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Shelley, ("The keen stars were twinkling")

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「ジェインに」 (「刺すように星がきらめいて」)

刺すように星がきらめいて、
そのあいだをきれいな月が昇ってた、
ね、ジェイン。
ギターの静かな鈴のような音。
でも、君が歌って初めてきれいに聴こえた、
声が重なって。
月は優しい輝きを
冷たく弱い星の光の上に
投げかける。
それと同じ、君の優しい声が
魂のない弦にあげていた、
自分の魂を。

やがて星たちは目を覚ます。
月はまだ眠っていても。
今夜。
木の葉は落ちない。
君の歌がふりかけているから、
喜びのしずくを。
ギターの大きな音、でも
歌って、もう一度。愛しい声のなか聴かせて、
あの音。
遠くの、別の、世界の音。
歌と月の光と心が
ひとつになった音。

* * *
Percy Bysshe Shelley
"To Jane" ("The keen stars were twinkling")

The keen stars were twinkling
And the fair moon was rising among them,
Dear Jane.
The guitar was tinkling,
But the notes were not sweet till you sung them
Again.--
As the moon's soft splendour
O'er the faint cold starlight of Heaven
Is thrown--.
So your voice most tender
To the strings without soul had then given
Its own.

The stars will awaken,
Though the moon sleep a full hour later,
Tonight;
No leaf will be shaken
While the dews of your melody scatter
Delight.
Though the sound overpowers
Sing again, with your dear voice revealing
A tone
Of some world far from ours,
Where music & moonlight & feeling
Are one.

* * *
20190920 日本語訳修正
(下の記述は未確認。不正確かもしれない。)

* * *
以下、訳注。

1-12
星あかり = ギターの音 < 月あかり = 君の歌声
という関係。

7 soft splendour
いわゆる撞着語法(oxymoron)。矛盾する概念が
つながれている。
Soft: 静かな、抑えられた
Splendour: 強い輝き

13-14
構文は、およそ次のようなかたちで理解。
The stars will awaken [the moon] a full hour later,
[even] Though the moon [should] sleep

16-18
普通は:
風によって木の葉が散らされる(scatterされる)。

ここでは:
露(夜露)のような君の歌によって、楽しみと
よろこびがまき散らされる。

23-24
超現実的な表現:
この世では、歌と月の光と人の気持ちは、
みな別のもの。

* * *
以下、リズムの解釈例。

基調はストレス・ミーター。







改行位置を変えて示したが、この詩は、20世紀以降の
ポップ・ミュージック(ジャズ、ブルーズ、R&B, ロックンロール、
カントリーなど何でも)の歌詞によくあるように、
行頭の語が、時折その前行の最後のビートにのるように
書かれている。これにより(これだけによるものではないが)、
通常のバラッド的なストレス・ミーターとは違う、
洗練された、流れるような、リズムが感じられるように
なっている。

Shelley, Major Works (Oxford, 2003) の編者のいう、
この詩の "virtuoso rhythms and sound patterns" とは、
おそらくこのようなこと。

ワーズワースの、「わたしたちのなかで、スタイルという点では、
シェリーがもっともすぐれた職人だ」、という評価が思い出される。
(出典?)

上のスキャンジョンでやや不自然、あるいは
不器用に感じられる箇所があるのは、この詩が
未完成だからか。ジェインに対してシェリー曰く、
「この詩を大目に見て、秘密にしておいてほしい。
また別の機会にもっといいものを書くから。」

* * *
以下、詩としては行頭に置かれる語が、
歌われる際に前行に食いこむ例。

Chuck Berry, "Rock and Roll Music":
Rock and roll music
Any old way you choose it
It's got a backbeat you can't lose it. . . .
3行目のgotは2行目末のビートにのせて歌われる。
(4ビートではなく8ビートだが理屈は同じ。)

Hoagy Carmichael and Ned Washington,
"The Nearness of You":
It's not the pale moon
that excites me. . . .
この冒頭のnotはこの行がはじまる前のビートに
のせられてる。同様に、次行のthatはpale moonの
行の最後のビートに。

