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Sidney, Astrophil and Stella 77

フィリップ・シドニー
『アストロフィルとステラ』
ソネット 77

ステラの目は、うれしそうにキラキラし、楽しげにキョロキョロする。
ステラの顔は、完璧な美しさとは何か、教えてくれる。
ステラの姿は、暗い心に光と命を与えてくれる。
ステラの立ちふるまいは、ウェヌスが泣いてうらやましがるほどきれいだ。
ステラの手は、ふれずしてアトラス以上のものを動かす。
ステラの唇にキスできるなら、死んでもいい。
ステラの肌の色は、「白」なんて安っぽい言葉ではあらわせない。
ステラの言葉は、天国の幸せのまさに結晶。
ステラの声が聞きたくて、魂は耳に引っ越しする。
ステラと話をしていると、本当に心が安らぐ。
「天国」とはまさにこのこと。
落ちついて、冷静に、よーく考えれば、
これらが手に入るということが最高の幸せなんだろう、とは思う。
でも、ぼくが本当にいちばんほしいものは……恥ずかしくて言えない。はあ。

* * *
Philip Sidney
Astrophil and Stella
Sonnet 77

Those lookes, whose beames be ioy, whose motion is delight;
That face, whose lecture shews what perfect beauty is;
That presence, which doth giue darke hearts a liuing light;
That grace, which Venus weeps that she her selfe doth misse;
That hand, which without touch holds more then Atlas might;
Those lips, which make deaths pay a meane price for a kisse;
That skin, whose passe-praise hue scornes this poor tearm of white;
Those words, which do sublime the quintessence of bliss;
That voyce, which makes the soule plant himselfe in the ears,
That conuersation sweet, where such high comforts be,
As, consterd in true speech, the name of heaun it beares;
Makes me in my best thoughts and quietst iudgments see
That in no more but these I might be fully blest:
Yet, ah, my mayd'n Muse doth blush to tell the best.

* * *
各行12音節のブラゾン詩(フランス詩的)。

* * *
英語テクストは次のページから。
http://pages.uoregon.edu/rbear/stella.html

* * *
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Sidney, Astrophil and Stella, Song 8

フィリップ・シドニー
『アストロフィルとステラ』
歌 8

誰にも見つからない森の木陰、
楽しげな鳥たちの恋の歌、
五月のはじめ、色とりどりの
花のすてきな香り--

アストロフィルとかわいいステラは、そんなところで、
会っていた。ふたりでいるときだけ安心できた。
心に重荷を抱え、
でも、ふたりでいれば幸せだった。

アストロフィルは宮廷で気疲れしていた。
ステラの首は不幸な結婚のくびきに締めつけられていた。
ステラがいれば彼は気疲れを忘れ、
アストロフィルがいれば、彼女は結婚を忘れた。

しばし、ふたりは涙を流す。
でも、その涙はほほえんでいた。
〈愛〉に導かれて視線を交わす
ふたりの目には相手が映っていた。

ふたりはため息をつく。悲しみの
ため息であり、安心のため息でもあった。
腕を抱えて立ちつくす--それは
安らぎのない安らぎ、生きながらの死のなかの生。

ふたりは耳をすまし、
愛しい相手の言葉を待つ。
が、ふたりとも、まだ声が出ない。
心と心がまず会話をしていたから。

言葉が出てこない……と、そのとき、
〈愛〉がみずから沈黙を破った。
〈愛〉がアストロフィルの唇を開き、
愛しい気持ちを語らせた。

ステラさん、ぼくのよろこびを支配するひと、
日々のつらさを打ち負かしてくれる美しいひと、
ステラさん、あなたはまさに天に燃える星、
ぼくの心を導く星。

ステラさん、輝くあなたの目は
〈愛〉の神が舞う空のように青く、光っています。
その光の矢に撃たれたら、
好きにならずにいられません。

ステラさん、あなたの声を聞くと、
ぼくはもう、とけてしまいそうです。
あなたが歌うとき、ステラさん、
ぼくには天使の声が聞こえます。

ステラさん、あなたのからだには、
すべての幸せがあります。
あなたのお顔は何よりもきれいです。
あなたの心はその顔よりもきれいです。

お願いです。本当にお願いです。ああ、なんて言って
いいかわかりません。言ってはいけないのかもしれません。
お願いです。ああ、ぼくは何を言ってるんでしょう?
でも、祈るだけなら、いいですよね?

お願いです、愛しいステラさん、ひざまずいてお願いします。
(このとき、アストロフィルは本当にひざまずいていた。)
ぼくの言葉ではなく、あなたを愛するぼくのために、
このまわりのものたちの言葉を聞いてください。

今こそ、愛のための季節です。
こここそ、愛のための場所です。
あたりの空気がほほえんで、言っています、ふふ、そうそう、って。
鳥たちも歌っています、今こそチャンス、って。

気持ちいいそよ風ですよね。
この風が、ほら、木の葉にキスしています。
すべての木々が、ほら、いちばんのおしゃれをして、
恋をしよう、と〈愛〉に誘いかけています。

大地は水を吸い、水は大地にしみこみます。そして木々、
草花が輝きます。これはみんな〈愛〉のしわざなんです。
何も言わぬものたちも、みな〈愛〉の教えに応えています。だから
天使のようなあなたがぼくに応えてくれないなんて、おかしくないですか?

