英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
Marvell (tr.), Seneca, Thyestes, Second Chorus
アンドリュー・マーヴェル(訳)
セネカ『テュエステス』
コロスの歌 2
宮廷での出世などいらない。ゆらゆら揺れる
塔の先のような寵愛にしがみつくのは、もうたくさん。
むしろわたしはじっとしていたい。
誰も知らない隠れ家(が)で、
邪魔されずのんびり休みたい。
この世の舞台から遠く離れ、
老後をひっそり過ごしたい。
そして、人知れず
寿命を全(まっと)うし、
苦しむことなく死にたい、
田舎の一善人として。
人に注目されるなか、
自分を顧みず生きる、
〈死〉に突然さらわれるのはそんな人。
*****
"Andrew Marvell" (tr.)
The Second Chorus from Seneca's Tragedy, Thyestes
Climb at Court for me that will
Tottering Favour's pinnacle.
All I seek is to lye still.
Settled in some secret Nest
In calm Leisure let me rest;
And far off the publick Stage
Pass away my silent Age.
Thus when without noise, unknown,
I have liv'd out all my span,
I shall dye, without a groan,
An old honest Country man.
Who expos'd to others Eyes,
Into his own Heart ne'r pry's,
Death to him's a Strange surprise.
http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/seneca.htm
一部修正
*****
16世紀から18世紀初めにかけて人気のあった一節。
宮廷・政府批判の一手段。
*****
キーワード:
隠遁 retirement
平常心 ataraxia
ホラティウス Horace
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
セネカ『テュエステス』
コロスの歌 2
宮廷での出世などいらない。ゆらゆら揺れる
塔の先のような寵愛にしがみつくのは、もうたくさん。
むしろわたしはじっとしていたい。
誰も知らない隠れ家(が)で、
邪魔されずのんびり休みたい。
この世の舞台から遠く離れ、
老後をひっそり過ごしたい。
そして、人知れず
寿命を全(まっと)うし、
苦しむことなく死にたい、
田舎の一善人として。
人に注目されるなか、
自分を顧みず生きる、
〈死〉に突然さらわれるのはそんな人。
*****
"Andrew Marvell" (tr.)
The Second Chorus from Seneca's Tragedy, Thyestes
Climb at Court for me that will
Tottering Favour's pinnacle.
All I seek is to lye still.
Settled in some secret Nest
In calm Leisure let me rest;
And far off the publick Stage
Pass away my silent Age.
Thus when without noise, unknown,
I have liv'd out all my span,
I shall dye, without a groan,
An old honest Country man.
Who expos'd to others Eyes,
Into his own Heart ne'r pry's,
Death to him's a Strange surprise.
http://www.luminarium.org/sevenlit/marvell/seneca.htm
一部修正
*****
16世紀から18世紀初めにかけて人気のあった一節。
宮廷・政府批判の一手段。
*****
キーワード:
隠遁 retirement
平常心 ataraxia
ホラティウス Horace
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
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かまいません。
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画像 2016
画像 2016
近所の食堂 201602
(1930年頃築)
*****
伊豆 201603
夏目さんが倒れた部屋
巨大万華鏡(ここに顔が映る)
!
!!
*****
山手(横浜) 201604
パウンドのメトロの詩のイメージ
*****
近所の公園 201604
見張り櫓(やぐら)かなにか
戦争の記録 1
戦争の記録 2
*****
東京タワー 201605
*****
山手・元町公園(横浜) 201607
*****
近所の公園の夜 201607
池の石
美の三姉妹
*****
旧岩崎邸 201607
*****
名古屋港水族館 201608
美の三姉妹
*****
地元の歴史民俗資料館 201608
?
*****
地元の偉い人の家 201608
(1900年頃築)
手書きとのこと
*****
身内のアーティストS
*****
モリコロパーク 201608
*****
なにかの参考や息抜きになれば。
近所の食堂 201602
(1930年頃築)
*****
伊豆 201603
夏目さんが倒れた部屋
巨大万華鏡(ここに顔が映る)
!
!!
*****
山手(横浜) 201604
パウンドのメトロの詩のイメージ
*****
近所の公園 201604
見張り櫓(やぐら)かなにか
戦争の記録 1
戦争の記録 2
*****
東京タワー 201605
*****
山手・元町公園(横浜) 201607
*****
近所の公園の夜 201607
池の石
美の三姉妹
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旧岩崎邸 201607
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名古屋港水族館 201608
美の三姉妹
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地元の歴史民俗資料館 201608
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地元の偉い人の家 201608
(1900年頃築)
手書きとのこと
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身内のアーティストS
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モリコロパーク 201608
*****
なにかの参考や息抜きになれば。
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画像 2015
画像 2015
辻堂海岸 201502
*****
鎌倉 201503
******
山手(横浜) 201504
*****
江戸城 201504
*****
大船 201504
*****
田谷の洞窟 201504
*****
鉄道博物館 201505
*****
鎌倉? 201506
*****
江之浦 201508
*****
岡崎城 201508
*****
月 201509
*****
遊行寺ほか 201509
*****
横浜 201509
*****
三溪園 201509
*****
逗子 201510
*****
なにかの参考や息抜きになれば。
辻堂海岸 201502
*****
鎌倉 201503
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山手(横浜) 201504
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江戸城 201504
*****
大船 201504
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田谷の洞窟 201504
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鉄道博物館 201505
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鎌倉? 201506
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江之浦 201508
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岡崎城 201508
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月 201509
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遊行寺ほか 201509
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横浜 201509
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三溪園 201509
*****
逗子 201510
*****
なにかの参考や息抜きになれば。
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Gray, "The Progress of Poesy"
トマス・グレイ
「〈詩〉の旅:ピンダロス風のオード」
知性ある人に。
ふつうの人には通訳がいるだろう。
--ピンダロス、オリンピック・オード 2
I. 1.
目を覚まして、ギリシャの竪琴、さあ起きて、
すべての弦を感動で震えさせて--
こうして詩神の歌の響くヘリコン山の泉から
千もの歌の小川が流れ、迷路のような旅に出る。
そのほとりには花々が咲いてほほえみ、
流れから命と香りを飲む。
音楽の川はあふれんばかりに流れていく。
深く、堂々と、なめらかに、力強く、
緑の谷を通り、豊穣の神ケレスの治める金色の畑を通る。
激しい音をたてて崖を転がり落ちていく。
真っ逆さまに、すごい勢いで、ほとばしる。
そして岩に、風に揺れる森の木々に、その轟音がこだまする。
I. 2.
おおお、人に前を向かせるあなた!
美しく気高い曲で心をとらえるあなた、
亀の甲羅の竪琴!
荒れ狂う激情は、あなたの支配を受けて静まる。
トラキアの丘を治める戦争神マルスは、
あなたが命じれば、狂って走る戦車を止め、
血に飢えた槍を地に落とす。
笏を握るユピテルの腕に宿る鳥の王、
けばだつ羽、翼を閉じた鷲をも
あなたの魔法は手なずける。
暗い雲につつんであなたは眠らせる、
その恐ろしい嘴(くちばし)や稲妻を放つ目を。
I. 3.
声と踊りはあなたに従う、
あなたの歌声に調子をあわせて。
ヴェルヴェットのようなイダリアの緑の野原では、
薔薇の冠をかぶった愛の神たちが、
ウェヌスの祭りの日に、
おしゃれした〈お遊び〉や青い目の〈喜び〉たちと
明るい歌にのって楽しげに踊る。
追いかけたり、逃げたり、
輪になってこんにちは、したり。
早めのリズムにのって踊れば、
草露のついた足がきらきら光る。
ゆっくりとろけるようなメロディが女神ウェヌスの登場を告げると、
〈美〉の三姉妹が出てきてごあいさつ。
美しく崇高な腕を広げ、
ウェヌスは滑らかに、軽やかに、空を舞うように踊る。
赤くなった頬、大きなその胸の上を、
若い〈欲望〉の花と、輝く〈愛〉の光が駆けめぐる。
II. 1.
あらゆる苦難が弱い人間の生を待っている。
労働、貧困、拷問のような痛み、
病、涙に染まった悲しみの連続、そして
死、これが嵐に翻弄される運命からの唯一の逃げ場。
だが不平をいうのは愚かなこと、わが歌よ、
ユピテルの掟が正しいことを証明しよう。
そもそも、彼は天から詩神を送ってくれているではないか?
夜、病をもたらす夜露が、
青白い亡霊が、不幸を予告する夜の鳥が、
暗鬱な空を支配する。
が、いずれこれらは逃げていく。遠い東の崖の下、
昇ってくる太陽神ヒュペリオンを、彼の輝く光の矢を見て。
II. 2.
太陽の道の向こう側、
雪男の住む氷の山でも、
詩神は薄暗がりをつき破り、
凍えて生きる知性なき人々に光を授ける。
はてしなく広がるチリの森、
木々香るその木陰でも、
詩神に導かれ、教養なき若者が、
粗野に、しかし美しく、
羽を腰にまいた酋長や、素朴な愛について歌う。
詩神が行くところには、いつも
〈栄光〉と気高い〈慎み〉が生まれる。
何事にも負けぬ〈心〉が宿り、〈自由〉が聖らかに燃える。
II. 3.
デルポイの崖の上で風に揺れる森、
エーゲ海の冠のような島、
冷たく気持ちいいイリソス川、
あるいは琥珀色の迷路のような
メアンドロス川が潤す野原、
あらゆるところでいつも歌が
こだまする……はずだった。〈苦しみ〉の歌が響かなかったなら。
古(いにしえ)から山々が
人々に歌を教えてきた。
木陰や神々の泉が
深く厳かな音を授けてきた。
が、やがてギリシャの不幸にともない、
九人の詩神はパルナッソスを棄ててラティウムに向かった。
豪奢に生きる暴虐な〈権力〉が、
その鎖にとらわれて踊る姑息な〈悪〉が、許せなかったから。
そのラティウムもまた気高い精神を失ったとき、詩神たちは、
そう! イギリス! 海をこえてあなたの岸に向かった。
III. 1.
日の照らない、夏風の吹かないあなた、イギリスの
緑の膝に抱かれて〈自然〉の寵児シェイクスピアは育った。
澄んだエイヴォン川がさまようところで、
強大なる自然の母神キュベレが彼に
畏れ多い真の顔を見せたとき、恐れを知らぬ子は
小さな手をのばしてほほえんだ。
母はいった。この筆をあげよう、その透明な色で
春を彩り豊かに描きなさい。
金の鍵もふたつあげよう。不滅の名声を勝ちとりなさい!
