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From Shakespeare, Richard III, 1.1

ウィリアム・シェイクスピア
『王リチャード3世の生と死』
1幕1場より

グロースター:
不満だらけの冬だったのに、なんか急に夏が来た。
太陽みたいにまぶしい、あのヨークの奴のおかげでな。
俺たちの家を低くにらんでた雲だって、
海の胸のなかで死んで眠ってる。

俺たちは勝った。今、頭には月桂の冠、
ぼろぼろの武器は記念に飾って、
戦いじゃなくってパーティに召集されて、
こわい顔して行進するかわりに笑って踊ってる。

戦争のしかめっ面だってゆるゆるにゆるみきって、
完全武装の馬で駆けまわるとか、
腰抜けの敵をびびらせるとか、そんなののかわりに
どいつもこいつも女の部屋でリュート聴いて、ひょこひょこ踊って、
ついでにエロいことしてる。そりゃ楽しかろ。

だが俺といったら……楽しくいちゃいちゃするとか、そんな性格じゃないし、
鏡と両思い、とかいう顔でもない。
下手なはんこみたいに体がゆがんでるから、かっこつけて口説くとか無理だし、
妖精みたいにかわいい子なんか相手にしてくれるわけない。

まったく、俺ときたら……途中で切られました、みたいなちびで、
自然だか運命だかがさぼりやがって、まともな姿にできてない。
ねじくれてて、未完成で、予定より早く、
半分もできてない時に、おぎゃーってこの世に落とされた。
だからちゃんと歩けないし、とにかく見かけがひどい。
犬まで吼えてきやがる。一生懸命歩いてるだけなのに。

ま、そんなんだから、ちゃらちゃら踊る平和な時代に
楽しいことなんて何もない。
あえて言えば、自分の影を横目で見て、
ぶっさいく、って馬鹿にすることくらいだ。

ま、恋に生きる奴みたいに楽しく
おしゃべりして日々過ごす、とかできるわけないから、
決めた、俺は悪に生きる。
今時のくだらんお遊びなんか大っ嫌いだ。死ね。

*****
William Shakespeare
The Life and Death of Richard the Third
1.1

GLOUCESTER
Now is the winter of our discontent
Made glorious summer by this sun of York;
And all the clouds that lour'd upon our house
In the deep bosom of the ocean buried.
Now are our brows bound with victorious wreaths;
Our bruised arms hung up for monuments;
Our stern alarums changed to merry meetings,
Our dreadful marches to delightful measures.
Grim-visaged war hath smooth'd his wrinkled front;
And now, instead of mounting barbed steeds
To fright the souls of fearful adversaries,
He capers nimbly in a lady's chamber
To the lascivious pleasing of a lute.
But I, that am not shaped for sportive tricks,
Nor made to court an amorous looking-glass;
I, that am rudely stamp'd, and want love's majesty
To strut before a wanton ambling nymph;
I, that am curtail'd of this fair proportion,
Cheated of feature by dissembling nature,
Deformed, unfinish'd, sent before my time
Into this breathing world, scarce half made up,
And that so lamely and unfashionable
That dogs bark at me as I halt by them;
Why, I, in this weak piping time of peace,
Have no delight to pass away the time,
Unless to spy my shadow in the sun
And descant on mine own deformity:
And therefore, since I cannot prove a lover,
To entertain these fair well-spoken days,
I am determined to prove a villain
And hate the idle pleasures of these days.

http://shakespeare.mit.edu/richardiii/richardiii.1.1.html
(日本語訳のスタンザ分けは原文にはない)

*****
https://drive.google.com/open?id=1REOo5mazJXkcMelGq6xSX85ToF8WnLbL

GT: 曲、ギター、声
ET: 曲、ピアノ
MT: タンバリン

*****
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Shakespeare, Sonnet 129

ウィリアム・シェイクスピア
ソネット 129

恥ずかしいことをして男の精を浪費する、
それが性行為。行為にありつくため性欲は
詐欺をはたらき、人を殺し、血を流し、罪を犯す。
野獣のように抑制を知らず、不躾で無慈悲で、義に背く。
だが充たされたらただの塵(ごみ)。
理不尽に獲物を求め、獲物を手にしたら
理不尽に憎まれる。まるで針のついた餌、
呑みこむ者に対する嫌がらせ。
狂ったように追いかけて、そして手に入れて気が狂う。
行為の後、行為のなか、行為を求め、理性を失う。
行為中は天国、行為の後は地獄。
するまで幸せ、終わったら夢の泡。
以上は誰もが知っている。それでも誰もが
この地獄行きの天国に堕ちていく。

*****
William Shakespeare
Sonnet 129

The expense of spirit in a waste of shame
Is lust in action; and till action, lust
Is perjured, murderous, bloody, full of blame,
Savage, extreme, rude, cruel, not to trust,
Enjoy'd no sooner but despised straight,
Past reason hunted, and no sooner had
Past reason hated, as a swallow'd bait
On purpose laid to make the taker mad;
Mad in pursuit and in possession so;
Had, having, and in quest to have, extreme;
A bliss in proof, and proved, a very woe;
Before, a joy proposed; behind, a dream.
All this the world well knows; yet none knows well
To shun the heaven that leads men to this hell.

http://www.shakespeare-online.com/sonnets/129.html

*****
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From Shakespeare, Venus and Adonis

ウィリアム・シェイクスピア
『ウェヌスとアドニス』より

真っ赤な顔の太陽神アポロンが去ってしまって
夜明けの女神アウロラが泣いている、まさにそんなとき、
薔薇色の頬の少年アドニスは馬に乗って狩りに行く。
彼は狩りが好き。恋愛にはまるで興味がない。
ウェヌスはそんな彼が好きで好きでしかたがない。だから全速力で
走ってきて、そして大胆に、こう口説きはじめる。

