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ノート 4: Enjambment

ノート 4: Enjambment

(20130224)
Enjambmentの一般的な訳語は「句またがり」で、
「行またがり」は少数派であることを最近知った・・・・・・。
いろいろなところ、修正すべき?

* * *
(20130226)
以下の理由で、Enjambmentは「句またがり」ではなく、
「行またがり」と訳すべき、と自分のなかで確認。

---
日本語の「句またがり」は、短歌、和歌、俳句など
日本の詩に関する比較的新しい用語のよう。その意味は--

「短歌のある一句内のことばが、あとに続く句に
またがって用いられる場合、その両方の句の関係をいう。」
『和歌大辞典』(1986)

「文節のおわりと句の切れ目が合致しない」こと。
小池光「句の溶接技術」『小池光歌集』所収
(吉岡生夫「句またがりの来歴」より)
http://www.pat.hi-ho.ne.jp/yoshioka-ikuo/5ku31onshishi-6/
index.html

ここでいう「句」とは--

「和歌・俳句などで、韻律上、5音または7音からなる
ひと区切り」
(『デジタル大辞泉』)

「和歌・俳句などで,韻律上,一まとまりとなる
五音または七音の区切り」
(『大辞林』第三版)

たとえば和歌を次のように、いわば英語の詩のように
改行して表記した時の各「行」がそれぞれ「句」。
和歌の「句」 ≒ 英語の詩の「行」。

あああああ
いいいいいいい
ううううう
えええええええ
おおおおおおお
(文節のひとまとまりを「あ」などの一音で表記)

そして「句またがり」とは、たとえば次のような
和歌の1-2句のあいだ、4-5句のあいだでおきている
こと。

ああいいい
いいいうううう
えええええ
おおおおおかか
かかかきききき

朝カブト
ムシが黒々
ワイン色
子どもたち騒
ぎたてコラコラ

つまり、和歌において文節(意味のまとまり)が
「句をまたがる」ということは、英語の詩において
文節が「行をまたがる」ということに等しい。

---
もうひとつ、「句またがり」の「句」と、英語の
文法用語としての「句」(phrase)の意味がまったく
違うという意味でも、英語の詩におけるenjambmentを
「句」またがりと訳すべきではない。

シェリーの「西風」の冒頭から例--

O wild West Wind, thou breath of Autumn's being,
Thou, from whose unseen presence the leaves dead
Are driven, like ghosts from an enchanter fleeing. . . .

この2-3行目にenjambmentがあるが、英語における
「句」はまたがっていない。

the leaves dead (名詞句)
Are driven (動詞句verbal phrase[の中心])

またがっているのはthe leaves dead Are driven
という「節」(clause)の一部。

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

上記に出典がある箇所については、可能なかぎり
直接そちらを参照してください。


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de la Mare, "The Listeners"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「聞いていた者たち」

「誰かいませんか?」 旅人はいった、
月に照らされたドアをノックして。
あたりの沈黙のなか、馬は草をムシャムシャ食べていた。
シダの生えた森の草を。
小さな塔のところから鳥が飛び立ち、 _5
旅人の上を飛んでいった。
彼は、もう一度ドアをたたいた。
「誰か! 誰かいませんか?」 彼はいった。
誰も旅人のところに降りてこなかった。
葉で縁どられた窓枠から _10
身をのり出して、彼の灰色の目をのぞきこむ者はいなかった。
彼は困惑し、静かに立っていた。
彼の声を聞いていたのは、亡霊たちだけだった。
誰もいないこの家に住んでいたたくさんの亡霊が、
静かに月あかりのなかに立ち、 _15
人の世界からの声を聞いていた。
暗い階段のところ、かすかな月の光に押し寄せるように立って。
誰もいない広間に降りる階段、
そこで亡霊たちは、孤独な旅人の呼ぶ声によって
ゆりおこされ、ふるえる空気に耳を立てていた。 _20
旅人は心に感じていた、家のなかの者たちの不思議さを。
彼の呼ぶ声に答える静けさを。
馬は、暗い草を食べていた、
葉でおおわれた星空の下で。
旅人は感じていた、というのは、突然ドアを強くたたき、より _25
大きな音をたて、そして顔をあげたから。
「伝えてください、ぼくが来て、でも誰も出てこなかった、と。
ぼくは約束を守りました」、と彼はいった。
なかで聞いていた者たちは、ほんの少しも動かなかった。
旅人の発した言葉のひとつひとつが、 _30
陰のなか、音のない家のなか、こだまして落ちていっても。
それは、眠っていなかった者の声--。
それから、家のなかの者たちは聞いた、旅人があぶみに足をかける音、
鉄のひづめが石にひびく音を。
沈黙は、波にゆれながら、静かに、ゆっくり、引きかえしていった。 _35
そして馬のひづめの音は、水に飛びこんで、消えた。

* * *
Walter de la Mare
"The Listeners"

"Is there anybody there?" said the Traveller,
Knocking on the moonlit door;
And his horse in the silence champed the grasses
Of the forest's ferny floor:
And a bird flew up out of the turret, _5
Above the Traveller's head:
And he smote upon the door again a second time;
"Is there anybody there?" he said.
But no one descended to the Traveller;
No head from the leaf-fringed sill _10
Leaned over and looked into his grey eyes,
Where he stood perplexed and still.
But only a host of phantom listeners
That dwelt in the lone house then
Stood listening in the quiet of the moonlight _15
To that voice from the world of men:
Stood thronging the faint moonbeams on the dark stair,
That goes down to the empty hall,
Hearkening in an air stirred and shaken
By the lonely Traveller's call. _20
And he felt in his heart their strangeness,
Their stillness answering his cry,
While his horse moved, cropping the dark turf,
'Neath the starred and leafy sky;
For he suddenly smote on the door, even _25
Louder, and lifted his head:―
"Tell them I came, and no one answered,
That I kept my word," he said.
Never the least stir made the listeners,
Though every word he spake _30
Fell echoing through the shadowiness of the still house
From the one man left awake:
Ay, they heard his foot upon the stirrup,
And the sound of iron on stone,
And how the silence surged softly backward, _35
When the plunging hoofs were gone.

* * *
3
silence: まったく何も聞こえない状態(OED 2a)。
champ: 音を立てて、力強いようすで、食べる。
矛盾している。なぜ?・・・・・・後でわかる。

5 turret
旅人がノックしているのはある程度大きな屋敷で、
その建物の一部として塔のようなところがある。

9 descended
シンプルに、「上の階から階段で」ということ(17行目)。
同時に、旅人がノックしている屋敷の世界は、漠然と
「上」の世界につながっている、というようなイメージも。

11 grey
シンプルに、ヨーロッパ的な、青に近い瞳の色。
あるいは、灰、鉛、陽に照らされていない海や
雲の色ような、生気のない色(OED 1)。

後者でイメージし、そして、なぜ目が灰色?
と考えたほうがおもしろいと思う。(後でわかる。)

12 still
音を立てずに(OED 1)。また静けさの描写。
なぜ?・・・・・・後でわかる。

15 quiet
また静けさ。

17
屋敷の上のほうのまどから月の光線(beam)が
さしてきていて、そこに亡霊が集まってきているようす。
「そこに」というのがあいまいで、ふつうの人のように、
階段の上、月の光のあたっているところに立っている、
ともとれるし、窓から差す月の光そのもののなかに、
つまり亡霊なので宙に浮んで、立っているともとれる。

19 Hearkening in
Hearken inはあいまい。自動詞 + 前置詞か、
あるいは他動詞 + 副詞か。上の日本語訳は、
訳しやすい後者で。

20 strangeness
別の世界に属している、ということ(OED 1-8)。

22 stillness
また静けさ。

31 still
また静けさ。

33―34
旅人の声以外の音が、ここから聞こえはじめる。

35-36
surge: 波にのって上下にゆれる(OED 1)。
plunge: 水に飛びこむ(OED 5a)。
ポイントは、これらの語を文字通りに読むこと。

この詩を通じて強調されている沈黙、音のなさは、
実はこの旅人がひきつれてきたもの、もたらしたもので、
そして旅人とともに帰っていった(35)。

旅人と馬は、おそらく海からやってきていて、そして
海に帰っていった(36)。

4行目、24行目にあるように、ここは森で、実際には
海はない。が、人工的な映像のように、旅人と馬が
去っていく最後の場面にだけ、突然、ぼんやりと
海があらわれて・・・・・・。

* * *
つまり、この詩で語られているのは、次のようなこと。

1.
(たとえば)この旅人はすでに海で死んだ人で、
なんらかの約束を守るために、この屋敷に戻ってきた。

2.
が、その約束を交わした相手の「彼ら」もすでに死んで
しまっていた。

3.
この果たされなかった再会の現場を、まったく異質
(strange)で正体不明な亡霊たちが目撃していた。

* * *
この詩のポイントは、

(1)
旅人
旅人が会いに来た相手の人々
亡霊たち

という三者の関係。実は、みんなこの世にいない。

(このあたりの発想が、デ・ラ・メアならでは、なのでは。)

(2)
「果たされなかった約束」、あるいは、「死んでしまって
からでも約束を果たそうとする」ということのメロドラマ性。

(1) の設定があるから、甘ったるく感じられない。

(3)
果たされなかった再会の現場にいた亡霊たち、
まったく無関係な傍観者で、ただ旅人の話を聞いていた
亡霊たち("The Listeners")を、話の中心に、
そしてタイトルに、もってきていること。

恐ろしい感じ、嫌な感じがまったくしないと同時に、
まったく受け身で、ギリギリ存在が感じられるだけの
ような、この「亡霊」たちを主人公とすることで、
幻想的なエピソードに、さらになんともいえない独特の
幻想的な雰囲気が加わる。

* * *
英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031

* * *
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道端アート/素人アート + 自然 (15)

道端アート/素人アート + 自然 (15)



ある公共施設のタイル細工



フォークとスプーン



身内のアーティストKとわたし



身内のアーティストK

(ここにEmily Kame Kngwarreyeの絵を載せたいが自粛。)
http://www.emilymuseum.com.au/
http://news.aboriginalartdirectory.com/2008/03/
emily-kame-kngwarreye-in-osaka.php



