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de la Mare, "The Listeners"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「聞いていた者たち」

「誰かいませんか?」 旅人はいった、
月に照らされたドアをノックして。
あたりの沈黙のなか、馬は草をムシャムシャ食べていた。
シダの生えた森の草を。
小さな塔のところから鳥が飛び立ち、 _5
旅人の上を飛んでいった。
彼は、もう一度ドアをたたいた。
「誰か! 誰かいませんか?」 彼はいった。
誰も旅人のところに降りてこなかった。
葉で縁どられた窓枠から _10
身をのり出して、彼の灰色の目をのぞきこむ者はいなかった。
彼は困惑し、静かに立っていた。
彼の声を聞いていたのは、亡霊たちだけだった。
誰もいないこの家に住んでいたたくさんの亡霊が、
静かに月あかりのなかに立ち、 _15
人の世界からの声を聞いていた。
暗い階段のところ、かすかな月の光に押し寄せるように立って。
誰もいない広間に降りる階段、
そこで亡霊たちは、孤独な旅人の呼ぶ声によって
ゆりおこされ、ふるえる空気に耳を立てていた。 _20
旅人は心に感じていた、家のなかの者たちの不思議さを。
彼の呼ぶ声に答える静けさを。
馬は、暗い草を食べていた、
葉でおおわれた星空の下で。
旅人は感じていた、というのは、突然ドアを強くたたき、より _25
大きな音をたて、そして顔をあげたから。
「伝えてください、ぼくが来て、でも誰も出てこなかった、と。
ぼくは約束を守りました」、と彼はいった。
なかで聞いていた者たちは、ほんの少しも動かなかった。
旅人の発した言葉のひとつひとつが、 _30
陰のなか、音のない家のなか、こだまして落ちていっても。
それは、眠っていなかった者の声--。
それから、家のなかの者たちは聞いた、旅人があぶみに足をかける音、
鉄のひづめが石にひびく音を。
沈黙は、波にゆれながら、静かに、ゆっくり、引きかえしていった。 _35
そして馬のひづめの音は、水に飛びこんで、消えた。

* * *
Walter de la Mare
"The Listeners"

"Is there anybody there?" said the Traveller,
Knocking on the moonlit door;
And his horse in the silence champed the grasses
Of the forest's ferny floor:
And a bird flew up out of the turret, _5
Above the Traveller's head:
And he smote upon the door again a second time;
"Is there anybody there?" he said.
But no one descended to the Traveller;
No head from the leaf-fringed sill _10
Leaned over and looked into his grey eyes,
Where he stood perplexed and still.
But only a host of phantom listeners
That dwelt in the lone house then
Stood listening in the quiet of the moonlight _15
To that voice from the world of men:
Stood thronging the faint moonbeams on the dark stair,
That goes down to the empty hall,
Hearkening in an air stirred and shaken
By the lonely Traveller's call. _20
And he felt in his heart their strangeness,
Their stillness answering his cry,
While his horse moved, cropping the dark turf,
'Neath the starred and leafy sky;
For he suddenly smote on the door, even _25
Louder, and lifted his head:―
"Tell them I came, and no one answered,
That I kept my word," he said.
Never the least stir made the listeners,
Though every word he spake _30
Fell echoing through the shadowiness of the still house
From the one man left awake:
Ay, they heard his foot upon the stirrup,
And the sound of iron on stone,
And how the silence surged softly backward, _35
When the plunging hoofs were gone.

* * *
3
silence: まったく何も聞こえない状態(OED 2a)。
champ: 音を立てて、力強いようすで、食べる。
矛盾している。なぜ?・・・・・・後でわかる。

5 turret
旅人がノックしているのはある程度大きな屋敷で、
その建物の一部として塔のようなところがある。

9 descended
シンプルに、「上の階から階段で」ということ(17行目)。
同時に、旅人がノックしている屋敷の世界は、漠然と
「上」の世界につながっている、というようなイメージも。

11 grey
シンプルに、ヨーロッパ的な、青に近い瞳の色。
あるいは、灰、鉛、陽に照らされていない海や
雲の色ような、生気のない色(OED 1)。

後者でイメージし、そして、なぜ目が灰色?
と考えたほうがおもしろいと思う。(後でわかる。)

