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Marvell, "The Garden"

アンドリュー・マーヴェル
「庭園」

馬鹿すぎる、無我夢中にがんばって
勝利の棕櫚(しゅろ)、権力の樫、名声の月桂を求めるなんて。
休むことなく働いて、
その報酬が草枝の冠だけなんて。
けちな細枝のせまい陰では、
日差しと熱さは防げない。
花と木が集まるところにこそ
大きな花冠と休らぎがあるのに。

美しい〈休息〉の少女、見いつけた!
君のかわいい妹の〈無垢〉も、見いつけた!
ぼくはずっと勘違いしていた。君たちを
人が集まるにぎやかなところに探していた。
棕櫚や樫や月桂の聖なる木をこの世で探すなら、
自然のなかを見るべきだった。
人の集まる都市など野蛮、
孤独で楽しいこの庭園に比べれば。

どんな白や赤でも敵わない。
ここの緑がいちばん人を恋に誘う。
恋に燃えるひどい男たちは
木に愛しい女の名を刻む。
かわいそうに、彼らは知らない、気づいていない、
女よりも木のほうがずっと美しいのに!
そう、きれいだ! 木の君たち! どんな文字を
刻んでも、それは結局君たちの名。

人の熱く、抑えられない欲望に追われ、
〈愛〉の神はここ、いちばんの隠れ処(が)に逃げこむ。
神々に狙われ、追いかけられる美しい女たちも、
いつもここで草木に変身する。
アポロンがダプネを狩るように追ったのは、
彼女を月桂に変身させたかったから。
パンが走って求めたのは、
ニンフのシュリンクスではなく、葦笛になった彼女。

まさに最高、ここでのくらしは!
熟れた林檎が上から落ちてきてくれる。
房をなして輝く葡萄が
口にワインを注いでくれる。
椿桃や他のおいしい桃が
ぼくの手に向かって手をのばす。
つまづけばそこにはメロン、
花の罠にかかって転べばそこは草のベッド。

一方心は、低次なからだの喜びから
隠遁し、より高次な幸せに浸る。
心とは海、この世のすべてのものの
像が宿る、そんな海。
むしろ心はつくる、それらを超える
別の世界を、別の海を。
この世のすべてのものは消え、
緑の木陰で緑の想いと化していく。

ほとばしる噴水の近くで、
または果物の木陰の苔の上で、
からだという服を脱ぎ棄て、
心は枝に入りこんで昇っていく。
鳥のように枝にとまって歌いながら、
銀の翼を繕い整える。
遠くに飛びたつ準備をしつつ、
羽を波打つ七色の光に輝かせる。

あの楽園の庭でもそうだった。
アダムはそこでひとり歩き、幸せだった、イヴがいない頃。
汚れなく美しかったあの場所以上に
汚れなく美しい助け手などいるわけない。
が、人には許されなかった、
あそこでひとりで生きるなど。
まさに二重の楽園だから、
楽園をひとり占めすることは。

熟練庭師がここにつくった
見事な最新式の花時計。
天のやさしい日の光が
花の香る十二宮を駆けぬける。
働き蜂たちは、働きながら
時を見る。人もそう。
美しく実りある時間は
草花の時計でなくてはわからない!

*****
Andrew Marvell
"The Garden"

How vainly men themselves amaze
To win the palm, the oak, or bays;
And their uncessant labors see
Crowned from some single herb or tree,
Whose short and narrow-vergèd shade
Does prudently their toils upbraid;
While all the flowers and trees do close
To weave the garlands of repose.

Fair Quiet, have I found thee here,
And Innocence, thy sister dear!
Mistaken long, I sought you then
In busy companies of men:
Your sacred plants, if here below,
Only among the plants will grow;
Society is all but rude,
To this delicious solitude.

No white nor red was ever seen
So amorous as this lovely green;
Fond lovers, cruel as their flame,
Cut in these trees their mistress' name.
Little, alas, they know or heed,
How far these beauties hers exceed!
Fair trees! wheresoe'er your barks I wound
No name shall but your own be found.

When we have run our passion's heat,
Love hither makes his best retreat:
The gods who mortal beauty chase,
Still in a tree did end their race.
Apollo hunted Daphne so,
Only that she might laurel grow,
And Pan did after Syrinx speed,
Not as a nymph, but for a reed.

What wondrous life is this I lead!
Ripe apples drop about my head;
The luscious clusters of the vine
Upon my mouth do crush their wine;
The nectarine and curious peach
Into my hands themselves do reach;
Stumbling on melons as I pass,
Insnared with flowers, I fall on grass.

Meanwhile the mind, from pleasure less,
Withdraws into its happiness:
The mind, that ocean where each kind
Does straight its own resemblance find;
Yet it creates, transcending these,
Far other worlds, and other seas;
Annihilating all that's made
To a green thought in a green shade.

Here at the fountain's sliding foot,
Or at some fruit-tree's mossy root,
Casting the body's vest aside,
My soul into the boughs does glide:
There like a bird it sits and sings,
Then whets and combs its silver wings;
And, till prepared for longer flight,
Waves in its plumes the various light.

Such was that happy garden-state,
While man there walked without a mate:
After a place so pure and sweet,
What other help could yet be meet!
But 'twas beyond a mortal's share
To wander solitary there:
Two paradises 'twere in one
To live in Paradise alone.

How well the skillful gard'ner drew
Of flowers and herbs this dial new;
Where from above the milder sun
Does through a fragrant zodiac run;
And, as it works, th' industrious bee
Computes its time as well as we.
How could such sweet and wholesome hours
Be reckoned but with herbs and flowers!

http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/garden.htm

*****
キーワード:
隠遁 retirement
心の安定 ataraxia
食べものがみずから人のところにやってくる sponte sua
ホラティウス Horace
オウィディウス Ovid
ピューリタン Puritan
千年王国、千年王国思想 Millenium, Millenarianism
黙示録 Apocalypse
終末論 eschatology

*****
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Marvell, "On a Drop of Dew"

アンドリュー・マーヴェル
「露の玉」

ほら、東方の真珠のような露が、
朝日の胸からこぼれ、
花咲く薔薇のなかに
(うれしくなさそうに、
生まれ育った清らかな世界に戻りたいようすで)
包まれている。
そしてその小さな丸のなかに、
生まれ育った空を映している。
まるで相手にしていないかのように、
赤い花にはほとんどふれようとしない。
ただ空を見つめ、
悲しげな光を放っている、
涙のような光を。
空から遠く離れてしまったから。
落ち着きなく露は転がり、不安げに
震える、汚れることが恐いから。
そんな露がかわいそうと、やがてあたたかい太陽は
蒸発させて空に返す。
魂はまさにそんな露、そんな光、
永遠の世界の泉からやってきた透きとおった光。
からだという花に降りてきた見えない光。
前にいた天国のことをずっと覚えていて、
きれいな葉、緑の花には近づかない。
自分の光を集め、
汚れのない思いをめぐらせて、
玉のなかに大きな天国をつくる。
慎み深い小さな姿で、
すべてのものに背を向ける。
あたりの世界に見向きもせず、
日の光だけを受けいれる。
下界は暗いから、天国だけに光があるから。
この世は卑しいから、天国だけに愛すべきものがあるから。
この世に縛られず、いつでも天に帰ろうとしている。
準備万端、いつでも天に昇ろうとしている。
下界にふれているのは一点だけ、
他のすべてのところは上に向かっている。
そんな露のように、神聖なマナも降りてきた、
白く、一面に、冷たく凍って。
今、露もこの世で凍っている。でも、いずれとけ、蒸発し、
輝く全能の太陽の光のなかに帰っていく。

*****
Andrew Marvell
"On a Drop of Dew"

See, how the orient dew,
Shed from the bosom of the morn
Into the blowing roses,
(Yet careless of its mansion new,
For the clear region where 'twas born,)
Round in itself incloses;
And, in its little globe's extent,
Frames, as it can, its native element.
How it the purple flower does slight,
Scarce touching where it lies;
But gazing back upon the skies,
Shines with a mournful light,
Like its own tear,
Because so long divided from the sphere.
Restless it rolls, and unsecure,
Trembling, lest it grow impure;
Till the warm sun pity its pain,
And to the skies exhale it back again.
So the soul, that drop, that ray
Of the clear fountain of eternal day,
(Could it within the human flower be seen,)
Remembering still its former height,
Shuns the sweet leaves, and blossoms green,
And, recollecting its own light,
Does, in its pure and circling thoughts, express
The greater heaven in an heaven less.
In how coy a figure wound,
Every way it turns away;
So the world-excluding round,
Yet receiving in the day;
Dark beneath, but bright above,
Here disdaining, there in love.
How loose and easy hence to go;
How girt and ready to ascend;
Moving but on a point below,
It all about does upwards bend.
Such did the manna's sacred dew distil;
White and entire, though congealed and chill;
Congealed on earth ; but does, dissolving, run
Into the glories of the almighty sun.

http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/dewdrop.htm

*****
キーワード:
キリスト教 Christianity
この世に対する侮蔑 contemptus mundi

*****
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Marvell, "The Definition of Love"

アンドリュー・マーヴェル
「恋とはなにか」

ぼくの〈恋〉は貴い子。
気高く、届かぬ相手に向かう。
ぼくの〈恋〉の父は〈絶望〉、
母は〈不可能〉。

偉大なる〈絶望〉だけが
神々しい〈恋〉を生む。
〈希望〉は無力で羽ばたけない、
金に光る絹の翼があっても。

ぼくもすぐに行けたらいい、
ぼくの魂があるあの人のところに。
でも〈運命〉が鉄の楔(くさび)を打ちこんで、
いつもぼくの道を阻む。

〈運命〉は妬んでいる、二つの
完璧な〈恋〉を見て。二つが結ばれたら、
〈運命〉はもう終わり。
暴君の座にとどまれない。

だから鋼(はがね)のように固く命じて
ぼくらを両極に引き離す。
だから〈恋〉の世界はぼくらを軸にまわる。
だからぼくらは抱きしめあえない、

天がめまいで落ちてくるか、
大地が痙攣して裂けるか、
世界が地図のように平たくなって、
ひきつけでくしゃくしゃになるかしなければ。

線と同じで斜めなら、
〈恋〉はどこかで出会う。
でもぼくらの恋は見事に平行、
永遠に出会うことがない。

こうして〈恋〉がぼくらを結ぶ。
こうして意地悪な〈運命〉に邪魔される。
ぼくらは星。空のあっちとこっちにいて、
重なっても蝕をつくるだけ。

*****
Andrew Marvell
"The Definition of Love"

My Love is of a birth as rare
As ‘tis for object strange and high:
It was begotten by Despair
Upon Impossibility.

Magnanimous Despair alone
Could show me so divine a thing,
Where feeble Hope could ne’er have flown
But vainly flapped its Tinsel wing.

And yet I quickly might arrive
Where my extended soul is fixt,
But Fate does iron wedges drive,
And always crowds itself betwixt.