グラデーション



はーるよこい

* * *
画像はわたしが撮影。


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Jonson, "To Sir Cary and Sir Morison" (英語テクスト)

ベン・ジョンソン (1572-1637)
「気高い二人、ルーシャス・ケアリ卿とH・モリソン卿との
友情を永遠に記念して」 (英語テクスト)

Ben Jonson
"To the Immortall Memorie, and Friendship of
That Noble Paire, Sir Lucius Cary and Sir H.
Morison"

The Turne.
Brave Infant of Saguntum, cleare
Thy comming forth in that great yeare,
When the Prodigious Hannibal did crowne
His rage, with razing your immortall Towne.
Thou, looking then about,
E're thou wert halfe got out,
Wise child, did'st hastily returne,
And mad'st thy Mothers wombe thine urne.
How summ'd a circle didst thou leave man-kind
Of deepest lore, could we the Centre find!
(1-10)

The Counter-turne.
Did wiser Nature draw thee back,
From out the horrour of that sack,
Where shame, faith, honour, and regard of right
Lay trampled on; the deeds of death, and night,
Urg'd, hurried forth, and horld
Upon th'affrighted world:
Sword, fire, and famine, with fell fury met;
And all on utmost ruine set;
As, could they but lifes miseries fore-see,
No doubt all Infants would returne like thee?
(11-20)

The Stand.
For, what is life, if measur'd by the space,
Not by the act?
Or masked man, if valu'd by his face,
Above his fact?
Here's one out-liv'd his Peeres,
And told forth fourescore yeares;
He vexed time, and busied the whole State;
Troubled both foes, and friends;
But ever to no ends:
What did this Stirrer, but die late?
How well at twentie had he falne, or stood!
For three of his foure-score, he did no good.
(21-32)

The Turne.
Hee entred well, by vertuous parts,
Got up and thriv'd with honest arts:
He purchas'd friends, and fame, and honours then,
And had his noble name advanc'd with men:
But weary of that flight,
Hee stoop'd in all mens sight
To sordid flatteries, acts of strife,
And sunke in that dead sea of life
So deep, as he did then death's waters sup;
But that the Corke of Title boy'd him up.
(33-42)

The Counter-turne.
Alas, but Morison fell young:
Hee never fell, thou fall'st my tongue.
Hee stood, a Souldier to the last right end,
A perfect Patriot, and a noble friend,
But most a vertuous Sonne.
All Offices were done
By him, so ample, full, and round,
In weight, in measure, number, sound,
As though his age imperfect might appeare,
His life was of Humanitie the Spheare.
(43-52)

The Stand.
Goe now, and tell out dayes summ'd up with feares,
And make them yeares;
Produce thy masse of miseries on the Stage,
To swell thine age;
Repeat of things a throng,
To shew thou hast beene long,
Not liv'd; for life doth her great actions spell,
By what was done and wrought
In season, and so brought
To light: her measures are, how well
Each syllab'e answer'd, and was form'd, how faire;
These make the lines of life, and that's her ayre.
(53-64)

The Turne.
It is not growing like a tree
In bulke, doth make man better bee;
Or, standing long an Oake, three hundred yeare,
To fall a logge, at last, dry, bald, and seare:
A Lillie of a Day
Is fairer farre, in May,
Although it fall, and die that night;
It was the Plant, and flowre of light.
In small proportions, we just beauties see:
And in short measures, life may perfect bee.
(65-74)

The Counter-turne.
Call, noble Lucius, then for Wine,
And let thy lookes with gladnesse shine:
Accept this garland, plant it on thy head,
And thinke, nay know, thy Morison's not dead.
He leap'd the present age,
Possest with holy rage,
To see that bright eternall Day:
Of which we Priests, and Poets say
Such truths, as we expect for happy men,
And there he lives with memorie; and Ben.
(75-84)

The Stand.
Johnson: who sung this of him, e're he went
Himselfe to rest,
Or tast a part of that full joy he meant
To have exprest,
In this bright Asterisme:
Where it were friendships schisme,
(Were not his Lucius Long with us to tarry)
To separate these twi-
Lights, the Dioscuri;
And keepe the one halfe from his Harry.
But fate doth so alternate the designe,
Whilst that in heav'n, this light on earth must shine.
(85-96)

The Turne.
And shine as you exalted are;
Two names of friendship, but one Starre:
Of hearts the union. And those not by chance
Made, or indenture, or leas'd out t' advance
The profits for a time.
No pleasures vaine did chime,
Of rimes, or ryots, at your feasts,
Orgies of drinke, or fain'd protests:
But simple love of greatnesse, and of good;
That knits brave minds, and manners, more than blood.
(97-106)

The Counter-turne.
This made you first to know the Why
You lik'd, then after, to apply
That liking; and approach so one the tother,
Till either grew a portion of the other:
Each stiled by his end,
The Copie of his friend.
You liv'd to be the great surnames,
And titles, by which all made claimes
Unto the Vertue. Nothing perfect done,
But as a CARY, or a MORISON.
(107-16)

The Stand.
And such a force the faire example had,
As they that saw
The good, and durst not practise it, were glad
That such a Law
Was left yet to Man-kind;
Where they might read, and find
Friendship, indeed, was written, not in words:
And with the heart, not pen,
Of two so early men,
Whose lines her rowles were, and records.
Who, e're the first downe bloomed on the chin,
Had sow'd these fruits, and got the harvest in.
(117-28)

* * *
Under-Woods (1640) in The Workes of Benjamin Jonson
(STC 14754a) より。(pp. 232-35)


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Jonson, "To Sir Cary and Sir Morison" (解説)

ベン・ジョンソン (1572-1637)
「気高い二人、ルーシャス・ケアリ卿とH・モリソン卿との
友情を永遠に記念して」 (解説)

ジョンソンの(「木のように育って」)("It is not growing
like a tree") はこの詩の一部。下記の通り、イギリス文学史上
重要な作品なので、全訳を。

* * *
タイトル
(またいつか。)

Turn
= Strophe ストロペ。ギリシャ悲劇やピンダロスのオードで
コロスchorusが右から左に転回すること、またそのときに歌う歌。
ピンダロスのオードは3スタンザ単位でまとまっている。

Strophe + antistrophe + epode
= turn + counterturn + stand
= 左へ転回しながら歌 + 右に転回しながら歌 + 止まって歌

このセットが数回くり返される。ひとつのオードのなかで、
stropheとantistropheは基本的に同じ詩形。
くり返されるepode同士も同じ詩形。以下の資料など参照。

Dawson W, Turner, The Odes of Pindar (1852), p. xiii
http://archive.org/details/odespindar01moorgoog

Richmond Lattimore, The Odes Of Pindar, p. xii
http://archive.org/details/odesofpindar035276mbp

The Works of Ben Jonson, vol. 6 (1756), pp. 440-41
http://books.google.co.jp/books?id=rwngAAAAMAAJ

ということで、ジョンソンのこの詩は、ピンダロスのオードの形式を
そのままイギリス詩に導入しようとしたおそらく最初のもの。

(しかし、Blackwell Annotated Anthology: 17c
Poetry, p.97の解説によれば、ピンダロスの直接の模倣というより、
イタリア人詩人がピンダロスの模倣をした作品の模倣、とのこと。)

* * *
内容的に、この「オード」は、「ペンスハースト邸に」
と同様、誰かを称えつつ道徳的なことがらについて思考を
めぐらせる作品。

(1)
誰かを称える、ということが、現代(の日本)では
「詩」にあまり期待されていないので、まずこの点で
古めかしく、なじみなく、感じられてしまう。

道徳的なことがらについて長々と考える、ということも
現代の日本では「詩」にあまり期待されていない(?)
ので、この点でも古めかしく、感じられてしまう。

(そもそも詩が身近ではない。)

だから、この作品に近いものとしては、詩や歌ではなく、
著名な人物を扱うドキュメンタリー・伝記的なTV番組や
映画をイメージするといいように思う。

(2)
少なくともイギリスでは、従来、恋愛など個人的な
題材を扱う詩よりも社会的・道徳的なことを扱うもの
のほうがジャンルとして高くみなされた。

また、短い詩よりも長い作品のほうが、高く評価された。
(思考・内容的に深くなり、しかも一貫したかたちで
書くことが難しくなるので。)

このような点でも、このオードは、3-5分のラヴ・ソング
ではなく、数ページのエッセイや、30分程度のドキュメンタリー
のようなものと比較されるべき。

なお、イギリス詩の基準でいえば、この詩は全然長くなく、
むしろ短い。長い詩とは、数千から数万行のもの。

* * *
1-10
プリニウス『博物誌』Natural History中のエピソード。
7.3.2 (Blackwell Annotated Anthology:
17c Poetry, p.97) とも、7.3.39 (Penguin Classics:
Ben Jonson, Complete Poems, 542) とも。

Pliny's Natural History in Thirty-Seven Books,
vol. 1 (1847-48) ではp. 189に。
http://archive.org/details/plinysnaturalhis00plinrich

1 Saguntum
スペイン東部の町。ハンニバル率いるカルタゴ軍に侵攻される
(219-18 BC)。攻め落とされた際、住民は、捕らわれることを
嫌って炎で自害。The Works of Ben Jonson, vol. 6
(1756) 441より。
http://books.google.co.jp/books?id=rwngAAAAMAAJ

9 Summ'd
Sum: 完全・完璧な状態にする、完成させる(OED 6a)。

14-16
構文は、the deeds of death, and night [being/are]
Urg'd, hurried forth, and horld Upon th'affrighted
world.

15 horld
= hurld = hurled.

17
構文は、
And set all on utmost ruine.
主語は前の行のSword, fire, and famine.

21-22
セネカの言葉「わたしたちは長さによってではなく、何を
したかということによって、生の価値をはかる」より
(Epistles 93.4)。

25
構文は、Here's one [that] out-liv'd his Peeres.