こちらの鍵で喜びの門が開く。
これは恐怖の門の鍵、震えるような恐れの鍵。
聖なる共感の涙の泉も、これで開けられる。
III. 2.
次にあらわれたのはあの詩人、
恍惚のなか天使の翼にのって天を舞い、また誰も知らぬ
地獄の深淵までも目のあたりにしたミルトン。
彼は見た、時と空間のはての炎をこえ、
生きる神の玉座、サファイアの炎を。
そしてそれを前に震え、見つめる天使たちを。
だが過剰な光に打たれ、
彼の目は永遠の夜へと閉じられた。
あそこを見れば、ドライデンのより控えめな戦車が
勝利の戦場を走っていく、
聖なる二頭の馬に牽(ひ)かれ。
稲妻が馬の首を包んで飾り、足音の雷鳴も長く大きく響く。
III. 3.
ほら、聞こえる、ドライデンの手が竪琴の奥義を探っている!
輝く目をした〈空想〉が舞い、
絵の描かれた壺からまき散らしている、
魂をもった思考を! 燃える言葉を!
いや……違う、それは過去のこと、 もう何も聞こえない……。
おおお! 神の竪琴よ、今、どんな詩人があなたを
目覚めさせようとしている? 彼は勇敢だが、
ゼウスの鳥、テーバイの鷲のような
傲慢さはない。青い深淵のような
空の王国を飛んでわたるための
大きな翼ももっていない。
だが、こどものような彼の目には、
詩神の放つ光で東方の真珠のように
輝く何かが映っている、日のあたらないところにいても。
彼は天をめざして昇り、常人に与えられる以上の
生を求めて飛ぶ。善なる者には
及ばずとも、地位ある者よりはるかに高いところを。
*****
Thomas Gray
"The Progress of Poesy: A Pindaric Ode"
ϕωνᾶντα συνετοῖσιν· ἐς
δὲ τὸ πᾶν ἑρμηνέων χατίζει.
Pindar, Olymp[ian Odes]. II. [85]
I. 1.
Awake, Aeolian lyre, awake,
And give to rapture all thy trembling strings.
From Helicon's harmonious springs
A thousand rills their mazy progress take:
The laughing flowers, that round them blow,
Drink life and fragrance as they flow.
Now the rich stream of music winds along,
Deep, majestic, smooth, and strong,
Thro' verdant vales, and Ceres' golden reign:
Now rowling down the steep amain,
Headlong, impetuous, see it pour:
The rocks, and nodding groves rebellow to the roar.
I. 2.
Oh! Sovereign of the willing soul,
Parent of sweet and solemn-breathing airs,
Enchanting shell! the sullen Cares
And frantic Passions hear thy soft controul.
On Thracia's hills the Lord of War,
Has curb'd the fury of his car,
And drop'd his thirsty lance at thy command.
Perching on the scept'red hand
Of Jove, thy magic lulls the feather'd king
With ruffled plumes, and flagging wing:
Quench'd in dark clouds of slumber lie
The terror of his beak, and light'nings of his eye.
I. 3.
Thee the voice, the dance, obey,
Temper'd to thy warbled lay.
O'er Idalia's velvet-green
The rosy-crowned Loves are seen
On Cytherea's day
With antic Sports, and blue-eyed Pleasures,
Frisking light in frolic measures;
Now pursuing, now retreating,
Now in circling troops they meet:
To brisk notes in cadence beating
Glance their many-twinkling feet.
Slow melting strains their Queen's approach declare:
Where'er she turns the Graces homage pay.
With arms sublime, that float upon the air,
In gliding state she wins her easy way:
O'er her warm cheek, and rising bosom, move
The bloom of young Desire, and purple light of Love.
II. 1.
Man's feeble race what Ills await,
Labour, and Penury, the racks of Pain,
Disease, and Sorrow's weeping train,
And Death, sad refuge from the storms of Fate!
The fond complaint, my Song, disprove,
And justify the laws of Jove.
Say, has he given in vain the heav'nly Muse?
Night, and all her sickly dews,
Her Spectres wan, and Birds of boding cry,
He gives to range the dreary sky:
Till down the eastern cliffs afar
Hyperion's march they spy, and glitt'ring shafts of war.
II. 2.
In climes beyond the solar road,
Where shaggy forms o'er ice-built mountains roam,
The Muse has broke the twilight-gloom
To chear the shiv'ring Native's dull abode.
And oft, beneath the od'rous shade
Of Chile's boundless forests laid,
She deigns to hear the savage Youth repeat
In loose numbers wildly sweet
Their feather-cinctured Chiefs, and dusky Loves.
Her track, where-e'er the Goddess roves,
Glory pursue, and generous Shame,
Th' unconquerable Mind, and Freedom's holy flame.
II. 3.
Woods, that wave o'er Delphi's steep,
Isles, that crown th' Egaean deep,
Fields that cool Ilissus laves,
Or where Meander's amber waves
In lingering Lab'rinths creep,
How do your tuneful echoes languish,
Mute, but to the voice of Anguish?
Where each old poetic Mountain
Inspiration breath'd around:
Ev'ry shade and hallow'd Fountain
Murmur'd deep a solemn sound:
Till the sad Nine in Greece's evil hour
Left their Parnassus for the Latian plains.
Alike they scorn the pomp of tyrant-Power,
And coward Vice, that revels in her chains.
When Latium had her lofty spirit lost,
They sought, oh Albion! next thy sea-encircled coast.
III. 1.
Far from the sun and summer-gale,
In thy green lap was Nature's Darling laid,
What time, where lucid Avon stray'd,
To Him the mighty Mother did unveil
Her aweful face: The dauntless Child
Stretch'd forth his little arms, and smil'd.
This pencil take (she said) whose colours clear
Richly paint the vernal year:
Thine too these golden keys, immortal Boy!
This can unlock the gates of Joy;
Of Horrour that, and thrilling Fears,
Or ope the sacred source of sympathetic Tears.
III. 2.
Nor second He, that rode sublime
Upon the seraph-wings of Extasy,
The secrets of th' Abyss to spy.
He pass'd the flaming bounds of Place and Time:
The living Throne, the saphire-blaze,
Where Angels tremble, while they gaze,
He saw; but blasted with excess of light,
Closed his eyes in endless night.
Behold, where Dryden's less presumptuous car,
Wide o'er the fields of Glory bear
Two Coursers of ethereal race,
With necks in thunder cloath'd, and long-resounding pace.
III. 3.
Hark, his hands the lyre explore!
Bright-eyed Fancy hovering o'er
Scatters from her pictur'd urn
Thoughts, that breath, and words, that burn.
But ah! 'tis heard no more—
Oh! Lyre divine, what daring Spirit
Wakes thee now? tho' he inherit
Nor the pride, nor ample pinion,
That the Theban Eagle bear
Sailing with supreme dominion
Thro' the azure deep of air:
Yet oft before his infant-eyes would run
Such forms, as glitter in the Muse's ray
With orient hues, unborrow'd of the Sun:
Yet shall he mount, and keep his distant way
Beyond the limits of a vulgar fate,
Beneath the Good how far — but far above the Great.
http://spenserians.cath.vt.edu/TextRecord.php?textsid=34496
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=pppo
*****
(カウリーの改変版ではない)本物のピンダロス風
オードを英語で実現した作品。ストロペ・アンティストロペ・
エポドスの三部構成。(ここではこれ x3。)
偉大な詩の系譜:古代ギリシャからローマへ、
それをイギリスが継承、というシナリオ。
偉大なイギリス詩人の系譜:
シェイクスピア-->ミルトン-->ドライデン、
次にくるのがグレイ自身、というシナリオ。
(ポウプではなく。)
自己言及、比喩の洗練、(社会階層の点における)
視点の低さ、主題の非政治性・個人の内面的なところ、
などにおいてすでにロマン派的。
逆に、神話への言及や道徳への関心などの点で
まだ17世紀的。
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「〈詩〉の旅:ピンダロス風のオード」
知性ある人に。
ふつうの人には通訳がいるだろう。
--ピンダロス、オリンピック・オード 2
I. 1.
目を覚まして、ギリシャの竪琴、さあ起きて、
すべての弦を感動で震えさせて--
こうして詩神の歌の響くヘリコン山の泉から
千もの歌の小川が流れ、迷路のような旅に出る。
そのほとりには花々が咲いてほほえみ、
流れから命と香りを飲む。
音楽の川はあふれんばかりに流れていく。
深く、堂々と、なめらかに、力強く、
緑の谷を通り、豊穣の神ケレスの治める金色の畑を通る。
激しい音をたてて崖を転がり落ちていく。
真っ逆さまに、すごい勢いで、ほとばしる。
そして岩に、風に揺れる森の木々に、その轟音がこだまする。
I. 2.
おおお、人に前を向かせるあなた!
美しく気高い曲で心をとらえるあなた、
亀の甲羅の竪琴!
荒れ狂う激情は、あなたの支配を受けて静まる。
トラキアの丘を治める戦争神マルスは、
あなたが命じれば、狂って走る戦車を止め、
血に飢えた槍を地に落とす。
笏を握るユピテルの腕に宿る鳥の王、
けばだつ羽、翼を閉じた鷲をも
あなたの魔法は手なずける。
暗い雲につつんであなたは眠らせる、
その恐ろしい嘴(くちばし)や稲妻を放つ目を。
I. 3.
声と踊りはあなたに従う、
あなたの歌声に調子をあわせて。
ヴェルヴェットのようなイダリアの緑の野原では、
薔薇の冠をかぶった愛の神たちが、
ウェヌスの祭りの日に、
おしゃれした〈お遊び〉や青い目の〈喜び〉たちと
明るい歌にのって楽しげに踊る。
追いかけたり、逃げたり、
輪になってこんにちは、したり。
早めのリズムにのって踊れば、
草露のついた足がきらきら光る。
ゆっくりとろけるようなメロディが女神ウェヌスの登場を告げると、
〈美〉の三姉妹が出てきてごあいさつ。
美しく崇高な腕を広げ、
ウェヌスは滑らかに、軽やかに、空を舞うように踊る。
赤くなった頬、大きなその胸の上を、
若い〈欲望〉の花と、輝く〈愛〉の光が駆けめぐる。
II. 1.
あらゆる苦難が弱い人間の生を待っている。
労働、貧困、拷問のような痛み、
病、涙に染まった悲しみの連続、そして
死、これが嵐に翻弄される運命からの唯一の逃げ場。
だが不平をいうのは愚かなこと、わが歌よ、
ユピテルの掟が正しいことを証明しよう。
そもそも、彼は天から詩神を送ってくれているではないか?
