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Byron, "She Walks in Beauty"

バイロン卿ジョージ・ゴードン (1788-1824)
「あの人は歩く、美につつまれて」

I.
あの人は歩く、美につつまれて。その姿は、まるで夜、
雲のない、星いっぱいの夜空のよう。
もっとも美しい闇と、もっとも美しいあかりが、みな
あの人の表情、あの人の瞳に集まり、
あのように豊かに熟し、やさしく落ちついた光を発している。
まぶしい昼の日にはない、あの落ちついた光を。

II.
あと少しでも陰が多かったら、少しでも光が少なかったら、
あの人の、言葉では表現できない美しさは、半減してしまうだろう。
大鴉のように黒い髪、そのひと房ひと房のなかで波打つあの美しさ、
顔の上に光り輝くあの美しさが。
その表情のなか、澄みわたるように美しい思いが、みずから示している、
どれほど純粋で気高い人のうちに宿っているか、を。

III.
あの人の頬のところで、目のところで、
あのようにやさしく、おだやかに、しかし表現豊かに、
心奪うほほえみが、赤らみ輝く肌の色が
語っている、あの人は善良に日々を過ごしている、と。
あの人は、すべてのもの、みずからよりも卑しいものに対してもやさしい、と。
あの人の愛は汚れのないものである、と。

* * *
George Gordon Lord Byron
"She Walks in Beauty"

I.
She walks in Beauty, like the night
Of cloudless climes and starry skies;
And all that's best of dark and bright
Meet in her aspect and her eyes:
Thus mellowed to that tender light
Which Heaven to gaudy day denies.

II.
One shade the more, one ray the less,
Had half impaired the nameless grace
Which waves in every raven tress,
Or softly lightens o'er her face;
Where thoughts serenely sweet express,
How pure, how dear their dwelling-place.

III.
And on that cheek, and o'er that brow,
So soft, so calm, yet eloquent,
The smiles that win, the tints that glow,
But tell of days in goodness spent,
A mind at peace with all below,
A heart whose love is innocent!

* * *
(訳注)

2 clime
大気圏(OED 3)。[S]kiesとほぼ同義。
([C]loudlessとstarryもほぼ同義。)

5 mellowed. . . .
分詞構文。主節は、all that's best of
dark and bright Meet. . . .

7
直訳すれば、「あとひとつ分多い影、あと一本分少ない光線」。
これらが、the nameless graceをhalf impairして
しまうだろう、ということ。

8 Had
= would have. 仮定法。

11-12
Where: 関係副詞。= At/on her face
主語: serenely sweet thoughts
述語: express
目的語:
How pure, how dear their dwelling-place [is]
(their = the thoughts')

13 brow
目から上のところ。感情があらわれるところ(OED 5)。

16 But
= only.

17 at peace
友好的で、敵対していない(OED 11a)。
平穏で静か(OED 11b)。

* * *
英語テクストは、The Works of Lord Byron. Vol. 3 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/21811

* * *
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Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」 (日本語訳)

やあ、陽気な妖精の君!
君は絶対に鳥じゃない。
天から、あるいはそこに近いところから、
君は心そのものをそそぐ。
あふれるほどの即興のメロディというかたちに変えて。
(1-5)

どんどん高く、さらに高く、
大地から君は飛び立つ。
まるで炎の雲のように。
君は青く深い空を横切って飛ぶ。
歌いながら舞いあがり、そして舞いあがりながら歌う。
(6-10)

沈んだ太陽の
金色の稲妻のなかを、
輝く雲の下を、
君は漂い、駆けぬける。
まるで、からだをもたない「歓び」そのものが走りはじめたかのように。
(11-15)

赤くおぼろげな夕暮れが、
君が飛ぶまわりで溶ける。
天の星が
一面に広がる日の光のなかで見えないように、
君も見えない。が、君の鋭い高音の歓びが聞こえる。
(16-20)

君の声はまるで鋭い矢、
あの銀色の星から降る矢だ。
その星のまぶしい光は弱くなっていく、
透き通るような白い夜明けのなかで。
そしてほとんど見えなくなる・・・・・・が、そこに銀の星は確かにあって。
(21-25)

大地そのものが、すべての空気が、
君の声で大きく鳴りひびく。
まるで、裸の夜に、
ひとつだけ浮かぶ雲から
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水になるように。
(26-30)

君が何なのか、ぼくたちは知らない。
君に似ているものは何?
虹の雲から、
そんなまぶしい雨粒は流れてこない、
君のいるところから降ってくるメロディの雨ほどには。
(31-35)

---

By jannefoo (Janne V)
http://jannefoo.deviantart.com/art/
BowRain-34239662?fullview=1
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Rainbow_panorama.jpg?uselang=ja
---

たとえば、君は詩人のよう? 思考の光のなかに
隠れていて、頼まれもしないのに
賛美歌を歌う。
すると世界中の人々が、
これまで気にとめていなかった希望と恐れで共鳴しはじめる。
(36-40)

それとも貴族の家の少女のよう?
お城の塔のなか、
愛がいっぱいで重い
魂を、こっそり夜に癒す
愛のように甘い音楽で・・・・・・そしてそれは洪水のように部屋からあふれ出す。
(41-45)

それとも金色の蛍?
木々から露のしたたる谷で、
誰のためにでもなく、
空気のように透明な光を
草花のあいだにまき散らす・・・・・・自分はその後ろに隠れつつ。
(46-50)