For Fate with jealous eye does see
Two perfect Loves; nor lets them close:
Their union would her ruin be,
And her tyrannic power depose.

And therefore her decrees of steel
Us as the distant Poles have placed,
(Though Love’s whole World on us doth wheel)
Not by themselves to be embraced:

Unless the giddy Heaven fall,
And Earth some new convulsion tear;
And, us to join, the World should all
Be cramped into a planisphere.

As lines so Loves oblique may well
Themselves in every angle greet:
But ours so truly parallel,
Though infinite can never meet.

Therefore the Love which us doth bind,
But Fate so enviously debars,
Is the conjunction of the Mind,
And opposition of the Stars.

https://www.poets.org/poetsorg/poem/definition-love

*****
キーワード:
宮廷風恋愛
科学
アレゴリー

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Marvell, "The Unfortunate Lover"

アンドリュー・マーヴェル
「片思いで不幸な人」

ああ、彼らはなんて幸せそう!
幼い愛の神と遊んでいる!
二人ずつ組になって、
涼しい泉で、緑の木陰で。
だが、そんな恋の炎も光を失う、
夏の夜の彗星のように。
あの恒星のところまでは昇れない。
〈時〉に打ち勝って永遠に、とはいかない。

荒れる海になすすべない難破船、
好き放題に荒れる風のなか、
恋する男は漂っていた。
そして生まれる前に放り出された。
最大の波が
彼の母を岩に打ちつけ、
お腹が割れた、
帝王切開のように。

海の水が彼の苦い涙。
だから彼はいつも泣いている。
風が彼のため息。
だから胸のなか、いつも暴風波浪。
彼に日は照らない。先の裂けた
稲妻が、いつも雲を脅して突き抜けてくる。
いつも雷がうなりをあげている。
毎日が世界の葬式のよう。

彼が生まれたとき、〈自然〉は
火と風と水と土が争う仮面劇を演じてみせた。
数えきれない黒い鵜(う)の艦隊が
難破船をあざけるようにやってきて、
いたぶるためにすくいあげた、
この哀れな不幸の相続人を。
まさに最適な保護者たち、
嵐が生んだ私生児に。

鵜は根拠のない希望で彼を育て、
それは消化されて絶望という栄養となった。
一羽の鵜が彼に食を与えると同時に、
別の鵜が彼の心臓を貪った。
こうして鵜は彼を養い、飢えさせ、
彼は衰えながら大きくなった。
息をしながらやつれ細っていった、
生と死を同時に生きる両生類のように。

今、天は
この世の流血を見て怒り、
〈運〉の女神と彼を呼び出して
一日中決闘させる。
〈愛〉の神の暴君は、もてる矢をすべて使って
彼の胸を蜂の巣にする。
炎に焼かれつつ、波にもてあそばれつつ、彼は
アイアスのように狂乱の嵐に立ち向かう。

武器なしで彼は勇ましく戦う。
片手で雷を殴りながら、
反対の手で
岩と取っ組みあおうとする。
が、波がくるたび、彼は岩にぶつかりはじけ飛び、
バラバラに引き裂かれて燃え、傷でズタズタになる。
こうして人はみないう、恋する男には
血の服がいちばん似あう、と。

これこそ騎士、
〈愛〉の神から爵位をもらった騎士。
不幸の星たちの下、彼は
嵐と戦闘のなか生きる。
そして死に、いい香りと
音楽をこの世に残す。
そんな、おとぎ話のなかだけの英雄。
黒い戦場の真っ赤な恋人。

*****
Andrew Marvell
"The Unfortunate Lover"

ALAS! how pleasant are their days,
With whom the infant love yet plays!
Sorted by pairs, they still are seen
By fountains cool and shadows green;
But soon these flames do lose their light,
Like meteors of a summer's night;
Nor can they to that region climb,
To make impression upon Time.

'Twas in a shipwreck, when the seas
Ruled, and the winds did what they please,
That my poor lover floating lay,
And, ere brought forth, was cast away;
Till at the last the master wave
Upon the rock his mother drave,
And there she split against the stone,
In a Cæsarian section.

The sea him lent these bitter tears,
Which at his eyes he always bears,
And from the winds the sighs he bore,
Which through his surging breast do roar;
No day he saw but that which breaks
Through frighted clouds in forkèd streaks,
While round the rattling thunder hurled,
As at the funeral of the world.

While Nature to his birth presents
This masque of quarrelling elements,
A numerous fleet of cormorants black,
That sailed insulting o'er the wrack,
Received into their cruel care,
The unfortunate and abject heir;
Guardians most fit to entertain
The orphan of the hurricane.

They fed him up with hopes and air,
Which soon digested to despair,
And as one cormorant fed him, still
Another on his heart did bill;
Thus, while they famish him and feast,
He both consumèd, and increased,
And languishèd with doubtful breath,
The amphibium of life and death.

And now, when angry Heaven would
Behold a spectacle of blood,
Fortune and he are called to play
At sharp before it all the day,
And tyrant Love his breast does ply
With all his winged artillery,
Whilst he, betwixt the flames and waves,
Like Ajax, the mad tempest braves.

See how he nak'd and fierce does stand,
Cuffing the thunder with one hand,
While with the other he does lock,
And grapple, with the stubborn rock;
From which he with each wave rebounds,
Torn into flames, and ragg'd with wounds;
And all he says, a lover drest
In his own blood does relish best.

This is the only banneret
That ever Love created yet;
Who, though by the malignant stars,
Forcèd to live in storms and wars,
Yet dying, leaves a perfume here,
And music within every ear;
And he in story only rules,
In a field sable, a lover gules.

http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/unfortun.htm

*****
キーワード:
宮廷風恋愛 courtly love
ペトラルカ Petrarch

*****
恋する男の胸中=嵐にもてあそばれる船、
というペトラルカ以来の比喩を極限にまで
発展させた作品。

悪趣味な表現をどこかに入れるのがマーヴェル。

鵜:日本語における禿鷹のようなイメージの鳥。

*****
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Marvell, "The Resolved Soul and Created Pleasure"

アンドリュー・マーヴェル
「対話:揺るがない魂とこの世の快楽」

戦え、わが魂。永遠なるおまえの
重い盾を今こそ使え。
輝く兜をしっかりかぶれ。
戦いに必要な剣をとれ。
見ろ、敵がくる。強く、美しい。
絹の軍旗が風になびいている。
さあ、もしおまえが本当に神の国から来たものなら、
今日の戦いで輝かしく勝利しろ。
そして証明しろ。揺るがない心は
〈自然〉、人の〈本質〉にも負けない、と。

〈快楽〉
ようこそ、神がつくったもののなかのお客さま、
土からできたからだを支配し、天を受けつぐお方。
そのような恐ろしい兜はお脱ぎください。
この世の宴をお楽しみください。
果実や花々の魂が
あなたにおもてなしいたします。

〈魂〉
わたしの糧は天にある。こんな罠で
引き留めないでくれ。

〈快楽〉
ふわふわの枕でお休みください。
羽毛が天に運んでくれます。
薔薇のベッドでお休みください。
お怪我しないよう棘はみなとってあります。

〈魂〉
思考がわたしのベッドだ。すべきことを
ちゃんとしていれば、ずっと安らかに休める。

〈快楽〉
香水はいかがですか。
神々もお好みでしたよ。
いい香りの雲に包まれて、
神のような気分になりませんか。

〈魂〉
愚かに上をめざさないからこそ
天や魂はいい香りを放つ。

〈快楽〉
すべてのものが競いあっています、
いちばんにあなたに見られたい、といって。
でも、あなたの目に値するものはありませんから、
まず、この水晶に映るご自身のお顔をごらんください。

〈魂〉
すぐれているのは創造主たる神の力だけ。
あとのものはみな土にすぎない。

〈快楽〉
お聴きください。あなたのために
きれいな音楽が流れています。
風もやんで静かになり、
滝の音も聞こえません。

〈魂〉
時間があれば
聴いていたいところだ。
だが、誘惑はもうやめろ。美しい音楽にも
囚われない精神を鎖で縛ることはできない。

〈合唱〉
この世でいちばん美しいもの、
それは享楽の攻撃を
退ける魂の姿。
神もそれをお喜び。
だからくじけないで、さらなる攻撃がやってきます。
勝利して天の王冠を手に入れましょう。

〈快楽〉
きれいで、柔らかくて、気持ちいい、
そんな幸せなものを
ひとりの美しい人がもっています。
その人をあなたのものにしてあげましょう。

〈魂〉
目に見えるこの世のものが天の幸せをくれるなら、
本当の天はさらにどれほど幸せなことか。

〈快楽〉
どこに行ってもあなたの足下には
金貨が落ちているでしょう。
この世のものをすべて買って手に入れたら、
新世界まで買いたくなりますよ。

〈魂〉
金(きん)に価値があると誰が決めたのか。
買えるものなどなんの価値もない。

〈快楽〉
この世の栄光はいかがですか。戦争に勝てば、
それか平和に国を治めれば、手に入ります。
世界の半分はあなたの奴隷です。
残りの半分は友だちです。

〈魂〉
魂を売る者などわたしの友にはなりえない!
奴隷などいらない。まずおまえを奴隷にしなくては!

〈快楽〉
隠れた因果関係を教えてあげましょう。
未来のこともです。
地面の深さを知ってから
天にお昇りください。

〈魂〉
天に昇るのに知識はいらない。
必要なのは心からの謙遜だ。

〈合唱〉
勝った、勝ちました、あなた、〈魂〉の勝利です。
もうこの世に楽しみはありません。
安らぎは天にあります。
永遠の恵みはあなたのものです。

*****
Andrew Marvell
"A Dialogue, between the Resolved Soul and Created Pleasure"

Courage, my Soul, now learn to wield
The weight of thine immortal shield.
Close on thy head thy helmet bright.
Balance thy sword against the fight.
See where an army, strong as fair,
With silken banners spreads the air.
Now, if thou be’st that thing divine,
In this day’s combat let it shine:
And show that Nature wants an art
To conquer one resolvèd heart.

PLEASURE
Welcome the creation’s guest,
Lord of earth, and heaven’s heir.
Lay aside that warlike crest,
And of Nature’s banquet share:
Where the souls of fruits and flowers
Stand prepared to heighten yours.

SOUL
I sup above, and cannot stay
To bait so long upon the way.

PLEASURE
On these downy pillows lie,
Whose soft plumes will thither fly:
On these roses strewed so plain
Lest one leaf thy side should strain.

SOUL
My gentler rest is on a thought,
Conscious of doing what I ought.

PLEASURE
If thou be’st with perfumes pleased,
Such as oft the gods appeased,
Thou in fragrant clouds shalt show
Like another god below.

SOUL
A soul that knows not to presume
Is heaven’s and its own perfume.

PLEASURE
Everything does seem to vie
Which should first attract thine eye:
But since none deserves that grace,
In this crystal view thy face.

SOUL
When the Creator’s skill is prized,
The rest is all but earth disguised.

PLEASURE
Hark how music then prepares
For thy stay these charming airs;
Which the posting winds recall,
And suspend the river’s fall.

