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Wyatt, ("A lady gave me a gift she had not")

トマス・ワイアット (1503-1542)
(「女の人が贈りものをくれた、もっていないのに」)

女の人が贈りものをくれた、もっていないのに。
ぼくはそれをもらったが、もらわなかった。
あの人は自分からそれをくれたが、くれようとしなかった。
ぼくはそれをもらったが、もらえなかった。
あの人がそれをくれるなら、ぼくは奪わない。
それをとり返しても、あの人は喜ばない。
何のことか考えて。でも言わないで。
ぼくも言ってはいけないことになっているから。

* * *
Thomas Wyatt
("A lady gave me a gift she had not")

A lady gave me a gift she had not
And I received her gift I took not.
She gave it me willingly and yet she would not
And I received it, albeit I could not.
If she gave it me, I force not
And if she take it again, she cares not.
Construe what is this and tell not,
For I am fast sworn I may not.

* * *
5 If she gave it me
いわゆる仮定法過去。現在の反実仮想。

6 if she take it again
仮定法。三単現のsがないのは、shouldか何かが
省略されているから。

7 Construe what is this
現代英語では、Construe what this is.
文法が定められるはるか以前の英語なので。

(以上の点、19世紀のテクストでは、みな現代英語に
修正されてしまっている。"she gives", "she takes"
などと。)

* * *
リー・ハント曰く、答えはキス。(違う気がする。)

Leigh Hunt, Men, Women, and Books vol. 1 (1847), p. 252
http://archive.org/details/menwomenandbook01huntgoog

* * *
「もっていないものを与える」とは、フランスの精神分析家
ジャック・ラカンによる愛の定義。考え方は、以下の通り。

1
言葉を使う思考のなかで定義されるような自分は自分ではない。
それはあくまで言葉、語彙。

2
本当の自分自身とは、思考や理解の枠を超えたところ、
あるいはその裏側にある。(フロイトの「無意識」や、
カントの「物自体」のようなものとして。)

3
そんな、言葉や思考の枠を超えた(自分でも理解できない)
自分自身を与えることが、愛するということ。

* * *
1817年の『マンスリー・レヴュー』p. 409のコメント:
「あえて言わせていただきますが、わざわざ答えを
送ってくれなくて結構ですから。」

http://books.google.co.jp/books?id=UgkoAAAAYAAJ

* * *
英文テクストは、The Poetical Works of Surrey and Wyatt
(1831) のものをベースに、Oswald, ed. Sir Thomas Wyatt (2008)
を参考に編集。1831年のテクストは、次のURLに。
http://books.google.co.jp/books?id=Rbw4AAAAYAAJ

* * *
20200114 修正

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