夜、病をもたらす夜露が、
青白い亡霊が、不幸を予告する夜の鳥が、
暗鬱な空を支配する。
が、いずれこれらは逃げていく。遠い東の崖の下、
昇ってくる太陽神ヒュペリオンを、彼の輝く光の矢を見て。
II. 2.
太陽の道の向こう側、
雪男の住む氷の山でも、
詩神は薄暗がりをつき破り、
凍えて生きる知性なき人々に光を授ける。
はてしなく広がるチリの森、
木々香るその木陰でも、
詩神に導かれ、教養なき若者が、
粗野に、しかし美しく、
羽を腰にまいた酋長や、素朴な愛について歌う。
詩神が行くところには、いつも
〈栄光〉と気高い〈慎み〉が生まれる。
何事にも負けぬ〈心〉が宿り、〈自由〉が聖らかに燃える。
II. 3.
デルポイの崖の上で風に揺れる森、
エーゲ海の冠のような島、
冷たく気持ちいいイリソス川、
あるいは琥珀色の迷路のような
メアンドロス川が潤す野原、
あらゆるところでいつも歌が
こだまする……はずだった。〈苦しみ〉の歌が響かなかったなら。
古(いにしえ)から山々が
人々に歌を教えてきた。
木陰や神々の泉が
深く厳かな音を授けてきた。
が、やがてギリシャの不幸にともない、
九人の詩神はパルナッソスを棄ててラティウムに向かった。
豪奢に生きる暴虐な〈権力〉が、
その鎖にとらわれて踊る姑息な〈悪〉が、許せなかったから。
そのラティウムもまた気高い精神を失ったとき、詩神たちは、
そう! イギリス! 海をこえてあなたの岸に向かった。
III. 1.
日の照らない、夏風の吹かないあなた、イギリスの
緑の膝に抱かれて〈自然〉の寵児シェイクスピアは育った。
澄んだエイヴォン川がさまようところで、
強大なる自然の母神キュベレが彼に
畏れ多い真の顔を見せたとき、恐れを知らぬ子は
小さな手をのばしてほほえんだ。
母はいった。この筆をあげよう、その透明な色で
春を彩り豊かに描きなさい。
金の鍵もふたつあげよう。不滅の名声を勝ちとりなさい!
こちらの鍵で喜びの門が開く。
これは恐怖の門の鍵、震えるような恐れの鍵。
聖なる共感の涙の泉も、これで開けられる。
III. 2.
次にあらわれたのはあの詩人、
恍惚のなか天使の翼にのって天を舞い、また誰も知らぬ
地獄の深淵までも目のあたりにしたミルトン。
彼は見た、時と空間のはての炎をこえ、
生きる神の玉座、サファイアの炎を。
そしてそれを前に震え、見つめる天使たちを。
だが過剰な光に打たれ、
彼の目は永遠の夜へと閉じられた。
あそこを見れば、ドライデンのより控えめな戦車が
勝利の戦場を走っていく、
聖なる二頭の馬に牽(ひ)かれ。
稲妻が馬の首を包んで飾り、足音の雷鳴も長く大きく響く。
III. 3.
ほら、聞こえる、ドライデンの手が竪琴の奥義を探っている!
輝く目をした〈空想〉が舞い、
絵の描かれた壺からまき散らしている、
魂をもった思考を! 燃える言葉を!
いや……違う、それは過去のこと、 もう何も聞こえない……。
おおお! 神の竪琴よ、今、どんな詩人があなたを
目覚めさせようとしている? 彼は勇敢だが、
ゼウスの鳥、テーバイの鷲のような
傲慢さはない。青い深淵のような
空の王国を飛んでわたるための
大きな翼ももっていない。
だが、こどものような彼の目には、
詩神の放つ光で東方の真珠のように
輝く何かが映っている、日のあたらないところにいても。
彼は天をめざして昇り、常人に与えられる以上の
生を求めて飛ぶ。善なる者には
及ばずとも、地位ある者よりはるかに高いところを。
*****
Thomas Gray
"The Progress of Poesy: A Pindaric Ode"
ϕωνᾶντα συνετοῖσιν· ἐς
δὲ τὸ πᾶν ἑρμηνέων χατίζει.
Pindar, Olymp[ian Odes]. II. [85]
I. 1.
Awake, Aeolian lyre, awake,
And give to rapture all thy trembling strings.
From Helicon's harmonious springs
A thousand rills their mazy progress take:
The laughing flowers, that round them blow,
Drink life and fragrance as they flow.
Now the rich stream of music winds along,
Deep, majestic, smooth, and strong,
Thro' verdant vales, and Ceres' golden reign:
Now rowling down the steep amain,
Headlong, impetuous, see it pour:
The rocks, and nodding groves rebellow to the roar.
I. 2.
Oh! Sovereign of the willing soul,
Parent of sweet and solemn-breathing airs,
Enchanting shell! the sullen Cares
And frantic Passions hear thy soft controul.
On Thracia's hills the Lord of War,
Has curb'd the fury of his car,
And drop'd his thirsty lance at thy command.
Perching on the scept'red hand
Of Jove, thy magic lulls the feather'd king
With ruffled plumes, and flagging wing:
Quench'd in dark clouds of slumber lie
The terror of his beak, and light'nings of his eye.
I. 3.
Thee the voice, the dance, obey,
Temper'd to thy warbled lay.
O'er Idalia's velvet-green
The rosy-crowned Loves are seen
On Cytherea's day
With antic Sports, and blue-eyed Pleasures,
Frisking light in frolic measures;
Now pursuing, now retreating,
Now in circling troops they meet:
To brisk notes in cadence beating
Glance their many-twinkling feet.
Slow melting strains their Queen's approach declare:
Where'er she turns the Graces homage pay.
With arms sublime, that float upon the air,
In gliding state she wins her easy way:
O'er her warm cheek, and rising bosom, move
The bloom of young Desire, and purple light of Love.
II. 1.
Man's feeble race what Ills await,
Labour, and Penury, the racks of Pain,
Disease, and Sorrow's weeping train,
And Death, sad refuge from the storms of Fate!
The fond complaint, my Song, disprove,
And justify the laws of Jove.
Say, has he given in vain the heav'nly Muse?
Night, and all her sickly dews,
Her Spectres wan, and Birds of boding cry,
He gives to range the dreary sky:
Till down the eastern cliffs afar
Hyperion's march they spy, and glitt'ring shafts of war.
II. 2.
In climes beyond the solar road,
Where shaggy forms o'er ice-built mountains roam,
The Muse has broke the twilight-gloom
To chear the shiv'ring Native's dull abode.
And oft, beneath the od'rous shade
Of Chile's boundless forests laid,
She deigns to hear the savage Youth repeat
In loose numbers wildly sweet
Their feather-cinctured Chiefs, and dusky Loves.
Her track, where-e'er the Goddess roves,
Glory pursue, and generous Shame,
Th' unconquerable Mind, and Freedom's holy flame.
II. 3.
Woods, that wave o'er Delphi's steep,
Isles, that crown th' Egaean deep,
Fields that cool Ilissus laves,
Or where Meander's amber waves
In lingering Lab'rinths creep,
How do your tuneful echoes languish,
Mute, but to the voice of Anguish?
Where each old poetic Mountain
Inspiration breath'd around:
Ev'ry shade and hallow'd Fountain
Murmur'd deep a solemn sound:
Till the sad Nine in Greece's evil hour
Left their Parnassus for the Latian plains.
Alike they scorn the pomp of tyrant-Power,
And coward Vice, that revels in her chains.
When Latium had her lofty spirit lost,
They sought, oh Albion! next thy sea-encircled coast.
III. 1.
Far from the sun and summer-gale,
In thy green lap was Nature's Darling laid,
What time, where lucid Avon stray'd,
To Him the mighty Mother did unveil
Her aweful face: The dauntless Child
Stretch'd forth his little arms, and smil'd.
This pencil take (she said) whose colours clear
Richly paint the vernal year:
Thine too these golden keys, immortal Boy!
This can unlock the gates of Joy;
Of Horrour that, and thrilling Fears,
Or ope the sacred source of sympathetic Tears.
III. 2.
Nor second He, that rode sublime
Upon the seraph-wings of Extasy,
The secrets of th' Abyss to spy.
He pass'd the flaming bounds of Place and Time:
The living Throne, the saphire-blaze,
Where Angels tremble, while they gaze,
He saw; but blasted with excess of light,
Closed his eyes in endless night.
Behold, where Dryden's less presumptuous car,
Wide o'er the fields of Glory bear
Two Coursers of ethereal race,
With necks in thunder cloath'd, and long-resounding pace.
III. 3.
Hark, his hands the lyre explore!
Bright-eyed Fancy hovering o'er
Scatters from her pictur'd urn
Thoughts, that breath, and words, that burn.
But ah! 'tis heard no more—
Oh! Lyre divine, what daring Spirit
Wakes thee now? tho' he inherit
Nor the pride, nor ample pinion,
That the Theban Eagle bear
Sailing with supreme dominion
Thro' the azure deep of air:
Yet oft before his infant-eyes would run
Such forms, as glitter in the Muse's ray
With orient hues, unborrow'd of the Sun:
Yet shall he mount, and keep his distant way
Beyond the limits of a vulgar fate,
Beneath the Good how far — but far above the Great.
http://spenserians.cath.vt.edu/TextRecord.php?textsid=34496
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=pppo
*****
(カウリーの改変版ではない)本物のピンダロス風
オードを英語で実現した作品。ストロペ・アンティストロペ・
エポドスの三部構成。(ここではこれ x3。)
偉大な詩の系譜:古代ギリシャからローマへ、
それをイギリスが継承、というシナリオ。
偉大なイギリス詩人の系譜:
シェイクスピア-->ミルトン-->ドライデン、
次にくるのがグレイ自身、というシナリオ。
(ポウプではなく。)
自己言及、比喩の洗練、(社会階層の点における)
視点の低さ、主題の非政治性・個人の内面的なところ、
などにおいてすでにロマン派的。
逆に、神話への言及や道徳への関心などの点で
まだ17世紀的。
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
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Blake, "The Fly"
ウィリアム・ブレイク
「蜂」
小さな蜂、
夏に遊んでる君を、
ぼくはなにも考えずに
はたき落とした。
ぼくも
君みたいな蜂じゃない?
