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Dante Alighieri (tr. D. G. Rossetti), "Of Beatrice de' Portinari"

ダンテ・アリギエーリ
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ訳
「ベアトリーチェ・デ・ポルティナーリ、諸聖人の日に」

つい先日、諸聖人の祝日に、
若い女の人が集まっていた。
先頭の人がいちばんきれいで、
お供として愛の神がそばにいた。
じっと見つめる目は炎を発していて、
その火のなか魂が生きて宿っていた。
目が離せなかったぼくは思った、
疑わなかった、今、天使を見ている、と。
歩きながらその人は軽くおじぎをして、
偉い人たちにあいさつしていた。
魂を清め、気高い思いを分け与えていた。

そう、あれはまさに天国から来た人。
ぼくたちのために、ここ地上にいてくれる人。
あの人に会えたら、ここが天国になる……

*****
Dante Alighieri
Tr. Dante Gabriel Rossetti
"Of Beatrice de' Portinari, on All Saints' Day"

Last All Saints' holy-day, even now gone by,
I met a gathering of damozels:
She that came first, as one doth who excels,
Had Love with her, bearing her company:
A flame burned forward through her steadfast eye,
As when in living fire a spirit dwells:
So, gazing with the boldness which prevails
O'er doubt, I knew an angel visibly.
As she passed on, she bowed her mild approof
And salutation to all men of worth,
Lifting the soul to solemn thoughts aloof.
In Heaven itself that lady had her birth,
I think, and is with us for our behoof:
Blessed are they who meet her on the earth.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1886.1sted.vol2.rad.html

*****
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Rossetti, DG, "Aspecta Medusa"

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「メドゥーサヲ見ル」

ペルセウスに救われ、彼と結婚したアンドロメダは、
毎日毎日メドゥーサの頭を見たがった。だから
しかたなく彼は泉にそれをかざし、彼女をかがませて、
波のなかに見せた、
死んで生きつづける頭を。

目に映してはいけない、
直接、禁じられたものを。見たら来る、
同時に、幸せと死が。だから見るのは
その影だけにしておいて。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"Aspecta Medusa"

Andromeda, by Perseus saved and wed,
Hankered each day to see the Gorgon's head:
Till o'er a fount he held it, bade her lean,
And mirrored in the wave was safely seen
That death she lived by.

Let not thine eyes know
Any forbidden thing itself, although
It once should save as well as kill: but be
Its shadow upon life enough for thee.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1881.1stedn.rad.html

*****
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Rossetti, DG, "The Love-Moon", The House of Life (1870) 17

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「愛の月」
『命の宮』(1870) 17

「死んだあの人は君と一心同体だったはず。でも、もうあの人の顔は
年月の森のはるかかなたに消えてしまって、
思い出が波のように打ちよせることもなく、
涙の飛沫(しぶき)がもう心にふりかかることもない。
でも、今好きな人を君が見つめるとき、
不思議な愛の媚薬の力で、
その人の両目のなかに、
過去に埋もれた愛の誓いが見えたりしないかい?」

「違います! やさしい愛の神さま、愛のやさしさの神さま、確かに
ぼくはこの二人に愛を告げました。
あなたの鐘の二種類の音に導かれたからです。
でも先生、死んでも、結ばれて絶頂まで昇りつめても、
魂になるのは同じですから、重なって見える二人の女性の目は
満ち欠けする愛の月のようなものではありませんか?
この月がぼくの魂を照らし、真の愛に導いてくれるのです。」

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Love-Moon"
The House of Life (1870) 17

'When that dead face, bowered in the furthest years,
Which once was all the life years held for thee,
Can now scarce bid the tides of memory
Cast on thy soul a little spray of tears,―
How canst thou gaze into these eyes of hers
Whom now thy heart delights in, and not see
Within each orb Love's philtred euphrasy
Make them of buried troth remembrancers?'

'Nay, pitiful Love, nay, loving Pity! Well
Thou knowest that in these twain I have confess'd
Two very voices of thy summoning bell.
Nay, Master, shall not Death make manifest
In these the culminant changes which approve
The love-moon that must light my soul to Love?'