ここでアストロフィルは、手の言葉で
口の言葉をわかりやすく説明しようとした。
でも、ステラの手は、彼の手を
退けて拒んだ。あえてそうしたのだった。

ステラは言った、耳ではなく
心にふれるような声で。
愛を拒みながら
愛を告げているかのような声で。

アストロフィルさん、わたしもあなたが好き、
でも、こんなことはやめて、ね。
落ちついて。あなたがつらいとき、
わたしも死ぬほどつらいの。ほんとよ。

もし、わたしのなかに
あなた以外の幸せがあったなら、
わたしなんか地獄に落ちればいい。
よろこびも希望もなく、永遠に苦しめばいい。

あなたがほめてくれるこの目だって、
あなたの半分の価値もない。
もし嘘だったら、こんな目なんて
見えなくていい。心なんか、もっと真っ暗でいい。

もしわたしの心のなかに
秘密の願いがあって、
それがあなたに関係しないようなことだったら、
そんな願いも、わたしも、ぐちゃぐちゃになればいい。

あと言えるのは、
わたしの幸せはあなた、ってことだけ。
もしわたしを愛してくれるなら、これで許して、ね、
わたしもあなただけが好き。

あなたを拒んでるけど、
わたしもつらい。ほんとよ。
暴君みたいな〈美徳〉がこうしろ、って命じてる。
わたし、ほんとは応えてあげたい、って思ってる、かも。

だから、ね、アストロフィルさん、こういうことはやめましょ。
でないと、わたし、いつも、ずっと、あなたが好きだけど、
心の底から好きだけど、どこかであなたの名前を
聞いたとき思い出して、顔が赤くなっちゃうから。

こう言って、ステラは行ってしまった。
アストロフィルの心は引き裂かれてしまった。
ステラがしたことと言ったことがまったく反対だったから。
--そして、ぼくの歌もここで終わる。

* * *
Philip Sidney
Astrophil and Stella
Song 8

In a groue most rich of shade,
Where birds wanton musicke made,
Maie, then yong, his pide weedes showing,
New-perfum'd with flowers fresh growing:

Astrophel with Stella sweet
Did for mutual comfort meete,
Both within themselues oppressed,
But each in the other blessed.

Him great harmes had taught much care,
Her faire necke a foule yoke bare;
But her sight his cares did banish,
In his sight her yoke did vanish:

Wept they had, alas, the while,
But now teares themselues did smile,
While their eyes, by Loue directed,
Enterchangeably reflected.

Sigh they did; but now betwixt
Sighes of woe were glad sighes mixt;
With arms crost, yet testifying
restlesse rest, and liuing dying.

Their eares hungrie of each word
Which the deare tongue would afford;
But their tongues restrain'd from walking,
Till their harts had ended talking.

But when their tongues could not speake,
Loue it selfe did silence breake;
Loue did set his lips asunder,
Thus to speake in loue and wonder.

Stella, Soueraigne of my ioy,
Faire triumpher of annoy;
Stella, Starre of heauenly fier,
Stella, loadstar of desier;

Stella, in whose shining eyes
Are the lights of Cupids skies,
Whose beames, where they once are darted,
Loue therewith is streight imparted;

Stella, whose voice when it speakes
Senses all asunder breakes;
Stella, whose voice, when it singeth,
Angels to acquaintance bringeth;

Stella, in whose body is
Writ each caracter of blisse;
Whose face all, all beauty passeth,
Saue thy mind, which it surpasseth.

Graunt, O graunt; but speach, alas,
Failes me, fearing on to passe:
Graunt, O me: what am I saying?
But no fault there is in praying.

Graunt (O Deere) on knees I pray,
(Knees on ground he then did stay)
That, not I, but since I loue you,
Time and place for me may moue you.

Neuer season was more fit;
Never roome more apt for it;
Smiling ayre allowes my reason;
These birds sing, Now vse the season.

This small wind, which so sweete is,
See how it the leaues doth kisse;
Each tree in his best attiring,
Sense of Loue to Loue inspiring.

Loue makes earth the water drink,
Loue to earth makes water sinke;
And, if dumbe things be so witty,
Shall a heauenly Grace want pitty?

There his hands, in their speech, faine
Would haue made tongues language plaine;
But her hands, his hands repelling,
Gaue repulse all grace expelling.

Then she spake; her speech was such,
So not eares, but hart did tuch:
While such-wise she loue denied,
And yet loue she signified.

Astrophel, sayd she, my loue,
Cease, in these effects, to proue;
Now be still, yet still beleeue me,
Thy griefe more then death would grieue me.