「あなた、あたしよりずっときれい。
野原でいちばんきれいな花。比類なき存在。
あなたを見ればニンフも自分が恥ずかしくなる。人間を超えてる。
鳩より白くて薔薇より赤い。
あなたの母の〈自然〉もこういってる、
あなたが死ぬときがこの世の終わり、って。」

「ね、お願い、奇跡みたいなあなた、馬から降りて。
高ぶる馬を止めて、頭を鞍に結んで。
お願いを聞いてくれたら、ご褒美として
蜂蜜みたいに甘い秘密をたくさん教えてあげる。
こっち来てすわって。蛇とかいないから平気。
ね、すわって。たくさんキスして息を止めてあげる。」

「大丈夫、飽きさせたりしないから。
逆よ。キスすればするほど、唇が飢えてくる。したことないような
いろんなキスをしてあげる。熱いのとか、くらくらするのとか、
短いのを十回連続とか、二十回分の長いのを一回とか。
夏の一日なんて、一時間みたいにあっという間。
楽しく遊んで無駄に過ごしましょ。」

こういってウェヌスはアドニスの手をつかむ。
彼の手は汗ばんでいた。汗とは命と力の証。
欲望に打ち震えつつ彼女はいう--この汗は魔法の水、
人体がつくる最高の薬、女神の病気だって治してくれる……。
こうして我を忘れ、欲望のなすがままに彼女は
思い切ってアドニスを馬から引きずりおろす。

若くて鼻息荒い馬の手綱の下から片腕を入れ、
もう片腕で美少年を抱きかかえる。
アドニスは顔を赤らめてご機嫌ななめ。まるで興味ない。
鉛のように心が重く、遊ぶ気なんてまるでなし。
ウェヌスは赤く燃えあがる。炎のなか赤熱する石炭のよう。
アドニスも赤い。でもそれは恥ずかしいから。心は凍っている。

ウェヌスは鋲つきの手綱をごつごつの枝に
器用に結ぶ。そう、恋はとてもせっかちだから!
こうして馬を木につなぎ、さあ今度は
馬に乗ってた子をあたしにつなぐ番!
ウェヌスはアドニスを押し倒す。本当は自分がされたいように。
彼のからだを制圧する。心までは無理だけど。

あっという間にアドニスは引き降ろされ、隣同士、
ふたりは横になっていた。
ウェヌスは彼の頬を撫でる。彼は嫌がる。
もう、やめ……ん!!! アドニスの口をキスでふさいで
ウェヌスはささやく。興奮して、とぎれとぎれに。
怒るんだったら……もう口……離してあげない……。

アドニスは恥ずかしくて顔に火がつきそう。ウェヌスは涙を注いで
その炎を消す。処女みたいでかわいい子……。
次に彼女はため息の嵐と金の髪から
送る風で彼の頬を乾かす。
彼はいう、今度は何? やめ……
またキスで言葉が殺された。

断食でギリギリまで飢えた鷲は
獲物の羽と肉と骨を突っつきまくり、
からだを揺らしながらすごい勢いで貪り食う。お腹いっぱいに
なるまで、または全部平らげてしまうまで止まらない。
ウェヌスも同じ。彼女はアドニスの額と頬と口をキスで貪る。
順番にキスしていって、終わったらまた最初から。

嫌々幸せな気分になって、でも心は抵抗したまま
横たわり、アドニスはウェヌスの顔に息をはあはあ浴びせる。
彼女はその蒸気をまた獲物のように貪る。
ああ、これは天の潤いの贈りもの……恵みの香り……
あたしの頬の花園に
あなたの息のシャワーで露が降りてくる……素敵ね。

あらま! まるで網にとらえられてからまった鳥のように
アドニスもウェヌスの腕にとらえられてからまっている。
恥ずかしくて恐くて嫌で、だから彼は怒っている。
もともと美少年なのに怒っていてますます美少年。
もともと大きな川に雨が降り、
水が岸からあふれるのと同じ?

(つづく)

*****
William Shakespeare
From Venus and Adonis

EVEN as the sun with purple-colour'd face
Had ta'en his last leave of the weeping morn,
Rose-cheek'd Adonis hied him to the chase;
Hunting he lov'd, but love he laugh'd to scorn; 4
Sick-thoughted Venus makes amain unto him,
And like a bold-fac'd suitor 'gins to woo him.

'Thrice fairer than myself,' thus she began,
'The field's chief flower, sweet above compare, 8
Stain to all nymphs, more lovely than a man,
More white and red than doves or roses are;
Nature that made thee, with herself at strife,
Saith that the world hath ending with thy life. 12

'Vouchsafe, thou wonder, to alight thy steed,
And rein his proud head to the saddle-bow;
If thou wilt deign this favour, for thy meed
A thousand honey secrets shalt thou know: 16
Here come and sit, where never serpent hisses;
And being set, I'll smother thee with kisses:

'And yet not cloy thy lips with loath'd satiety,
But rather famish them amid their plenty, 20
Making them red and pale with fresh variety;
Ten kisses short as one, one long as twenty:
A summer's day will seem an hour but short,
Being wasted in such time-beguiling sport.' 24

With this she seizeth on his sweating palm,
The precedent of pith and livelihood,
And, trembling in her passion, calls it balm,
Earth's sovereign salve to do a goddess good: 28
Being so enrag'd, desire doth lend her force
Courageously to pluck him from his horse.

