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Coleridge, "Work without Hope"

サミュエル・テイラー・コールリッジ
「希望がなければ何をしても」

自然のなか、何かしていないものはない。なめくじでも
起きて出かけ、蜂はぶんぶん集まり、鳥は飛ぶ。
〈冬〉も外で居眠りしながら、
〈春〉の夢を見てにやにやしている。
ぼくだけ、ひとり何もしていない。
蜜もつくらず、恋もせず、巣もつくらず、歌わない。

岸にアマラントスが咲き誇り、
泉から神の酒があふれて川になる。
そう、アマラントスは咲く。みんなのために、
ぼく以外の人のために! 川も大きく流れ、そしてぼくから逃げていく!
くすんだ唇で、何もひらめかない頭で、ぼくはただうろうろ歩く。
呪われたぼくの魂は重く鈍く眠ったまま。
希望がなければ何をしても、いわば、ざるに神の酒。
何も望まない、そんな希望は死ぬしかない。

*****
Samuel Taylor Coleridge
"Work without Hope"

All Nature seems at work. Slugs leave their lair—
The bees are stirring—birds are on the wing—
And Winter, slumbering in the open air,
Wears on his smiling face a dream of Spring!
And I, the while, the sole unbusy thing,
Nor honey make, nor pair, nor build, nor sing.

Yet well I ken the banks where amaranths blow,
Have traced the fount whence streams of nectar flow.
Bloom, O ye amaranths! bloom for whom ye may,
For me ye bloom not! Glide, rich streams, away!
With lips unbrighten’d, wreathless brow, I stroll:
And would you learn the spells that drowse my soul?
Work without Hope draws nectar in a sieve,
And Hope without an object cannot live.

https://www.poets.org/poetsorg/poem/work-without-hope

*****
変形ソネット。

*****
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Coleridge, "Sonnet: To the River Otter"

サミュエル・テイラー・コールリッジ
「ソネット:オッター川に」

地元の川! 西の自然のなかの小川!
どれだけの年月が幸不幸とともに過ぎ去った?
どんな楽しい、どんな悲しい、時間を過ごしてきた?
薄いすべすべの石を君に投げて水切りをしたあの最後の日から?
あの時、何回跳ねたっけ? こどもの頃の思い出は
深く心に刻まれてるから、
目を閉じると、昼間でも夢のように
すぐに君のようすが見えてくる。
板の橋や岸辺の灰色柳が見えてくる。
透明に光る水のなか、川底の砂が
いろんな色の血管みたいに流れるようすが見えてくる! こどもの頃の
風景がいつでもどこでも見れますように! でなければ、おとなの
孤独や心配ごとにつぶされそうだから。昔を思うとため息が出る。
ほんと、もう一度気楽なこどもに戻れたら!

*****
Samuel Taylor Coleridge
"Sonnet: To the River Otter"

Dear native brook! wild streamlet of the West!
How many various-fated years have passed,
What happy and what mournful hours, since last
I skimmed the smooth thin stone along thy breast,
Numbering its light leaps! Yet so deep impressed
Sink the sweet scenes of childhood, that mine eyes
I never shut amid the sunny ray,
But straight with all their tints thy waters rise,
Thy crossing plank, thy marge with willows grey,
And bedded sand that, veined with various dyes,
Gleamed through thy bright transparence! On my way,
Visions of childhood! oft have ye beguiled
Lone manhood's cares, yet waking fondest sighs:
Ah! that once more I were a careless child!

http://www.online-literature.com/coleridge/647/

*****
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Coleridge, "Kubla Khan"

サミュエル・テイラー・コールリッジ
「フビライ・ハーン」

フビライ・ハーンは、上都に
壮麗な快楽の館を建てるよう命じた。
聖なる川アルフが
計り知れぬほど巨大な洞窟を流れ、
日のあたらぬ海に流れこむ、そんな地に。
かくして5平方マイルの豊かな土地の
まわりに壁と塔が建てられた。
庭園を曲がりくねって流れるいくつもの小川が輝き、
木々の花々が香りを放った。
いにしえからの森と丘が
日のあたる緑の大地をとりかこんでいた。