SOUL
Had I but any time to lose,
On this I would it all dispose.
Cease, tempter. None can chain a mind
Whom this sweet chordage cannot bind.

CHORUS
Earth cannot show so brave a sight
As when a single soul does fence
The batteries of alluring sense,
And heaven views it with delight.
Then persevere: for still new charges sound:
And if thou overcom’st, thou shalt be crowned.

PLEASURE
All this fair, and soft, and sweet,
Which scatteringly doth shine,
Shall within one beauty meet,
And she be only thine.

SOUL
If things of sight such heavens be,
What heavens are those we cannot see?

PLEASURE
Wheresoe’er thy foot shall go
The minted gold shall lie,
Till thou purchase all below,
And want new worlds to buy.

SOUL
Were’t not a price, who’d value gold?
And that’s worth naught that can be sold.

PLEASURE
Wilt thou all the glory have
That war or peace commend?
Half the world shall be thy slave
The other half thy friend.

SOUL
What friends, if to my self untrue!
What slaves, unless I captive you!

PLEASURE
Thou shalt know each hidden cause;
And see the future time:
Try what depth the centre draws;
And then to heaven climb.

SOUL
None thither mounts by the degree
Of knowledge, but humility.

CHORUS
Triumph, triumph, victorious Soul;
The world has not one pleasure more:
The rest does lie beyond the Pole,
And is thine everlasting store.

https://www.poetryfoundation.org/poems-and-poets/poems/detail/48325

*****
キーワード:
キリスト教 Christianity

Cf. Milton, Paradise Lost, Paradise Regained

*****
"Coy Mistress" のようなカルペ・ディエム詩と
"contemptus mundi"--現世軽視・蔑視、この世は
無価値・無意味--の主題を扱うこのような詩の
両者が書けるところがマーヴェルのバランス感覚。
("Coy Mistress" にも少なからず宗教性が織り
こまれている。)

その他、この詩の特徴は次のような点。

1
彼の他の詩にあるような悪趣味な表現が一切ないこと。
(宗教詩だから。)

2
逆に宗教的に教科書的である意味淡白で、熱い想いが
特に感じられないこと。
(いわゆるピューリタン的な熱狂的信仰とは異なる雰囲気。)

*****
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Marvell, "Daphnis and Chloe"

アンドリュー・マーヴェル
「ダプニスとクロエ」

1
ダプニスがクロエにいう、もうあきらめる、さよなら、
残念だけど、
希望はゼロ、
がんばってきたけどダメだった、と。

2
女の敵は自分の性格。
求められても、まず拒む。
それで彼女は彼に応えず、
嫌い、とも言わなかった。

3
でも、急にそんな悲しいことをいわれ、
クロエは急にやさしくなる。
もう彼女はダプニスのいいなり、
彼がいてくれるだけでいい。

4
女はもともと気まぐれで
いつもの態度を急に変える。
離れ離れがいちばん嫌。
別れの予感で仲直り。

5
ダプニスはよく知っていた、
包囲戦での戦いかたを。
でも知らなかった、城を落とすには、
包囲を解けばいいことを。

6
でも、彼は別れの悲しみで
頭がいっぱいで、
冷静な判断ができなかった。
今こそチャンスだったのに。

7
クロエは愛の言葉を語る、
これまで一度もいわなかったことを。
でも、その言葉も無駄、遺産を
危篤の人に残すようなもの。

8
ああ、時すでに遅し、
期限切れ。
哀れなダプニスはもうおしまい。
喜びと悲しみで心が分裂。

9
どうして? お願い、待って、とクロエはいう。
ダプニスは髪をかきむしる。
血走った目をグルグルギラギラさせて、
残酷な運命を呪う。

10
まるで、死にかけた魂が
友だちの叫び声を聞いて
驚いて急にふり返り、
そしてまたすぐ死ぬときのよう。

11
哀れなダプニスはまさにそんなようすで、
クロエを恐がらせた、いちばん好きだったのに。
結局、この恋する魂は、
決意を固めて別れを告げる、次のように。

12
天国と地獄がいっしょになって
死にそうなぼくに拷問をかけてるみたい。
別れだけで十分つらいのに、
どうしてそんなときだけやさしい?

13
ねえ、クロエ、どうして
こんなひどいことをする?
やさしい言葉のほうが痛い、
君の冷たい言葉より。

14
まるで死刑囚に
最高級のワインをあげたり、
したいことなんでもさせてあげるのと同じ。
最後だけでも楽しくなるように。

15
でも、もう敵となった君に
借りはつくらない。
さよならだから
やさしい、なんて嫌。

16
別れだけで十分。
静かに去るほうがいい、
ふられることで
ちょっといい思いするより。

17
ぼくを苦しめる人にいい思いさせる必要なんてない。
バカバカしい、
高い宝石をつけて処刑されて、
そしてそれを執行人にとられるなんて。

18
恋わずらいで痩せ衰えて
男らしく死んだほうがいい。
わざわざ太って
敵に食べられるより。

19
つらそうなぼくを見てやさしい気分になった、
とか、そんな恋人関係なんて、
死んだばかりのまだあたたかい相手を
無理やり犯すのと変わらない。

20
ぼくだって、そんな別れかたじゃ、
あの欲ばりのユダヤ人みたい。
うずらとマナをたらふくもらって荒れ野をさまよって、
そして神に打たれて死ぬっていう。

21
それか、真夜中に起きて
シダを探す魔法使いみたい。
その葉っぱから出る見えない種で
透明人間みたいにいなくなる。

22
恋はもっと楽しいもののはず。
あきらめながら快楽を求めるなんて、
雨のなかで薔薇を摘むのと同じ。
自分はびしょ濡れ、香りもパー。

23
だから、もういい。君からの
恋の果実はいらない。
喜びと悲しみはうまくからまない。
この悲しみをなにかと混ぜたくない。

24
死神よ、ぼくは死ぬ。暗く、悲しく、
おまえの望む最悪につらいかたちで。
ぼくといっしょに受けとれ、
愛の神のたいまつで燃えていた炎をすべて。

25
こう言ってダプニスは去った。
徹夜で祈ったあと、
処刑人に合図して、
最後の一撃を受ける人のように。

26
でも、女の子たち、信じちゃいけない。
昨日の夜、ダプニスはプロギスと寝た。
今夜はドリンダと会う予定で、
今、ちょっと馬で外に出てる。

27
でも、彼にも言い分があり、
ある意味もっともだ。
そもそも男の本質を考えたら、
どうしてクロエは拒んだ? ってこと。

*****
Andrew Marvell
"Daphnis and Chloe"

1
Daphnis must from Chloe part:
Now is come the dismal Hour
That must all his Hopes devour,
All his Labour, all his Art.

2
Nature, her own Sexes foe,
Long had taught her to be coy:
But she neither knew t' enjoy,
Nor yet let her Lover go.

3
But, with this sad News surpriz'd,
Soon she let that Niceness fall;
And would gladly yield to all,
So it had his stay compriz'd.

4
Nature so her self does use
To lay by her wonted State,
Lest the World should separate;
Sudden Parting closer glews.

5
He, well read in all the wayes
By which men their Siege maintain,
Knew not that the Fort to gain
Better 'twas the siege to raise.

6
But he came so full possest
With the Grief of Parting thence,
That he had not so much Sence
As to see he might be blest.

7
Till Love in her Language breath'd
Words she never spake before;
But than Legacies no more
To a dying Man bequeath'd.

8
For, Alas, the time was spent,
Now the latest minut's run
When poor Daphnis is undone,
Between Joy and Sorrow rent.

9
At that Why, that Stay my Dear,
His disorder'd Locks he tare;
And with rouling Eyes did glare,
And his cruel Fate forswear.

10
As the Soul of one scarce dead,
With the shrieks of Friends aghast,
Looks distracted back in hast,
And then streight again is fled.

11
So did wretched Daphnis look,
Frighting her he loved most.
At the last, this Lovers Ghost
Thus his Leave resolved took.

12
Are my Hell and Heaven Joyn'd
More to torture him that dies?
Could departure not suffice,
But that you must then grow kind?

13
Ah my Chloe how have I
Such a wretched minute found,
When thy Favours should me wound
More than all thy Cruelty?

14
So to the condemned Wight
The delicious Cup we fill;
And allow him all he will,
For his last and short Delight.

15
But I will not now begin
Such a Debt unto my Foe;
Nor to my Departure owe
What my Presence could not win.

16
Absence is too much alone:
Better 'tis to go in peace,
Than my Losses to increase
By a late Fruition.

17
Why should I enrich my Fate?
'Tis a Vanity to wear,
For my Executioner,
Jewels of so high a rate.

18
Rather I away will pine
In a manly stubborness
Than be fatted up express
For the Canibal to dine.

19
Whilst this grief does thee disarm,
All th' Enjoyment of our Love
But the ravishment would prove
Of a Body dead while warm.

20
And I parting should appear
Like the Gourmand Hebrew dead,
While with Quailes and Manna fed,
He does through the Desert err;

21
Or the Witch that midnight wakes
For the Fern, whose magick Weed
In one minute casts the Seed,
And invisible him makes.

22
Gentler times for Love are ment:
Who for parting pleasure strain
Gather Roses in the rain,
Wet themselves and spoil their Sent.

23
Farewel therefore all the fruit
Which I could from Love receive:
Joy will not with Sorrow weave,
Nor will I this Grief pollute.

24
Fate I come, as dark, as sad,
As thy Malice could desire;
Yet bring with me all the Fire
That Love in his Torches had.

25
At these words away he broke;
As who long has praying ly'n,
To his Heads-man makes the Sign,
And receives the parting stroke.

26
But hence Virgins all beware.
Last night he with Phlogis slept;
This night for Dorinda kept;
And but rid to take the Air.