それともバラ? 緑の葉の
小部屋のなか、それは
あたたかい風に散らされる。
するとその香りで、
盗人たちの気が遠くなり、その羽も重くなる・・・・・・香りがあまりにも甘いから。
(51-55)

春の雨が、
キラキラ光る草に降る音、
雨に目を覚ます花々、
その他すべての
楽しげで、透きとおっていて、新しく、いきいきしたもの。でも君の歌はさらに上をいく。
(56-60)

教えてほしい、妖精または鳥の君、
どんなすてきなことを考えているの?
ぼくは聞いたことがない、
愛やワインを称える歌が、
君の歌ほど神々しい陶酔の洪水を、熱く、大きな音で流すのを。
(61-65)

結婚の合唱も、
勝利の歌も、
君の歌に比べれば、みな
中身のないいきがり、ほらのようなもの。
はっきりわからないが、そこには必ず何かが欠けている。
(66-70)

源には何がある?
君の楽しげな歌の源には?
どんな野原、波、山?
どんな姿の空、平野?
仲間に対するどんな愛? 苦痛に対するどんな無知?
(71-75)

君の透明で鋭い歓びは
疲れることを知らない。
不満やいらだちの影すら
けっして君には近づかない。
君は愛する・・・・・・そして愛に満ち飽きる悲しみを知らない。
(76-80)

目覚めていても、夢のなかでも、
君は知っているにちがいない、
死がより真正で、より深いものであると。
ぼくたち人間が夢見るより、はるかに正しく、深いものと。
でなければ、君の歌声はそのように、水晶の川のように、流れ出ないはずだろう?
(81-85)

ぼくたちは過去ふりかえり、未来を望む。
そして、そこにないものを求めて、病み、衰える。
心の底から笑っているときにも、
どこかに痛みを抱えている。
ぼくたちのもっとも美しい歌は、もっとも深い悲しみを歌う。
(86-90)

でも、もしぼくたちに、
憎しみ、傲慢、恐れをあざけることができないなら、
生まれながらにしてぼくたちは
涙を流す運命にあるのなら、
そもそも楽しみ、歓ぶ君の歌は聞こえてこないはずではないか。
(91-95)

どんなメロディやリズム、
どんな心地よい音より、
書物に記された
どんな宝より、
君の歌は詩人に多くを教えてくれる。大地をあざける君!
(96-100)

半分でいいから教えてほしい、
君の頭のなかにあるはずの楽しみ、歓びを。
そうすれば、狂いつつ調和するメロディが
ぼくの口から流れ出て、
すべての人々に聞こえるだろう。そう、今、ぼくが聞いているようなメロディが。
(101-5)

* * *
Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)
Shelley, "To a Skylark" (解説)
"To a Skylark" (詩形・リズム)

* * *
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Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)

Percy Bysshe Shelley
"To a Skylark" (英語テクスト)

Hail to thee, blithe Spirit!
Bird thou never wert,
That from Heaven, or near it,
Pourest thy full heart
In profuse strains of unpremeditated art.
(1-5)

Higher still and higher
From the earth thou springest
Like a cloud of fire;
The blue deep thou wingest,
And singing still dost soar, and soaring ever singest.
(6-10)

In the golden lightning
Of the sunken sun,
O'er which clouds are bright'ning,
Thou dost float and run;
Like an unbodied joy whose race is just begun.
(11-15)

The pale purple even
Melts around thy flight;
Like a star of Heaven,
In the broad daylight
Thou art unseen, but yet I hear thy shrill delight,
(16-20)

Keen as are the arrows
Of that silver sphere,
Whose intense lamp narrows
In the white dawn clear
Until we hardly see--we feel that it is there.
(21-25)

All the earth and air
With thy voice is loud,
As, when night is bare,
From one lonely cloud
The moon rains out her beams, and Heaven is overflowed.
(26-30)

What thou art we know not;
What is most like thee?
From rainbow clouds there flow not
Drops so bright to see,
As from thy presence showers a rain of melody.
(31-35)

Like a Poet hidden
In the light of thought,
Singing hymns unbidden,
Till the world is wrought
To sympathy with hopes and fears it heeded not:
(36-40)

Like a high-born maiden
In a palace tower,
Soothing her love-laden
Soul in secret hour
With music sweet as love, which overflows her bower:
(41-45)

Like a glow-worm golden
In a dell of dew,
Scattering unbeholden
Its aereal hue
Among the flowers and grass, which screen it from the view:
(46-50)

Like a rose embowered
In its own green leaves,
By warm winds deflowered,
Till the scent it gives
Makes faint with too much sweet those heavy-winged thieves:
(51-55)

Sound of vernal showers
On the twinkling grass,
Rain-awakened flowers,
All that ever was
Joyous, and clear, and fresh, thy music doth surpass:
(56-60)

Teach us, Sprite or Bird,
What sweet thoughts are thine;
I have never heard
Praise of love or wine
That panted forth a flood of rapture so divine.
(61-65)

Chorus Hymeneal,
Or triumphal chant,
Matched with thine would be all
But an empty vaunt,
A thing wherein we feel there is some hidden want.
(66-70)

What objects are the fountains
Of thy happy strain?
What fields, or waves, or mountains?
What shapes of sky or plain?
What love of thine own kind? what ignorance of pain?
(71-75)

With thy clear keen joyance
Languor cannot be:
Shadow of annoyance
Never came near thee:
Thou lovest--but ne'er knew love's sad satiety.
(76-80)

Waking or asleep,
Thou of death must deem
Things more true and deep
Than we mortals dream,
Or how could thy notes flow in such a crystal stream?
(81-85)