12 still
音を立てずに(OED 1)。また静けさの描写。
なぜ?・・・・・・後でわかる。

15 quiet
また静けさ。

17
屋敷の上のほうのまどから月の光線(beam)が
さしてきていて、そこに亡霊が集まってきているようす。
「そこに」というのがあいまいで、ふつうの人のように、
階段の上、月の光のあたっているところに立っている、
ともとれるし、窓から差す月の光そのもののなかに、
つまり亡霊なので宙に浮んで、立っているともとれる。

19 Hearkening in
Hearken inはあいまい。自動詞 + 前置詞か、
あるいは他動詞 + 副詞か。上の日本語訳は、
訳しやすい後者で。

20 strangeness
別の世界に属している、ということ(OED 1-8)。

22 stillness
また静けさ。

31 still
また静けさ。

33―34
旅人の声以外の音が、ここから聞こえはじめる。

35-36
surge: 波にのって上下にゆれる(OED 1)。
plunge: 水に飛びこむ(OED 5a)。
ポイントは、これらの語を文字通りに読むこと。

この詩を通じて強調されている沈黙、音のなさは、
実はこの旅人がひきつれてきたもの、もたらしたもので、
そして旅人とともに帰っていった(35)。

旅人と馬は、おそらく海からやってきていて、そして
海に帰っていった(36)。

4行目、24行目にあるように、ここは森で、実際には
海はない。が、人工的な映像のように、旅人と馬が
去っていく最後の場面にだけ、突然、ぼんやりと
海があらわれて・・・・・・。

* * *
つまり、この詩で語られているのは、次のようなこと。

1.
(たとえば)この旅人はすでに海で死んだ人で、
なんらかの約束を守るために、この屋敷に戻ってきた。

2.
が、その約束を交わした相手の「彼ら」もすでに死んで
しまっていた。

3.
この果たされなかった再会の現場を、まったく異質
(strange)で正体不明な亡霊たちが目撃していた。

* * *
この詩のポイントは、

(1)
旅人
旅人が会いに来た相手の人々
亡霊たち

という三者の関係。実は、みんなこの世にいない。

(このあたりの発想が、デ・ラ・メアならでは、なのでは。)

(2)
「果たされなかった約束」、あるいは、「死んでしまって
からでも約束を果たそうとする」ということのメロドラマ性。

(1) の設定があるから、甘ったるく感じられない。

(3)
果たされなかった再会の現場にいた亡霊たち、
まったく無関係な傍観者で、ただ旅人の話を聞いていた
亡霊たち("The Listeners")を、話の中心に、
そしてタイトルに、もってきていること。

恐ろしい感じ、嫌な感じがまったくしないと同時に、
まったく受け身で、ギリギリ存在が感じられるだけの
ような、この「亡霊」たちを主人公とすることで、
幻想的なエピソードに、さらになんともいえない独特の
幻想的な雰囲気が加わる。

* * *
英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。


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de la Mare, ("O for a moon to light me home!")

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「歌」(「家まで道を照らしてくれる月がほしい!」)

家まで道を照らしてくれる月がほしい!
緑のランプがほしい!
プレアデスみたいなきれいな星たちがほしい、
うす暗い木のなかでキラキラ光るような。
片思いのろうそくがほしい! ああ、
緑のランプがほしい!

タータン・チェックのドレスがほしい!
透き通っていて、わがままな、灰色の目がほしい!
スミレみたいに軽やかな指がほしい、
クロウタドリがゆらす枝の下のスミレみたいな。
イバラでいっぱいの牧場がほしい! ああ、
透き通っていて、わがままな、灰色の目がほしい!

アーモンドの枝のような心がほしい!
雨のようにすてきな思いがほしい!
曇りの日の野原のような初恋がほしい、
夜明けにまだ閉じている四月のつぼみのような初恋が!
音楽のような眠りがほしい!
雨のように静かな夢がほしい!

* * *
Walter de la Mare
"Song" ("O for a moon to light me home!")

O for a moon to light me home!
O for a lanthorn green!
For those sweet stars the Pleiades,
That glitter in the twilight trees;
O for a lovelorn taper! O
For a lanthorn green!

O for a frock of tartan!
O for clear, wild, grey eyes!
For fingers light as violets,
'Neath branches that the blackbird frets;
O for a thistly meadow! O
For clear, wild grey eyes!

O for a heart like almond boughs!
O for sweet thoughts like rain!
O for first-love like fields of grey,
Shut April-buds at break of day!
O for a sleep like music!
For still dreams like rain!