http://www.gutenberg.org/ebooks/1045

*****
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Shakespeare, ("But wherefore do not you a mightier way")

ウィリアム・シェイクスピア
(「でも、もっといい方法があるのでは」)
ソネット16

でも、もっといい方法があるのでは、
〈時〉という流血の暴君と戦うなら?
老いていく君を守る武器として
不毛な詩よりもっと実りあるものがあるのでは?
今の君は若さと美しさの盛りにあって、
まだ種を植えられていないたくさんのまじめな処女の畑が
君の花を咲かせたいと願っている、
詩に描かれた君よりもっと君に似ている花を。
君の命は、受けつがれてこそ生き返る。
君の美しい心、美しい姿は、〈時〉の筆では
保てない。ぼくの筆もせいぜい偽物をつくるだけで、
君自身を生きつづけさせることはできない。
君自身を人に与えれば、君はずっと生きつづけられる。
だからそうしよう、気持ちいいことをして自分で自分を描くことで。

*****
William Shakespeare
("But wherefore do not you a mightier way")
Sonnet 16

But wherefore do not you a mightier way
Make war upon this bloody tyrant, Time?
And fortify yourself in your decay
With means more blessed than my barren rhyme?
Now stand you on the top of happy hours,
And many maiden gardens yet unset
With virtuous wish would bear your living flowers,
Much liker than your painted counterfeit:
So should the lines of life that life repair,
Which this, Time's pencil, or my pupil pen,
Neither in inward worth nor outward fair,
Can make you live yourself in eyes of men.
To give away yourself keeps yourself still,
And you must live, drawn by your own sweet skill.

http://shakespeare.mit.edu/Poetry/sonnet.XVI.html

*****
(キーワード)

カルペ・ディエム carpe diem
老齢・死 old age, death
永遠 eternity

*****
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Shakespeare, Sonnet 18

ウィリアム・シェイクスピア
ソネット18

君を夏の日ざしにくらべようか?
でも、君のほうがきれいで、もっとやさしい。
強い風が吹けば、五月に出たばかりの若い芽は吹き飛んでしまうし、
夏のあたたかい日々もあっという間に終わってしまう。
ときどき太陽は熱く輝きすぎるし、
逆に翳(かげ)って輝かない日もよくある。
美しいものも、いつも美しいとはかぎらない。美しさは、
その時その時によって、また自然の変化のなかで、失われるものだから。
でも、君は永遠の夏、色あせることがない。
君の美しさはなくなったりしない。
傲慢な〈死〉も、彼の国で君を見ることはない。
永遠に生きる詩のなかで、君は、時がつづくかぎり生きつづける。
人々が息をし、ものを見ることができるかぎり、
この詩は生きつづけ、そして君に命を与えつづける。

* * *
William Shakespeare
Sonnet 18

Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer's lease hath all too short a date:
Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimmed,
And every fair from fair sometime declines,
By chance, or nature's changing course untrimmed:
But thy eternal summer shall not fade,
Nor lose possession of that fair thou ow'st,
Nor shall death brag thou wander'st in his shade,
When in eternal lines to time thou grow'st,
So long as men can breathe, or eyes can see,
So long lives this, and this gives life to thee.

* * *
8
untrimmed By chance or nature's changing course

* * *
英語テクストは次のページから。
http://www.shakespeares-sonnets.com/sonnet/18

* * *
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From Shakespeare, Twelfth Night 2.4

ウィリアム・シェイクスピア
『十二夜』 2幕4場より
(オーシーノ―公と男装したヴァイオラ、愛の男女差について)

オーシーノー公:
セザーリオ、もう一度、
わたしの心を支配しているあの冷酷な貴婦人のところに行って、
伝えてくれ。わたしの愛は他の人々の愛よりもはるかに気高いから、
彼女の広い土地、泥だらけの大地など求めたりしない、と。
そんなもの、運の女神があの人にくれてるだけ、
そしてすぐに奪ったりもする。そんなもの、わたしにとってもどうでもいい。
宝石のなかの宝石のようなあの奇跡的な美しさ、
生まれたときからあの人を飾っているあの美しさにわたしは惹かれているのだ、と。

ヴァイオラ:
でも、もしあなたさまを愛せないとおっしゃったら、どういたしましょう?

オーシーノー公:
そういう答えは受けいれられないな。

ヴァイオラ:
いえ、受けいれなくてはならないのでは。
たとえば、ありがちなことですけど、どこかの貴婦人が
オーシーノーさまを愛していたとします。オーシーノーさまがオリヴィアさまを
愛しているのと同じくらい深く。でもオーシーノーさまはその方を
愛してはいない、そんなとき、その方はあきらめるしかないですよね?

オーシーノー公:
女の胸では
耐えられないはずだ。わたしのように苦しい愛でどうしようも
なくなっている、そんな心臓の強い動悸にはな。女の心は
小さいから、大きな愛を抱くことがない。しかも愛を長く保つことができない。
悲しいことだが、女たちの愛は食欲のようなもの、
強い愛の宿る肝臓からくる感情ではなく、口が求めるものなんだ。
だから満腹になったり、飽き飽きしたり、オエーッ、って吐き戻したりする。
わたしの愛はちがうぞ。海のように大きく、常に飢えている。
海のように、なんでも、いくらでものみこむ。だから比べたりしないでくれ、
女がわたしに対して抱く愛と、
わたしがオリヴィアに抱いている愛をな。

ヴァイオラ:
承知いたしました。ですが、知っているんです・・・・・・

オーシーノー公:
なにをだ?

ヴァイオラ:
女性が男性に抱く愛を、です。よく知っています。
本当なんです。女性たちだって、わたしたち男と同様、本当に人を愛するのです。
わたしの父には娘がいて、その子はある男性を愛していました。
たぶん、もしわたしが女性だったら
オーシーノーさまを愛していたであろう、っていうくらいに深く、です。

オーシーノー公:
で、その子はどうなったんだ?