27
Yet he does himself excuse;
Nor indeed without a Cause.
For, according to the Lawes,
Why did Chloe once refuse?

http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/daphnis.htm

*****
キーワード:
牧歌 Pastoral
カルペ・ディエム Carpe diem

Sidney, Astrophil 87の裏返し
Suckling, Aglaura 3.1の変奏

*****
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Marvell, "Upon the Hill and Grove at Bill-borow"

アンドリュー・マーヴェル
「ビル・ボロウの丘と森:フェアファックス卿に」

I.
ほら、ここでは大地が丸く盛りあがり、
完璧な半球の丘をつくっている。
どんな正確なコンパスでも、
これほど丸く均衡のとれた円は描けない。
どれほどしなやかな筆でも、
これほど左右等しい眉は描けない。
この丘はまるで模範のよう。
この丘を見て地球が創られたかのよう。

II.
あなたがた、不規則に聳え(そびえ)立つ山々は学びなさい。
急に高く突き出して、
曲がった背中のように
大地を歪め、天を脅していては駄目です。
あなたがたが不格好に飛び出しているから、
〈自然〉は地球の中心を探し直さなくてはならない。
この丘を手本にして遜(へりくだ)りなさい。
そうすればより確実に栄誉を手にできるでしょう。

III.
ほら、広くて柔らかい
草の広場が丘の斜面に広がっている。
がたがた道で歩く人の邪魔をしたり、
息を切らしたりしない。
ほら、実に思いやりのある丘で、
すべての方角から等しく盛りあがっている。
自分が高くなるというよりも、
まわりを高めようと努力しているかのよう。

IV.
そのように丘はあたりを見渡す。
偉大に、しかし妬まれず、
天をも脅かさんばかりの
テネリフの山よりも高く。
この丘が見えたら、迷って疲れた水夫も、
大喜びで船を飛ばしてくるだろう。
夜には北極星を、
昼にはこの丘を目印に進めばいい。

V.
この偉大な山の頂上では、
いにしえから多くの木々が槍のように揺れている。
不敬な敵が武器をとり、
この聖なる木陰を襲うことはない。
偉大なるフェアファックス卿の
恐ろしさが常にあらわれているから。
あの方の鎧の音が
この森と丘に響きわたるかのように。

VI.
領主フェアファックス卿に対する畏怖、妖精のような
奥方への敬意により、この丘は守られてきた。
命の源である妖精ヴェラに会うために、
しばしばあの方は仕事を離れ、ひとりでここにやってきた。
そして樫の木に彼女の名を彫った。
この木々に許されるのはそんな傷だけ。
というのも、あの方が幹に刻む前に、
その名は木々の心に刻まれていたのだから。

VII.
そう、木々は生きている。
わたしたちと同じように愛し、敬う。
険しい樹皮の下に、
この地の精を宿している。
だから木々には領主の勝利がわかる。
領主が栄えれば彼らも育つ。
かつてなかったほど木々は、
フェアファックス卿の下で緑にまっすぐ大きくなった。

VIII.
だが、もうこれ以上大きくなろうとはしない。
根をはって満足したかのように。
思慮深い枝の頭を、あちこちから吹く風に
委ねすぎたりもしない。
時折、はためく風に
これら命ある木々は話しかけ、
慎み深いささやき声で、
名声をこえる名声を語る。

IX.
彼らは言う、「かつてフェアファックス卿は
もっと違う丘がお好みでした。
槍の森のなか、あの方は雷のように突き進み、
いくつもの死体の山をつくりました。
あの方にふさわしい栄誉の花冠をつくるのに、
わたしたちの枝では足りません。
あの方が一年に勝ちとった戦利品をすべて
ぶら下げたら、わたしたちの幹は折れてしまいます」。

X.
そのとおりです、木々の君たち。樫の木の
告げることに嘘はないですね。
でも、(あの方の寵愛を得たいなら)もう言わないほうが
いいですよ。偉大な人は称賛を望まぬものですから。
だからあの方は人里離れて君たちのところに
いらっしゃったのです。輝かしい地位を捨ててまで。
あの方が望まれるのは森のある丘、
地位や名誉があって、同時にひっそり生きることなのです。

*****
Andrew Marvell
"Upon the Hill and Grove at Bill-borow:
To the Lord Fairfax"

I.
SEE how the arched Earth does here
Rise in a perfect Hemisphere!
The stiffest Compass could not strike
A Line more circular and like;
Nor softest Pensel draw a Brow
So equal as this Hill does bow.
It seems as for a Model laid,
And that the World by it was made.

II.
Here learn ye Mountains more unjust,
Which to abrupter greatness thrust,
That do with your hook-shoulder'd height
The Earth deform and Heaven fright.
For whose excrescence ill design'd,
Nature must a new Center find,
Learn here those humble steps to tread,
Which to securer Glory lead.

III.
See what a soft access and wide
Lyes open to its grassy side;
Nor with the rugged path deterrs
The feet of breathless Travellers.
See then how courteous it ascends,
And all the way it rises bends;
Nor for it self the height does gain,
But only strives to raise the Plain.

IV.
Yet thus it all the field commands,
And in unenvy'd Greatness stands,
Discerning furthe then the Cliff
Of Heaven-daring Teneriff.
How glad the weary Seamen hast
When they salute it from the Mast!
By Night the Northern Star their way
Directs, and this no less by Day.

V.
Upon its crest this Mountain grave
A Plump of aged Trees does wave.
No hostile hand durst ere invade
With impious Steel the sacred Shade.
For something alwaies did appear
Of the great Masters terrour there:
And Men could hear his Armour still
Ratling through all the Grove and Hill.

VI.
Fear of the Master, and respect
Of the great Nymph did it protect;
Vera the Nymph that him inspir'd,
To whom he often here retir'd,
And on these Okes ingrav'd her Name;
Such Wounds alone these Woods became:
But ere he well the Barks could part
'Twas writ already in their Heart.

VII.
For they ('tis credible) have sense,
As We, of Love and Reverence,
And underneath the Courser Rind
The Genius of the house do bind.
Hence they successes seem to know,
And in their Lord's advancement grow;
But in no Memory were seen
As under this so streight and green.

VIII.
Yet now no further strive to shoot,
Contented if they fix their Root.
Nor to the winds uncertain gust,
Their prudent Heads too far intrust.
Onely sometimes a flutt'ring Breez
Discourses with the breathing Trees;
Which in their modest Whispers name
Those Acts that swell'd the Cheek of Fame.

IX.
Much other Groves, say they, then these
And other Hills him once did please.
Through Groves of Pikes he thunder'd then,
And Mountains rais'd of dying Men.
For all the Civick Garlands due
To him our Branches are but few.
Nor are our Trunks enow to bear
The Trophees of one fertile Year.

X.
'Tis true, the Trees nor ever spoke
More certain Oracles in Oak.
But Peace (if you his favour prize)
That Courage its own Praises flies.
Therefore to your obscurer Seats
From his own Brightness he retreats:
Nor he the Hills without the Groves,
Nor Height but with Retirement loves.

http://quod.lib.umich.edu/e/eebo/A52133.0001.001
一部修正。

*****
(キーワード)

隠遁 retirement
中庸 golden mean
心の安定 ataraxia
自然と人間のつながり
騎士ロマンス chivalry, romance
ホラティウス Horace

*****
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Marvell (tr.), Seneca, Thyestes, Second Chorus

アンドリュー・マーヴェル(訳)
セネカ『テュエステス』
コロスの歌 2

宮廷での出世などいらない。ゆらゆら揺れる
塔の先のような寵愛にしがみつくのは、もうたくさん。
むしろわたしはじっとしていたい。
誰も知らない隠れ家(が)で、
邪魔されずのんびり休みたい。
この世の舞台から遠く離れ、
老後をひっそり過ごしたい。
そして、人知れず
寿命を全(まっと)うし、
苦しむことなく死にたい、
田舎の一善人として。
人に注目されるなか、
自分を顧みず生きる、
〈死〉に突然さらわれるのはそんな人。

*****
"Andrew Marvell" (tr.)
The Second Chorus from Seneca's Tragedy, Thyestes

Climb at Court for me that will
Tottering Favour's pinnacle.
All I seek is to lye still.
Settled in some secret Nest
In calm Leisure let me rest;
And far off the publick Stage
Pass away my silent Age.
Thus when without noise, unknown,
I have liv'd out all my span,
I shall dye, without a groan,
An old honest Country man.
Who expos'd to others Eyes,
Into his own Heart ne'r pry's,
Death to him's a Strange surprise.

http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/seneca.htm
一部修正

*****
16世紀から18世紀初めにかけて人気のあった一節。
宮廷・政府批判の一手段。

*****
キーワード:
隠遁 retirement
平常心 ataraxia
ホラティウス Horace

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Marvell, "An Horatian Ode"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「ホラティウス風のオード
--クロムウェルがアイルランド遠征から戻った折に--」
(完全版)

若者が世に出て名をあげようと思うなら、
今こそ詩神を棄てなくては。
日陰で歌っていてはいけない、
恋わずらいの歌などを。

本など、ほこりをかぶらせておけばいい。
さびついた武具に油を塗ろう。
広間の壁に飾ってあった
鎧もおろそう。

今、安逸を嫌うクロムウェルは戦いつづける。
平和の仕事は、栄誉をもたらさない。
彼は、危険な戦いのなか、
自分を導く星を、みずから駆りたてる。

かくして、三つ又にわかれた稲妻が、
自分を育てた雲から飛び出るように、
クロムウェルも、おのれの味方の側から、
炎をあげつつ飛び出した。

気高く勇敢な者から見れば、
はりあう味方は敵と同じ。
そのような者を閉じこめることは、
敵対するよりたちが悪い。

燃えあがりつつ、クロムウェルは空を駆け、
宮殿と神殿を破壊した。
そして最後に、カエサルの頭を、
月桂冠ごと枯らせ、落とした。

怒れる神の炎に抵抗したり、
それをとがめるなど、狂気の沙汰。
そう、認めなくてはならない、
この男は多くをなしとげてきた。

かつてクロムウェルは、自分の庭で
ひっそりまじめにくらしていた。
彼のいちばんの野望は、
梨を育てることだった。そんな男が、

勤勉に働いて、勇敢に戦って、人の上にのしあがった。
そして、長い年月が培ってきた伝統を滅ぼした。
いにしえからつづくこの王国の
かたちを完全に変えた。

正義が運命に不平を訴え、
いにしえからの権利を主張する。が、それは無駄なこと。
そんな権利は、認められたり、踏みにじられたりする。
強い人には与えられ、弱い人には与えられない。

自然界に真空は存在しない。
ふたつのものが同時に同じ場所を占めることもない。
だから、場所を空けねばならない。
より強い者があらわれたなら。

内乱の戦場にて、いつも
いちばん深かったのは、クロムウェルが残した傷跡。
ハンプトン事件からわかるのは、
彼が知恵ある策士でもあったこと。

あのとき彼は、恐怖と期待を編みこんだ
微妙かつ大きな網をつくった。
それでチャールズは自分で自分を追いこんで、
カリスブルックに閉じこめられた。

そこから王家の役者は連れ出され、
悲劇の処刑台に彩りを添えた。
あたりでは武装した軍の者たちが、
血まみれの手をたたき、喝采を送っていた。

彼のふるまいに、卑しく醜いところは一切なかった。
あの、忘れらない場面--
処刑の斧の刃よりも鋭い目で、
彼はその切れ味を確かめた。

負け惜しみに神々に呼びかけて、
失われゆく王権の敵討ちを祈ることこともなく、
彼は、ただその美しい頭を横たえた、
そこがベッドであるかのように--

あの、まさに忘れられない瞬間に、
権力が武力で奪われた。
だから、共和国の宮殿を
建てる仕事にとりかかったとき、

その下にあった血を流す頭が
恐ろしくて、設計者たちは逃げ去った。
が、その血の頭にこそ、この国の
幸せな将来が見えた。

今、アイルランド人は恥じている、
たった一年でクロムウェルに征服されてしまったから。
たったひとりでも、それほどのことができる、
行動力と知恵があれば。

彼が優れていることは、アイルランド人が
いちばん知っている。敗れながらも、彼らは認めていた、
クロムウェルは清く、正しく、
最高の地位にふさわしい、と。

だがクロムウェルは、支配の味をしめることなく、
いまだに共和国に支配されている。
支配の座にふさわしいのは、
彼がきちんと従うことができるから。

クロムウェルはさし出す、議会の足下に、
最初の年貢として王国を。
自分の栄誉のためにできることはまだあるのだが、
それはせずに共和国のために尽くす。

彼は剣も帯からはずし、戦ちとったものもろとも
人々の足下におく。
たとえば、鷹は、空高くから、
おもりのように降りてきて、

獲物を殺して、次の獲物を追わず、
近くの緑の枝にとまる。まさにクロムウェルのように。
おとりを使って呼び戻せば、
鷹匠のところにちゃんと帰ってくる。

わが島国に不可能などあろうか?
〈勝利〉がクロムウェルの兜(かぶと)を飾っているかぎり!
他国は最悪を恐れるほかなかろう、
彼は毎年どこかで勝利を飾るのだから!