* * *
2, 6 a lanthorn green
3-4にある、木々のあいだから差す星の光に
似たようなものとして?

3 the Pleiades
すばる星団。ギリシャ神話では七人の姉妹が星に
なったもの。すばるだけではないが、夜空に輝く
星の群れは、夜の木々のあいだから差す光
(あるいはそれがところどころで葉に反射したもの)に、
似ている。

13 almond
アーモンドの実には、甘いものと苦いものがある(OED 1)。
アーモンドの花はうすいピンクで、そこからアーモンドの
木は白髪にたとえられる(OED 10)。

(実際、アーモンドの花は、五分咲きくらいの桜のよう。)


By י.ש.
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shaked02.jpg

* * *
わかるようでわからない、素朴できれいで、
ときどき矛盾しているような表現の数々。

家まで道を照らしてくれる月
緑のランプ
片思いのろうそく、
透き通っていて、わがままな、灰色の目
スミレみたいに軽やかな指
イバラでいっぱいの牧場
アーモンドの枝のような心
雨のようにすてきな思い
曇りの日の野原のような初恋
夜明けにまだ閉じている四月のつぼみのような初恋
音楽のような眠り
雨のように静かな夢

何かを象徴しているようで、でも特に深い意味や思想が
なさそうなところがいいのでは。

* * *
英語テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545

* * *
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de la Mare, "Bluebells"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「青いツリガネスイセン」

青いツリガネスイセンがあって、風が吹いているところで
妖精たちが手をつないで輪になっているのを、ぼくはこっそり見た。
それから、小さなムネアカヒワが
近くで鳴いているのも聞こえた。

サクラソウが咲き、露がおりているところでは、
妖精たちはすぐに追い出されてしまった。
今では緑の草が新しく生えて輝き、
ムネアカヒワが呼んでいるだけ。

* * *
Walter de la Mare
"Bluebells"

Where the bluebells and the wind are,
Fairies in a ring I spied,
And I heard a little linnet
Singing near beside.

Where the primrose and the dew are,
Soon were sped the fairies all:
Only now the green turf freshens,
And the linnets call.

* * *
(ツリガネスイセン)

By MichaelMaggs
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Hyacinthoides_non-scripta_(Common_Bluebell).jpg


(c)Copyright Oast House Archive
http://www.geograph.org.uk/photo/1861070

(サクラソウ)

By BerndH
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Primula_veris_170405.jpg


By Teun Spaans
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Primula-vulgaris-flowers.jpg

* * *
スタンザ1-2のあいだの変化は、以下の通り。

青いツリガネスイセ --> 黄色いサクラソウ、緑の草
妖精が輪になって(踊って)いる --> 追い出されてどこかに行った
風 --> 露
ムネアカヒワが歌っている --> 呼んでいるだけ

これらの変化は何をあらわす?

* * *
7行目のOnlyも重要。

緑の草が新しく生えて輝いている「だけ」。
ムネアカヒワが呼んでいる「だけ」。

ふつうに考えたら、これら「だけ」でも十分楽しげなはず。

* * *
英語テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545

* * *
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de la Mare, "Bunches of Grapes"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「ブドウをたくさん」

「ブドウをたくさん」、とティモシー。
「ピンクのザクロ」、とエレイン。
「わたし、ミルクのデザートとクランベリー・タルトが
いい」、とジェイン。

「クロタネソウ」、とティモシー。
「白いサクラソウ」、とエレイン。
「わたし、ナデシコとモクセイソウの花束が
いい」、とジェイン。

「金の戦車」、とティモシー。
「銀の羽」、とエレイン。
「わたし、干し草を運ぶ車にのってデコボコ道を
いきたい」、とジェイン。

* * *

Walter de la Mare
"Bunches of Grapes"

'Bunches of grapes,' says Timothy;
'Pomegranates pink,' says Elaine;
'A junket of cream and a cranberry tart
For me,' says Jane.

'Love-in-a-mist,' says Timothy;
'Primroses pale,' says Elaine;
'A nosegay of pinks and mignonette
For me,' says Jane.

'Chariots of gold,' says Timothy;
'Silvery wings,' says Elaine;
'A bumpity ride in a wagon of hay
For me,' says Jane.