Queen, "I Was Born to Love You":
I was born
to love you
With every single beat
of my heart
Yes, I was born
to take care of you. . . .
各行8ビートとして表記。2行目のto, 3行目のWith,
4行目のmy, 5行目のYes, 6行目のtakeは、みな
前行の最後のビートにのせられている。

---
名誉革命の頃のバラッドにも次のようなものがある。

"A New Song of an Orange"

Good People, Come buy
The fruit that I Cry,
That now is in season, tho Winter is nigh,
'Twill do you all good,
And sweeten your Blood,
I'me sure it will please, when you're once understood,
'Tis an Orange.

詩として記せば、上記のようになる。(脚韻に注目。)
が、歌としては違う。これが楽譜。



丸で囲んだ脚韻を踏む語と、小節の句切れ目を
示す縦線のあいだに、次の行の最初のことばが
前のめりなかたちで食いこんできている。

(この詩の1-2行目、4-5行目は、次のように、
それぞれストレス・ミーター、四拍子の一行を
二行にわけたもので、しかも、このShelleyの
ギターの詩のように前行の最後のビートのところまで
食いこんではいない。ストレス・ミーターの一行と
歌としての小節が一致していない例。)



* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

* * *
英文テクストは、シェリーの手稿に若干の修正を加えたもの。
手稿は、Fair-Copy Manuscripts of Shelley's Poems in
European and American Libraries
, ed. Donald H. Reiman
and Michael O'Neill (New York, 1997) より。
(修正したのはスペリングのみ。it's --> its など。)

* * *
https://drive.google.com/file/d/18XGrUSpfGkmJm43hk7NasUfDXIPOZ88N/view?usp=sharing
GT: 曲・ギター
M: 曲・ピアノ
F, I: 声

* * *
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剽窃行為のないようにしてください。

* * *
修正
20141005
20190920


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Wordsworth, ("I wandered lonely as a Cloud") (1804)

ウィリアム・ワーズワース
(「ひとり、あてもなく歩いていた」)(1804)

ひとり、あてもなく歩いていた。
谷や丘の上の雲のように。
そんな時、目に飛びこんできた、たくさんの、
本当にたくさんの、踊る水仙たち。
湖のほとり、木々の下、
一万の花たちが踊っていた。

波も隣で踊っていた。でも、花のほうが、
きらめく波より楽しげだった。
詩人だったらうれしくなるはず、
笑っているこんな仲間に囲まれて。
ぼくは見つめた--ずっと見つめていた--でもまったく気づかなかった、
花たちからのプレゼントに。

今、ベッドに横になる。
ぼーっとして、いろいろ考えながら。
すると心の目に見えてくる、輝くたくさんの花。
ひとりでいるのに、まるで天国のよう。
そして、心が楽しくてどうしようもなくなって、
水仙たちといっしょに踊りだす。

*****
William Wordsworth
("I wandered lonely as a Cloud") (1804)

I wandered lonely as a Cloud
That floats on high o'er Vales and Hills,
When all at once I saw a crowd
A host of dancing Daffodils;
Along the Lake, beneath the trees,
Ten thousand dancing in the breeze.

The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee: --
A poet could not but be gay
In such a laughing company:
I gazed -- and gazed -- but little thought
What wealth the show to me had brought:

For oft when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude,
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the Daffodils.

*****
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Donne, ("Show me, dear Christ, thy spouse)

ジョン・ダン
(「救い主さま、透明に輝くあなたの花嫁を見せてください」)

愛しい救い主さま、透明に輝くあなたの花嫁を見せてください。
えええ!? それはあちらの岸にいて、豪華に着飾って
化粧もしているあの人なんですか? それともドイツやここで
身ぐるみ剥がれてぼろぼろになって泣いて悲しんでいるような方ですか?
千年眠っていて、ある年、急に目覚めるような方ですか?
その方は自分が真理なのに、誤ることがあるのですか?
その方は過去に、今、未来に、どこにいますか?
ひとつの丘、七つの丘、丘のないところ、のどこですか?
その方はわたしたちと一緒に暮らしていますか? それとも騎士の
試練のように、わたしたちは旅をして探して求愛すべきですか?
優しい夫の救い主さま、あなたの花嫁をこっそり見せてください。
恋するわたしたちの魂に、鳩のように優しいあなたの妻を口説かせてください。
その方があなたをいちばん愛している時、あなたにとって最高に愛しい時、
それはその方ができるだけ多くの男たちに抱かれている時のはずです。

