器など音を出すもの以外)が "loud" とはいわない。

28
超現実的な表現: 裸の夜(夜空に雲などがない、ということ)
- 夜そのものは服を着ない。

26-30
超現実的な表現:
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水
- 月の光は矢ではない。
- 月の光の矢は雨ではない。
- 空は大洪水にはならない。

しかもこれは、大地と空気がひばりの声で鳴りひびいていることの
たとえ。つまり、音を光にたとえ、さらにそれを水にたとえるという
二重あるいは三重の超現実的な表現となっている。

33-35
超現実的な表現:
虹の雲からまぶしい雨粒/メロディの雨
- 虹の光は雨粒ではない。
- ひばりの声は雨ではない。

虹の光を雨にたとえ、それをさらに
ひばりの声と比較して、ひばりの声のほうが上、といっている。
(が、もう少しシンプルに、ひばりの声が、下の画像のような
虹の光にたとえられている、という理解でもいいかと。)


By jannefoo (Janne V)
http://jannefoo.deviantart.com/art/
BowRain-34239662?fullview=1
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Rainbow_panorama.jpg?uselang=ja
(それぞれ改行を入れています。)

36-40
32行目の「君に似ているのは何?」という疑問に対する答えとして、
まずひばりを詩人にたとえる。ポイントは、「ひばりは見えないが、
その大きな声が聞こえる」ということ。(第3スタンザ以降、この点が
一貫している。)詩人は見えないが、その歌には大きな影響力が。

37
超現実的な表現:
思考の光
- 思考は光ではない。

41-45
今度はひばりを貴族の家の少女にたとえる・・・・・・
よくも悪くもすごい比喩。ひばりの声=
貴族の女の子が恋する思いを託して歌う歌。
(正しい反応は、「はぁ?」くらいかと。想像力への
敬意をこめて。)

再度、ポイントは、ひばり(少女)は見えないが、
その大きな声(少女の歌声)が聞こえること。

45
超現実的な表現:
愛のように甘い音楽/音楽(または愛)が洪水
- 愛は音楽ではない
- 音楽(または愛)は水ではない。

45行目の which の先行詞が love なのか、
love のように甘い music なのか、あいまい。
「愛と同じくらい甘い音楽」と比較されているので、
いわば一体化したものとして両方を先行詞として
とらえるべきかと。


By ceridwen
http://www.geograph.org.uk/photo/752031
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cathedral_
tower_above_Bishop%27s_Palace_-_geograph.org.uk_-_752031.jpg
(画像は、貴族の宮殿ではなく主教の屋敷。また奥の塔も聖堂の
ものとのこと。さらに、重なって見えるが手前の屋敷と奥の聖堂は
別の建物。)

46-50
今度はひばりを蛍にたとえる。超現実的に、ひばりの声=蛍の光。
再度、ポイントは、ひばり(蛍)は見えないが、その大きな声(光)が
聞こえること。

48-50
超現実的な表現:
蛍が空気の色の光をまき散らす
- 空気に色はない。

51-55
今度はバラにたとえる。超現実的に、ひばりの声=気が遠く
なるほど甘いバラの香り。再度、ポイントは、ひばりは見えないが
(バラは葉の小部屋に隠れているが)、その大きな声が聞こえる
こと(香りがあふれてくること)。

55
盗人たちとは風のこと。風が泥棒なのは、バラの花を
散らすから、バラから花びらを奪うから。また、羽が重いのは、
香りで気が遠くなり、神経が麻痺して、ということ。

61-65
このスタンザから次の展開へ。空から降りそそぐひばりの
歌の原動力は何か、ひばりが何を考えているのか、
何について歌っているのか、を人間の世界と対比しつつ
数スタンザにわたって問う。

63-65
ひばりの歌と愛やワインを主題として人が歌う歌を比較し、
ひばりの歌のほうが上、ということ。

65 pant
大きな音を立てて熱い空気や蒸気を出す(OED, 1d)。
(これは自動詞としての定義だが、これを他動詞的に
援用しているものと思われる。通常の「あえぐ」とか、
「息切れ」とか、そのようなマイナスなニュアンスは
文脈にあわない。)

65
超現実的な表現(何重にも):
愛やワインを称える歌は、(ひばりの歌のように)神々しい
陶酔の洪水を、熱く、大きな音で流さない
- 陶酔は洪水ではない
- 陶酔は音ではない
- 歌は洪水を流さない
- ひばりの歌は熱い陶酔の洪水ではない

66-70
なぜ結婚の歌、勝利の歌には欠けるところがある?
これという答えはなく、このスタンザのとらえ方は読者の
想像に委ねられている。個人的には、結婚や勝利を
祝う儀式/儀礼の際に、歌がお約束のように歌われることが
問われているのかと。つまり、本当に本当にうれしく
楽しい時には勝手に、自由に、歌や喜びの声が
ほとばしり出るはずだから、儀式的/儀礼的に
歌われるときの歌は、本当はうれしくも楽しくもないことを
あらわす、ということかと。

