goo

痛くないから

痛くないから

夢の星の国
虹の道の町
微笑みの広場
恋の噴水

鬼から逃げきり
砂のごちそう
パパとママとぼく
王子とお姫さま

遊び、くり返し
空には雨
涙のように
澄んだ笑い声

遊び、くり返し
空には鴉(からす)
甘い憂鬱
誘い出す歌

そう、こんな歌……

慰めみたいな
夢は棄てよう
目を開けていれば
痛くないから

言い訳みたいな
夢は棄てよう
頭狂うほど
痛くないから

*****
1991?
20200629

*****
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Pontano, "Ad Fanniam"

ジョヴァンニ・ポンターノ
『パルテノパイオス』1.4
「ファニアに」

かわいいよね、君、ファニア、若くてやわらかい薔薇の花よりずっと。
春に顔を出す緑の芽よりも君は上。
アフリカのメムノンを産んだ女神のアウロラが、庭のかわいい
花たちに甘い露をふりかけてるけど、それより君のほうが上。
それは朝いちばんの露で、葉に包まれた
枝がきらきら光ってる。
空を見れば、赤い戦車に乗って輝くアポロが旅してる。
宝石のようにきらきらでまぶしい。
でも、花の命は短くて、咲いてもすぐにやつれて死んでいく。
疲れた頭を下にたれ、
花びらを失って、すぐに薔薇は倒れてしまう。
きれいと言われるのは、ほんのちょっとのあいだだけ。
そう、美しさが花開くのは最初だけで、美しくない
老いがすぐにやってくる。
ひどいよね、金色に光る顔の色は翳ってしまい、
汚いしわができて畑みたいになる。
稲妻のような髪の光も肌のつやも消えて、逆に、
白く光っていた歯が金色、というか、むしろ黄色になっていく。
魅力のない胸、たれ下がった乳首が
よれよれのみじめな服に隠れる。
今の服は東方の宝石で輝いていて、
しかも、透きとおった帯で巻かれているのに。
君にふられた男の子が、懲りずに君の手を求めることもなくなる。
お願いします、なんて、もう彼はドアを叩かない。
咲きはじめの花の冠がドアの柱を飾ることもなくなる。
受けとらなかった、あの恋の贈りもの。
そうして冷たいベッドで一晩一晩、命をすり減らす、
もう誰にも求められず。
そうならないように、若さの花咲く甘い春を、
花の命のようにはかない若さを、楽しもうよ?
25過ぎたら老いのはじまり、と言うか、
見えないけど、今でも老いは忍び寄ってきてるから。
だから、さあ、ぼくの炎の息で明るい昼間は、
甘く白熱した時間にしよう。
それから、夜のすべての瞬間も捧げよう、
朝、星になって輝くウェヌスに。

*****
Giovanni Pontano (1429-1503)
Parthenopeus 1.4
"ad Fanniam"

Puella molli delicatior rosa,
Quam vernus aer parturit
Dulcique rore Memnonis nigri parens
Rigat suavi in hortulo,
Quae mane primo roscidis cinctos foliis
Ornat nitentes ramulos;
Ubi rubentem gemmeos scandens equos
Phoebus peragrat aethera,
Tunc languidi floris breve et moriens decus
Comas reflectit lassulas;
Mox prona nudo decidit cacumine
Honorque tam brevis perit.
Sic forma primis floret annis; indecens
Ubi senectus advenit,
Heu languet oris aurei nitens color,
Quod ruga turpis exarat,
Perit comarum fulgor, et frontis decus,
Dentesque flavent candidi,
Pectus papillis invenustum languidis
Sinus recondet sordidus,
Quod nunc heois lucidum gemmis nitet,
Tenuisque vestit fascia.
Nullas amantis audies moesti preces
Duram querentis ianuam,
Non serta lentis fixa cernes postibus
Exclusi amantis munera;
Sed sola noctes frigido cubans toro
Nulli petita conteres.
Quin hoc iuventae floridum atque dulce ver
Brevemque florem carpimus;
Post lustra quinque iam senectus incipit
Latensque surrepit modo.
Quare, meorum o aura suavis ignium,
Dies agamus candidos,
Noctesque divae conteramus integras,
Que mane lucet Hesperos.

http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A2011.01.0464

*****
セクンドゥスに影響を与えたナポリの詩人・政治家。
Alliterationという言葉をつくったのは、このポンターノ。

*****
カルペ・ディエム carpe diem

このような発想の人たちが詩を書き、また読んでいた、
ということ。そんな人たちが今の時代に甦ったら、
詩ではない表現・楽しみのありかたを選ぶのでは。

*****
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Turbervile, "The Louer Exhorteth His Ladie to Take Time"

ジョージ・ターバーヴィル
「恋する男が相手の貴婦人に歌う、
時をつかまえて、まだ時間があるうちに」

あなたはまぶしいほどきれいです。
あなたほど美しい人はいません。
アペレスのような画家の絵でも、
あなたにはまるで敵いません。
でも、あなたもすぐに年をとって眠くなり、うつむくようになります。
老いがあっという間に攻めてくるのです。
鋤で畑が削られるように肌のつやが削られて、
美しい輝きがくすんでしまうでしょう。
ですから、まだ若いうちに、
よく考えてください、すぐに年をとって
腰が曲がってしまうことを。無駄にした若さを
無駄に思い出さなくてすむように。
できるあいだに、まだ緑の
若さが新鮮なうちに、
楽しいことをしてください。年月は発作のように、
予想外の洪水のように、やってきます。
流れ去った水は
戻ってきません。
過ぎ去った時間を呼び戻そうとしても
無駄でしょう。
時をつかむのです、時が味方でいてくれるうちに。
時の足は速く、すぐに行ってしまいます。
過ぎ去った全盛期と
その後の老いは、比べものになりません。
灰色の丘が見えますが、
かつては若い芽と花でいっぱいでした。
ぼくは棘(いばら)の冠をかぶりました。
それで恐れることを知りました。
今、あなたはは男たちのことを
相手にしていませんが、このままだと、
腰の曲がった口うるさいお婆ちゃんになって、
くさくて汚い小屋でひとりで暮らすことになりますよ。
今、いつも夜になると男たちがあなたの家の
裏門でけんかしていますし、
朝、扉を開ければ、外は薔薇で
飾られていますが、そんなことはなくなります。
主よ、どうしてこんなに早く人の体は、
ごみの詰まった汚いしわだらけになるのですか?
このあいだまでまぶしいほど美しかった人、
きれいだった人の姿が、なんと早く破壊されることでしょう?
小さい頃からきれいだった君だって、
罵りたい気分になるでしょう。
手のひらを反(かえ)すように、頭が
灰をかぶったようになるのですから。
蛇は脱皮して
醜い老いも脱ぎすてます。
鹿も古い角を柵にぶら下げて
若返ります。
でも、あなたの財産は完全に失われて
とり戻せません。だから、花を受けとってください。
茎から摘まなければ、その花は
一時間後には枯れて落ちてしまいます。