If that any thought in me
Can tast comfort but of thee,
Let me, fed with hellish anguish,
Ioylesse, hopelesse, endlesse languish.

If those eyes you praised be
Halfe so deare as you to me,
Let me home returne, starke blinded
Of those eyes, and blinder minded;

If to secret of my hart,
I do any wish impart,
Where thou art not formost placed,
Be both wish and I defaced.

If more may be sayd, I say,
All my blisse in thee I lay;
If thou loue, my loue, content thee,
For all loue, all faith is meant thee.

Trust me, while I thee deny,
In my selfe the smart I try;
Tyran Honour doth thus vse thee,
Stellas selfe might not refuse thee.

Therefore, deare, this no more moue,
Least, though I leaue not thy loue,
Which too deep in me is framed,
I should blush when thou art named.

Therewithall away she went,
Leauing him to passion rent,
With what she had done and spoken,
That therewith my song is broken.

* * *
次の表現は、アナクレオンx番、「大地は雨を飲み、
木々は大地から飲み、海は川から飲み、太陽は
海から飲む、だから俺も酒を飲む」の変奏。
酔っぱらいの屁理屈を恋愛のレトリックに昇華。

「大地は水を吸い、水は大地にしみこむ」
Loue makes earth the water drink,
Loue to earth makes water sinke. . . .

"Gaue repulse all grace expelling" のところは
"excelling" としているテクストが多い。
後日、初版を確認。(初版もシドニー死後の
海賊版なので、手稿があれば、それも見ないと。)

* * *
英語テクストは次のページより。
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Sidney, Astrophil and Stella, 52

フィリップ・シドニー
『アストロフィルとステラ』
ソネット52

〈美徳〉と〈愛〉が裁判で争っている。
両者いわく、ステラは自分のもの、とのことだ。
愛は主張する--ステラの目とくちびる、いや、あらゆるパーツから明らかだけど、
あの人はぼくのものです。いたるところにぼくのマークがついていて愛しいでしょ?
他方、〈美徳〉もこう反論する--
いえ、あの人のりっぱな精神、まちがいなくいずれ天に昇るであろう
魂のほうこそ、ステラです。(ああ、なんて愛しい名前なのでしょう!)
美しいお姿には確かに惹かれますが、それ自体はステラではありません。
ですから、あの美しいからだは
〈愛〉のものであってもかまいませんが、まさにステラそのものともいうべき
魂のなかには、〈愛〉のものであるところなどいっさい存在しないのです。
・・・・・・そうか、なるほど、〈愛〉よ、こういわれちゃしかたないな。
ステラそのものである魂とやらは、もう〈美徳〉のものということでいいよな。
で、からだだけもらっておこうな。

* * *
Philip Sidney
Astrophil and Stella
Sonnet 52

A strife is growne between Vertue and Loue,
While each pretends that Stella must be his:
Her eyes, her lips, her all, saith Loue, do this,
Since they do weare his badge, most firmly proue.
But Virtue thus that title doth disproue,
That Stella (O dear name!) that Stella is
That vertuous soule, sure heire of heau'nly blisse.
Not this faire outside, which our heart doth moue.
And therefore, though her beautie and her grace
Be Loues indeed, in Stellas selfe he may
By no pretence claime any manner place.
Well, Loue, since this demurre our sute doth stay,
Let Vertue haue that Stellaes selfe, yet thus,
That Vertue but that body graunt to vs.

* * *
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Sidney, Astrophil and Stella, 87

フィリップ・シドニー
『アストロフィルとステラ』
87

いやいやながらも、ぼくは、永遠に愛しいステラから、
ぼくの想いの糧、心の中心であるステラから、
ぼくの心の嵐を青空に変えてくれるステラから、
彼女の義務の掟のために、去らなくてはならなかった。
ああ、そのときぼくにはわかった、彼女もぼくのように苦しみ、つらい思いをしている、と。
ぼくは見た、彼女の目に涙があふれるのを。
ぼくは見た、何よりも美しい彼女の唇が開き、ため息が出てくるのを。
そして聞いた、彼女の悲しげな言葉を。ぼくも悲しい気持ちに沈みつつ。
ぼくも泣いた、真珠のように、次から次へと流れる彼女の涙を見て。
彼女のため息はぼくのため息、彼女の泣き声はぼくの泣き声だった。
だが同時に、よろこびの海で泳ぐ気分だった。それほどぼくを愛してくれていたのだから。
こうして、このうえなくつらい別れのなか、
このうえなくうれしいことを知り、
ぼくの心は痛かった。しあわせに思いつつも。

* * *
Philip Sidney
Astrophil and Stella
LXXXVII

When I was forst from Stella euer deere,
Stella, food of my thoughts, hart of my hart;
Stella, whose eyes make all my tempests cleere,
By Stellas lawes of duetie to depart;
Alas, I found that she with me did smart;
I saw that teares did in her eyes appeare;
I sawe that sighes her sweetest lips did part,
And her sad words my sadded sense did heare.
For me, I wept to see pearles scatter'd so;
I sigh'd her sighes, and wailed for her wo;
Yet swam in ioy, such loue in her was seene.
Thus, while th' effect most bitter was to me,
And nothing then the cause more sweet could be,
I had bene vext, if vext I had not beene.