カエサルがガリアにしたように、
ハンニバルがイタリアにしたように、
クロムウェルは、自由でないすべての国に対し、
いずれ致命傷をもたらすだろう。

スコットランド人たちも、
もう共和国に抵抗してなどいられない。
この勇敢な賢人を前に、
チェック模様の服の下で縮みあがることになる。

幸運と思うことだ、もし、シダやワラビの茂みのなか、
イングランドの狩人から逃れることができたなら。
あるいはイングランドの猟犬が、
スコットランドの鹿のあとを追わなかったら。

クロムウェル、〈戦い〉の子、〈運〉の女神の子である君よ、
飽くなき戦いに向かうのだ。
勝利を永遠のものとすべく、
剣をかざしつづけるのだ。

そうすれば、闇夜の霊も
恐れて寄ってこないだろう。
権力は、それを手にしたのと同じやりかたで
守らなくてはならないのだ。

***
Andrew Marvell (1621-1678)
"An Horatian Ode upon Cromwel's Return from Ireland"

The forward Youth that would appear
Must now forsake his Muses dear,
Nor in the Shadows sing
His Numbers languishing.

'Tis time to leave the Books in dust,
And oyl th' unused Armours rust:
Removing from the Wall
The Corslet of the Hall.

So restless Cromwel could not cease
In the inglorious Arts of Peace,
But through adventrous War
Urged his active Star.

And, like the three-fork'd Lightning, first
Breaking the Clouds where it was nurst,
Did through his own Side
His fiery way divide.

For 'tis all one to Courage high
The Emulous or Enemy;
And with such to inclose
Is more then to oppose.

Then burning through the Air he went,
And Pallaces and Temples rent:
And Caesars head at last
Did through his Laurels blast.

'Tis Madness to resist or blame
The force of angry Heavens flame:
And, if we would speak true,
Much to the Man is due.

Who, from his private Gardens, where
He liv'd reserved and austere,
As if his hightest plot
To plant the Bergamot,

Could by industrious Valour climbe
To ruine the great Work of Time,
And cast the Kingdome old
Into another Mold.

Though Justice against Fate complain,
And plead the antient Rights in vain:
But those do hold or break
As Men are strong or weak.

Nature that hateth emptiness,
Allows of penetration less:
And therefore must make room
Where greater Spirits come.

What Field of all the Civil Wars,
Where his were not the deepest Scars?
And Hampton shows what part
He had of wiser Art.

Where, twining subtile fears with hope,
He wove a Net of such a scope,
That Charles himself might chase
To Caresbrooks narrow case.

That thence the Royal Actor born
The Tragick Scaffold might adorn:
While round the armed Bands
Did clap their bloody hands.

He nothing common did or mean
Upon that memorable Scene:
But with his keener Eye
The Axes edge did try:

Nor call'd the Gods with vulgar spight
To vindicate his helpless Right,
But bow'd his comely Head,
Down as upon a Bed.

This was that memorable Hour
Which first assur'd the forced Pow'r.
So when they did design
The Capitols first Line,

A bleeding Head where they begun,
Did fright the Architects to run;
And yet in that the State
Foresaw it's happy Fate.

And now the Irish are asham'd
To see themselves in one Year tam'd:
So much one Man can do,
That does both act and know.

They can affirm his Praises best,
And have, though overcome, confest
How good he is, how just,
And fit for highest Trust:

Nor yet grown stiffer with Command,
But still in the Republick's hand:
How fit he is to sway
That can so well obey.

He to the Common Feet presents
A Kingdome, for his first years rents:
And, what he may, forbears
His Fame to make it theirs:

And has his Sword and Spoyls ungirt,
To lay them at the Publick's skirt.
So when the Falcon high
Falls heavy from the Sky,

She, having kill'd, no more does search,
But on the next green Bow to pearch;
Where, when he first does lure,
The Falckner has her sure.

What may not then our Isle presume
While Victory his Crest does plume!
What may not others fear
If thus he crown each Year!

A Caesar he ere long to Gaul,
To Italy an Hannibal,
And to all States not free
Shall Clymacterick be.

The Pict no shelter now shall find
Within his party-colour'd Mind;
But from this Valour sad
Shrink underneath the Plad:

Happy if in the tufted brake
The English Hunter him mistake;
Nor lay his Hounds in near
The Caledonian Deer.

But thou the Wars and Fortunes Son
March indefatigably on;
And for the last effect
Still keep thy Sword erect:

Besides the force it has to fright
The Spirits of the shady Night,
The same Arts that did gain
A Pow'r must it maintain.

* * *
部分的だが以下に註あり。
Marvell, "Horatian Ode" (1)
Marvell, "Horatian Ode" (2)

* * *
英語テクストは、Miscellaneous poems (1681) より。
四行ずつのスタンザに分割。

* * *
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Marvell, "To His Coy Mistress"

アンドリュー・マーヴェル
「恥じらいためらう、愛しいわたしのご主人さまに」

もし十分な空間と時間があったなら、
愛しいあなた、こうして恥じらうこともいけないことではありません。
腰をおろし、どこへ行こう? などと考えながら、
長い愛の一日をゆっくり過ごしましょう。
君がインドのガンジス川の脇で
ルビーを見つけたりしているときに、わたしがハンバー
川のところで愚痴をいう、などということもありうるでしょう。わたしが
ノアの洪水の十年前からあなたを愛しているのに、
あなたは、あえてわたしの気持ちを
ユダヤ人の改宗の頃まで受けとらない、ということもできるでしょう。
わたしの愛は、植物のように育ちつづけ、
諸帝国よりも、ゆっくり大きくなっていきます。
わたしは、百年かけて君の目を
ほめたたえ、君の額を見つめます。
あなたの胸をひとつずつ、それぞれ二百年かけてあがめます。
そして残りのところには、さらに三万年をかけるのです。
あなたのおからだの一部一部を、それぞれ一時代ずつかけてたたえていきます。
その後、この世が終わる頃に、あなたの気持ちを聞かせてくれればいいのです。
愛しいあなた、あなたはそれほど尊く、地位のある方ですから。
わたしには、これ以下の愛し方などできません。

でも、背後からいつも聞こえてきます、
〈時〉の羽ある戦車が大急ぎでやってくるのが。
前方のかなた一面に広がるのは、
「無限」という名の広大な砂漠です。
そこに着くころには、君の美しさはもうどこにもないでしょう。
白い大理石のドームのような君の頭蓋骨のなか、もうわたしの歌が
こだますることもないでしょう。そして、うじ虫たちが味わうのです、
君が大切に守ってきた処女を。
お高くとまって、貞節を守ってきたあなたもただの土くれにかえり、
あなたを求めてきたわたしも、その頃にはただの灰になっています。
お墓というのは、誰も来なくて、いい場所ですが、
思うに、そこで抱きあう、なんて人は誰もいません。

ですから、若さあふれる、のりのような汗が、
朝露のように肌の上にある今--
わたしを求める君の魂が、蒸気となってすべての毛穴から
出てきて、そしてその瞬間に火がついて蒸発して消えているような、そんな今--
楽しみましょう。そう、楽しむことができるあいだに。
そして、恋する肉食のはやぶさ、あるいは鷹のように、
〈時〉を、ひと口で、ガブリと食べてやりましょう。
〈時〉にゆっくり食べられながら、少しずつ弱っていくのは嫌ですから。
わたしたちのもっているすべての力、すべての愛を
転がして、玉のような子をつくりましょう。
激しく悦び、楽しみましょう。そして、その結晶を、力づくで、
鉄のようにかたい命の門からとり出しましょう。
こうしてわたしたちは、太陽、つまり〈時〉を
止めることはできませんが、逆にそれを進めることはできるのです。

* * *
Andrew Marvell
"To His Coy Mistress"

Had we but World enough, and Time,
This coyness Lady were no crime.
We would sit down, and think which way
To walk, and pass our long Loves Day.
Thou by the Indian Ganges side
Should'st Rubies find: I by the Tide
Of Humber would complain. I would
Love you ten years before the Flood:
And you should if you please refuse
Till the Conversion of the Jews. [10]
My vegetable Love should grow
Vaster then Empires, and more slow.
An hundred years should go to praise
Thine Eyes, and on thy Forehead Gaze.
Two hundred to adore each Breast:
But thirty thousand to the rest.
An Age at least to every part,
And the last Age should show your Heart.
For Lady you deserve this State;
Nor would I love at lower rate. [20]

But at my back I alwaies hear
Times winged Charriot hurrying near:
And yonder all before us lye
Desarts of vast Eternity.
Thy Beauty shall no more be found;
Nor, in thy marble Vault, shall sound
My ecchoing Song: then Worms shall try
That long preserv'd Virginity:
And your quaint Honour turn to dust:
And into ashes all my Lust. [30]
The Grave's a fine and private place,
But none I think do there embrace.

Now therefore, while the youthful glue
Sits on thy skin like morning dew,
And while thy willing Soul transpires
At every pore with instant Fires,
Now let us sport us while we may;
And now, like am'rous birds of prey,
Rather at once our Time devour,
Than languish in his slow chapt pow'r. [40]
Let us roll all our Strength, and all
Our sweetness, up into one Ball
And tear our Pleasures with rough strife,
Thorough the Iron gates of Life.
Thus, though we cannot make our Sun
Stand still, yet we will make him run.