25-31
セネカの言葉より。「充実した生が長い生である。
・・・・・・ここにいる老人は、無駄に費やした
80年からどんな恩恵を得ているだろう? そのような人は、
生きてこなかったのと同じで、ちょっと生のなか、
長居をしてきただけである。いわば、長い時間を
かけて死んでいっているのみなのである」(Epistles 93-23)。

ここの老人は、タイトルにあるヘンリー・モリソンや
ルーシャス・ケアリとは無関係。

33 part(s)
生まれもって与えられた資質(特に知性に関して)
(OED 12)。

34 art(s)
技術一般(OED II)。(特に技術を要する)仕事
(OED 9a)。

36 with
関わりをあらわす(OED 8)。
= ・・・・・・の評価のなかで(OED 10)。

41 sup
少し飲む(OED 1)。(比喩的に)経験する、
味わう(OED 4)。

41 waters
しばしば複数形で流れる水をあらわす(OED 6b)。

41 did
= would have.

42 But that
= Were it not that = If it were not that
もし・・・・・・ということがなかったならば
(OED, "but", prep., adv., conj. 9)。

42 boy'd
= buoyed.

43-
二スタンザにわたって描かれてきた、無駄に長生きした
男と対照するかたちで、タイトルにあるヘンリー・モリソン
へと話題を移行。

43-44 fell, fall'st
Fall(standの反対)のもつ複数の意味、ニュアンスを
用いたしゃれ。

倒れる、死ぬ、病気になる(23a)。
悪い誘惑に屈する。罪を犯す(22a)、道徳的に落ちる(7b)。
つまづく(25a)。誤る、誤りに導く(ラテン語falloより)。

http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?
doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0060%3Aentry%
3Dfallo

44
構文は、thou fall'st, my tongue.
Thou = my tongue.

道徳的にマイナスな意味をもつFallという語で
モリソンの死を表現しているから、わたしの口は誤っている、
fallしている、ということ。

45 right
正しい(OED II 5-10, 14)
その名にふさわしい、本物の(OED 17)。

50
構文は、sound In weight, in measure, number.

51
though his age imperfect might appeareは
挿入されている節。Asは次の行のHis lifeにつづく。

55 thy
読者。前スタンザのモリソンではない。

55 masse
= mass. ミサ、聖餐式(OED, mass n.1)。
(押しつぶされそうなくらい)たくさんのもの(OED, mass n.2)。

57 throng
押しあうように集まった多くのもの(OED 3b)。
押しつぶされそうな量の仕事(OED 4)。
苦しみ、悲しみ(OED 1, 方言)

58-59
「70を過ぎて残っているのは(ダヴィデがいう
ように)悲しみだけ。生きているというより、ただ長居
しているだけ。」
ロバート・バートン、『憂鬱の解剖』(1621-)1.2.3.10
http://www.gutenberg.org/files/10800/10800-h/
ampart1.html#1.2.1

59 spell
(アルファベット)一文字ずつ話す、綴る。
人生における「しかるべきときになされたしかるべきこと」
= 語られた物語におけるひとつひとつのアルファベット。

62 measure(s)
はかるための基準(OED 5)。
(つづく)

65-74
次のページを参照。
Jonson, ("It is not growing like a tree")
ベン・ジョンソン(1572-1637)
(「木のように育って」)

79 age
命のある期間(OED 2)。

79-81
肉体の死 = 天国に行くこと、という、死に対する
前向きなキリスト教的解釈。(もちろん、悲しみの裏返し。)

80 rage
勇敢さ、熱く男らしい感情(OED 9)。

81 Day
日の出ている時間(OED I)。天国では日は沈まないので、
「永遠の日」。「世界」というのは意訳。

84 memorie
記憶されている、ということ(OED 4a)。

84 and Ben.
最後のピリオドは文の終わりのものではなく、Ben[jamin]からの
省略をあらわすもの。このand Ben.からの節は、次のスタンザ
にまたがってつづく。

85 Johnson
= Jonson. 17世紀には、多くの語について、まだ
つづりが固定されていない。

85 sung
= sang.

89 Asterisme
星座。以下、ケアリーとモリソンの別れをふたご座の
ふたご(の星)、カストールとポリュデウケースの別れに
たとえて描く。

カストールとポリュデウケースは、ゼウスと、彼が
白鳥の姿になって関係をもったレダのあいだの
ふたご。しかし、実際にはポリュデウケースのみゼウスの
子で、カストールはレダの夫、スパルタ王で人間の
テュンダレオースの子。

同じくレダは女の子のふたごも産む。そのうちの
ヘレネーがゼウスの子で、クリュタイムネーストラーが
テュンダレオースの子。ヘレネーはトロイア戦争の
原因となり、またクリュタイムネーストラーはトロイア
戦争におけるギリシャ軍の総大将アガメムノーンの
妻となる(が、夫を殺し、息子に殺される)。

さすがギリシャ神話。

90-
were friendships schismeの主語にあたるのは
To separate . . . And keepe . . . .
日本語訳は意訳的に。

90 were
= would be.

90 friendships
= friendship's

92-93 twi-Light
ふたごの星(twin-lights)を二行にまたがるかたちで
切り離し、別れを視覚的にあらわしている。

ふたご座のふたつの星は同時に輝くことはない?
Cummings, ed., Seventeenth-Century Poetry: An Annotated
Anthology (Blackwell) 100; Dawson and Dupree, eds.,
Seventeenth-Century English Poetry (Harverster) 142.

94 Harry
タイトルにあるヘンリー・モリソンのこと。

96
[T]hatは亡くなったモリソン、thisは残されたケアリ。

99 those
"[O]ne Starre of friendship" と "the union Of hearts".

102-
構文は、
No vaine pleasures Of rimes, or ryots,
[no] Orgies of drinke, or fain'd protests
did chime at your feasts.
(この2行目までが主部。)

105 simple
嘘や偽りのない(OED 1)。

107-
構文は、以下の通り。
This made you (to) know . . .,
(to) apply . . ., and approach. . . .

111-
構文は、以下の通り。
Each [being/was] stiled by his end,
The Copie of his friend.

111 stile
= style, 称号で呼ぶ。

115-
構文は、以下の通り。
Nothing perfect [was] done, But as a CARY,
or a MORISON.

122-
構文は、以下の通り。
Where they might read [friendship], and find
[that] Friendship, indeed, was written, not in words:
And [that friendship was written] with the heart (not pen)
Of two so early men. . . .

126 whose
目的格的な所有格(OED, pron. 4)。ここでは、先行詞
"two so early men" 「についての」。

126 rowles
= rolls. 公式な記録などが書かれた巻物(OED n.1, 2a)。

* * *
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From Dryden (trans.), Juvenal, Satire 10

ユウェナリス、『諷刺10』より
(英語訳・翻案ジョン・ドライデン)

デモクリトスは笑ったという、ありがちな心配や恐れに対して。
人々が求める意味のない勝利や、さらに意味のない彼らの涙に対して。
彼の心には、いつも同じ落ちつきがあった、
〈運の女神〉が媚を売ってきたときも、彼をにらんできたときも。
だから明らかだ、わたしたちが神に祈って求めるようなことは、
たいていよくないことをもたらす。せいぜい、何の役にも立たない。
(79-84)

* * *
From The Tenth Satire of Juvenal
(Trans. John Dryden)

He laughs at all the vulgar cares and fears;
At their vain triumphs, and their vainer tears:
An equal temper in his mind he found,
When Fortune flatter'd him, and when she frown'd.
'Tis plain from hence that what our vows request
Are hurtful things, or useless at the best.
(79-84)

* * *
79 He
デモクリトスDemocritusのこと。古代ギリシャの哲学者。
「笑う哲学者」("laughing philosopher")として
知られる。楽しく生きることを倫理の最終目標としていたから、とも、
人々の愚かさをあざけっていた、とも。

後者はローマの哲学者セネカSenecaの解釈。
ユウェナリス(c.60-c.128)/ドライデンもこちらの路線で。

ユウェナリスはローマ帝国の政治や社会のあり方を諷刺した詩人。
ドライデンは内戦、共和国、王政復古、王位継承排除危機、
そして名誉革命という、17世紀イギリスの政治的混乱を、
(内戦以外は)その内側から見てきた。官僚、桂冠詩人などとして。

* * *
英語テクストは、The Works of John Dryden, ed. Walter
Scott, vol 13 (1821) より。一部修正。
http://archive.org/details/worksjohndryden02drydgoog

* * *
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Cowley, "The Epicure"

エイブラハム・カウリー(1618-1667)
「アナクレオンの詩VIII--快楽主義者--」

バラ色のワインを器に注ごう。
バラで冠を編んでかぶろう。
しばらくのあいだ、楽しげに、
ワインやバラのようにほほえんでいよう。
バラの冠があれば、あの裕福な
ギューゲース王の冠などいらない。
今日という日はわたしたちのもの--何を恐れている?
今日という日はわたしたちのもの--それは、まさにわたしたちの手のなかに。
今日という日にやさしくしよう。そうすれば、それも、
わたしたちといっしょにいたいと、少なくとも思ってくれるだろうから。
仕事は追放しよう。悲しみも追放しよう。
明日のことなど、神々が考えればいい。

* * *
Abraham Cowley
"Anacreontiques VIII: The Epicure"

Fill the Bowl with rosie Wine,
Around our temples Roses twine,
And let us chearfully awhile,
Like the Wine and Roses smile.
Crown'd with Roses we contemn
Gyge's wealthy Diadem.
To day is Ours; what do we feare?
To day is Ours; we have it here.
Let's treat it kindely, that it may
Wish, at least, with us to stay.
Let's banish Business, banish Sorrow;
To the Gods belongs To morrow.

