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Merry, "To Anna Matilda"

ロバート・メリー
「アンナ・マティルダに」

よく知ってます! 魅力的なあなたのことは!
音のない森で会いましたね。
高い山の上でも。
嵐の夜にも。
荒れた海岸を走っていましたね、
沈む太陽を見るために。
立ち止まって息をのんで、暗闇のなか、
轟く荒波の恐ろしい音を聴いていましたね。
夢中な目で
空の星の物語をたどってましたよね?
か弱げな三日月が
丘や森に投げかける薄明りを眺めたり、
魔法の川のほとりで、
波打つ月明かりを見たりしてましたよね?

ああ、女神のようなあなたの姿、忘れません。
若さの至りでつらい目にあった時、
何もかも憂鬱で、
親友たちにも冷たくされた時、
夏の仲間たちが
落ち目のぼくから逃げていくなか、
あなたは歌のような声で励ましてくれました。
胸の鼓動を静めてくれて、涙も止めてくれました。
あなたは教えてくれました、いちいち
卑しい者たちの忘恩を批判してもしかたがない、と。
空想の荒れ野をさまよって、
めくるめくクピドの園を見つけるように、と。
彼のベッドにぼくが横になった時、
あなたは銀梅花の冠を
輝く髪とあわせて編んでいましたね、
あの方、美神のなかの美神ウェヌスさまの髪と。
だから、そよ風があちこちに
薔薇のエッセンスを吹いて広げるようになりました。
胸にその香りを注がれて、やさしく扇がれて、
あなたの美しい体のすべてが眠ります。
でも、やがて深紅の夜明けに眠りが
まぶしいあなたの目から逃げ出したら、すぐに
弾いて、弾いてください、魔法の竪琴を。
心をこめて、炎をこめて、
甘く美しい声で歌ってください、
人には歌えない歌を。
それから、ああ、豊かな彩りにつつまれて
輝く姿を見せてください。
すてきな香りの露を髪からふり落してください。
鼓動のひとつひとつを新しい喜びで震わせてください。
ぼくの魂のなか、熱く燃える思いをかき立ててください。
抑えられない気持ちを高く激しく波立たせてください。
そして、本当の姿を見せてください。
あなたの美しさをぼくの目から隠さないでください。
嘘の名前でごまかさないでください。
だって、知ってます--あなたは詩の女神ですから!

*****
Robert Merry
"To Anna Matilda"

I KNOW thee well, enchanting Maid!
I've mark'd thee in the silent glade,
I've seen thee on the mountain's height,
I've met thee in the storms of night:
I've view'd thee on the wild beach run
To gaze upon the setting sun;
Then stop aghast, his ray no more,
To hear th' impetuous surge's roar.
Hast thou not stood with rapt'rous eye
To trace the starry worlds on high,
T'observe the moon's weak crescent throw
O'er hills, and woods, a glimm'ring glow:
Or, all beside some wizard stream,
To watch its undulating beam?

O well thy form divine I know---
When youthful errors brought me woe;
When all was dreary to behold,
And many a bosom-friend grew cold;
Thou, thou unlike the summer crew
That from my adverse fortune flew,
Cam'st with melodious voice, to cheer
My throbbing heart, and check the tear.
From thee I learnt, 'twas vain to scan
The low ingratitude of Man;
Thou bad'st me Fancy's wilds to rove,
And seek th' ecstatic bow'r of Love.
When on his couch I threw me down,
I saw thee weave a myrtle crown,
And blend it with the shining hair
Of her, the Fairest of the Fair.
For this, may ev'ry wand'ring gale
The essence of the rose exhale,
And pour the fragrance on thy breast,
And gently fan thy charms to rest.
Soon as the purple slumbers fly
The op'ning radiance of thine eye,
Strike, strike again the magic lyre,
With all thy pathos, all thy fire;
With all that sweetly-warbled grace,
Which proves thee of celestial race.
O then, in varying colours drest,
And living glory stand confest,
Shake from thy locks ambrosial dew,
And thrill each pulse of joy a-new;
With glowing ardours rouse my soul,
And bid the tides of Passion roll.
But think no longer in disguise,
To screen thy beauty from mine eyes;
Nor deign a borrow'd name to use,
For well I know---thou art the MUSE!