君も
ぼくみたいな人間じゃない?
だって、ぼくも踊って
飲んで歌って、
そのうちなにも考えてない誰かに
はたき落されるから。
考えることが生きること、
力、命そのもので、
考えないことは
死と同じ、というなら
ぼくは楽しい
蜂でいい。
生きてるにしろ、
死んでるにしろ。
*****
William Blake
"The Fly"
Little Fly,
Thy summer’s play
My thoughtless hand
Has brushed away.
Am not I
A fly like thee?
Or art not thou
A man like me?
For I dance,
And drink, and sing,
Till some blind hand
Shall brush my wing.
If thought is life
And strength and breath,
And the want
Of thought is death;
Then am I
A happy fly.
If I live,
Or if I die.
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934
*****
「蠅」ではないので注意。
Gray, "Ode on the Spring" からの文脈で読む。
*****
キーワード:
感受性 sensibility
理性 reason
カルペ・ディエム carpe diem
メメント・モリ memento mori
ホラティウス Horace
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
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かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「蜂」
小さな蜂、
夏に遊んでる君を、
ぼくはなにも考えずに
はたき落とした。
ぼくも
君みたいな蜂じゃない?
君も
ぼくみたいな人間じゃない?
だって、ぼくも踊って
飲んで歌って、
そのうちなにも考えてない誰かに
はたき落されるから。
考えることが生きること、
力、命そのもので、
考えないことは
死と同じ、というなら
ぼくは楽しい
蜂でいい。
生きてるにしろ、
死んでるにしろ。
*****
William Blake
"The Fly"
Little Fly,
Thy summer’s play
My thoughtless hand
Has brushed away.
Am not I
A fly like thee?
Or art not thou
A man like me?
For I dance,
And drink, and sing,
Till some blind hand
Shall brush my wing.
If thought is life
And strength and breath,
And the want
Of thought is death;
Then am I
A happy fly.
If I live,
Or if I die.
http://www.gutenberg.org/ebooks/1934
*****
「蠅」ではないので注意。
Gray, "Ode on the Spring" からの文脈で読む。
*****
キーワード:
感受性 sensibility
理性 reason
カルペ・ディエム carpe diem
メメント・モリ memento mori
ホラティウス Horace
*****
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Gray, "[Ode on the Pleasure Arising from Vicissitude]"
トマス・グレイ
(「オード:変化がもたらす喜びについて」)
黄金の〈朝〉が、空高く舞い、
露できらきら光る羽を広げる。
赤い頬でやさしくささやき、
遅れがちな春を恋に誘う。
やがて〈四月〉が起きてきて、
大地に眠るいい香りを目覚めさせる。
若く新しい緑の草を軽やかに蒔(ま)き広げ、
あたりの景色が生きはじめる。
生まれたばかりの羊の子たちが
よちよちと、でも元気に踊る。
気絶から回復した鳥たちも、
何ごともなかったかのように〈四月〉を迎える。
特にひばりは、空高くから響く声で
弾む心を無我夢中で歌う。
まぶしい空のなか、高く遠く小さくなっていき、
空気中に、澄んだ水のような光にのなかに、とけて消える。
昨日、世界は不機嫌で、
雪のつむじ風が舞っていた。
空に音楽はなく、
牛たちは頭を垂れていた。
でも今、彼らは楽しくて、なにがなんだかわからない。
昨日もなければ明日もない。
喜びを探すのは人間だけ、
未来を見て、過去を見て。
過去の〈不幸〉だって、静かに
ふりかえれば、そこにほほえみの跡が見える。
〈悲しみ〉の顔にも
憂鬱の美しさがある。
〈希望〉があれば、楽しい時間は長くなる。
どれほど黒く深い闇が
疲れたぼくらを包もうと、
〈希望〉があれば、遠い未来の日の光が差してくる。
薔薇色の〈喜び〉に導かれて歩く。
すると、いつもその親類の〈嘆き〉がついてくる。
〈不幸〉が通るところには
〈慰め〉もやってくる。
幸せはさらに明るく輝く、
暗い悲しみの色を帯びたなら。
光と影が上手に交わり争うところに、
命の力と調和が生まれる。
ほら、棘(とげ)のベッドで
長らく痛い思いをしてきた人がいる。
でも、彼は失われた力をとりもどす。
息を吹き返し、また歩きはじめる。
彼は知る、谷でいちばん小さな花、
風が鳴らすただの音、
ただの太陽、空気、空、
これらこそまさに楽園だと。
慎ましやかな〈平穏〉は、
〈喜び〉の泉のそばにひっそりたたずむ。
澄んだ水晶のような泉の水が
彼女を支える。
下のほうでは、群衆が……。
集まって、やかましく騒いで、
……彼らは抵抗するまもなく一掃され、
底なしの地獄に落とされて滅びる。
〈怠惰〉と〈傲慢〉が
一緒になってぶらついている、
いつもだらだらと。
(未完)
*****
Thomas Gray
"[Ode on the Pleasure Arising from Vicissitude]"
Now the golden Morn aloft
Waves her dew-bespangled wing;
With vermeil cheek and whisper soft
She wooes the tardy spring,
Till April starts, and calls around
The sleeping fragrance from the ground;
And lightly o'er the living scene
Scatters his freshest, tenderest green.
New-born flocks in rustic dance
Frisking ply their feeble feet;
Forgetful of their wintry trance
The birds his presence greet:
But chief the sky-lark warbles high
His trembling thrilling ecstasy
And, lessening from the dazzled sight,
Melts into air and liquid light.
Yesterday the sullen year
Saw the snowy whirlwind fly;
Mute was the music of the air,
The herd stood drooping by:
Their raptures now that wildly flow,
No yesterday nor morrow know;
'Tis man alone that joy descries
With forward and reverted eyes.
Smiles on past Misfortune's brow
Soft Reflection's hand can trace;
And o'er the cheek of Sorrow throw
A melancholy grace;
While Hope prolongs our happier hour,
Or deepest shades, that dimly lower
And blacken round our weary way,
Gilds with a gleam of distant day.
Still, where rosy Pleasure leads,
See a kindred Grief pursue;
Behind the steps that Misery treads,
Approaching Comfort view:
The hues of bliss more brightly glow,
Chastised by sabler tints of woe;
And blended form, with artful strife,
The strength and harmony of life.
See the wretch, that long has tossed
On the thorny bed of pain,
At length repair his vigour lost,
And breathe and walk again:
The meanest flowret of the vale,
The simplest note that swells the gale,
The common sun, the air and skies,
To him are opening Paradise.
Humble Quiet builds her cell
Near the source whence Pleasure flows;
She eyes the clear crystalline well
And tastes it as it goes.
Far below [...] the crowd.
Broad and turbulent it grows
[...] with resistless sweep
They perish in the boundless deep
Mark where Indolence and Pride,
Softly rolling side by side,
Their dull but daily round.
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=oopv
*****
シェリーの「ひばり」など、ロマン派に
連なる発想・表現が見られる未完の詩。
最後のところは、古典的な田園賛美・平常心賛美で
まとめようとして失敗、という感じ。
普遍・不変の来世か、カルペ・ディエム的な現世の享楽か、
という17世紀的な対立をこえ、変化のあるはかないこの世を
道徳的(かつ非宗教的)に正しく楽しんで生きる方向性を
示そうとしているところが新しい。
*****
キーワード:
心の安定 ataraxia
抑えられない感情 passion
カルペ・ディエム carpe diem
自然と人間 nature and man
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
(「オード:変化がもたらす喜びについて」)
黄金の〈朝〉が、空高く舞い、
露できらきら光る羽を広げる。
赤い頬でやさしくささやき、
遅れがちな春を恋に誘う。
やがて〈四月〉が起きてきて、
大地に眠るいい香りを目覚めさせる。
若く新しい緑の草を軽やかに蒔(ま)き広げ、
あたりの景色が生きはじめる。
生まれたばかりの羊の子たちが
よちよちと、でも元気に踊る。
気絶から回復した鳥たちも、
何ごともなかったかのように〈四月〉を迎える。
特にひばりは、空高くから響く声で
弾む心を無我夢中で歌う。
まぶしい空のなか、高く遠く小さくなっていき、
空気中に、澄んだ水のような光にのなかに、とけて消える。
昨日、世界は不機嫌で、
雪のつむじ風が舞っていた。
空に音楽はなく、
牛たちは頭を垂れていた。
でも今、彼らは楽しくて、なにがなんだかわからない。
昨日もなければ明日もない。
喜びを探すのは人間だけ、
未来を見て、過去を見て。
過去の〈不幸〉だって、静かに
ふりかえれば、そこにほほえみの跡が見える。
〈悲しみ〉の顔にも
憂鬱の美しさがある。
〈希望〉があれば、楽しい時間は長くなる。
どれほど黒く深い闇が
疲れたぼくらを包もうと、
〈希望〉があれば、遠い未来の日の光が差してくる。
薔薇色の〈喜び〉に導かれて歩く。
すると、いつもその親類の〈嘆き〉がついてくる。
〈不幸〉が通るところには
〈慰め〉もやってくる。
幸せはさらに明るく輝く、
暗い悲しみの色を帯びたなら。
光と影が上手に交わり争うところに、
命の力と調和が生まれる。
ほら、棘(とげ)のベッドで
長らく痛い思いをしてきた人がいる。
でも、彼は失われた力をとりもどす。
息を吹き返し、また歩きはじめる。
彼は知る、谷でいちばん小さな花、
風が鳴らすただの音、
ただの太陽、空気、空、
これらこそまさに楽園だと。
慎ましやかな〈平穏〉は、
〈喜び〉の泉のそばにひっそりたたずむ。
澄んだ水晶のような泉の水が
彼女を支える。
下のほうでは、群衆が……。
集まって、やかましく騒いで、
……彼らは抵抗するまもなく一掃され、
底なしの地獄に落とされて滅びる。
〈怠惰〉と〈傲慢〉が
一緒になってぶらついている、
いつもだらだらと。
(未完)
*****
Thomas Gray
"[Ode on the Pleasure Arising from Vicissitude]"
Now the golden Morn aloft
Waves her dew-bespangled wing;
With vermeil cheek and whisper soft
She wooes the tardy spring,
Till April starts, and calls around
The sleeping fragrance from the ground;
And lightly o'er the living scene
Scatters his freshest, tenderest green.