* * *

英語テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545

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de la Mare, "The Buckle"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「バックル」

銀のバックルがあって、
それを靴に縫ってつけた。
そしてヤドリギの枝の下で
夕暮れ時にずっと踊った。

クリンザクラの束があって、
それをほら穴に隠した。
妖精たちが夜にやってきて、
わたしのことを思い出してくれるように。

黄色のリボンがあって、
それを髪に結んだ。
庭を歩いてるときに、
鳥たちに見えるように。

秘密の笑い方があって、
壁のそばでそんなふうに笑った。
ツタと風だけが、
それを知っている。

* * *

Walter de la Mare
"The Buckle"

I had a silver buckle,
I sewed it on my shoe,
And 'neath a sprig of mistletoe
I danced the evening through!

I had a bunch of cowslips,
I hid 'em in a grot,
In case the elves should come by night
And me remember not.

I had a yellow riband,
I tied it in my hair,
That, walking in the garden,
The birds might see it there.

I had a secret laughter,
I laughed it near the wall:
Only the ivy and the wind
May tell of it at all.

* * *

3 mistletoe
ヤドリギ。


By David Monniaux
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Mistletoe_P1210829.jpg

クリスマスの日にこの木の下に立っている女の子には
キスしていいという風習がある。ということもあって、
クリスマスの装飾に使われる。
https://www.google.co.jp/search?um=1&
tbm=isch&q=%22sprig+of+mistleto%22&gs_l=
img.3...18663.20231.0.20305.2.2.0.0.0.0.234.
234.2-1.1.0...0.0...1c.1.6pKOLs-IfCc&biw=
835&bih=426&sei=UtdUUJTMA-WfiAeGvYHIBw

5 cowslip
クリンザクラ。


By Bob Danylec
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Cowslips._-_geograph.org.uk_-_162051.jpg

* * *

英文テクストはSongs of Childhood (1902) より。
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de la Mare, "Reverie"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「夢想」

ほっそりしたソフィアが馬に乗り、
木々で縁どられた道を行くとき、
心のなかのメロディに、
彼女は、あわせているかのよう。

一歩一歩、蹄を高く上げて歩く、
暗く房をなす松の下。
銀の光線が、馬のハミと
くつわのなかに光る。

馬の目のなか、炎が燃える。彼の尾は弧を描き、
木陰の空気のなかを流れる。
日差しが、彼の漆黒の胴をやさしくなでる。
彼に乗る彼女の髪も。

彼女の服は、影をつくって下に流れる。
あぶみには静かに彼女の足が。
彼女は上を向く。まるで大地のことなど
気にしていないかのように。

道に音はなく、
憂鬱な松の木々も歌わない。
青は暗く、そよ風も流れていない、
枝のあいだを。

ほっそりしたソフィアが馬に乗り、
木々で縁どられた道を行くとき、
心のなかのメロディに、
彼女は、あわせているかのよう。

* * *

Walter de la Mare
"Reverie"

When slim Sophia mounts her horse
And paces down the avenue,
It seems an inward melody
She paces to.

Each narrow hoof is lifted high
Beneath the dark enclust'ring pines,
A silver ray within his bit
And bridle shines.

His eye burns deep, his tail is arched,
And streams upon the shadowy air,
The daylight sleeks his jetty flanks,
His mistress' hair.

Her habit flows in darkness down,
Upon the stirrup rests her foot,
Her brow is lifted, as if earth
She heeded not.

'Tis silent in the avenue,
The sombre pines are mute of song,
The blue is dark, there moves no breeze
The boughs among.

When slim Sophia mounts her horse
And paces down the avenue,
It seems an inward melody
She paces to.

* * *

(メモ)

ソフィアって誰? おとぎ話に出てくる誰か?
デ・ラ・メアの母のこと?(母の名はソフィア。)
(この詩が収められているのは『子どものころの歌』
という詩集。)

道の(松の)描写が暗いのは、なぜ。

* * *

英文テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545

* * *

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de la Mare, "Faint Music"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「かすかな音楽」

弧を描く静かな彗星。音のない雨。
霧が、黙ったまま、動かない堀の水と親しく話している。
放っておかれた花のためいき。
あのベルの聞こえない音色。

内に隠れた自分が騒ぎ出す。その眠りは破られて。
愛の秘密が、水晶のように、子宮のなかに生まれる。
心臓は裏切ることなく脈打つ、口に出して誓わなくても。
すべての音は、静寂に向かう。

* * *

Walter De la Mare
"Faint Music"

The meteor's arc of quiet; a voiceless rain;
The mist's mute communing with a stagnant moat;
The sigh of a flower that has neglected lain;
That bell's unuttered note;

A hidden self rebels, its slumber broken;
Love secret as crystal forms within the womb;
The heart may as faithfully beat, the vow unspoken;
All sounds to silence come.