* * *
「義務の掟」 lawes of duetie とは、ここでは、
浮気・不倫をしてはならない、ということ。

1-4
I was forst [= forced] to depart from. . . .

13
And nothing could be more sweet then [= than] the cause,

14 if
= even if

* * *
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Sidney, Astrophil and Stella, Song 4

フィリップ・シドニー
『アストロフィルとステラ』
歌4

ぼくの唯一のよろこびであるあなた、今、ここで
ぼくの苦しみ、悲しみを聞いてください。そして、それを和らげてください。
ぼくのささやく声に
甘いご褒美をください。このうえない痛みを感じてきたのですから。
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

夜が、闇のコートですべてをおおっています。
星が、キラキラと愛の想いをかきたてます。
よく気をつけていれば、危ないことなどありません。
〈嫉妬〉そのものも、もう寝ています。
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

どう考えても、ここ以上の場所はありません、
愛の結び目をつくったり、ほどいたりするのに。
ベッドのきれいな花たちが、
来て、とぼくたちにささやいています。
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

このかすかな月あかりのなか、見えるのは、
君の目のかがやきだけです。
ぼくをもっとしあわせにしてください。
何も恐れることはありません、誰も見ていませんから。
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

あの音は、ただのネズミです。
家じゅうの者は、眠って意識を失っています。
そして、眠りながら、たぶんこういっています、
若いおバカさん、楽しみなさい、できるあいだに、と。
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

ケチな〈時間〉がいっています、もし
こんなしあわせな機会を逃したら、
次は当分ないんだぞ、と。
ですから、かわいいあなた、すべてがいい感じな今、
ぼくを抱いて、君を抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

あなたのお母さんは、もうベッドのなかです。
ろうそくは消え、カーテンも閉じています。
お母さんは、あなたが手紙を書いていると思っているでしょう。
だから、書いてください、ぼくがいう通りに--
わたしを抱いて、あなたを抱かせて--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

美しいあなた、ああ、どうしてそう戦うのです?
ぼくたちには和平のほうがお似合いです。
戦いは、軍神マルスに任せましょう。
あなたの武力は、美のなかにあるのです。
ぼくを捕虜にして、ぼくに降伏して--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

ああ、哀れなぼく、あなたは
ぼくを嫌うというのですか、ぼくが我慢しないなら?
運命に呪いあれ、
これほど高くぼくをもちあげておいて、つき落とすとは。
ぼくはもう死にます、あなたの望みどおりに--
だめ、だめよ、だめってば、ね、やめて。

* * *
Philip Sidney
Astrophil and Stella
Fourth Song

Onely Ioy, now here you are,
Fit to heare and ease my care,
Let my whispering voyce obtaine
Sweete reward for sharpest paine;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Night hath closde all in her cloke,
Twinkling starres loue-thoughts prouoke,
Danger hence, good care doth keepe,
Iealouzie hemselfe doth sleepe;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Better place no wit can finde,
Cupids knot to loose or binde;
These sweet flowers our fine bed too,
Vs in their best language woo:
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

This small light the moone bestowes
Serues thy beames but to disclose;
So to raise my hap more hie,
Feare not else, none vs can spie;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

That you heard was but a mouse,
Dumbe Sleepe holdeth all the house:
Yet asleepe, me thinkes they say,
Yong fooles take time while you may;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Niggard time threates, if we misse
This large offer of our blisse,
Long stay, ere he graunt the same:
Sweet, then, while ech thing doth frame,
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Your faire Mother is abed,
Candles out and curtaines spred;
She thinkes you do letters write;
Write, but first let me endite;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Sweete, alas, why striue you thus?
Concord better fitteth vs;
Leaue to Mars the force of hands,
Your power in your beautie stands;
Take me to thee, and thee to mee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

Wo to mee, and do you sweare
Me to hate, but I forbeare?
Cursed be my destines all,
That brought me so high to fall;
Soone with my death I will please thee:
No, no, no, no, my Deare, let bee.