* * *
訳注

1-6
バラとワイン、はかない美と実体のない幸せ。
ありきたりだが、それでも・・・・・・。
バラの「冠」というのもポイント。美しく、痛い。

6 Gyge's
= Gyges's. ギューゲースは古代リュディアの王。
ヘロドトスの『歴史』第1巻参照。
http://classics.mit.edu/Herodotus/history.1.i.html

(1)
ギューゲースは、リュディア王の護衛のうちの
彼のお気に入りのひとり。

(2)
王妃の美しさを自慢する王のすすめによって、彼女の
裸をこっそり見る。これは王妃にばれていた。

(3)
怒った王妃はギューゲースに命じる--「そんなことを
命じた王を殺してお前が王になれ、それが嫌ならおまえは
死刑だ」。

(4)
やむを得ずギューゲースは王を殺して王になる。

(5)
人々は反乱をおこそうとするが、デルポイの神託が
彼の即位を認めるならいい、という話になる。
そして、実際に神託はギューゲースを王として認める。

(6)
こうして彼は王となり、デルポイの神殿に金の器など、
多くの捧げものを送る。

9-10
「少なくとも思ってくれる」--つまり、本当は不可能だから。
今日という日が、わたしたちといっしょにずっととどまる、
ということはありえないから。

12
明日も生きている、という保証があるのは、不死の神々だけ、
ということ。人間は、いつ--実際今この瞬間に--死んでも
おかしくない存在。

* * *
文学史上「カルペ・ディエム」とまとめられるタイプの詩。

実際には、「カルペ・ディエム」のテーマにもいろいろな
ルーツがあり(ホラティウスだけでなく)、17世紀イギリス
においてもいろいろな変奏がある。詩人によって、また、
作品によって。

* * *
英語テクストは、Poems (1656) (Wing C6683) より。
一部修正。

* * *
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Dryden (trans.), Horace, Ode I.9

ホラティウス、オード9 (「ごらん、高く、白い山を」)
(『オード集』第1巻より)

(英語訳・翻案 ジョン・ドライデン)

I.
ごらん、高く、白い山を。
新しくつもった雪でますます高くなっている。
ごらん、雪の重さが
下の木を押しつぶそうとしている。
川は、氷の足かせでかたい地面に縛られ、
その足はひきつって、麻痺している。

II.
薪を高く積んで寒さをとかそう。
暖炉に火をつけ、心地よく、あたたかくしよう。
ワインも出してこよう。飲めば気が大きくなるし、
話も楽しく弾む。恋が芽生えたりもする。
今後おこることについては、神がなんとかして
くれればいい。なんとかしよう、という気になってくれるなら。

III.
神がつくったものは神にまかせておこう。
世界を放り投げるなり、ぐるぐる回すなり、好きにさせよう。
神が命じるから嵐が襲い、
神が命じるから風が吹く。
神がうなづいて合図をすれば、嵐も風もやみ、
静けさが戻り、すべて落ち着く。

IV.
明日のこと、明日に何があるかなど、気にするのはやめよう。
今の、この時間をつかんで、逃がさないようにしよう。
過ぎ去っていく楽しみをさっとつかみ、
〈運の女神〉の手から奪ってしまおう。
恋や、恋の楽しみを軽んじてはいけない。
今日手に入れた富は富--たとえ明日それが失われても。

V.
若い黄金の時代のよろこびを、
悲しみを知らない若さが実らせる甘い果実を、ちゃんと手に入れておこう。
時が、病や老いでそれを枯らせ、
壊してしまう前に!
いきいき動いて楽しむのに、気持ちよく休むのに、
まさに今がいちばんいいとき。
いちばんいいものは、いちばんいい季節にしか手に入らない。

VI.
こっそり会う約束をした幸せの時間、
暗がりでの甘いささやき、
半分いやがりつつ、求めてくるキス、
闇のなか君を導く笑い声、
そのとき、やさしい妖精のような女の子は、はずかしいようなふりをして、
そして、隠れたりする--また見つけてほしいから。
これら、まさにこういうこと、神々が若者に与えるよろこびとは。

* * *
Horace, Ode I. 9
("Behold yon Mountains hoary height")

(Trans. John Dryden)

I.
Behold yon Mountains hoary height
Made higher with new Mounts of Snow;
Again behold the Winters weight
Oppress the lab'ring Woods below:
And streams with Icy fetters bound,
Benum'd and crampt to solid ground.

II.
With well heap'd Logs dissolve the cold,
And feed the genial heat with fires;
Produce the Wine, that makes us bold,
And sprightly Wit and Love inspires:
For what hereafter shall betide,
God, if 'tis worth his care, provide.

III.
Let him alone with what he made,
To toss and turn the World below;
At his command the storms invade;
The winds by his Commission blow;
Till with a Nod he bids 'em cease,
And then the Calm returns, and all is peace.

IV.
To morrow and her works defie,
Lay hold upon the present hour,
And snatch the pleasures passing by,
To put them out of Fortunes pow'r:
Nor love, nor love's delights disdain,
What e're thou get'st to day is gain.

V.
Secure those golden early joyes,
That Youth unsowr'd with sorrow bears,
E're with'ring time the taste destroyes,
With sickness and unweildy years!
For active sports, for pleasing rest,
This is the time to be possest;
The best is but in season best.

VI.
The pointed hour of promis'd bliss,
The pleasing whisper in the dark,
The half unwilling willing kiss,
The laugh that guides thee to the mark,
When the kind Nymph wou'd coyness feign,
And hides but to be found again,
These, these are joyes the Gods for Youth ordain.

* * *
訳注
(ローマ数字はスタンザ番号)

ホラティウスのオリジナルは4行x6スタンザ。
ドライデンは、足したり引いたり、そこに大幅に
手を加えて英訳している。

(ドライデンは、逐語訳、および原型をあまり
とどめないような完全な翻案、という両極端を嫌い、
原型をとどめつつ自由にいいかえる、という
方法--"paraphrase"--をとっている。)

I
冬の雪山の風景。スタンザIIにつながると同時に、
V-VIに描かれる若さと対照をなすことが後でわかる。

II
ホラティウスのオリジナルでは、神は複数の「神々」
(divis)。ローマ神話だから。これをドライデンは
一神教のキリスト教にあうように翻案。

ほとんどのすべて版は、ここのheatを誤植とみなし、
hearthに修正しているが、heapとの頭韻、heap, feed
との母音韻もあるので、heatがドライデンの意図した
語と思われる。(文脈から、hearth暖炉は自然に頭に
浮かぶ。あえてこの語がなくても。)

II-III
ここにまたがってあらわれているような、
神やこの世のあり方に対する投げやりな姿勢が、
思うにドライデンの特徴のひとつ。

「神に導かれた」兵士たちが戦い、「神に導かれた」
政治家たちが伝統的な国のあり方を壊し、そして
国を大混乱に陥れた内戦期・共和国期に対する反動。

神の意志が自分にはわかる、という思いあがりに
対する抵抗、強い批判。

(ホラティウスのオリジナルにこういうニュアンスはない。)

IV-VI
時のうつりかわり、この世のはかなさ、今という時間を
大切に、という、いわゆるcarpe diemのテーマ。

これを理由に女性を口説く(「若いうちにぼくと恋を
しよう」という)詩を書くケアリ(Carew)やマーヴェル
とは異なり、ここでのホラティウス/ドライデンは一般論
として若い男性に説いている。(その中間が、若い女性に
一般論を説くへリックの "To the Virgins".)

V
Unsoured, bear, tasteなどの語彙から、若い頃の
楽しみが甘い果実にたとえられていることがわかる。

VI
「半分いやがりつつ、求めてくるキス」とか、
「はずかしいようなふりをして、隠れたりする--
また見つけてほしいから」などという表現は
ドライデンの創作。

この手の繊細で甘酸っぱい(少女マンガ的な?)表現を
さりげなく散りばめることができるのがドライデン。

(なんだかんだいって、こういうのをキライでない人は、
少なくないのでは。老若男女を問わず。)

なお、このスタンザVIの内容については、ラテン語
オリジナルの逐語訳的な英訳(Oxford World Classics
シリーズのHorace, Complete Odes and Epodesや、
Loeb Classic Libraryシリーズのものなど)を参照して
意訳。

また、ここでは「神々」。(これはホラティウスには
ない行で、完全にドライデンの創作。ドライデンのなかに
キリスト教的な思考とギリシャ/ローマ的な思考が
混在しているということ。)

* * *
開国以来、日本では、イギリスなど外国の文学が読まれ、
また日本文学にとり入れられてきていた。
(中国のものについていえば、はるか昔からそう。)

より身近なレベルでいえば、音楽や映画など、外国のものが
現在あたりまえのように聴かれ、見られている。

同じように、17世紀のイギリスにおいても、外国の文学が
翻訳されて広まっていた。(特にギリシャ/ローマの古典。)

ドライデンは、そのような翻訳文化に、ひいてはイギリス文学の
発展に、大きな(おそらく最大級の)貢献をしたひとり。

* * *
なお、日本語版Wikipedia「ドライデン」のページにある
次の記述は誤り。英語版WikiのDrydenのページの誤訳。

「ドライデンはホラティウス、ユウェナリス、オウィディウス、
ルクレティウス、テオクリトスらの作品を翻訳したが、これは
劇場用作品の執筆と比べると満足にはほど遠い仕事であると
彼は感じていた。」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%
83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%
E3%83%B3
(20130208現在)

(ドライデンは、劇場のための劇作よりも、はるかに古典の
翻訳を楽しんでいた。客受けを気にせず、書きたいことが
書けるから。)

* * *
(参考)
「神に導かれて・・・・・・」ということについて
Worden, "Providence and Politics in Cromwellian England"
Past and Present 109.1 (1985): 55-99.
小野、大西編『〈帝国〉化するイギリス』第5章(わたしが担当。)
クリストファー・ヒル評論集1-4 (法政大学叢書「ウニベルシタス」)

* * *
英語テクストは、Sylvae (1685) (Wing D2379) より。
誤植を一箇所修正。

* * *
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道端アート/素人(+ 職としての)アート + 自然 (14)

道端アート/素人(+ 職としての)アート + 自然 (14)



水平線(江ノ電の窓越し)



富士山2013



Sh.N., ハンガリー刺繍習作



若手陶芸家の作品(とのこと)