*****
George Turbervile (b. 1543/4, d. in or after 1597)
"The Louer Exhorteth His Ladie to Take Time,
While Time Is"

Though braue your Beautie be
and feature passing faire,
Such as Apelles to depaint
might vtterly dispaire:
Yet drowsie drouping Age
incroching on apace,
With pensiue Plough will raze your hue
and Beauties beames deface.
Wherefore in tender yeares
how crooked Age doth haste
Reuoke to minde, so shall you not
your minde consume in waste.
Whilst that you may, and youth
in you is fresh and gréene,
Delight your selfe: for yeares to fit
as fickle flouds are séene.
For water slipped by
may not be callde againe:
And to reuoke forepassed howres
were labour lost in vaine.
Take time whilst time applies;
with nimble foote it goes:
Nor to compare with passed Prime
thy after age suppoes.
The holtes that now are hoare,
both bud and bloume I sawe:
I ware a Garlande of the Bryer
that puts me now in awe.
The time will be when thou
that doste thy Friends defie,
A colde and crooked Beldam shalt
in lothsome Cabbin lie:
Nor with such nightlie brawles
thy posterne Gate shall sounde,
Nor Roses strawde afront thy dore
in dawning shall be founde.
How soone are Corpses (Lorde)
with filthie furrowes fild?
How quickly Beautie, braue of late,
and séemely shape is spild?
Euen thou that from thy youth
to haue bene so, wilt sweare:
With turne of hand in all thy head
shalt haue graye powdred heare.
The Snakes with shifted skinnes
their lothsome age dooway:
The Buck doth hang his head on pale
to liue a longer day.
Your good without recure
doth passe, receiue the flowre:
Which if you pluck not from the stalke
will fall within this howre.

http://tei.it.ox.ac.uk/tcp/Texts-HTML/free/A14/A14019.html
(一部修正)

*****
Secundusのエレゲイア1.5の翻案。
出版は1567年。

*****
カルペ・ディエム carpe diem

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Pontano, "Naenia Prima"

ジョヴァンニ・ポンターノ
「子守り歌 1:眠りくん」

来て、眠りくん、とろんとしたルキウスくんが待ってます
来て、眠りくん、お願い、気持ちいい眠りくん、来て
ルキウスくんが君に優しく歌ってます、深い眠りくん
眠りくん、来て、お願い、気持ちいい眠りくん、来て
ルキウスくんが君をお部屋に呼んでます、気持ちいい眠りくん
優しい眠りくん、気持ちいいお休みくん
ルキウスくんが君を揺りかごに呼んでます、こっち来て、眠りくん
眠りくん、揺りかごに来て、ね、眠りくん、来て
ルキウスくんが君をベッドに呼んでます、さあ、来て、眠りくん
さあ、来て、眠りくん、来て、夜の友だち眠りくん、来て
ルキウスくんが君を枕に呼んでます、目でお願いしています
眠りくん、来て、お願い、さあ、来て、眠りくん、来て
ルキウスくんが君を抱っこしたいって呼んでます、自分でぎゅーって
ぎゅーってしたいって、ねえ、お願い、ねえ、今すぐ、眠りくん、来て
来てくれた、優しいね、眠りくん、眠らせてくれる優しい眠りくん
眠りくんがいれば、心の悩みも体の痛みも軽くなるのです

*****
「こもりうた 1:ねむりくん」

きて、ねむりくん、とろんとしたルキウスくんがまってます
きて、ねむりくん、おねがい、きもちいいねむりくん、きて
ルキウスくんがきみにやさしくうたってます、ふかいねむりくん
ねむりくん、きて、おねがい、きもちいいねむりくん、きて
ルキウスくんがきみをおへやによんでます、きもちいいねむりくん
やさしいねむりくん、きもちいいおやすみくん
ルキウスくんがきみをゆりかごによんでます、こっちきて、ねむりくん
ねむりくん、ゆりかごにきて、ね、ねむりくん、きて
ルキウスくんがきみをベッドによんでます、さあ、きて、ねむりくん
さあ、きて、ねむりくん、きて、よるのともだちねむりくん、きて
ルキウスくんがきみをまくらによんでます、めでおねがいしています
ねむりくん、きて、おねがい、さあ、きて、ねむりくん、きて
ルキウスくんがきみをだっこしたいってよんでます、じぶんでぎゅーって
ぎゅーってしたいって、ねえ、おねがい、ねえ、いますぐ、ねむりくん、きて
きてくれた、やさしいね、ねむりくん、ねむらせてくれるやさしいねむりくん
ねむりくんがいれば、こころのなやみもからだのいたみもかるくなるのです

*****
Giovanni Pontano (1429-1503)
"Naenia Prima ad Somnum Provocandum"

Somne, veni; tibi Luciolus blanditur ocellis;
Somne, veni, venias, blandule somne, veni.
Luciolus tibi dulce canit, somne, optime somne;
Somne, veni, venias, blandule somne, veni.
Luciolus vocat in thalamos te, blandule somne,
Somnule dulcicule, blandule somnicule.
Ad cunas te Luciolus vocat; huc, age, somne,
Somne, veni ad cunas, somne, age, somne, veni.
Accubitum te Luciolus vocat, eia age, somne,
Eia age, somne, veni, noctis amice, veni.
Luciolus te ad pulvinum vocat, instat ocellis;
Somne, veni, venias, eia age, somne, veni.
Luciolus te in complexum vocat, innuit ipse,
Innuit; en venias, en modo, somne, veni.
Venisti, bone somne, boni pater alme soporis,
Qui curas hominum corporaque aegra levas.

https://tinyurl.com/ycthptxg
(www.perseus.tufts.edu)