だが、ああ、なんと深く、幻想的な大地の裂け目が
緑の杉の丘に斜めに走っていたことか!
あるがままの自然の姿!
欠けていく月の下、死んだ恋人を思って泣く女たちが
集まるような、まさに聖なる魔法の場所!
この裂け目から絶え間なく泡をたてて吹き出す泉……
それはまるで大地が苦しげに口を開け、あえぎながら
熱く湿った息を吐いているかのようだった。
ぐぶ、とつかえた、と思えば巨大な塊がいくつも
はじけ、飛び出してくる。大地に激突する雹(ひょう)、
殻竿に打たれて跳ね飛ぶ殻つき麦のような勢いで。
躍り出る岩とともに
聖なる永遠の川も噴きあがる。
川は迷路のように曲がりくねり、
森を、谷を、5マイル流れ、
計り知れぬほど巨大な洞窟にたどりつく。
そして、ごぼごぼ音をたてつつ地下へと沈み、命のない海に向かう。
けたたましい水音のなか、遠くからフビライの耳に届いたのは
先祖たちの声……「戦争だ! 戦争がやってくるぞ!」

快楽の館の影が
波の真ん中に漂う。
聖なる泉の音と洞窟に流れこむ水の音が
重なって響く。
これは奇跡のような場所、
快楽の館に日があたり、洞窟が凍っていく。

ダルシマーを弾く少女の
幻を見たことがある。
アビシニアの子で、
ダルシマーを弾き、
アボラの山を歌っていた。
あの子の奏でる音と歌、
もう一度思い出せたら、
ぼくは最高のよろこびに溺れて麻痺してしまいそう。
永遠に鳴りひびく歌を聴きながら、
快楽の館を空に建ててしまいそう。
あの日のあたる館を! 凍った洞窟を!
そう、あの子の歌を聴けば、誰にでも快楽の館が見えるはず、
そしてぼくを見て叫ぶ--「危ない! こいつに近寄るな!
目から火花が散っている! 髪が空に舞っている!
三重の花冠をつくってあげて、
目を閉じて祈ろう。
彼は甘い蜜のような露で育ってきて、
そして、楽園の乳を飲んでしまったんだ」。

* * *
Samuel Taylor Coleridge
"Kubla Khan"

In Xanadu did Kubla Khan
A stately pleasure-dome decree:
Where Alph, the sacred river, ran
Through caverns measureless to man
Down to a sunless sea. 5
So twice five miles of fertile ground
With walls and towers were girdled round:
And here were gardens bright with sinuous rills,
Where blossomed many an incense-bearing tree;
And here were forests ancient as the hills, 10
Enfolding sunny spots of greenery.

But oh! that deep romantic chasm which slanted
Down the green hill athwart a cedarn cover!
A savage place! as holy and enchanted
As e'er beneath a waning moon was haunted 15
By woman wailing for her demon-lover!
And from this chasm, with ceaseless turmoil seething,
As if this earth in fast thick pants were breathing,
A mighty fountain momently was forced:
Amid whose swift half-intermitted burst 20
Huge fragments vaulted like rebounding hail,
Or chaffy grain beneath the thresher's flail:
And 'mid these dancing rocks at once and ever
It flung up momently the sacred river.
Five miles meandering with a mazy motion 25
Through wood and dale the sacred river ran,
Then reached the caverns measureless to man,
And sank in tumult to a lifeless ocean:
And 'mid this tumult Kubla heard from far
Ancestral voices prophesying war! 30

The shadow of the dome of pleasure
Floated midway on the waves;
Where was heard the mingled measure
From the fountain and the caves.
It was a miracle of rare device, 35
A sunny pleasure-dome with caves of ice!

A damsel with a dulcimer
In a vision once I saw:
It was an Abyssinian maid,
And on her dulcimer she played, 40
Singing of Mount Abora.
Could I revive within me.
Her symphony and song,
To such a deep delight 'twould win me,
That with music loud and long, 45
I would build that dome in air,
That sunny dome! those caves of ice!
And all who heard should see them there,
And all should cry, Beware! Beware!
His flashing eyes, his floating hair! 50
Weave a circle round him thrice,
And close your eyes with holy dread,
For he on honey-dew hath fed,
And drunk the milk of Paradise.