* * *
画像はわたしが撮影したもの。


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Cowley, "The Thief"

エイブラハム・カウリー(1618-1667)
「泥棒」

君は、ぼくの日々から仕事と楽しみを盗む。
ぼくの夜から眠りを盗む。
ねえ、かわいい泥棒さん、次は何をする?
え? ぼくから天国も盗む?
祈りのなかでも、君はぼくにつきまとう。
ありえない偶像崇拝みたいに、ぼくは、
神に祈りつつ、気がつけばいつも君に祈ってる。

愛することは罪? こんなふうに、
まるで罪の意識のように、ぼくたちを拷問にかけるなんて。
何をしていても、どこに行っても、
(罪もないのに、こんなにとり憑かれ、追われるなんてありえない)
いつも、いつも、君の顔が見える気がする。
いつも、君の姿が追いかけてくる。
まるでぼくが君を殺したみたいに。君がぼくを、ではなくて。

本に助けを求めようとしてみる。
でも、すべての文字が君の名前に見えてくる。
何が書かれていようと、そこに君の名が見える、
あちこちに、まるでピリオドやコンマのように。
こんな状態が幸せだなんて、いわれたくない。
昔々のミダース王のように、
すべてを金に変えてしまって、それで死にそうなんだから。

ああ、ぼくは何をしようとしてる? どうしてぼくは
君から逃げようとしてる? ムダなのに。
ぼくは、君をぼくの神にしたから、
君はあらゆる場所にいる。
ぼくの苦しみは地獄の苦しみ--
地獄にも神はいて、
でも、人を幸せにするかわりに、拷問にかけている。

* * *
Abraham Cowley
"The Thief"

1.
Thou rob'st my Days of bus'ness and delights,
Of sleep thou rob'st my Nights;
Ah, lovely Thief what wilt thou do?
What? rob me of Heaven too?
Thou even my prayers dost steal from me.
And I, with wild Idolatrie,
Begin, to God, and end them all, to Thee.

2.
Is it a Sin to Love, that it should thus,
Like an ill Conscience torture us?
What ere I do, where ere I go,
(None Guiltless ere was haunted so)
Still, still, methinks thy face I view,
And still thy shape does me pursue,
As if, not you Me, but I had murthered You.

3.
From books I strive some remedy to take,
But thy Name all the Letters make;
What ere 'tis writ, I find That there,
Like Points and Comma's every where;
Me blest for this let no man hold;
For I, as Midas did of old,
Perish by turning ev'ry thing to Gold.

4.
What do I seek, alas, or why do I
Attempt in vain from thee to fly?
For making thee my Deity,
I gave thee then Ubiquity.
My pains resemble Hell in this;
The Divine presence there too is,
But to torment Men, not to give them bliss.

* * *
訳注
(数字はスタンザ)

2
好きな女の子が頭から離れない状態を、亡霊に
とり憑かれた状態にたとえる。

3
ミダース王については、オウィディウス『変身物語』11巻を参照。
さわるものがなんでも金になるように、という願いをディオニュソス
(バッカス)にかなえてもらい、その結果、ものが食べられなくなって
困った。

4
遍在(あらゆる場所にいる)というのは、キリスト教における
神の属性のひとつ。人間は、ある時間にひとつの場所にしか
いることができない。(そもそも神にとって時間は存在しない。)

* * *
英語テクストは、Poems (1656) (Wing C6683) より。

* * *
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Shelley, The Mask of Anarchy (日本語訳)

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
『〈混沌〉の仮面劇』
マンチェスターの虐殺を機に執筆

[〈・・・・・・〉は、抽象概念が擬人化されたものを
あらわす。いわゆるアレゴリー。]

1.
イタリアで横になって寝ていたとき、
海の向こうから声が聞こえた。
その声の強い力に導かれ、
わたしは詩の幻のなかを歩いた。

2.
途中、わたしは〈虐殺〉に会った。
彼はカースルレイの仮面をつけていた。
とてもおだやかそうで、しかし冷酷で、
七匹の血に飢えた猟犬をひきつれていた。

3.
その犬たちはみな太っていた。当然だった、
ご立派なからだをしていたのは。
というのも、ひとつずつ、あるいは二つずつ、
〈虐殺〉は犬たちに人の心臓を与えて食べさせていたからだ。
大きなコートからとり出して。

4.
次に来たのは〈謀略〉だ。彼は
エルドンのような姿で、オコジョの毛皮のついたガウンを着ていた。
彼は大量の涙を流したが、その大きな粒は、
落ちているあいだにひき臼の石になった。

5.
小さな子どもたちが
この〈謀略〉の足もとで、キャッキャッと飛びはねていた、
彼の大きな涙が宝石に見えたから。
が、その涙のひき臼が子どもたちの頭をかち割り、脳が飛び出した。

6.
光を身にまとうように聖書をまとい、
そして夜の闇を身にまとい、
シドマスの姿で〈偽善〉が次に通って行った。
ワニの背中にのって。

7.
加えて、多くの〈破壊〉たちが
この恐ろしい仮面舞踏に登場した。
みな偽装して、目まで偽装して、
主教、法律家、貴族、スパイの姿になっていた。

8.
最後に〈混沌〉がやって来た。彼をのせる
白い馬は、血しぶきに染まっていた。
彼は唇まで青白く、
まるで黙示録に出てくる〈死〉のようだった。

9.
〈混沌〉の頭には王冠があった。
その手には王笏が輝いていた。
額にはこう書かれていた--
「わたしは神であり、王であり、法である!」。

10.
威厳ある、そして早い足どりで、
イングランド中を彼はまわった。
血の沼をつくりながら。
彼を崇める群衆を踏みつぶしながら。

11.
そのまわりでは、大群をなす兵士たちが、
大地をゆらして歩いて行く。
みな剣をふりまわし、血で染める。
彼らの神〈混沌〉に捧げる血で。

12
勝ち誇る軍の凱旋行進のように、彼らは、
おごり高ぶりイングランド中を進む。
まるで酔っているかのようだった。
残虐行為というワインに。

13.
野原や町を、海岸から反対側の海岸まで、
この見世物行列は行く。すごい勢いで、誰にも邪魔されず、
人を切り裂き、また踏みつぶしながら。
そして彼らはロンドンの町にやって来た。

14.
人々はみな恐怖にかたまり、
その心は病み萎えてしまった。
けたたましい叫び声、
〈混沌〉の凱旋からあがる大声を聞いて。

15.
この声は、豪華に、うやうやしく、彼に会うために、
血や炎の色のよろいを着て集まった
殺し屋たちの声。彼らは、〈混沌〉をたたえてこう歌う--
「あなたは神、あなたは法、あなたは王--」。

16.
「お待ちしていました。弱く、寂しく、わたしたちは、
あなたをお待ちしていました。力あるあなたを!
わたしたちの財布に金はなく、剣も冷たくなってしまっています。
栄誉をください。血と金をください」。

17.
法律家たちや牧師たち、雑多な群衆が、
ひざまづき、青白い顔で大地にひれ伏す。
そして、あまり大きくない声でよからぬことを祈るときのように、
ささやいた--「あなたは法、あなたは神」。

18.
すると、集まった者みなが、声をひとつにして叫んだ--
「あなたは王、あなたは神、あなたは支配者!
〈混沌〉様、あなたについて行きます!
神聖なるあなたの名を広めましょう!」

19.
すると〈混沌〉、このガイコツは、
お辞儀をして、みなにニカッと歯を見せて笑った。
まるで、彼を育てるために費やされた
1,000万ポンドのお礼をいっているかのように。

20.
そう、〈混沌〉は知っていた。イングランド代々の
王たちの宮殿は、実は自分のもの、と。
王の笏も、冠も、金の球も、
金が編みこまれた王の服も、本当はみな彼のもの、と。

21.
だから〈混沌〉は、奴隷をまず送りこみ、
イングランド銀行の金とロンドン塔の宝物を奪わせた。
そして凱旋の歩を進めていた、
彼が賄賂をつぎこんでいた議会に向かって--

22.
そのとき、走って逃げてくる者がいた。とり乱した少女で、
名は〈希望〉、とのことだった。
が、むしろ〈絶望〉という名のほうがふさわしいようすで、
誰にともなく叫んだ--

23.
「わたしのお父さんの〈時間〉は、年老いて弱くなってしまった、
幸せな日々を待って、待ちくたびれて。
見て、・・・・・・の人のようにあそこに立って、
ふるえる手でモジモジしているわ!」

24.
「お父さんには子どもがたくさんいたわ。
でも、みんな死んでちりの山になってしまった、
わたしだけ残して--
ひどい、なんてひどい!」

25.
こういうと〈希望〉は、通りに、
戦車を引く馬たちの真ん前に横たわった。
その目には、踏みにじられる覚悟が浮かんでいた。
〈虐殺〉、〈謀略〉、そして〈混沌〉に。

26.
そのとき、〈希望〉と敵たちのあいだに、
霧のような、光のような、何かの姿が立ちはだかった。
はじめは、それは小さく、もろく、弱々しかった。
谷間の霧のように。

27.
が、突風で雲が一気に広がり、
高い塔のような冠をのせて大股で歩く巨人ほど大きくなるように、
稲妻で目がくらむほどまばゆく輝き、
空に向かって雷を放って話しかける、そんな雲のように、

28.
その姿は一気に大きくなった。それは、毒ヘビの
うろこよりも輝く鎖のよろいを身にまとい、
またその翼の色は、まさに
天気雨にキラキラ反射する日の光のようであった。

29.
そのかぶとには、遠くからも見える星、
朝の明星、金星のような星があった。
そしてかぶとの赤い羽飾りのあいだから、
真紅の朝露のような光を、雨のようにふりそそいでいた。

30.
風のように軽く静かな足どりで、それは通っていった、
人々の頭の上を--それがあまりにも速かったので、
彼らは何かを感じて
見あげたのだが、からっぽの空以外、何も見えなかった。