We look before and after,
And pine for what is not:
Our sincerest laughter
With some pain is fraught;
Our sweetest songs are those that tell of saddest thought.
(86-90)

Yet if we could scorn
Hate, and pride, and fear;
If we were things born
Not to shed a tear,
I know not how thy joy we ever should come near.
(91-95)

Better than all measures
Of delightful sound,
Better than all treasures
That in books are found,
Thy skill to poet were, thou scorner of the ground!
(96-100)

Teach me half the gladness
That thy brain must know,
Such harmonious madness
From my lips would flow
The world should listen then--as I am listening now.
(101-5)

* * *
Hutchinson, ed.,The Complete Poetical Works of Percy
Bysshe Shelley
, vol. 2 (Oxford, 1914)をベースに編集。
<http://www.gutenberg.org/ebooks/4798>

参照したのは以下のもの。

Shelley, The Major Works, ed. Leader and O'Neill (Oxford, 2003).

---, Shelley's Poetry and Prose, ed. Reiman and Fraistat
(Norton, 2002).

* * *
Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)
Shelley, "To a Skylark" (解説)
"To a Skylark" (詩形・リズム)


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Shelley, "To a Skylark" (解説)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」 (訳注と解釈例)

1 spirit
からだをもたない超自然的存在(OED 3a, 3d)

2 wert
Were (初期近代英語における活用形、Shakespeare が
用いたかたち--OED, "Be," A.III.6b).

4-5
この「メロディというかたちで心をそそぐ」など、
シェリーの詩には共感覚的(あるいはそれ以上)に交錯した
超現実的な表現がしばしば見られる。

メロディ: 聴覚の対象
心(感情): 思考の対象(抽象概念)
注ぐ: 視覚/触覚/聴覚の対象

---
(参考)
詳しく調べてはいないが、このような表現への嗜好は
コールリッジなどから引き継いだものと思われる。
("Eolian Harp" など参照。)

コールリッジやシェリーの作品に見られる、共感覚的・
超現実的な表現は、17世紀の一部の詩人に特徴的な、
ある種行きすぎた感のある比喩(文学史上「奇想」
conceit とよばれるもの)の19世紀版とはいえないか。

実際コールリッジは、この「奇想」によって知られるジョン・
ダン(John Donne)を高く評価していた。曰く--

「ダンの "The Canonization" はお気に入りのひとつ」。

「学生に最高レベルの読み方を教えたいなら、まずダン、
特に "Satyre III" を読ませよう。・・・・・・ダンが
読めるようになったら、次はミルトンに送り込め」。

以上、Coleridge, The Major Works, ed. Jackson,
(Oxford, 2000), p. 570 より。
---

10-15
位置関係は以下の通り。
(下から順に)
- 太陽は沈んでいて見えない。
- 残り日で地平線上が明るい(稲妻が光ったときのように)。
- その上、はるか上空の雲も輝いている。

10 still
常に、継続的に(OED, adv. 3a)

11-12
超現実的な表現: 沈んだ太陽の金色の稲妻(のように見える明るさ)
- 太陽の光は稲妻ではない。

(なお、上記の通り比喩が大仰だったり、この一節のように
色彩的に強い表現が目立つこの詩ですが、実際シェリーは、
あっさり、さっぱり、しかも少しキラキラ、というような
きれいな文体をもっていると個人的に思います。)

15
超現実的な表現: ひばり=歓びそのもの

16-17
超現実的な表現: 赤くおぼろげな夕暮れが溶ける(ように見える)
- 夕暮れは固体ではないから溶けない。

(もちろん、「溶ける」という語は、かなり昔から比喩的に
用いられてきているなど、日常的な表現のうちにも
共感覚的/超現実的な表現はかなりある。
「心が痛い」とか、「冷たい言葉」とか、「おいしい話」とか。
なので、このような表現の突飛さや斬新さは、あくまで
程度の問題。)

16 purple
パープルとはもともと赤色のこと(OED B.1)

20
超現実的な表現: 鋭い高音の歓びが聞こえる(歓びの声が聞こえる)
- 歓びそのものは聞こえない。

22
銀色の星とは明けの明星としての金星、という注が
よくつけられているが、これは本当か? 詩の世界で
通常銀色と表現される星は月。弓や矢をもっているのも
月と狩猟の女神アルテミス=ダイアナ=シンシア。
たとえば、以下などを参照。

Ben Jonson, ("Queen and huntress")
Charlotte Smith, "Sonnet IV: To the Moon"
de la Mere, "Silver"

Jean-Antoine Houdon (1741-1828)
Diana. Bronze, 1790.

Digital photo by Tetraktys (Ricardo André Frantz)
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Houdon-diana.jpg

Augustus Saint-Gaudens (1848-1907)
Diana, 1892-93, 1928 cast.