* * *
ステラの部屋での一場面。直前のソネット84の主題は
ステラの家までの道。85の主題はステラの家。

* * *
アストロフィルは独身の騎士、ステラは(愛のない)
結婚をしている、という設定。アンドレアス・
カペルラヌス『宮廷風恋愛の技術』やペトラルカの
『カンツォニエーレ』などから連なる宮廷風恋愛の
一変奏。

ステラもアストロフィルが実は好き。そんなふたりの
やりとりを、イギリス的な、とぼけたユーモアとともに。
また、カルペ・ディエムの主題を織りまぜつつ。

そして、切なさや甘い雰囲気まで、微妙にただよわせつつ。

* * *
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Sidney (tr.), Horace, Ode 2.10

フィリップ・シドニー (訳)
ホラティウス、オード2巻10番

やめたほうがいい、いつも
遠く沖に出ていたり、あるいは逆に、荒れ狂う海から逃れようと
わざわざ険しい岸にあがるような、そんな生きかたは。

黄金の中庸を愛する人は、安全に生きられる、
古くなった家のほこりにまみれることなく。また静かに生きられる、
妬みにまみれた宮廷から離れて。

風は、もっとも高い松の木をもっとも激しく揺らす。
大きく立派な塔が、もっとも大きな音を立てて倒れる。
雷は、もっとも高い丘をかち割る。

先を見越せる精神は、不幸なときに希望を抱き、
幸せなときに変化を恐れて警戒する。
嵐の冬は来て、そして去っていく。

今、あるいは過去のくらしが不幸にとらわれていても、
それはいつまでもつづかない。アポロンは、ときにはシターンを鳴らして、
寝ている詩神の目を覚ます。いつも矢を撃っているわけではない。

厳しいときほど、強気なようすで勇敢にふるまうこと。
いつも同じ人格でいられるように、いつでも頭を使うこと。
そして、追い風が強すぎたら、ふくらみすぎないように帆をしまうこと。

* * *
Philip Sidney (tr.)
Horace, Ode 2.10

You better sure shall live, not evermore
Trying high seas, nor while seas rage you flee,
Pressing too much upon ill-favor'd shore.

The golden mean who loves, lives safely free
From fllth of foreworne house, and quiet lives,
Releast from court, where envie needs must be.

The winde most oft the hugest pine-tree grieves;
The stately towers come downe with greater fall;
The highest hills the bolt of thunder cleeves;

Evil haps doe fill with hope, good haps appall
With feare of change, the courage well prepared;
Foule winters as they come, away they shall.

Though present times and past with ills be snared,
They shall not last; with citherne silent Muse
Apollo wakes, and bow hath sometimes spared.

In hard estate with stout show valour use:
The same man still in whom wisdom prevails,
In too full winde draw in thy swelling sailes.

* * *
テルツァ・リーマのかたちを使っている。
aba/bcb/cdc/ded. . . .

* * *
英語テクストはHorace, vol. 2 (1831) より。
https://archive.org/details/horace00gudegoog

* * *
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Sidney, "Faire rocks, goodly rivers. . . . "

フィリップ・シドニー(1554-1586)
(「きれいな岩、美しい川・・・・・・」)
(『ペンブルック伯爵夫人のアルカディア』より)

