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Stanley "On His Mistresse's Death"

トマス・スタンリー
「愛しい人の死」
(ペトラルカ『カンツォニエーレ 324』)

これまでの仕事に見あう豊かな実りを、
と愛の神がぼくに微笑んでくれそうだった。
ぼくに与えてくれそうだった、
ずっと願ってきた幸せを。
そんな時に、若く美しく咲き誇るぼくの夢とあの子は、
枯れて死んだ。ぼくのものにならなかった。

意地悪な死は、あつかましくも強引に
かわいいあの子をぼくから引き離した。
裏切り者の生は命の鎖でぼくを縛って、
あの子のところに行かせてくれない。
何に頼ればいい?
生も死も敵だったら?

いえ、愛の神さま、ごめんなさい、強く輝くあなたにとって、
生と死の思惑などお笑い種でしたね……。
あの子は墓と結ばれてなどいない。
ぼくも悲しみと結ばれてなどいない。
愛の神が結んだふたりだから、生も死も引き離せない。
あの子はぼくのなかに生き、ぼくはあの子のなか、死んだ。

*****
Thomas Stanley
"On His Mistresse's Death"
(Petrarch, Canzoniere 324)

Love the Ripe Harvest of my toils
Began to cherish with his Smiles
Preparing me to be indued
With all the Ioyes I long pursued,
When my fresh Hopes fair and full blown
Death blasts ere I could call my own.

Malicious Death why with rude Force
Dost thou my fair from me divorce?
False Life why in this loathed Chain
Me from my fair dost thou detain?
In whom assistance shall I finde?
Alike are Life and Death unkinde.

Pardon me Love thy power outshines,
And laughs at their infirm designes.
She is not wedded to a Tomb,
Nor I to sorrow in her room.
They what thou joyn'st can nere divide:
She lives in me in her I dy'd.

https://quod.lib.umich.edu/e/eebo/A61292.0001.001

*****
ダンテ、ペトラルカ的な、愛しい人の死の主題。
ダンテのベアトリーチェ、ペトラルカのラウラは
人妻だが、ここでは "fresh", "full blown" が
あらわすようにより若い女性が想定されている。

つまり、オウィディウス、アウソニウスらの古典詩、
ポンターノ、セクンドゥスらのネオラテン詩、
ロンサールらのフランス・ルネサンス詩以来の
カルペ・ディエムの主題がダンテ、ペトラルカの
純愛路線に接ぎ木されている。
(すでにロンサールがそのような作品を書いている。)

*****
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Stanley, "Apollo and Daphne"

トマス・スタンリー (1625-1678)
「アポロとダプネ」
(ガルシラーソ・デ・ラ・ベーガおよび
ジョヴァンニ・バッテッスタ・マリーノより)

アポロは見た、ざらざらの木の皮が愛しいダプネを
包み隠していくのを。もう彼女を抱きしめることはできない。
悲しむアポロを見て木の葉は喜び、そしてほほえむ。
彼の涙によって育ち、緑に輝きつつ。
「もう嘆きと悲しみしかない」、アポロはいう、
「泣けば泣くほど、泣く理由がふえていく!」

木になってしまった、しかしそれでも彼を嫌いつづけるダプネに、アポロはキスをする。
そして、愛しい幹から、小枝をひとつ、折ってとる。
望みどおりにダプネを攻め落とすことはできなかったが、
彼はその戦利品、小枝で冠をつくって額を飾る。
こうして冷たい乙女は、アポロの望み、願いを打ち砕く--
愛の果実を望みつつ、彼が手にしたのは木の葉のみ。

* * *
Thomas Stanley
"Apollo and Daphne"
(From Garcilaso de la Vega and
Giovanni Battista or Giambattista Marino)

When Phaebus saw a rugged Bark beguile
His Love, and his Embraces intercept,
The Leaves instructed by his Grief to smile,
Taking fresh Growth and verdure as he wept:
How can, saith he, my woes expect Release,
When Tears, the Subject of my Tears, increase!

His chang'd yet scorn-retaining Fair he kist,
From the lov'd Trunk plucking a little Bough;
And though the Conquest which he sought he mist,
With that Triumphant spoil adorns his Brow.
Thus this disdainful Maid his aim deceives,
Where he expected Fruit he gathers Leaves.

* * *
アポローンとダプネーのエピソードは、
オウィディウス『変身物語』第1巻に。

この詩の要点--
悲しむことでが悲しむ理由がより大きくなる、という逆説 (スタンザ1)
望んだものが手に入らない、という、よくある現実 (スタンザ2)

視点はアポロ。好きでもない人に追われるダプネの恐怖心などは
視野に入っていない。

(参考)
Waller, "Phoebus and Daphne, Applied"
Milton, From A Mask (659-65)

* * *
英語テクストはPoems (1651, Wing S5241) より。

* * *
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