Digital photo by Postdlf
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Diana_by_Augustus_Saint-Gaudens_01.jpg

「ひばりの声=星から降る光の矢」という比喩が5-6連
(21-30行)に共通することから見ても、やはり22行目の
"that silver sphere" は月と考えるべき。

25-26
このスタンザ間に、(そんな星と同様、君の姿も見えないが)
などの言葉を補うと話がつながる。

26―27
「大地と空気が大きく鳴りひびく」という表現は、
超現実的で突飛なのではなく(「音=空気や物の振動」
だから科学的に正しいが)、大地と空気が "loud" という
組み合わせ(collocation)そのものに違和感がある。
通常、何らかの音が "loud" なのであって、もの
(楽器など音を出すもの以外)が "loud" とはいわない。

28
超現実的な表現: 裸の夜(夜空に雲などがない、ということ)
- 夜そのものは服を着ない。

26-30
超現実的な表現:
月が光の矢を雨のように降らせ、空が大洪水
- 月の光は矢ではない。
- 月の光の矢は雨ではない。
- 空は大洪水にはならない。

しかもこれは、大地と空気がひばりの声で鳴りひびいていることの
たとえ。つまり、音を光にたとえ、さらにそれを水にたとえるという
二重あるいは三重の超現実的な表現となっている。

33-35
超現実的な表現:
虹の雲からまぶしい雨粒/メロディの雨
- 虹の光は雨粒ではない。
- ひばりの声は雨ではない。

虹の光を雨にたとえ、それをさらに
ひばりの声と比較して、ひばりの声のほうが上、といっている。
(が、もう少しシンプルに、ひばりの声が、下の画像のような
虹の光にたとえられている、という理解でもいいかと。)


By jannefoo (Janne V)
http://jannefoo.deviantart.com/art/
BowRain-34239662?fullview=1
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Rainbow_panorama.jpg?uselang=ja
(それぞれ改行を入れています。)

36-40
32行目の「君に似ているのは何?」という疑問に対する答えとして、
まずひばりを詩人にたとえる。ポイントは、「ひばりは見えないが、
その大きな声が聞こえる」ということ。(第3スタンザ以降、この点が
一貫している。)詩人は見えないが、その歌には大きな影響力が。

37
超現実的な表現:
思考の光
- 思考は光ではない。

41-45
今度はひばりを貴族の家の少女にたとえる・・・・・・
よくも悪くもすごい比喩。ひばりの声=
貴族の女の子が恋する思いを託して歌う歌。
(正しい反応は、「はぁ?」くらいかと。想像力への
敬意をこめて。)

再度、ポイントは、ひばり(少女)は見えないが、
その大きな声(少女の歌声)が聞こえること。

45
超現実的な表現:
愛のように甘い音楽/音楽(または愛)が洪水
- 愛は音楽ではない
- 音楽(または愛)は水ではない。

45行目の which の先行詞が love なのか、
love のように甘い music なのか、あいまい。
「愛と同じくらい甘い音楽」と比較されているので、
いわば一体化したものとして両方を先行詞として
とらえるべきかと。


By ceridwen
http://www.geograph.org.uk/photo/752031
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cathedral_
tower_above_Bishop%27s_Palace_-_geograph.org.uk_-_752031.jpg
(画像は、貴族の宮殿ではなく主教の屋敷。また奥の塔も聖堂の
ものとのこと。さらに、重なって見えるが手前の屋敷と奥の聖堂は
別の建物。)

46-50
今度はひばりを蛍にたとえる。超現実的に、ひばりの声=蛍の光。
再度、ポイントは、ひばり(蛍)は見えないが、その大きな声(光)が
聞こえること。

48-50
超現実的な表現:
蛍が空気の色の光をまき散らす
- 空気に色はない。

51-55
今度はバラにたとえる。超現実的に、ひばりの声=気が遠く
なるほど甘いバラの香り。再度、ポイントは、ひばりは見えないが
(バラは葉の小部屋に隠れているが)、その大きな声が聞こえる
こと(香りがあふれてくること)。

55
盗人たちとは風のこと。風が泥棒なのは、バラの花を
散らすから、バラから花びらを奪うから。また、羽が重いのは、
香りで気が遠くなり、神経が麻痺して、ということ。

61-65
このスタンザから次の展開へ。空から降りそそぐひばりの
歌の原動力は何か、ひばりが何を考えているのか、
何について歌っているのか、を人間の世界と対比しつつ
数スタンザにわたって問う。

63-65
ひばりの歌と愛やワインを主題として人が歌う歌を比較し、
ひばりの歌のほうが上、ということ。

65 pant
大きな音を立てて熱い空気や蒸気を出す(OED, 1d)。
(これは自動詞としての定義だが、これを他動詞的に
援用しているものと思われる。通常の「あえぐ」とか、
「息切れ」とか、そのようなマイナスなニュアンスは
文脈にあわない。)

65
超現実的な表現(何重にも):
愛やワインを称える歌は、(ひばりの歌のように)神々しい
陶酔の洪水を、熱く、大きな音で流さない
- 陶酔は洪水ではない
- 陶酔は音ではない
- 歌は洪水を流さない
- ひばりの歌は熱い陶酔の洪水ではない

66-70
なぜ結婚の歌、勝利の歌には欠けるところがある?
これという答えはなく、このスタンザのとらえ方は読者の
想像に委ねられている。個人的には、結婚や勝利を
祝う儀式/儀礼の際に、歌がお約束のように歌われることが
問われているのかと。つまり、本当に本当にうれしく
楽しい時には勝手に、自由に、歌や喜びの声が
ほとばしり出るはずだから、儀式的/儀礼的に
歌われるときの歌は、本当はうれしくも楽しくもないことを
あらわす、ということかと。

---
(20130623追記)
結婚や勝利は喜ばしく幸せなものだが、それでもこれらは
100%の喜び・幸せではない、そのうちには喜び・幸せ以外の
ものが多少なり混ざっている、ということ。結婚についていえば、
諸々の打算や見栄、それから結婚以前の報われなかった
恋愛に関する悲しみとか。