*****
本当に眠くなるリズム。

*****
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Secundus, Basium 14

ヨハネス・セクンドゥス
「キス 14」

火のように真っ赤なくちびる、どうして噛んでるの?
キスできないよ、冷たくするなら。
ね、冷たい大理石より冷たいネアエラちゃん。
前みたいに仲よく、口づけをたくさん、
ぼくは捧げたいんですけど、気高いあなたさまに。
何回でも、仰向けになって力の抜けた君にキスして、そのたびに
ぼくはかちかちになって、ふたりの服に穴あけちゃう、みたいな?
頭からっぽになるほど欲望にとり憑かれて、
血が燃えて溶けてダメになっちゃう、みたいな?
どこ行くの? 逃げないで。かわいい目でこっち見て。
真っ赤なくちびる、噛んだまんまでいいから。
ね、いい子ちゃん、キスしたいな。
やさしい最高級の羽毛よりもやさしい君に。

*****
Johannes Secundus
Basium 14

Quid profers mihi flammeum labellum?
Non te, non volo basiare dura,
Duro marmore durior Neaera.
Tanti istas ego ut osculationes
5. Imbellesis faciam, superba, vestras,
Ut, nervo toties rigens supino,
Pertundam tunicas meas, tuasque;
Et, desyiderio furens inani,
Tabescam, miser, aestuante vena?
10. Quo fugis? remane, nec hos ocellos,
Nec nega mihi flammeum labellum:
Te iam, te volo basiare, mollis,
Molli mollior Aanseris medulla.

http://www.wernergelderblom.nl/editie/basia/index.html
Ms. Rawl. G 154
- 適宜修正

*****
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Secundus, "Basium 16"

ヨハネス・セクンドゥス
『キス』
「キス16」

白雪のラトーナの星より美しく、
金のウェヌスの星よりきれい、だね。
さ、キスして、百回。
たくさんして、キス。
カトゥルスが求めたくらい、レスビアが与えたくらい、たくさんして。
色っぽいウェヌスや、クピドーが、何回も
君の唇と
薔薇色のほっぺでぼくを誘ってる。だから何回でもキスしたい。
君の目に何度も命をもらって、何度も殺されて、そのたびにキスしたくなる。
君の目を見て期待して、不安になって、いつも
心配しながら幸せなごちゃまぜな気分になって、
好きでたまらなくなってため息をついて、で、キスしたくなる。
だからキスして、胸に刺さる痛みの数だけ。
空飛ぶ怖い愛の神が、ぼくの胸に矢を撃ちこんでくるんだ。
あの金色の筒にある矢の数だけ
キスしたいってこと。
それから、キスしながら、ぼくにさわって。話しかけて。
優しくささやいて。しー、って言って。
楽しく笑って。
キスして、そして幸せで痛い気分にして。
カオニアの恋する鳩たちが、興奮してぱたぱたしておしゃべりしながら
くちばしでちゅっちゅするみたいにキスして。
春の西風が吹いて、
冬の厳しさがゆるんだ頃に。
ぼくのほっぺにもたれながら
濡れた目を溺れさせて。
そして、血の気が抜けたみたいに力を抜いて、
助けて、ってぼくに言って。
そしたらぼくは君を、き・み・を、ぎゅーって抱きしめる。
冷たくなった君に、ぼくの熱い胸と心を押し当てる。
そして、君を生き返らせるんだ、
炎のように燃える、長いキスで。
そしたら今度は、キスするたびにぼくの魂が
濡れた口から抜けていって、気が遠くなって、
腕に力が入らなくなるから、お願い、
ぼくを君の腕で抱きしめて。
腕をからめて、ね、ぼくを抱っこして。
冷たくなったぼくを、君の生ぬるい胸で撫でて、
そして、ぼくに命をふーって
吹きこんで、露たっぷりの長いキスで。
こうやって、ね、まぶしい君、花の人生の花びらのような一瞬一瞬を
ぜんぶ摘んで楽しく生きよう。ほーら、今のうちに! そのうち
歳をとって病気になって、心配ごとばかりでみじめになって、
体も痛くて悲しくなって、結局死ぬだけなんだから。

*****
Johannes Secundus (1511-36)
Basia
"Basium XVI"

Latonae niveo sydere blandior,
Et stella Veneris pulchrior aurea,*
Da mi basia centum,
Da tot basia, quot dedit
5. Vati multivolo Lesbia, quot tulit:
Quot blandae Veneres, quotque Cupidines
Et labella pererrant,
Et genas roseas tuas:
Quot vitas oculis, quotque neces geris,
10. Quot spes, quotque metus, quotque perennibus
Mista gaudia curis,
Et suspiria amantium:
Da, quam multa meo spicula pectori
Insevit, volucris dira manus Dei:
15. Et quam multa pharetra
Conservavit in aurea:
Adde et blanditias, verbaque publica,
Et cum suavicrepis murmura sibilis,
Risu non sine grato,
20. Gratis non sine morsibus:
Quales Chaoniae garrula motibus
Alternant tremulis rostra columbulae,
Cum se dura remittit
Primis Bruma Favoniis.
25. Incumbensque meis, mentis inops, genis,
Huc, illuc, oculos volve natatiles,
Exanguemque lacertis
Dic te sustineam meis:
Stringam nexilibus te te ego brachiis,
30. Frigentem calido pectore comprimam,
Et vitam tibi longi
Reddam afflamine basii:
Donec succiduum me quoque spiritus
Istis roscidulis linquet in osculis,
35. Labentemque lacertis,
Dicam, collige me tuis.
Stringes nexilibus me, mea, brachiis,
Mulcebis tepido pectore frigidum,
Et vitam mihi longi af-
40. flabis rore suavii.
Sic aevi, mea lux, tempora floridi
Carpamus simul, en iam miserabiles
Curas aegra senectus
Et morbos trahet, et necem.

http://www.wernergelderblom.nl/editie/basia/index.html
Ms. Rawl. G 154
- 適宜修正

*****
ルネサンスのネオラテン詩のなかで、もっとも大きな影響を
及ぼしたといわれるセクンドゥスの詩集より。
初版は1539年。

こういうものを読んで、ロンサールらが性的に刺激の
強い、道徳的に挑発する、詩を書きはじめた。
それらがイングランドに入ってきて、というのが
16-17世紀の流れ。