* * *

声や音を発することがなくても、表に見えなくても、
何かが起こっている、ということをいろいろなかたちで
表現した作品。

思うに、ワーズワース、シェリーら、ロマン派以降の
イギリス詩の直系、という雰囲気。

(テニソン、ロセッティなど、ヴィクトリア朝詩人の
センチメンタルな雰囲気も加わっていて。)

* * *

5
構文は、A hidden self rebels, its slumber [being] broken.

6
構文は、主部: Love secret/述部: forms (自動詞)

7
構文は、The heart may as faithfully beat,
the vow [being] unspoken, [as when it is spoken].

[口に出して誓ったときと同じくらいに]、心臓は裏切ることなく脈打つ、
誓いを口に出さなくても。

誓いを口に出しても出さなくても、それを守る意志は同じ、ということ。

* * *

個人的にデ・ラ・メアの詩には、シドニー、シェリー、
イェイツなどに通じるような、さりげなくきれいに言葉を
並べるセンスのようなものを感じる。

子ども向けの物語や、幻想的、怪奇的な小説なども
書いており、大詩人という雰囲気ではないが、
彼の詩は、イェイツ、パウンド、オーデンら、
いわゆる大詩人たちによって高く評価されていた。

* * *

英文テクストは、Walter De la Mare, Collected Poems
(1941) より。

* * *

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de la Mare, "When the Rose is Faded"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「バラが枯れても」

バラが枯れても、
思い出は、まだそばにいる。
かげってしまった美しさの、
消えてしまった香りの、そばに。

そんな消えゆく美しさ、
重くなる香りは、
もう生にしばられず、
死を悲しむこともない。

永遠に消えない想い、
その強い気持ちがいつも、
移りゆくものの
変化を止める。

そのように、君の美しさは、
わたしにとって、この世でいちばんのきれいな君は、
悲しみに暗くなることなく、輝き、
燃える、君とともに。

* * *

Walter de la Mare
"When the Rose is Faded"

When the rose is faded,
Memory may still dwell on
Her beauty shadowed,
And the sweet smell gone.

That vanishing loveliness,
That burdening breath,
No bond of life hath then,
Nor grief of death.

'Tis the immortal thought
Whose passion still
Makes the changing
The unchangeable.

Oh, thus thy beauty,
Loveliest on earth to me,
Dark with no sorrow, shines
And burns, with thee.

* * *

バラネタ、時間ネタ、の20世紀版。

* * *

6 breath
4行目のthe sweet smellのこと。
8行目のdeathと韻を踏むためにこの語に。

10, 12
各スタンザの2行目と4行目で脚韻を踏んでいるが、
ここだけ不完全。

[S]till(「いつも、常に」という古い意味)と
unchangeable(変化しえない)のあいだの明確な
意味のつながりを、ここでは音より優先している。

* * *

英文テクストは、ウェブサイトPoets' Cornerより。
http://theotherpages/poems/

* * *

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de la Mare, "The Sleeping Beauty"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「眠り姫」

キイチゴの香りで、空気が甘い。
シーツにつつまれて、彼女は眠る。
彼女の髪は、夕暮れの金色、
彼女の瞳は、夜明けの青。

いったい何回、姿を変える月が照らしたことか、
いつも変わらぬ、バラ色の彼女の顔を。
彼女の鏡もいつもそこに、
静かに、銀色に輝く日々のなか。

うすい羽の蛾が、軽やかに、
ひとりぼっちのベッドに飛んでいく。
コオロギは夕べの歌を歌う、
彼女の髪の、動かない影のどこかから。

暑さ、雪、風、洪水のなか、
彼女は眠る、美しく、ひとりで。
少し顔を出して、四月の芽が眠るように、
冬の精にとり憑かれた木々の上で。

* * *

Walter de la Mare
"The Sleeping Beauty"

The scent of bramble sweets the air,
Amid her folded sheets she lies,
The gold of evening in her hair,
The blue of morn shut in her eyes.

How many a changing moon hath lit
The unchanging roses of her face!
Her mirror ever broods on it
In silver stillness of the days.

Oft flits the moth on filmy wings
Into his solitary lair;
Shrill evensong the cricket sings
From some still shadow in her hair.