---
(20130623追記)
結婚や勝利は喜ばしく幸せなものだが、それでもこれらは
100%の喜び・幸せではない、そのうちには喜び・幸せ以外の
ものが多少なり混ざっている、ということ。結婚についていえば、
諸々の打算や見栄、それから結婚以前の報われなかった
恋愛に関する悲しみとか。

こういうことをいったり考えたり認めたりしないのが大人の
世界・社会。大きな声でいえないことをこのように書くと
いうことは、詩が集団ではなく個としての人に向けて
書かれるようになってきていたことをあらわす。
---

以降、100行目まで、ひばりの世界と人間の世界が対比される。

76
超現実的な表現: 透明で鋭い歓び
ひばりの声のこと。

80
(特に男性は)愛に満たされると飽きる、というのが
詩によく見られる考え方。(正しいかどうかはともかく。)
たとえばキーツの「ギリシャの壺」など参照。

---
(20130623追記)
これも、大人の世界・社会では、いったり考えたり認めたり
してはいけないこと。というか、こういうことが書かれるあけすけな
恋愛詩は、たとえば17世紀には別のジャンルに属していた。
---

91-95
複雑な、一見混乱した構文(上記の訳は意訳)だが、
分解すると意味が通じる。

---
仮定節1:
私たちが憎しみなどをあざけることができるなら
(実際にはこれができない)

仮定節2:
私たちは涙を流すべく定められてはいないなら
(実際にはそう定められている)

帰結節:
だがなぜ、私たちにひばりの歓びの歌が聞こえるのか?
(I know not howは、文字通り否定の間接疑問ではなく、
ただの疑問文How should we. . . ? として内容を
読む。)

この問いに対する答えとして、ふたたび91-94の仮定節に
戻ることになる--もしかしたら、私たちには憎しみなどをあざける
ことができるのかもしれない。私たちは涙を流すべく定められて
いないのかもしれない・・・・・・。
---

101-5
結論部: ぼくもひばりのように歌うことができたら!

103 harmonious madness
逆説あるいは撞着語法
(矛盾する言葉の組み合わせ)

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Shelley, "To a Skylark" (詩形・リズム)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」

リズムの解釈例など。



基調はストレス・ミーター(四拍子)。
上は第1スタンザのスキャンジョン。

---
/: ストレスのある音節
x: ストレスのない音節
音節: 母音ひとつ + 前後に付随する子音(群)
(長母音、二重母音も基本的に母音ひとつと数える。)

B: ビート、拍
(特にストレス・ミーターの詩において、ここで拍子をとると
四拍子のリズムに言葉がスムーズにのる、というところ。)

(B): 言葉をともなわないビート、拍
言葉(音節)はのっていないが、息継ぎの間のようなかたちで
ビートがあるところ。
---

スキャンジョンを見ながら、各行の下のBにあわせて
手をたたいたり、机をペンでコツコツしながら声に出して
読んでみてください。下記のようにやや無理がありますが、
一定のリズムが感じられるはず。

* * *
最後の行の premeditated のところでビートが
崩れ気味になるが、このような変化のある箇所が
リズムの単調化を防くはたらきをしている。また、
この行については、即興の(premeditated)歌の
やや不安定なリズムをやや不器用な詩行で実践して
みせている、という解釈もありうる。

このシェリーの「ひばり」には、ビートとストレスが
一致していないところが多々あり、ビート間の音節数も
まちまち。これらによって与えられるリズム/スピードの変化は、
この詩が本当は歌えないこと(歌のように一定のリズムを
刻みながら読むと不自然であること)を示す。

(時折入れられている行またがり--コンマ、ピリオドなどで
あらわされる文構造の区切り目が行末にこないこと--にも、
同様の効果がある。延々とくり返されるBBB(B)--いち、に、
さん、(ウン)、いち、に、さん、(ウン)--のリズムが
崩れ、いち、に、さん、いち、に・・・・・・などとなる。)

* * *
最終的に、詩は歌ではない。特に17世紀半ばまで、および
19世紀以降のストレス・ミーターの詩については、
一定のスピードの手拍子や机のコツコツにあわせて、
ではなく、ストレスの有無、母音や子音の長短などに注意して、
日常的な英語の発話と同じリズム/抑揚で読んだほうが、
それぞれの詩に与えられた雰囲気をより正確に感じられる。

手拍子なども(特に私たち日本人が)詩の背後にある
リズムを確認する上でもちろん有効だが、歌のような一定の
リズムに、詩として書かれた詩をしばりつけることは間違いで、
そして不可能。

(四拍子の歌のリズムにのらない弱強五歩格の詩については、
なおさらそう。)

(さらにいえば、たとえば16-17世紀には、ストレス・ミーター
の詩に四拍子ではない曲をつけることが多かった。おそらく、
理由のひとつは、本当に四拍子の曲にのせて歌われたバラッドや
ナーサリー・ライムとは別の、社会的・階級的により高いレベルに
属することをしめすため。)