*****
カルペ・ディエム carpe diem

*****
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昼下がり

昼下がり

1
かがやく緑
風が花の子に口づけ
旅立つ鳥たち
光に満ちた昼下がり

君とぼくが
出会った町に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

2
あふれる歌声
生きものたちのカーニバル
雲がひと筋
光に満ちた昼下がり

君とぼくが
遊んだ川に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

3
木の葉の装い
通りの暖かい色
ふたりで自転車
光に満ちた昼下がり

君とぼくが
昇った丘に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

4
毛糸のぬくもり
白い息、白い足跡
君が生まれた
光に満ちた昼下がり

君とぼくが
歩いた道に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

5
かがやく緑
風が花の子にくちづけ
旅立つ鳥たち
光に満ちた昼下がり

君とぼくが
出会った町に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

君とぼくが
暮らした町に行こう
君とぼくの
歌が心かけめぐる

*****
歌・ピアノ・ギター
https://archive.org/download/gt_202001xx_em/05%20g6%20autumn%20comp%200229.wav


https://archive.org/download/gt_202001xx_em/13%20g6%20aft%20ver4%200226%20united%200313.wav

その他、同日の作品
https://archive.org/details/gt_202001xx_em
- 上のものはここの5と13
- E: ピアノ・声 / G: ギター・声

全録音
https://archive.org/search.php?query=creator%3A%22GT_JP_1971%22&sort=titleSorter

*****
1992?
20071111
20110820
20120110
20120113
20120418
20130402
20160118
20161010
20170121
20200114

*****
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美しい人の歌

美しい人の歌

1.
色褪せる
思い出、でも
君は眩しく
透きとおる

横顔の
微笑み
旅の終わりの
答えあわせ

2.
幸せ、それは何?
知恵のない知恵
風のない風
時のない時、そんな日々

美しさ、それは何?
夢のない夢
嘘のない嘘
罪のない罪、そして君

(3.)

4.
続く旅、見えない幻
聞こえない音
忘れない声
続かない歌の永遠の響き

美しさ、それは何?
嘘のない音
叶わない夢
終わらない歌、そして君

*****
20200614
20200619

*****
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Ronsard, "Amourette"

ピエール・ドゥ・ロンサール
「恋のようなもの?」

冬ですね、氷がもう、厚くてかたい。
ふたりで温まりません?
炉端の灰の前で丸くなる、というのではなく、
気持ちいい恋の戦い、なんていかがですか?
この柔らかいベッドにすわって。そうそう。
ちゅ、ってキスしてください。唇は、ほら、こっち。
両腕でぼくの首、ぎゅってしてください。
ちょっとのあいだ、お母さんのことは忘れましょう。

歯で君の乳首をころころしたいですね。
君の髪、ひと筋ひと筋、ほどいていいですか?
いやいや、楽しくイチャイチャするだけですから、
日曜みたいに髪を整えたりとか、いらないです。

だからほら、もっときて、ほっぺをこっちに向けてください。
顔が赤くなってます。恥ずかしい? でも、やめませんから。
笑ってるじゃないですか。聞こえました?
嬉しいですか?
胸、さわっちゃお、って
言ったんです。いいですよね?
無言で逃げないでください。わかってます、
その目は嬉しいんですよね。
顔を見ればわかります。
愛の神に誓ってもいいです。恥ずかしいから、
死んでも自分の口から言わないんでしょう、
キスして、って。本当はしたいのに。
女の子はみんな、恋愛ごっこが好きなくせに、
自分からはいかないんですよね。
エレーヌがいい例です。自分から
パリについていったのに、彼が誘拐したことになってます。

ぼくが優しくお手伝いしてあげます。
さ、横になって、おまえはもう逝っている、なーんて(笑)。
あははっ! ぼくの心も逝きそうです!
だって、ぼくがキスしなかったら、ぼくのこと、ばーか、って
思うんでしょう? ひとりぼっちでベッドで寝ながら(笑)。
だから、ちゅ、って。そう、OKです。ぼくの茶髪のかわいこちゃん。
もう一回しましょう。ぼくたちの美しい時間を
また熱くすごしましょう。さっきみたいに気持ちよく戦って。

*****
Pierre de Ronsard
"Amourette"

Or que l’hiver roidit la glace épaisse,
Réchauffons-nous, ma gentille maîtresse,
Non accroupis près le foyer cendreux,
Mais aux plaisirs des combats amoureux.
Assisons-nous sur cette molle couche.
Sus! baisez-moi, tendez-moi votre bouche,
Pressez mon col de vos bras dépliés,
Et maintenant votre mère oubliez.

Que de la dent votre tétin je morde,
Que vos cheveux fil à fil je détorde.
Il ne faut point, en si folâtres jeux,
Comme au dimanche arranger ses cheveux.

Approchez donc, tournez-moi votre joue.
Vous rougissez? il faut que je me joue.
Vous souriez: avez-vous point ouï
Quelque doux mot qui vous ait réjoui?
Je vous disais que la main j’allais mettre
Sur votre sein: le voulez-vous permettre?
Ne fuyez pas sans parler: je vois bien
A vos regards que vous le voulez bien.
Je vous connais en voyant votre mine.
Je jure Amour que vous êtes si fine,
Que pour mourir, de bouche ne diriez
Qu’on vous baisât, bien que le désiriez;
Car toute fille, encor’ qu’elle ait envie
Du jeu d’aimer, désire être ravie.
Témoin en est Hélène, qui suivit
D’un franc vouloir Pâris, qui la ravit.

Je veux user d’une douce main-forte.
Hà! vous tombez, vous faites jà la morte.
Hà! quel plaisir dans le coeur je reçois!
Sans vous baiser, vous moqueriez de moi
En votre lit, quand vous seriez seulette.
Or sus! c’est fait, ma gentille brunette.
Recommençons afin que nos beaux ans
Soient réchauffés de combats si plaisants.

https://www.poetica.fr/poeme-173/pierre-de-ronsard-amourette/
- 現代フランス語つづりに修正済み。
- 原文および散文英語訳はRonsard, Selected Poems (Penguin, 2002) を参照。

*****
Le Second Livre des Amours (1556) より。

外は寒いから、というホラティウスのオード1.9が
元ネタ。比較すると笑ってしまうはず。ロンサールが
あまりにもひどい脱線のしかたをして、無茶な方向に
突っ走っているので。

Fanshawe (tr.), Horace, Ode 1.9
Milton, ("Lawrence of vertuous Father vertuous Son")
Vaughan, "To Master T. Lewes"
Dryden (trans.), Horace, Ode I.9