* * *
カルペ・ディエムと、宮廷的恋愛のパターンと、
シェイクスピアのソネット的な永遠のテーマと、
1640-50年代の終末論と、マーヴェル的な
悪趣味の混交。

16世紀の恋愛詩を、17世紀的な感性で
全面的に書き直すとこうなる、という作品。

大枠としてはロンサールの「カルペ・ディエム」の翻案。
Songs & Sonnets of Pierre de Ronsard (1903) 52-53 参照。
https://archive.org/details/songssonnetsofpi00ronsrich

ホラティウスの「カルペ・ディエム」--先のことについて
無駄に心配したりせず、ワインでも飲んでリラックスして
今日を楽しく生きよう--を女性の若さ・美しさの話に
変えたのがロンサール。

* * *
タイトル Mistress
宮廷的恋愛の、わたし(男)は召使い、わたしの愛する女性が
ご主人様(mistress)、という定式的パターンにのっとっている。
(そして、このパターンからはみ出る内容を語る。)

1 World
人としての存在、生きている時間(OED I)。
大地、地球上の地域(OED II)。

5 Thou
この詩では、一貫してthou(君)とyou(あなた)が混在している。
1681年のPoems初版からそうなっている。

Nigel Smith編のPoems, pp, 79-80にある
マーヴェル以外の人の手による手稿ではyouで統一されている
ところを見ると、この混在は同時代人から見ても不自然だった
ものと思われる。

つまり、もしマーヴェルが意図的にそうしているのであれば、
この二人称の揺れにより、「愛しい人」に対する「わたし」の
態度の揺れをあらわそうとしている、などと考えられる。
(Youは目上、thouは対等以下の相手をあらわす言葉。
神に対するthouは別。)

You(あなた):
宮廷的恋愛の、支配者としての女性に対して召使いとして
心身ともに捧げる男性、という役柄を演じているとき。

Thou(君):
「わたし」より若く、おそらく知性など諸々の点で「わたし」よりも
劣っている存在として、相手の女の子に話しかけているとき。

(こうして、下が現実、上が文学上のフィクション、
ただのインチキ、ということを暗示。)

5-7
インドからイギリスまでの広い空間が自由に行き来できたら、
という仮想。

7-10
この世のはじめ(ノアの洪水の頃)から終わり(キリストの再臨の
直前におこるとされた、ユダヤ人のキリスト教への改宗の頃)まで
ずっと片思いでもいい、という仮想。

15 adore
神のようにあがめる(OED 1)。

22 Time
羽の生えた、砂時計と鎌をもった〈時〉の神。
砂時計で人の命の長さをはかり、鎌で人を刈る。

(参照)
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Chronos_-_Naturmuseum_Senckenberg_-_
DSC02291.JPG

http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Chronos_Schlossbergmuseum.jpg

http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Pietro_Liberi__Time_Being_Overcome_
by_Truth_-_WGA12980.jpg
(やられているほう)

24 Desarts of vast Eternity
「永遠」を不毛な砂漠として、つまりうれしくないものとして
扱っているところがポイント。スペンサー『アモレッティ』の
ソネット75や、シェイクスピアのソネット集などに典型的に
見られるような、理想化された「永遠」像に対する抵抗。
ペトラルカ的、恋愛ソネット的な、「美しい君よ、永遠に」
というパターンを、イギリス的に冷めたかたちで裏返す。

これが17世紀の主流。恋愛ソネットが書かれなくなった、
というのもそういうこと。イタリア・ルネサンスの影響からの
脱却。(そして、ギリシャ・ローマの古典へと向かう。)

(ソネットについていえば、その後ミルトンが別種の
ソネットの可能性を示さなかったら、このジャンルは
どうなっていたのだろう?)

26-27
耳元で愛の歌をささやくように歌う、ということを
死んでからしても・・・・・・。ということ。

29-30
(参照) 「灰は灰に、塵(ちり)は塵に」。
"Ashes to ashes, dust to dust".
イングランド国教会の共通祈祷書(Book of Common prayer)の
埋葬の式辞の一節。
http://justus.anglican.org/resources/bcp/1559/
Burial_1559.htm (1559年版)

29 quaint
奇妙な(死んでしまっているから)(OED 7)。
誇り高い(OED 9)。
好みのうるさい、お高くとまった(OED 10)。

33 glue
のり、接着剤(OED 2, 3a)。
樹液(OED 3b)。
--汗をたとえて。

glue = glew = glowで、「熱く、赤くなっている
状態、赤らんだ若い肌の色」という理解のしかたもあるよう。

1681年版の33-34行末はhew, glewとなっていて、
この編者は後者の線で理解していたことがわかる。
(Nigel Smith版の注参照。上の英語テクストは
この版による。)

40
少しずつ年をとって死んでいくのではなく、ということ。

41-42
身体的な力Strengthと愛しい気持ちsweetnessを
転がして、丸めて、球体にする
= 力をあわせて(?)、転がって、玉のような子をつくる。

ここでのBallは、子ども、胎児のこと。この詩の結論部に
ついてはいろいろな解釈があるようだが、あまり?
全然? この路線で考えていないのはなぜ? 以下の行、
すべてつじつまがあうと思われるのだが。

Ballという、やや不器用な語が選ばれているのは、
allと脚韻をつくるため。
(このように語の選択が限定されることを嫌う人が
無韻で書く。たとえばミルトン。)

42 sweet[ness]
好き、ということ(OED 5e, 10ab--例文の年代
など多少齟齬するが、この意味でいいはず)。

(Aerosmith, "Sweet Emotion" のタイトルの
日本語訳なども参照。)

43 with rough strife
With strife: 力づくで(OED, "strife" 2d)

このroughは、その行為が・・・・・・ということ。
Strifeもそう。まるで二人で、ケンカやスポーツで
争っているかのように・・・・・・ということ。

44 the Iron gates of Life
(・・・・・・そういうこと。)

45-46
太陽を止める、というのは、ヨシュア記10章から。
近隣部族との戦いが優勢なときに日が沈みそうに
なったので、ヨシュアは命令する、「止まれ、太陽!
昇るな、月!」。すると、本当にそのとおりになり、
イスラエルは敵部族を滅ぼすことができた・・・・・・
という話。

太陽、あるいは時間を進める、というのは、
1650年代前半の、「第五王国派」the Fifth
Monarchy menの主張への言及。

「第五王国」というのは、再臨したキリストがこの世を
平和に治める「千年王国」のこと。アッシリア、ペルシャ、
ギリシャ、ローマ(ブリタニカ曰く)、あるいはバビロニア、
ペルシャ、マケドニア、ローマ(ウィキペディア曰く)、という、
この世を支配してきた四つの王国・帝国につづくのが
この千年王国だから、「第五」王国。

(四つの王国について正確なところは、今後確認。
時間があったら。)

この「第五王国派」は、当時の政府--1653年からの
クロムウェルの護国卿政権--を倒してしまえ、
と説いていた。そうすれば、第五王国、キリストの
王国の到来が早まるから。この意味で、時間は、
先に進めることができる。

つまり、この詩の「わたし」は、時間を止めて、
自分たちが永遠に生きる、という不可能な希望は棄てて、
子どもをつくることによって、血や遺伝子レベルで、
永遠に生きよう、と言っている。

これは、シェイクスピアのソネットが美しき青年に説く
内容と同じだが、シェイクスピアでは、男性が美青年に
対して、美しい女性を見つけて子どもをつくるよう
すすめているのに対し、この詩では、結局、「わたしと
いいことしよう」という、たんなる誘惑のオチになっている。

というか、たんなる・・・・・・と言い切れないのが、
この詩のいいところ。

たんなる誘惑?
ある意味で真剣な求愛?

たんなる思考の遊びとしてカルペ・ディエム?
死、時間的に限定された命についての深い不安の表明?

* * *
ちなみにマーヴェルは、第五王国派を批判し、
クロムウェルを称える詩を書いている。
ふつうのバランス感覚のある人々は、第五王国派を
「熱すぎる者たち」hot menと見て、支持しては
いなかった。

王政復古期以降、内乱や共和国が否定・非難される
最大の理由のひとつは、このような行きすぎた信仰の
台頭を見たから。

同時に、「罪は存在しない」に記したような、
逆方向に極端な者たちの台頭を見たから。

また、内乱や共和国の評価・解釈が難しい一因は、
クロムウェルのような清廉潔白でバランス感覚の
ある人々も、みな、もともとは、「千年王国」的な
思想を共有していたから。

* * *
英語テクストは、Miscellaneous Poems (1681) より。
一部修正。

* * *
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参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
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Marvell, "The Gallery"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「画廊」

I.
クローラ、来て、わたしの心を見て、それが
よくできているかどうか、聞かせてほしい。
それは、いくつかの部屋からなる
ひとつの画廊のよう。
いろいろな人が描かれた豪華な
アラス織の掛け物ははずしてあって、
そんな装飾のかわりに、
君の絵だけがわたしの心のなかにある。

II.
この絵の君は、冷酷な
殺人者のように描かれている。
わたしたちの心に対して、たくさんの
君の残酷な恋の道具を実験している。
それはまさに切れ味抜群、
暴君の秘密の部屋を飾る拷問道具以上のもの。
なかでも、もっとも強力に痛めつけるのが、
黒い瞳、赤い唇、そしてカールした髪。

III.
でも、裏の絵も見て。そこでは、君は
夜明けの女神アウローラのように描かれている。
東のほうでうとうと寝ていて、
乳白の太ももをまっすぐつき出している。
朝の合唱隊が歌い、
マナが降り、バラもはじけるように咲いている。
君の足下では、恋人同士の鳩が、
無垢な愛を成就している。

IV.
また別の絵では、君は魔法使いのよう。
君に恋した男の霊から安らぎを奪い、悩ませている。
そして、うす暗い明りの下、狂ったようにわめく、
彼の腹を開き、内臓を見ながら。
ぞっとするほど注意深く占っているのだ、
自分がいつまで美しくいられるのか。
そして(結果を見て)その内臓を投げ捨てる。
飢えたハゲタカたちの餌として。

V.
でも、その裏の絵では、君は
真珠貝の舟に乗って浮かぶウェヌスのよう。
まわりのものをすべて静まらせるカワセミたちが、
空と海のあいだを飛んでいる。
波がうねってやってくるのは、
竜涎香をたくさん運んでくるときだけ。
風が吹くのは、
そのいい香りを運ぶためだけ。

VI.
これらや、ほかにも
千もの君の絵が、わたしの心の画廊にある。
君が思いつき、演じるすべての姿を描く絵が。
わたしを幸せにしてくれる君も、わたしを苦しめる君も。
君はひとりなのに、わたしのなかにはたくさんの君がいて、
まるで、わたしのなかに君の植民地があるよう。
ホワイト・ホールやマントヴァ所蔵のものより、
ずっといいコレクションが、わたしのなかにあるよう。

VII.
でも、これらやほかのすべてのものより、
わたしは入口に飾ってある絵が好き。
その絵のなかで、君は同じポーズ、同じ表情を
してる。わたしの心を最初に奪ったときと。
やさしい羊飼いの少女、髪は
ゆるやかに、風にはためいていて。
緑の丘から花を摘んで、
頭に飾ったり、胸に抱いたりしていて。

* * *

Andrew Marvell
"The Gallery"

I.
Clora come view my Soul, and tell
Whether I have contriv'd it well.
Now all its several lodgings lye
Compos'd into one Gallery;
And the great Arras-hangings, made
Of various Faces, by are laid;
That, for all furniture, you'l find
Only your Picture in my Mind.
(1-8)

II.
Here Thou art painted in the Dress
Of an Inhumane Murtheress;
Examining upon our Hearts
Thy fertile Shop of cruel Arts:
Engines more keen than ever yet
Adorned Tyrants Cabinet;
Of which the most tormenting are
Black Eyes, red Lips, and curled Hair.
(9-16)