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html
最後の行は日本語訳では二行。

*****
心変わりを正当化する屁理屈と見るか、
人を求める感情の本質と見るか。

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Rossetti, DG, "The Life-in-Love", The House of Life (1870) 16

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「愛に生きる」
『命の宮』(1870) 16

君の命は君のからだのなかにない。
むしろあの人のくちびると手と目のなかにある。
あの人のくちびると手と目が君の命の源。
それがなければ、君は悲しみの下僕で死の奴隷。
あの人がいなかった頃の君を思い出してごらん。
君は、無残な記憶と哀れな妄想のかたまりだった。
死人のようなため息だけが生の証だった。
消え去った時間、あのときのことを嘆きつつ。

同じくらいの命が、この髪のひと房にも宿っている。
この大切な髪は、愛が手にした唯一の報酬、
遠い昔、胸の鼓動と熱い炎を払って手に入れたもの。
まさにそんな命の分だけ、誰も知らない苦しみがある。
いつも変わらぬ夜につつまれて心が移る、
死んでも輝きつづける黄金の髪を見つめつつ。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Life-in-Love"
The House of Life (1870) 16

Not in thy body is thy life at all
But in this lady's lips and hands and eyes;
Through these she yields thee life that vivifies
What else were sorrow's servant and death's thrall.
Look on thyself without her, and recall
The waste remembrance and forlorn surmise
That lived but in a dead-drawn breath of sighs
O'er vanished hours and hours eventual.

Even so much life hath the poor tress of hair
Which, stored apart, is all love hath to show
For heart-beats and for fire-heats long ago;
Even so much life endures unknown, even where,
'Mid change the changeless night environeth,
Lies all that golden hair undimmed in death.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

*****
前半の八行、誰が誰?
基本線は「君」=自分=ロセッティだが、
死んだ妻リジーや愛人ジェーン・モリスに
おきかえても読めるようになっている。

後半の六行の髪は、死んだ妻リジーのもの。

*****
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Rossetti, DG, "Winged Hours", The House of Life (1870) 15

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「時は羽ばたいて」
『命の宮』(1870) 15

ぼくたちが会うまでの毎時間はまるで鳥のよう。
遠くからゆっくり羽ばたいてきて、
ぼくの魂の隠れる茂みを震わせる。その歌はどんどん
大きく響く。どんどん深く揺れる木の葉の音とともに。
ぼくたちが会うとき、〈時〉は
愛の国の言葉ではっきり歌う。
でも、よくあること、その甘いメロディは誰にも聞こえない。
争うようにぼくらがキスする音にまぎれ、かき消されて。

やがてどうなるのだろう? 〈時〉が
羽ばたいてきてくれなくなって、歌が響かなくなったら?
命の葉を失ってさまようぼくが、
茨(いばら)の茂みに散った血まみれの羽を見つけたりしたら?
そしてあの人も、遠いところから、ぼくと同じ色の目で、
歌わない木々のあいだから羽の舞わない空を見ていたりしたら?

*****
Dante Gabriel Rossetti
"Winged Hours"
The House of Life (1870) 15

Each hour until we meet is as a bird
That wings from far his gradual way along
The rustling covert of my soul,―his song
Still loudlier trilled through leaves more deeply stirr'd:
But at the hour of meeting, a clear word
Is every note he sings, in Love's own tongue;
Yet, Love, thou know'st the sweet strain suffers wrong,
Through our contending kisses oft unheard.

What of that hour at last, when for her sake
No wing may fly to me nor song may flow;
When, wandering round my life unleaved, I know
The bloodied feathers scattered in the brake,
And think how she, far from me, with like eyes
Sees through the untuneful bough the wingless skies?