In heat, in snow, in wind, in flood,
She sleeps in lovely loneliness,
Half folded like an April bud
On winter-haunted trees.

* * *

英文テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545

* * *

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de la Mare, "Winter"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「冬」

雪と雲の陰のなか、
冷たい風が吹く。
甲高く、葉のない枝で、
燃えるような胸をしたコマドリが、
ひとり、今、歌う。

光の筋を失った太陽が、
一日の旅を終え、
引き潮のような最後の光を投げかける、
遠くまで広がるきれいな野原に、
白く、別世界のような。

闇が濃く集まり、
ひとつひとつ、火花を散らしながら、
霜の炎に火をつける。そして、すぐ、
この白く凍える泡の海の上に
白い月が浮かぶ。

* * *

Walter de la Mare
"Winter"

Clouded with snow
The cold winds blow,
And shrill on leafless bough
The robin with its burning breast
Alone sings now.

The rayless sun,
Day's journey done,
Sheds its last ebbing light
On fields in leagues of beauty spread
Unearthly white.

Thick draws the dark,
And spark by spark,
The frost-fires kindle, and soon
Over that sea of frozen foam
Floats the white moon.

* * *

4
コマドリの胸は赤い。

8 ebbing
第3スタンザの「野原=海」の比喩はここからはじまっている。

12-13
夜の闇のなか、霜が光るようすを、火花や火にたとえて。

14 sea of frozen foam
霜の降りた野原のこと。

* * *

英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031

* * *

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de la Mare, "Autumn"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「秋」

今は風が吹くだけ、かつてバラが咲いたところに。
冷たい雨が降るだけ、かつて香る草があったところに。
羊のような雲が
流れる、高い
灰色の空に。かつてひばりが飛んだところに。

もう金色がない、君の髪があったところに。
もうぬくもりがない、君の手があったところに。
幻だけが、ひとり残っている、
いばらの下に。
君の霊だけがある、かつて君の顔があったところに。

悲しく風が鳴る、君の声のかわりに。
涙、涙があるだけ、かつてわたしの心があったところに。
いつも一緒に、
君よ、いつまでも一緒にいてほしい。
沈黙があるだけ、かつて希望があったところに。

* * *

Walter de la Mare
"Autumn"

There is a wind where the rose was;
Cold rain where sweet grass was;
And clouds like sheep
Stream o'er the steep
Grey skies where the lark was.

Nought gold where your hair was;
Nought warm where your hand was;
But phantom, forlorn,
Beneath the thorn,
Your ghost where your face was.

Sad winds where your voice was;
Tears, tears where my heart was;
And ever with me,
Child, ever with me,
Silence where hope was.

* * *

英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031

* * *

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de la Mare, "Silver"

ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「銀」

ゆっくりと、静かに、月が今、
銀の靴で夜を歩く。
こっちに、あっちに、彼女は顔を出し、
銀の木々の銀の果実をながめる。
ひとつずつ、窓はつかまえる、
彼女の光を、銀のわらぶき屋根の下で。
犬小屋では、丸太のように、
銀の足の犬が眠る。
陰につつまれた小屋から、白い胸が見える、
鳩たちだ、銀の羽をして眠っている。
刈り入れ時だから、ネズミも走りまわっている、
銀の爪をして、片目を銀に光らせて。
水のなか、動かない魚が光る、
銀の葦のそば、銀の川のなかで。

* * *

Walter de la Mare
"Silver"

Slowly, silently, now the moon
Walks the night in her silver shoon;
This way, and that, she peers, and sees
Silver fruit upon silver trees;
One by one the casements catch
Her beams beneath the silvery thatch;
Couched in his kennel, like a log,
With paws of silver sleeps the dog;
From their shadowy cote the white breasts peep
Of doves in a silver-feathered sleep;
A harvest mouse goes scampering by,
With silver claws and a silver eye;
And moveless fish in the water gleam,
By silver reeds in a silver stream.

* * *

銀silverという語と、静寂(なにも音がないときの
シーン、という音)をあらわす/s/音を多用し、
静かで神秘的な夜の雰囲気を表現した作品。

* * *

2 her
月は、女神アルテミス/ディアナ/シンシアとして
擬人化されるから「彼女の」。

12
片目なのは、eyeとbyで脚韻を踏むため。

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英文テクストは、ウェブサイトPoets' Cornerより。
http://theotherpages/poems/

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