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ノート 6--「詩とは・・・・・・」

ノート 6
「詩とは・・・・・・」

「詩とは、自分に酔っている人がわけのわからない
ことを書いたものだと思っていた」--ある学生曰く。

誠に遺憾である・・・・・・という話ではなく、私も以前
そう思っていたので、少し考えてみた。

---
詩が上のようなイメージのものとなってきた背景には、
二つのことがあると思う。

1. 「自分に酔っている人が・・・・・・」
19世紀のロマン派(ワーズワース)以降、詩がよくも悪くも
詩人個人の感情表現の手段となってきたこと。

それ以前の詩では、たとえ感情が表現されていても、概して、
それが詩人の個人的な感情であるかどうかはわからなかった、
あるいはどうでもよかった。

たとえば、ソネットにおける恋愛感情は往々にして
定式化されたもの、あるいはその変奏のすぎなかった。

感情的なその他の詩、たとえば宗教詩でも、そこに
あらわされる感情は、基本的に広く共有できるもの、
共有されるべきものであり、作者が誰か、どんな生き方を
しているか、ということは重要ではなかった。

これに対してワーズワース(の「オード」や『序曲』)以降
--あるいはその前段階としてのシャーロット・
スミスら以降--詩が詩人個人と強く結びついたものに
なっていった。

そしてあらわれたのが、まずはバイロン。常人を超えた
知性と能力とルックス(と暗い過去)をもつ主人公=
バイロン自身が、自分について自慢げに語る(かのような)
彼の詩のスタイル。

それからシェリー。バイロンとは違って内容的には
無力感がわりと前面に出てきているが、それでも自分
(の理想)について、高ぶった文体で語る。

それからキーツのオード。鳥や壺に対して夢中で
話しかけている。

「詩人=自分に酔っている人」というイメージは、
このようなところから生まれたものと思われる。

(しかし、いちばんの影響はやはりバイロンによる
ものだと思う。「俺ってすごい」、「俺が世界の主役」
的な雰囲気の作品は、彼以降のもののはず。
そしてこのようなスタイルは、バイロン以外の
詩人の作品では妙に鼻につく。ブラウニングの
劇的独白ものの一部、ランドーのイソップなど。
シェリー、キーツのオード、テニソンなど、
またの別種スタイルをもつ詩人たちは別。)

---
2. 「わけのわからないことを・・・・・・」
これは、19世紀の象徴派から、および特にT・S・
エリオット以降の現代詩からくる詩のイメージ。
ものごとをシンプルかつストレートにあえて語らない
スタイルの詩が20世紀に(特にアメリカで)広まった
ことからきている。

イギリス・アメリカで大学における英文学研究が
確立されたのはこの頃。日本で大学教育が広まった
のもこの頃以降。こうして、ふつうの言葉とは違うもの、
難しいもの、としての詩のイメージが定着。

加えて、日本人にとって英語が異質で難しい
ということも、詩を「わけのわからない」ものに
してきた。

たとえば、ベン・ジョンソンとエリオット、
日本人にとって読みにくい理由はそれぞれ異なる
のだが、それが日本人にはわかりにくい。
(いわゆる「新批評」的な視点により、ますます
そうなっていた。)

ジョンソンが難しい理由の例--
神話など、古典的なことがらへの言及
16-17世紀当時のイギリスの社会的な話題への言及
初期近代英語独特の語彙や構文

(つまり、ジョンソンと同じ時代に生きた、
同じ程度の素養のあるイギリス人にとって、
ジョンソンの作品は難しくない。が、英語、
特に初期近代英語の難しさのため、日本人には
難しい。)

エリオットが難しい理由の例--
神話など、古典的なことがらへの言及
過去の文学(イギリス・フランス・その他)への言及
哲学思想(ヨーロッパ・アジア)への言及
20世紀の社会的なことがらへの言及
表現したいと思われる内容の特異性
表現のしかたの特異性
(あえて難しくしている、と自分でいっていたはず。)

(つまり、エリオットと同じ時代に生きた、
同じ程度の素養のあるアメリカ人・イギリス人に
とってもエリオットの作品は難しい。
そもそもハーバードで博士号をとるか、という
ところまでいったエリオットと同程度の
教養をもつ人は、はたしてどれくらいいたことか。)

もうひとつ、日本人にとって英語の詩が難しい理由
として、構文が自由で、リズムや脚韻、雰囲気などの
ために、散文の基本構文(SV, SVC, SVOなど)が
崩れているように見えるから、時として構文上
いろいろ省略されているから、ということもある。

が、実際、日常的な会話や文章では倒置、省略は
あたりまえのこと。日本語でも同じ。

(教科書的な表現 --> 実際に使われる言葉)
わたしはお腹が空いています --> はらへった
お昼ごはんには何を食べましょうか --> 何にする? 昼
わたしはお腹いっぱいです --> うー、くるひー