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

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Rossetti, DG, "The Loves' Walk", The House of Life (1881) 12

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「恋人たちの散歩道」
『命の宮』(1881) 12

抱きあうようにからみあうきれいな花たち。
六月、風のない日。手はかたく手のなかに……
静かな森の小道。向かいあう顔と顔……
行李柳(こりやなぎ)の香る川の胸の奥に
空がうつる。鏡のように瞳が瞳にうつる……
時とともに色とかたちを変える、不思議な夏の国の
光と雲。ふたりの魂は虹のように広がってゆく、
ほほえみとせつないため息のあふれる空に……

ふたりは歩く、愛しげに
美しくからだを寄せあいながら……
ふたりの熱い心もいっしょになって、
絶対に裏切らない〈愛〉の神の胸に安らぐ。
白雲の泡立つ空の青も、
波のない水平線の青にそって静かに横になる。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Loves' Walk"
The House of Life (1881) 12

Sweet twining hedgeflowers wind-stirred in no wise
On this June day; and hand that clings in hand:---
Still glades; and meeting faces scarcely fann'd:---
An osier-odoured stream that draws the skies
Deep to its heart; and mirrored eyes in eyes:---
Fresh hourly wonder o'er the Summer land
Of light and cloud; and two souls softly spann'd
With one o'erarching heaven of smiles and sighs:---

Even such their path, whose bodies lean unto
Each other's visible sweetness amorously,---
Whose passionate hearts lean by Love's high decree
Together on his heart for ever true,
As the cloud-foaming firmamental blue
Rest on the blue line of a foamless sea.

http://www.rossettiarchive.org/docs/2-1881.1stedn.rad.html#A.R.12

*****
自然と人間が対応している、というワーズワース的な話。

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Rossetti, "The Love-Letter", The House of Life (1870) 10

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「ラヴレター」
『命の宮』(1870) 10

あの人が手であたため、髪で覆い、
胸に抱き寄せ、心を注いだこの手紙。
熱いあの人の鼓動が、白地に流れる黒い川、
滑らかで美しい文字から聞こえてくる。
はためく手紙、あの人の息をまだ受けているかのよう。
さあ、聞こえない歌を歌って。そして聞かせて、
あの人のくちびると目と魂がひとつになって
〈愛〉の神といっしょに歌うメロディを。

見たかった、愛しい想いに駆られ、
あの人がこの手紙を胸に強く抱きしめるのを。
秘密の気持ちがあの人の胸に立ちあらわれた瞬間を。
本当に見たかった、あの人がふと目を上げたときに魂が胸から飛び出し、
ぼくの魂に向かうのを。魂と魂が交りあった瞬間に
言葉が生まれ、こんな美しく愛しい手紙になったはずだから。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Love-Letter"
The House of Life (1870) 10

Warmed by her hand and shadowed by her hair
As close she leaned and poured her heart through thee,
Whereof the articulate throbs accompany
The smooth black stream that makes thy whiteness fair,---
Sweet fluttering sheet, even of her breath aware,---
Oh let thy silent song disclose to me
That soul wherewith her lips and eyes agree
Like married music in Love's answering air.

Fain had I watched her when, at some fond thought,
Her bosom to the writing closelier press'd,
And her breast's secrets peered into her breast;
When, through eyes raised an instant, her soul sought
My soul, and from the sudden confluence caught
The words that made her love the loveliest.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

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Rossetti, DG, "The Potrait", The House of Life (1870) 9

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「肖像画」
『命の宮』(1870) 9

心の通いあう支配をつかさどる者、
〈愛〉よ! ぼくの愛しい人の絵に、
あの愛しい名を称えるためにぼくが描いた絵に、光を。
あの人の完璧な心まで、
あの人の真の美しさまで、目に見えるように。
優しいまなざしが投げかけるあの光だけでなく、
寄せては返すあのほほえみの波だけでなく、
空のような、海のような、あの人の魂まで見る人に伝わるように。

できた! 完成! なめらかに長い首、その上の
口を見れば、声が、キスの音が、聞こえる。
伏せられた目は、過去を、未来を、見ている。
この顔はまさに神殿、そしてそこに宿るあの人の魂。
みな知るがいい。これからずっと、(〈愛〉よ、ありがとう!)
ぼくの許可がなければ誰もこの神殿には近づけない。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Potrait"
The House of Life (1870) 9

O Lord of all compassionate control,
O Love! let this my lady's picture glow
Under my hand to praise her name, and show
Even of her inner self the perfect whole:
That he who seeks her beauty's furthest goal,
Beyond the light that the sweet glances throw
And refluent wave of the sweet smile, may know
The very sky and sea-line of her soul.