ヴァイオラ:
どうにもなりませんでした。彼女は愛を告げることもなく
隠しつづけ、そしてその思いは、つぼみのなかのイモムシのように
彼女のバラ色の頬を蝕んでいきました。彼女は悲しみにやつれていき、
思い煩うなか青白くなっていき、
まるで〈忍耐〉の像のようにたたずむのみでした。
苦しみのなか、悲しい笑みを浮かべて。これはまさに愛ではありませんか?
わたしたち男は多くを語り、たくさん誓います。でも、往々にして
それは見かけにすぎません。いつもわたしたちは
誓いの言葉のなかで愛を証明するだけなんです。行動ではなく。

オーシーノー公:
で、おまえの妹は恋わずらいで死んだのか? なあ?

ヴァイオラ:
わたしの父の家の娘はわたししかおらず、
わたしの兄弟もわたしだけです。あれ、なんのことでしたっけ。
オーシーノーさま、あの方のところに行ってきます。

オーシーノー公:
そうだった、それを頼みたかったんだ。
急いでくれ。この宝石も渡してくれ。そして伝えてくれ、
わたしの愛は道を譲らない、拒絶など受けいれない、とな。

* * *
William Shakespeare
From Twelfth Night 2.4

DUKE ORSINO
Once more, Cesario,
Get thee to yond same sovereign cruelty:
Tell her, my love, more noble than the world,
Prizes not quantity of dirty lands;
The parts that fortune hath bestow'd upon her,
Tell her, I hold as giddily as fortune;
But 'tis that miracle and queen of gems
That nature pranks her in attracts my soul.

VIOLA
But if she cannot love you, sir?

DUKE ORSINO
I cannot be so answer'd.

VIOLA
Sooth, but you must.
Say that some lady, as perhaps there is,
Hath for your love a great a pang of heart
As you have for Olivia: you cannot love her;
You tell her so; must she not then be answer'd?

DUKE ORSINO
There is no woman's sides
Can bide the beating of so strong a passion
As love doth give my heart; no woman's heart
So big, to hold so much; they lack retention
Alas, their love may be call'd appetite,
No motion of the liver, but the palate,
That suffer surfeit, cloyment and revolt;
But mine is all as hungry as the sea,
And can digest as much: make no compare
Between that love a woman can bear me
And that I owe Olivia.

VIOLA
Ay, but I know--

DUKE ORSINO
What dost thou know?

VIOLA
Too well what love women to men may owe:
In faith, they are as true of heart as we.
My father had a daughter loved a man,
As it might be, perhaps, were I a woman,
I should your lordship.

DUKE ORSINO
And what's her history?

VIOLA
A blank, my lord. She never told her love,
But let concealment, like a worm i' the bud,
Feed on her damask cheek: she pined in thought,
And with a green and yellow melancholy
She sat like patience on a monument,
Smiling at grief. Was not this love indeed?
We men may say more, swear more: but indeed
Our shows are more than will; for still we prove
Much in our vows, but little in our love.

DUKE ORSINO
But died thy sister of her love, my boy?

VIOLA
I am all the daughters of my father's house,
And all the brothers too: and yet I know not.
Sir, shall I to this lady?

DUKE ORSINO
Ay, that's the theme.
To her in haste; give her this jewel; say,
My love can give no place, bide no denay.

* * *
ヴァイオラはオーシーノー公が好き、という。

* * *
英語テクストは次のページより。

http://shakespeare.mit.edu/twelfth_night/full.html

* * *
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From Shakespeare, Two Gentlemen of Verona, 3.1

ウィリアム・シェイクスピア
『ヴェローナの二人の貴族』 3幕1場より

光、ではない、シルヴィアを照らさない光なんて。
よろこび、ではない、シルヴィアがそばにいないときのよろこびなんて。
そばにいてくれる、と想像して、
一点のしみもなく美しいあの人の幻を見つめる、そんなときを除けば。
夜、シルヴィアがそばにいてくれるのでなければ、
ナイティンゲールが鳴いても、ぼくにその歌は聞こえない。
昼、シルヴィアを見つめていないときの
ぼくに、日のあかりはないのと同じ。
あの人こそぼくそのもの。ぼくは消える、
星のように美しいあの人の光のなか
抱かれ、照らされ、養われ、命を与えられないなら。

* * *
William Shakespeare
From Two Gentlemen of Verona, 3.1

What light is light, if Silvia be not seen?
What joy is joy, if Silvia be not by?
Unless it be to think that she is by
And feed upon the shadow of perfection
Except I be by Silvia in the night,
There is no music in the nightingale;
Unless I look on Silvia in the day,
There is no day for me to look upon;
She is my essence, and I leave to be,
If I be not by her fair influence
Foster'd, illumined, cherish'd, kept alive.

* * *
映画Shakespeare in Love (邦題 『恋におちたシェイクスピア』 )
のオーディションの場面でヒロインが使ったセリフ。

他の人たちはみなマーロウ 『フォースタス博士』 中の
「千の船を浮かべた顔」 の一節を使っていて。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://shakespeare.mit.edu/two_gentlemen/
two_gentlemen.3.1.html

* * *
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Shakespeare, from Macbeth 1.5

ウィリアム・シェイクスピア
『マクベス』 1幕5場より

マクベス夫人:
カラスがしゃがれた声で
鳴いてる、ダンカンが城に来たことを告げて・・・・・・
そう、死ぬためにね。さあ来て、人を人殺しにする
悪霊さんたち。あたしを女でなくして。
頭のてっぺんから足のつま先まで、残忍な血で
いっぱいに満たして! 最高に濃い、どっろどろの血で!
良心の通り道なんてふさいでしまって。
人の心がチクチクよみがえってきて、気持ちが揺らいでしまって、
この残忍な仕事ができなくなったら困るから。最後まで
ちゃんとやりたいから邪魔しないで! この胸に来て、
母乳を空っぽにして、かわりに苦い内臓液を入れて。ね、殺しの使者さんたち?
人には見えないけど、あなたたち、
誰かが道からはずれるときにはいつも来てるんでしょ? それから、夜の闇、
あなたも来て。真っ暗な地獄の煙であたりをつつんで。
あたしのナイフが自分で開いた傷跡を見ないように!
真っ暗な雲の毛布の隙間から天がのぞきこんで、
「待て! やめなさい!」 なんて叫んだりしても困るから!

