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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

春先、夜間当番の夜 小結腸破裂

2018-03-10 | 急性腹症

その晩、わたしは夜間当番。

夕方にやってきた2頭は、手術にはならなかった。

早朝4時前の電話は、前夜に分娩した繁殖雌馬が、分娩直後から振るえて様子がおかしいので診てほしい、とのこと。

子宮動脈破裂する歳ではなさそうだ。

あとは、消化管破裂か、子宮穿孔か・・・・・・

消化管破裂なら処置しようがない。

子宮穿孔なら日中の対応でも大丈夫なのだが・・・・

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来院したら、一見おちついて見える。

が、口粘膜チアノーゼ。

CRT(capirally refill time ; 毛細血管再充溢時間)は3秒以上。

採血して・・・PCV67%、WBC2800。

超音波検査で、腹水が溜まっているのが見えた。

これは消化管破裂だ。

確認のために腹腔穿刺する。

緑褐色の液が採れた。

その液の白血球数1800。

まだ白血球の遊走が間に合っていないのだろう。

遠心して沈査の塗沫標本を観ると、多数種の細菌が見えた。

間違いなく腹水であり、消化管破裂だ。

「もう助ける方法はありません」

「仔馬に少しでも乳を飲ませてやった方が良いです」

「でも、倒れて死ぬときに子馬が危ないので目を離さないように」

と指示して仔馬を置いてきた牧場へ帰す。

「昼までには死にます」

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それから数時間後に牧場で死んだ。

仔馬は乳を飲みたがったが、もう乳は出なかったそうだ。

剖検で、小結腸の破裂を確認した。

内容のある小結腸が分娩で引張られて裂けたのだろう。

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一連の診断は実習生たちに見せて説明した。

「死んじゃったんですね」と言うから、「そう言っただろ?」

わたしは預言者じゃない。

きちんと診断して助けられる馬は助けたいと思ってやっているだけだ。

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ひどい雨の夜。

雨は日中も降り続いた。

記録的な積雪が残っていて、それが融けて排水溝や沢や川が増水してひどいことになっているようだ。