goo

Hardy, "The Voice"

トマス・ハーディ
「声」

逝ってしまった人、おまえがわたしを呼ぶ、呼んでいる。
そして、いう--「あなたにとってすべてだった頃のわたしでは
なくなった頃のわたしじゃなくて、
最初の頃、わたしたちが楽しくくらしてた頃のわたしに戻ったの」。

まさか、ほんとにおまえの声? なら、姿を見せてくれ。
わたしが町に向かい、
おまえがそこで待っていた、あのときのようなおまえが見たい。そう、
いちばん最初のときに来ていた、空のように青いドレスを着たおまえが見たい!

それか、ただの風? 力なく、
湿った牧場のほうから、ここ、わたしのところに吹いてくる風の音?
そのなかにおまえは青白く、ぼんやりと消えていく。
おまえの声は、もう聞こえない。遠くにも近くにも・・・・・・。

こんなことを、わたしはいう、よろよろ歩きながら。
わたしのまわりに木の葉が落ちる。
イバラのあいだから、雨まじりの弱い北風が吹いて来る。
そして、彼女がわたしを呼ぶ。

* * *
Thomas Hardy
"The Voice"

Woman much missed, how you call to me, call to me,
Saying that now you are not as you were
When you had changed from the one who was all to me,
But as at first, when our day was fair.

Can it be you that I hear? Let me view you, then,
Standing as when I drew near to the town
Where you would wait for me: yes, as I knew you then,
Even to the original air-blue gown!

Or is it only the breeze, in its listlessness
Travelling across the wet mead to me here,
You being ever dissolved to wan wistlessness,
Heard no more again far or near?

Thus I; faltering forward,
Leaves around me falling,
Wind oozing thin through the thorn from norward
And the woman calling.

* * *
死んでしまった妻についての詩。

美しかった頃、仲がよかった頃の妻についての勝手な幻想、
つまり結婚生活が円満ではなかったことをあえて率直に語り、
そのうえで妻を失ったわびしさ、寂しさを描く。

風の音とはわかっていても、やはりそこに妻の声が聞こえる、という。

* * *
テクストは、Thomas Hardy Societyのサイトより。
http://www.hardysociety.org/

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

From Denham (tr.), The Destruction of Troy

ジョン・デナム (訳)
『トロイ陥落』より
(原作ウェルギリウス、『アエネイス』)

かくして、国を失った王は倒れ、
なんともまれな、またとない運命を見たのであった。
みずからが巨大な墓と化した大国のなか、彼には墓がないのだから。
国は焼きつくされたのに、彼は火で葬られなかったのだから。
あれほどの名声に驕り、あれほどの権力を誇った彼が、
小アジアの王たちがみなその前にひれ伏した、そんな彼が、
今、顧みられることもなく、冷たい大地に横たわる。
頭のない死体と化して。名もないただの物体となって。

* * *
John Denham (tr.)
From The Destruction of Troy
(From Virgil, Aeneid)

Thus fell the king, who yet surviv'd the state,
With such a signal and peculiar fate,
Under so vast a ruin, not a grave,
Nor in such flames a fun'ral fire to have:
He whom such titles swell'd, such power made proud,
To whom the sceptres of all Asia bow'd,
On the cold earth lies th' unregarded king,
A headless carcase, and a nameless thing.
(542-49)

* * *
トロイのプリアモス王の最期を描く。

* * *
英語テクストは、The Poetical Works Of Edmund Waller
and Sir John Denham (1857) より。
https://archive.org/details/poeticalworksofe008344mbp

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Ralegh (tr.), from Virgil, Aeneid, bk. 6

ウォルター・ローリ (訳)
ウェルギリウス、『アエネイス』 6巻より

空、大地、そして広い海、
明るくかがやく月の球体、太陽のように光る星たち--
ひとつの魂がこれらに命を与えている。この大きなものたち全体、
この世界・宇宙の大きなからだに
ひとつの心、精神が注ぎこまれ、隅から隅まで行きわたっている。
そしその一部一部をかたちづくり、動かしているのである。

***
Walter Ralegh
From Virgil, Aeneid, bk. 6

The heaven, the earth, and all the liquid main,
The moon's bright globe, and stars Titanian,
A spirit within maintains: and their whole mass,
A mind, which through each part infus'd doth pass,
Fashions, and works, and wholly doth transpierce
All this great body of the universe.

***
(キリスト教における)神の精神がすべてのもののうちに、
ということを説くために(キリスト教以前の)ウェルギリウスを
引用している一節。

ワーズワースの作品に見られる世界観、ヘーゲルの
「絶対精神」など、あわせて参照のこと。

***
英語テクストはThe Works of Sir Walter Ralegh, Kt.,
vol. 2 (1829) より。
https://archive.org/details/worksnowfirstcol02raleuoft

***
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

Blake, "Tiger"

ウィリアム・ブレイク
「虎」

虎、虎、燃えて輝く、
森の闇のなか。
どんな手や目をもつ神が、
恐ろしく、美しい、おまえのからだをつくった?