* * *
マクベス:
ねえ、おまえ、ダンカンが今夜この城にやってくる。

マクベス夫人:
出発はいつ?

マクベス:
明日、とのことだ。

マクベス夫人:
あら残念、もうあの人は明日のお日さまになんて会えないわ!
ねえ、領主さま、顔に書いてあるわよ、
これからおかしなことをします、って。うまくだますには
みんなと同じ顔をしてなくちゃダメ。ちゃんと歓迎してあげて。表情と
しぐさと言葉で。悪いことなんて考えたことない花みたいな顔をするの。
そして心で蛇になるの。ね、あなたはあの人をきちんと
お迎えして。そして今晩の
大事な仕事はあたしにまかせて。
うまくいけばあたしたち、昼も夜も、これからずっと
最高の支配者になれるわ。

* * *
William Shakespeare
From Macbeth 1.5

LADY MACBETH
The raven himself is hoarse
That croaks the fatal entrance of Duncan
Under my battlements. Come, you spirits
That tend on mortal thoughts, unsex me here,
And fill me from the crown to the toe top-full
Of direst cruelty! make thick my blood;
Stop up the access and passage to remorse,
That no compunctious visitings of nature
Shake my fell purpose, nor keep peace between
The effect and it! Come to my woman's breasts,
And take my milk for gall, you murdering ministers,
Wherever in your sightless substances
You wait on nature's mischief! Come, thick night,
And pall thee in the dunnest smoke of hell,
That my keen knife see not the wound it makes,
Nor heaven peep through the blanket of the dark,
To cry 'Hold, hold!

* * *
MACBETH
My dearest love, Duncan comes here to-night.

LADY MACBETH
And when goes hence?

MACBETH
To-morrow, as he purposes.

LADY MACBETH
O, never
Shall sun that morrow see!
Your face, my thane, is as a book where men
May read strange matters. To beguile the time,
Look like the time; bear welcome in your eye,
Your hand, your tongue: look like the innocent flower,
But be the serpent under't. He that's coming
Must be provided for: and you shall put
This night's great business into my dispatch;
Which shall to all our nights and days to come
Give solely sovereign sway and masterdom.

* * *
英語テクストは次のページより。
http://shakespeare.mit.edu/macbeth/full.html

* * *
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Shakespeare, ("To be, or not to be: that is the question")

ウィリアム・シェイクスピア
『ハムレット』 3幕1場より
(「生きるか、死ぬか、問題はそこなんだ」)

(ハムレット)
生きるか、死ぬか、問題はそこなんだ。
気高い心の持ち主は耐えるべきだろうか?
わけのわからない運命が、石やら矢やらで攻めてきても?
それとも、波のように襲いかかる不幸に対して武器をとり、
戦いながら息絶えるべきか? 死とは眠り、
その程度のもの。眠りに落ちて、
心の痛みと、からだに襲いかかる多くの病の攻撃から
解放される--そんな生の終わりかたなら、
心から待ち遠しい。死とは眠り、
その程度。そして、もしかしたら夢を見る。そう、この夢ってのが問題なんだ。
死んで眠っているときに見る夢とは、どんなものだろう?
この人の世のゴタゴタをふりきった後に見る夢って?
ちょっと考えてしまう。だから、
つらい人生でもみんな長く生きるんだ、
世間からどれだけ鞭打たれ、あざけられようとも。
強い者に虐げられ、傲慢な者にバカにされ、
好きな人には相手にされず、法廷ではたらいまわしにされ、
役人に見下され、足蹴にされ、
そんなみじめな人たちでも、みんな辛抱強く、りっぱに生きている。
人生なんて、自分で簡単に清算できるのに。
短い剣か何かがあれば。誰が好き好んで重荷を背負う?
誰が好きで汗をかき、疲れはて、文句をいいながら生きる?
死の後に何かこわいことがあるのでなかったら?
誰も知らない、誰も行って帰ってきたことのない
ふしぎな国が広がっているのでなかったら? だから、ぼくたちは
この世の悪と不幸に我慢するんだ。
得体のしれないあの世の不幸に飛びこむのではなく。
こうして、考えれば考えるほど臆病になる。
こうして、最初は真っ赤に燃えていた熱い決意も、
青白い思考に病んで染まっていく。
偉大なる旅や冒険も、
こんなことを考えてるうちに変な方向に曲がっていって、
結局途中で立ち消えになってしまう。

* * *
William Shakespeare
From Hamlet 3.1
("To be, or not to be: that is the question")

(Hamlet)
To be, or not to be: that is the question:
Whether 'tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them? To die: to sleep;
No more; and by a sleep to say we end
The heart-ache and the thousand natural shocks
That flesh is heir to, 'tis a consummation
Devoutly to be wish'd. To die, to sleep;
To sleep: perchance to dream: ay, there's the rub;
For in that sleep of death what dreams may come
When we have shuffled off this mortal coil,
Must give us pause: there's the respect
That makes calamity of so long life;
For who would bear the whips and scorns of time,
The oppressor's wrong, the proud man's contumely,
The pangs of dispriz'd love, the law's delay,
The insolence of office and the spurns
That patient merit of the unworthy takes,
When he himself might his quietus make
With a bare bodkin? who would fardels bear,
To grunt and sweat under a weary life,
But that the dread of something after death,
The undiscover'd country from whose bourn
No traveller returns, puzzles the will
And makes us rather bear those ills we have
Than fly to others that we know not of?
Thus conscience does make cowards of us all;
And thus the native hue of resolution
Is sicklied o'er with the pale cast of thought,
And enterprises of great pitch and moment
With this regard their currents turn awry,
And lose the name of action.