*****
John Donne
("Show me, dear Christ, thy spouse so bright and clear")

Show me, dear Christ, thy spouse so bright and clear.
What! is it she which on the other shore
Goes richly painted? or which, robbed and tore,
Laments and mourns in Germany and here?
Sleeps she a thousand, then peeps up one year?
Is she self-truth, and errs? now new, now outwore?
Doth she, and did she, and shall she evermore
On one, on seven, or on no hill appear?
Dwells she with us, or like adventuring knights
First travel we to seek, and then make love?
Betray, kind husband, thy spouse to our sights,
And let mine amorous soul court thy mild dove,
Who is most true and pleasing to thee then
When she is embraced and open to most men.

http://www.luminarium.org/sevenlit/donne/holysonnet18.php

*****
神・救い主の妻 = 教会

*****
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Milton, Paradise Lost (7: 243-75)

ジョン・ミルトン
『失楽園』(7:243-75)

光をつくろう、と神は言った。すると澄みわたる
光、この世にあらわれた最初のもの、すべてのものの本質の
本質といずれなっていくものが深淵からあふれ出て、東から
透明な暗がりを進んでいった。
それは輝く雲のなかの光。いずれ
太陽となる光が、雲の幕に
包まれていた。光はよいもの、と神は確認し、
光と闇をふたつの半球に
分けた。そして光を日、闇を夜と
呼ぶことにした。この世の最初の日の夜と昼である。
それを祝い、歌ったのが
天使の合唱隊であった。光が東の
闇から静かに出てきた、まさにその瞬間を彼らは目撃した。
天と地が生まれたこの日、喜びと叫びで
天使は丸く何もない宇宙を満たし、
黄金の竪琴をつま弾いた。天使は称えて歌った、
神と神のつくったものを。新しいものをつくった神を歌って称えた、
最初の夜が来た時、そして最初の朝が来た時に。

次に神は言った--空をつくろう--
水を分けよう--空で
水と水を分けよう。こうして
空があらわれた。水のように純粋に
透きとおる空の元素を、神は
この丸い宇宙の丸い境界まで
丸く放った。この空が堅い壁となり、
下の水と上の水が
分けられた。というのも、大地と同様、神は宇宙も
あふれる、しかし静かな、水の上に、広く水晶のような
大海のなかに、つくっていたからだ。うるさく乱れた
渾沌は遠く退けられていた。荒れ狂う極度の冷熱などが
感染し、この世の枠組みがおかしくならないように。
この空に、神は天という名に与えた。こうして夜と
朝が過ぎ、天使たちはこの世の二日目を称えて歌った。

*****
John Milton
Paradise Lost (7: 243-75)

Let ther be Light, said God, and forthwith Light
Ethereal, first of things, quintessence pure
Sprung from the Deep, and from her Native East [ 245 ]
To journie through the airie gloom began,
Sphear'd in a radiant Cloud, for yet the Sun
Was not; shee in a cloudie Tabernacle
Sojourn'd the while. God saw the Light was good;
And light from darkness by the Hemisphere [ 250 ]
Divided: Light the Day, and Darkness Night
He nam'd. Thus was the first Day Eev'n and Morn:
Nor past uncelebrated, nor unsung
By the Celestial Quires, when Orient Light
Exhaling first from Darkness they beheld; [ 255 ]
Birth-day of Heav'n and Earth; with joy and shout
The hollow Universal Orb they fill'd,
And touch'd thir Golden Harps, and hymning prais'd
God and his works, Creatour him they sung,
Both when first Eevning was, and when first Morn. [ 260 ]