きれいな岩、美しい川、心地いい森、いつになったら
ぼくの心は安らぐのだろう?
- だまって。

だまって、って、そんなこというのは誰? 誰が近くにいるの?
- あたしよ。

わかった、こだまだね。
- そう、こだまよ。

ようこそ。こっちに来て、君の話もしてよ。
いいわよ。

魂を悲しみに奪われてしまっていて、
そんな状態で何か得られるものはあるのかな?
- 悲しみだけよ。

死んでしまいそうな心の痛みに効く薬って、
何かある?
- 死だけね。

ああ、なんて毒のような薬! それより悪い
ものって、ないんじゃない?
- 死があるわ。

この死に至る病にかかる前、ぼくはどうだった?
- 落ちついていたわ。

どういう性格だから、こんな状態になっちゃったのかな?
- 頭が悪いのよ。

欲望をとがめる強さが理性にはないのかな?
- 試してみれば。

やってみたよ。でも、なにか薬はある? 理性がどこか
行ってしまうんだ。
- ひとつあるわ。

おお! それ何? 何? ぼくの恋の薬になるのは?
- 相手も君が好きだったら、ね。

恋する男が求めるものは何? 何を手に入れたいんだろう?
- よろこびよ。

でも、そのよろこびって何? それを手に入れるために
苦しまなくてはならないなんて。
- その苦しみがよろこびなの。

なら、真剣な愛をいちばん実らせるものは何?
- それを終わらせることよ。

終わらせる? そんなこと絶対できないよ。
愛の神キューピッドが許してくれないよ。
- 恋なんて、もうやめておきなさい。

そういう薬が効かない状態の心って、どうなってるのかな?
- 病んでるのよ。

でも、ぼくがいったような病気のときにはどうすればいいか、
もう一回言ってよ。
- もう言ったでしょ。

こんな病気にかかった不幸な人には、それがいつ直るか
わかるかな?
- いいえ。

でも、自分の病気についてわかっていないんだったら、
誰にしたがって行けばいいの? 自分の目が見えないんだったら。
- 目の見えない人について行けば。

どんな目の見えない案内人が、夢見るような恋に
導いてくれるの?
- 妄想よ。

妄想って盲目なの? 空を歩いてるようにふわふわしてると
転んじゃうの?
- しょっちゅうね。

こんな拷問のようなつらさがぼくにふりかかってきたのは
なんでかな?
- 光にやられたのよ。

そんなちょっとしたことで、こんな死にそうにつらい気持ちに
なるの?
- そうよ。

でもさ、ぼくをこんな死にそうにつらい気持ちにする
ちょっとしたことって、いったい何?
- 目で見ちゃったのよ。

確かに、見たからまいっちゃったんだ。でも、ぼくの目を
つらぬいて入ってきたのは何なの?
- 彼女の視線よ。

目って、傷つけるの? 視線にぶつかって痛いなんて
ことがあるの?それでぼくはどうなったの?
- 堕ちたのよ。

でも、ぼくが堕ちたいちばんの理由は何かな?
- テクニックよ。

テクニック? 君のいうテクニックって、どんなもの?
- ことばよ。

ことばのテクニックがもたらすものって何?
ことばによって何が生まれて大きくなるの?
- 会話よ。

ちがうよ。会話以上のものさ。あの子のことばは、
ぼくをずっとしあわせにしてくれるんだ。
- より不幸にするのよ。

いつになったら、あの子、ぼくのこと気づいてくれるかな?
とにかく気づいてほしいんだけど。
- ずっと先の話ね。

そんなこというなんて、君もずっと悲しんでいればいいんだ。
あの子、ぼくの気持ち、どう思ってるのかな?
- 納めて当然の貢物のように、かしらね。

なら、彼女のところに行ったら、何をもらえるかな?
- 風のように気のない返事、くらいじゃない?

風、あらし、大雨かみなり、だったらどうしよう。
で、結局、ぼくの欲望に対して彼女はどう応えてくれるんだろう?
- 怒るんじゃない?

そんな、ぼく、かわいそう。 でも、しかたないのかな。
他の女性よりも高いところにいる人だから。
- ほーんのすこーし、だけね。

彼女のような、まるで天使みたいな人を、どう呼べば
いいんだろう?
- 悲しみをもたらす人、ね。

でも、その悲しみがよろこびのように感じられるんだ。
ぼくの気分にぴったりあっていて。
- わたしも、昔はそう思ってたわ。

ホントそうなんだよ。この悲しみを通らなくては、
ぼくが願っている幸せにたどり着けないんだ。
- 行きつく先は、幸せじゃないわ。呪いよ。

ぼくを幸せに導くものを呪いだなんて、君こそ
呪われてしまえ。
- 冗談よ。

へりくだって簡単なことをお願いしたら、
きれいな人でも応えてくれるんじゃないかな?
- ムリね。

手に入れることが困難ってことは、浮気を
しないってことだよ。鉄のようにかたい心が
あるってことで、ね。
- ウナギみたいに逃げられるわよ。

そういう人ってどう冷たいの? ねえ?
君はよく知ってるんでしょ?
- 傲慢で高飛車なのよ。

どうして傲慢になんかなるの? まさに美の源泉である
ような人が?
- まさに、キレイだからよ。

これはひどい冒涜だよ。いちばん神聖な人に対して。
- 神聖だなんて、ウソよ。

ウソをいっているのは君だよ。キレイな人の心は、
まさに美徳そのもののように正しいはずだよ。
- まさに、そのはず、なのにね・・・・・・。

神々にのみふさわしい、あのダイヤモンドのような
彼女たちの心を、君はバカにするのかい?
- 神々と女性だなんて、全然つりあってないわ。

つりあっていないなんて、そんなことないさ。だって、
ぼくは天国よりも彼女たちのほうがいいと思うんだから。
- 勘違いしてない?

でも、もう一回教えてよ。キレイだけど冷たい人を、
君はなんて呼ぶ?
- 悪魔、かしら。

悪魔? そんな悪魔がいる地獄なら、ぼくはよろこんでいくよ。
- いってらっしゃい。

* * *

Philip Sidney
"Faire rocks, goodly rivers, sweet woods. . . . "
(From The Countesse of Pembrokes Arcadia)

Faire rocks, goodly rivers, sweet woods,
when shall I see peace?
- Peace.

Peace? who debars me my tongue?
who is it that comes me so nie?
- I.

I doo know what guest I doo meete:
it is Echo.
- T'is Echo.

Well mett Echo; aproch, and tell me
thy will too.
- I will too.

Echo, what doo I get yeelding my sprite
to my grieves?
- Grieves.

What medicine may I finde for a paine
that drawes me to death?
- Death.

O poisonous medicine: what worse to me
can be then it?
- It.

In what state was I then, when I tooke
this deadly disease?
- Ease.

And what maner a minde, which had to
that humor a vaine?
- Vaine.

Hath not reason enough vehemence
the desire to reprove?
- Prove.

Oft prove I: but what salve, when Reason
seeks to be gone?
- One.

O what is it? what is it, that may be
a salve to my love?
- Love.

What doo lovers seeke for, long seeking
for t' enjoye?
- Joy.

What be the joyes, for which t' enjoye
they went to the paines?
- Paines.

Then to an earnest love what doth best
victorie lende?
- Ende.

Ende? but I can never ende: Love will
not give me the leave.
- Leave.