https://www.eighteenthcenturypoetry.org/works/o4739-w0080.shtml

*****
Cowley, "To Della Crusca: The Pen" への返答。

前半は、グレイ「田舎の教会墓地」の後半にあるような、また後の
コールリッジ「フビライ・ハン」やキーツの「もう死ぬかも」の
ソネットにも一部描かれるような、天才詩人のイメージ。

後半は以下の要素の組みあわせ:
コリンズ的な〈憐み〉
ボッティチェリ『ウェヌスの誕生』
ロック以降の感情(passion)称揚(ストア派思想の裏返し)
形而上学(キリスト教抜き)
--> Cf. シェリー「ひばり」、キーツの「耳には聴こえない歌」
詩神と彼女による憑依(enthusiasm)、その結果としての天才詩人

ボッティチェリ『ウェヌスの誕生』
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sandro_Botticelli_-_La_nascita_di_Venere_-_Google_Art_Project_-_edited.jpg

ウェヌスの銀梅花冠(バーン=ジョーンズ『ウェヌスの鏡』)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Edward_Burne-Jones_-_The_Mirror_Of_Venus,_1898.jpg

*****
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Cowley, "To Della Crusca: The Pen"

ハンナ・カウリー(アンナ・マティルダ)
「デラ・クルスカに:羽ペン」

ああ! もう一度、金の羽ペンで、
その先で、わたしの胸を震わせて。
魔法でわたしの心のなかを探って、
気持ちと涙をあふれさせて。
アポロからの贈りもの--
アオニアで、きらきら光る波のインクに浸って
羽ばたいていたペン、
ため息の蒸気にのって。
それはクピドの輝く翼から落ちた羽。
彼が力いっぱい弓を引いて、
いちばん鋭い、絶対的に当たる矢を
誰かの凍った反逆の心、
彼に逆らって
無駄に脈打っていた心に突き刺した時に。
そんなペンだから大事にして!
空想の空気の王座にのぼって、
虹のインクで、
神々が命じるままに、書いて!
アポロとクピドがあなたにのりうつって、
二重の炎で手伝ってくれるますように!
アポロンがあなたに言葉を、
クピドがあなたの想いに命を、くれますように!
あなたの歌にやさしい気持ちをこめてくれますように!
冬の日々にも熱い愛の冠をくれますように!

*****
Hanna Cowley (Anna Matilda)
"To Della Crusca: The Pen"

O! SEIZE again thy golden quill,
And with its point my bosom thrill;
With magic touch explore my heart,
And bid the tear of passion start.
Thy golden quill APOLLO gave —
Drench'd first in bright Aonia's wave:
He snatch'd it flutt'ring thro' the sky,
Borne on the vapour of a sigh:
It fell from Cupid's burnish'd wing
As forcefully he drew the string
Which sent his keenest, surest dart
Thro' a rebellious frozen heart;
That had till then defy'd his pow'r,
And vacant beat thro' each dull hour.
Be worthy then the sacred loan!
Seated on Fancy's air-built throne,
Immerse it in her rainbow hues,
Nor, what the Godheads bid, refuse!
APOLLO, CUPID, shall inspire,
And aid thee with their blended fire,
The one poetic language give,
The other bid thy passion live;
With soft ideas fill thy lays,
And crown with LOVE thy wint'ry days!

https://www.eighteenthcenturypoetry.org/works/o4739-w0070.shtml#text

*****
Merry, "The Adieu and Recall: To Love" への返答。

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Merry, "The Adieu and Recall: To Love"

「決別したのに呼び戻す:クピドに」
ロバート・メリー(デラ・クルスカ)

あっち行け、邪魔者クピド! 君の力なんかいらない。
花と棘でいっぱいのベッドもいらない。
君のうなる弓も尖った矢もいらない。
嘘つき美人がこわがりなふりして
「びっくりした」とか言っても、ちょっと悪い横目で見てきても、
優しく笑ってくれても、急に涙を流しても、
もうぼくはドキッとしない。ぜんぜん楽しくない。
だからさよなら、君、もうぼくは関係ない!
パタパタ飛んでここから消えて。
澄んだ泉で水浴びするなり、
薔薇の露を飲むなり、
ルイーザの胸で昼寝するなり、好きにして。
ありがとう。これまで楽しかった。
でもいい、今後いっさいぼくは君に縛られない。