Again, God said, let ther be Firmament
Amid the Waters, and let it divide
The Waters from the Waters: and God made
The Firmament, expanse of liquid, pure,
Transparent, Elemental Air, diffus'd [ 265 ]
In circuit to the uttermost convex
Of this great Round: partition firm and sure,
The Waters underneath from those above
Dividing: for as Earth, so he the World
Built on circumfluous Waters calme, in wide [ 270 ]
Crystallin Ocean, and the loud misrule
Of Chaos farr remov'd, least fierce extreames
Contiguous might distemper the whole frame:
And Heav'n he nam'd the Firmament: So Eev'n
And Morning Chorus sung the second Day. [ 275 ]

*****
https://drive.google.com/file/d/158n2wt5TtdfeSE9LI8jKXAgi2lI49M6T/view?usp=sharing

GT: 曲、ギター、声
MT: 曲、ピアノ

*****
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Byron, "Stanzas to Augusta"

バイロン卿ジョージ・ゴードン(1788-1824)
「オーガスタに」

I.
破滅の日、
ぼくの星が沈んでいく。でも
君は心優しい。君だけは
ぼくのなかの悪に気づかない、ふりをしてくれる。
ぼくのつらさを知っていて、そして
それをわかちあってくれる。
ぼくが思い描く愛、
それは君のなかにしかない。

II.
景色がぼくに笑いかける。
人は誰も笑ってくれない。
自然は嘘をつかない。
君と同じで、嘘をつかない。
風は海と戦う、
信じていた人がぼくを裏切って戦うように。
波を見てただ思う、
君が遠ざかっていく……。

III.
最後の希望の岩はもう砕けた。
かけらはみんな波に沈んだ。
今、痛みがぼくの魂を支配する。
でも、ぼくは奴隷じゃない。
刺すような激痛に追われて
押しつぶされる、でも誇りは絶対失わない。
拷問のように痛い、でも心は折れない。
頭に浮かぶのは君だけ--痛みなど知ったことじゃない。

IV.
人は欺く、でも君はぼくを欺かなかった。
女は男を見棄てる、でも君はぼくを見棄てなかった。
愛されて女は男を傷つける、でも君はぼくを傷つけなかった。
人に悪く言われても、君は気にしなかった。
立場もあるのに、ぼくとの関係を否定しなかった。
離てしまったけど、ぼくを避けたわけじゃなかった。
ぼくを見ていてくれて、でもあら探しはしなかった。
そして声をあげてくれた、人が嘘でぼくを貶めた時。

V.
ぼくは人を責めない。相手にしない。
すべての人が敵でもいい。
ぼくの魂ははるかに強い。
馬鹿だった、もっと早く縁を切ればよかった。
そのせいで痛い目にあった。
そのせいで想像以上につらかった。
でも、痛みのなかでわかった--すべてを失っても、
君だけはぼくの味方だと。

VI.
過去はぼろぼろ、悲惨な残骸。
ただ思い出すのは、
いちばん大切だった君のこと。
この世の何より愛しい君のこと。
砂漠に泉がひとつだけあって、
荒地に木が一本だけあって、
そして鳥が一羽だけいて、歌っている。
ぼくの心に、君のことを、歌ってくれる。

* * *
George Gordon Lord Byron
"Stanzas to Augusta"

I.
Though the day of my Destiny's over,
And the star of my Fate hath declined,
Thy soft heart refused to discover
The faults which so many could find;
Though thy Soul with my grief was acquainted,
It shrunk not to share it with me,
And the Love which my Spirit hath painted
It never hath found but in Thee.

II.
Then when Nature around me is smiling,
The last smile which answers to mine,
I do not believe it beguiling,
Because it reminds me of thine;
And when winds are at war with the ocean,
As the breasts I believed in with me,
If their billows excite an emotion,
It is that they bear me from Thee.

III.
Though the rock of my last Hope is shivered,
And its fragments are sunk in the wave,
Though I feel that my soul is delivered
To Pain---it shall not be its slave.
There is many a pang to pursue me:
They may crush, but they shall not contemn;
They may torture, but shall not subdue me;
'Tis of Thee that I think---not of them.