* * *
英語テクストは次のページのもの。
http://shakespeare.mit.edu/hamlet/hamlet.3.1.html

* * *
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Shakespeare, ("Take, O, take those lips away")

ウィリアム・シェイクスピア (1564-1616)
(「もう見れない、ああ、あの人のくちびる、もう見たくない」)

もう見れない、ああ、あの人のくちびる、もう見たくない、
あんなにやさしく嘘をつくなんて。
あの人の目も見たくない、夜明けの
日の光のよう、朝さえ惑わすあの輝き。
わたしのキスを返して、とり戻して。
本当の恋をとじこめたはずだったのに、嘘だった、にせものだった。

* * *
William Shakespeare
("Take, O, take those lips away")

Take, O, take those lips away,
That so sweetly were forsworn;
And those eyes, the break of day,
Lights that do mislead the morn:
But my kisses bring again, bring again;
Seals of love, but sealed in vain, sealed in vain.

* * *
英語テクストはMITのMeasure for Measureより。
http://shakespeare.mit.edu/measure/full.html

* * *
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Shakespeare, from Romeo and Juliet

ウィリアム・シェイクスピア (1564-1616)
『ロミオとジュリエット』より

ロミオ
罪深いぼくの手で、神聖なおからだを
汚してしまったらごめんなさい。できるだけやさしくふれてますし、
もし傷つけてしまったなら、赤い顔した二人の巡礼……
のようなぼくの唇が、すぐにやさしいキスで治します。

ジュリエット
巡礼さま、ちょっと手に対していいすぎです。
あなたの手は、控えめながら立派にお勤めを果たしています。
聖人の手は巡礼がふれていいものですし、
手と手をあわせることは清らかなキスのようなものですし。

ロミオ
聖人さまは唇を使わないのですか? 巡礼も唇を使ってはいけませんか?

ジュリエット
もちろんいいですよ。お祈りには必要ですし。

ロミオ
では聖人さま、手がしていることを、唇でしてもいいですか?
祈りますから応えてください。でないと、信仰が絶望に変わってしまいます。

ジュリエット
わたしは動けませんが、祈りにはお応えします。

ロミオ
では、しばらくじっとしていてください。祈ってご利益をいただきます。[キスする]
これでぼくの唇から罪が消えました。あなたの唇によって。

ジュリエット
じゃ、その罪はわたしの唇に来たのね。うつっちゃった。

ロミオ
うつっちゃった、って、かわいすぎ! 悪に誘いすぎです!
その罪、やっぱり返してください! [キスする]

ジュリエット
うふ、キスしてるのに、なんだか、まじめなことしてるみたいだね。

乳母
お嬢さーん! お母さまがお話ですってよー!

*****
William Shakespeare
From The Tragedie of Romeo and Juliet

Rom.
If I prophane with my vnworthiest hand,
This holy shrine, the gentle sin is this,
My lips to blushing Pilgrims did ready stand,
To smooth that rough touch, with a tender kisse.

Jul.
Good Pilgrime, you do wrong your hand too much.
Which mannerly deuotion shewes in this,
For Saints haue hands, that Pilgrims hands do tuch,
And palme to palme, is holy Palmers kisse.

Rom.
Haue not Saints lips, and holy Palmers too?

Jul.
I Pilgrim, lips that they must vse in prayer.

Rom.
O then deare Saint, let lips do what hands do,
They pray (grant thou) least faith turne to dispaire.

Jul.
Saints do not moue, though grant for prayers sake.

Rom.
Then moue not while my prayers effect I take.
Thus from my lips, by thine my sin is purg'd.

Jul.
Then haue my lips the sin that they haue tooke.

Rom.
Sin from my lips? O trespasse sweetly vrg'd:
Giue me my sin againe.

Jul.
You kisse by'th' booke.

Nur.
Madam your Mother craues a word with you.

* * *
ロミオとジュリエットが交わす最初の対話で、
それがソネットになっている場面。Then moue not の
行まででソネットひとつ。

[T]his-kissの脚韻を二人でくり返しているところなど、
出会ったばかりなのに、すでに両想い的な関係に
あることを暗示。(このthis -kissのところで、
シェイクスピア式ソネットの脚韻パターン
ababcdcdefefggが崩れている。)

Thus from my lips の行から二つ目のソネットが
はじまっているが、おじゃま虫な乳母のせいで中断。

*****
(訳注)
(行数は、If I prophaneの行を1行目としてカウント。)

2 shrine
聖人の遺物など、神聖なものが収められて
いる箱など(OED 2a)。ジュリエットの聖なる
魂が入っているからだ、というニュアンス。
聖人像(OED 5b)。

2 gentle
ジュリエットの手をロミオがにぎる、その
にぎり方をあらわすことば。
[G]entle touch - tender kiss という対応関係。

(話の流れでroughともいわれているが。)

9-11
[T]oo, doの脚韻がポイント(doは行内でも
くり返されている)。/u:/ でキスを求める口の
かたちになる。

18 the booke
聖書(OED 5)。聖書にしたがって =
いいこと、りっぱなことをしているかのように。
(「ホントはちょっといけないことをしている
はずなのに、えへ」、みたいな。)

*****

いっていることはとても簡単。

ロミオ
手にぎっていい? 手にキスしていい?

ジュリエット
うん。

ロミオ
ね、唇にもキスしていい?