How be the mindes disposde, that cannot
taste the Physicke?
- Sicke.

Yet say againe th'advice for th'ils
that I tolde thee.
- I told thee.

Doth th'infecfed wretch of his ill
th'extremitie know?
- No.

But if he know not his harmes, what
guids hath he whilst he be blind?
- Blinde.

What blinde guides can he have that
leades to a fancie?
- A fancie.

Can fancies wante eyes? or he fall
that steppeth aloft?
- Oft.

What causes first made these torments
on me to light?
- Light.

Can then a cause be so light, that
forceth a man to goe die ?
- I.

Yet tell, what light thing I had in me
to drawe me to die?
- Eye.

Eie-sight made me to yeeld: but what
first pearst to my eyes?
- Eyes.

Eyes hurters? eyes hurte? but what
from them to me falls?
- Falls.

But when I first did fall, what brought
most fall to my harte?
- Arte.

Arte? what can be that arte, which thou
doost meane by thy speach?
- Speach.

What be the fruites of speaking arte,
what growes by the wordes?
- Wordes.

O much more then wordes: those wordes
served more me to blesse.
- Lesse.

O when shall I be knowne, where most
to be known I doo long?
- Longe.

Long be thy woes for such bad newes:
how recks she my thoughts?
- Oughts.

Then, then what doo I gayne, since
unt' her will I doo winde?
- Winde.

Winde, tempests, and stormes: yet in ende
what gives she desire?
- Ire.

Silly rewarde: yet above women
hath she a title.
- A tittle.

What great name may I give to
so heavenly a woman?
- A Wo-man.

Woe, but seems to me joye, that agrees
to my thought so.
- I thought so.

Thinke so: for of my desired blisse
it is onely the course.
- Course.

Curst be thy selfe for cursing that,
which leades me to joyes.
- Toyes.

What be the sweete creatures where
lowly demaundes be not harde?
- Harde.

Harde to be gott, but got constant,
to be helde very steeles.
- Eeles.

How be they helde unkinde? speake,
for th' hast narrowly pry'de.
- Pride.

How can pride come there since
springs of beautie be thence?
- Thence.

Horrible is this blasphemie unto
the most holie.
- O lye.

Thou li'st, false Echo; their mindes,
as vertue, be juste.
- Juste.

Mockst thou those Diamonds, which onely
be matcht by the Godds?
- Odds.

Odds? what an odds is there, since them
to the heav'ns I preferre?
- Erre.

Tell yet againe, how name ye the goodly
made evill?
- A devill.

Devill? in hell where such Devill is,
to that hell I doo goe.
- Goe.

* * *

羊飼いと「こだま」(Echo)の対話形式で書かれた詩。
人の言葉の終わりのところを、こだまがくり返す、
というオウィディウス『変身物語』以来の書き方。
(ウェブスターの『モルフィ公爵夫人』などにも見られる。)

「こだま」については、Jonson, "Echo's Song" についての
記事(20110521)もご参照を。

* * *

以下、訳注。
(行数は、この記事における表示上のもの。)

5 nie
= nigh = near

13 sprite

16-18
16-17世紀の作品には、恋わずらいで死ぬ、
というシナリオ、発想が頻出。

20 then
= than

25-26 what maner a
= What manner of (OED, "manner" n1, 9a).
語順などを修正すると、What kind of mind had
a vein to that humor?

[T]hat humorは、23行目のthis deadly
disease(つまり、恋わずらい)のこと。

26 vaine
= vein = 傾向(OED "vein" n. 13b)

27 vaine
= vain (知恵がない、思慮が足りない--OED,
"vain" a. and n. 3)。一般的にvainは、
中身がない、真の価値がない、というような意味。
「みえっぱり」という意味もここから。つまり、本当の
実力や富などをもっていないのに、そのふりをしている、という。

30 prove
試す、試験する(OED I)。

32 be gone
OED, "go" 48を参照。

44 victory
成就、成功(OED 3)。

44 lend
(一時的に)与える(OED "lend" v.2, 2a)。

47-48 leave
47では「許可」(名詞)。48では「やめる」、「捨てる」など
(動詞、OED, "leave" v.1, II)。

49 disposde
= disposed = なんらかの(身体的、精神的)状態にある
(OED, "disposed" 2a, 3)。

50 Physick
= physic = medicine (薬)。

56 extremitie
= extremity (本当の終わり、終わりの終わり)(OED 1)。

58-60
マタイの福音書15章14節、ルカの福音書6章39節のことば、
「盲目の人が盲目の人の手を引けば、二人ともドブに落ちる」から。
これを描いたブリューゲルの絵が次のURLなどに。
http://museodicapodimonte.campaniabeniculturali.
it/thematic-views/image-gallery/OA900019/?
searchterm=bruegel

62-63 fancy
62: 恋(OED 9b)、楽しいこと/もの(OED 10)。

68-70 light
68: 降りてくる(OED, "light" v1. II)。
69: 光(73行目以下参照)。
70: 軽い、やさしい、強引でない、重要でない、ちょっとした。

72 I
= aye = yes.
(「アイアイサー」の「アイ」はこれ。「サー」はSir.)

76 yeeld
= yield (降伏する)(OED, III)。

79 hurte
= hurt = ぶつかる (OED 6)、傷つける(OED 7)。

83 fall
"Fall" の原因(OED, "fall" n.1, 17)。

91-92
構文は、those wordes served more to bless[e] me.

