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Coleridge, "Something Childish"

サミュエル・T・コールリッジ (1772-1834)
「子どもっぽいけど、とてもありがちなこと」

(ドイツにて)

小さな二枚の羽さえぼくにあったら、
もし、ほくが鳥だったなら、
君のところに飛んでいくのに!
でも、こういう考えは無駄なこと、
ぼくは飛べずにここにいる。

でも、眠りのなか、ぼくは君のところに飛んでいく。
眠っているときは、いつも君と一緒!
王様みたいに、なんでも思うがまま。
でも目を覚まし、ここはどこ? ってなって、
ひとり、ひとりぼっち。

眠りは去っていく、王様の意にも反して。
だからぼくは、夜明け前に目を覚ますほうがいい。
眠りが去っても、
まだ暗いあいだは目を閉じて、
夢を見つづけるんだ。

* * *

Samuel T. Coleridge
"Something Childish, But Very Natural"

Written in Germany

If I had but two little wings
And were a little feathery bird,
To you I'd fly, my dear!
But thoughts like these are idle things,
And I stay here.

But in my sleep to you I fly:
I'm always with you in my sleep!
The world is all one's own.
But then one wakes, and where am I?
All, all alone.

Sleep stays not, though a monarch bids:
So I love to wake ere break of day:
For though my sleep be gone,
Yet while 'tis dark, one shuts one's lids,
And still dreams on.

* * *

ドイツ留学中のコールリッジが、妻に送った手紙に
記したちょっとした詩。元ネタはドイツのフォーク・
ソングとのこと。

コールリッジ選集(OxfordやNortonのものなど)に
入れてもらえない小ネタなので、あえてここで。

* * *

気のせいかもしれませんが、最初と最後の部分からは、
17世紀の詩人Andrew Marvellの "To His Coy Mistress" の
最初と最後が思い出されます。

(最初のところ)
コールリッジ:
If I had but two little wings. . . .
小さな二枚の羽さえぼくにあったら・・・・・・。

マーヴェル:
Had we but world enough, and time. . . .
ぼくたちに十分な空間と時間さえあったら・・・・・・。

(最後のところ)
コールリッジ:
眠りや幸せな夢はいずれ去ってしまうから、
ぼくはあえて目を覚まし、そしてさらに目を閉じて、
夢を見つづける。(逆説的発想)

マーヴェル:
与えられた命や時間は短く、ぼく(男)と君(女)は
いずれ年老いて死ぬのだから、時間を止めるのではなく、
早送りさせてしまおう。つまり、いずれ過ぎ去る自分たちの
時代/世代にしがみつくのではなく、子どもを作って
次の時代/世代への移行を早めてしまおう。
(逆説的発想--こういって女性を口説くという、
carpe diemのテーマの一変奏。)

* * *

以下、リズムについて。

基調は、ストレス・ミーター(四拍子)。
少し変化が加えてある第二スタンザだけ
スキャンジョン例を。



(1-2行目の弱弱強 "xx/" という音節の並びが、
ここだけやや目立つ。)

また、歌としてのストレス・ミーターの基本形は
「四拍子 x 四行」だが、この詩では短い5行目を加え、
ひとりぼっちな感じ(スタンザ1-2)や、夢の世界に
浸っている雰囲気(スタンザ3)を出している。



それぞれ、(B)(B) のところが、日本語でいえば、
「・・・・・・」のような雰囲気を出していて。

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Samuel Taylor Coleridge
(1912)より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/29090

* * *

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Yeats, "Cloths of Heaven"

W・B・イェイツ (1865-1939)
「もし空色の布をもっていたら」

もし、大空のように刺繍された布をぼくがもっていたら、
金色、銀色の光で飾られた
青い布、薄明るい布、暗い布、
夜や、光や、たそがれ時の色の布を、もしもっていたなら、
ぼくは、それを君の足の下に広げてあげることだろう。
でも、貧しいから、ぼくにあるのは夢だけで、
それを君の足の下に広げてきた。
静かに歩いて、ぼくの夢を踏んでいるのだから。

* * *

William Butler Yeats,
"He Wishes for the Cloths of Heaven"

Had I the heavens' embroidered cloths,
Enwrought with golden and silver light,
The blue and the dim and the dark cloths
Of night and light and the half light,
I would spread the cloths under your feet:
But I, being poor, have only my dreams;
I have spread my dreams under your feet;
Tread softly because you tread on my dreams.

* * *

イェイツ曰く、「こういうことをしていると女性にふられる」。

Jeffares, A Commentary on the Collected
Poems of W.B. Yeats
(Stanford, 1968), p. 84;
Ross, Critical Companion to William Butler
Yeats
(New York, 2009) p. 284.

(君のために自分の夢を、もっているものすべてを、
犠牲にしてるんだからやさしくして、という取り引き的な
ところがダメ? 自分の夢を、もっているものすべてを、
犠牲にするという行為が、実はダメ? あるいは、
大空のように刺繍された布をもっていない、などと
認めるところがそもそもいけない?)

* * *

以下、訳注。

タイトル
初出時のタイトルは "Aedh Wishes for the Cloths
of Heaven". 1906年のPoetical Works以降、AedhがHeに。
(Aedhというのはイェイツの作品に出てくる神話的なキャラクター。
この辺、詳しくないので、さらっと。)

1-5
いわゆる仮定法の構文。1-4行目が仮定節(If I had. . . )で
5行目が帰結節。

1 heavens
タイトルではHeavenと単数形で、ここでは複数形。意味は同じで、
「太陽や月や星のある、大きな丸屋根のように見える空の広がり」
OED 1a, 1c)。(上の日本語訳では、あえて「天」という
言葉をはずしています。)

2
[T]he heavens' embroidered clothsを後ろから説明。
(日本語訳では3-4行目にかけています。)

金色銀色の光とは、太陽や月や星の光のこと。
慣例的に、太陽の光は金色、月の光は銀色。

3-4
1行目のthe heavens' embroidered clothsと同格。
いい換えているだけ。

青は昼間の空の色。薄明るい(dim)のは夜明けや夕暮れ、
太陽が昇る直前あるいは沈んだ直後の空の色。
(いわゆるtwilight.)

* * *


http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Dscf1869.jpg


By Fir0002
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:April_dawn.jpg


By George Groutas
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Jorge-11_-_Night_Skies_(by).jpg

こんな色の布など、もちろん誰ももっていないわけで・・・・・・。

* * *

女性による朗読では、視点と雰囲気が変わってきます。

http://www.gutenberg.org/files/20591/mp3/20591-02.mp3
http://www.gutenberg.org/files/20591/mp3/20591-03.mp3
http://www.gutenberg.org/files/20591/mp3/20591-04.mp3
http://www.gutenberg.org/files/20591/mp3/20591-05.mp3

* * *

リズムについて。



ストレス・ミーター(四拍子)だが、弱強格、強強格、
弱弱強格を効果的に配置することにより(特に行末)、
各ビート(拍子)のあいだを不均一にしている。
(歌のように一定のリズムで読むと不自然。)

また、行末が、前半四行(仮定節の部分)は強強格
(特に3-4行目)、後半四行は弱弱強格(特に6, 8行目)、
と統一されているのが特徴的。前半と後半で雰囲気が
まったく違う。

* * *

英文テクストは、Yeats, The Wind Among the Reeds,
4th ed. (1903)より。
http://www.gutenberg.org/files/32233/
32233-h/32233-h.htm

* * *

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