とは言いつつ、たぶん、一日経ったら
日ざしが悲しく見えてきて、
西風が凍えるように吹いてきて、
川の音が雑音に聞こえてきて、
鳥が歌わなくなって、
森の音が楽しくなくなって、
そして、ナイティンゲール! 君の歌を
聴きながら悲しみに浸るのが好きだったのに、
それが耳に入らなくなって、
ため息も涙も出なくなって、
ふらふらと
朝露降りた草山をさまようのもやめて、
そよ風の酒も飲まなくなって、
目的もなく森の屋根の下を歩かなくなって、
一途に夢中に、
青白い頬の月の少女に愛を語るのもやめる、
木の葉の小部屋のすきまから
地面に銀の雨が降る夜に。
ああ! みんなが言う安らぎってこういうこと?
熱く楽しい欲望を捨てる?
心地いい気がかりを忘れる?
他の人の幸せと悲しみを気にしない?
無関心に心を凍らせる?
心が空っぽって悲しい……
だから戻ってきて、役立たずなクピド!
苦痛といっしょに喜びをもってきて!
帰ってきてぼくを拷問にかけて!
希望と不安と恐れを感じさせて!
あらゆる種類の痛みでぼくの心を引き裂いて!
それでいいから、もう一度ぼくを恋に落として!

*****
"The Adieu and Recall: To Love"
Robert Merry (Della Crusca)

Go, idle Boy! I quit thy pow'r;
Thy couch of many a thorn and flow'r;
Thy twanging bow, thine arrow keen,
Deceitful Beauty's timid mien;
The feign'd surprize, the roguish leer,
The tender smile, the thrilling tear,
Have now no pangs, no joys for me,
So fare thee well, for I am free!
Then flutter hence on wanton wing,
Or lave thee in yon lucid spring,
Or take thy bev'rage from the rose,
Or on Louisa's breast repose:
I wish thee well for pleasures past,
Yet bless the hour, I'm free at last.

But sure, methinks, the alter'd day
Scatters around a mournful ray;
And chilling ev'ry zephyr blows,
And ev'ry stream untuneful flows;
No rapture swells the linnet's voice,
No more the vocal groves rejoice;
And e'en thy song, sweet Bird of Eve!
With whom I lov'd so oft to grieve,
Now scarce regarded meets my ear,
Unanswer'd by a sigh or tear.
No more with devious step I choose
To brush the mountain's morning dews;
To drink the spirit of the breeze,
Or wander midst o'er-arching trees;
Or woo with undisturb'd delight,
The pale-cheek'd Virgin of the Night,
That piercing thro' the leafy bow'r,
Throws on the ground a silv'ry show'r.
Alas! is all this boasted ease,
To lose each warm desire to please,
No sweet solicitude to know
For others bliss, for others woe,
A frozen apathy to find,
A sad vacuity of mind?
O hasten back, then, idle Boy,
And with thine anguish bring thy joy!
Return with all thy torments here,
And let me hope, and doubt, and fear.
O rend my heart with ev'ry pain!
But let me, let me love again.

https://www.eighteenthcenturypoetry.org/works/o4739-w0060.shtml

*****
18世紀末に流行したデラ・クルスカ派の詩(Della Cruscan Poetry)
の最初のもの。このスタイルが18世紀の詩とロマン派のあいだの
決定的なリンクであるのに、文学史上ほとんど無視されている。
(確かにたいした作品ではないかもしれないが。)

これらと同じ「感受性」路線の作品。
Yearsley, "To Indifference"
Greville, "A Prayer for Indifference"H. More, "Sensibility"

以下など参照のこと--

田久保 浩
「デラクルスカ派の詩における感受性のイデオロギーと十八世紀メディア」
『言語文化研究』(徳島大学)25 (2017): 1-22
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/110983

田久保 浩
「ロバート・メリーとメアリー・ロビンソン : フランス革命と感受性の詩」
『言語文化研究』(徳島大学)28 (2020): 1-19
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/ja/115554

*****
感受性 sensibility
幸せな人 beatus ille
心の安らぎ ataraxia
賢い人 sapiens
無感情 apathy
美徳 virtue
自然
ホラティウス Horace
エピクロス Epicurus
ルクレティウス Lucretius
セネカ Seneca
ストア派 the Stoics
グロティウス Grotius
ホッブズ Hobbes
広教派 Latitude-men
(Augustine / Pelagius)
(Calvin / Arminius)
ケンブリッジ・プラトニスト Cambridge Platonists
シャフツベリー Third Earl of Shaftesbury
ヒューム Hume
アダム・スミス Adam Smith

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学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
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