97
「こだま」とナルキッソスのエピソードを参照。
(上記ジョンソンの記事20110521に。)

99 oughts
支払われて当然のもの(OED, "ought" n.2; "ought" v)。

101-2 winde
101: 行く(OED 2a)。
102: 中身のないもの/ことば(OED 15)。

102では、裏の意味として、おなら(OED 10)も。
出た、イギリス名物、トイレネタ・・・・・・。

103 tempest/storm
どちらも「あらし」(大雨+暴風+雷+稲妻)。
ただ、stormの場合、暴風抜きの場合も(OED 1a)。

106 Silly
あわれみや同情に値する(OED 1)。

107 title
地位、名誉などをあらわす称号(OED 5a)。

111 Wo-man
= Woe-man.

114
Jonson, "Echo's Song" についての記事
(20110521)を参照。かつて「こだま」が、ナルキッソスに
恋していたときの気持ちのことをいっている。

117 Course
= Curse

120 Toyes
= Toys = 冗談(OED 3a)。

124-6
ここは、当初削除された箇所。

133-5
[B]e justeの前にshouldなどの助動詞が省略されている。
羊飼いは、そうであるはず、という意味でshouldを使っている。
これに対して、「こだま」は、そのはずだけど、そうであるべき
(だけど違う)、といっている。

134-5 juste
134: 正しい(道徳的に)(OED, "just" a. 1)。
135: まさにその通り(OED, "just" adv. 3)。

133-5
美しい姿は美しい心のあらわれ、というかたちで、
プラトンのイデア論を応用している例。16-17世紀の
作品によく見られる。

ミルトンの『仮面劇』(コウマス)の主人公(気高い貴族の
少女)曰く、「心が強い人[女性]は、身体的にも強い
[悪い男性よりも]」。
(素直な援用。)

アフラ・ベーンの『放浪貴族』(The Rover)の主人公
(ナンパ野郎)曰く、「立派だろうがなんだろうが、カワイコ
ちゃんはカワイコちゃん」。
(美のイデア論なんてウソ、ということ。)

---
「健全な精神は健全な肉体に宿る」といういい方も同種。
私事ながら、からだの弱かったうちの祖母は、このいい方が
嫌いだったとのこと。)
---

138 Odds
釣り合いがとれていないもの、またはそんな状態
(OED, "odds" n. 1-2)。

* * *

詩形は、古代ギリシャ/ローマの長短短六歩格
Dactylic hexameterの英語版。長音節と短音節の
組みあわせでつくる、いわゆるquantitative verse
(「音量詩」と訳す?)のひとつ。

各行について、次のように音節が並ぶ

ˉ˘˘| ˉ˘˘ | ˉ˘˘ | ˉ˘˘ | ˉ˘˘ | ˉx

(四つ目までの ˉ˘˘ は ˉˉ でも置き換え可)

------
ˉ 長音節:
長母音、二重母音、二つの子音の前の母音
(ただし、この二つの子音が b, c, d, g, p, t + l, r の
組みあわせのときは除く。)

˘ 短音節:
長音節以外のすべての母音

x 長音節でも短音節でも、どちらでもいい
------

これは、古代ギリシャ/ローマの詩のリズムの代表的な
詩形のひとつで、ホメーロスの『イリアス』やウェルギリウスの
『アエネイス』など、特に叙事詩で用いられたもの。
シドニーの時代、16世紀の後半に、これを英語の詩に
導入した作品がかなり多く書かれたが、いろいろ無理が
あって不自然だったので、すぐに廃れた。

叙事詩の詩形で、上の詩のように恋愛小ネタを語ること自体、
この詩形の導入が、あくまで実験的な段階にあったことを
示している。

(ちなみにスペンサーは、この詩形の流行にのらなかった。)

上の詩のスキャンジョン例--


(下のAttridgeの本によれば、この詩のリズムの組み方には
ミスが多いとのこと。)

ラテン語の長/短音節と、英語の強/弱音節が
重なっていないから、たとえば、1行目のrocksを
長く発音すれば不自然となり、またこれをふつうに
短く発音すれば、この詩形の意味がなくなる。

16世紀後半におけるquantitative verseの流行については、
Arrtidge, Well-Weighed Syllables (Cambridge, 1974) を
参照。

* * *

英文テクストは、Philip Sidney, The Countesse
of Pembrokes Arcadia, ed. Albert Feuillerat
(Cambridge, 1912)より。(見やすいように編集。)
http://archive.org/details/countesseof
pembr00sidnuoft

* * *

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