*****
この詩は、当時英語に訳されていないが、イングランド
(の詩)人が読んでいたはずの作品。フランス語
(やラテン語)を読む力、少なくとも読みたいという
意思・意志や努力がなければ、当初は刺激的な娯楽に
ありつけなかった、ということ。

(すぐに英語でも同様の、あるいはもっと悪趣味な、
詩が書かれるようになる。それでも、英語が読めない・
本が買えない大多数のイングランド人には、まだ
縁のないものだった。)

エロティックな絵画・彫刻などは、宮廷人以上の
地位または宮廷にコネがないと見られなかった。
(大陸に行くお金や大陸の宮廷へのコネがあれば
さらによかった。)

結論:
- 階級差とは知識の差・娯楽の質の差。
- 芸術とは単なる娯楽。

*****
エレーヌはヘレネ、パリはパリス。
トロイア戦争への言及。

16世紀のネオ・ラテン詩人セクンドゥス
(Johannes/Janus Secundus)がこの手の、
エロティックで道徳的に挑発的な詩の先駆。

なお、作品中の "sus" は音から解釈。

*****
キーワード:
Carpe diem カルペ・ディエム
Horace ホラティウス
Ovid オウィディウス
Secundus セクンドゥス

*****
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Fletcher, G, Licia 29

ジャイルズ・フレッチャー
『リシア』29

うわ、死ねばよかった、さっきの夢のなか。
(大好きなあの人が出てきたのに短すぎ!)
神さま、お願いです。眠らせてください。
天国です、あんな夢が見れるなら。
闇のなか輝くお姫さま、
乳色の白い丘が二つあって、そこに甘いお酒がつまっていて、
太ももは象牙みたいで、もう奇跡かと思いました。
ぼくの目鼻口耳手足胴の求めるものが、みんなそこにありました。
その時にした楽しい遊びは内緒です。秘密だからこそ最高なので。
妄想が実現したみたいでした。
ぼくたちは一戦を交え、はぁはぁ言いながら休みました。
ぼくはずっと彼女に、彼女はずっとぼくに、キスしてました。
神さま、眠らせてください。幻でいいからぼくの体を満足させてください。
それか、目覚めさせてください。そして本当に満足させてください。

*****
Giles Fletcher
Licia 29

Why dy'd I not when as I last did sleepe?
(O sleepe too short that shadowed foorth my deare)
Heavens heare my prayers, nor thus me waking keepe:
For this were heaven, if thus I sleeping weare.
For in that darke there shone a Princely light:
Two milke-white hilles, both full of Nectar sweete:
Her Ebon thighes, the wonder of my sight,
Where all my senses with their objectes meete:
I passe those sportes, in secret that are best,
Wherein my thoughtes did seeme alive to be;
We both did strive, and wearie both did rest:
I kist her still, and still she kissed me.
Heavens let me sleepe, and shewes my senses feede:
Or let me wake, and happie be indeede.

http://tei.it.ox.ac.uk/tcp/Texts-HTML/free/A00/A00946.html

*****
次のようなロンサールの夢ネタの模倣。
(Il faisoit chaud, et le somne coulant)
(J'attachay des bouquets de cent mille couleurs)
(Ces longues nuicts d'hyver)

「ルネサンス」とはこういうこと。
難しくとらえる必要などない。

*****
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Fletcher, G, Licia 34

ジャイルズ・フレッチャー
『リシア』34

かわいいリシアにお願いする、キスして、
薔薇と百合が美を競うその唇で、と。
するとすぐ、ぼくの目が羨んで、
最高の幸せをぼくの唇から奪おうとする。
リシアを見つめて、目を満足させようとすると、
今度は唇が羨んで、目を押しのける。
こうしてぼくの唇と目が権利を主張しあって、
ある意味共謀して、ぼくから幸せを奪う。
美しい人には不思議な力があって、
体のすべての部分に不思議な力があって、
ぼくがばらばらになってしまう。
ぼくとぼくが喧嘩してしまう。
君のすべてがぼくのものなら、こんな嫉妬はおこらない。だから
リシア、君のすべてがほしい。すべてくれないなら、まったくいらない。

*****
Giles Fletcher
Licia 34

When as I wish, fair LICIA, for a kiss
From those sweet lips where rose and lilies strive
Straight do mine Eyes repine at such a bliss,
And seek my lips thereof for to deprive.
When as I seek to glut mine Eyes by sight;
My Lips repine, and call mine Eyes away.
Thus both contend to have each other's right;
And both conspire to work my full decay.
O force admired of beauty in her pride;
In whose each part such strange effects there be,
That all my forces in themselves divide,
And make my senses plainly disagree.
If all were mine, this envy would be gone:
Then grant me all, fair Sweet; or grant me none!

http://www.shakespeares-sonnets.com/Archive/Licia.htm

*****
元ネタはヨハネス・セクンドゥスの『バジア』7
(Centum basia centies)。

Johannes Secundus (1511-36)
Basia = kisses

*****
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Lodge, Phillis 34

トマス・ロッジ
『ピュリス』 34

あふれる金色の雨のなか、
快楽に誘う雨の快楽に溺れながら降りそそぎたい、
美しいかわいいピュリスの太もものあいだに、
眠りが眠りであの人の感覚を鈍らせている時に。
乳白の牛に変身したい、
あの人が気持ちいい野原にくる時間に、
そして気持ちいい滑らかな肌で愛しい人をはっとさせる、
気持ちいい花を茎からとっている時に。
痛みのほうが飽きるまで痛みつくしてやろう、
ナルキッソスになって、泉のあの子のなか、
心がよじれるつらい気持ちを溺死させよう。
そしてもっと、いろいろ変身したままでいたい、
気持ちいい妄想の太もものあいだに寝転んで、
新しい欲望を感じたい。そうしていないと欲望は死ぬ。

*****
Thomas Lodge (c.1558-1625)
Phillis 34

I would in rich and golden-coloured rain,
With tempting showers in pleasant sort descend
Into fair Phillis' lap, my lovely friend,
When sleep her sense with slumber doth restrain.
I would be changèd to a milk-white bull,
When midst the gladsome field she should appear,
By pleasant fineness to surprise my dear,
Whilst from their stalks, she pleasant flowers did pull.
I were content to weary out my pain,
To be Narcissus so she were a spring,
To drown in her those woes my heart do wring,
And more; I wish transformèd to remain,
That whilst I thus in pleasure's lap did lie,
I might refresh desire, which else would die.

