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Dryden, "A Song for St. Cecilia's Day, 1687"

ジョン・ドライデン
「1687年度 聖セシリア祭の歌」

(スタンザ 1)
調和が、調和したメロディが、天からあふれ、
そこからこの世がつくり出された。
〈自然〉はぶつかりあう原子の山に
埋もれていて、
頭をあげることすらできなかった。
その時、天から歌声が聞こえてきた、
「立ちあがれ! 死んでいる以上に死んでいる者たちよ!」
すると、冷と熱、湿と乾が
それぞれ飛びあがって、己のあるべき場所に収まった。
これこそまさに音楽の力。
調和が、調和したメロディが、天からあふれ、
そこからこの世がつくり出された。
メロディからメロディへと歌が流れ、
すべての音が鳴り響くなかで世界は生まれ、
そして人間をつくり出して歌は終わった。

(スタンザ 2)
音楽はあらゆる感情を引きおこす! そして鎮める!
貝殻に弦をつけてユバルが鳴らした音を聞き、
まわりにいた兄弟たちは
地に顔をつけて拝みだした。
天からの音だと思ったのだ。
神に違いないと思ったのだ、
貝殻のなかにいて
そのように美しい声で話すことができるのは。
音楽はあらゆる感情を引きおこす! そして鎮める!

(スタンザ 3)
響きわたるトランペットの高音は
戦いを駆りたてる、
「死ぬ気で戦え!」
と怒って叫びながら。
ドドン、ドドン、ドドン
と雷のように太鼓も鳴り、
叫ぶ、「敵が来た!
突撃だ! 退却する暇があったら突っこめ!」

(スタンザ 4)
静かで悲しげなフルートは、
死にそうに弱々しい音を奏でて
男たちの報われない恋を歌う。
彼らが息絶えればリュートがささやき声で弔いの歌を捧げる。

(スタンザ 5)
ヴァイオリンは鋭い音で
恋する男の嫉妬と絶望と
気も狂わんばかりの怒りと憤りと
底なしの苦痛と舞いあがる激情を歌う。
彼の貴婦人は美しく、そして冷たいのだから。

(スタンザ 6)
おおお! どうしたって
人の声では届かない、
神を称える聖なるパイプオルガンには!
神への愛をかきたてるその音色!
羽ばたくように天を舞い、
天使の合唱に色を添える!

(スタンザ 7)
オルペウスは獣たちを導いた。
木々も根を引き抜いて彼について行った。
みな彼の竪琴のいいなりだった。
だが輝かしきセシリアは、さらに大きな奇跡をなしとげた。
人のように歌うパイプオルガンをつくったのだ。
その音を聞き、天使がすぐにやってきた、
大地を天国とまちがえて。

(大合唱)
聖なる光に突き動かされて
星たちはめぐりはじめ、
偉大なる創造主を称えて歌った、
天にいるすべての者たちに向かって。
逆に、今度はあの恐ろしい最後の時が来て、
この世の舞台がのみこまれるとき、
トランペットが天から鳴り響き、
死者が生き返り、生きている者は死に、
そして空はおおいに乱れるであろう。

*****
John Dryden
"A Song for St. Cecilia's Day, 1687"

Stanza 1
From harmony, from Heav'nly harmony
This universal frame began.
When Nature underneath a heap
Of jarring atoms lay,
And could not heave her head,
The tuneful voice was heard from high,
Arise ye more than dead.
Then cold, and hot, and moist, and dry,
In order to their stations leap,
And music's pow'r obey.
From harmony, from Heav'nly harmony
This universal frame began:
From harmony to harmony
Through all the compass of the notes it ran,
The diapason closing full in man.

Stanza 2
What passion cannot music raise and quell!
When Jubal struck the corded shell,
His list'ning brethren stood around
And wond'ring, on their faces fell
To worship that celestial sound:
Less than a god they thought there could not dwell
Within the hollow of that shell
That spoke so sweetly and so well.
What passion cannot music raise and quell!

Stanza 3
The trumpet's loud clangor
Excites us to arms
With shrill notes of anger
And mortal alarms.
The double double double beat
Of the thund'ring drum
Cries, hark the foes come;
Charge, charge, 'tis too late to retreat.

Stanza 4
The soft complaining flute
In dying notes discovers
The woes of hopeless lovers,
Whose dirge is whisper'd by the warbling lute.

Stanza 5
Sharp violins proclaim
Their jealous pangs, and desperation,
Fury, frantic indignation,
Depth of pains and height of passion,
For the fair, disdainful dame.

Stanza 6
But oh! what art can teach
What human voice can reach
The sacred organ's praise?
Notes inspiring holy love,
Notes that wing their Heav'nly ways
To mend the choirs above.

Stanza 7
Orpheus could lead the savage race;
And trees unrooted left their place;
Sequacious of the lyre:
But bright Cecilia rais'd the wonder high'r;
When to her organ, vocal breath was giv'n,
An angel heard, and straight appear'd
Mistaking earth for Heav'n.

GRAND CHORUS
As from the pow'r of sacred lays
The spheres began to move,
And sung the great Creator's praise
To all the bless'd above;
So when the last and dreadful hour
This crumbling pageant shall devour,
The trumpet shall be heard on high,
The dead shall live, the living die,
And music shall untune the sky.

https://www.poetryfoundation.org/poems-and-poets/poems/detail/44185

*****
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From Dryden, All for Love, 2.1

ジョン・ドライデン
『すべて愛のために』 2幕1場より

アントニウス:
おお、クレオパトラ、少し話そう。

クレオパトラ:
少し話して、
そして、さよならなの?

アントニウス:
そうだな。

クレオパトラ:
どうして?

アントニウス:
運命なんだ。

クレオパトラ:
運命なんて、あたしたちしだいじゃない。

アントニウス:
そう、俺たちしだいだ。で、これまでふたり愛しあって、
たがいに破滅させあってきたんだ。

クレオパトラ:
神さまたちが、幸せそうなあたしたちを妬んで嫌がらせしてきたのよ。
天国にはあたし、友だちがいないの。この世の人たちもみんな、
よってたかってあたしたちを引き裂こうとしてるし。
みんなあたしの愛の敵、そうよ、あなたも敵になってしまったのね。
みんないっしょ、敵なのよ。

アントニウス:
俺は正しいことをしてるんだ。
後々のためにな。だから聞いてくれ。
もし、俺の話にひとつでも
嘘があったら、すぐにいってくれ。
でなければ、だまって聞いていてくれ。

クレオパトラ:
命令なのね。
わかったわ。

ウェンティディウス:
(傍白) これはいい感じだ。彼のほうが上に立ってる。

アントニウス:
おまえひとりのために、
俺が破滅するなんて・・・・・・

クレオパトラ:
え? ひどい! あたしのためにあなたが破滅?

アントニウス:
だまってる、っていう約束だろ。あっという間に
破ってるじゃないか。

クレオパトラ:
そうね、わかったわ。

アントニウス:
おまえに最初に会ったのは、エジプトだった。
カエサルがおまえに会うずっと前のことだ。おまえは俺を愛してたはずだが、
若すぎて、それに気づいてなかった。俺はおまえの父に
王位をとりもどしてやった。おまえのためにな。
やがて時が来たら言おうと思っていたことだ。
そこにカエサルが割りこんできて、あつかましくも
青い果実をもぎとっていった。赤く頬を染める前、
まだ枝にくっついてるときに、だ。確かに、俺はあの方の部下だったし、
偉い人で俺には歯が立たなかった。
が、もともとおまえにふさわしかったのは俺だ。あの方の女になってしまっても、な。
その後、敵の国キリキアで
また会ったよな。そこで俺はおまえを許した。

クレオパトラ:
あたし、悪いことなんてしてないわ--

アントニウス:
ほら、また約束を破る。
俺はそれでもおまえを愛しつづけた。たわいもない言い訳を聞いてやった。
カエサルに汚されたおまえを胸に抱いてやった。
半分俺のものではなかったのに。おまえといっしょにエジプトに行き、
世界から身を隠した。
国々の詮索など気にせず、
長い年月をおまえに捧げた。

ウェンティディウス:
(傍白) そう、そのとおり。ほんとはずかしい。

アントニウス:
俺がどれだけおまえを愛していたか、
おまえと踊ってすごした日々と夜、
すべての時間がその証人だ。
俺が何回おまえを愛したか、時が数えてるはずだ。
愛しあっているあいだに一日がすぎていった。
次の日も、次の日もそう、ただひたすら愛しあっていた。
太陽だって、愛しあう俺たちを見て、またか、って感じだった。
それでも、俺は飽くことなくおまえを愛しつづけた。
おまえに毎日、一日中会っていた。
しかも毎日が、いつもはじめて会った日のようだった。
それくらい俺は、いつも、もっともっとおまえに会いたかった。

ウェンティディウス:
(傍白) そうそう、まさにそのとおりです。

アントニウス
俺の妻のフルウィアにとっては嫌な話だった。
当然だな。だからあいつはイタリアで戦争をおこし、
俺を呼び戻そうとした。

ウェンティディウス:
(傍白) でも、
あなたは行きませんでした。

アントニウス:
おまえの腕に抱かれてると、
世界が砂時計の砂みたいに俺の手から落ちてくんだ。
そしてほとんど何も残ってない、ってな。ありがとよ。

ウェンティディウス:
(傍白) いい突きです。これは効いたはず。

クレオパトラ:
でも、ねえ、話していい?

アントニウス:
もし俺が嘘を言ってたらな。じゃなかったらダメだ。
何も言えないよな。みんな本当のことだからな。で、フルウィアは死んだ。
(許してくれ、神々よ、俺が悪かったんだ。)
世の中をいろいろ落ち着かせるために、次に俺はオクタウィアと結婚した。
生きてるほうのカエサル、オクタウィアヌスの姉ちゃんな。若さの盛りで、
いちばんきれいなときに、俺はこの女と結婚した。
ほめてるけど、恥ずかしい話だ。俺はこいつも棄てたんだからな。
おまえが呼んだからだ。おまえを愛してたから俺は来てしまったが、これが致命的だった。
これでローマと戦うことになった。おまえのせいだ。
俺は陸で戦うつもりだった。そのほうが分があった。
なのに、おまえは邪魔した。しかも、おまえのために海で戦ってたときに、
おまえは俺を置き去りにした。そして、ああ、なんという不名誉!
末代までの恥さらしとはまさにこのこと! 自分でも気づかないうちに、
俺も逃げてしまってた。おまえを追いかけて、な。

ウェンティディウス:
本当に大あわてでこの女は深紅の帆を広げてましたよね!
しかも、逃げる姿まで立派に見せようとして、
我々の軍の半分を連れていってしまいました。

アントニウス:
みんなおまえのせいだ。
で、さらなる破滅を俺にもたらしたいのか?
この立派な男、俺のいちばんの、いや、唯一の友であるこの男は、
難破してぼろぼろ散り散りになった俺の命運をかき集めてきてくれた。
あと十二の部隊が残っている。俺の最後の兵士たちだ。
なあ、それを見たんだろ。で、そいつらもたらしこんで
奪いにきたんだろ? もし言いたいことがあるなら、
今のうちに言うんだな。

アレクサス:
(傍白) かくして女は言葉を失い、立ちつくす。
その目に浮かぶは絶望の色・・・・・・。

ウェンティディウス:
(傍白) さあ、来るぞ。ため息ひとつでアントニウスを通せんぼ、
涙一粒で彼の部隊を横どり、ってか?
ほんとにそうなっちゃいそうだから困るよな。

クレオパトラ:
あたし、どんな主張をすればいい? 裁判官みたいに、あなたは、
もうあたしは有罪、って決めちゃってるんでしょ? たとえば、
あなたがあたしにくれた愛を弁護人に立てればいいの?
でも、あなたの愛はもうあたしの味方じゃない。敵になっちゃった。
終わった愛なんて、忘れられたらいちばんよね。
でも、だいたい憎しみに変わっちゃう。今、あなたもそうだから、
あたし、もうおしまいだわ。あたしははじめから有罪なんでしょ?
でもね、まったく考えもしなかった。
あなたが厳しい目で、あたしのいけないところを
じろじろ調べたりするなんて。あたしを破滅させたいんでしょ?
どんな小さなことでも、あたしにとって不利なことは
逃さない、っていうんでしょ? さあ、あなたの番よ。
あたしが言いたいのはそれだけ。確かにあたしが悪くって、別れたいと
いうのもわかるけど、でも、ちょっとひどくない?