III.
But, on the other side, th' art drawn
Like to Aurora in the Dawn;
When in the East she slumb'ring lyes,
And stretches out her milky Thighs;
While all the morning Quire does sing,
And Manna falls, and Roses spring;
And, at thy Feet, the wooing Doves
Sit perfecting their harmless Loves.
(17-24)

IV.
Like an Enchantress here thou show'st,
Vexing thy restless Lover's Ghost;
And, by a Light obscure, dost rave
Over his Entrails, in the Cave;
Divining thence, with horrid Care,
How long thou shalt continue fair;
And (when inform'd) them throw'st away,
To be the greedy Vultur's prey.
(25-32)

V.
But, against that, thou sit'st a float
Like Venus in her pearly Boat.
The Halcyons, calming all that's nigh,
Betwixt the Air and Water fly.
Or, if some rowling Wave appears,
A Mass of Ambergris it bears.
Nor blows more Wind than what may well
Convoy the Perfume to the Smell.
(33-40)

VI.
These Pictures and a thousand more,
Of Thee, my Gallery dost store;
In all the Forms thou can'st invent
Either to please me, or torment:
For thou alone to people me,
Art grown a num'rous Colony;
And a Collection choicer far
Then or White-hall's, or Mantua's were.
(41-48)

VII.
But, of these Pictures and the rest,
That at the Entrance likes me best:
Where the same Posture, and the Look
Remains, with which I first was took.
A tender Shepherdess, whose Hair
Hangs loosely playing in the Air,
Transplanting Flow'rs from the green Hill,
To crown her Head, and Bosome fill.
(49-56)

* * *

3 lodgings
借りた部屋(OED 3a, 5b)。

7 furniture
掛け物、装飾用の織りもの、布地(OED 4d)。

9-24
表裏両面に、正反対のイメージで「君」の肖像画が
描かれている。

12 Shop
店にあるもの(OED 2c, 1906からの例しかないが)。

13 Engine
道具(OED 4)。戦いのための道具(OEd 5a)。
拷問道具(OED 5b)。

14 Cabinet
私室、寝室(OED 3)。
ギャラリー、美術館(のような部屋)(OED 4)。
宝物、秘密のものなどの入れもの(OED 5)。

20
(たぶん)夜明けの光がまっすぐさして来ているようす。

21 the morning Quire
(たぶん)鳥たち。

22-23
バラはアプロディーテー/ウェヌスの花。
鳩も彼女の鳥。

つまり、このスタンザの絵では、「君」が、夜明けの女神
アウローラと愛と美の女神アプロディーテー/ウェヌスを
重ねたようなイメージで描かれている、ということ。

24 Sit
なんらかの状態で、そのままで、いる(OED 7)。
鳥が止まっている、飛んでいない(OED 10a)。

24 perfect[ing]
成就する、達成する(OED 1)。
このOED 1にあるように、= consummate,
つまり、この鳩たちは、恋愛を成就する行為として
ことに及んでいる。

ちなみに、だんだん減ってきてはいたが、16-17世紀の
イギリスでは、最低限二人だけで誓いのことばをいい、
その後に行為に及べば、それは正式な結婚であった。
(聖職者たちはこのような結婚を批判し、教会での結婚を
推進していたが。)

シェイクスピアの『尺には尺を』、Ingram, Church Courts,
Sex and Marriage in England, 1570-1640
(1987) など参照。

25-40
ここでも表裏両面に、正反対のイメージで
「君」の肖像画が描かれている。

25-32
「君」を古代ギリシャの預言者として描いた絵の描写。
グロで恐ろしい絵。

古代ギリシャでは、いけにえの動物を殺し、開いて内臓の
ようすを見て、また焼いてその様子を見て、占いを
おこなった。John Potter, Archaeologia Graeca:
Or the Antiquities of Greece, new ed.
(1813), vol. 1, pp. 365-72.
http://books.google.co.jp/books?id=cIjUAAAAMAAJ

26
「君」に恋する男性をいけにえの動物のように殺し、
その死体を使って上記の占いをしているから。

28 Cave
空洞、空っぽの場所(OED 2)。ここではおなかのこと。

33-34
ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」など参照。


http://www.ibiblio.org/wm/paint/auth/botticelli/botticelli.venus.jpg

35 Halcyons
古代より、冬至の頃に海を静まらせ、そこに浮かぶ巣で
ヒナを育てるとされた鳥。ギリシャ神話のアルキュオーン。

38 Ambergris
アンバーグリス、竜涎香(りゅうぜんこう)(香料の原料)。


By Peter Kaminski
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ambergris.jpg

これを扱っているこんな会社もある。
http://www.ambergris.co.nz/

40 the Perfume
ここでは竜涎香の香り。

43 invent
思いつく(OED 1)。あみ出す(OED 2a)。
フィクションとしてつくる(OED 2c)。

47-48
構文は、And [thou] were [= would be] a Collection
choicer far Then or White-hall's, or Mantua's.

48 White-hall
16-17世紀のイギリス王の宮殿。

48 Mantua
イタリアの地名。そこの公爵ゴンザーガ家は
芸術を擁護、推進していた(らしい)。

50 likes
・・・・・・を喜ばせる(OED v.1, 1)。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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Marvell, "Soul and Body"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「魂とからだの会話」

(魂)
ああ、誰か、この牢獄からわたしを出して
くれないでしょうか。いろいろなかたちで自由を奪われているこの魂を。
わたしは、骨や足という足かせで
つなぎとめられていて、手という手錠でつながれています。
目という目隠しをされて、耳もいろいろな音が
聞こえることによって聞こえなくなっています。
わたしは、鎖に吊るされています。
神経、動脈、そして静脈という鎖に。
しかも、からだの各部に加え、
おろかな頭、偽りの心という拷問にもあえいでいるのです。

(からだ)
ああ、誰か、わたしをきれいさっぱり解放してくれないでしょうか。
魂という暴虐な支配者に拘束された状態から。
魂はわたしを立ったまま引きのばし、串刺しにして、
わたしはまるで自分を突き落す崖のようになっています。
この何の不自由もないからだを
魂は無理やりあたため、動かしています。ただの熱病と同じです。
その意地悪のはけ口がないから、
死なせるためにわたしを生かしているにすぎません。
このからだは完全に休息を奪われてしまっています。
病んでいて悪意ある魂にとりつかれてしまってから、ずっと。

(魂)
どんな魔法のために、わたしは閉じこめられて、
自分のものではない悲しみに苦しまなくてはならないのでしょう。
何についてであれ、からだが苦しみや不満を訴えるとき、
からだをもたず何も感じないはずのわたしも、なぜか痛みを感じます。
そして、なぜか一生懸命心を配って、
わたしを破壊するものを守ってしまいます。
病に、だけでなく、さらに悪いことに、
からだが治癒することにも耐えなくてはならないのです。
船が港に向かうように、よろこんで死に向かっているのですが、
その船が難破するかのように、また健康に陥ってしまうのです。

(からだ)
ただの薬では効きません、
あなた、魂がわたしに教えるような病には。
まず、希望という痙攣でわたしは引き裂かれ、
次に恐れという麻痺にふるえます。
愛という疫病に熱を出し、
憎しみという膿にむしばまれています。
よろこびという楽しげな狂気に心乱され、
また悲しみという別種の狂気にも悩まされているのです。
知識によって、そんなみずからの状態を思い知らされ、
記憶は、それを忘れさせてくれません。
魂以外のものに、そんな知恵はありません。
罪を犯す者としてわたしをつくりあげるような知恵は。
まるで、大工が森に生える緑の木から、
きれいな角材をつくるように。

* * *

Andrew Marvell
"A Dialogue between the Soul and Body"

Soul.
O Who shall, from this Dungeon, raise
A Soul inslav'd so many wayes?
With bolts of Bones, that fetter'd stands
In Feet; and manacled in Hands.
Here blinded with an Eye; and there
Deaf with the drumming of an Ear.
A Soul hung up, as 'twere, in Chains
Of Nerves, and Arteries, and Veins.
Tortur'd, besides each other part,
In a vain Head, and double Heart.
(1-10)

Body.
O who shall me deliver whole,
From bonds of this Tyrannic Soul?
Which, stretcht upright, impales me so,
That mine own Precipice I go;
And warms and moves this needless Frame:
(A Fever could but do the same.)
And, wanting where its spight to try,
Has made me live to let me dye.
A Body that could never rest,
Since this ill Spirit it possest.
(11-20)

Soul.
What Magick could me thus confine
Within anothers Grief to pine?
Where whatsoever it complain,
I feel, that cannot feel, the pain.
And all my Care its self employes,
That to preserve, which me destroys:
Constrain'd not only to indure
Diseases, but, whats worse, the Cure:
And ready oft the Port to gain,
Am Shipwrackt into Health again.
(21-30)

Body.
But Physick yet could never reach
The Maladies Thou me dost teach;
Whom first the Cramp of Hope does Tear:
And then the Palsie Shakes of Fear.
The Pestilence of Love does heat:
Or Hatred's hidden Ulcer eat.
Joy's chearful Madness does perplex:
Or Sorrow's other Madness vex.
Which Knowledge forces me to know;
And Memory will not foregoe.
What but a Soul could have the wit
To build me up for Sin so fit?
So Architects do square and hew,
Green Trees that in the Forest grew.
(31-44)

* * *

訳注と解釈例。

1 Dungeon
肉体のこと。

1 raise
生き返らせる、墓から出す(OED 3a)。

3-4
魂にとっては、肉体である足がそもそも足かせのようなもので、
また手がそもそも手錠のようなである、ということ。

3 bolt[s]
足かせ(OED 6)。

3 that
関係代名詞。先行詞は2行目の "A Soul".

構文は、A Soul that stands fetter'd
In Feet. "fetter'd In Feet" は分詞構文。
魂がstandsしているようすを説明。

5 blinded with an Eye
肉体的部品である目によって現世的なものが見えるから、
逆に精神的、霊的な(魂が本来求めているような)
ものが見えない、という逆説。

6 drum[ming]
太鼓のように鳴りひびく、反響する(OED 4)。

6 Deaf with the drumming of an Ear
肉体的部品である耳によってこの世の音、人の声などが
聞こえるから、逆に精神的、霊的な(魂が本来求めているような)
音や声が聞こえない、という逆説。

7-8
A Soulの後にbe動詞が省略されている。

10 vain
中身がない、空っぽ、というラテン語から来ている語(OED 語源)。
そこから、真の価値がない(OED 1)、知恵がない(OED 3)、
真の価値がないのにあると思っている、思いたがっている、
つまり、うぬぼれている、虚栄心が強い(OED 4)などの
意味が出てくる。

10 double
裏表がある、という意味で二重の(OED 5)。
ふたつの部分からなる(OED 1a)。ここでは、
心臓が左右にの心室、心房にわかれていること。

13-15
ゴロンと横になってグータラしていたい肉体を、
魂は無理やりしゃんと立たせて人間らしく生活させている、
というような内容。それを拷問の比喩で。

13 stretcht upright
[M]eにかかる分詞構文。このあたり、拷問の描写なので、
詳細は自粛。

(ギリシャやローマの神話、拷問など、あちらの人たちの残虐で
無駄な想像力の豊かさは何なのか・・・・・・。過去の日本に
ついても私が知らない、知りたくないだけ?)