http://www.shakespeares-sonnets.com/Archive/Lodge.htm

*****
ロンサールのソネット("Je vouldroy bien richement jaunissant")
の英語訳。無駄な英語のくり返しを無駄に日本語に訳した。
ロンサールよりはエロティックでない。
結末は微妙に哲学的(?)

abbacddceffegg
ソネットの脚韻は必ず見たほうがいい。
イタリア式・イギリス式などという
教科書的な説明がいかにおざなりかわかるはず。

*****
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Browning, EB "Bertha in the Lane"

エリザベス・バレット・ブラウニング
「小道でバーサは」

I.
刺繍の枠、もうどけて、
終わったから。
糸がなくなったけど、
もうつなげなくていいわ。
まだお昼だけど
もう疲れた。バーサ、かわいい妹、あなたの
ウェディング・ドレスができた。

II.
ね、バーサ、ベッドに連れてって。
こっちに来て、ね。
どうしたの? 怖くないよ?
顔が赤いよ?
外、誰も来てない?
お願い、会わせてね、
バーサ、わたし、あなたが本当に好き。

III.
ここに顔をのせて、この
両手に。手のひらで
ほっぺとあごを支えてあげる。
金色でくるくるの髪をなでてあげる。
かわいい、本当にかわいい顔……
大きな目、真っ赤な唇、
若かった頃のわたしなんかよりずっときれい。

IV.
わたしより7歳も若いのよね……
え! 恥ずかしい? わたしが見てるから?
まつげの涙が
重くって目が開かない?
傷つけたりとか、わたし、しないよね?
バーサは痛くても言ってくれないけど。
それか、わたしのこと、そんなに心配してくれてるの?

V.
わたし、ほとんどお母さんみたいだったよね、
バーサはかわいいこどもで、ね? でしょ?
おたがい、大好きだったよね?
本当に、いつもいつも。
お母さんは優しくって、清らかで、
死ぬ時に言ってた、
「この子のお母さんになってあげて、ね?」

VI.
お母さん、天国のお母さん、
碧(みどり)色の空の海に立ち上がって
証言して。わたし、捧げてきたよね?
求められたら、みんな差し出してきたよね?
わたしを守ってきてくれた希望とか、天に昇る幸せとか、
愛とか、傷ついたけど、いいの、
それから、どんでん返しの人生も!

VII.
お母さん、青空の海の
光の部屋のなか、まるで聖人さまみたい!
でも、端のほうがだんだん暗くなってる。
明るく笑ってるのに、青白い……
冷たい波みたい……もうだめ、言葉が出てこない。
涙が出ちゃう。力も入らない。

VIII.
天国のお母さん、まだ来ちゃだめ。
わたしを連れてくの、あと一時間待って。
まだ忘れられないから、温かい血の通った
この世界で幸せだったこと! それから悲しかったこと!
指にはまだ指輪があるの。
まだきらきらしてる、
夜で真っ暗な時でも。

IX.
どうしたの、バーサ、顔色が悪いわ!
ああ、わたし、変なこと言ったのね……
大丈夫、もう熱に浮かされてない、
落ちついた。
もっとこっちにもたれて……もっと近くにきて。
バーサにお話したいことがあるの。
キスもたくさんしてあげたい。

X.
ね、バーサ、あなたの声が聞こえたわ、春、
ロバートと話してた……木の向こうで……
いっしょに出かけたのよね、
五月祭で……お花を摘みに……蜂が飛んでて。
そんな、びくっとしないで! 思い出して、
お空の太陽の光が
木のあいだから、ぽたぽた降ってるみたいだったよね。

XI.
とってもきれいな日だったな……
伝わってきた、丘も谷も
胸をふくらませてどきどきしてるみたいだった、
大きな空を見て。
そして音のない音が
金色の光の洪水のなか、
芽生えてた、ひとつ、次にまたひとつ。

XII.
緑の木にはさまれた曲がり道、
いっしょに歩いたよね、わたしとあなた……
木の葉の屋根の下、ね。
門みたいな木のあいだから景色が見えたよね!
おしゃべりして、つぐみも優しく
わたしたちを褒めてるみたいに歌ってくれて、それから
羊たちの声もそれに応えてて。

XIII.
あまりにも気持ちよくて、
わたし、黙っちゃって、
曲がりくねった道を
ひとりで先に行っちゃった。
もの思いに耽ったまま
池のところを通りすぎて、
その先の牧場に来てた。

XIV.
だから、わたし、ぶなの木の下にすわって待とうと思って。
枝でちょうど日陰になってたから。
遠くからあなた……の声が聞こえて、
楽しそうだな、って思って、
ふたりのためにたくさんお祈りしたの。
自然と笑顔になって、少しかがんで、
太ももにのせたお花を抱くみたいな姿勢で。

XV.
でも、だんだん声が言葉に聞こえるようになってきて、
話し声が近くなってきて……
ね、バーサ、ごめんね、聞いちゃった、
聞いてほしくなかったよね。
泣かないで、そんな、震えるほど。
ああ……でも聞こえたの、バーサは
心のこもったお返事してた、わたしのことも考えてくれながら。

XVI.
そうよ、あの人も! あの人のこと、
心のなかで責めないでね。
しかたないもの。わたしの手を
とってくれたの、早まっただけかもしれないもの。
たぶん、いけないことだよね……でも、それでも、
よくあること……なくならないことだよね。
男の人だもの。

XVII.
もしバーサに先に会っていたら? あの人、
わたしひとりだけ愛するって誓う前に?
バーサはいなかったもんね、あの時、
シドマスの親戚の家に行ってて。
それで、そのあと、彼、バーサに会って、
世界でいちばんかわいいバーサに会って、
みんなと同じこと考えたのよね。

XVIII.
あの人のこと、問い詰めたらどうかな?
バーサとわたしで。それもアリだよね?
バーサの茶色い目の視線って、鳥みたい。
光に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
わたしの目は、もうおばさんの目……あ、しっ!……見て、
通りのほう! 誰かいない?
ポプラがすっごい揺れてない?