アントニウス:
そっちこそひどい言いかただな。
俺のほうから別れたがってるとか、自己正当化に必要な
以上におまえを責めようとしてるとか、そうして
別れる理由にしようとしてるとか、さ。

クレオパトラ:
ありがとう。うれしい。
あたし、無罪ってことよね?
あたし、悪くないのよね?

ウェンティディウス:
(傍白) やっちまった。
これでもう、この女、自分が悪いなんて絶対認めないぞ。

クレオパトラ:
つらいんでしょ、
まず最初にカエサルがあたしに愛されたことが。
あなたのほうがふさわしかったのにね。(そのへん、お人よしよね。)
でもね、あたしのほうがもっとつらいのよ。
最初からあなたを愛していたら、二回
選ぶことなんてなかったもの。あたし、一度だってカエサルのものだったことはないわ。
いつもあなたが好きだったの。カエサルが最初に
あたしの心を奪った、って思ってるんでしょ? ちがうわ、
あの人が手にしたのはあたしのからだだけ。あたしの愛はずっとあなたのものよ。
カエサルはあたしを愛してた。でもあたしはアントニウスを愛してたの。
それでも彼を受けいれてたのは、
最高の地位にある男だからしかたない、って思ってたの。
半分しかたなく、暴君にしたがうみたいに、あの人に愛をささげたの。
だって、力づくであたしを奪うこともできたわけだし。

ウェンティディウス:
気をつけてください! これはセイレーンです! 男を破滅に導く魔の妖精です!
たとえ、この女の言ってる愛が本物だったとしても、
この女のためにあなたは破滅したんでしょう? そうでしょう?
結果がすべてなんですよ!

クレオパトラ:
そうよ、みんなあくまで結果なの。
あたしを心から嫌ってるこの人でもわかってると思うわ、
わざとじゃないの。あたしはあなたが好きだった。
だからあなたをあのめんどくさい奥さんから引き離してあげた。
フルウィアから、ね。
でしょ? あたしのせいでオクタウィアとも別れちゃうんだけど、
でも、しかたないじゃない。あたしには拒めなかった、
あんなすてきな人を棄ててまで、あたしみたいな女を愛してくれたんだから。
また別のカエサルみたいな偉い人があたしを好きって言ってくれたら
わかるわ。前のユリウスみたいな、それか今度のオクタウィアヌスみたいな人が、ね。
それでも、あたし、もちろんあなたを選ぶから。

ウェンティディウス:
詭弁です。まさにものは言いようです。でも、アクティウムのことを思い出してください。

クレオパトラ:
ほんと意地悪ね。確かにあたし、海で戦って、
って言ったけど、あなたを裏切ったりしなかった。
逃げたけど、敵に寝返ったわけじゃないわ。ただこわかったのよ。
あたし、男だったらよかった、こわくなかっただろうから!
それに、あなたと仲よくしても妬まれたりしなかっただろうから。
あたし、あなたに愛されて、それでこの人妬んでるのよ。

アントニウス:
俺たちふたり、運がないんだ。
別れる理由なんて何もないのに、運命に引き裂かれるんだからな。
なあ、クレオパトラ、俺にここに残って死んでほしいか?

クレオパトラ:
友だちとしての答えは、行って、だわ。
恋人としては、ここにいて、って言うわ。もし、それで死んでしまうんなら、
ひどいわよね・・・・・・でも、ここにいてほしい。

ウェンティディウス:
ほら、ごらんなさい。これがこの女の言う愛ってやつなんですよ。
この女は、まさにあなたの破滅のもとです。
でも、もしひとりで逃げられるとなったら、すぐに
綱を離して、あなたをおいて岸まですっ飛んでいくでしょう。
一度もふり返ったりしないでしょうね!

クレオパトラ
だったら、これを見て。あたしの気持ちがわかるから。[手紙を渡す]
あたしは、あなたなしで生きるのも死ぬのもいや。
あなたなしで幸せになるのも不幸になるのもいや。
そうでなかったら、そこに書かれてるとおりにしてたわ。

アントニウス:
何だこれは! オクタウィアヌスの手紙じゃないか!
これは奴の字だ。若いのにいろんな奴を処刑して
財産を奪ってきたあいつの字だ。
殺しだったら俺より上だ。
見てみろ、ウェンティディウス! エジプトとシリアを
クレオパトラにプレゼントします、だってよ!
その返礼として俺を棄て、
奴と手を組んだら、だってさ!

クレオパトラ:
そうよ、なのにあなたはあたしを棄てるの?
いいわ、もう行ってよ、アントニウス・・・・・・でも、あたし、あなたが好き、
ほんとに好き。だから、国なんていらない、って言ったの。
そんなの、どうでもいいもの。
命もいらない、何にもいらない。
あたしがほしいのはあなただけ。死ぬんだったら、あなたといっしょがいい!
かんたんなお願いでしょ?

アントニウス:
おまえといっしょに生きることの次にな。
この世で手に入るものなんて、それくらいだしな。

アレクサス:
(傍白) 心がとろけたな。こっちの勝ちだ。

クレオパトラ:
だめ、行ってよ。仕事なんだから行かなくちゃ。
そうよ、大事な仕事なんでしょ? あたしが
止めちゃったらいけないわ。[アントニウスの手を握る]
さあ、行って、兵隊さん。
(もう恋する男じゃないんでしょ。) あたし、ひとりで死ぬ。
突き放してくれていいの、あたしが顔面蒼白で息ができなくなっても。
あなたが出陣したら、たぶん誰かがすぐに追いかけていって、
息もできないくらい全速力で走っていって、あなたに言うわ、あたしは死んだ、ってね。
兵士のみんなは大喜びでしょうね。あなたは、たぶん、ため息をつくかもしれないけど、
でも、ローマ人だから泣いたりしないのよね。
で、ウェンティディウスが小言を言って、そしてあなたはすぐに晴れやかな顔に戻るの。
まるであたしなんか、はじめからいなかったみたいに、ね。

アントニウス:
あああ、無理だ・・・・・・そんなの、俺には耐えられない。

クレオパトラ:
あたしだって、耐えられると思う?
心から好きな人に棄てられた、か弱い女なのに?
せめてここで死なせて。意地悪したらいや、
せめて腕に抱いて。すぐに、できるだけ早く
死ぬから。これ以上あなたに面倒かけたくないの。

アントニウス:
死ぬとか、やめてくれ! むしろ俺が死ぬ! どうせ年とってガタ来てんだから
俺に死なせてくれ! 空のつっかえ棒なんてはずれちまえ!
空なんて落ちてくればいい! この世なんてぺちゃんこにつぶれちまえ!
俺の目も、魂も、みんなこなごなになっちまえ! [クレオパトラを抱きしめる]

ウェンティディウス:
何くだらないこと言ってるんですか?
あなたの命運、名誉、名声がかかってるんですよ?

アントニウス:
それがどうした? あん? こっちのが大事に決まってんだろ。
ちがうか? 俺たちはカエサル退治以上のことをやってんだ。
俺の女王は浮気してない、ってだけじゃない。俺を愛してくれてんだ。
この女が、俺の破滅のもとだって?
もしひとりで逃げれたなら、すぐに
綱を離して岸にすっ飛んでって
ふり返りもしないだろう、だって?
土下座しやがれ! この冒涜野郎が!
おまえがあらぬ疑いをかけた、この罪のないお方のお許しを乞え!

ウェンティディウス:
死んだほうがましです、そんなことするくらいなら。行きましょう。

アントニウス:
行くって、どこへだ? 美しいもの、すばらしいものの結晶みたいなクレオパトラを棄ててか?
忠誠と名誉と美徳、その他あらゆる善にかけて、
誰がこの女を棄てたりするか! クレオパトラは俺を選んだんだ、
王国なんかよりな。さあさあ神々よ、くれてやるがいい、
あんたたちが大好きなカエサルにくれてやれ、
このガチャガチャうるさい地球っていうおもちゃ、
こんなくだらん世界なんてな。安いもんだろ?
俺がもらってうれしいのはクレオパトラだけだ。あとのものはゴミだ。

クレオパトラ:
もう、あたし、ぜーんぶあなたのものよ。うれしい!
うれしすぎて羽目をはずして、みんなの前で、
愛をさらしてしまいそう! バカな人たちは
本当の愛なんて知らないから、あたしのこと、頭おかしいって思っちゃうかも!

ウェンティディウス:
なんということだ! ああ! 女! 女! 女!
どれだけ男に神々の恵みがあっても、
おまえたち女がみんな台無しにしてしまう! [出ていく]

アントニウス:
さあて、と--俺の兵は準備万端だ。
カエサル軍側の門を空けよう。
あの裏切り野郎に復讐してやる。
しばらく怠けてただろうから、かんたんにひねりつぶしてやる。
それにしても、戦いの前だが、早く帰ってきたいもんだな。
これまで味わってきたお楽しみがみんな
よみがえってきやがる・・・・・・夜が待ち遠しいぜ!
ふたりであまーく愛しあうんだからな!
カエサルの野郎に勝ってる、ってことだしな!

* * *
John Dryden
From All for Love, 2.1

John Dryden
From All for Love, 2.1

Antony
Well, madam, we are met.

Cleopatra
Is this a meeting?
Then, we must part?

Ant.
We must.

Cleo.
Who says we must?

Ant.
Our own hard fates.

Cleo.
We make those fates ourselves.

Ant.
Yes, we have made them; we have loved each other
In our mutual ruin.

Cleo.
The gods have seen my joys with envious eyes;
I have no friends in heaven; and all the world,
As 'twere the business of mankind to part us,
Is armed against my love: even you yourself
Join with the rest; you, you are armed against me.

Ant.
I will be justified in all I do
To late posterity, and therefore hear me.
If I mix a lie
With any truth, reproach me freely with it;
Else, favour me with silence.

Cleo.
You command me,
And I am dumb.

Ventidius
I like this well: he shews authority.[Aside.

Ant.
That I derive my ruin
From you alone―

Cleo.
O heavens! I ruin you!

Ant.
You promised me your silence, and you break it
Ere I have scarce begun.

Cleo.
Well, I obey you.

Ant.
When I beheld you first, it was in Egypt.
Ere Cæsar saw your eyes, you gave me love,
And were too young to know it; that I settled
Your father in his throne, was for your sake;
I left the acknowledgment for time to ripen.
Cæsar stept in, and, with a greedy hand,
Plucked the green fruit, ere the first blush of red,
Yet cleaving to the bough. He was my lord,
And was, beside, too great for me to rival;
But, I deserved you first, though he enjoyed you.
When, after, I beheld you in Cilicia,
An enemy to Rome, I pardoned you.

Cleo.
I cleared myself―

Ant.
Again you break your promise.
I loved you still, and took your weak excuses,
Took you into my bosom, stained by Cæsar,
And not half mine: I went to Egypt with you,
And hid me from the business of the world,
Shut out enquiring nations from my sight,
To give whole years to you.

Vent.
Yes, to your shame be't spoken.[Aside.

Ant.
How I loved,
Witness, ye days and nights, and all ye hours,
That danced away with down upon your feet,
As all your business were to count my passion!
One day past by, and nothing saw but love;
Another came, and still 'twas only love:
The suns were wearied out with looking on,
And I untired with loving.
I saw you every day, and all the day;
And every day was still but as the first,
So eager was I still to see you more.

Vent. [Aside.]
'Tis all too true.

Ant.
Fulvia, my wife, grew jealous,
As she indeed had reason; raised a war
In Italy, to call me back.

Vent. [Aside.]
But yet
You went not.

Ant.
While within your arms I lay,
The world fell mouldering from my hands each hour,
And left me scarce a grasp―I thank your love for't.

Vent.
Well pushed: that last was home.

Cleo.
Yet may I speak?