New-born flocks in rustic dance
Frisking ply their feeble feet;
Forgetful of their wintry trance
The birds his presence greet:
But chief the sky-lark warbles high
His trembling thrilling ecstasy
And, lessening from the dazzled sight,
Melts into air and liquid light.
Yesterday the sullen year
Saw the snowy whirlwind fly;
Mute was the music of the air,
The herd stood drooping by:
Their raptures now that wildly flow,
No yesterday nor morrow know;
'Tis man alone that joy descries
With forward and reverted eyes.
Smiles on past Misfortune's brow
Soft Reflection's hand can trace;
And o'er the cheek of Sorrow throw
A melancholy grace;
While Hope prolongs our happier hour,
Or deepest shades, that dimly lower
And blacken round our weary way,
Gilds with a gleam of distant day.
Still, where rosy Pleasure leads,
See a kindred Grief pursue;
Behind the steps that Misery treads,
Approaching Comfort view:
The hues of bliss more brightly glow,
Chastised by sabler tints of woe;
And blended form, with artful strife,
The strength and harmony of life.
See the wretch, that long has tossed
On the thorny bed of pain,
At length repair his vigour lost,
And breathe and walk again:
The meanest flowret of the vale,
The simplest note that swells the gale,
The common sun, the air and skies,
To him are opening Paradise.
Humble Quiet builds her cell
Near the source whence Pleasure flows;
She eyes the clear crystalline well
And tastes it as it goes.
Far below [...] the crowd.
Broad and turbulent it grows
[...] with resistless sweep
They perish in the boundless deep
Mark where Indolence and Pride,
Softly rolling side by side,
Their dull but daily round.
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=oopv
*****
シェリーの「ひばり」など、ロマン派に
連なる発想・表現が見られる未完の詩。
最後のところは、古典的な田園賛美・平常心賛美で
まとめようとして失敗、という感じ。
普遍・不変の来世か、カルペ・ディエム的な現世の享楽か、
という17世紀的な対立をこえ、変化のあるはかないこの世を
道徳的(かつ非宗教的)に正しく楽しんで生きる方向性を
示そうとしているところが新しい。
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キーワード:
心の安定 ataraxia
抑えられない感情 passion
カルペ・ディエム carpe diem
自然と人間 nature and man
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参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
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してください。
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かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
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Gray, "Ode on the Spring"
トマス・グレイ
「春のオード」
ほら! 薔薇色の胸をした〈時〉の女神たち、
ウェヌスの従者がやってくる。
みんなが待ってた花を咲かせ、
色あざやかな春の目を覚ます!
アテネの歌鳥ナイティンゲールは、あふれんばかりの歌で
郭公(かっこう)の歌に応えてる。
春のハーモニー、誰にも習ってないのに。
西風は喜びをささやきながら、
青く澄んだ空に
いい香りをふりまいてる。
樫の木の太い枝が
大きな茶色の陰をつくってる、
ごつごつで苔(こけ)におおわれた橅(ぶな)が
屋根のように木陰をつくってる、
そんな藺草(いぐさ)の生えた水辺に、
ぼくは詩の女神とすわって考える、
自然のなかで寛いで。
俗的なものを求めて熱くなる人間の愚かさについて、
傲慢な人間の卑しさ、小ささについて、
地位の高い人の不幸について!
〈心配ごと〉も手を休めてる。
牛たちも仕事を休んでる。
でも、聞こえる、空いっぱいに
光る蜂たちがぶんぶん忙しく飛んでる音が!
若い子たちが羽ばたいて、
春の花の蜜を集めてる、
透明に光る水のような日の光のなか浮かびながら。
小川の水の上を軽やかに飛んで、
きれいな金色の服を見せびらかして、
太陽にきらきら光を返しながら。
それをよく見てじっと考えれば、
人も蜂と、実は変わらない。
這おうが飛ぼうが、
結局みな出発したところに戻る。
忙しく働く者も、着飾る者も、みな
一日のように短い一生をはためき、飛んで過ごすだけ、
運の良し悪し次第でそれぞれの色の服を着て。
いずれ〈不運〉の手に叩(はた)かれて、
または年をとって凍えていって、飛べなくなって、
踊れなくなって、そして土に還って休む。
低い音でぶんぶん飛びながら、
陽気な蜂がぼくに答える--
バカじゃない? ねえ、まじめ君! 君ってさ、
友だちのいない蜂みたい!
そんな孤独な趣味じゃ、きらきらな雌と出会えない。
幸せをためる巣もつくれない。
きれいな羽も手に入らない。
君の若さはあっという間に逃げてく。
太陽は沈むし、君の春ももう終わり。
ぼくらは楽しいよ、五月のあいだは。
*****
Thomas Gray
"Ode on the Spring"
Lo! where the rosy-bosom'd Hours,
Fair Venus' train appear,
Disclose the long-expecting flowers,
And wake the purple year!
The Attic warbler pours her throat,
Responsive to the cuckoo's note,
The untaught harmony of spring:
While whisp'ring pleasure as they fly,
Cool zephyrs thro' the clear blue sky
Their gather'd fragrance fling.
Where'er the oak's thick branches stretch
A broader, browner shade;
Where'er the rude and moss-grown beech
O'er-canopies the glade,
Beside some water's rushy brink
With me the Muse shall sit, and think
(At ease reclin'd in rustic state)
How vain the ardour of the crowd,
How low, how little are the proud,
How indigent the great!
Still is the toiling hand of Care:
The panting herds repose:
Yet hark, how thro' the peopled air
The busy murmur glows!
The insect youth are on the wing,
Eager to taste the honied spring,
And float amid the liquid noon:
Some lightly o'er the current skim,
Some show their gaily-gilded trim
Quick-glancing to the sun.
To Contemplation's sober eye
Such is the race of man:
And they that creep, and they that fly,
Shall end where they began.
Alike the busy and the gay
But flutter thro' life's little day,
In fortune's varying colours drest:
Brush'd by the hand of rough Mischance,
Or chill'd by age, their airy dance
They leave, in dust to rest.
Methinks I hear in accents low
The sportive kind reply:
Poor moralist! and what art thou?
A solitary fly!
Thy joys no glitt'ring female meets,
No hive hast thou of hoarded sweets,
No painted plumage to display:
On hasty wings thy youth is flown;
Thy sun is set, thy spring is gone
We frolic, while 'tis May.
https://www.poetryfoundation.org/
poems-and-poets/poems/detail/44304
*****
古典および16-17世紀のイギリス詩から
ブレイク以降のロマン主義への中継点。
以下など参照:
- ホメロスの rosy-fingered Dawn
- エピクロス、ホラティウス、ウェルギリウス、
マルティアリス、セネカ以来の、田舎暮らしと
平常心(アタラキシア)の賛美
- カルペ・ディエムの主題
- Blake, "The Fly"
- ワーズワースの自然描写
加えて、勤勉の象徴である蜂にカルペ・ディエムを
主張させるなど、いろいろ斬新な発想と表現を含んでいる
ことにも要注目。
*****
キーワード:
心の安定 ataraxia
隠遁 retirement
自然と人間 nature and man
メメント・モリ memento mori
カルペ・ディエム carpe diem
ホラティウス Horace
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「春のオード」
ほら! 薔薇色の胸をした〈時〉の女神たち、
ウェヌスの従者がやってくる。
みんなが待ってた花を咲かせ、
色あざやかな春の目を覚ます!
アテネの歌鳥ナイティンゲールは、あふれんばかりの歌で
郭公(かっこう)の歌に応えてる。
春のハーモニー、誰にも習ってないのに。
西風は喜びをささやきながら、
青く澄んだ空に
いい香りをふりまいてる。
樫の木の太い枝が
大きな茶色の陰をつくってる、
ごつごつで苔(こけ)におおわれた橅(ぶな)が
屋根のように木陰をつくってる、
そんな藺草(いぐさ)の生えた水辺に、
ぼくは詩の女神とすわって考える、
自然のなかで寛いで。
俗的なものを求めて熱くなる人間の愚かさについて、
傲慢な人間の卑しさ、小ささについて、
地位の高い人の不幸について!
〈心配ごと〉も手を休めてる。
牛たちも仕事を休んでる。
でも、聞こえる、空いっぱいに
光る蜂たちがぶんぶん忙しく飛んでる音が!
若い子たちが羽ばたいて、
春の花の蜜を集めてる、
透明に光る水のような日の光のなか浮かびながら。
小川の水の上を軽やかに飛んで、
きれいな金色の服を見せびらかして、
太陽にきらきら光を返しながら。
それをよく見てじっと考えれば、
人も蜂と、実は変わらない。
這おうが飛ぼうが、
結局みな出発したところに戻る。
忙しく働く者も、着飾る者も、みな
一日のように短い一生をはためき、飛んで過ごすだけ、
運の良し悪し次第でそれぞれの色の服を着て。
いずれ〈不運〉の手に叩(はた)かれて、
または年をとって凍えていって、飛べなくなって、
踊れなくなって、そして土に還って休む。
低い音でぶんぶん飛びながら、
陽気な蜂がぼくに答える--
バカじゃない? ねえ、まじめ君! 君ってさ、
友だちのいない蜂みたい!
そんな孤独な趣味じゃ、きらきらな雌と出会えない。
幸せをためる巣もつくれない。
きれいな羽も手に入らない。
君の若さはあっという間に逃げてく。
太陽は沈むし、君の春ももう終わり。
ぼくらは楽しいよ、五月のあいだは。
*****
Thomas Gray
"Ode on the Spring"
Lo! where the rosy-bosom'd Hours,
Fair Venus' train appear,
Disclose the long-expecting flowers,
And wake the purple year!
The Attic warbler pours her throat,
Responsive to the cuckoo's note,
The untaught harmony of spring:
While whisp'ring pleasure as they fly,
Cool zephyrs thro' the clear blue sky
Their gather'd fragrance fling.
Where'er the oak's thick branches stretch
A broader, browner shade;
Where'er the rude and moss-grown beech
O'er-canopies the glade,
Beside some water's rushy brink
With me the Muse shall sit, and think
(At ease reclin'd in rustic state)
How vain the ardour of the crowd,
How low, how little are the proud,
How indigent the great!