Lo! it is done. Above the long lithe throat
The mouth's mould testifies of voice and kiss,
The shadowed eyes remember and foresee.
Her face is made her shrine. Let all men note
That in all years (O Love, thy gift is this!)
They that would look on her must come to me.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

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Rossetti, DG, "Passion and Worship", The House of Life (1870) 8

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「情熱と崇拝」
『命の宮』(1870) 8

炎の羽の者が白い羽のハープ奏者をつれて、
あの人とぼくがふたりきり、休んでいるところにきた。
そしていった。「この者は場違いですから
追い出してください。ここで歌うのはわたしだけで十分です。
〈愛〉の神に愛された方々にふさわしいのはわたしの歌です」。
わたしはいった。「たしかに君のオーボエはきれいだ。威圧的なまでに
美しい。でもそのうしろで彼のハープも切なく歌っている。
ぼくの愛しい人はその深くて透明な音が好きなんだ」。

彼女もいった。「あなたは〈情熱〉で、この方は〈崇拝〉ね。
〈愛〉のなか、あなたがたふたり、本当は織りあわさっているはず。
あなたの歌はまるで支配者、太陽に照らされた海に響きわたる。
そして、森のなか、色のない湖の水が震えるとき、
色のない月の光しか明かりがないとき、
彼のハープがわたしの気持ちを歌ってくれる」。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"Passion and Worship"
The House of Life (1870) 8

One flame-winged brought a white-winged harp-player
Even where my lady and I lay all alone;
Saying: ‘Behold, this minstrel is unknown;
Bid him depart, for I am minstrel here:
Only my strains are to Love's dear ones dear.’
Then said I: ‘Through thine hautboy's rapturous tone
Unto my lady still this harp makes moan,
And still she deems the cadence deep and clear.’

Then said my lady: ‘Thou art Passion of Love,
And this Love's Worship: both he plights to me.
Thy mastering music walks the sunlit sea:
But where wan water trembles in the grove
And the wan moon is all the light thereof,
This harp still makes my name its voluntary.’

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

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Rossetti, DG, "Bridal Birth", The House of Life (1870) 1

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「結婚=誕生」
(『命の宮』2)

ずっと闇のなかにあった欲望が太陽のようにあらわれる、
はじめて母が自分の子を見る、
そんなときのように、あの人は呆然と見つめ、そしてほほえむ、
魂のなかに〈愛〉が宿ったことを知ったから。
みずからの分身として、突き刺す渇きと
激しく美しい飢えから生まれた〈愛〉が、今、あの人の心のなか、
暗がりのなか、脈打っている。彼を縛る鎖が、今、
誰かの大きな声により断ち切られる……

今、その〈愛〉の翼におおわれ、ぼくらふたりは見つめあって
求めあう。大きくなった〈愛〉が森の花を集め、
ぼくらにベッドを用意してくれている。
彼の歌を聴きながら、今度はぼくらの魂がからだから抜け出し、
彼の子に生まれ変わる。ぼくらは結ばれて息絶え、天国に向かう、
〈愛〉の頭の光輪に導かれて。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"Bridal Birth"
The House of Life (1870) 1

As when desire, long darkling, dawns, and first
The mother looks upon the newborn child,
Even so my Lady stood at gaze and smiled
When her soul knew at length the Love it nursed.
Born with her life, creature of poignant thirst
And exquisite hunger, at her heart Love lay
Quickening in darkness, till a voice that day
Cried on him, and the bonds of birth were burst.

Now, shielded in his wings, our faces yearn
Together, as his fullgrown feet now range
The grove, and his warm hands our couch prepare:
Till to his song our bodiless souls in turn
Be born his children, when Death's nuptial change
Leaves us for light the halo of his hair.

www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

*****
魂と肉体という、恋愛におけるふたつの側面の
複雑で微妙なからみあいを言葉で表現する試み。

たとえば、最後のDeathとは、性的絶頂(肉体の幸せ)
であると同時に、魂による肉体の放棄(魂にとっての幸せ)。
ダブル・ミーニングであると同時に、
一語のなかでオキシモロン。

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Rossetti, ("A Sonnet is a moment's monument")

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
(「ソネットはある一瞬の記念碑」)