XIX.
あの時……ぶなの木の下で
夢のなかみたいにぼんやり聞こえた……
彼、あの深い声で言ってた……
わたしは評価されるべき人だって……
その言葉、ひとつひとつが頭のなかでぐるぐる泳いで、
ぼんやーり、じんわーり、痛くなってきて、
パンって、最後にみんなはちきれて、

XX.
倒れちゃった。目の前真っ暗になって、
何も聞こえなくなって。
目が覚めてもまだ冷たくて、真っ暗で、
夜になってた。お月さまと
お星さまが出てて、
摘んだ花が草に散らばってて、みんな、
「あなた誰?」って、わたしに言ってるみたいだった。

XXI.
それでね、立てるようになってから、歩いて帰ったんだけど、
自分から遊離したみたいになってて、
自分のこと、かわいそう、って思ってた。
自分の心臓を手にのせて、
ちょっと冷たく、かたちだけ
優しい感じで、本当はどうでもいいって思ってるのに
「かわいそう」って言ってるみたいだった。

XXII.
だから、冷たい感じでほとんど話せなかった。
帰って、ドアのところでバーサに会っても、ね。
聞こえたのは雫の音、
ぽた、ってわたしから床に落ちてた。
摘んだ花、見せてあげたけど、
もう枯れてた、蜂もこないくらいに。
あの日からのわたしの人生と同じ。

XXIII.
そんなに泣かないで……バーサ……優しいね。
なるようになって、それでよかったのよ。
彼のこと、ひどい、ってわたし言うかもしれないけど、
そんな時はわたしがおかしいの。どうかしてるの。
彼は優しいことしか言ってない……
わたしを「評価している」って。女ってだめね……
そう言われて、生きる気力がなくなるなんて!

XXIV.
あの頃、わたし落ちこみすぎてた、かも……
世界でいちばん暗くて悲しい歌みたいだった、かも……
たぶん、ああゆう目、してた、
早死にする人の目。
でもバーサ、わたし、もう死んでたの。
長くて、楽しくて、ぶつかりあう人生ゲームなんて
もう無理。恥ずかしいから、もうそっとしておいてほしい。

XXV.
ぜんぜん似てないよね、
バーサとわたし、だから、
姉妹になんか、見えないね、
おたがいに優しい、ってだけだから。
バーサの顔、赤くて、ばらの裏地がついてるみたい。寒くないように。
生まれた瞬間から、もう約束されてた、
たくさんの、本物の、幸せが、ね?

XXVI.
わたしは青白くって、クロッカスみたい、
ばらの根元にちょこっと生えてる。
で、ばらを摘みにきた人に、
踏まれる。
わたしは五月の棘の木の花、
あなたは楽しい夏の蜂……
邪魔だから、わたしなんか摘まれたほうがいい。

XXVII.
でも、誰か摘んでくれるかしら? 誰も悲しくないよね、
長生きしすぎたわたしが、
自分の棘で勝手に死んでも、
自分の棘で自分を刺しても。
かわいいバーサ、元気出して! なんだか、明かりが
ちらちらしてる! もう夜? だったら、
ろうそく消してね。

XXVIII.
玄関で足音しない?
見てきて。誰かいる? いない?
誰か、きてくれてる?
わたしの最後の言葉を聞きに。
誰もいない? そう、いいの。天使だって
死ぬ人の道、通せんぼしないもんね。
神さまが見えないように邪魔したりしないもんね。

XXIX.
もう手と足、冷たくなってきた。
前につくった死ぬ時の服着たら、
しわを伸ばしてね。
棺桶のなかにはローズマリーを散らしてね。
誰か友だちがきた時に
(わたしじゃなくてバーサに会いに、だけど)
少しでも空気が明るくなるといいな。

XXX.
でね、お願い、バーサ、
この指輪はとらないでね。
夜、みんな寝てる時に、
わたし、このきらきらを見るから。
はずしたくないの、誰も見てなくても。
お墓のなかでも、この指輪が
闇を照らしてくれるから。昼でも夜でも。

XXXI.
お墓にきて泣いたりとか、絶対しないでね!
泣かれたら、土の下で
白い布に巻かれてても
バーサの涙、感じちゃう。
だから笑って。バーサは幸せなんだし。
わたしのこと、明るく考えて。
それか忘れて。そしてにこにこして生きてね!

XXXII.
バーサ、どこ? もっとこっちにきて! そして
まぶたにキスして。
そしたら、この世界の光がゆっくり
消えてくれるから。あの朝、
太陽がゆっくりのぼったように、ね。灰色の
夜明けだった……丘のあいだの……道……
彼がくるはずだった道……。

XXXIII.
さて、と、つまらない話はやめましょ!
天使の歌がだいぶ聞こえてきた。
お母さん、笑って、死んだわたしに。
もう死んでるけど、わたしの魂は元気よ。
十字架にとまった聖霊の鳩さん、
わたしの魂は雪に埋もれた鳥みたい、だから連れてって!
吹雪のなか、悲しみをこえて!

XXXIV.
生贄のイエスさま、わかってくれますよね?
神聖な愛の自己犠牲……。
自分をすり減らしてきたわたしの愛を清めてください!
哀れな涙の捧げものを受けとってください!
わたしの命の糸を上に、高く巻きあげて
ください。天使たちの燃える手で!
わたし、天にのぼります、最後の息を吐きながら……。

*****
Elizabeth Barrett Browning
"Bertha in the Lane"

I.
Put the broidery-frame away,
For my sewing is all done:
The last thread is used to-day,
And I need not join it on.
Though the clock stands at the noon
I am weary. I have sewn,
Sweet, for thee, a wedding-gown.

II.
Sister, help me to the bed,
And stand near me, Dearest-sweet.
Do not shrink nor be afraid,
Blushing with a sudden heat!
No one standeth in the street?---
By God’s love I go to meet,
Love I thee with love complete.

III.
Lean thy face down; drop it in
These two hands, that I may hold
‘Twixt their palms thy cheek and chin,
Stroking back the curls of gold:
’Tis a fair, fair face, in sooth---
Larger eyes and redder mouth
Than mine were in my first youth.

IV.
Thou art younger by seven years---
Ah! ---so bashful at my gaze,
That the lashes, hung with tears,
Grow too heavy to upraise?
I would wound thee by no touch
Which thy shyness feels as such.
Dost thou mind me, Dear, so much?

V.
Have I not been nigh a mother
To thy sweetness---tell me, Dear?
Have we not loved one another
Tenderly, from year to year,
Since our dying mother mild
Said with accents undefiled,
“Child, be mother to this child”!

VI.
Mother, mother, up in heaven,
Stand up on the jasper sea,
And be witness I have given
All the gifts required of me,—
Hope that blessed me, bliss that crowned,
Love that left me with a wound,
Life itself that turneth round!