参照: 音楽(1)--イギリス詩関係--

* * *
(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

詩形としては、本来、BBB(B) が六行で一スタンザであるところの
最後の二行をつなげて一行とし、五行で一スタンザとしている。
その目的は、(これまた)BBB(B)で一貫するリズムの単調さを
おさえることと、それからある種のパターン・ポエム(pattern
poem)として、空から大地にひばりの声が降ってきている絵を
つくること。(各スタンザ最後の行が地面をあらわし、それ以外の
行は視覚化されたひばりの声。) あと、脚韻を踏む手間を
一行分省いているとも。

---
パターン・ポエム(pattern poem):
紙面に印字した際のかたちにも意味をもたせているような詩。
Emblem poem, shape poem とも。17世紀の
ジョージ・ハーバート(George Herbert)によるものが
特に有名。("Altar," "Easter Wings" など。)

"The Altar"


"Easter Wings"


いずれも、The Temple (1633) より。
---

* * *
(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

脚韻は各スタンザababbで、基本的に脚韻a は
女性韻(feminine rhyme)。通常の脚韻と
女性韻を交互にからませているのは、おそらくリズムや
雰囲気に変化を与えるため。

(あと、フランス語の詩では男性韻と女性韻を交互に
からませるのがルールとか? これは学術的権威に欠ける
Wikipedia内のページ「女性韻」中の記述。きちんと
自分で調べてみないとその真偽に責任はもてないが、
ちょっと「へー」と思ったので。)
<http://ja.wikipedia.org/wiki/
%E5%A5%B3%E6%80%A7%E9%9%BB#.E3.83.95.E3.
83.A9.E3.83.B3.E3.82.B9.E8.AA.9E.E8.A9.A9>
(20110625閲覧)

(20130623追記)
考えたこと--
各行末の二音節の音がそろう女性韻の多用は、
ひばりの声の調和的なものを暗示するためのものでは。

女性韻と男性韻を交互に組みあわせるかたちは、
ひばりの声の調和(理想の世界)と、調和・理想が
実現しない現実の世界との対比・からみあいを
暗示してるのでは。

---
女性韻(feminine rhyme):
脚韻(男性韻=masculine rhyme)とは、行末のストレスの
ある音節の母音+子音をそろえること。(第1スタンザ
2, 4, 5行目の wert, heart, art など参照。[W]ert と他の二つは
完全にはあっていないが。)

このストレスのある音節による脚韻の後に、さらに
ストレスのない音節がひとつついていて音もあわせて
あるものが女性韻。たとえば、第1スタンザ1行目と3行目:

spirit /spir-it/
near it /niər it/

脚韻(男性韻)としては、/ir/ - /iər/ の対応だけで
十分だが(不完全ながら)、さらにその後ろ、ストレスのない
/it/ まで音をそろえている。確認すると、

女性韻 = 男性韻+ストレスのない音節による韻

補足1:
/ir/ - /iər/ の対応が不完全、というのは
後者には /ə/ が入り音が完全に一致していないから、
また前置詞 near にはストレスがないから。
(個人的には、特に作品の解釈に関わるのでないかぎり、
こういう細かいことは気にしなくていいかと。)

補足2:
上記Wikipediaのページには、「女性韻は英語詩に
おいては、比較的稀」という記述がある。「比較的」という
表現が微妙だが、歌もののストレス・ミーターの詩に変化を
与えるものとして、わりとよく用いられていると思う。たとえば、
以下のものなど。

Ben Jonsonの歌もの:
("The faery beam upon you")
("Oh, that joy so soon should waste!")

Lord Byronの歌もの:
"When We Two Parted"
("Though the day of my destiny is over")
(前者は弱強弱格、後者は弱弱強格を多用した、
いずれも技巧的な作品。)

補足3:
同じくWikipedia「女性韻」のページは、女性韻を
喜劇的なもの、ユーモア、風刺と関連づけているが、上の
JonsonやByronの作品は、これらからはほど遠い。
みなそれなりに洗練された、しゃれた、(そして
バイロンの場合)キザな、ラヴ・ソングである。

(20110514に掲載したMiltonの詩もご参照を。)
---

(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

a(女)
b(男)
a(女)
b(男)
b(男)

の脚韻パターンを崩しているスタンザもある。
たとえば、次のスタンザは通常の脚韻(男性韻)のみ。



a(男)
b(男)
a(男)
b(男)
b(男)

(66-70, 81-85, 91-95も同様。)

次のスタンザは女性韻のみ。



a(女)
b(女)
a(女)
b(女)
b(女)

このスタンザについては、描かれているのが
真夜中に歌う恋する乙女、ということで女性韻のみなのかと。

(あわせて、上に説明のある女性韻の具体例としてご参照を。)

* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.
(後日ページを追記します。和訳もあります。)

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説がある。)
* * *
Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)
Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)
Shelley, "To a Skylark" (解説)

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )
« 前ページ