* * *
アヘンか何かを飲んで眠ったときに見た
夢をもとに書いた詩。全体の構成など、
いろいろ適当であるように思う。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/11101

* * *
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Coleridge, "The Eolian Harp"

サミュエル・T・コールリッジ (1772-1834)
「アイオロスのハープ」

考えごとをしてるサラ! 君の柔らかな頬が、ぼくの
腕にふれているよ。気持ちが落ちついていい感じ、
ぼくたちの小さな家の脇でこうしてすわっているとね。家は、
白い花を咲かせたジャスミンや、葉を広げたギンバイカに覆われていて。
(これらの花って、無垢と愛のシンボルとしてホントぴったりだよね!)
そして雲を眺めたり。さっきまでは光に満ちていたけど、
ゆっくり、寂しげに暗くなってきてる。それから一番星が
透き通るように明るく(知恵の光って、たぶんこんな感じのはず)
反対側で輝いてる。なんていい匂いを、
風が向こうの豆畑から盗んでくるんだろう! 世界もこんなに静かだなんて!
遠くの海の静かなざわめきが、
静けさとは何か、教えてくれているよ。

でね、あのまさにシンプルな作りのリュートの音、
開き窓に抱かれるように立っているあれ、聞いてごらんよ!
スキップしてまわってるようなそよ風に撫でられて、
まるで恥ずかしがりな女の子が恋人に心を半分許してるかのように、
やさしく、「ダメよ」、っていってるみたいだ。しかも、そのダメなことを
くり返さずにはいられないような、そんなやさしい感じでね! ほら、今度は
大きくかき鳴らされて、長くつづくいろいろな音が、
ホントにきれいな波になって、沈んだり、浮かびあがったり。
まるで静かにただよう音の魔法だよね、
たとえば妖精たちが、夕暮れのおだやかな風にのって妖精の国から
やってくるときに、薄明りのなかで奏でるような、ね。
そのメロディは、蜜をしたたらせる花々のまわりで、
立ち止まらず、思うがままに、まるで楽園の鳥たちのように
休まず、止まり木にも下りず、自由な翼を広げて飛びつづけるんだ!
ああ! ぼくたちのなかにあって外にもあるひとつの命、
すべての動くもの、すべてのものの動きと一緒になり、その魂となる命、
音のなかの光、光のなかにある音のような力、
すべての思考のなかのリズム、あらゆるところにあるよろこび--
ね、無理に決まってる、
そんな命に満たされた世界のなかで、すべてのものを愛さずにいるなんて。
そよ風が歌い、音を出さない静かな空気ですら、
自分の楽器の上で居眠りしている音楽であるような、そんな世界で。

ねえ、サラ! まるで向こうの丘の斜面に
横たわっているみたいだよね、こうして真昼に手足をのばしてると。
で、ぼくは半分閉じたまぶたの下から、
太陽の光が、ダイヤモンドみたいに海の上で踊るのを見ながら、
静かに静けさについて考えるんだ。
ホントにたくさんのいろんな考えが、勝手に来て、勝手に去っていく。
心に浮かんでは消える、どうでもいいような幻が、
受け身で怠け者なぼくの頭をたくさん横切っていく。
ちょうどね、適当にあっちこっちに吹く気ままに風が、
この自分で鳴るリュートのところで、波のように高くなったり、
ゆれたりしてるのとおんなじ感じでね!
(34-43)

でさ、生きてる自然のなかにあるものは、みんなそれぞれ、
生きてるみたいに自分で鳴るハープのように作られてる、とか考えたらどうかな?
その音は、振動しながら心のなかに入ってくるんだ。自然のなかのすべてものを
成長させる大きなそよ風、目に見えない風にかき鳴らされて。
ひとつひとつのものの魂であり、またすべてのものの神であるような風に、ね。
(44-48)