31.
〈五月〉が歩いて通る下で花たちが目ざめるときのように、
〈夜〉のほどいた髪から星たちがふり放たれるときのように、
風に大きな声で呼ばれて波たちが立ちあがるときのように、
軽く静かな足どりでそれが通ったすべてのところに、多くの〈思考〉が生まれた。

32.
そして、ひれ伏していた群衆は
目をあげて見た--血の池に足を浸し、
〈希望〉、星のように透明に輝くあの少女が、
静かに、心静かに、歩いていくのを。

33.
青白く、恐ろしかった〈混沌〉は、
大地の上、死んだちりとなって横たわっていた。
御者を失った〈死の馬〉は、風のように
逃げていき、後ろに集まっていた殺戮の兵士たちを
ひづめで踏みしめ、まるで臼でひいたように粉々にした。

34.
雲からほとばしり出る光、まばゆいばかりの輝き、
目ざめさせるような、しかもやさしい感覚を、
人は聞き、感じた。そしてそれが消えかけるなか、
よろこびに満ちた、そして恐ろしい、次のような声が立ちのぼってきた。

35.
まるで憤る大地、
イングランドの息子たちを産んできた大地が、
彼らの血を額に浴び、
産みの苦しみのような痛みにふるえ、

36.
その額の血の一滴一滴、
朝露のように顔を濡らす一滴一滴の血を、
抑えきれない言葉に変えて発したかのようであった。
まるで彼女、大地の心が、大声で叫んだかのようであった。

37.
「イングランドの人々、栄誉を受け継ぐあなたたち、
書かれざる物語の英雄、
ひとりの偉大な母に育てられたあなたたち、
彼女の、また、おたがいの、希望であるあなたたち--」

38.
「眠りからさめたライオンのように立ちあがりなさい。
打ち負かされざる大群となりなさい。
あなたたちを縛る鎖をふりはらって落としなさい、
まるで寝ているあいだに降りてきた露のように。
あなたたちは多数、支配する彼らはほんのわずかな者たちです。」

39.
「自由とは何でしょう?・・・・・・あなたたちは、
奴隷の状態がどんなものか、知りすぎるほどに知っています。
奴隷ということばは、
『イングランド人』というあなたたちの名のこだまのようになっていますから。」

40.
「奴隷の状態とは、働いて、そして得られる給料が、
日々、手足に宿る命をギリギリ保てる
程度にすぎないことです。まるで独房のなか、
暴虐な王に使われるためだけに生きている者のように--」

41.
「そして、強制的に
布をつくらされ、畑を耕させられ、剣で戦わさせられ、
穴を掘らさせられるのです。無理やり、いやおうなしに、
ひと握りの支配者たちを守り、養うために。」

42.
「奴隷の状態とは、子どもたちが、弱々しく、
母たちとともに飢え、やつれていくのを見て、何もできないことです。
冬の風が冷たく吹くなかで--
今、こう話しているあいだにも死んでゆく者がいます。」

43.
「奴隷の状態とは、飢えることです。
ぜいたくにくらす金持ちが、
その足もとで満腹してゴロゴロしている太った犬たちに
投げて与える食べものすら手に入らずに。」

44.
「奴隷の状態とは、金(きん)の亡霊に
奪われることです。あなたたちが労働で得たものから、
以前の暴政のなか、金(きん)そのものが奪っていたよりも
千倍も多くのものを。」

45.
「紙のお金--それはにせの
権利証書です。あなたたちが
大地から受け継いだものの
価値を、偽ってあらわします。」

46.
「奴隷の状態とは、魂が奴隷であることです。
自分の意志を
自分でかたく決めることができず、
他の者たちにいいようにされることです。」

47.
「そして、こらえきれない悲しみを
弱々しく、誰にも聞こえない声でつぶやきながら、
奴隷たちは、暴虐な支配者の率いる武装部隊によって
妻や子が馬で踏み倒されるのを見ることになります。
草の上で光るのは、朝露ではなく、血なのです。」

48.
「そして奴隷たちは復讐を求めます。
野獣のように血に飢えるのです。流された
血の償いとして。
力を得ても、あなたがたはこのようなことをしてはなりません。」

49.
「鳥たちは小さな巣に安らぎを見つけます。
探求の旅から帰って、疲れていても。
獣たちには、森の寝床に食べものがあります。
外が嵐、または雪でも。」

50.
「馬にも牛にも、労役の後、
帰る家があります。
飼い犬たちは、風が唸りをあげるとき、
あたたかい家に入れてもらえます。」

51.
「ロバでも、豚でも、寝床にはわらがあり、
ふさわしい食べものを得ています。
家をもたないものはありません。ある者を除いて・・・・・・
ああ、あなたがた、イングランド人には家がないのです!」

52.
「これが奴隷のありさまです。野蛮人も
ほら穴に住む獣たちも、
あなたがたのような暮らしに耐えはしないでしょう。
--そもそも、そのような不幸を彼らは知らないでしょう。」

53.
「〈自由〉--あなたはどんなものでしょう? ああ、もし、
この死のような生を生きている奴隷たちに、
答えがわかるなら・・・・・・暴虐な支配者たちはすぐに逃げていくでしょう。
まるで夢のなかの、ぼんやりとした景色のように。」

54.
「〈自由〉--あなたは、インチキな者たちがいうような、
すぐに消えてしまう影ではありません。
迷信でもなく、また、〈噂〉の住むほら穴から
こだまして聞こえる、実体のないただのことばでもありません。」

55.
「〈自由〉--働く者たちにとって、あなたはパンです。
日々の労働からまっとうに得られて
テーブルに広げられる食事のようなものです。
質素で、きれいで、そして幸せな家で。」

56.
「〈自由〉--あなたは衣服で、火で、食べものです。
踏みつけられた多くの人たちにとって。
そう、自由な国々には、
このような飢餓はありえません、
今、イングランドにあるような飢餓は。」

57.
「〈自由〉--あなたは、裕福な人たちにとって歯止めのようなもの。
富める者の足が、人の首を
踏みつぶそうとしているとき、
あなたはその首をヘビにすりかえます。」

58.
「〈自由〉--あなたは〈正義〉です。金のために
あなたの正しい法が売られることがあってはいけません。
イングランドの法が売られてしまっているように--あなたは
位の高い者も低い者も、同じように守ります。」

59.
「〈自由〉--あなたは〈正しい判断力〉です。自由な人々は
夢にも思わないでしょう。牧師たちがあのように無駄に
説くことがらは偽り、と考える人々を、
神が地獄に落とす、などとは。」

60.
「〈自由〉--あなたは〈平和〉です。あなたは
血と財産をけっして無駄にしません。
それは、暴虐な支配者たちがしてきたことです。フランスで、
みなが集まってあなたの炎を消そうとした、あのときに。」

61.
「もしイングランド人の労働と血が、
まるで洪水のように無駄に流されたとしたら?
ああ、〈自由〉、それはあなたをかげらせるかもしれませんが、
あなたの火が消えてしまうことはないでしょう。」

62.
「〈自由〉、あなたは〈愛〉。富める者たちはあなたの
足にくちづけし、キリストにつきしたがった者たちのように、
財産を自由な人々に与えます。
そしてこの暴力的な世界のなか、あなたについて行くでしょう。」

63.
「あるいは、彼らは富を武器に変え、
あなた、〈自由〉が愛する人々のために戦うでしょう。
敵は富そのもの、戦いそのもの、そして不正--つまり、
富の力で富を、戦いの力で戦いを、滅ぼすのです。」

64.
「〈知識〉、〈詩〉、〈思考〉が
あなたの明かりです。これらは、
小さな家で暮らすべく定められた者の心を
澄んだものにします。彼らは運命を呪わないでしょう。」

65.
「〈心の強さ〉、〈忍耐〉、〈やさしさ〉、
人を美しくし、神聖にするものすべて、
それが〈自由〉、あなたです--言葉ではなく、人々のおこないに、
他のものにはないあなたの美しさが見られますように。」

66.
「大きな議会をつくりましょう。
恐れを知らぬ、自由な者たちの議会を、
イングランドのどこか、
平らな土地が広がるところに開きましょう。」

67.
「頭の上の青い空、
あなたたちが踏みしめる緑の大地、
その他、永遠に残らなくてはならないものすべてを、
この議会の厳粛さの証としましょう。」

68.
「イングランドの海岸線、国境のなか、
もっとも遠い、目につかない片隅から議員を呼びましょう--
すべての貧しい小屋、村、町、
人々が生活し、苦しみ、他の人の、
またみずからの、不幸のためにうめき声をあげているところから--」

69.
「救貧院や牢獄から議員を呼びましょう--
墓から立ちあがったばかりの死体のように血の気のない
女性や子ども、若者や年寄りが
痛みにうめき、寒さに泣いているところから--」

70.
「日々の生活の場から議員を呼びましょう--
日々の争い、
広まる欠乏と広まる不安との戦いがくり広げられ、
そして人の心が毒草にむしばまれていく、そんなところから--」

71.
「そして、最後に、宮殿から議員を呼びましょう--
苦しみにうめく声が、
遠くからの風の音のように、
しかしまるで近くで生きているかのように、」

72.
「富と上流マナーという牢獄の壁のまわりでこだまするところから--
しかしそこには、苦しみにうめきつつ労働し、泣き声をあげる者たちに
同情を感じる者も少しはいて、
そのようすを同僚たちが見れば、血の気が引く思いをするにちがいありません--」

73.
「語られざる、数えきれない苦しみのなかにあるあなたたち、
自分の国が売買されて失われるのを、
血を支払わさせられているのに、金のために国が売られて失われるのを、
感じている、あるいは見ているあなたたち--」

74.
「さあ、大きな議会をつくりましょう。
そして、偉大なる厳粛さとともに
宣言しましょう、落ちついた言葉で--あなたたちは
自由である、と。神が自由な者としてつくったのだから自由である、と。」