Ant.
If I have urged a falsehood, yes; else, not.
Your silence says, I have not. Fulvia died;
(Pardon, you gods, with my unkindness died.)
To set the world at peace, I took Octavia,
This Cæsar's sister; in her pride of youth,
And flower of beauty, did I wed that lady,
Whom blushing I must praise, because I left her.
You called; my love obeyed the fatal summons:
This raised the Roman arms; the cause was yours.
I would have fought by land, where I was stronger;
You hindered it: yet, when I fought at sea,
Forsook me fighting; and (Oh stain to honour!
Oh lasting shame!) I knew not that I fled;
But fled to follow you.

Vent.
What haste she made to hoist her purple sails!
And, to appear magnificent in flight,
Drew half our strength away.

Ant.
All this you caused.
And, would you multiply more ruins on me?
This honest man, my best, my only friend,
Has gathered up the shipwreck of my fortunes;
Twelve legions I have left, my last recruits,
And you have watched the news, and bring your eyes
To seize them too. If you have aught to answer,
Now speak, you have free leave.

Alex. [Aside.]
She stands confounded:
Despair is in her eyes.

Vent. [Aside.]
Now lay a sigh in the way to stop his passage:
Prepare a tear, and bid it for his legions;
'Tis like they shall be sold.

Cleo.
How shall I plead my cause, when you, my judge,
Already have condemned me? shall I bring
The love you bore me for my advocate?
That now is turned against me, that destroys me;
For love, once past, is, at the best, forgotten;
But oftener sours to hate: 'twill please my lord
To ruin me, and therefore I'll be guilty.
But, could I once have thought it would have pleased you,
That you would pry, with narrow searching eyes
Into my faults, severe to my destruction,
And watching all advantages with care,
That serve to make me wretched? Speak, my lord,
For I end here. Though I deserve this usage,
Was it like you to give it?

Ant.
O you wrong me,
To think I sought this parting, or desired
To accuse you more than what will clear myself,
And justify this breach.

Cleo.
Thus low I thank you;
And, since my innocence will not offend,
I shall not blush to own it.

Vent. [aside.]
After this,
I think she'll blush at nothing.

Cleo.
You seem grieved,
(And therein you are kind) that Cæsar first
Enjoyed my love, though you deserved it better:
I grieve for that, my lord, much more than you;
For, had I first been yours, it would have saved
My second choice: I never had been his,
And ne'er had been but yours. But Cæsar first,
You say, possessed my love. Not so, my lord:
He first possessed my person; you, my love:
Cæsar loved me; but I loved Antony.
If I endured him after, 'twas because
I judged it due to the first name of men;
And, half constrained, I gave, as to a tyrant,
What he would take by force.

Vent.
O Syren! Syren!
Yet grant that all the love she boasts were true,
Has she not ruined you? I still urge that,
The fatal consequence.

Cleo.
The consequence indeed;
For I dare challenge him, my greatest foe,
To say it was designed: 'tis true, I loved you,
And kept you far from an uneasy wife,―
Such Fulvia was.
Yes, but he'll say, you left Octavia for me;―
And, can you blame me to receive that love,
Which quitted such desert, for worthless me?
How often have I wished some other Cæsar,
Great as the first, and as the second young,
Would court my love, to be refused for you!

Vent.
Words, words; but Actium, sir; remember Actium.

Cleo.
Even there, I dare his malice. True, I counselled
To fight at sea; but I betrayed you not.
I fled, but not to the enemy. 'Twas fear;
Would I had been a man, not to have feared!
For none would then have envied me your friendship,
Who envy me your love.

Ant.
We are both unhappy:
If nothing else, yet our ill fortune parts us.
Speak; would you have me perish by my stay?

Cleo.
If, as a friend, you ask my judgment, go;
If, as a lover, stay. If you must perish―
'Tis a hard word―but stay.

Vent.
See now the effects of her so boasted love!
She strives to drag you down to ruin with her;
But, could she 'scape without you, oh how soon
Would she let go her hold, and haste to shore,
And never look behind!

Cleopatra
Then judge my love by this. [Giving Antony a writing.
Could I have borne
A life or death, a happiness or woe,
From yours divided, this had given me means.

Antony
By Hercules, the writing of Octavius!
I know it well: 'tis that proscribing hand,
Young as it was, that led the way to mine,
And left me but the second place in murder.―
See, see, Ventidius! here he offers Egypt,
And joins all Syria to it, as a present;
So, in requital, she forsake my fortunes,
And join her arms with his.

Cleo.
And yet you leave me!
You leave me, Antony; and yet I love you,
Indeed I do: I have refused a kingdom;
That is a trifle;
For I could part with life, with any thing,
But only you. O let me die but with you!
Is that a hard request?

Ant.
Next living with you,
'Tis all that heaven can give.

Alex.
He melts; we conquer.[Aside.

Cleo.
No; you shall go: your interest calls you hence;
Yes; your dear interest pulls too strong, for these
Weak arms to hold you here.[Takes his hand.
Go; leave me, soldier;
(For you're no more a lover:) leave me dying:
Push me, all pale and panting, from your bosom,
And, when your march begins, let one run after,
Breathless almost for joy, and cry―she's dead:
The soldiers shout; you then, perhaps, may sigh,
And muster all your Roman gravity:
Ventidius chides; and strait your brow clears up,
As I had never been.

Ant.
Gods, 'tis too much; too much for man to bear.

Cleo.
What is't for me then,
A weak forsaken woman, and a lover?―
Here let me breathe my last: envy me not
This minute in your arms: I'll die apace,
As fast as e'er I can; and end your trouble.

Ant.
Die! rather let me perish; loosened nature
Leap from its hinges, sink the props of heaven,
And fall the skies, to crush the nether world!
My eyes, my soul, my all!―[Embraces her.

Vent.
And what's this toy,
In balance with your fortune, honour, fame?

Ant.
What is't, Ventidius? it out-weighs them all;
Why, we have more than conquered Cæsar now:
My queen's not only innocent, but loves me.
This, this is she, who drags me down to ruin!
But, could she 'scape without me, with what haste
Would she let slip her hold, and make to shore,
And never look behind!
Down on thy knees, blasphemer as thou art,
And ask forgiveness of wronged innocence.

Vent.
I'll rather die, than take it. Will you go?

Ant.
Go! Whither? Go from all that's excellent!
Faith, honour, virtue, all good things forbid,
That I should go from her, who sets my love
Above the price of kingdoms. Give, you gods,
Give to your boy, your Cæsar,
This rattle of a globe to play withal,
This gewgaw world, and put him cheaply off:
I'll not be pleased with less than Cleopatra.

Cleo.
She's wholly yours. My heart's so full of joy,
That I shall do some wild extravagance
Of love, in public; and the foolish world,
Which knows not tenderness, will think me mad.

Vent.
O women! women! women! all the gods
Have not such power of doing good to man,
As you of doing harm.[Exit.

Ant.
Our men are armed:―
Unbar the gate that looks to Cæsar's camp:
I would revenge the treachery he meant me;
And long security makes conquest easy.
I'm eager to return before I go;
For, all the pleasures I have known beat thick
On my remembrance.―How I long for night!
That both the sweets of mutual love may try,
And triumph once o'er Cæsar ere we die.[Exeunt.

* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/16208

* * *
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Dryden (tr.) From Virgil, Aeneid, bk 4 (Dido to Aeneas)

ジョン・ドライデン (1631-1700) (訳)
ウェルギリウス、『アエネイス』 第4巻より
(別れを告げるアエネアスにディドーが語る)

「まるでいんちきね。完全にだまされてたわ。この嘘つき!
りっぱな血筋なんて引いてないし、女神さまから生まれたなんて嘘。
かたい岩のお腹から出てきたんじゃない?
そして荒れはてたヒュルカニアの虎からおっぱいもらって育ったんじゃない?
いいたいこといわせてもらうわ。 もう失うものなんてないんだし。
この人、一度でも気にしてくれた? 話、聞いてくれた?
あたしが泣いてたときに、いっしょに悲しんでくれた? 涙を流してくれた?
全然よ--恩知らずで下衆な心しかもっていない証拠だわ。
ほんと汚らわしい。最悪よ。
でも、悪い男の文句をいったって無駄ね。
神々だって、ユピテルさまだって、何にもしないんですもの、
反逆が成功したときでも。そんな奴、雷を落としてやっつけちゃえばいいのに。
ユーノーさまだって、気にしてるのは自分の旦那の浮気だけ。
ほんと、この世は浮気な男だらけ! 天国も浮気な神々だらけ!
正義なんてどこかに逃げちゃったわ。真心になんてどこにもない!
あたしは、追い出されて逃げてきたこの人を助けてあげた。難破してたから。
お腹を空かせたトロイアの人たちにもごはんをあげたわ。
この人と王位を共にして、ベッドも共にした。そしたら・・・・・・この人は裏切った。
あたしって、ほんとバカ。あとのことなんてもういいわ。
ボロボロになった船を直してあげたりとかもしたけど。
あーあ、もう、気が狂いそうよ! 神さまが命じた、とかいって
天を共犯にして、あたしを棄てるなんて!
リュキアの占いとか、デロスの神とか、
ヘルメスが伝えるユピテルのお告げとか、
そんなのでここから出ていかなくちゃいけないなんて。天で楽しくくらしてる
神さまなんて関係ないじゃない! 人のことなんて気にしてないに決まってる!
いいわ、行きなさいよ! もう止めないから!
海の向こうまで行って、約束されたっていう国を見つければいいわ。
でも、覚えていて。神さまたち、あたしのお願いを聞いてくれるかもしれないから。
そしたら、波が裏切って--あなたの裏切りに比べればかわいいものだわ--
海底が陰謀をめぐらして、水のなかのお墓に沈むのよ、
ごりっぱな船も、それから嘘つきの船長も。
そのとき、棄ててきたわたしの名前を呼んで。ああ、ディドー・・・・・・って。
そしたらあたし、黒い硫黄の炎に包まれて会いに行くわ。
あたし、もう死んでるだろうから。
そして、あたしを裏切ったあなたがこどもみたいに泣くのを見て、にやって笑うの。
怒ってるあたしの亡霊が地の底からのぼってきて、
あなたにとり憑くの。あなたが眠っているときには、悪い夢を見させてあげる。
死んだあとでもいいから、あたし、あなたが苦しむ姿を見たい。
そして冥界に楽しい話を広めたい。ざまあみろっていう話をね。」

* * *
John Dryden (trans.)
From Virgil, Aeneid, book 4

"False as thou art, and, more than false, forsworn!
Not sprung from noble blood, nor goddess-born,
But hewn from harden'd entrails of a rock!
And rough Hyrcanian tigers gave thee suck!
Why should I fawn? what have I worse to fear?
Did he once look, or lent a list'ning ear,
Sigh'd when I sobb'd, or shed one kindly tear?-
All symptoms of a base ungrateful mind,
So foul, that, which is worse, 'tis hard to find.
Of man's injustice why should I complain?
The gods, and Jove himself, behold in vain
Triumphant treason; yet no thunder flies,
Nor Juno views my wrongs with equal eyes;
Faithless is earth, and faithless are the skies!
Justice is fled, and Truth is now no more!
I sav'd the shipwrack'd exile on my shore;
With needful food his hungry Trojans fed;
I took the traitor to my throne and bed:
Fool that I was- 't is little to repeat
The rest- I stor'd and rigg'd his ruin'd fleet.
I rave, I rave! A god's command he pleads,
And makes Heav'n accessary to his deeds.
Now Lycian lots, and now the Delian god,
Now Hermes is employ'd from Jove's abode,
To warn him hence; as if the peaceful state
Of heav'nly pow'rs were touch'd with human fate!
But go! thy flight no longer I detain-
Go seek thy promis'd kingdom thro' the main!
Yet, if the heav'ns will hear my pious vow,
The faithless waves, not half so false as thou,
Or secret sands, shall sepulchers afford
To thy proud vessels, and their perjur'd lord.
Then shalt thou call on injur'd Dido's name:
Dido shall come in a black sulph'ry flame,
When death has once dissolv'd her mortal frame;
Shall smile to see the traitor vainly weep:
Her angry ghost, arising from the deep,
Shall haunt thee waking, and disturb thy sleep.
At least my shade thy punishment shall know,
And Fame shall spread the pleasing news below."