こういうことをいったり考えたり認めたりしないのが大人の
世界・社会。大きな声でいえないことをこのように書くと
いうことは、詩が集団ではなく個としての人に向けて
書かれるようになってきていたことをあらわす。
---

以降、100行目まで、ひばりの世界と人間の世界が対比される。

76
超現実的な表現: 透明で鋭い歓び
ひばりの声のこと。

80
(特に男性は)愛に満たされると飽きる、というのが
詩によく見られる考え方。(正しいかどうかはともかく。)
たとえばキーツの「ギリシャの壺」など参照。

---
(20130623追記)
これも、大人の世界・社会では、いったり考えたり認めたり
してはいけないこと。というか、こういうことが書かれるあけすけな
恋愛詩は、たとえば17世紀には別のジャンルに属していた。
---

91-95
複雑な、一見混乱した構文(上記の訳は意訳)だが、
分解すると意味が通じる。

---
仮定節1:
私たちが憎しみなどをあざけることができるなら
(実際にはこれができない)

仮定節2:
私たちは涙を流すべく定められてはいないなら
(実際にはそう定められている)

帰結節:
だがなぜ、私たちにひばりの歓びの歌が聞こえるのか?
(I know not howは、文字通り否定の間接疑問ではなく、
ただの疑問文How should we. . . ? として内容を
読む。)

この問いに対する答えとして、ふたたび91-94の仮定節に
戻ることになる--もしかしたら、私たちには憎しみなどをあざける
ことができるのかもしれない。私たちは涙を流すべく定められて
いないのかもしれない・・・・・・。
---

101-5
結論部: ぼくもひばりのように歌うことができたら!

103 harmonious madness
逆説あるいは撞着語法
(矛盾する言葉の組み合わせ)

* * *
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Shelley, "To a Skylark" (詩形・リズム)

パーシー・B・シェリー(1792-1822)
「ひばりに歌う」

リズムの解釈例など。



基調はストレス・ミーター(四拍子)。
上は第1スタンザのスキャンジョン。

---
/: ストレスのある音節
x: ストレスのない音節
音節: 母音ひとつ + 前後に付随する子音(群)
(長母音、二重母音も基本的に母音ひとつと数える。)

B: ビート、拍
(特にストレス・ミーターの詩において、ここで拍子をとると
四拍子のリズムに言葉がスムーズにのる、というところ。)

(B): 言葉をともなわないビート、拍
言葉(音節)はのっていないが、息継ぎの間のようなかたちで
ビートがあるところ。
---

スキャンジョンを見ながら、各行の下のBにあわせて
手をたたいたり、机をペンでコツコツしながら声に出して
読んでみてください。下記のようにやや無理がありますが、
一定のリズムが感じられるはず。

* * *
最後の行の premeditated のところでビートが
崩れ気味になるが、このような変化のある箇所が
リズムの単調化を防くはたらきをしている。また、
この行については、即興の(premeditated)歌の
やや不安定なリズムをやや不器用な詩行で実践して
みせている、という解釈もありうる。

このシェリーの「ひばり」には、ビートとストレスが
一致していないところが多々あり、ビート間の音節数も
まちまち。これらによって与えられるリズム/スピードの変化は、
この詩が本当は歌えないこと(歌のように一定のリズムを
刻みながら読むと不自然であること)を示す。

(時折入れられている行またがり--コンマ、ピリオドなどで
あらわされる文構造の区切り目が行末にこないこと--にも、
同様の効果がある。延々とくり返されるBBB(B)--いち、に、
さん、(ウン)、いち、に、さん、(ウン)--のリズムが
崩れ、いち、に、さん、いち、に・・・・・・などとなる。)

* * *
最終的に、詩は歌ではない。特に17世紀半ばまで、および
19世紀以降のストレス・ミーターの詩については、
一定のスピードの手拍子や机のコツコツにあわせて、
ではなく、ストレスの有無、母音や子音の長短などに注意して、
日常的な英語の発話と同じリズム/抑揚で読んだほうが、
それぞれの詩に与えられた雰囲気をより正確に感じられる。

手拍子なども(特に私たち日本人が)詩の背後にある
リズムを確認する上でもちろん有効だが、歌のような一定の
リズムに、詩として書かれた詩をしばりつけることは間違いで、
そして不可能。

(四拍子の歌のリズムにのらない弱強五歩格の詩については、
なおさらそう。)

(さらにいえば、たとえば16-17世紀には、ストレス・ミーター
の詩に四拍子ではない曲をつけることが多かった。おそらく、
理由のひとつは、本当に四拍子の曲にのせて歌われたバラッドや
ナーサリー・ライムとは別の、社会的・階級的により高いレベルに
属することをしめすため。)

参照: 音楽(1)--イギリス詩関係--

* * *
(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

詩形としては、本来、BBB(B) が六行で一スタンザであるところの
最後の二行をつなげて一行とし、五行で一スタンザとしている。
その目的は、(これまた)BBB(B)で一貫するリズムの単調さを
おさえることと、それからある種のパターン・ポエム(pattern
poem)として、空から大地にひばりの声が降ってきている絵を
つくること。(各スタンザ最後の行が地面をあらわし、それ以外の
行は視覚化されたひばりの声。) あと、脚韻を踏む手間を
一行分省いているとも。

---
パターン・ポエム(pattern poem):
紙面に印字した際のかたちにも意味をもたせているような詩。
Emblem poem, shape poem とも。17世紀の
ジョージ・ハーバート(George Herbert)によるものが
特に有名。("Altar," "Easter Wings" など。)

"The Altar"


"Easter Wings"