75.
「あなたがたの簡潔で強く、鋭い言葉を、
鋭い剣のかわりに使いなさい。
あなたがたの言葉を広い盾にして、
その陰で身を守りなさい。」

76.
「暴虐な王に放たせなさい、
けたたましい音を立て、
堰を破ってほとばしる海の水のように、
紋章をもつ貴族の武装した軍勢を。」

77.
「大砲を打たせなさい。
死んだ空気が生き返るほどやかましい音を鳴らさせなさい。
こわれ、ガチャガチャぶつかる車輪の音や、
混乱する馬のひづめの音で。」

78.
「銃の先につけた剣を
鋭い欲望で輝かさせなさい。
剣先をイギリス人の血に浸したいという欲望で。
飢えた人が食べものを求めるくらいに飢えた欲望で。」

79.
「騎兵たちには、偃月刀を
ふりまわさせ、またきらめかさせなさい。さまよう彗星が、
その炎を消したいと願っているときのように、
死と悲しみの海のなかで。」

80.
「あなたがたは、静かな決意をもって立ちなさい。
黙って密に生い茂る森の木のように、
腕を組み、けっして敗れることのない武器で
あるようなまなざしとともに立ちなさい。」

81.
「〈恐れ〉、全力で走る軍馬よりも早く
広まる〈恐れ〉には、あなたがたの陣内を
素通りさせなさい。ただの影として
それを無視しなさい。心をくじかれてはいけません。」

82.
「あなたがたの国の法、
よいものであれ、悪いものであれ、法をあなたがたのあいだに立たせましょう。
一対一、手足を組みあって争うとき、
その審判者として--」

83.
いにしえから伝わるイングランドの法にです。それは、
その聖なる頭が老いて白くなっているほど昔からある法、
何が正しいか、今よりもわかっていた時代の法です。
その神聖かつ厳粛な声は、〈自由〉、あなたの声を
こだまするものであるはずです!

84.
「そのような法、〈自由〉の存在を国に告げる
神聖な使者である法を犯す者の上に、
流された血のしみが残ることでしょう。
あなたがたの上にではなく。」

85.
「もし、暴虐な王たちがそうしたがるなら、
あなたがたのなか、馬で走りまわらせなさい。
切り殺させ、刺し殺させ、手足を切り落とさせ、倒させなさい--
やりたいようにやらせなさい。」

86.
「あなたがたは腕を組み、まっすぐなまなざしで、
恐れや動揺に襲われることなく、
殺戮を犯す者たちを見つめなさい。
やがて血に対する彼らの飢えは静まるでしょう。」

87.
「そして、恥ずかしい思いをしつつ、彼らは帰っていくでしょう、
もと来た場所へと。
流された血は語ることでしょう、
頬の上の熱い赤らみとなって。」

88.
「国の女性たちすべてが
立っている彼らを指さすことでしょう--
暴虐な者たちは、目をあげて声をかけることすらできないでしょう、
通りで知りあいにあったときでも。」

89.
「勇敢な、真の戦士たち、
戦争において〈危険〉と抱きあってきた戦士たちは、
自由を求める者たちを支持するようになるでしょう、
暴虐で卑しい者のなかにいることがはずかしくなって。」

90.
「国の人々に対する殺戮は、
湯気のように立ちのぼって消え、息吹きのような、
心ゆさぶる神託が聞こえるでしょう。
遠くで噴火する火山のように。」

91.
「そしてそのとき、次の言葉が、
〈抑圧〉を断罪し、雷で撃って滅ぼすかのように、
すべての人の心と頭に鳴りひびくでしょう、
何度も--くり返し--くり返し--」

92.
「眠りからさめたライオンのように立ちあがりなさい。
打ち負かされざる大群となりなさい。
あなたたちを縛る鎖をふりはらって落としなさい、
まるで寝ているあいだに降りてきた露のように。
あなたたちは多数、支配する彼らはほんのわずかな者たちです。」

* * *
Shelley, The Mask of Anarchy (訳注)
Shelley, The Mask of Anarchy (解説)
Shelley, The Mask of Anarchy (英語テクスト)

* * *
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Shelley, The Mask of Anarchy (解説)

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
『〈混沌〉の仮面劇』(解説)

I. 仮面劇(masque/mask)について

仮面劇は、16世紀後半から17世紀前半の宮廷で
おこなわれた、仮面・仮装舞踏会と劇が合体した
娯楽・芸術・文学ジャンル。ジェイムズ一世の宮廷で
ベン・ジョンソンと建築家・舞台美術家のイニゴ・ジョーンズが
芸術・文学の一形態として確立。

民間の演劇とは違い、この舞台には巨額の費用が
注ぎこまれ(宮廷のものだから)、凝った舞台装置
(背景画が次々に変わる、ワイヤーで空を飛ぶ、など)や
音楽(もちろん生演奏)が用いられた。この点で、
仮面劇は、王政復古期以降の演劇の、ひいては
現代の演劇、映画、TVドラマ、プロモ・ヴィデオなどの
ルーツといえる。

ジョンソンが確立したパターンは、およそ以下の通り。

(1)
プロの役者が演じる、擬人化されたさまざまな〈悪徳〉が
出てきて(つまり、イギリス文学に伝統的なアレゴリー形式)、
ばちあたりな会話を交わし、ばちあたりな歌を歌い、
グロテスクなダンスをする。

これはanti-masque(「裏仮面劇」くらいの意味)と
呼ばれるもので、下の(2)を引き立たせるものとして
ジョンソンが「女王たちの仮面劇」で確立した。
(それ以前の『黒の仮面劇』と『美の仮面劇』のセットや
『婚姻の神の仮面劇』などにおける実験を経て。)

(2)
王や貴族たちが演じる、擬人化されたさまざまな〈美徳〉が
登場し(空から飛んで来たりする)、〈悪徳〉たちは退散する。
〈美徳〉たちはりっぱな話をし、りっぱな歌を歌い、そして美しく踊る。
こちらがもともとの「仮面劇」masque。

(3)
観客である王や貴族たちを交えて、盛大なダンス・パーティに
なだれ込む。

このジョンソンのパターンをシェリーの「〈混沌〉の仮面劇」も
踏襲している。冒頭1/3は〈混沌〉の一味がグロテスクに描かれる
「裏仮面劇」で、残りの2/3、〈希望〉の自殺未遂、「よろいを
着た何か」による人々の啓蒙、〈希望〉の復活、〈混沌〉の死以降の
ふつうの人々の讃歌、自由の讃歌が「仮面劇」。

ただシェリーは、ジョンソンの仮面劇とは正反対に、
「裏仮面劇」の中心である〈混沌〉をタイトルにしている。

ジョンソンは王侯・貴族を称えるかたちで仮面劇を
書いたので、当然いいイメージの言葉がタイトルに来るが、
シェリーは当時の王侯・貴族・政治家たちへの強い憤りを
表現するためにこの作品を書いたので、〈混沌〉という
悪い概念がタイトルになっている。イヤミ、諷刺として。

整理すると--

(ジョンソン)
王侯貴族=美徳=仮面劇

(シェリー)
王侯貴族=悪徳=裏仮面劇

* * *
(つづく)

* * *
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Shelley, The Mask of Anarchy (訳注)

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
『〈混沌〉の仮面劇』

(数字は行ではなくスタンザをあらわす。)

タイトル
Anarchy
道徳的混乱(OED 2)。いわゆる無政府状態(OED 1)
というより、この詩では、政府があってもそれが正義をなして
いない状態を指す。

シェリーの念頭にあったと思われるのは、ミルトンの『失楽園』
第二巻。そこでは、天地創造前に天国と地獄のあいだにあった
〈混沌〉がAnarchyと呼ばれている。

2.
Castlereagh
ロバート・スチュワート、カースルレイ子爵(Robert Stewart,
Viscount Castlereagh)。政治家。アイルランド担当大臣、監督局長、
陸軍大臣、外相を歴任。外相時には、反ナポレオン同盟の中枢として
活躍。ショーモンとウィーン、パリ、エックス・ラ・シャベルでの
会議におけるイギリス代表。戦闘を避けるため、列強間での
「会議外交」を主張。同性愛に関する脅迫を受けたと思いこんで自殺。
(『岩波=ケンブリッジ 世界人名辞典』より。)

擬人化された抽象概念である〈虐殺〉が
カースルレイの仮面をつけていた・・・・・・
つまり実在する人物としてのカースルレイは、
実は人間ではなくて〈虐殺〉そのもの、ということ。

4.
Eldon
ジョン・スコット、エルドン卿(John Scott, Lord Eldon)。
スタンザ2のカースルレイと同様、実在人物エルドンの
中身は〈謀略〉そのもの、ということ。

ermined gown
大法官のガウンにはオコジョの毛皮の装飾があったとのこと。

mill-stones
冷酷な人について、(涙のかわりに)ひき臼を目から流す、
という慣用句があった(OED, "millstone" 2b)。

5.
(さすがイギリス人・・・・・・。)

6.
Sidmouth
シドマス子爵。内務大臣(1812-22)。
スタンザ2, 4と同様、シドマスの中身は〈偽善〉
ということ。

crocodile
クロコダイルは、獲物をおびき寄せるために、また
獲物を食べながら、涙を流す(らしい)。ということで、
偽善をあらわす動物。

7.
スタンザ2, 4, 6と同様、実在する主教たち、法律家たち、
貴族たち、スパイたちの中身は〈破壊〉ということ。

ふつうの仮面では目は隠れないが、ここでは〈破壊〉たちが
人間の姿に仮装しているので、目までが偽りのもの。
人間っぽく見えるようになっているが、本当の姿はもっと
おぞましいはず・・・・・・。

8.
聖書「ヨハネの黙示録」6章8節より--「見よ、
青白い馬が出てきた。そして、それに乗っている者の名は
『死』と言い・・・・・・」(日本聖書協会、口語訳)。

ベンジャミン・ウェストBenjamin Westの絵、
「青白い馬にのった〈死〉」"Death on the Pale Horse"
など参照。

(「血しぶき」はシェリーの創作。)

10.
インド神話より。クリシュナ神(Juggernaut)の像を
のせた大きな車を引いて練りまわる行事が毎年あり、
その車に轢き殺されると極楽往生ができる、ということで、
信者たちがみずからよろこんで轢かれた、とのこと。
(OED, "Juggernaut" 1; 『リーダーズ』
"Juggernaut".)