IV.
Though human, thou didst not deceive me,
Though woman, thou didst not forsake,
Though loved, thou forborest to grieve me,
Though slandered, thou never couldst shake;
Though trusted, thou didst not disclaim me,
Though parted, it was not to fly,
Though watchful, 'twas not to defame me,
Nor, mute, that the world might belie.

V.
Yet I blame not the World, nor despise it,
Nor the war of the many with one;
If my Soul was not fitted to prize it,
'Twas folly not sooner to shun:
And if dearly that error hath cost me,
And more than I once could foresee,
I have found that, whatever it lost me,
It could not deprive me of Thee.

VI.
From the wreck of the past, which hath perished,
Thus much I at least may recall,
It hath taught me that what I most cherished
Deserved to be dearest of all:
In the Desert a fountain is springing,
In the wide waste there still is a tree,
And a bird in the solitude singing,
Which speaks to my spirit of Thee.

* * *
https://drive.google.com/file/d/1eVZaLCiHxweKrl_AfXLdTHP56x3UhydJ/view?usp=sharing
(スタンザ 1 + 6)

GT: 曲、ギター、声

* * *
20190913 日本語訳大幅修正
(下の記述は不正確かもしれない)

* * *
訳注と解釈例。

タイトル Augusta
Augusta Leigh. バイロンの異母姉。
一緒にくらしていなかったため、他人同士のようなかたちで
出会い、恋に落ちたとか。彼女との(半?)近親相姦的な
関係が原因で、ロンドンの、今でいうスター/アイドル/
セレブ的な存在だったバイロンは、追放されるようなかたちで
ヨーロッパ大陸にわたる。その後バイロンがオーガスタと
会うことはなかったが、手紙や詩に彼女への思いを
記しつづけた。

1-2
DestinyとFateは、ほぼ同じ意味。訳に困る。
下書きの段階では、より明確に、次のような表現だった。

Though the days of my Glory are over,
And the Sun of my fame has declined.

つまり、「わたしの栄誉/名声がかげってきているが・・・・・・」
というような内容だったが、GloryをDestinyに、
fameをFateに変え、より不吉で重々しい感じにしている。

なぜdaysをdayにして、「運命の一日」という感じに
しているかはわからない。

3 soft
やさしい、思いやりのある、慈悲深い(OED 8a)

3 discover
(隠されていたものを)表にさらす。見せる。(OED 3a)

4
多くの人が「見つけた」欠陥 = 多くの人が(それぞれ、
自分以外の多くの人のなかに)「見つけた」欠陥
(The faults which so many could find [in others])

So many had, so many showedなどとすれば
より意味が明らかだが、declinedとの脚韻をつくるために
so many could findとしている。

この「欠陥」とは、たとえば、人が富み栄えて
いるときには近寄り、こびへつらっておきながら、
その人が落ち目になるとあざけり、離れていく、
というようなこと。

7-8
構文は、
It [= my Spirit] hath never found but [= except] in Thee
the Love which my Spirit hath painted.

14
構文は、As the breasts I believed in [are at war] with me. . . .

16
バイロンは大陸に、オーガスタはイギリスにいる
(海の波がバイロンを大陸に運び去り、イギリスにいる
オーガスタから遠く切り離してしまった)ということ。

19 deliver
完全に委ねる、あきらめる、捨てる、見限る、見放す、放棄する、
破滅など悪い運命にさいなまれるがままにする、所有権を放棄する、
明け渡す、引き渡す(OED 7a, 8a)自由にする、解放する(OED 1)。

19行目の時点では、deliverが「自由にする」という
いい意味のように感じられるが、20行目のTo Painにより、
「見捨てる」などの悪い意味で使われていることがわかる。
詩ならではの改行を使った、ちょっとしたビックリ作戦。
(これは、MiltonのParadise Lostに多く見られる。)