遠くの深淵、あるいは空--
おまえの目の炎は、どこからとってきた?
どんな翼で、そこまで飛んだ?
どんな手で、おまえの目の炎をつかんだ?

どんな腕、どんな技で、
おまえの心臓の筋をよじりあわせた?
おまえの心臓は脈打ちはじめ、
そして、恐ろしい手が・・・・・・恐ろしい足が・・・・・・。

どんなハンマーで? どんな鎖で?
どんなかまどでおまえの脳を焼いた?
どんな鉄床(かなとこ)で? どんな恐ろしい矢床(やっとこ)で、
死ぬほど恐ろしいおまえの脳をつかんでおさえた?

星たちは稲妻の槍を投げつけ、
涙の雨で空を濡らした--あのとき、
〈神〉は自分の作品を前にほほえんだか?
子羊をつくったあの〈神〉が、おまえ、虎をつくったのか?

虎、虎、燃えて輝く、
森の闇のなか。
どんな手や目をもつ神が、
恐ろしく、美しい、おまえのからだをつくった?

* * *
William Blake
"The Tiger"

Tiger, tiger, burning bright
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Could frame thy fearful symmetry?

In what distant deeps or skies
Burnt the fire of thine eyes?
On what wings dare he aspire?
What the hand dare seize the fire?

And what shoulder and what art
Could twist the sinews of thy heart?
And, when thy heart began to beat,
What dread hand and what dread feet?

What the hammer? what the chain?
In what furnace was thy brain?
What the anvil? what dread grasp
Dare its deadly terrors clasp?

When the stars threw down their spears,
And watered heaven with their tears,
Did He smile His work to see?
Did He who made the lamb make thee?

Tiger, tiger, burning bright
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Dare frame thy fearful symmetry?

* * *
Blake, "Divine Image" (Experience) と同じ
鍛冶場のイメージで「虎」をつくる過程を描く。

スタンザ5、雷雨の場面で虎が完成。
(マンガ、アニメなどにありがちな描写。)

「虎」は何をあらわす?

* * *
英語テクストは、William Blake, Songs of Innocence
and Songs of Experience (1901)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )

From Earl of Surrey, Aeneid, bk. 2

ヘンリー・ハワード、サリー伯
『ウェルギリウスのアエネイス第二巻』 より
(ラオコオンの警告)

見よ! 群衆の先頭に立ち、
燃えるように興奮したラオコオンが塔から大急ぎで降りてくる。
そして、大声で叫ぶ--「おお、愚かな人々よ!
何をそんなに血迷っているのだ?
敵が、ギリシャ人が、去ったとでも?
奴らが何かを善意で
贈ってくるとでも? オデュッセウスはそういう奴か?
この木馬のなかにはギリシャ人が隠れている!
あるいはこれは、城壁の上からわたしたちの
塔をのぞきこみ、そして町を破壊する装置かもしれない!
とにかく、何かよからぬしかけが潜んでいるに決まっている! トロイアの者たちよ、
これはただの木馬ではない! 実際何かはまだよくわからぬ・・・・・・
だが、ギリシャ人とは恐ろしい奴らなのだ。知ってるであろう!
奴らがただでものをくれるわけがないのだ!」
(54-66)

* * *
Henry Howard, Earl of Surrey
From the Second Book of Virgil's Aeneid
(Laocoon's warning)

Loe! formest of a rout that followd him,
Kindled Laocoon hasted from the towre, 55
Crieng far of: 'O wreched citezens,
What so great kind of frensie freteth you?
Deme ye the Grekes our enemies to be gone?
Or any Grekish giftes can you suppose
Deuoid of guile? Is so Ulysses known? 60
Either the Grekes ar in this timber hid,
Or this an engin is to anoy our walles,
To view our toures, and ouerwhelme our towne.
Here lurkes some craft. Good Troyans, geue no trust
Unto this horse, for, what so euer it be, 65
I dred the Grekes; yea! when they offer gyftes!'
(54-66)

* * *
最後の行だけ日本語では二行に。

* * *
英語テクストは、The Poems of Henry Howard,
Earl of Surrey (1920) より。
https://archive.org/details/poemsofhenryhowa00surruoft

* * *
ラオコオンはトロイアの神官。この一節にあるように、
ギリシャ側の木馬の策略を見破ってこれを
焼こうとしたために、ギリシャ側についていた
女神アテナによって海蛇に絞め殺される。
http://www.theoi.com/Olympios/AthenaMyths3.html

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


コメント ( 0 ) | Trackback (  )