Still is the toiling hand of Care:
The panting herds repose:
Yet hark, how thro' the peopled air
The busy murmur glows!
The insect youth are on the wing,
Eager to taste the honied spring,
And float amid the liquid noon:
Some lightly o'er the current skim,
Some show their gaily-gilded trim
Quick-glancing to the sun.
To Contemplation's sober eye
Such is the race of man:
And they that creep, and they that fly,
Shall end where they began.
Alike the busy and the gay
But flutter thro' life's little day,
In fortune's varying colours drest:
Brush'd by the hand of rough Mischance,
Or chill'd by age, their airy dance
They leave, in dust to rest.
Methinks I hear in accents low
The sportive kind reply:
Poor moralist! and what art thou?
A solitary fly!
Thy joys no glitt'ring female meets,
No hive hast thou of hoarded sweets,
No painted plumage to display:
On hasty wings thy youth is flown;
Thy sun is set, thy spring is gone
We frolic, while 'tis May.
https://www.poetryfoundation.org/
poems-and-poets/poems/detail/44304
*****
古典および16-17世紀のイギリス詩から
ブレイク以降のロマン主義への中継点。
以下など参照:
- ホメロスの rosy-fingered Dawn
- エピクロス、ホラティウス、ウェルギリウス、
マルティアリス、セネカ以来の、田舎暮らしと
平常心(アタラキシア)の賛美
- カルペ・ディエムの主題
- Blake, "The Fly"
- ワーズワースの自然描写
加えて、勤勉の象徴である蜂にカルペ・ディエムを
主張させるなど、いろいろ斬新な発想と表現を含んでいる
ことにも要注目。
*****
キーワード:
心の安定 ataraxia
隠遁 retirement
自然と人間 nature and man
メメント・モリ memento mori
カルペ・ディエム carpe diem
ホラティウス Horace
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
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Owen, "Dulce et Decorum Est"
ウィルフレッド・オーウェン
「美シク正シイコト」
腰は折れ曲がり、袋を背負った年寄りの乞食みたいになって、
膝はがくがく、婆さんみたいにげほげほいいながら、ぼくらは
泥道を歩いた。話す言葉は、殺すぞコラ、とかそんなのばかり。
爆撃の光と炎を背に、遠くのテントに向かう。みんなへとへとで、
ほとんど眠りながら、でもしっかり歩いていた。ブーツではなく
血の靴をはいて、みんな足を引きずって。もう目も見えていない。
疲労に酔っぱらっていて、ヒューーッ!って飛んでくる5.9インチ爆弾の
音も聞こえない。それがすぐ後ろに落ちても気がつかない。
「やっべ! ガスだ! マスクを! はよ!」--無我夢中でがちゃがちゃ
しながら、ごついヘルメットをかぶる。なんとか間にあった。
が、間にあわない奴もいて、なにか叫びながら、よろよろ倒れ、
転げまわっていた。炎か鳥もちに包まれているみたいだった。
はっきり見えなかったが、ガスマスクのくすんだ緑の窓の向こう、
深い緑の海のなか、彼は溺れて死んだ。
毎日夢に見る。なにもできないぼくに向かって、彼は飛びこんで
くる。そして海に流され、溺れ、息ができずに死ぬ。
夢のなかでいいから、死んだ彼を
放りこんだ車の後ろに君もきて、
よじれて飛び出しそうな目や、罪を犯すことが嫌になった
悪魔みたいにだらりとたれさがった顔を見たなら--
車がゆれる度(たび)に、腐った肺から泡になった血、
癌みたいに嫌な色の血、もう治らないぐちゃぐちゃの
傷を胃液と混ぜたような、ありえないほど苦い血が、
ぐぶ! ごぼごぼ! って噴き出してくる音を聞いたなら--
ね、もう息苦しくなって、熱く気高く語ったりなんてできないはず、
なにか偉いことをなしとげたい、と燃えているこどもたちに。
あれは嘘だから。「美シク正シイコト、
ソレハ国ノタメニ死ヌコトナリ」、っていうのは。
*****
Wilfred Owen
"Dulce et Decorum Est"
Bent double, like old beggars under sacks,
Knock-kneed, coughing like hags, we cursed through sludge,
Till on the haunting flares we turned our backs
And towards our distant rest began to trudge.
Men marched asleep. Many had lost their boots
But limped on, blood-shod. All went lame; all blind;
Drunk with fatigue; deaf even to the hoots
Of tired, outstripped Five-Nines that dropped behind.
Gas! Gas! Quick, boys!—An ecstasy of fumbling,
Fitting the clumsy helmets just in time;
But someone still was yelling out and stumbling
And flound’ring like a man in fire or lime...
Dim, through the misty panes and thick green light,
As under a green sea, I saw him drowning.
In all my dreams, before my helpless sight,
He plunges at me, guttering, choking, drowning.
If in some smothering dreams you too could pace
Behind the wagon that we flung him in,
And watch the white eyes writhing in his face,
His hanging face, like a devil’s sick of sin;
If you could hear, at every jolt, the blood
Come gargling from the froth-corrupted lungs,
Obscene as cancer, bitter as the cud
Of vile, incurable sores on innocent tongues,—
My friend, you would not tell with such high zest
To children ardent for some desperate glory,
The old Lie: Dulce et decorum est
Pro patria mori.
https://www.poets.org/poetsorg/poem/dulce-et-decorum-est
*****
ソネット二つ。だんだん解体されてぐちゃぐちゃに。
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「美シク正シイコト」
腰は折れ曲がり、袋を背負った年寄りの乞食みたいになって、
膝はがくがく、婆さんみたいにげほげほいいながら、ぼくらは
泥道を歩いた。話す言葉は、殺すぞコラ、とかそんなのばかり。
爆撃の光と炎を背に、遠くのテントに向かう。みんなへとへとで、
ほとんど眠りながら、でもしっかり歩いていた。ブーツではなく
血の靴をはいて、みんな足を引きずって。もう目も見えていない。
疲労に酔っぱらっていて、ヒューーッ!って飛んでくる5.9インチ爆弾の
音も聞こえない。それがすぐ後ろに落ちても気がつかない。
「やっべ! ガスだ! マスクを! はよ!」--無我夢中でがちゃがちゃ
しながら、ごついヘルメットをかぶる。なんとか間にあった。
が、間にあわない奴もいて、なにか叫びながら、よろよろ倒れ、
転げまわっていた。炎か鳥もちに包まれているみたいだった。
はっきり見えなかったが、ガスマスクのくすんだ緑の窓の向こう、
深い緑の海のなか、彼は溺れて死んだ。
毎日夢に見る。なにもできないぼくに向かって、彼は飛びこんで
くる。そして海に流され、溺れ、息ができずに死ぬ。
夢のなかでいいから、死んだ彼を
放りこんだ車の後ろに君もきて、
よじれて飛び出しそうな目や、罪を犯すことが嫌になった
悪魔みたいにだらりとたれさがった顔を見たなら--
車がゆれる度(たび)に、腐った肺から泡になった血、
癌みたいに嫌な色の血、もう治らないぐちゃぐちゃの
傷を胃液と混ぜたような、ありえないほど苦い血が、
ぐぶ! ごぼごぼ! って噴き出してくる音を聞いたなら--
ね、もう息苦しくなって、熱く気高く語ったりなんてできないはず、
なにか偉いことをなしとげたい、と燃えているこどもたちに。
あれは嘘だから。「美シク正シイコト、
ソレハ国ノタメニ死ヌコトナリ」、っていうのは。
*****
Wilfred Owen
"Dulce et Decorum Est"
Bent double, like old beggars under sacks,
Knock-kneed, coughing like hags, we cursed through sludge,
Till on the haunting flares we turned our backs
And towards our distant rest began to trudge.
Men marched asleep. Many had lost their boots
But limped on, blood-shod. All went lame; all blind;
Drunk with fatigue; deaf even to the hoots
Of tired, outstripped Five-Nines that dropped behind.
Gas! Gas! Quick, boys!—An ecstasy of fumbling,
Fitting the clumsy helmets just in time;
But someone still was yelling out and stumbling
And flound’ring like a man in fire or lime...
Dim, through the misty panes and thick green light,
As under a green sea, I saw him drowning.
In all my dreams, before my helpless sight,
He plunges at me, guttering, choking, drowning.
If in some smothering dreams you too could pace
Behind the wagon that we flung him in,
And watch the white eyes writhing in his face,
His hanging face, like a devil’s sick of sin;
If you could hear, at every jolt, the blood
Come gargling from the froth-corrupted lungs,
Obscene as cancer, bitter as the cud
Of vile, incurable sores on innocent tongues,—
My friend, you would not tell with such high zest
To children ardent for some desperate glory,
The old Lie: Dulce et decorum est
Pro patria mori.
https://www.poets.org/poetsorg/poem/dulce-et-decorum-est
*****
ソネット二つ。だんだん解体されてぐちゃぐちゃに。
*****
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Blake, "To the Evening Star"
ウィリアム・ブレイク
「夕暮れの金星に」
美しい髪の君、夜の到来を告げる君、
太陽がまだ山にすわって休んでいるあいだに、明るく
燃える愛の松明(たいまつ)を灯して。輝く王冠を
かぶり、ぼくたちのベッドにほほえみかけて!
愛しあうぼくたちにほほえんで。空に藍色の
カーテンを引きながら、銀の夜露をすべての
花にふりかけてあげて。みんなかわいい目を閉じて
眠ろうとしてるから。西風も湖の上で眠らせて
あげて。声を出さずに話しかけて、やさしく光る君の目で。
薄暗がりを銀の光で洗ってあげて。すぐに、あっという間に、
君は消える。そしたら狼が暴れまわり、
暗くくすんだ森のなかからライオンがぎらぎら目を光らせる。
だから羊たちの毛を、君の聖なる露で包んであげて。
君の力で羊たちを守ってあげて。
*****
William Blake
"To the Evening Star"
Thou fair-hair'd angel of the evening,
Now, whilst the sun rests on the mountains, light
Thy bright torch of love; thy radiant crown
Put on, and smile upon our evening bed!