19-20
deliver(解放する/所有を放棄する)とslaveにおける、
支配に関係する言葉のつながりがポイント。

21 pang
痙攣をともなうような激痛。これにたとえられる心の激痛。

22 crush
押しつぶして壊す、または変形させる(OED 2)。

23 torture
上のpang, crushとあわせ、文字通り拷問にかけるようすを
思い浮かべることがポイント。たとえば、thumbscrewとか。
(指をはさんでつぶすものらしい。ヨーロッパのかつての
拷問道具としては、全然かわいいほう。)


By David Monniaux
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Thumbscrews_dsc05365.jpg

で、オーガスタと離ればなれの自分は、このような身体的
激痛に等しい心の激痛を感じている、ということ。そして、
だがそのような痛みの奴隷にはならない、と。

過去の大きな傷、苦痛にさいなまれつつも、自分以外の
ものの支配を許さないという、いわゆる「バイロニック・ヒーロー」の
姿そのもの。ちなみに、「バイロニック・ヒーロー」の
描かれ方の一番の特徴は、このヒーローそのものではなく、
まわりの人の描かれ方にあるように思われる。

人並みはずれた能力と感受性をもち、人並みはずれた過去の
傷を背負うバイロニック・ヒーローがみずから思い描く
自己の姿を、まわりの人はそのまま受けいれる。

バイロニック・ヒーロ―: オレってすごいぜ。
まわりの人: ホントだ・・・・・・こいつはすごい!

これに対し、このヒーローのルーツであるような他の
キャラクターの場合、ヒーローの自己像は、まわりの
登場人物に受けいられない。

(たとえば、ミルトンのセイタンの場合)、
セイタン: オレってすごいぜ。
神: んなわけないだろ。
ナレーター: というわけで、セイタンはただの自己満足野郎なのでした。

あるいは、そもそもこのように常人のそれを超える
価値観をもつ登場人物たちは、たとえ主人公であっても、
共感できる者としては描かれない。

(例)
マーロウの主人公たち
(フォースタス博士、タンバレイン大王、マルタ島のユダヤ人バラバス)

ちなみに、自分のことをすごいと思っている主人公のすごさが
他者にそのまま受けいれられる類の最初の作品は、
ドライデンの英雄悲劇か? (Don Sebastianは、このタイプ。)

29 trusted
[By me]なのか[by people]なのか、不明確なので、
そのまま不明確な訳に。[By me]だと、25行目と同じ内容に
なるため、ここは[by people]?

29 disclaim
・・・・・・との関係やその所有を否認する(OED 4)。

30 parted
(細かいことだが)Though [she is/was] parted [from me]
として訳出。25-32行目まで、各行の後半の主語がすべて「君」なので、
Though [we are/were] partedと考えると、この行だけ
浮いてしまう。

31 watchful
監視している、注視している。自動詞のWatchの意味は、
「寝ずに起きている」(OED 1)、「(ちょっとした動きや変化を
見逃さないよう)監視/注視する」(OED 4)。

32
Or, [she was] not mute,
[fearing] that [=lest] the world might belie [me].

いろいろな思考がこんがらがっているので整理を。

Nor = Or + not.

[T]hatは恐れられる内容がつづく接続詞lestが
置きかえられたもの(OED, "lest" 2)。

助動詞が、lest節にありがちなshouldではなく
mightなのは、lestがthatに置きかえられているから。
[So] that . . . might . . . のパターン。

[So] that . . . と lestは表裏の関係。
予想される結果が望ましいもののときには[so] that,
予想される結果が望ましくないときにはlest.

34 [T]he war . . . one
トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes)の "the war of all
against all" を借りてもじった表現。「すべての人の、すべての人に
対する戦争」というのは、為政者や統治者、政権などというものが
存在する以前の人々のくらしの状態のこと。たとえば、政府がない社会、
政府によって統括された警察組織のない社会を想像してみると・・・・・・。
(いずれにせよ、「自分ひとり X 他の人すべて」という対立の
構図を想定するというのは、とても自己中心的。かつ、ありがち。)

構文としては、"[T]he war . . . one" は、
blame not, despise notの目的語。It
(= the world) と並列されている。

35 it
33行目のthe Worldのこと。

36
最後にit = the Worldが省略されている。一応、
構文は、It was folly not to shun [it] sooner.