ソネットはある一瞬の記念碑。
魂の世界、永遠の世界からの贈りもので、
死んだ、でも死んでいない一瞬を記憶する。それは
浄化の儀式、あるいは運命の予言で、
聖なる、ありえない、未来を語る。
象牙に刻めば〈日〉に支配され、
黒檀に刻めば〈夜〉に支配される。いつか、やがて
夜明け色、真珠の色の花冠に輝く。

ソネットは硬貨のようなもの。表にあるのは
魂。裏には、それが仕える神の顔。
そして、わかるはず--それが、神聖な〈生〉の力への
捧げものか、気高き〈愛〉への
預金か、それとも、あの世に向かう暗い波止場、靄(もや)に
つつまれたあの岸で、カロンに渡す〈死〉の切符なのか。

*****
Dante Gabriel Rossetti
("A Sonnet is a moment's monument")

A Sonnet is a moment's monument,---
Memorial from the Soul's eternity
To one dead deathless hour. Look that it be,
Whether for lustral rite or dire portent,
Of its own arduous fulness reverent:
Carve it in ivory or in ebony,
As Day or Night may rule; and let Time see
Its flowering crest impearled and orient.

A Sonnet is a coin: its face reveals
The soul,---its converse, to what Power 'tis due:---
Whether for tribute to the august appeals
Of Life, or dower in Love's high retinue,
It serve; or,'mid the dark wharf's cavernous breath,
In Charon's palm it pay the toll to Death.

http://www.rossettiarchive.org/docs/2-1881.1stedn.rad.html#p161

*****
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Rossetti, DG, "The Kiss", The House of Life (1870) 4

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「くちづけ」
『命の宮』(1870) 4

病と死に首絞められ、だんだん感覚が奪われていく、そのときでも、
あるいは運命のいじわるで突然の死に襲われても、
今このからだが手にしている栄誉は手放さない。この魂を
今つつんでいる婚礼の衣装を脱いだりはしない。
ほら、今、愛しいあのひとのくちびるが
ぼくのくちびると戯れ、すてきなメロディを奏でてる。
あの最後の日、エウリュディケが冥界に引きずられていったあの日に、
オルペウスが奏でたかったメロディを。

あのひととふれあったとき、ぼくはこどもだった。胸と胸をあわせ
あのひとと抱きしめあって、ぼくはおとなの男になった。
すべてをあのひとの魂の前にさらけ出し、ぼくも魂になった。
そして神になった、ふたりの命の息が出会い、
命の血を煽り、競いあうかのように愛の熱が流れ出したとき。
炎のなかの炎のように、神の欲望のように。

*****
Dante Gabriel Rossetti
"The Kiss"
The House of Life (1870) 4

What smouldering senses in death's sick delay
Or seizure of malign vicissitude
Can rob this body of honour, or denude
This soul of wedding-raiment worn to-day?
For lo! even now my lady's lips did play
With these my lips such consonant interlude
As laurelled Orpheus longed for when he wooed
The half-drawn hungering face with that last lay.

I was a child beneath her touch,--a man
When breast to breast we clung, even I and she,--
A spirit when her spirit looked through me,--
A god when all our life-breath met to fan
Our life-blood, till love's emulous ardours ran,
Fire within fire, desire in deity.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

*****
「神の欲望」などということを書くから
ある種の人々を敵にまわすことになる。

しかも頭韻つきで強調的に(desire in deity)。
さらに脚韻で自分たちと結びつけて(she-me-deity)。

*****
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Rossetti, DG, "Death-in-Love", The House of Life (1870) 23

ダンテ・ゲイブルエル・ロセッティ
「〈愛〉と〈死〉」
『命の宮』(1870) 23

〈命〉の従者のなかに
〈愛〉の翼と旗をもつ者がいた。
きれいな旗で、そこに美しく織られていたのは
魂を没収された色の顔。……そう! 君の顔だった!
春に思い出す不思議な音、不安な音が
そのひだから震えて聞こえた。自分でもわからない何かが
ぼくの心をかけめぐった。記憶から消えたあの記憶が--
人の生まれる暗い門がうめき、すべてが変わってしまった
あの時の記憶が。