いずれも、The Temple (1633) より。
---

* * *
(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

脚韻は各スタンザababbで、基本的に脚韻a は
女性韻(feminine rhyme)。通常の脚韻と
女性韻を交互にからませているのは、おそらくリズムや
雰囲気に変化を与えるため。

(あと、フランス語の詩では男性韻と女性韻を交互に
からませるのがルールとか? これは学術的権威に欠ける
Wikipedia内のページ「女性韻」中の記述。きちんと
自分で調べてみないとその真偽に責任はもてないが、
ちょっと「へー」と思ったので。)
<http://ja.wikipedia.org/wiki/
%E5%A5%B3%E6%80%A7%E9%9%BB#.E3.83.95.E3.
83.A9.E3.83.B3.E3.82.B9.E8.AA.9E.E8.A9.A9>
(20110625閲覧)

(20130623追記)
考えたこと--
各行末の二音節の音がそろう女性韻の多用は、
ひばりの声の調和的なものを暗示するためのものでは。

女性韻と男性韻を交互に組みあわせるかたちは、
ひばりの声の調和(理想の世界)と、調和・理想が
実現しない現実の世界との対比・からみあいを
暗示してるのでは。

---
女性韻(feminine rhyme):
脚韻(男性韻=masculine rhyme)とは、行末のストレスの
ある音節の母音+子音をそろえること。(第1スタンザ
2, 4, 5行目の wert, heart, art など参照。[W]ert と他の二つは
完全にはあっていないが。)

このストレスのある音節による脚韻の後に、さらに
ストレスのない音節がひとつついていて音もあわせて
あるものが女性韻。たとえば、第1スタンザ1行目と3行目:

spirit /spir-it/
near it /niər it/

脚韻(男性韻)としては、/ir/ - /iər/ の対応だけで
十分だが(不完全ながら)、さらにその後ろ、ストレスのない
/it/ まで音をそろえている。確認すると、

女性韻 = 男性韻+ストレスのない音節による韻

補足1:
/ir/ - /iər/ の対応が不完全、というのは
後者には /ə/ が入り音が完全に一致していないから、
また前置詞 near にはストレスがないから。
(個人的には、特に作品の解釈に関わるのでないかぎり、
こういう細かいことは気にしなくていいかと。)

補足2:
上記Wikipediaのページには、「女性韻は英語詩に
おいては、比較的稀」という記述がある。「比較的」という
表現が微妙だが、歌もののストレス・ミーターの詩に変化を
与えるものとして、わりとよく用いられていると思う。たとえば、
以下のものなど。

Ben Jonsonの歌もの:
("The faery beam upon you")
("Oh, that joy so soon should waste!")

Lord Byronの歌もの:
"When We Two Parted"
("Though the day of my destiny is over")
(前者は弱強弱格、後者は弱弱強格を多用した、
いずれも技巧的な作品。)

補足3:
同じくWikipedia「女性韻」のページは、女性韻を
喜劇的なもの、ユーモア、風刺と関連づけているが、上の
JonsonやByronの作品は、これらからはほど遠い。
みなそれなりに洗練された、しゃれた、(そして
バイロンの場合)キザな、ラヴ・ソングである。

(20110514に掲載したMiltonの詩もご参照を。)
---

(シェリーの「ひばり」の話にかえる。)

a(女)
b(男)
a(女)
b(男)
b(男)

の脚韻パターンを崩しているスタンザもある。
たとえば、次のスタンザは通常の脚韻(男性韻)のみ。



a(男)
b(男)
a(男)
b(男)
b(男)

(66-70, 81-85, 91-95も同様。)

次のスタンザは女性韻のみ。



a(女)
b(女)
a(女)
b(女)
b(女)

このスタンザについては、描かれているのが
真夜中に歌う恋する乙女、ということで女性韻のみなのかと。

(あわせて、上に説明のある女性韻の具体例としてご参照を。)

* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.
(後日ページを追記します。和訳もあります。)

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説がある。)
* * *
Shelley, "To a Skylark" (日本語訳)
Shelley, "To a Skylark" (英語テクスト)
Shelley, "To a Skylark" (解説)

* * *
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Byron, ("I would to Heaven that I were so much clay")

バイロン卿ジョージ・ゴードン (1788-1824)
(「天に祈りたい、わたしなど、ただの土くれだったらよかったのに」)

天に祈りたい、わたしなど、ただの土くれだったらよかったのに、
血、骨、骨髄、どうしようもない感情や気持ちをもつ存在ではなく--
もしそうであったなら、少なくとも過去は忘れることができるだろうから。
そして、これからは--(こう書きながら、わたしはもうフラフラだ、
今日は本当に飲みすぎてしまって、
まるで天井に立っているみたいだ)
ああ、そうだ--これからのことを考えるのが大切なのだ--
だから、そう--頼むから--ドイツ・ワインのソーダ割りをくれ!

* * *
George Gordon Lord Byron
("I would to Heaven that I were so much clay")

I would to Heaven that I were so much clay,
As I am blood, bone, marrow, passion, feeling---
Because at least the past were passed away,
And for the future---(but I write this reeling,
Having got drunk exceedingly to-day,
So that I seem to stand upon the ceiling)
I say---the future is a serious matter---
And so---for God's sake---hock and soda-water!