Smile on our loves, and while thou drawest the
Blue curtains of the sky, scatter thy silver dew
On every flower that shuts its sweet eyes
In timely sleep. Let thy west wind sleep on
The lake; speak silence with thy glimmering eyes,
And wash the dusk with silver. Soon, full soon,
Dost thou withdraw; then the wolf rages wide,
And the lion glares thro' the dun forest:
The fleeces of our flocks are cover'd with
Thy sacred dew: protect them with thine influence.
http://www.sonnets.org/blake.htm
*****
無韻のソネット。6行目と14行目は12音節。
*****
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「夕暮れの金星に」
美しい髪の君、夜の到来を告げる君、
太陽がまだ山にすわって休んでいるあいだに、明るく
燃える愛の松明(たいまつ)を灯して。輝く王冠を
かぶり、ぼくたちのベッドにほほえみかけて!
愛しあうぼくたちにほほえんで。空に藍色の
カーテンを引きながら、銀の夜露をすべての
花にふりかけてあげて。みんなかわいい目を閉じて
眠ろうとしてるから。西風も湖の上で眠らせて
あげて。声を出さずに話しかけて、やさしく光る君の目で。
薄暗がりを銀の光で洗ってあげて。すぐに、あっという間に、
君は消える。そしたら狼が暴れまわり、
暗くくすんだ森のなかからライオンがぎらぎら目を光らせる。
だから羊たちの毛を、君の聖なる露で包んであげて。
君の力で羊たちを守ってあげて。
*****
William Blake
"To the Evening Star"
Thou fair-hair'd angel of the evening,
Now, whilst the sun rests on the mountains, light
Thy bright torch of love; thy radiant crown
Put on, and smile upon our evening bed!
Smile on our loves, and while thou drawest the
Blue curtains of the sky, scatter thy silver dew
On every flower that shuts its sweet eyes
In timely sleep. Let thy west wind sleep on
The lake; speak silence with thy glimmering eyes,
And wash the dusk with silver. Soon, full soon,
Dost thou withdraw; then the wolf rages wide,
And the lion glares thro' the dun forest:
The fleeces of our flocks are cover'd with
Thy sacred dew: protect them with thine influence.
http://www.sonnets.org/blake.htm
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無韻のソネット。6行目と14行目は12音節。
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Gray, "Sonnet on the Death of Mr Richard West"
トマス・グレイ
「ソネット:リチャード・ウェストの死」
朝が輝き微笑んでも、ぼくには無駄。
アポロンが黄金の炎を赤く高く掲げても同じ。
鳥たちが楽しげに愛の歌を歌っても無駄。
畑が嬉しそうにまた緑の服を着はじめても同じ。
違う! ぼくが聞きたい歌はそれじゃない。
ぼくが見たいのはそういうものじゃない。
ぼくはひとり悲しみ、ひとり、心がとけそうだ。
少し楽しいことがあっても、それも胸のなか息絶える。
それでも朝は微笑み、忙しい人々を励ます。
毎日新しい喜びを幸運な人々にもたらす。
畑はいつもの作物を実らせ、
鳥は報われない愛の歌を歌いながら、卵を温める。
ぼくは意味もなく、もう聞いてくれない彼に嘆く。
そして泣く。泣いても無駄だからもっと泣く。
*****
Thomas Gray
"Sonnet on the Death of Mr Richard West"
In vain to me the smiling mornings shine,
And reddening Phoebus lifts his golden fire:
The birds in vain their amorous descant join,
Or cheerful fields resume their green attire:
These ears, alas! for other notes repine,
A different object do these eyes require.
My lonely anguish melts no heart but mine;
And in my breast the imperfect joys expire.
Yet morning smiles the busy race to cheer,
And new-born pleasure brings to happier men:
The fields to all their wonted tribute bear;
To warm their little loves the birds complain.
I fruitless mourn to him that cannot hear,
And weep the more because I weep in vain.
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=sorw
*****
キーワード:
心の安定 ataraxia
抑えられない感情 passion
感受性 sensibility
自然と人間 nature and man
メメント・モリ memento mori
カルペ・ディエム carpe diem
*****
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「ソネット:リチャード・ウェストの死」
朝が輝き微笑んでも、ぼくには無駄。
アポロンが黄金の炎を赤く高く掲げても同じ。
鳥たちが楽しげに愛の歌を歌っても無駄。
畑が嬉しそうにまた緑の服を着はじめても同じ。
違う! ぼくが聞きたい歌はそれじゃない。
ぼくが見たいのはそういうものじゃない。
ぼくはひとり悲しみ、ひとり、心がとけそうだ。
少し楽しいことがあっても、それも胸のなか息絶える。
それでも朝は微笑み、忙しい人々を励ます。
毎日新しい喜びを幸運な人々にもたらす。
畑はいつもの作物を実らせ、
鳥は報われない愛の歌を歌いながら、卵を温める。
ぼくは意味もなく、もう聞いてくれない彼に嘆く。
そして泣く。泣いても無駄だからもっと泣く。
*****
Thomas Gray
"Sonnet on the Death of Mr Richard West"
In vain to me the smiling mornings shine,
And reddening Phoebus lifts his golden fire:
The birds in vain their amorous descant join,
Or cheerful fields resume their green attire:
These ears, alas! for other notes repine,
A different object do these eyes require.
My lonely anguish melts no heart but mine;
And in my breast the imperfect joys expire.
Yet morning smiles the busy race to cheer,
And new-born pleasure brings to happier men:
The fields to all their wonted tribute bear;
To warm their little loves the birds complain.
I fruitless mourn to him that cannot hear,
And weep the more because I weep in vain.
http://www.thomasgray.org/cgi-bin/display.cgi?text=sorw
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心の安定 ataraxia
抑えられない感情 passion
感受性 sensibility
自然と人間 nature and man
メメント・モリ memento mori
カルペ・ディエム carpe diem
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Eliot, G., Brother and Sister 1
ジョージ・エリオット
『兄と妹』1
いつも思い出す、
わたしと兄さんが、ふたつのつぼみみたいだった頃のこと。
蜂がぶんぶん飛んできただけでつぼみはゆれてキスする、
それくらい、わたしたちはいつもいっしょにそばにいた。
兄さんは小さくて、
背は100センチくらい、でもこわいもの知らずだった。
わたしはもっと小さくって、子犬みたいに兄さんについて
走っていったり、ついていけなかったり。
兄さんは頭がよかった。ヘビや鳥についてなんでも
知ってた。神さまのお気に入りはどのヘビか、とか。
兄さんに知らないことはなかった。兄さんが
知らないことを知ってるのは天使だけ、とか思ってた。
「しっ!」って兄さんがいえば、わたしは息を止めてじっとした。
「おいで!」っていったら、わたしはなにも考えずついていった。
*****
George Eliot
Brother and Sister 1
I cannot choose but think upon the time
When our two lives grew like two buds that kiss
At lightest thrill from the bee's swinging chime,
Because the one so near the other is.
He was the elder and a little man
Of forty inches, bound to show no dread,
And I the girl that puppy-like now ran,
Now lagged behind my brother's larger tread.
I held him wise, and when he talked to me
Of snakes and birds, and which God loved the best,
I thought his knowledge marked the boundary
Where men grew blind, though angels knew the rest.
If he said Hush! I tried to hold my breath;
Wherever he said Come! I stepped in faith.
http://www.online-literature.com/george_eliot/3656/
*****
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『兄と妹』1
いつも思い出す、
わたしと兄さんが、ふたつのつぼみみたいだった頃のこと。
蜂がぶんぶん飛んできただけでつぼみはゆれてキスする、
それくらい、わたしたちはいつもいっしょにそばにいた。
兄さんは小さくて、
背は100センチくらい、でもこわいもの知らずだった。
わたしはもっと小さくって、子犬みたいに兄さんについて
走っていったり、ついていけなかったり。
兄さんは頭がよかった。ヘビや鳥についてなんでも
知ってた。神さまのお気に入りはどのヘビか、とか。
兄さんに知らないことはなかった。兄さんが
知らないことを知ってるのは天使だけ、とか思ってた。
「しっ!」って兄さんがいえば、わたしは息を止めてじっとした。
「おいで!」っていったら、わたしはなにも考えずついていった。
*****
George Eliot
Brother and Sister 1
I cannot choose but think upon the time
When our two lives grew like two buds that kiss
At lightest thrill from the bee's swinging chime,
Because the one so near the other is.
He was the elder and a little man
Of forty inches, bound to show no dread,
And I the girl that puppy-like now ran,
Now lagged behind my brother's larger tread.
I held him wise, and when he talked to me
Of snakes and birds, and which God loved the best,
I thought his knowledge marked the boundary
Where men grew blind, though angels knew the rest.
If he said Hush! I tried to hold my breath;
Wherever he said Come! I stepped in faith.
http://www.online-literature.com/george_eliot/3656/
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Yeats, "A Crazed Girl"
ウィリアム・バトラー・イェイツ
「狂った子」
あの狂った子が歌ってる。
あの子の詩が岸辺で踊ってる。
自分で自分がわからない魂が、
どこか知らないところに昇って、落ちる。
蒸気船の荷物のどこかに隠れたり、
膝の骨を折ったり。あの子は
気高く、美しい。心が
迷子になって、そして保護された、そんな英雄。
何があろうとおかまいなし。
あの子は立ちつくして絶望うぉうぉう
の歌を、ある種の勝利の歌を、歌う。
船荷の包みやかごが転がるなか、
わけのわからない言葉で。ぼくにわかったのは
ここだけ--「うぉうぉう飢え死にの海、腹ペコの海」。
*****
William Butler Yeats
"A Crazed Girl"
That crazed girl improvising her music.
Her poetry, dancing upon the shore,
Her soul in division from itself
Climbing, falling she knew not where,
Hiding amid the cargo of a steamship,
Her knee-cap broken, that girl I declare
A beautiful lofty thing, or a thing
Heroically lost, heroically found.
No matter what disaster occurred
She stood in desperate music wound,
Wound, wound, and she made in her triumph
Where the bales and the baskets lay
No common intelligible sound
But sang, 'O sea-starved, hungry sea.'
https://en.wikisource.org/wiki/A_Crazed_Girl
*****
キーワード:
心の安定 ataraxia
抑えられない感情 passion
理性 reason
感受性 sensibility
*****
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「狂った子」
あの狂った子が歌ってる。
あの子の詩が岸辺で踊ってる。
自分で自分がわからない魂が、
どこか知らないところに昇って、落ちる。
蒸気船の荷物のどこかに隠れたり、
膝の骨を折ったり。あの子は
気高く、美しい。心が
迷子になって、そして保護された、そんな英雄。
何があろうとおかまいなし。
あの子は立ちつくして絶望うぉうぉう
の歌を、ある種の勝利の歌を、歌う。
船荷の包みやかごが転がるなか、
わけのわからない言葉で。ぼくにわかったのは
ここだけ--「うぉうぉう飢え死にの海、腹ペコの海」。
*****
William Butler Yeats
"A Crazed Girl"
That crazed girl improvising her music.