ヴェールにつつまれた女がその後ろを歩いていた。この女は
前行く者の旗を巻きあげてかたく留め、そして
彼の翼から羽を一枚抜いて
彼のくちびるに近づけた。羽はまったく動かなかった。
女はぼくにいった。「ほら、息をしていないわ。
あたしとこの〈愛〉はふたりでひとり……あたしは〈死〉なの」。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"Death-in-Love"
The House of Life (1870) 23

There came an image in Life's retinue
That had Love's wings and bore his gonfalon:
Fair was the web, and nobly wrought thereon,
O soul-sequestered face, thy form and hue!
Bewildering sounds, such as Spring wakens to,
Shook in its folds; and through my heart its power
Sped trackless as the immemorable hour
When birth's dark portal groaned and all was new.

But a veiled woman followed, and she caught
The banner round its staff, to furl and cling,―
Then plucked a feather from the bearer's wing,
And held it to his lips that stirred it not,
And said to me, ‘Behold, there is no breath:
I and this Love are one, and I am Death.’

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

* * *
流産の歌……。

やはり絵ではなく詩において、
ロセッティの表現力は生きている--
彼の見ていた世界が見える気がする。

* * *
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Rossetti, DG, "Nuptial Sleep", The House of Life (1870) 5

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「初夜の眠り」
『命の宮』(1870) 5

長いキスを終え、ふたりは離れた。甘い痛みを感じつつ。
嵐が去って空が澄みわたるなか、屋根の水はゆっくり
雫(しずく)になって、そして急に落ちる--そのように、
離れ離れになったふたりの心臓の鼓動は静まり、遅くなっていった。
ふたりの胸も離れた。結婚していっしょに
咲いていた花が、ひとつの茎から引き裂かれて
バラバラになるかのような思いだった。まだ赤く燃えていた
ふたりの唇は、離れても、まだキスをつづけていた。

眠りがふたりを夢の波よりも深いところに沈めた。
夢が見守るなか、ふたりは沈み、流れて消えた。
やがて、ゆっくりふたりの魂は泳いで浮かびあがってくる。
水のなかの光、力なく溺れた旗のような、淡い日の光のなかを。
新しい森、新しい川を見たかのような不思議な気分で
彼は目覚めた。そしてもっと不思議な気がした。隣に彼女が寝ていたから。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"Nuptial Sleep"
The House of Life (1870) 5

At length their long kiss severed, with sweet smart:
And as the last slow sudden drops are shed
From sparkling eaves when all the storm has fled,
So singly flagged the pulses of each heart.
Their bosoms sundered, with the opening start
Of married flowers to either side outspread
From the knit stem; yet still their mouths, burnt red,
Fawned on each other where they lay apart.

Sleep sank them lower than the tide of dreams,
And their dreams watched them sink, and slid away.
Slowly their souls swam up again, through gleams
Of watered light and dull drowned waifs of day;
Till from some wonder of new woods and streams
He woke, and wondered more: for there she lay.

http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html#p193

* * *
詩集「命の宮」のなかで、もっとも幸せな場面を描いている作品。
ポイントは、脈、離れるからだ、眠り、それぞれのたとえかたと、
結ばれたあとの新しい、不思議な感覚の表現。

同時に、「肉欲派」との批判を招くなど、ロセッティにダメージを
与えた作品。

ロセッティ曰く、「夫婦のあいだであれば性的描写も問題ない」。

批判者曰く、「夫婦であっても、わざわざ道の真ん中にベッドを
もっていかなくていい」= 合法的な関係であれ、性的なことを
描いて人に読ませる必要はない。

思うに、不正確なものや有害と思われるものが多少なり
広まっているなか、およそ正確で穏便な描写も若干は必要なはず。
性的なことについて、良識的な人はふつう口を開かないもの
ではあるが。(社会・政治に関する、特にウェブ上の諸議論と
同じ構造。)

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
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Rossetti, DG, "A Superscription", ver. 2, The House of Life (1870) 46