特に詩だからわけがわからない、わけがわからないものが
英語の詩、というわけではない。

(詩はわけがわからない、というイメージに
ついては、60年代半ば、『ハイウェイ61』などの
頃のボブ・ディランの歌詞--およびその日本語訳--
の影響もあるはず。)

---
以上のような背景を含め、詩についてはいろいろ
理解し直すべきと思われる。

コンピュータも、映像技術も、音声メディアも、写真も、
製本技術も、印刷技術も、紙の大量生産技術も、劇場も、
何にもない時代に生まれ、広まっていたような、もっとも
シンプルで身近な娯楽・芸術のかたちが詩。ヨーロッパでも、
日本でも、おそらくどこの国・地域でも。

(そういえば、「自分に酔った」≒我を忘れた、
という詩のイメージは、古代からあった。
詩の神ミューズが詩人にのりうつって歌うのが詩、
というかたちで。)

* * *
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Landor, "Why, why repine"

ウォルター・サヴェッジ・ランドー (1775-1864)
(「なぜ? なぜ悲しみ、不平をいうのか? 友よ」)

なぜ? なぜ悲しみ、不平をいうのか? 友よ、
失われた喜びについて?
〈運命〉の女神たちは、何でも与えてくれるわけではないし、
たとえ与えてくれたものでも、みな去っていく。

空に虹、
草には露--
わたしは考えたりしない、
どうしてそれらはきらめくのか、どうして消えてしまうのか、などと。

わたしなら、腕を組んで立ち止まり、
虹や露を呼び戻そうとしたりはしない。無駄だから。
ここで、あるいはどこか別のところで、
それらはまた輝くのだから。

* * *
Walter Savage Landor
("Why, why repine, my pensive friend")

Why, why repine, my pensive friend,
At pleasures slipp'd away?
Some the stern Fates will never lend,
And all refuse to stay.

I see the rainbow in the sky,
The dew upon the grass,
I see them, and I ask not why
They glimmer or they pass.

With folded arms I linger not
To call them back; 'twere vain;
In this, or in some other spot,
I know they'll shine again.

* * *
'twere
= it were = it would be

* * *
英語テクストは次のウェブページより。
http://www.theotherpages.org/poems/landor01.html

* * *
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Blake, "Little Boy Lost" (Innocence)

ウィリアム・ブレイク (1757-1827)
「迷子の男の子」

「とうさん、ねえ、とうさん、どこいくの?
ねえ、そんなにはやくあるかないでよ!
なにかいって、とうさん、ねえ、ぼくに、
でないと、ぼく、まいごになっちゃうよ!」

夜は暗く、父はどこかに去り、
その子は、冷たい露に濡れていました。
深いぬかるみのなか、その子は泣いていました。
霧があたりに立ちこめていました。

* * *
William Blake
"The Little Boy Lost"

‘Father, father, where are you going?
O do not walk so fast!
Speak, father, speak to your little boy,
Or else I shall be lost.’

The night was dark, no father was there,
The child was wet with dew;
The mire was deep, and the child did weep,
And away the vapour flew.

* * *
英語テクストは、William Blake, Songs of Innocence
and Songs of Experience (1901)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934

* * *
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Blake, "Spring"

ウィリアム・ブレイク (1757-1827)
「春」

フルートを吹こう!
休んでいてはダメだよ!
鳥が遊んでる、
昼も夜も、
ナイティンゲールは
谷で、
ひばりは空で、
楽しそう、
楽しそうに、楽しそうに、新しい年にようこそ、って。

男の子、
とてもうれしそう。
女の子、
小さくてかわいいね。
にわとりがこけこっこーって、
みんなでまねしてみよう。
楽しい声、
こどもがきゃっきゃっ、て、
楽しそうに、楽しそうに、新しい年にようこそ、って。

こひつじくん、ちっちゃいね、
こっちだよ、
おいでおいで、
ぼくのくび、しろいでしょ、なめてみる?
ひっぱっていい?
けがふわふわ。
ちゅーしていい?
かおもふわふわ。
たのしいね、たのしいね、あたらしいとしって、うれしいね。

* * *
William Blake
"Spring"

Sound the flute!
Now it’s mute!
Birds delight,
Day and night,
Nightingale,
In the dale,
Lark in sky,―
Merrily,
Merrily, merrily to welcome in the year.

Little boy,
Full of joy;
Little girl,
Sweet and small;
Cock does crow,
So do you;
Merry voice,
Infant noise;
Merrily, merrily to welcome in the year.

Little lamb,
Here I am;
Come and lick
My white neck;
Let me pull
Your soft wool;
Let me kiss
Your soft face;
Merrily, merrily we welcome in the year.

* * *
英語テクストは、William Blake, Songs of Innocence
and Songs of Experience (1901)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934

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