* * *
英語テクストはThe works of Virgil (1803) より
http://books.google.co.jp/books?id=7ykNAAAAYAAJ

* * *
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Dryden (tr.) Virgil, Georgics 3: 163-73 (259-74)

ジョン・ドライデン (1631-1700) (訳)
ウェルギリウス、『農事詩』 3:163-73

牛は、生まれついての性質・性格から
大地を耕すのに向いている。いわば農耕用の種である。
早くから学校に行かせよう。まだ若く、元気で、
いうことを聞くうちに、
農耕のしかたを教えるのである。
他の牛たちの悪い見本を見てしまう前に。
いうことを聞かないこどもをしつけるのは、早いほうがいい。
首が柔らかいうちに、柳でつくったやわらかい
首輪をつける。そして (うまくしつけてやれば、
しだいにいうとおりにかんたんな仕事をするようになるから)
機嫌をとりながら、だんだん働くことを教える。
同級生と二頭ずつ並べ、
最初は何も載っていない荷車を曳かせてみる。
埃が立たないくらい、あるのかないのかわからないくらい、軽いものを。
そのうち、今度は重いくびきでつないでやる。
そして、刃の輝く犂(すき)を曳かせ、土煙をあげながら畑を耕させるのである。

* * *
John Dryden (tr.)
Virgil, Georgics 3: 163-73 (259-74)

The calf, by nature and by genius made
To turn the glebe, breed to the rural trade. 260
Set him betimes to school; and let him be
Instructed there in rules of husbandry,
While yet his youth is flexible and green,
Nor bad examples of the world has seen.
Early begin the stubborn child to break;
For his soft neck, a supple collar make
Of bending osiers; and (with time and care
Inurd that easy servitude to bear)
Thy flatt'ring method on the youth pursue:
Join'd with his school-fellows by two and two, 270
Persuade them first to lead an empty wheel,
That scarce the dust can raise, or they can feel:
In length of time produce the lab'ring yoke,
And shining shares, that make the furrow smoke.

* * *
英語テクストはThe works of Virgil (1803) より
http://books.google.co.jp/books?id=7ykNAAAAYAAJ

* * *
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Dryden (tr.), "Daphne into a Lawrel" (日本語訳)

ジョン・ドライデン (訳)
「ダプネが月桂樹となる」
(オウィディウス 『変身物語』 第1巻より)

その女性は、アポロが愛した最初の、またもっとも美しいひとであった。
彼の愛は、盲目の〈運〉がもたらしたものではなかった。腹を立てた
クピドによって、彼は無理やり彼女を愛するよう強いられたのであった。
彼女の名はダプネといい、ペネウスがその父であった。
(606-9)

最近、大蛇ピュトンを退治し、アポロはおごり高ぶっていた。
だから彼は、まだ若いクピドが弓を引いているのを見て、
バカにしていった。「おい、エロい少年!
そういう武器をこどもがさわってちゃダメだろ?
気をつけろよ。そっち方面のことは、まさにオレの仕事だからな。
オレみたいに男らしくって、腕がよくなきゃダメなのさ。
オレの矢からは誰も逃げられないぜ。最近だって、あのピュトンが
オレの矢にあたってお陀仏さ。
さあさ、オレの武器はおいといて、ほらよ、たいまつでももってって、
軟弱な連中の心でもジリジリ焦がしてやるんだな!」
そんなアポロに対して、ウェヌスの子はこう答えた、
「ポイボス、君の矢からは確かに誰も逃げられないけど、
ぼくの矢は君を逃さない。最強なのはぼくさ。君をやっつければ、
君がやっつけてきたものも、みーんなぼくがやっつけたことになるんだからね!」
(610-23)

こういって、クピドは舞いあがった。そして、目にもとまらぬ速さで飛んでいき、
あっという間にパルナッソス山の頂上に立った。
彼は、背中の筒から二種類の矢をとり出す。
それは欲望を消し去る矢と、欲望をもたらす矢。
一本の先には輝く金--
これは、不正に恋をかきたて、恋する者を大胆にする矢であった。
もう一本の先にはとがっていない鉛--これは質の悪い合金製で、
人の想いをあざける矢、欲望など吹き飛ばしてしまう矢であった。
この鈍い鉛の矢で、クピドはダプネを狙う。
そして鋭い金の矢は、アポロの胸に撃ちこんだ。
(624-33)

恋に落ちた神は獲物を追う。
抱きしめられるなんてとんでもない、と少女はまったく相手にしない。
うら若い彼女の楽しみは、ただ肉食の獣を追うことだけ。
そんな森の遊びがお好みなところは、アポロの妹ディアナとそっくり。
彼女は走る、首もあらわに、肩もあらわに、
リボンで結んだ髪をなびかせて。
たくさんの男たちが彼女に想いを寄せるが、恋の痛みなど彼女の眼中にない。
処女・独身を誓って守るのみである。
結婚のくびきなど、彼女に耐えられない。「花嫁」の名を
嫌い、経験したことのないあのよろこびを彼女は憎む。
彼女の欲望は、荒野や森で生きること。
若さや恋が自然にかきたてる感情を、彼女はいっさい知らないのだ。
だから、しばしば父は叱っていう。「なあ、おまえ、
夫はいらないのか? わしに孫を見せとくれ」。
まるでそれが罪であるかのように、彼女は婚姻の床を忌み嫌っている。
だから、顔を赤らめて下を向く。
そして、か細い腕で父の首を抱き、
甘えるように、かわいくいう。
「ねえ、お父さま、わたし、汚れない女の子のままで
生きて、そして死にたいの。結婚にしばられたくないの。
ムチャなお願いじゃないでしょ? ディアナの
お父さまも認めたことなんだし・・・・・・」。
そういわれると、老いた、やさしい父は認めてやるしかなかった。
こうもいいつつではあったが。「そんなことを願ってるとバチがあたらんかのう。
おまえにみたいに若くてきれいな子に、
おまえが望むような生きかたができるものかのう?」
(634-59)

輝く神アポロの望みは、ダプネとベッドを共にすること。
期待を胸に彼は追う。頭は空想と妄想でいっぱいだ。
自分の神託によって勘違いしているのである。
収穫後の麦畑で刈り株が焼かれるときのように、
あるいは、夜に旅をしてきた者が、夜明け頃に
不要となったたいまつをポイッと投げ捨て、
その火が垣根に移って燃えあがってしまうときのように、
まさにそのようにアポロは燃えていた。欲望がその燃料であった。
実を結ばぬ炎を頭のなかで貪っていた。
彼女の、きれいな弧を描く、裸の首を、彼は見る。
肩にかかる乱れた髪を、彼は見る。
そしていう、「あの髪をとかしたら、すっごくきれいなんだろうなー!
風に揺れる巻き髪が、あの顔に似合うんだろうなー!」
彼女の目を彼は見る--まるで星、夜空に輝くランプのよう・・・・・・。
彼女の唇を彼は見る--あまりにもかわいくて、見るだけ、なんて惜しすぎる・・・・・・。
ろうそくのように細い指、息を切らせてふくらむ胸、
見えるものすべてをアポロはほめたたえた。しかし、こうも考えていた、
見えないところがいちばん美しいに決まっている、と。
(660-77)

風のような速さでダプネは逃げていく。
アポロが話しかけても、誘いかけても、立ち止まろうとはしなかった。
彼は叫ぶ--「ねえ、妖精の君、待ってよ! 追いかけてるけど、ぼくは敵じゃないんだよ!
鹿はふるえながらライオンから逃げるけどさ、
羊はこわがって狼に近寄らないけどさ、
鷹が追いかけてきたら鳩はおびえて逃げるけどさ、
でも君は神から逃げているんだよ! 君に恋する神から逃げているんだよ!
ねえ、君のか弱い足に棘が刺さっちゃうといけないからさ、
飛ぶようにぼくから逃げてて転んじゃうといけないからさ、
けわしいデコボコの道に行くと危ないからさ、
ゆっくり走ってよ!そしたらぼくもゆっくり走るから!
ねえ、何も考えてないと思うけど、誰から逃げてるのか知ってる?
ぼくの身分は低くないよ! 羊飼いとかじゃないんだよ!
そう、ぼくの身分がもっと高いってことをたぶん君は知らないんだ!
それを知らないからぼくを嫌ってるんだ!
クラロス、デルポイ、テネドスの人は、ぼくのいうことを聞くんだよ!
このぼくがパタラを支配しているんだよ!
ぼくのお父さんは神々の王なんだよ! 未来がどうなるか、
今がどうなってるか、過去がどうだったか、ぼくは見えるんだよ! 全部決まってるんだから!
ぼくが発明したんだよ! 竪琴をね! すてきな音がするよね!
きれいな曲、まるで天国みたいな曲ってあるでしょ! あれみんなぼくがつくらせてるんだよ!
ぼくの弓矢はすごいよ! 絶対あたるんだよ!
あ、でもクピドの矢のほうがもっとすごかった! 心を撃たれちゃった!
薬を発明してるのもぼくだよ! どんな薬草が
野原や森にあるかとか、効き目は何とか、みんな知ってるよ!
だからみんなぼくのことを最高の医者だっていってるし!
でもね! 野原や森の薬草じゃダメなんだ!
ぼくの恋わずらいはそれじゃ治らない!
恋の痛みに効く薬はないから、
医者なのに自分の病気を治せないんだよ!」
(678-707)

そんな言葉の半分もダプネには届いていなかった。無我夢中で逃げていたからだ。
彼女にとってアポロの声は不明瞭なただの音で、しかも耳に届く頃には消えていた。
恐れのため、まるで羽があるかのように彼女は走る。飛ぶように彼女は逃げ、
風に髪が後ろになびいて広がる、
彼女の足や太ももをあらわにしつつ。
それでアポロはますます熱く追いかけるのだ。
彼は若く、あまりに燃えあがってしまって、
ほめ言葉を無駄に費やす余裕など、もはやない。
恋に導かれ、魅惑的なからだを見せられ、
激しく、熱く、彼は追う--よろこびはもうすぐそこだ・・・・・・。
(708-17)

それは、まるで、狩りにはやる猟犬が、綱から解き放たれて
大地の上を飛びはねながら、恐怖におびえるうさぎを追う姿さながらであった。
とにかく早く逃げないと、彼女にとっては命取り。
だが、倍の速さで彼は追う。
彼女は何度も急に止まって向きを変え、そのたびに彼はふりまわされる。
何度も、ガブッ! と口が空振りする。息が届くところまで来ているはずなのに。
彼女は逃げ、近くの隠れ場に急ぐ。
なんとかたどりつくが、自分がまだ生きているかすらもうわからない。
偉大な話を小さなたとえで語ってよければ、
まさにアポロはそんな猟犬で、美しくも逃げるダプネはまさにそんなうさぎだった。
恐怖にかられ、彼女はとにかく速く走る。
恋にかられ、彼はさらに速く走る。
そして、だんだん彼女に迫っていく。
もう彼の息が彼女の髪にかかっている。もう足と足がふれそうだ。
待ちに待ったあの瞬間、彼女をぎゅっと抱きしめるときはもうすぐそこなのであった。
ダプネは顔面蒼白であった。恐怖に息絶えそうであった。
かくも長く逃げつづけ、もはや疲れ切ってしまっていた。
絶望した彼女は、悲しげな目で
彼女の父たる川を見る。
そして叫ぶ、「助けて! お願い! もう最悪なの!
もし水の神が本当に神さまなら助けて!
大地よ、口を開けて! かわいそうなわたしをお墓に入れてしまって!
それか、わたしの姿を変えて! この外見のためにこんなことになってるんだから!」
こういい終わらぬうちにダプネの足は
冷たく麻痺していき、地面から離れなくなる。
薄い木の皮が彼女のからだを包む。
彼女の髪は葉になり、腕は枝となって伸びる。
ダプネのからだ全体が、そのまま一本の月桂樹になってしまったのだ。
ただ、その肌のなめらかさだけが元のままであった。
(718-46)