ジュリエット
えっと・・・・・・うん。

これを、巡礼と聖人像に関する比喩に発展させているが、
その比喩が上手とはいえないところが、この劇にとっては
大切と思われる。十代そこそこの男の子・女の子が、
詩として完璧に洗練された言葉を交わしたら、とても
不自然。

現代でいえば、十代の男女のアイドルがあまり上手とは
いえない演技をしていて、でもそれが初々しくていい感じ、
というのに近いのでは。

*****
英語テクストは、Shakespeare's First Folioより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/2270
改行、パンクチュエーション、スペリングなど、若干修正。

20180807 修正

*****
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Shakespeare, "Ariel's Song"

ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
「エアリエルの歌」
(「あなたの父は海のなか」)

あなたの父は海のなか、深さ30フィートものところ。
その骨はサンゴになり、
あの真珠は彼の目だった。
彼のからだは少しずつ消え、
すべての部分が海の力で変化する、
きれいで、そして不思議なものに。
海の妖精が、一時間ごとに弔いの鐘を鳴らす。
[妖精たちのコーラス]カラン、カラン
ほら、鐘がカラン、カランと鳴っている。

* * *

William Shakespeare
"Ariel's Song"
("Full fathom five thy Father lies")

Full fathom five thy Father lies,
Of his bones are Coral made:
Those are pearls that were his eyes,
Nothing of him that doth fade,
But doth suffer a Sea-change
Into something rich, and strange:
Sea-Nymphs hourly ring his knell.
[Burthen:] ding dong.
Harke now I heare them, ding-dong bell.

* * *

『あらし』(The Tempest)のサブ・プロットより。

(1)
アロンゾーAlonso(父)とファーディナンド
Ferdinand(子)らが乗っていた船を、孤島に住む
主人公の魔法使いプロスペローProsperoが難破させる。

(2)
アロンゾーと離ればなれになって、ひとりで
プロスペローの島にたどり着いたファーディナンドに対して、
妖精エアリエルArielがこの歌を歌う。
(プロスペローの命令で? )

(3)
本当はアロンゾーも生きていて・・・・・・。

* * *

以下、訳注と解釈例。

1 fathom
水深の単位。両腕を広げたときの、指先から指先までの
長さ。1 fathom = 6 feet = 1.8288m

2
構文は、Coral are made Of his bones
のはず。 Beは、原文で直前のbonesに引っぱられて
areになっているのかと。また、集合体という意識もあって?

サンゴ

http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Coral_fiji_moturiki.jpg

4 fade
しだいに消える(OED 6a)。今では、何かがゆっくり
消えるようすを映像で見せることができるが、もちろん
16-17世紀にそんな技術はなかった。が、OEDの
この箇所の用例を見ると、文学的に、言葉のなかで、
そんなようすが描かれていたことがわかる。(スペンサーの
『妖精の女王』、シェイクスピアの『あらし』からの例文がある。)

5 suffer
(特に変化などの)作用を受ける、過程を経る
(OED 8; この箇所が用例としてあげれらている)。

6 rich
価値のある、高価な(OED 4a)。
きらびやかな(ドレスなど)(OED 5a)。

8 Burden
歌の最後にくり返されるフレーズ、サビ(OED 10)。
ここでは、舞台裏から妖精たちが歌う、という演出。

9 ding-dong
動詞として解釈。コンマをとって、I hear them
[= Sea-Nymphs] ding-dong bell
(海の妖精たち鐘をカラン、カランと鳴らすのが聞こえる)
という構文にして。

Hear + (名詞) + (動詞原形)
(名詞)が(動詞)するのが聞こえる、
という(高校?)受験英語のパターン。

近年の版では、この最後のding-dong bellも、
舞台裏で妖精たちが歌うものとされている。
(手元にあるのは、1999年のArden版。)
こちらで訳せば、次のような感じに。

(エアリエル)
ほら、聞こえるよ。

(舞台裏の妖精たち)
カラン、カラン、と鐘の音。

* * *

以下、リズムについて。



基調はストレス・ミーター(四拍子)。

シェイクスピアの詩の作り方は自由(自然な会話に
近い)といわれるが、この歌も、語のストレス
(ふつうの発音で強く/大きく/長くなるところ)と
ビート(歌のなかで拍子がのるところ)が重ならない
ところが目立つ。

ストレスの位置や各行の音節数から、散文ではなく
歌的、というところまでは明らかに感じられるが、
どんなリズムの歌なのか、というところは明確でなく、
いろいろな解釈でいろいろな曲にすることが可能。

たとえば、2, 4, 6行目の7音節は、四つのビートに
のせることも、三つのビートにのせて一拍休む
(言葉なしにする)こともできる。

(3, 5行目も3+1にしようと思えばできる。
行のはじめのThoseとButのビートを落とせば。)

対照的なのが、バイロンの「オーガスタ」(20110211)。
こちらは、ストレスとビートが基本的に一致していて、
詩がはじめから特定のリズムを要求するタイプ。

(この特定の、タンゴ的なリズムがまずバイロンの頭に
あって、それを詩のなかで、言葉だけで伝えたいので、
ストレスをビートにきちんと重ねた、ということ。)

* * *

このような対照は、日本語でいえば、七五調の詩と
そうでないものの関係に近いのでは。

七五調の文章は、歌(メロディとリズム)なしで
ふつうに読んでも、明確なリズムを感じさせるが、
七五調でない文章は、歌にのせようと思えばのせられるし、
のせなければ、ふつうの散文や会話文。

七五調の歌:
昔々、浦島は、
助けた亀に連れられて、
竜宮城に来てみれば……

七五調でない歌:
何ひとつ確かなものなどないと叫ぶ
足りないものがあるそれが俺の心
満たされないものがあるそれが人の心……

バイロン「オーガスタ」は上のタイプで、
シェイクスピアの「エアリアル」は下。
時代、雰囲気など、もちろん、いろいろ違う
ということは、差し引いて。

(この下の曲、ビートを無視した、かなり散文的な
歌詞ののせ方をしていますが、意外と歌詞自体は
七五調を基調としているようで、少し驚きました。
先入観なしで見てもらえれば、と思いますので、
あえて作者、タイトルは記しません。Oさんです。)