でも、まじめな君の目がやさしくぼくを
しかってる。そんな不確かででばちあたりな考えかた
じゃダメよ、って。そうだね、サラ、大好きだよ。
うやうやしく神さまにしたがって生きなきゃ、なんて、
さすが、「サラ」って名前にふさわしい謙虚さだね。
君のいうとおりだ。やっぱり君は清らかだね、
汚れたぼくの妄想を戒めてくれるなんて。
どれだけきらきらしていても、結局、それは根拠のない哲学の泉から
吹き出しては消える泡のみたいなものだし。
ぼくは罪深い人間だから、人智を超えた、畏れ多い
あの方について軽々しく語っちゃいけないんだよね。
心に湧きあがってくる信仰を感じつつ、ほめたたえることしかできないんだよね。
ご慈悲をかけてくれて、罪深くてみじめなぼくを
正しく導いてくださったのがあの方なんだから。
人生の暗闇で迷子になってたぼくに、
心の安らぎと、この家と、心から尊敬する君を与えてくれたんだから、ね!
(49-64)

* * *
Samuel T. Coleridge
"The Eolian Harp"

My pensive Sara! thy soft cheek reclined
Thus on mine arm, most soothing sweet it is
To sit beside our Cot, our Cot o'ergrown
With white-flower'd Jasmin, and the broad-leav'd Myrtle,
(Meet emblems they of Innocence and Love!)
And watch the clouds, that late were rich with light,
Slow saddening round, and mark the star of eve
Serenely brilliant (such should Wisdom be)
Shine opposite! How exquisite the scents
Snatch'd from yon bean-field! and the world so hush'd!
The stilly murmur of the distant Sea
Tells us of silence.
(1-12)

And that simplest Lute,
Placed length-ways in the clasping casement, hark!
How by the desultory breeze caress'd,
Like some coy maid half yielding to her lover,
It pours such sweet upbraiding, as must needs
Tempt to repeat the wrong! And now, its strings
Boldlier swept, the long sequacious notes
Over delicious surges sink and rise,
Such a soft floating witchery of sound
As twilight Elfins make, when they at eve
Voyage on gentle gales from Fairy-Land,
Where Melodies round honey-dropping flowers,
Footless and wild, like birds of Paradise,
Nor pause, nor perch, hovering on untam'd wing!
O! the one Life within us and abroad,
Which meets all motion and becomes its soul,
A light in sound, a sound-like power in light,
Rhythm in all thought, and joyance every where―
Methinks, it should have been impossible
Not to love all things in a world so fill'd;
Where the breeze warbles, and the mute still air
Is Music slumbering on her instrument.
(12-33)

And thus, my Love! as on the midway slope
Of yonder hill I stretch my limbs at noon,
Whilst through my half-closed eye-lids I behold
The sunbeams dance, like diamonds, on the main,
And tranquil muse upon tranquillity;
Full many a thought uncall'd and undetain'd,
And many idle flitting phantasies,
Traverse my indolent and passive brain,
As wild and various as the random gales
That swell and flutter on this subject Lute!
(34-43)

And what if all of animated nature
Be but organic Harps diversely fram'd,
That tremble into thought, as o'er them sweeps
Plastic and vast, one intellectual breeze,
At once the Soul of each, and God of all?
(44-48)

But thy more serious eye a mild reproof
Darts, O belovéd Woman! nor such thoughts
Dim and unhallow'd dost thou not reject,
And biddest me walk humbly with my God.
Meek Daughter in the family of Christ!
Well hast thou said and holily disprais'd
These shapings of the unregenerate mind;
Bubbles that glitter as they rise and break
On vain Philosophy's aye-babbling spring.
For never guiltless may I speak of him,
The Incomprehensible! save when with awe
I praise him, and with Faith that inly feels;
Who with his saving mercies healéd me,
A sinful and most miserable man,
Wilder'd and dark, and gave me to possess
Peace, and this Cot, and thee, heart-honour'd Maid!
(49-64)

* * *
いわゆる「会話調の詩」(conversation poem)。
行またがりの多い散文的なブランク・バースで書かれている。

(以下、訳注)

タイトル
アイオロス(Aeolus)はギリシャ神話における風の神。
Eolian Harp(Aeolian Harpとも)は、風が弦を
鳴らす楽器(のようなもの)で、19世紀初期のイギリスで
流行した。

From Knight's American Mechanical Dictionary, 1876.
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Aeolian_harp.JPG?uselang=ja

(日本でいえば、風鈴のようなもの。)

1 Sara
コールリッジの妻。

2-9
構文は、it is most soothing sweet to sit . . .,
[to] watch . . ., and to mark. . . .