だが、アポロはそれでも彼女が好きだった。腕で
幹を抱きしめてみる・・・・・・まだ少し温かい。
木になりきっていないところが
まだあえいでいて、胸も脈打っていた。
彼は、震える木の皮にキスをする。
木はからだをそらし、逃げようとする。
アポロはいう、「ぼくの恋人にはなってくれなかったけど、
でも、ぼくの木になってくれないかな。
栄誉ある、りっぱな人に捧げられるような、そんな木に、ね。
後世に残る詩や詩人たちの冠になってほしいんだ。
ローマの祝祭でも君を飾ろう。
詩人たちだけでなく、勝者の冠にもなってほしいから。
アウグストゥスが帰還するときの凱旋門に君を飾ろう。
着飾って行列をつくって帰ってくる戦士たちを、
君は宮殿前の柱の上で出迎えるんだ。
門の神聖なる守護者として、ね。
ユピテルの雷に撃たれることなく、
天の神々のように老いて色あせることなく、
ぼくの髪、太陽の光のようにけっして刈られることなく、
いつも、永遠に、緑の葉が君の枝を彩っていますように・・・・・・」。
これを聞いて木はよろこび、
木漏れ日に光る頭を揺らした。
(747-68)

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Dryden (tr.), "Daphne into a Lawrel"

John Dryden (tr.)
"The Transformation of Daphne into a Lawrel"
(From Ovid, Metamorphoses, bk. 1)

The first and fairest of his loves, was she
Whom not blind fortune, but the dire decree
Of angry Cupid forc'd him to desire:
Daphne her name, and Peneus was her sire.
(606-9)

Swell'd with the pride, that new success attends,
He sees the stripling, while his bow he bends,
And thus insults him: Thou lascivious boy,
Are arms like these for children to employ?
Know, such atchievements are my proper claim;
Due to my vigour, and unerring aim:
Resistless are my shafts, and Python late
In such a feather'd death, has found his fate.
Take up the torch (and lay my weapons by),
With that the feeble souls of lovers fry.
To whom the son of Venus thus reply'd,
Phoebus, thy shafts are sure on all beside,
But mine on Phoebus, mine the fame shall be
Of all thy conquests, when I conquer thee.
(610-23)

He said, and soaring, swiftly wing'd his flight:
Nor stopt but on Parnassus' airy height.
Two diff'rent shafts he from his quiver draws;
One to repel desire, and one to cause.
One shaft is pointed with refulgent gold:
To bribe the love, and make the lover bold:
One blunt, and tipt with lead, whose base allay
Provokes disdain, and drives desire away.
The blunted bolt against the nymph he drest:
But with the sharp transfixt Apollo's breast.
(624-33)

Th' enamour'd deity pursues the chace;
The scornful damsel shuns his loath'd embrace:
In hunting beasts of prey, her youth employs;
And Phoebe rivals in her rural joys.
With naked neck she goes, and shoulders bare;
And with a fillet binds her flowing hair.
By many suitors sought, she mocks their pains,
And still her vow'd virginity maintains.
Impatient of a yoke, the name of bride
She shuns, and hates the joys, she never try'd.
On wilds, and woods, she fixes her desire:
Nor knows what youth, and kindly love, inspire.
Her father chides her oft: Thou ow'st, says he,
A husband to thy self, a son to me.
She, like a crime, abhors the nuptial bed:
She glows with blushes, and she hangs her head.
Then casting round his neck her tender arms,
Sooths him with blandishments, and filial charms:
Give me, my Lord, she said, to live, and die,
A spotless maid, without the marriage tye.
'Tis but a small request; I beg no more
Than what Diana's father gave before.
The good old sire was soften'd to consent;
But said her wish wou'd prove her punishment:
For so much youth, and so much beauty join'd,
Oppos'd the state, which her desires design'd.
(634-59)

The God of light, aspiring to her bed,
Hopes what he seeks, with flattering fancies fed;
And is, by his own oracles, mis-led.
And as in empty fields the stubble burns,
Or nightly travellers, when day returns,
Their useless torches on dry hedges throw,
That catch the flames, and kindle all the row;
So burns the God, consuming in desire,
And feeding in his breast a fruitless fire:
Her well-turn'd neck he view'd (her neck was bare)
And on her shoulders her dishevel'd hair;
Oh were it comb'd, said he, with what a grace
Wou'd every waving curl become her face!
He view'd her eyes, like heav'nly lamps that shone,
He view'd her lips, too sweet to view alone,
Her taper fingers, and her panting breast;
He praises all he sees, and for the rest
Believes the beauties yet unseen are best.
(660-77)

Swift as the wind, the damsel fled away,
Nor did for these alluring speeches stay:
Stay Nymph, he cry'd, I follow, not a foe.
Thus from the lyon trips the trembling doe;
Thus from the wolf the frighten'd lamb removes,
And, from pursuing faulcons, fearful doves;
Thou shunn'st a God, and shunn'st a God, that loves.
Ah, lest some thorn shou'd pierce thy tender foot,
Or thou shou'dst fall in flying my pursuit!
To sharp uneven ways thy steps decline;
Abate thy speed, and I will bate of mine.
Yet think from whom thou dost so rashly fly;
Nor basely born, nor shepherd's swain am I.
Perhaps thou know'st not my superior state;
And from that ignorance proceeds thy hate.
Me Claros, Delphi, Tenedos obey;
These hands the Patareian scepter sway.
The King of Gods begot me: what shall be,
Or is, or ever was, in Fate, I see.
Mine is th' invention of the charming lyre;
Sweet notes, and heav'nly numbers, I inspire.
Sure is my bow, unerring is my dart;
But ah! more deadly his, who pierc'd my heart.
Med'cine is mine; what herbs and simples grow
In fields, and forrests, all their pow'rs I know;
And am the great physician call'd, below.
Alas that fields and forrests can afford
No remedies to heal their love-sick lord!
To cure the pains of love, no plant avails:
And his own physick, the physician fails.
(678-707)

She heard not half; so furiously she flies;
And on her ear th' imperfect accent dies,
Fear gave her wings; and as she fled, the wind
Increasing, spread her flowing hair behind;
And left her legs and thighs expos'd to view:
Which made the God more eager to pursue.
The God was young, and was too hotly bent
To lose his time in empty compliment:
But led by love, and fir'd with such a sight,
Impetuously pursu'd his near delight.
(708-17)

As when th' impatient greyhound slipt from far,
Bounds o'er the glebe to course the fearful hare,
She in her speed does all her safety lay;
And he with double speed pursues the prey;
O'er-runs her at the sitting turn, and licks
His chaps in vain, and blows upon the flix:
She scapes, and for the neighb'ring covert strives,
And gaining shelter, doubts if yet she lives:
If little things with great we may compare,
Such was the God, and such the flying fair,
She urg'd by fear, her feet did swiftly move,
But he more swiftly, who was urg'd by love.
He gathers ground upon her in the chace:
Now breathes upon her hair, with nearer pace;
And just is fast'ning on the wish'd embrace.
The nymph grew pale, and in a mortal fright,
Spent with the labour of so long a flight;
And now despairing, cast a mournful look
Upon the streams of her paternal brook;
Oh help, she cry'd, in this extreamest need!
If water Gods are deities indeed:
Gape Earth, and this unhappy wretch intomb;
Or change my form, whence all my sorrows come.
Scarce had she finish'd, when her feet she found
Benumb'd with cold, and fasten'd to the ground:
A filmy rind about her body grows;
Her hair to leaves, her arms extend to boughs:
The nymph is all into a lawrel gone;
The smoothness of her skin remains alone.
(718-46)

Yet Phoebus loves her still, and casting round
Her bole, his arms, some little warmth he found.
The tree still panted in th' unfinish'd part:
Not wholly vegetive, and heav'd her heart.
He fixt his lips upon the trembling rind;
It swerv'd aside, and his embrace declin'd.
To whom the God, Because thou canst not be
My mistress, I espouse thee for my tree:
Be thou the prize of honour, and renown;
The deathless poet, and the poem, crown.
Thou shalt the Roman festivals adorn,
And, after poets, be by victors worn.
Thou shalt returning Caesar's triumph grace;
When pomps shall in a long procession pass.
Wreath'd on the posts before his palace wait;
And be the sacred guardian of the gate.
Secure from thunder, and unharm'd by Jove,
Unfading as th' immortal Pow'rs above:
And as the locks of Phoebus are unshorn,
So shall perpetual green thy boughs adorn.
The grateful tree was pleas'd with what he said;
And shook the shady honours of her head.
(747-68)

* * *
英語テクストは次のページより。
http://classics.mit.edu/Ovid/metam.1.first.html
誤植などは修正。


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Dryden (tr.), Lucretius, "Against the Fear of Death"

ジョン・ドライデン (訳)
ルクレティウス 3巻より
「死の恐怖に対して」 より

この〈死〉という化け物の何が恐ろしいのか?
からだと同様、魂も死ぬならば?
生まれる前、わたしたちは痛みを感じなかった。
かつてカルタゴ戦争がおこったとき、陸も海も荒れに荒れ、
天と地が大混乱に陥り、
世界の支配権が争われた--
人々は恐怖のなかで、ゆくえを見守った、
奴隷にされるのは確実として、ローマとカルタゴ、どちらが支配者となるのか--
それと同じように、いずれ死すべきわたしたちのからだがバラバラになり、
命のないただの塊として、精神と別れるとき、
わたしたちは悲しみや痛みから解放される。
わたしたちは何も感じない。なぜなら存在しないのだから。
大地が海にのまれようとも、海が空に蒸発して消えようとも、
わたしたちは動かなくていい。なすがままになればいい。
いや、さらに考えてみよう。死後、
からだから切り離された魂がまだ痛みを感じえたとしても、
わたしたちにとって、それはどうでもよくはないか? なぜなら、わたしたちは
魂とからだがひとつになっていてはじめてわたしたちなのだから?
いや、さらに考えよう。もし、わたしたちを構成する原子たちが、たまたまふたたび集まって、
からだがふたたび踊りはじめたとしても--
もし時がわたしたちの命と力を回復し、
からだを元どおりにしたとしても--
そんなてんやわんやに何の得があるのか?
こうして新しくできたわたしたちは、もはやわたしたちではないのだから?
一度とぎれてしまったら、
唯一のものとしてのわたしたちの存在は失われるのである。

* * *
John Dryden (tr.)
Lucretius
The Latter Part of the Third Book
"Against the Fear of Death"

What has this bugbear death to frighten man,
If souls can die, as well as bodies can?
For, as before our birth we felt no pain,
When Punic arms infested land ana main,
When heav'n and earth were in confusion hurl'd,
For the debated empire of the world,
Which aw'd with dreadful expectation lay,
Sure to be slaves, uncertain who should sway:
So, when our mortal frame shall be disjoined,
The lifeless lump uncoupled from the mind, 10
From sense of grief and pain we shall be free;
We shall not feel, because we shall not be.
Tho' earth in seas, and seas in heav'n were lost,
We should not move, we only should be toss'd.
Nay, ev'n suppose when we have suffer'd fate,
The soul could feel in her divided state,
What's that to us? for we are only we
While souls and bodies in one frame agree.
Nay, tho' our atoms should revolve by chance,
And matter leap into the former dance; 20
Tho' time our life and motion could restore,
And make our bodies what they were before,
What gain to us would all this bustle bring?
The new-made man would be another thing.
When once an interrupting pause is made,
That individual being is decay'd.