* * *

「エアリエル」の歌のように自由で散文的な
詩は、17世紀末から18世紀にかけての詩論では、
「詩」と認められていませんでした。

(シェイクスピアやミルトンなどの自由なスタイルは、
彼らは天才だから別、とか、いや、あれは実は散文、
などとかたづけられたりして。)

……というようなことが書かれた次の本を、
今(さら)読んで、イギリス詩の歴史を学んでいます。

P. Fussell. Theory of Prosody in Eighteenth-Century England.
(1966).

これはおすすめ、本当に必読です。誰か訳すべき。

(以前から紹介していたものとあわせ、いつになるか
わかりませんが、また後日、おすすめ本/論文のリストを
まとめたいと考えています。)

* * *

英文テクストは、ヴァージニア大学のサイトにある
フォリオ版を、現代英語にしたもの。
http://etext.lib.virginia.edu/etcbin/toccer-new2?
id=ShaTemF.sgm&images=images/modeng&data=/texts/
english/modeng/parsed&tag=public&part=1&division=div1

* * *

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Shakespeare, ("Under the greenwood tree")

ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
(緑にしげる森のなか)

緑にしげる森のなか、
わたしと隠れて暮らしたい人、
楽しい歌を
きれいな声の鳥にあわせて歌いたい人、
来て、来て、ここに来て、
ここにはいない、
敵なんて、
冬と、悪い天気以外には。

いけない野心を捨てて、
おひさまの下で、堂々と暮らしたい人、
必要な食べもののみを求め、
手に入るだけのもので満足な人、
来て、来て、ここに来て、
ここにはいない、
敵なんて、
冬と、悪い天気以外には。

* * *

William Shakespeare
("Under the greenwood tree")

Under the greenwood tree
Who loves to lie with me,
And turn his merry note
Unto the sweet bird's throat,
Come hither, come hither, come hither.
Here shall he see
No enemy
But winter and rough weather.

Who doth ambition shun,
And loves to live i' th' sun,
Seeking the food he eats,
And pleas'd with what he gets,
Come hither, come hither, come hither.
Here shall he see
No enemy
But winter and rough weather.

* * *

As You Like Itのなかで、弟によって領地を
追われて森に来た公爵とともいる貴族アミアンズ
Amiensが歌う歌。

* * *

1 greenwood
葉の茂った森。犯罪者、追放された者の住みか、
というニュアンス(OED 1)。劇のなかで公爵たちが
おかれている立場を暗示。

2 Who
先行詞入りの関係代名詞。・・・・・・であるような人。
= Any one that, whoever (OED 6)。

このWho. . . . に対して、Come hither(5行目)と
呼びかけている。(第二スタンザも同じ。9行目の
Who. . . .に対してCome hither.)

2 lie
隠れた状態でいる(OED 4a)。(一時的に)住む、
滞在する、夜を過ごす(OED 5)。もちろん、
横になる、(ベッドなどで)寝る、という意味も。
(Lie with . . . = ・・・・・・とエッチする--
次の注を参照。)

3-4
ここで鳥の歌の話になるから、1-2行目が、
本来の「お尋ね者」的な雰囲気から、「森のなかの
恋人たち」的な感じに見えてくる。2行目のlieも、
「身をひそめる」という意味から「寝る」に移行。

結果として、第一スタンザは、女性視点の
ラヴ・ソングに見えるようになっている。

3-4
ここのturnは、変える(OED 37a)、noteは歌や
メロディ(OED "Note" n2, 3a)、throatは声(OED 3b)。
「自分の楽しげなメロディを[きれいで、さらに
楽しげな]鳥の歌に変える」というのが直訳。

(追記・修正 20121002)
turn: 美しくつくる(OED 5b)。
note: 歌。
unto: ・・・・・・にあわせて(OED V-VI)。

7 enemy
1-2行目にあるように、本来、森に身をひそめる
公爵たちの歌なので、「敵」(公爵の弟たち)の
話が出てくる。

9 ambition
地位上昇などに対する強すぎる野心(OED 1)。非合法的な
手段による王位簒奪とか、そういうニュアンス。弟に地位を
奪われて森に来た公爵たちの立場を暗示。

10 i' th' sun
= in the sun. やましいところや不安がない状態で、
ということ(OED "Sun" 4b)。犯罪者などが隠れるような
森のなかで、「おひさまのもとで、堂々と・・・・・・」と歌う、
という、ちょっとした皮肉。(自虐的に)。

11-12
どちらも分詞構文。Seekingもpleas'd (= pleased)も
9行目のWhoの状態を補足説明。

* * *

リズムについて。


ビートのみチェック。


音節の強弱も重ねてチェック。
(日をあけてスキャンジョンをつくったので、
上下で微妙に異なっている。)

基調はストレス・ミーター(四拍子)。
これは、劇のなかの歌なので当然のこと。

Bのところで手拍子などしながら声に出して読むと、
この歌の雰囲気がわかる。

細かいことだが、工夫してあるのは--

1
ビートが最初の音節に来る1行目と4行目で、
ビートが二番目の音節に来る2-3行目をはさんでいること。
(このスタンザだけ。)

2
上のスキャンジョンにあるように、リズムの点では
もともと一行であるはずの6-7行目を二行にわけて、
歌に変化を加えていること。(二行にわけても
ちゃんとseeとenemyで脚韻をつくっていて。)
リズムの点でも、ここは他の行と雰囲気が違う。

3
Come hitherのくり返しのところ、鳥の鳴き声を
まねしている? (「ころっこひーよー」みたいな
鳥の声と、リズムや音感が重なる。)この直前で、
自分の歌を鳥の歌に変える、といっているので。

* * *

ひびきあう母音/子音(脚韻はのぞく)。

loves - lie
hither - Here - he
he - see
winter - weather

ambition - shun
loves - live
Seeking - eats - pleas'd

* * *

英文テクストは、Shakespeare, As You Like Itより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1121

* * *

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