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
「エピグラム」
『命の宮』(1870) 46

あたしの顔をじっと見て。
あたしの名前は〈……だったらよかったのに〉。
〈もうだめね〉、〈おそすぎよ〉、〈さよなら〉、のほうがいいかしら。
あなたの耳もとに死の海の貝殻をあててあげる。
波の泡に侵食されてとけてくあなたの両脚のあいだに落ちていた貝殻を。
あなたの目の前に鏡を掲げてあげる。そこに映るのは、
いのちや愛があった頃のあなた。でも、あたしの魔法で、
あなた、今はもう、ただの震える影になっちゃってる。
自分の存在に耐えられない、そんな影にね。
今のあなたは、いちばんいいたかったのにいえなかったことを隠す
スクリーンみたい。そして、今にも破れそう。

そう、あたし、動けないわ。でも、
あなたの魂のなか、〈やすらぎ〉が羽ばたいてそっと通りぬけて、
ため息がふと静まる、そんなとき、
あたし、あなたにほほえむの。あなた、顔を
そむけるでしょうね。でも、あたし、あなたの心のなかで待ちぶせしてる。
あたしは眠らない。あたしたちふたりの記憶を呼びさます冷たい目をして、
いつもおきてるわ。

* * *
Dante Gabriel Rossetti
"A Superscription"
The House of Life (1870) 46

Look in my face; my name is Might-have-been;
I am also called No-more, Too-late, Farewell;
Unto thine ear I hold the dead-sea shell
Cast up thy Life's foam-fretted feet between;
Unto thine eyes the glass where that is seen
Which had Life's form and Love's, but by my spell
Is now a shaken shadow intolerable,
Of ultimate things unuttered the frail screen.

Mark me, how still I am! But should there dart
One moment through thy soul the soft surprise
Of that winged Peace which lulls the breath of sighs,―
Then shalt thou see me smile, and turn apart
Thy visage to mine ambush at thy heart
Sleepless with cold commemorative eyes.

* * *
Superscription = epi (upon) + gram (write)

もとは記念物や奉納品、墓碑の上に刻まれた銘文、短い解説文のこと。
短い、気のきいた詩文のジャンルとしての「エピグラム」はここから派生。

この詩の場合、〈……だったらよかったのに〉などという名の、
擬人化された彫像、あるいは絵があって、それが見る者(「あなた」)
に語る言葉がその上(あるいは下)に記されている、という設定。

この〈……だったらよかったのに〉は、実現できなかった理想
のようなもの。これが実現できなかったがために、今、自分
(「あなた」)は心身ともに廃人のようになってしまっている。
自分の存在に耐えられない。

もちろん、この〈……だったらよかったのに〉は彫像あるいは
絵だから動かない。表情は変わらない。しかし、絶望を
ふと忘れたまさにそんなとき、この絵はほほえみかける。
そして絶望を思い出させる。

目をそらしてもだめ。絶望は、理想を実現できなかったという
記憶は、常に眠らず、心のなかにある……。

* * *
数あるロセッティのソネットのなかでもいちばん、と評価が
高い作品。実際、こんな雰囲気・内容の詩を書いたのは、
イギリスでは彼だけ(ロセッティは3/4はイタリア人)。
初期テニソンよりもさらにアンニュイでデカダン。
ロセッティ自身のものよりも、フェルナン・クノップフ
(Fernand Khnopff)の絵のようなイメージ。

まちがいなくロセッティは、画家としてよりも
詩人としてのほうが優れている。

* * *
ロセッティの生涯における特定のできごととこの詩を直接
結びつけることはできないし、また結びつけてもしかたがない、
そんなことをしたら、あいまいであるがゆえに多くのことを
想起させるこの詩の魅力を減じてしまう、と思うが、
妻エリザベス・シダルを不幸にした、病やアヘン中毒から
救えなかった、アヘンの過剰摂取で死なせてしまった、
ということなど、当然この詩の背景として想起させられる。

端的にいえば、この詩の「あたし」、〈……だったら
よかったのに〉は、シダルを描いたロセッティ自身の絵、
ととらえることができる。(Beata Beatrixとか。)

この訳は、そんなシダルの声で再生できるようなもの
として作成。ロセッティの甘い悪夢……。

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.rossettiarchive.org/docs/1-1870.1stedn.rad.html

行1, 7-8, 14はそれぞれ日本語では二行。

* * *
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