* * *
英語テクストはThe poetical works of John Dryden (1909) より。
https://archive.org/details/poeticalworksjo19drydgoog

* * *
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From Dryden (trans.), Aeneid, bk. 4

ジョン・ドライデン (1631-1700) (翻案)
ウェルギリウス、『アエネイス』 第4巻より

ディドーの血のなか、静かに炎が燃えていた。
そこはすでに、やさしい愛の神の支配下だった。
恋をわずらい、恋するアエネアスを探し求め、
通りから通りへ、うわごとをいいながら彼女はさまよう。
その姿、まるで、寝ずの番をしていた羊飼いが隠れ場所から
打った矢に、たまたまあたってしまった不用心な雌鹿のよう。
痛みに気も狂わんばかりに、雌鹿は森を出て、
空き地を跳ね越え、静かに流れる川を目ざす。
懸命にみずからをいたわるが、無駄なこと。致命的な矢が
脇に刺さり、もう心臓を膿ませている。

今、ディドーはそのアエネアス、トロイアの頭領に見せてまわる、
多くの軍勢に守られた高い城壁を、
テュロスから届く品々で栄える町を。
ディドーの愛ゆえに、これらはみな労せず彼のもの。
そんな富を見せて歩くのは、もちろんアエネアスの気を惹くため。
緊張で口がまわらないから、他のことなど今の彼女には話せない。
日が傾き、夜の宴がはじまっても、
ディドーの飢えた目は、アエネアスを貪るように見つめつづける。
そしてふたたび求める、彼の話を。
冒険の話、滅びてしまったトロイアの話を。
アエネアスはこれを何度も何度も話すが、無駄なこと。
もう一度話して、とディドーがいうのだから。
彼女は、彼の唇を見つめて離さず、
こうしてトロイアの悲しい話は、永遠につづいていく。
やがて、二人は別れる、か弱い光とともに月の女神アルテミスが
去っていき、沈みゆく星が眠りを誘うときに。
客がみな去っても、ひとり、ディドーは残る。
アエネアスに押されていたベッドにすわり、ひとり、ため息をつく。
行ってしまった英雄の姿を彼女は見ている。彼の声を聞いている・・・・・・。

* * *
John Dryden (trans.)
From Virgil, Aeneid, book 4

A gentle fire she feeds within her veins,
Where the soft god secure in silence reigns.
Sick with desire, and seeking him she loves,
From street to street the raving Dido roves.
So when the watchful shepherd, from the blind,
Wounds with a random shaft the careless hind,
Distracted with her pain she flies the woods,
Bounds o'er the lawn, and seeks the silent floods,
With fruitless care; for still the fatal dart
Sticks in her side, and rankles in her heart.
And now she leads the Trojan chief along
The lofty walls, amidst the busy throng;
Displays her Tyrian wealth, and rising town,
Which love, without his labor, makes his own.
This pomp she shows, to tempt her wand'ring guest;
Her falt'ring tongue forbids to speak the rest.
When day declines, and feasts renew the night,
Still on his face she feeds her famish'd sight;
She longs again to hear the prince relate
His own adventures and the Trojan fate.
He tells it o'er and o'er; but still in vain,
For still she begs to hear it once again.
The hearer on the speaker's mouth depends,
And thus the tragic story never ends.
Then, when they part, when Phoebe's paler light
Withdraws, and falling stars to sleep invite,
She last remains, when ev'ry guest is gone,
Sits on the bed he press'd, and sighs alone;
Absent, her absent hero sees and hears. . . .

* * *
英語テクストは、The Aeneid by Virgil
Translated by John Dryden より。
http://classics.mit.edu/Virgil/aeneid.html

* * *
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From Dryden, Palamon and Arcite, bk. 3

ジョン・ドライデン (1631-1700) (翻案)
『パラモンとアーサイト』 第3巻より

言葉ではあらわせません、
ぼくが、心に苦しく、感じていること、
あなた、もっとも愛しく大切なあなたを、思いながら・・・・・・。
あなたに仕えるよう、魂だけ残していきます。
この体が死に、そこから自由になった
ぼくの魂に、あなたのお供をさせてください。見えないものですし、声も立てませんので。
昼間にあなたを恐がらせたりはしません。夜、あなたの眠りを妨げたりもしません。
ただ、お仕えしたいのです。どこにいても、あなたのお供がしたいのです。
本当にあなたが好きでした・・・・・・。うまく話せなくて申し訳ありません。
もう体が弱っていて、しかも、とても痛いのです。
信じてください。ぼくが死にたくないのは、
美しいエミリー、あなたを失いたくないから、それだけです。
天があなたをぼくに与えてくれた、まさにその時に死ぬなんて、
これ以上意地悪な〈運命〉があるでしょうか!
ねたみ深い〈運〉がもたらす、これ以上の呪いがあるでしょうか、
命を得たその瞬間に死ぬなんて!
人間とは愚かなものです。うつろいゆく幸せを求め、
恋に熱くなったりしながら、気がついたら墓のなかで朽ちはてていく。
二度と日の目を見ることもなく!
棺のなか、永遠に暗く湿ったところで、永遠にひとりきり!
これは、誰しも逃れられない運命です。でも、ぼくは
幸せを目の前に死んでいく。幸せを手にすることなく。
さよなら、お元気で・・・・・・。ただ・・・・・・腕に抱いていただけますか?
あなたの美しさを、少しだけでもぼくのものにしたいのです。
あなたの手・・・・・・死なないかぎり、ぼくは、この手を絶対に離さない。
もっと生きたい・・・・・・。生きているかぎり、この手はぼくのものだから!
そろそろ、お別れです。こうして抱いていただいて、
そのまま死ねるなんて、幸せです・・・・・・。

これがアーサイトの最後の言葉だった。すぐに〈死〉がやってきて、
鉄の鎌をふりおろし、彼をわがものとした。
アーサイトはのぼっていく、〈命〉の国に向かって。
感覚が失われていく。〈死〉はふれたものすべてを凍らせるのだから。
しかし、おのずと閉じられてゆくその目を、アーサイトはエミリーから離そうとはしなかった、
少しずつ、彼女は見えなくなっていったのだが・・・・・・。
こうして、何もいうことなく、彼はしばし横たわっていた。
そして、エミリーの手を握る手に力をこめ、ため息とともに、彼は魂を吐き出したのだった。

* * *
John Dryden (trans.)
Palamon and Arcite, bk. 3, ll. 778ff.

No Language can express the smallest part
Of what I feel, and suffer in my Heart,
For you, whom best I love and value most;
But to your Service I bequeath my Ghost;
Which from this mortal Body when unty'd,
Unseen, unheard, shall hover at your Side;
Nor fright you waking, nor your Sleep offend,
But wait officious, and your Steps attend:
How I have lov'd, excuse my faltring Tongue,
My Spirits feeble, and my Pains are strong:
This I may say, I only grieve to die
Because I lose my charming Emily:
To die, when Heav'n had put you in my Pow'r,
Fate could not chuse a more malicious Hour!
What greater Curse cou'd envious Fortune give,
Than just to die, when I began to live!
Vain Men, how vanishing a Bliss we crave,
Now warm in Love, now with'ring in the Grave!
Never, O never more to see the Sun!
Still dark, in a damp Vault, and still alone!
This Fate is common; but I lose my Breath
Near Bliss, and yet not bless'd before my Death.
Farewell; but take me dying in your Arms,
'Tis all I can enjoy of all your Charms:
This Hand I cannot but in Death resign;
Ah, could I live! But while I live 'tis mine.
I feel my End approach, and thus embrac'd,
Am pleas'd to die. . . . . .

This was his last; for Death came on amain,
And exercis'd below, his Iron Reign;
Then upward, to the Seat of Life he goes;
Sense fled before him, what he touch'd he froze:
Yet cou'd he not his closing Eyes withdraw,
Though less and less of Emily he saw:
So, speechless, for a little space he lay;
Then grasp'd the Hand he held, and sigh'd his Soul away.

* * *
チョーサー、『カンタベリー物語』中の「騎士の語」を初期近代の
英語で語り直したもの。上の場面の文脈は以下の通り。

1.
アーサイト(アルシーテ)とパラモンという、たがいに
尊敬しあっていたはずの騎士がエミリー(エミリア)
という女性をめぐって決闘をする。

2.
アーサイトが勝ってエミリーを手に入れるが、その直後に
彼は致命傷を負う。(神々の介入により。)

* * *
英語テクストはFables (1700, Wing D2278) より。
(途中、パラモンについて語るところ--「ぼくのかわりに
パラモンを愛してあげて・・・・・・」--は省略。)

* * *
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Dryden (trans.), Horace, Ode III. 29 (日本語訳)

ジョン・ドライデン(1631-1700)
「ホラティウスのオード第3巻より29番--
ピンダロス風に翻案し、ロチェスター伯ローレンスに捧げる」

I.
トスカナを長く治めた
いにしえの血筋を引く君、
お急ぎください。芳醇なワインが待っています。
君が来るまで樽を開けられませんから。
バラの花冠も用意できています。
職人たちも準備しています、
シリアの香油を君の髪のために。
(1-7)

II.
ワインの輝きが遠くに見えたら、
気のいい友が「さあ、来て!」と大声で呼んだら、
お急ぎください、仕事や気にかけていることなど、みな後にして。
この世の関心ごとなど、気にする価値はありません。
(8-11)

III.
豪奢な田舎のお屋敷を、しばしお離れください。
そして、真に偉大な者として、お忘れください、
偉大な者たちの、胸焼けするようなお楽しみを。
お急ぎください。
飽き飽きするほどのごちそうなど、お捨てください。
お屋敷の塔もお忘れください。高くから、
ローマの煙・富・喧噪を見わたす塔も、です。
あわただしくて仰々しい仮装行列も、みなお忘れください。
そのようなもの、知恵ある者はあざけります。憧れるのは愚かな者だけです。
さあ、魂を自由にしましょう。そして貧しい者のよろこびを楽しみましょう。
(12-21)

IV.
富める者にとって心地よいものです、ときに
短期間の変化、貧しい暮らしを味わうことは。
おいしい食事、質素なもてなし--
すべてが素朴で、きれいで、
広くなく、壮麗でもなく、
ペルシャのじゅうたんやテュロスの織りものもないような、
そんな部屋でのもてなし--が、偉大な者の顔から雲を晴らすのです。
(22-28)

V.
太陽は獅子座に高くのぼっています。
おおいぬ座のシリウスは
遠くから吠えていて、
むっとする蒸し暑い息で空を汚しています。
下の大地は焦げたフライパンのようで、その上の天が焼かれています。
羊飼いは、暑さで気を失いかけた群れを
岩陰に連れて行き、
水の飲める小川を探しています。
森の妖精たちは木陰のすみかに帰っていますが、
その木陰や川ですら、さらなる木陰や川を求めています。
冷たいそよ風が吹き、怒り狂う炎を冷ましてくれたら、と思いつつ。
(29-39)

VI.
新しくロンドン市長になった者は何をすべきか、
ロンドンを牛耳る派閥は何をしでかそうとしているか、
ガリアの軍は次に何をするか、
矢の筒をもった敵たちは何を、
などと、君はいろいろ知りたがっています。
でも、かしこくも神は、人の目から隠しました、
運命が未来に命じることを、暗いところに。
神は、夜の闇の深いところに未来の種をまき、
そして、酔っぱらいのようにくるくる回る社会を見て笑っています。
人間が、まだないはずのものを見つけたり、
手遅れになってから不安に駆られたりしているので。
(40-49)

VII.
ほほえんでくれている今の時間を楽しみましょう。
〈運の女神〉の手から、それを奪いましょう。
この世におこるいろいろなことがらの波は、潮の流れのように、
ときおり高く、ときおり低く、
静かに引いたり、嵐のように満ちたり、
いつも極端です。
今、静かに穏やかに流れつつ、
水路の真ん中におさまっていたとしても、その流れは、
あっという間に頭を高くもちあげ、
圧倒的な力で、目の前のものすべてをひっくり返してしまうかもしれません。
木の幹は転げ落ち、
羊は柵ごと溺れてしまうでしょう。
家や納屋は海へと流され、
岩は大地からはぎとられ、
風に葉の飾りを散らされ、森はやせ細って悲しむでしょう。
(50-64)

VIII.
幸せ、幸せな人とは、
今日を自分のものにした人だけです。
心に不安や心配ごとがなく、こういえる人だけです--
「明日よ、わたしをどん底に突き落とせ。かまわない、今日を生きたのだから。
晴れようが、荒れようが、雨だろうが、日が照ろうが、
どんな運命が待っていようが、今日手にした楽しみはわたしのものだ。
天の力も、過去は変えられない。
過ぎたことは過ぎたこと。まちがいなく、今日、わたしは幸せに過ごしたのだ。」
(65-72)