* * *
『ドン・ジュアン』第一歌の原稿の裏に書かれた
スタンザ。暗い過去にさいなまれるバイロニック・
ヒーローを演じつつ、それをみずからパロディ化
している作品。

どうしようもない過去の記憶を抱えて生きるのが
つらいから、「ただの土くれだったらよかったのに」
と祈っているのかと思いきや、飲みすぎの苦しみから
逃れたいだけ、という。

また、前向きに未来のことを真剣に考えるかと
思いきや、近すぎる将来の希望として酒をもう一杯
注文する、という。

* * *
1 I would
= I wish

1 Heaven
神のこと(OED 6a)。

1 clay
創世記冒頭参照。神が人間をつくった際の原料であった
土くれ、魂が吹きこまれる前のただの土に戻りたい、
ということ。

2 feeling
感情・意識としての気持ち (最初に読んだとき) +
飲みすぎで気持ち悪い、というときの「気持ち」、
身体的感覚(OED 2b)
(最後まで読んでから、もう一度読み直したとき)。

3 were
= would be. I would . . . を受けた仮定法の構文。

* * *
英語テクストは、The Works of Lord Byron,
Volume 6 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/18762

* * *
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Rossetti, DG., "Woodspurge"

D・G・ロセッティ (1828-1882)
「トウダイグサ」

力が抜けたように、風が、急にくずれおちた。風は止まった。
まるで木々のあいだから、丘から、落ちてきた死人のように。
わたしは、風に身をまかせて歩いていた--
だから、すわりこんだ。風が止まったから。

ひざのあいだに頭を垂れた--
噛んだくちびるからは、「ああ!」、すら出てこなかった。
髪は草の上に広がっていた。
髪から出た耳は、一日が過ぎ去るのを聞いていた。

目を大きく開いて、順番に見た、
十かそこらの雑草を、目に留まるものを探して。
そのいくつかの草のなか、わたしの影の下、
トウダイグサが咲いていた。ひとつの花に三つのカップ。

何も混じらない、100%の悲しみのなか、
得られる知恵などない。思い出すら残らない。
そのとき知ったのは、ひとつだけ--
トウダイグサの花には三つのカップ。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"The Woodspurge"

The wind flapped loose, the wind was still,
Shaken out dead from tree and hill:
I had walked on at the wind's will,―
I sat now, for the wind was still.

Between my knees my forehead was,―
My lips, drawn in, said not Alas!
My hair was over in the grass,
My naked ears heard the day pass.

My eyes, wide open, had the run
Of some ten weeds to fix upon;
Among those few, out of the sun,
The woodspurge flowered, three cups in one.

From perfect grief there need not be
Wisdom or even memory:
One thing then learnt remains to me,―
The woodspurge has a cup of three.

* * *
トウダイグサ(「ひとつの花に三つのカップ」)

By Dean Morley
http://www.flickr.com/photos/33465428@N02/8677897023

* * *
自然と人間のあいだにある種のつながりを見る
ワーズワース的な自然観に対する返答の例。

スタンザ1:
風に流されるがままにふらふら歩く。風が止まったら、
(風が死んだら)すわりこむ。自然と一体化しているが、
ここでそれが意味するのは、人としての心身の能力の欠如、
あるいはその麻痺。風が死んだら、自分も動けない。

スタンザ4:
ワーズワース「水仙」の裏返し。「水仙」では、行くあてもなく
歩いていた「わたし」が、楽しげに咲き、風に踊る無数の
水仙を見て、心を弾ませる(自然と人の一体化)。しかも、
その情景と気分が記憶に残り、後日、ぼーっとしているときに
頭に浮かんできて、楽しい気分になる。

これに対して、ロセッティはいう--本当に悲しいとき、
心や意志が麻痺するくらい悲しいとき、花を見ても
心は躍ったりしない。もちろん、そんな記憶も残らない。
頭に残るのは、ただその物質的な形状だけ。

* * *
1 flap[ped]
突然倒れる、身を投げ出す(OED 4b)。

7
この長い髪の描写から、この詩の「わたし」は
女性と考えられる。

* * *
英語テクストは、下のURLにあるPoems (1881) より。

The Complete Writings and Pictures of Dante
Gabriel Rossetti, ed., Jerome J. McGann,
http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1881.
1stedn.rad.html#A.R.32

* * *
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Waller, "To Phillis"

エドマンド・ウォーラー (1606-1687)
「ピュリスに」

ピュリス、どうして後回しにするの?
一日もつづかない楽しみを?
もしかして、(絶対にそんなことできないのに)
与えられた時間よりも長く生きられると思ってる?
美しさは影のように逃げていくし、
ぼくたちの若さは、ぼくたちよりも先に死ぬ。
もし、いつまでも若く、きれいでいれたとしても、
愛には羽があるから飛んでいってしまう。
愛は時間よりも速く飛んでいって、
心変わりは天に昇っていく。
一度いったことは絶対に曲げない神々だって、
好きになったり嫌いになったり、ころころ相手を変えている。
ピュリス、そういうことが事実だから、
今、ぼくたちは愛しあえているんだ。
君も僕も、聞くのはやめよう、
前に好きだったのは誰? とか。
どんな羊飼いたちに君はほほえみかけてきたの? とか、
ぼくがだましてきたのはどんなニンフたち? とか。
それから、星にまかせて、考えないようにしよう、
ぼくたちがこれからどうなるか、ということも。
今の楽しみ・よろこびについては、
今の気持ちにしたがおう。

* * *
Edmund Waller
"To Phillis"

Phillis, why should we delay
Pleasures shorter than the day?
Could we (which we never can)
Stretch our lives beyond their span?
Beauty like a shaddow flies,
And our youth before us dies,
Or would youth and beauty stay,
Love hath wings, and will away.
Love hath swifter wings than time,
Change in love to Heaven does clime.
Gods that never change their state,
Vary oft their love and hate.
Phillis, to this truth wee owe,
All the love betwixt us two:
Let not you and I inquire
What has been our past desire,
On what Shepherds you have smil'd,
Or what Nymphs I have beguil'd;
Leave it to the Planets too,
What wee shall hereafter doe:
For the joyes wee now may prove,
Take advice of present love.