39 lost
ここのloseは、失わせる、という意味。
Lose + A + B = AにBを失わせる。

39 it
2行上のthat error.

33-40
33のnor despise it [the World] とか、
36―38の、世間との接触を絶つという「過ち」のために、
「大きな、実際予想以上の代償を払ってきた」とか、
バイロニック・ヒーローにしては弱気な描写のように
思われる。

41 wreck
難破船やそこに積まれていたものの残骸(OED 3a)。
破壊され、荒廃した何かの残骸(OED 6a)。

41 perish
命を失う(突然、暴力的なかたちで)(OED 1a)。
道徳的/精神的に死ぬ、破滅する、失われる(OED 1b)

43 it
[T]he past, またはthe wreck of the past.

43 what I most cherished
Oneなどではなくwhatなので、人ではなく、ものとして解釈。
「君」ではなく、君に対する自分の気持ち、というようなこと。
[C]herishは、養うように大切にする(OED 2a-b, 5)。あるいは、
あたたかく保つ(OED 6)、心のなかで大切にする(OED 7)

48
構文は、Which [= a bird] speaks of Thee
to my spirit. Speak ofは、・・・・・・に言及する、
・・・・・・について語る(話や書きもので)(OED 11a)。

* * *
My spiritとか、my soulとか、やたらと自分の精神面を
強調しているようにみえる。性的なスキャンダルに満ちた
バイロンの実人生に反して。表向き派手な自分の生涯の
裏に秘められた純粋さ、苦しみ、精神性を主張したい?

第二スタンザの〈自然〉について。(あまり意味はないかも
しれないが、一応大文字になっている。) かつては
人間と一体化していたはず、つながっていたはず、という
ワーズワースの自然観を意識? メロドラマティックな
色恋沙汰の方向でパロディ化している?

また、この詩のスタンザ3, 5-6のまとめ方は、
まさにワーズワースの「水仙」や「ハイランドの少女」の
バイロン版。空虚な現在の生活のなか、過去の輝かしい経験や
記憶がよみがえってきて・・・・・・というパターン。

シェリーはもともとワーズワースの大ファンで、
ジュネーヴでバイロンの近所に住んでいたとき、
毎日バイロンのところに来てはワーズワースの詩を
朗読して、彼をうんざりさせていたとか。
バイロン曰く、「「吐きそうだった」。が、その結果、
彼の『チャイルド・ハロルド』の第3歌には、これを読んた
ワーズワースが気づくくらい、ワーズワース的な
考えが記されたものになった。
(このエピソードはどこで見た? details/shelleymanthepoe02rabbuoft> 以外で。)

* * *
リズムについて。



基調はストレス・ミーター(四拍子)。

ポイントは、ビート(B)にあわせてある強音節を
中心に弱強弱(x/x, amphibrach)のリズムをつくり、
現代でいえばタンゴのようなビートのきいたリズムを
つくっていること。

古典韻律のことばで無理やり説明しようとすれば、
弱強弱三歩格くずれ(?)などとなるのかもしれないが、
ふつうに読めば、伝統的な四拍子のリズムにあわせて、
各行末にことばのない(いわば、手拍子だけの)ビートが
あることが、自然とわかるはず。

* * *
以下、ひびきあう母音と子音。脚韻はのぞく。

Though - the
day - Destiny's,
faults - find
shrunk - share
Spirit - painted

Then - when
smile - mine,
believe - beguiling - Because
reminds me - thine
when - winds - war - with
breasts - believed - me - billows
excite - emotion
me - Thee

pang - pursue
crush - contemn
Thee - that - think - them

didst - deceive - me
forsake - forborest
didst - disclaim
fly - watchful
defame - me - mute
might - belie

World - war - one
fitted - it
foresee - found
me - Thee

past - perished
Deserved - dearest - Desert
wide - waste
solitude - singing
speaks - spirit