IX.
〈運の女神〉は、意地悪な喜びのなか、
人という自分の奴隷を虐げ、踏みつけにします。
破壊という仕事を楽しんでいて、
人を幸せにすることなど、まずありません。
常にいろいろな顔をもち、常に変化しているのに、
悪意があるという点では、なぜかいつも一貫しています。
争いをおこし、人をおとしめ、そしてそれを楽しんでいます。
〈運の女神〉にとって、人の生など宝くじのようなものなのです。
彼女がやさしくしてくれるなら、わたしも彼女と寝ます。
が、彼女が風に舞って
羽ばたき、どこかへ行こうとしているなら、
あんな娼婦は吹き飛ばしてしまえばいいのです。
少し、あるいは多くのものをくれるかもしれませんが、それもすぐに奪われます。
貧しくてもいい、と、わたしは魂を鎧でかためます。
ボロを着ていても、美徳があたためてくれるでしょう。
(73-87)

X.
わたしには関係ありません、
あてにならない〈運の女神〉の海など絶対に渡らないので。
嵐がおきても、雲が黒くても、
マストが裂けて難破しそうでも、わたしには関係ありません。
そのようなとき、強欲な商人たちは恐れるでしょう、
不正に手にした品が失われることを。
そして、聞いてもくれない神に祈ることでしょう。
あちこちから吹く風がたがいに争うなか、大波がたがいにケンカするなか、
彼らの富が海に流されていくのを見ながら。
わたしは、〈運の女神〉に攻撃されることもなく
--失うものなどなく--
小さな舟で旅をします、
うなりをあげる風や波をあざけりつつ。
そして、楽しげなそよ風のなか、
幸運をもたらす星たちとともに、安全な道を舟で行き、
どこかの入り組んだ、小さな入り江に入ります。
そして、岸から嵐を眺めるのです。

* * *
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Dryden (trans.), Horace, Ode III. 29 (解説)

ジョン・ドライデン(1631-1700)
「ホラティウスのオード第3巻より29番--
ピンダロス風に翻案し、ロチェスター伯ローレンスに捧げる」
(解説)

古代ローマの詩人ホラティウスのオードをドライデンが
翻案(クリエイティヴに翻訳)。古典を翻訳するとき、
いつもドライデンは、自分の言葉をあちこちにはさみこむ。

どこがホラティウスのオリジナルにはないドライデンの
言葉か、ということはHammond and Hopkins, eds.,
The Poems of John Dryden, 5 vols. (Longman) で
確認できる。(この詩は第2巻に。)

* * *
(オード形式)

「カルペ・ディエム」(今という時間を大切に)の
語源となったオードI. 11など、ホラティウスも、
古代ギリシャのピンダロスと同様、オード形式の
ルーツとして知られる。ピンダロスのオードについては、
次の記事を。
Jonson, "To Sir Cary and Sir Morison" (解説)

ホラティウスのオードは、ピンダロスのものに比べて、
内容的にも形式的にも落ちついているのが特徴。
そんなオリジナルを、ピンダロス風のオードの発展版として
17世紀の詩人エイブラハム・カウリーが広めた
「ピンダリック」形式で翻案したのが、この作品。

ピンダリックの詩には、たとえば、次のものが。
Dryden, "Alexander's Feast"
Wordsworth, "Ode", 1807 ver. (日本語訳)

結局、大きくまとめれば、18世紀までのイギリス詩
におけるオードは、ピンダロス風、ホラティウス風、
ピンダリックの三種。その後、シェリーやキーツが、
より自由に「オード」という語を用いはじめた。

シェリーの「西風のオード」は、イタリアの詩形テルツァ・
リーマでソネット(14行詩)をつくって、それを五篇
連続させたもの。

* * *
(訳注)

9 come away
= come on (OED, "away" 1)。

19 busie pageantry
あわただしい日常生活のたとえ。仮装行列、というのは、
たとえば、貴族・政治家などのつきあいは表面的で、
ある意味、嘘ばかり、ということ。

22 grateful
心地いい、気持ちいい(OED 1)。

23 fit
短い期間(OED 4d)。

25 neat
きれい、よごれていない(OED 1)。

27 Tyrian
テュロス(Tyre)の。テュロスは、古代フェニキアの
海港都市。現在のレバノン南部。紫の染物で知られていた。

27 Loom
織機、機(はた)。ここでは、織りもののこと。

29-32
太陽の近くにのぼっているとき、おおいぬ座の星は
異常な暑さをもたらすと古代から考えられていた
(OED, "dog-star" 1)。

37 shades
太陽のあたらない場所、木陰(詩的表現、OED 9a)。

41 the City Faction
この詩の書かれた1680年代前半に、ロンドン市政の
主導権を握っていたホイッグたちのこと。ホイッグとは、
1679-81年の王位継承排除危機Exclusion Crisis
において、王チャールズ2世の弟で、カトリックだったヨーク公
ジェイムズ、のちのジェイムズ2世から王位継承権を奪おうとした
人々。

国教会支持・王権に対して従順なトーリーに対して、
ホイッグは、カトリック以外の非国教徒に寛容で、
王権に対して干渉的。この頃のドライデンはトーリー。

42 Gallique Arms
フランス軍のこと。当時の王ルイ14世は、スペインや
神聖ローマ帝国に対して軍事行動を起こしていた。
(上記Longman版の注より。)

43 the Quiver bearing Foe
おそらく、トルコ人。(1680年代前半、ヨーロッパに
攻めこもうとしていた。)
(上記Longman版の注より。)

48 giddy
目が回るほどの早さでくるくる回る(OED 2d)。

49
日本語訳は二行で。

52 bus'ness
「仕事」のほかに次のような意味も。
不安、心配ごと(OED 5, 1577まで)。
面倒なこと、やっかいなこと(OED 7a)。

ホラティウスのラテン語はcetera (= other things)。

52 stream
海の流れ(OED 2c)。

57 bed
海や川の底(OED 9)。

64 honour(s)
飾りもの(OED 6b)。

74 oppress
残酷で不正な力によって支配し、抑圧する(OED 4)。

75 Proud
(称えらえて、自尊心をくすぐられるようなことにより)
うれしく思っている、喜んでいる(OED 2)。

75 office
人のためになすこと(OED 1-2)。

76 bless
幸せを与える、幸せにする(OED 7)。

84
〈運の女神〉を愛人にたとえるマキアヴェッリなど参照。
(上記Longman版の注より。)細部は未確認だが、
おそらく『君主論』のこと。

87
比喩とはいえ、「寝る」、「娼婦」などという表現の
直後に「美徳が」といわれても……。このような、なんとも
いえない違和感の残る表現がドライデンには多い気がする。
知的でありつつ、投げやりで不誠実、というような。

(カウリーなど、いわゆる「王党派」詩人的な、ちょっと
「悪」なポーズと、内戦のなかを生きてきた者の重さ・
シリアスさの、ある種絶妙なブレンドかと勝手に思っている。)

* * *
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Dryden (trans.), Horace, Ode III. 29 (英語テクスト)

John Dryden
"The 29th. Ode of the 3d. Book of Horace,
Paraphras'd in Pindarick Verse, and inscrib'd
to the Right Honourable Lawrence Earl of Rochester"

I.
Descended of an ancient Line,
That long the Tuscan Scepter sway'd,
Make haste to meet the generous wine,
Whose piercing is for thee delay'd:
The rosie wreath is ready made;
And artful hands prepare
The fragrant Syrian Oyl, that shall perfume thy hair.
(1-7)

II.
When the Wine sparkles from a far,
And the well-natur'd Friend cries, come away;
Make haste, and leave thy business and thy care,
No mortal int'rest can be worth thy stay.
(8-11)

III.
Leave for a while thy costly Country Seat;
And, to be Great indeed, forget
The nauseous pleasures of the Great:
Make haste and come:
Come and forsake thy cloying store;
Thy Turret that surveys, from high,
The smoke, and wealth, and noise of Rome;
And all the busie pageantry
That wise men scorn, and fools adore:
Come, give thy Soul a loose, and taste the pleasures of the poor.
(12-21)

IV.
Sometimes 'tis grateful to the Rich, to try
A short vicissitude, and fit of Poverty:
A savoury Dish, a homely Treat,
Where all is plain, where all is neat,
Without the stately spacious Room,
The Persian Carpet, or the Tyrian Loom,
Clear up the cloudy foreheads of the Great.
(22-28)

V.
The Sun is in the Lion mounted high;
The Syrian Star
Barks from a far;
And with his sultry breath infects the Sky;
The ground below is parch'd, the heav'ns above us fry.
The Shepheard drives his fainting Flock,
Beneath the covert of a Rock;
And seeks refreshing Rivulets nigh:
The Sylvans to their shades retire,
Those very shades and streams, new shades and streams require;
And want a cooling breeze of wind to fan the rageing fire.
(29-39)

VI.
Thou, what befits the new Lord May'r,
And what the City Faction dare,
And what the Gallique Arms will do,
And what the Quiver bearing Foe,
Art anxiously inquisitive to know:
But God has, wisely, hid from humane sight
The dark decrees of future fate;
And sown their seeds in depth of night;
He laughs at all the giddy turns of State;
When Mortals search too soon, and fear too late.
(40-49)

VII.
Enjoy the present smiling hour;
And put it out of Fortunes pow'r:
The tide of bus'ness, like the running stream,
Is sometimes high, and sometimes low,
A quiet ebb, or a tempestuous flow,
And alwayes in extream.
Now with a noiseless gentle course
It keeps within the middle Bed;
Anon it lifts aloft the head,
And bears down all before it, with impetuous force:
And trunks of Trees come rowling down,
Sheep and their Folds together drown:
Both House and Homested into Seas are borne,
And Rocks are from their old foundations torn,
And woods made thin with winds, their scatter'd honours mourn.
(50-64)

VIII.
Happy the Man, and happy he alone,
He, who can call to day his own:
He, who secure within, can say
To morrow do thy worst, for I have liv'd to day.
Be fair, or foul, or rain, or shine,
The joys I have possest, in spight of fate are mine
Not Heav'n it self upon the past has pow'r;
But what has been, has been, and I have had my hour.
(65-72)

IX.
Fortune, that with malicious joy,
Does Man her slave oppress,
Proud of her Office to destroy,
Is seldome pleas'd to bless
Still various and unconstant still;
But with an inclination to be ill;
Promotes, degrades, delights in strife,
And makes a Lottery of life.
I can enjoy her while she's kind;
But when she dances in the wind,
And shakes her wings, and will not stay,
I puff the Prostitute away:
The little or the much she gave, is quietly resign'd:
Content with poverty, my Soul, I arm;
And Vertue, tho' in rags, will keep me warm.
(73-87)

X.
What is't to me,
Who never sail in her unfaithful Sea,
If Storms arise, and Clouds grow black;
If the Mast split and threaten wreck,
Then let the greedy Merchant fear
For his ill gotten gain;
And pray to Gods that will not hear,
While the debating winds and billows bear
His Wealth into the Main.
For me secure from Fortunes blows,
(Secure of what I cannot lose,)
In my small Pinnace I can sail,
Contemning all the blustring roar;
And running with a merry gale,
With friendly Stars my safety seek
Within some little winding Creek;
And see the storm a shore.
(88-104)

* * *
Sylvae: Or, The Second Part of Poetical Miscellanies
(1685) より。


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From Dryden (trans.), Juvenal, Satire 10

ユウェナリス、『諷刺10』より
(英語訳・翻案ジョン・ドライデン)

デモクリトスは笑ったという、ありがちな心配や恐れに対して。
人々が求める意味のない勝利や、さらに意味のない彼らの涙に対して。
彼の心には、いつも同じ落ちつきがあった、
〈運の女神〉が媚を売ってきたときも、彼をにらんできたときも。
だから明らかだ、わたしたちが神に祈って求めるようなことは、
たいていよくないことをもたらす。せいぜい、何の役にも立たない。
(79-84)

* * *
From The Tenth Satire of Juvenal
(Trans. John Dryden)

He laughs at all the vulgar cares and fears;
At their vain triumphs, and their vainer tears:
An equal temper in his mind he found,
When Fortune flatter'd him, and when she frown'd.
'Tis plain from hence that what our vows request
Are hurtful things, or useless at the best.
(79-84)