4 Jasmin[e]

By Javier martin
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Jasminum_officinale_Enfoque_2010-7-11_TorrelaMata.jpg

4 Myrtle
ギンバイカ。

By Giancarlo Dessì
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Myrtus_communis12.jpg

5
ジャスミンとギンバイカが無垢のシンボルなのは、
それぞれ色が白だから? ギンバイカは、愛の女神アプロディテ
(ギリシャ神話)/ウェヌス(ローマ神話)に捧げられる
花ということで、愛のシンボル(OED 2a)。

6-7
[W]atchのところの構文は、watch the clouds saddening.

6 slow
= slowly

7 the star of Eve
宵の明星=金星。

9-10
構文は、How exquisite the scents Snatch'd
from yon bean-field [are]!

11-12
かすかに海の音が聞こえるから、(逆説的に)
まったく音のない状態がどんなものか、わかる気がする、
ということ。

12 tell A of B
= AについてBに知らせる、気づかせる、教える。
OED 8a)

12 silence
まったくの無音状態(OED 2a)

12
スタンザの切れ目にまたがっているが、
Tells us of silence. And that simplest Lute, で
一行(12行目)となっている。このページ上では
表現できないが、And that. . . の前に、
Tells us of silence. 分の空きがある。

12 that simplest Lute
タイトルにあるアイオロスのハープのこと。
ちなみに、リュートはこれ。

By Mathiasroesel
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Barocktheorbe_Martin_Hoffmann_ed.JPG

13 casement
開き窓。

By Yan Akhber
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Crete_window.jpg

14-17
アイオロスのハープと風の関係を、ほほえましい恋人同士の
関係にたとえている。

風=男の子
ハープ=女の子

風がハープを鳴らす音 =
男の子が女の子にちょっかいを出したときの
女の子の言葉。「だーめ」みたいな。

で、男の子は、もっとちょっかい出したくなるという。

風と音の関係を人のやりとりにたとえる絶妙な表現。
その背景には、西風ゼピュロスと花フローラの神話などがある。

16-17 its strings Boldlier swept
分詞構文--its strings [being] Boldlier swept. . . .

18-21
the long sequacious notes をいいかえて、Such a soft
floating witchery of sound As twilight Elfins make. . . .
と説明している。

18-19
ハープの音(聴覚的なもの)を波(視覚的なもの)に
たとえる共感覚的な表現。

23-25
ハープの音(聴覚的なもの)を鳥(視覚的なもの)に
たとえる共感覚的な表現。

26-31
自然と人間がひとつの命でつながっている、という
どちらかというとワーズワースの作品のほうで
知られている考え方。たとえば、ワーズワースの
次の作品など参照。

"Lines Written in Early Spring"
"Lines Written at a Small Distance from My House. . . ."

27-28
たたみかけるような共感覚的な表現の連続。

32-33
静けさ=居眠りしている音楽

34-35
実際には、自分の家のそばで、イスか地面の上で(?)、
ゴロンと横になっている(たぶん)のだが、そのようすを、
丘に横たわる巨人のようなかたちで表現。

37
(今ではありがちかもしれないが)海の水面でキラキラする光を
ダイヤモンドにたとえている。

39-43
受け身なぼくの心=アイオロスのハープ
勝手に頭に浮かんでくるいろんな考え=アイオロスのハープを鳴らす風
(気ままな風によってアイオロスのハープが勝手に鳴らされるように、
気ままな思考によって心が勝手に鳴らされる、ということ。)

43
日本語訳は二行で。

43 swell
波などが高くなる(OED 1b)。
音などが大きくなる、という意味も(OED 6a)。

43 flutter
波にゆられる(OED 1)。
鳥が羽をはためかせる、という意味も(OED 2a)。

44-48
自然のなかにあるすべてのもの=たくさんのアイオロスのハープ

自然のなかにあるすべてのものが、それぞれ
視覚や聴覚など五感を通じて知覚される
=風でハープが鳴らされて、その音が人の耳から入ってくる

ハープを鳴らすのは風。
自然のなかにあるすべてのものを鳴らすのは、
それぞれのもののなかに存在する「魂」のようなもの?
すべてを支配する神?