Her poetry, dancing upon the shore,
Her soul in division from itself
Climbing, falling she knew not where,
Hiding amid the cargo of a steamship,
Her knee-cap broken, that girl I declare
A beautiful lofty thing, or a thing
Heroically lost, heroically found.
No matter what disaster occurred
She stood in desperate music wound,
Wound, wound, and she made in her triumph
Where the bales and the baskets lay
No common intelligible sound
But sang, 'O sea-starved, hungry sea.'
https://en.wikisource.org/wiki/A_Crazed_Girl
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心の安定 ataraxia
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理性 reason
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Dowson, "A Last Word"
アーネスト・ダウソン
「最後に」
さあ、行こう、もう夜だ。
昼の時間はすり切れはてた。鳥もどこか飛んでいった。
神々が種をまいてくれたものは、もう十分刈りとった。
絶望とか、死とか。底なしの闇が地面をつつんでいる、
卵をあたためる夜の鳥みたいに。もうわからない、
笑うとか、泣くとか。ぼくらが知っているのは、
くだらない、ってことだけ。無意味なことのために、
あてもなく、目的もなく、歩いてきた、ってことだけ。
さあ、行こう、どこか知らない、冷たいところへ。
なにもない空っぽの国へ。いい人も悪い人も、
働かなくていいところ、年とった人が休めるところ、
愛や恐れや欲望からみんな解放されるところへ。
手をつなごう、傷だらけの手を! ああ、大地が包んでくれますように、
生に病んだぼくらの心を。そして、土に戻してくれますように。
*****
Ernest Dowson
"A Last Word"
Let us go hence: the night is now at hand;
The day is overworn, the birds all flown;
And we have reaped the crops the gods have sown;
Despair and death; deep darkness o'er the land,
Broods like an owl: we cannot understand
Laughter or tears, for we have only known
Surpassing vanity: vain things alone
Have driven our perverse and aimless band.
Let us go hence, somewhither strange and cold,
To Hollow Lands where just men and unjust
Find end of labour, where's rest for the old,
Freedom to all from love and fear and lust.
Twine our torn hands! O pray the earth enfold
Our life-sick hearts and turn them into dust.
*****
世紀末のデカダン・ソネット。
ペトラルカ以来の伝統でいえば、
「生」や「幸せ」が、手の届かない
貴婦人の位置に。
*****
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「最後に」
さあ、行こう、もう夜だ。
昼の時間はすり切れはてた。鳥もどこか飛んでいった。
神々が種をまいてくれたものは、もう十分刈りとった。
絶望とか、死とか。底なしの闇が地面をつつんでいる、
卵をあたためる夜の鳥みたいに。もうわからない、
笑うとか、泣くとか。ぼくらが知っているのは、
くだらない、ってことだけ。無意味なことのために、
あてもなく、目的もなく、歩いてきた、ってことだけ。
さあ、行こう、どこか知らない、冷たいところへ。
なにもない空っぽの国へ。いい人も悪い人も、
働かなくていいところ、年とった人が休めるところ、
愛や恐れや欲望からみんな解放されるところへ。
手をつなごう、傷だらけの手を! ああ、大地が包んでくれますように、
生に病んだぼくらの心を。そして、土に戻してくれますように。
*****
Ernest Dowson
"A Last Word"
Let us go hence: the night is now at hand;
The day is overworn, the birds all flown;
And we have reaped the crops the gods have sown;
Despair and death; deep darkness o'er the land,
Broods like an owl: we cannot understand
Laughter or tears, for we have only known
Surpassing vanity: vain things alone
Have driven our perverse and aimless band.
Let us go hence, somewhither strange and cold,
To Hollow Lands where just men and unjust
Find end of labour, where's rest for the old,
Freedom to all from love and fear and lust.
Twine our torn hands! O pray the earth enfold
Our life-sick hearts and turn them into dust.
*****
世紀末のデカダン・ソネット。
ペトラルカ以来の伝統でいえば、
「生」や「幸せ」が、手の届かない
貴婦人の位置に。
*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
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Tennyson, ("Now sleeps the crimson petal, now the white")
アルフレッド・テニソン
(今、深紅の花が眠りに落ちる)
今、深紅の花が眠りに落ちる。次に白い花。
風のない城の散歩道、動かない糸杉。
水晶の泉のなか、金の魚は瞬きしない。
蛍が目を覚ます。君も目を覚まして、ぼくといっしょに。
今、乳白の孔雀が頭を垂れる、亡霊のように。
そして亡霊のように、かすかに光る、ぼくに向かって。
今、ダナエのように、大地は星たちにからだを開いて
動かない。君の心も開かれている、ぼくに。
今、彗星が静かに浮かんで動かない。光の線を
残したまま。ぼくのなかの君への思いのよう。
今、百合が自分を抱きしめるように花をたたみ、
静かに、湖の胸に浸っていく。
君も、自分を抱きしめながら、静かにぼくの胸に
入ってきて。そしてぼくのなかにとけて消えて。
*****
Alfred Tennyson
("Now sleeps the crimson petal, now the white")
Now sleeps the crimson petal, now the white;
Nor waves the cypress in the palace walk;
Nor winks the gold fin in the porphyry font:
The fire-fly wakens: wake thou with me.
Now droops the milkwhite peacock like a ghost,
And like a ghost she glimmers on to me.
Now lies the Earth all Danaë to the stars,
And all thy heart lies open unto me.
Now lies the silent meteor on, and leaves
A shining furrow, as thy thoughts in me.
Now folds the lily all her sweetness up,
And slips into the bosom of the lake:
So fold thyself, my dearest, thou, and slip
Into my bosom and be lost in me.
http://www.gutenberg.org/ebooks/791
*****
だいぶ解体されたソネット。
*****
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かまいません。
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(今、深紅の花が眠りに落ちる)
今、深紅の花が眠りに落ちる。次に白い花。
風のない城の散歩道、動かない糸杉。
水晶の泉のなか、金の魚は瞬きしない。
蛍が目を覚ます。君も目を覚まして、ぼくといっしょに。
今、乳白の孔雀が頭を垂れる、亡霊のように。
そして亡霊のように、かすかに光る、ぼくに向かって。
今、ダナエのように、大地は星たちにからだを開いて
動かない。君の心も開かれている、ぼくに。
今、彗星が静かに浮かんで動かない。光の線を
残したまま。ぼくのなかの君への思いのよう。
今、百合が自分を抱きしめるように花をたたみ、
静かに、湖の胸に浸っていく。
君も、自分を抱きしめながら、静かにぼくの胸に
入ってきて。そしてぼくのなかにとけて消えて。
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Alfred Tennyson
("Now sleeps the crimson petal, now the white")
Now sleeps the crimson petal, now the white;
Nor waves the cypress in the palace walk;
Nor winks the gold fin in the porphyry font:
The fire-fly wakens: wake thou with me.
Now droops the milkwhite peacock like a ghost,
And like a ghost she glimmers on to me.
Now lies the Earth all Danaë to the stars,
And all thy heart lies open unto me.
Now lies the silent meteor on, and leaves
A shining furrow, as thy thoughts in me.
Now folds the lily all her sweetness up,
And slips into the bosom of the lake:
So fold thyself, my dearest, thou, and slip
Into my bosom and be lost in me.
http://www.gutenberg.org/ebooks/791
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だいぶ解体されたソネット。
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学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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Raleigh, "To His Son"
ウォルター・ローリ
「息子に」
三つのものがある。離れていればそれぞれ
あっという間に大きくなって栄えるが、
いつか、なぜかひととこに集まってくる。
で、集まった日にゃみんなおしまいだ。
この三つ、ってのは木と草と悪ガキだ。
木は絞首台になる。
草は死刑囚の頭にかぶせる袋を閉じる紐になる。
悪ガキ、ってのは、坊主、おまえのことだ。
な、よく聞けよ、集まらなければ
木は緑に大きくなるし、麻も育つし、ガキも元気だ。
だがこいつらが集まると、木は腐る、
麻はすり減る、でガキは首くくりだ。
だから気をつけろ、俺たちは離れないように
しような。せっかく今日会えたんだから。
*****
Walter Raleigh
"To His Son"
Three things there be that prosper up apace
And flourish, whilst they grow asunder far;
But on a day, they meet all in one place,
And when they meet, they one another mar.
And they be these: the wood, the weed, the wag.
The wood is that which makes the gallow tree;
The weed is that which strings the hangman's bag;
The wag, my pretty knave, betokeneth thee.
Mark well, dear boy, whilst these assemble not,
Green springs the tree, hemp grows, the wag is wild;
But when they meet, it makes the timber rot,
It frets the halter, and it chokes the child.
Then bless thee, and beware, and let us pray
We part not with thee at this meeting day.
http://www.sonnets.org/ralegh.htm
*****
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「息子に」
三つのものがある。離れていればそれぞれ
あっという間に大きくなって栄えるが、
いつか、なぜかひととこに集まってくる。
で、集まった日にゃみんなおしまいだ。
この三つ、ってのは木と草と悪ガキだ。
木は絞首台になる。
草は死刑囚の頭にかぶせる袋を閉じる紐になる。
悪ガキ、ってのは、坊主、おまえのことだ。
な、よく聞けよ、集まらなければ
木は緑に大きくなるし、麻も育つし、ガキも元気だ。
だがこいつらが集まると、木は腐る、
麻はすり減る、でガキは首くくりだ。
だから気をつけろ、俺たちは離れないように
しような。せっかく今日会えたんだから。
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Walter Raleigh
"To His Son"
Three things there be that prosper up apace
And flourish, whilst they grow asunder far;
But on a day, they meet all in one place,
And when they meet, they one another mar.
And they be these: the wood, the weed, the wag.
The wood is that which makes the gallow tree;
The weed is that which strings the hangman's bag;
The wag, my pretty knave, betokeneth thee.
Mark well, dear boy, whilst these assemble not,
Green springs the tree, hemp grows, the wag is wild;
But when they meet, it makes the timber rot,
It frets the halter, and it chokes the child.
Then bless thee, and beware, and let us pray
We part not with thee at this meeting day.
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