* * *
以下、関連することばによる脚韻の例。

me - thee

smiling - beguiling
mine -thine
ocean - emotion

shivered - delivered
wave - slave
contemn - them

forsake - shake
fly - belie

perished - cherished
recall - all
springing - singing
tree - Thee

* * *
英文テクストは、The Works of Lord Byron, vol. 4より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/20158

* * *
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From Shakespeare, Richard III, 1.1

ウィリアム・シェイクスピア
『王リチャード3世の生と死』
1幕1場より

グロースター:
不満だらけの冬だったのに、なんか急に夏が来た。
太陽みたいにまぶしい、あのヨークの奴のおかげでな。
俺たちの家を低くにらんでた雲だって、
海の胸のなかで死んで眠ってる。

俺たちは勝った。今、頭には月桂の冠、
ぼろぼろの武器は記念に飾って、
戦いじゃなくってパーティに召集されて、
こわい顔して行進するかわりに笑って踊ってる。

戦争のしかめっ面だってゆるゆるにゆるみきって、
完全武装の馬で駆けまわるとか、
腰抜けの敵をびびらせるとか、そんなののかわりに
どいつもこいつも女の部屋でリュート聴いて、ひょこひょこ踊って、
ついでにエロいことしてる。そりゃ楽しかろ。

だが俺といったら……楽しくいちゃいちゃするとか、そんな性格じゃないし、
鏡と両思い、とかいう顔でもない。
下手なはんこみたいに体がゆがんでるから、かっこつけて口説くとか無理だし、
妖精みたいにかわいい子なんか相手にしてくれるわけない。

まったく、俺ときたら……途中で切られました、みたいなちびで、
自然だか運命だかがさぼりやがって、まともな姿にできてない。
ねじくれてて、未完成で、予定より早く、
半分もできてない時に、おぎゃーってこの世に落とされた。
だからちゃんと歩けないし、とにかく見かけがひどい。
犬まで吼えてきやがる。一生懸命歩いてるだけなのに。

ま、そんなんだから、ちゃらちゃら踊る平和な時代に
楽しいことなんて何もない。
あえて言えば、自分の影を横目で見て、
ぶっさいく、って馬鹿にすることくらいだ。

ま、恋に生きる奴みたいに楽しく
おしゃべりして日々過ごす、とかできるわけないから、
決めた、俺は悪に生きる。
今時のくだらんお遊びなんか大っ嫌いだ。死ね。

*****
William Shakespeare
The Life and Death of Richard the Third
1.1

GLOUCESTER
Now is the winter of our discontent
Made glorious summer by this sun of York;
And all the clouds that lour'd upon our house
In the deep bosom of the ocean buried.
Now are our brows bound with victorious wreaths;
Our bruised arms hung up for monuments;
Our stern alarums changed to merry meetings,
Our dreadful marches to delightful measures.
Grim-visaged war hath smooth'd his wrinkled front;
And now, instead of mounting barbed steeds
To fright the souls of fearful adversaries,
He capers nimbly in a lady's chamber
To the lascivious pleasing of a lute.
But I, that am not shaped for sportive tricks,
Nor made to court an amorous looking-glass;
I, that am rudely stamp'd, and want love's majesty
To strut before a wanton ambling nymph;
I, that am curtail'd of this fair proportion,
Cheated of feature by dissembling nature,
Deformed, unfinish'd, sent before my time
Into this breathing world, scarce half made up,
And that so lamely and unfashionable
That dogs bark at me as I halt by them;
Why, I, in this weak piping time of peace,
Have no delight to pass away the time,
Unless to spy my shadow in the sun
And descant on mine own deformity:
And therefore, since I cannot prove a lover,
To entertain these fair well-spoken days,
I am determined to prove a villain
And hate the idle pleasures of these days.

http://shakespeare.mit.edu/richardiii/richardiii.1.1.html
(日本語訳のスタンザ分けは原文にはない)

*****
https://drive.google.com/open?id=1REOo5mazJXkcMelGq6xSX85ToF8WnLbL

GT: 曲、ギター、声
ET: 曲、ピアノ
MT: タンバリン

*****
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