ヘーゲルの「世界精神」などにつながる、哲学的な一節。
ドイツでカントについて学ぶなど、コールリッジにはそういう
関心があった。

49-64
(この最後のまとめかた、他に何とかならなかったものなのか……。)

53
Saraという名は、創世記におけるアブラハムの妻から
来ている。

* * *
英文テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/29090

* * *
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Coleridge, "Something Childish"

サミュエル・T・コールリッジ (1772-1834)
「子どもっぽいけど、とてもありがちなこと」

(ドイツにて)

小さな二枚の羽さえぼくにあったら、
もし、ほくが鳥だったなら、
君のところに飛んでいくのに!
でも、こういう考えは無駄なこと、
ぼくは飛べずにここにいる。

でも、眠りのなか、ぼくは君のところに飛んでいく。
眠っているときは、いつも君と一緒!
王様みたいに、なんでも思うがまま。
でも目を覚まし、ここはどこ? ってなって、
ひとり、ひとりぼっち。

眠りは去っていく、王様の意にも反して。
だからぼくは、夜明け前に目を覚ますほうがいい。
眠りが去っても、
まだ暗いあいだは目を閉じて、
夢を見つづけるんだ。

* * *

Samuel T. Coleridge
"Something Childish, But Very Natural"

Written in Germany

If I had but two little wings
And were a little feathery bird,
To you I'd fly, my dear!
But thoughts like these are idle things,
And I stay here.

But in my sleep to you I fly:
I'm always with you in my sleep!
The world is all one's own.
But then one wakes, and where am I?
All, all alone.

Sleep stays not, though a monarch bids:
So I love to wake ere break of day:
For though my sleep be gone,
Yet while 'tis dark, one shuts one's lids,
And still dreams on.

* * *

ドイツ留学中のコールリッジが、妻に送った手紙に
記したちょっとした詩。元ネタはドイツのフォーク・
ソングとのこと。

コールリッジ選集(OxfordやNortonのものなど)に
入れてもらえない小ネタなので、あえてここで。

* * *

気のせいかもしれませんが、最初と最後の部分からは、
17世紀の詩人Andrew Marvellの "To His Coy Mistress" の
最初と最後が思い出されます。

(最初のところ)
コールリッジ:
If I had but two little wings. . . .
小さな二枚の羽さえぼくにあったら・・・・・・。

マーヴェル:
Had we but world enough, and time. . . .
ぼくたちに十分な空間と時間さえあったら・・・・・・。

(最後のところ)
コールリッジ:
眠りや幸せな夢はいずれ去ってしまうから、
ぼくはあえて目を覚まし、そしてさらに目を閉じて、
夢を見つづける。(逆説的発想)

マーヴェル:
与えられた命や時間は短く、ぼく(男)と君(女)は
いずれ年老いて死ぬのだから、時間を止めるのではなく、
早送りさせてしまおう。つまり、いずれ過ぎ去る自分たちの
時代/世代にしがみつくのではなく、子どもを作って
次の時代/世代への移行を早めてしまおう。
(逆説的発想--こういって女性を口説くという、
carpe diemのテーマの一変奏。)

* * *

以下、リズムについて。

基調は、ストレス・ミーター(四拍子)。
少し変化が加えてある第二スタンザだけ
スキャンジョン例を。



(1-2行目の弱弱強 "xx/" という音節の並びが、
ここだけやや目立つ。)

また、歌としてのストレス・ミーターの基本形は
「四拍子 x 四行」だが、この詩では短い5行目を加え、
ひとりぼっちな感じ(スタンザ1-2)や、夢の世界に
浸っている雰囲気(スタンザ3)を出している。



それぞれ、(B)(B) のところが、日本語でいえば、
「・・・・・・」のような雰囲気を出していて。

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Samuel Taylor Coleridge
(1912)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/29090

* * *

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