* * *
79 He
デモクリトスDemocritusのこと。古代ギリシャの哲学者。
「笑う哲学者」("laughing philosopher")として
知られる。楽しく生きることを倫理の最終目標としていたから、とも、
人々の愚かさをあざけっていた、とも。

後者はローマの哲学者セネカSenecaの解釈。
ユウェナリス(c.60-c.128)/ドライデンもこちらの路線で。

ユウェナリスはローマ帝国の政治や社会のあり方を諷刺した詩人。
ドライデンは内戦、共和国、王政復古、王位継承排除危機、
そして名誉革命という、17世紀イギリスの政治的混乱を、
(内戦以外は)その内側から見てきた。官僚、桂冠詩人などとして。

* * *
英語テクストは、The Works of John Dryden, ed. Walter
Scott, vol 13 (1821) より。一部修正。
http://archive.org/details/worksjohndryden02drydgoog

* * *
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Dryden (trans.), Horace, Ode I.9

ホラティウス、オード9 (「ごらん、高く、白い山を」)
(『オード集』第1巻より)

(英語訳・翻案 ジョン・ドライデン)

I.
ごらん、高く、白い山を。
新しくつもった雪でますます高くなっている。
ごらん、雪の重さが
下の木を押しつぶそうとしている。
川は、氷の足かせでかたい地面に縛られ、
その足はひきつって、麻痺している。

II.
薪を高く積んで寒さをとかそう。
暖炉に火をつけ、心地よく、あたたかくしよう。
ワインも出してこよう。飲めば気が大きくなるし、
話も楽しく弾む。恋が芽生えたりもする。
今後おこることについては、神がなんとかして
くれればいい。なんとかしよう、という気になってくれるなら。

III.
神がつくったものは神にまかせておこう。
世界を放り投げるなり、ぐるぐる回すなり、好きにさせよう。
神が命じるから嵐が襲い、
神が命じるから風が吹く。
神がうなづいて合図をすれば、嵐も風もやみ、
静けさが戻り、すべて落ち着く。

IV.
明日のこと、明日に何があるかなど、気にするのはやめよう。
今の、この時間をつかんで、逃がさないようにしよう。
過ぎ去っていく楽しみをさっとつかみ、
〈運の女神〉の手から奪ってしまおう。
恋や、恋の楽しみを軽んじてはいけない。
今日手に入れた富は富--たとえ明日それが失われても。

V.
若い黄金の時代のよろこびを、
悲しみを知らない若さが実らせる甘い果実を、ちゃんと手に入れておこう。
時が、病や老いでそれを枯らせ、
壊してしまう前に!
いきいき動いて楽しむのに、気持ちよく休むのに、
まさに今がいちばんいいとき。
いちばんいいものは、いちばんいい季節にしか手に入らない。

VI.
こっそり会う約束をした幸せの時間、
暗がりでの甘いささやき、
半分いやがりつつ、求めてくるキス、
闇のなか君を導く笑い声、
そのとき、やさしい妖精のような女の子は、はずかしいようなふりをして、
そして、隠れたりする--また見つけてほしいから。
これら、まさにこういうこと、神々が若者に与えるよろこびとは。

* * *
Horace, Ode I. 9
("Behold yon Mountains hoary height")

(Trans. John Dryden)

I.
Behold yon Mountains hoary height
Made higher with new Mounts of Snow;
Again behold the Winters weight
Oppress the lab'ring Woods below:
And streams with Icy fetters bound,
Benum'd and crampt to solid ground.

II.
With well heap'd Logs dissolve the cold,
And feed the genial heat with fires;
Produce the Wine, that makes us bold,
And sprightly Wit and Love inspires:
For what hereafter shall betide,
God, if 'tis worth his care, provide.

III.
Let him alone with what he made,
To toss and turn the World below;
At his command the storms invade;
The winds by his Commission blow;
Till with a Nod he bids 'em cease,
And then the Calm returns, and all is peace.

IV.
To morrow and her works defie,
Lay hold upon the present hour,
And snatch the pleasures passing by,
To put them out of Fortunes pow'r:
Nor love, nor love's delights disdain,
What e're thou get'st to day is gain.

V.
Secure those golden early joyes,
That Youth unsowr'd with sorrow bears,
E're with'ring time the taste destroyes,
With sickness and unweildy years!
For active sports, for pleasing rest,
This is the time to be possest;
The best is but in season best.

VI.
The pointed hour of promis'd bliss,
The pleasing whisper in the dark,
The half unwilling willing kiss,
The laugh that guides thee to the mark,
When the kind Nymph wou'd coyness feign,
And hides but to be found again,
These, these are joyes the Gods for Youth ordain.

* * *
訳注
(ローマ数字はスタンザ番号)

ホラティウスのオリジナルは4行x6スタンザ。
ドライデンは、足したり引いたり、そこに大幅に
手を加えて英訳している。

(ドライデンは、逐語訳、および原型をあまり
とどめないような完全な翻案、という両極端を嫌い、
原型をとどめつつ自由にいいかえる、という
方法--"paraphrase"--をとっている。)

I
冬の雪山の風景。スタンザIIにつながると同時に、
V-VIに描かれる若さと対照をなすことが後でわかる。

II
ホラティウスのオリジナルでは、神は複数の「神々」
(divis)。ローマ神話だから。これをドライデンは
一神教のキリスト教にあうように翻案。

ほとんどのすべて版は、ここのheatを誤植とみなし、
hearthに修正しているが、heapとの頭韻、heap, feed
との母音韻もあるので、heatがドライデンの意図した
語と思われる。(文脈から、hearth暖炉は自然に頭に
浮かぶ。あえてこの語がなくても。)

II-III
ここにまたがってあらわれているような、
神やこの世のあり方に対する投げやりな姿勢が、
思うにドライデンの特徴のひとつ。

「神に導かれた」兵士たちが戦い、「神に導かれた」
政治家たちが伝統的な国のあり方を壊し、そして
国を大混乱に陥れた内戦期・共和国期に対する反動。

神の意志が自分にはわかる、という思いあがりに
対する抵抗、強い批判。

(ホラティウスのオリジナルにこういうニュアンスはない。)

IV-VI
時のうつりかわり、この世のはかなさ、今という時間を
大切に、という、いわゆるcarpe diemのテーマ。

これを理由に女性を口説く(「若いうちにぼくと恋を
しよう」という)詩を書くケアリ(Carew)やマーヴェル
とは異なり、ここでのホラティウス/ドライデンは一般論
として若い男性に説いている。(その中間が、若い女性に
一般論を説くへリックの "To the Virgins".)

V
Unsoured, bear, tasteなどの語彙から、若い頃の
楽しみが甘い果実にたとえられていることがわかる。

VI
「半分いやがりつつ、求めてくるキス」とか、
「はずかしいようなふりをして、隠れたりする--
また見つけてほしいから」などという表現は
ドライデンの創作。

この手の繊細で甘酸っぱい(少女マンガ的な?)表現を
さりげなく散りばめることができるのがドライデン。

(なんだかんだいって、こういうのをキライでない人は、
少なくないのでは。老若男女を問わず。)

なお、このスタンザVIの内容については、ラテン語
オリジナルの逐語訳的な英訳(Oxford World Classics
シリーズのHorace, Complete Odes and Epodesや、
Loeb Classic Libraryシリーズのものなど)を参照して
意訳。

また、ここでは「神々」。(これはホラティウスには
ない行で、完全にドライデンの創作。ドライデンのなかに
キリスト教的な思考とギリシャ/ローマ的な思考が
混在しているということ。)

* * *
開国以来、日本では、イギリスなど外国の文学が読まれ、
また日本文学にとり入れられてきていた。
(中国のものについていえば、はるか昔からそう。)

より身近なレベルでいえば、音楽や映画など、外国のものが
現在あたりまえのように聴かれ、見られている。

同じように、17世紀のイギリスにおいても、外国の文学が
翻訳されて広まっていた。(特にギリシャ/ローマの古典。)

ドライデンは、そのような翻訳文化に、ひいてはイギリス文学の
発展に、大きな(おそらく最大級の)貢献をしたひとり。

* * *
なお、日本語版Wikipedia「ドライデン」のページにある
次の記述は誤り。英語版WikiのDrydenのページの誤訳。

「ドライデンはホラティウス、ユウェナリス、オウィディウス、
ルクレティウス、テオクリトスらの作品を翻訳したが、これは
劇場用作品の執筆と比べると満足にはほど遠い仕事であると
彼は感じていた。」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%
83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%
E3%83%B3
(20130208現在)

(ドライデンは、劇場のための劇作よりも、はるかに古典の
翻訳を楽しんでいた。客受けを気にせず、書きたいことが
書けるから。)

* * *
(参考)
「神に導かれて・・・・・・」ということについて
Worden, "Providence and Politics in Cromwellian England"
Past and Present 109.1 (1985): 55-99.
小野、大西編『〈帝国〉化するイギリス』第5章(わたしが担当。)
クリストファー・ヒル評論集1-4 (法政大学叢書「ウニベルシタス」)

* * *
英語テクストは、Sylvae (1685) (Wing D2379) より。
誤植を一箇所修正。

* * *
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Dryden, ("Ah, how sweet it is to love!")

ジョン・ドライデン(1631-1700)
(「ああ、恋することって、なんて素敵!」)
(『暴君の恋』より)

ああ、恋することって、なんて素敵!
ああ、若くて、恋い焦がれるって、なんて楽しい!
なんて気持ちいい痛み!
はじめて恋の炎にふれたときって!
恋の痛みはずっと素敵、
他のすべての楽しみより。

ため息でも、恋する人がつけば、
静かに心が浮かびあがる。
ひとり流す涙でも、恋する人が流せば、
したたる香油のように傷をいやす。
息絶えるとき、恋する人は、
血を流しつつ安らかに逝く。

〈愛〉と〈時〉には敬意を払って。
去りゆく友のように大切にして。
金色の贈りもの、若さの盛りに
〈愛〉と〈時〉がくれる贈りものを拒まないで。
年ごとに、手に入りにくくなって、
年ごとに、難しくなっていくから。

愛は、泉の水のようになみなみと、
若い人すべての血にあふれる。
でも、流れるたびにそれは減り、
やがて枯れてしまう。
年老いたときに流れるのは、
雨だけ。にごって流れる雨だけ。

* * *
John Dryden
("Ah, how sweet it is to love!")
(From Tyrannick Love)

Ah, how sweet it is to love!
Ah, how gay is young desire!
And what pleasing pains we prove
When we first approach love's fire!
Pains of love be sweeter far 5
Than all other pleasures are.

Sighs which are from lovers blown
Do but gently heave the heart:
E'en the tears they shed alone
Cure, like trickling balm, their smart. 10
Lovers, when they lose their breath,
Bleed away in easy death.

Love and Time with reverence use,
Treat them like a parting friend;
Nor the golden gifts refuse 15
Which in youth sincere they send:
For each year their price is more,
And they less simple than before.

Love, like spring-tides full and high,
Swells in every youthful vein; 20
But each tide does less supply,
Till they quite shrink in again:
If a flow in age appear,
'Tis but rain, and runs not clear.

* * *
劇中で、魔法使いに呼び出された異教の精霊
ダミルカー(Damilcar)が、眠っている
聖カタリナに対してこの歌を歌う。そして
カタリナの守護霊アマリエル(Amariel)に
こっぴどく怒られる。

カルペ・ディエム(Carpe diem)--将来のことを
あれこれ考えるのではなく、今を生きよう/若いうちに
恋をしよう、というテーマ--の一変奏。Herrick,
"To the Virgins" や Marvell, "Coy Mistress" など
ばかりがとりあげられるが、他の詩人たちのものも
もっと読まれるべき。

また、政治詩・宗教詩(つまり、時の情勢を反映する詩)
以外のドライデンももっと評価されるべき。

思うに、この詩のいいところは、スタンザ1の浮かれ
具合とスタンザ4の枯れ具合の落差、およびスタンザ
2-3の比喩の繊細さ。ため息で心が浮かぶ(たとえば
風船のように)とか、愛や時間は去りゆく友のよう、
とか。

* * *
英語テクストは、The Works of the British Poets
(1795) vol. 6 より。
http://books.google.co.jp/books?id=ezdjAAAAMAAJ

* * *
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