* * *
いわゆる「カルペ・ディエム」のテーマの一変奏。

1-2行目はMarvell, "To His Coy Mistress" などと
共通する表現。

9行目にはHerrick, "To the Virgins" への言及が
あるのでは。

* * *
とても現実的な思考・議論で、恋愛詩の系譜の
一通過点としていろいろ考えさせられる。
恋愛詩が、16世紀の純愛ものから、17世紀に入って
どんどん醒めていくなかの一作品として。

(以下、ごく大まかな流れ)

シドニー、『アストロフィル』(あるいはそれ以前の
ソネット)のような甘いラヴ・ソング

--> 甘い雰囲気のない、論理的な誘惑の詩
(Carew, "Rapture"; Milton, Comus; Marvell, "Coy Mistress")

--> ドライデンなどの反-恋愛、反-結婚の詩

--> 18世紀の恋愛詩は?
(センチメンタルなテーマは詩以外のジャンルへ?)

--> Charlotte Smith などにより恋愛詩復活?
(18世紀以降、読者層・学術的に注目される
ジャンルなどが大きく変化。)

* * *
英語テクストは、Poems, &c. (1645)
(Wing W511) より。

* * *
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Tennyson, ("A Spirit haunts the year's last hours")

アルフレッド・テニソン (1809-1892)
「歌」
(「精霊がひとり、一年の終わりにいつもやってきて」)

1
精霊がひとり、一年の終わりにいつもやってきて、
黄色に染まる木陰にたたずむ。
彼はひとり、話している。
夕暮れどき、耳をすませば、
彼のすすり泣きとため息が聞こえる、
森の道で。
地面へと、彼は茎を曲げる、
重たげに枯れゆく花々の。
重たげに、大きなヒマワリは花を垂れる、
冷たく凍る大地の墓の上で。
重たげに、アオイは頭を垂れる。
重たげに、オニユリも頭を垂れる。

2
空気は重く湿り、閉じこめられて静まりかえる。
まるで病んだ人が眠る部屋のよう、
死の一時間前に。
心うちひしがれ、わたしの魂そのものが嘆き悲しむ、
朽ちゆく花びらの、湿った、豊かな香りに。
下のほうで、
端から枯れゆくツゲの香りに。
今年最後のバラの香りに。
重たげに、大きなヒマワリは花を垂れる、
凍るように冷たい大地の墓の上で。
重たげに、アオイは頭を垂れる。
重たげに、オニユリも頭を垂れる。

* * *
Alfred Tennyson
"Song"
("A Spirit haunts the year's last hours")

1
A Spirit haunts the year's last hours
Dwelling amid these yellowing bowers:
To himself he talks;
For at eventide, listening earnestly,
At his work you may hear him sob and sigh
In the walks;
Earthward he boweth the heavy stalks
Of the mouldering flowers:
Heavily hangs the broad sunflower
Over its grave i' the earth so chilly;
Heavily hangs the hollyhock,
Heavily hangs the tiger-lily.

2
The air is damp, and hush'd, and close,
As a sick man's room when he taketh repose
An hour before death;
My very heart faints and my whole soul grieves
At the moist rich smell of the rotting leaves,
And the breath
Of the fading edges of box beneath,
And the year's last rose.
Heavily hangs the broad sunflower
Over its grave i' the earth so chilly;
Heavily hangs the hollyhock,
Heavily hangs the tiger-lily.

* * *
ワーズワース的な自然描写・自然観の一変奏。
春に心が弾む、ではなく、冬に心が沈む、というかたち。

1830年に発表された作品だが、すでにかなり「世紀末」的。
ポーは、この詩が好きだったとか。

* * *
悲しみつつ、草木を枯れさせる仕事をする精霊、
というのはどこから?

この精霊の悲しみは、自分の愛するものを自分で
破壊しなくてはならない悲しみ。

スタンザ2にある「人の死」のイメージにそって、
しかも少し現代的に考えるなら、愛する人に、たとえば
安楽死を与える、というようなときの悲しみ・・・・・・
精霊が出てくる空想的な短い詩だが、提示している
テーマは(軽々しくも)重い。

あるいは、空想的な短い作品だからこそ、論理的に
考えても結論の出にくいような、重いテーマを扱う
ことができるのか。

* * *
(訳注)

2 yellowing
黄色は、夕暮れどきの日の光の色、および枯れはじめた
木の葉の色。

9, 11-12
ヒマワリ、タチアオイなど、あげられている花が、
たとえばユリやカスミソウのような、見た目清らかで
はかなげなものではないところが、おそらくポイント。

色あざやかで、にぎやかで、強そうな花……これを、
上記のように「人」に重ねてみると、どのような人
(おそらく、女性)がイメージされる?

そのような人が「重たげに頭を垂れる」というのは、
どういう絵?

9, 11-12
Heavily, hangsなどにおける/h/の頭韻も重要。
/h/は息の音。ため息、および冬に手をあたためるとき
などの息、などが想像される。

* * *
英語テクストは、The Early Poems of Alfred
Lord Tennysonより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/8601

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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