VII.
Thou art standing in the room,
In a molten glory shrined
That rays off into the gloom!
But thy smile is bright and bleak
Like cold waves---I cannot speak,
I sob in it, and grow weak.

VIII.
Ghostly mother, keep aloof
One hour longer from my soul,
For I still am thinking of
Earth’s warm-beating joy and dole!
On my finger is a ring
Which I still see glittering
When the night hides everything.

IX.
Little sister, thou art pale!
Ah, I have a wandering brain---
But I lose that fever-bale,
And my thoughts grow calm again.
Lean down closer---closer still!
I have words thine ear to fill,
And would kiss thee at my will.

X.
Dear, I heard thee in the spring,
Thee and Robert---through the trees,---
When we all went gathering
Boughs of May---bloom for the bees.
Do not start so! think instead
How the sunshine overhead
Seemed to trickle through the shade.

XI.
What a day it was, that day!
Hills and vales did openly
Seem to heave and throb away
At the sight of the great sky:
And the silence, as it stood
In the glory’s golden flood,
Audibly did bud, and bud.

XII.
Through the winding hedgerows green,
How we wandered, I and you,
With the bowery tops shut in,
And the gates that showed the view!
How we talked there; thrushes soft
Sang our praises out, or oft
Bleatings took them from the croft:

XIII.
Till the pleasure grown too strong
Left me muter evermore,
And, the winding road being long,
I walked out of sight, before,
And so, wrapt in musings fond,
Issued (past the wayside pond)
On the meadow-lands beyond.

XIV.
I sate down beneath the beech
Which leans over to the lane,
And the far sound of your speech
Did not promise any pain;
And I blessed you full and free,
With a smile stooped tenderly
O’er the May-flowers on my knee.

XV.
But the sound grew into word
As the speakers drew more near---
Sweet, forgive me that I heard
What you wished me not to hear.
Do not weep so, do not shake,
Oh,---I heard thee, Bertha, make
Good true answers for my sake.

XVI.
Yes, and HE too! let him stand
In thy thoughts, untouched by blame.
Could he help it, if my hand
He had claimed with hasty claim?
That was wrong perhaps---but then
Such things be---and will, again.
Women cannot judge for men.

XVII.
Had he seen thee when he swore
He would love but me alone?
Thou wast absent, sent before
To our kin in Sidmouth town.
When he saw thee who art best
Past compare, and loveliest,
He but judged thee as the rest.

XVIII.
Could we blame him with grave words,
Thou and I, Dear, if we might?
Thy brown eyes have looks like birds
Flying straightway to the light:
Mine are older.---Hush!---look out---
Up the street! Is none without?
How the poplar swings about!

XIX.
And that hour---beneath the beech,
When I listened in a dream,
And he said in his deep speech
That he owed me all esteem,---
Each word swam in on my brain
With a dim, dilating pain,
Till it burst with that last strain.

XX.
I fell flooded with a dark,
In the silence of a swoon.
When I rose, still cold and stark,
There was night; I saw the moon
And the stars, each in its place,
And the May-blooms on the grass,
Seemed to wonder what I was.

XXI.
And I walked as if apart
From myself, when I could stand,
And I pitied my own heart,
As if I held it in my hand---
Somewhat coldly, with a sense
Of fulfilled benevolence,
And a “Poor thing” negligence.

XXII.
And I answered coldly too,
When you met me at the door;
And I only heard the dew
Dripping from me to the floor:
And the flowers, I bade you see,
Were too withered for the bee,---
As my life, henceforth, for me.

XXIII.
Do not weep so---Dear,---heart-warm!
All was best as it befell.
If I say he did me harm,
I speak wild,---I am not well.
All his words were kind and good---
He esteemed me. Only, blood
Runs so faint in womanhood!

XXIV.
Then I always was too grave,---
Liked the saddest ballad sung,---
With that look, besides, we have
In our faces, who die young.
I had died, Dear, all the same;
Life’s long, joyous, jostling game
Is too loud for my meek shame.

XXV.
We are so unlike each other,
Thou and I, that none could guess
We were children of one mother,
But for mutual tenderness.
Thou art rose-lined from the cold,
And meant verily to hold
Life’s pure pleasures manifold.

XXVI.
I am pale as crocus grows
Close beside a rose-tree’s root;
Whosoe’er would reach the rose,
Treads the crocus underfoot.
I, like May-bloom on thorn-tree,
Thou, like merry summer-bee,---
Fit that I be plucked for thee!

XXVII.
Yet who plucks me?---no one mourns,
I have lived my season out,
And now die of my own thorns
Which I could not live without.
Sweet, be merry! How the light
Comes and goes! If it be night,
Keep the candles in my sight.

XXVIII.
Are there footsteps at the door?
Look out quickly. Yea, or nay?
Some one might be waiting for
Some last word that I might say.
Nay? So best!---so angels would
Stand off clear from deathly road,
Not to cross the sight of God.

XXIX.
Colder grow my hands and feet.
When I wear the shroud I made,
Let the folds lie straight and neat,
And the rosemary be spread,
That if any friend should come,
(To see thee, Sweet!) all the room
May be lifted out of gloom.

XXX.
And, dear Bertha, let me keep
On my hand this little ring,
Which at nights, when others sleep,
I can still see glittering!
Let me wear it out of sight,
In the grave,---where it will light
All the dark up, day and night.

XXXI.
On that grave drop not a tear!
Else, though fathom-deep the place,
Through the woollen shroud I wear
I shall feel it on my face.
Rather smile there, blessed one,
Thinking of me in the sun,
Or forget me---smiling on!

XXXII.
Art thou near me? nearer! so---
Kiss me close upon the eyes,
That the earthly light may go
Sweetly, as it used to rise
When I watched the morning---grey
Strike, betwixt the hills, the way
He was sure to come that day.

XXXIII.
So,---no more vain words be said!
The hosannas nearer roll.
Mother, smile now on thy Dead,
I am death-strong in my soul.
Mystic Dove alit on cross,
Guide the poor bird of the snows
Through the snow-wind above loss!

XXXIV.
Jesus, Victim, comprehending
Love’s divine self-abnegation,
Cleanse my love in its self-spending,
And absorb the poor libation!
Wind my thread of life up higher,
Up, through angels’ hands of fire!
I aspire while I expire.

*****
https://www.poeticous.com/elizabeth-barrett-browning/bertha-in-the-lane

*****
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