12.
glorious
輝かしい、栄誉ある(OED 3)。
豪華絢爛な(OED 4)。
(文字通り、あるいは皮肉で)とてもすばらしい、
とてもりっぱな(OED 5a-b)。
我を忘れるほど酒に酔っている(OED 6)。

triumph
(ローマ史)戦争に勝った軍(の指揮者)の帰国、
凱旋行進(OED 1)。
豪華絢爛、りっぱなようす(OED 3)。
勝利のよろこび(OED 5)。

proud
おごり高ぶる、傲慢な(OED 4)。
勇敢な、強い(OED 7)。

gay
陽気な、楽しげな(OED, adj. 1)。
(色などが)派手な、着飾った(OED, adj. 3-4)。

desolation
国、土地を壊滅させること(人を殺し、建物を壊し、
作物を荒らし、居住できないようにすること)(OED 1)。

13.
pageant
あちこち移動して演じられる野外劇(の舞台)(OED 1-3)。
見世物的な行進(OED 5)

15
The hired murderers
兵士たちのこと。

19.
ニカッと笑うガイコツが、「毎度! おおきに!」みたいな。
皮肉な、しかし笑わせるスタンザ。当時の摂政の宮ジョージ
(のちのジョージ四世)の散財に対する諷刺(ということらしい)。

20
王権の背後にあるのは〈混沌〉、道徳的混乱、正義の不在、
ということ。

Sceptre, crown, globeは王位をあらわすもの。

22
〈希望〉があらわれるこのスタンザから、悪徳・悪役の
支配する裏仮面劇から、美徳と正義の勝利を歌う仮面劇への
移行がはじまる。

23
通常〈時間〉は、砂時計(人の命の長さをはかるもの)と鎌
(人を刈りとる、つまり死なせる、もの)をもつものとして、
つまりDeath(〈死〉、あるいは死神)に近いかたちで
イメージされるが、ここではそんな〈死〉のイメージが
〈混沌〉のほうに与えられ、〈時間〉は前向きなもの、
〈希望〉を生むものとされている。また〈死〉と結びつく
通常の〈時間〉は強力なものであるのに対し、〈希望〉の
父としてのここでの〈時間〉は、どうしようもないほど
無力なものとして描かれている。

絵画、彫刻などにおける〈時間〉は、〈死〉にくらべて
はるかにやさしい印象になっている。


ベルギーのどこかの墓地にある〈時間〉の像
Photo by Demeester
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Gent_Westerbegraafplaats_113.JPG

このような〈時間〉から、さらに力を奪ったのが
シェリーの〈時間〉像。

なお、このシェリー〈時間〉には、時の王ジョージ三世の
姿が重ねられているともいわれる。

24
通常の〈時間〉は、人を殺すのに対し、ここでは〈時間〉の
子どもが殺されている。

27
現代のアニメ的、CG的な描写を言葉だけで。

28
一粒一粒が日に照らされてキラキラ輝く雨粒
よりも光り輝く毒ヘビ、という美しさと恐ろしさの共存が
ポイント。美と崇高の共存。

29
真紅の光が降りそそぐ--血の雨のような恐ろしいイメージを
想起させると同時に、大地に流れる血(=〈混沌〉一味の暴虐)との
対比をなしている。

31
(来ました来ました。)

行頭でわからないが、〈思考〉は大文字ではじまるアレゴリー
として解釈。

32
このスタンザの〈希望〉は、ある種のいい絵になるはず。

34
a rushing light of clouds
複数の雲から一筋(ひとまとまり)の光がほとばしり出るようす。

splendor
その結果、空が全体的にまばゆく輝くようす。

A sense awakening and yet tender
= A sense that is awakening and yet tender

Was
ここのa light, splendour, a senseが実はひとつの
ものであることを示す。目や耳など特定の感覚器官で感じるもの
ではなく、いわば五感すべて、からだ(と心)全体で感じるようなものとして。
だから--

heard and felt
A light, splendour, A senseが「聞こえた」、という
共感覚的な、ありえない表現。補足として(より、あるいはやや)
正確にfeltといい直している。

37.
ここからスタンザ34にあるThese words of joy and fear
の内容。35にあるように、まるで大地が話しているかのような、
どこからともなく聞こえる声。

Heroes of unwritten story
伝統的に文学上の英雄は王や貴族、神の血を引く者など。
(『イリアス』、『アエネイス』など古典叙事詩や、アーサー王伝説
など参照。) ここで呼びかけられている「イングランドの人々」は
一般の、政治的には治められ、支配される側の人々であり、
そのような人々を英雄的な主人公とする物語は書かれてきて
いなかった。16-17世紀のシティ・コメディ、18世紀新興の小説
などは、非英雄的なジャンルなので、ここでは視野に入っていない。

ここでの「イングランド人=希望」という表現は、スタンザ22から
登場する〈希望〉の兄弟姉妹が実はまだ生きている、ということを
あらわしている。

39
つまり、「イングランド人」という言葉を発すると、「奴隷」という
反響が広がる、ということ。



40
[A]s in a cell以降の構文は、

as to dwell in a cell For the tyrants' use.
(暴君の使用のために独房に生きているかのように。)

そのようなかたちで命が手足のなかで何とか生きている、
というたとえ。

手足=独房
命=囚人

[A]s in a cellのasは、「まるで」(OED, adv. 10a)、
あるいは、「たとえば」(OED, adv. 26)。

41.
So that以下、構文的には、前スタンザのas to dwell in
a cell For the tyrants' useにつながる節だが、
スタンザが別れていることもあり、内容が独立してしまっている。

そしてその結果、「独房のなかの囚人のような、手足のなかの命」
という比喩とは関係なく、ただイングランドの人々の現状をあらわす
内容となっている。

165行の構文は、bent With or without your own will.

43.
riot
ぜいたくで、節度がなく、無駄の多い生活(OED 1)。

44―47
奴隷の状態とは、財産を奪われ(44-45)、意志を奪われ
(46)、そして身体的にも暴力にさらされること(47)、という流れ。

44-45.
the Ghost of Gold
Paper coin
紙幣のこと。記された量の金、銀、銅の価値が
あるとされるが、実際ただの紙きれなので、それらの「亡霊」。

シェリーは金本位制を支持し、紙幣流通を批判していた
とのこと(?)。インフレによって紙幣の価値が下がると、
紙のかたちで握らされている人々の財産も減少することになる。
そのようなかたちで財産が巻きあげられている状態を批判。

47.
朝露のかわりに血が草の上に・・・・・・。
美しくもグロテスクな、シェリー的なイメージ。

48.
武装抵抗、抵抗のための暴力の否定。
シェリーの政治的・社会的思想の中心のひとつ。

50.
1839年のMary Shelley編の詩集以降、削除されてしまった
スタンザ。

スタンザ49-51までの動物への言及がくどい、特にこの
スタンザ50は重要なことをいっているように見えない、
ということだろうが、鳥という詩的な動物(49)から、
仕事に使う牛馬、ペットとしての犬という生活に密着した
動物を経て(50)、ロバ、ブタという愚かで汚いイメージの
もの(51)まで、という流れをつくるために、本来この
スタンザ50は重要。

つまり、動物を上等のものから下等なものまで概観し、
そして、上等のもののみならず、最下等のものでも
イングランド人以上のくらしをしている、といいたいのが
これらのスタンザ。

51 but
= except

51 one
= Thou = Englishman

53-65
〈自由〉への呼びかけ。ここでは、thou = Freedom.
話しているのは、引きつづき、スタンザ35の「まるで大地が
話しているかのような、どこからともなく聞こえる声」。

55
table: 食べもの、食事(OED 6c)。

ここの構文は、たとえば、thou art bread, And a comely
table spread [which is/has] come From his daily labour. . . .

このcomeが説明しているのは、breadと/あるいはtable.

構文が若干ややこしいのは、bread-spread, come-homeの
脚韻をつくるため。

75.
武力ではなく言葉で戦うことを推奨。

77.
"[T]he clash of clanging wheels, /
And the tramp of horses' heels"
というのは、大砲で打たれて混乱している軍のようすを
あらわす音。

78.
食べものを強く求める飢えた人=
イングランド人の血を強く求める暴君側の剣、
という比喩。

79.
海に落ちて自分の炎を消したがっている彗星=
イングランド人の血に浸って自分の炎を消したがっている
暴君側の騎兵の偃月刀、という比喩。
この偃月刀がもたらすのがdeath and mourning.
構文的にかなり凝縮されている。

81.
Phalanxは古代の戦争の陣形。武装した歩兵が
密に集まり、盾がつながり、長い槍が重なるスタイル。
スタンザ80の「密に生い茂る森の木」は、この陣形の
なかの兵士の比喩。

82.
Hand to hand, and foot to foot,
一対一で、手足があたるくらいの近距離で
(なされる戦いにおいて)(OED, "Hand to hand";
"foot" 26b)。

83.
法が〈自由〉の声をこだまする =
法が人々の自由を保障する、守る、ということ。

法 = 〈自由〉のこだま、というのは、
「イングランド人」という言葉のこだま = 奴隷の状態
という表現(スタンザ39)の裏返し。

84. heralds
スタンザ83のThe old laws of Englandのこと。
法の声が〈自由〉の声のこだまだから、法が〈自由〉の
存在を告げる。

85.
以降でthey/them/theirなどでおきかえられて
いる内容から見て、ここのtyrantsは、暴虐な「君主」
というより、そんな君主の下で残虐行為をおこなう軍の
者たち、兵士たち。

87.
「頬の上の熱い赤らみ」が語るのは、殺戮の事実と
それを犯した暴君たちのはずかしい気持ち。

88.
(ここで女性の白い目、後ろ指への思考が向かうところが、
とてもシェリー的な気がする。)

90.
Shall steam up like inspirationのところ、
Shall steam up と like inspiration で
内容を区切って意訳。

92.
スタンザ38のくり返し。

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