17 where
場所(名詞、OED 14)。ここの構文は、
wanting where to try its spight.

22 anothers
= another's. このanotherとは、からだのこと。

23 complain
他動詞。・・・・・・について悲しむ(OED 1)。
・・・・・・について不満をいう(OED 7)。

23-30
魂にとって死はからだから解放されることであり、
望ましいことであるのだが、からだが病などで
苦しんでいるとき、魂は一生懸命その痛みを
取り除こうとしてしまい、からだからの解放を
みずから妨げてしまう、ということ。

25-26
構文は、all my Care employes its self
[in order] to preserve That which
destroys me.

32 Thou
魂のこと。

40 foregoe
=forgo

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

* * *

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Marvell, "The Fair Singer"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「美しく歌う、美しい人」

わたしを完全に征服するために、
愛はこのように美しい敵を用意してきた。
この敵のなかでは、ふたつの美がわたしの死をもくろみ、
不吉にも見事な調和のなか、共謀している。
つまり、彼女は、目でわたしの心をしばりあげ、
また、声でわたしの精神をとりこにする。

ひとつの点で美しいだけなら、逃げられたはず。
魂を振りほどくことができたであろう、
カールした彼女の髪の網の目を引きちぎって。
だが、どうして奴隷とならずにいられよう。
彼女は、人の理解を超えた見えない技で、わたしの吸う
空気から足かせを編みあげて、それでわたしをしばるのだから。

どこかの戦場で戦うほうがかんたんだ。
勝利の可能性が等しくあって。
だが、彼女にはどれだけ抵抗しても無駄だ。
目と声、というふたつの武器があるのだから。
わたしの軍の敗北は決まっている。
風と光が彼女の味方なのだ。

* * *

Andrew Marvell
"The Fair Singer"

I.
To make a final conquest of all me,
Love did compose so sweet an Enemy,
In whom both Beauties to my death agree,
Joyning themselves in fatal Harmony;
That while she with her Eyes my Heart does bind,
She with her Voice might captivate my Mind.

II.
I could have fled from One but singly fair:
My dis-intangled Soul it self might save,
Breaking the curled trammels of her hair.
But how should I avoid to be her Slave,
Whose subtile Art invisibly can wreath
My Fetters of the very Air I breath?

III.
It had been easie fighting in some plain,
Where Victory might hang in equal choice.
But all resistance against her is vain,
Who has th' advantage both of Eyes and Voice.
And all my Forces needs must be undone,
She having gained both the Wind and Sun.

* * *

訳注。

1-6
2行目のso と5行目のThatが対応している構文。

4 fatal
上の訳では、不吉な(OED 4)と訳しているが、
本来は、(わたしの)破滅や死をもたらすような(OED 6)。

11-12
振動する空気、つまり美しい声で、わたしをとりこにする、
ということ。

18 wind and sun
風は彼女の美しい声、太陽は彼女の美しい目の輝き。
実際の戦争においても、風上に、また太陽を背に
陣取ったほうが有利だった、ということに重ねた表現。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

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Marvell, "The Mower to the Glo-Worms"

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「草刈りの若者がホタルにいう」

命あるランプのような君たち、君たちの光のそばで
ナイチンゲールは、闇のなか、すわって、
夏の夜中にずっと、
誰もかなわないような歌を歌う。

田舎の彗星のような君たち、でも君たちは、
戦争や王様の死を予言したりしない。
ただ光って、
草刈りの季節が来たことを告げるだけ。

君たち、ホタルの光が、律儀にも、
さまよう草刈り人たちに道を照らしてくれる。
夜に道を見失って、
鬼火についていって、迷子になっているような人たちに。

でも、そんな親切な光も、もう無駄だ。
ジュリアーナに出会ってしまってからは。
あの子に心を奪われて、
ぼくはどこに帰ればいいかわからないのだから。

* * *

Andrew Marvell
"The Mower to the Glo-Worms"

I.
Ye living Lamps, by whose dear light
The Nightingale does sit so late,
And studying all the Summer-night,
Her matchless Songs does meditate;

II.
Ye Country Comets, that portend
No War, nor Princes funeral,
Shining unto no higher end
Then to presage the Grasses fall;

III.
Ye Glo-worms, whose officious Flame
To wandring Mowers shows the way,
That in the Night have lost their aim,
And after foolish Fires do stray;

IV.
Your courteous Lights in vain you wast,
Since Juliana here is come,
For She my Mind hath so displac'd
That I shall never find my home.

* * *

牧歌における羊飼いを草刈りの若者におきかえたもの。

* * *

タイトル Glo-Worms
Glow-worm

2 Nightingale
鳥の名。きれいな声で夜に(昼にも)鳴く。
ロングマン版全詩集(ed. N. Smith)の注によれば、
満たされない恋愛を象徴的にあらわす(Alpers,
What Is Pastoral? 56, n31参照)とのこと。

(テーレウスとピロメラの話は、ここでは
特に想起されていないよう。)

3-4
構文は、And [the nightingale], studying [. . .],
does meditate Her matchless Songs all the Summer-night,

3 studying
構文的には自動詞の分詞構文だが、意味的には
Her matchless Songsを目的語とする他動詞のような感じ。

(誰もかなわないような歌)を成し遂げようとする(OED 11)
(誰もかなわないような歌)のために頭を使う(OED 14)

4 meditate
心の中で考える(OED 2)。ただ、歌について使うときには、
実際に歌ったり、楽器を鳴らしたりすることをあらわすことが
多いように思う。ミルトンの『仮面劇』(『コウマス』)の
547行目など参照。

5 Comet[s]
彗星。迷信的に、不思議な災いや不幸の予兆とされた
(OED 1)。

8 the Grasses fall
= the Grasses' fall.

Fussell, Theory of Prosody in 18the Century England
の議論にしたがうなら(したがうべきと思う)、ロングマン版の
grass' は誤り。これでは一音節足りない。

(ジョンソンの頃には、そのような不規則もOKだったが、
17世紀が進むにつれて、音節数の統一についての意識が
高まっていった。)

ここでのgrassesは、干し草をつくるような草(OED 2c)。

ホタルが草が刈られることを告げる、というのは、
プリニウス曰く、ホタルがあらわれるころに
大麦などを刈り、そしてそこにキビなどを植えるから
(ロングマン板、p. 140の解説参照)。

15 displac[e]
(何かから)その場所を奪ってそこに入る、
占領する(OED 3b)。

* * *

英文テクストは、Miscellaneous Poems by Andrew
Marvell, Esq. (1681, Wing M872) より。

(.pdfを.htmlに変換した際のエラーと思われる
箇所だけ修正。sをfに。)

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Marvell, "Horatian Ode" (2)

アンドリュー・マーヴェル (1621-78)
「ホラティウス風のオード
--クロムウェルがアイルランド遠征から戻った折に--」より (2)

そこから王家の役者は運ばれ、
悲劇の処刑台を彩ることになる。
そんな彼をとり囲み、武装した兵士たちが、
血にまみれた手で拍手する。
彼は、卑しく醜いまねなど一切しなかった、
あの、忘れらない場面で。
処刑の斧の刃よりもさらに鋭い目で、
その斧の切れ味を彼は確認した。
ありがちなように、恨みがましく神々に訴え、
失われるほかない王権への支持を乞うことなどなかった。
彼は、ただ、その美しい頭を横たえた、
まるで、ベッドの上にいるかのように。
これこそ、まさに忘れられない瞬間、
この瞬間に、武力によって権力が立てられたのだ。
だから、共和国という宮殿を
建てるべく仕事にとりかかったとき、
その基礎にあった血を流す頭が
恐ろしくて、設計者たちは逃げてしまった。
だが、その頭にこそ、国家は
みずからにほほえみかける運命を見たのだ。
(53-72)

* * *

Andrew Marvell
From "An Horation Ode upon
Cromwel's Return from Ireland" (2)

That thence the Royal Actor born
The Tragick Scaffold might adorn:
While round the armed Bands
Did clap their bloody hands.
He nothing common did or mean
Upon that memorable Scene:
But with his keener Eye
The Axes edge did try:
Nor call'd the Gods with vulgar spight
To vindicate his helpless Right,
But bow'd his comely Head,
Down as upon a Bed.
This was that memorable Hour
Which first assur'd the forced Pow'r.
So when they did design
The Capitols first Line,
A bleeding Head where they begun,
Did fright the Architects to run;
And yet in that the State
Foresaw it's happy Fate.
(53-72)

* * *

チャールズ一世処刑の場面。

* * *

訳注と解釈例。

53 the Royal Actor
チャールズ一世のこと。処刑 = 劇、
処刑台 = 劇の舞台、という比喩。

53-54
Thatは、目的をあらわすso that構文のthat.
だから動詞にmightがついてきている。本当は、ここでは
省いている前行から、文と内容がつづいている。

構文は、(so that) born thence, the Royal Actor
might adorn The Tragick Scaffold.

57
構文は、He did nothing common or mean.

58 Scene
105行のActorのところと同様、処刑 = 劇、
処刑台 = 劇の舞台、という比喩。

61 vulgar
ふつうの人の(OED 9)。ふつうの(OED 10)。
ありがちで卑しく醜い(OED 13)。

62 vindicate
復讐する(OED 2)。解放する(OED 3)。
障害や干渉のなか、主張する(OED 4)。

65 Hour
時刻(OED 4a)。

68 Capitol
古代ローマにおいて、最高神ユピテルに捧げられるべく
丘の上に建てられた宮殿カピトリウム。国家を建築物に
たとえる比喩。Capitols = Capitol's.

暴君チャールズを処刑して建てられたイングランド共和国は、
同じく暴君タルクイニウスを追放して建てられた古代の
ローマ共和国になぞらえられることがあった。
(これは当時の新聞Mercurius Politicusの論説に顕著。
特に1650年の刊行直後。)

68 Line
測量に使う糸/ひも(OED 4a)。輪郭(OED 14a)。
設計図(OED 15a)(?)。

69-70
ここでの設計者とは、チャールズ処刑以前の議会(下院)の
粛清にて閉め出された議員たち、また粛清されていなくても、
以降、議会に出席することをやめてしまった者たち。
(国王処刑、王国から共和国への移行に抗議して。
ちなみに、軍の総大将トマス・フェアファックスも、
王の処刑には反対していた。)

実際、議会(下院)は粛清によって1/3ほどのサイズになり、
そこからさらに自主的に政治から身を引く者が多く出たので、
議会の議事進行はかなり困難になった。(上院は廃止された。)

当然、そのような議会や、それが担う政府の正当性や
合法性は、多くの人に認められてはいなかった。

* * *

また追記します。

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