蹄葉とは、蹄骨を蹄壁に貼り付けている組織。
馬の体重は蹄骨にかかるが、蹄骨の裏側が体重を支えているわけではない。
蹄骨が蹄壁にしっかり貼り付けられているために、体重は蹄壁を経て、蹄全体で受け止められている。
(馬に蹄鉄を履かせると、荷重はほとんど蹄鉄つまり蹄壁下面だけで受け止められる)
しかし、蹄葉がその機能を果たさなくなると、蹄骨は蹄壁から剥がされてしまう。
蹄骨は深屈腱で引っ張られているので、蹄骨の前側が落ちるように蹄の中で回転する。
これがローテーション。
(右・右下;図はAdams' Lameness in Horseより)
これは、反回時に、蹄壁を蹄骨から剥がそうとする力が、蹄尖部に一番かかるためでもある。
ところが、蹄壁の蹄尖部だけでなく蹄壁側面も含めて蹄葉が破壊されると、蹄骨はローテーションをおこさず、蹄の中で、荷重がかかるままに沈み込んでしまう。
これが、sinker シンカー(沈下型)と呼ばれる蹄葉炎だ。
蹄壁の厚さは18mm以下のはずなのだそうだ。
平均で14.6mm。
他には蹄冠部から蹄骨の伸筋突起の距離を測る方法もある。
馬ごとの蹄のサイズの違いを補正するために、他の計測部位との比率で判定する方法も報告されている。
あまりに蹄が痛くて挙げられない肢もあったし、
台の上にうまく蹄を置けない。
カセットが蹄と離れているので、拡大されて写っている。
で、右後肢は台を踏ませることができなかった。
どの蹄もローテーションはほとんどないが、
蹄冠部が陥凹しているのがx線画像でもわかる。
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蹄冠部を観察するために毛刈りした。
最初は背中を丸めて集合姿勢だったそうだ。
後肢の蹄の方が痛かったのだろう。
前肢蹄が痛いと前肢を前に置いて後肢に体重をかけようとするはずだ。
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蹄冠部は破れて出血している。
蹄骨が沈んで行くので裂けてしまったのだろう。
痛み止めを投与していたが、一歩も動けなかった。
痛みの表現で「生爪を剥がす」というが、
まさにそれなのだろう。
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蹄葉炎の治療・蹄管理で、ローテーションを抑える方法はいくつかある。
・蹄尖部を過削する。
・ヒールアップする。
・反回を助けるレールシュー。
・蹄踵部で負重できるようにエッグバーシューやリバースシュー。
・深屈腱切断手術。
しかし、蹄葉のどの部分も蹄骨を蹄壁に着けていられなくなったシンカー型蹄葉炎にできることはほとんどない。
強いてあげれば蹄底で蹄骨を支えるためのアドバンスドクッションサポートやスタイロフォームの利用だろうか。
それも四肢の脱蹄が始まっているのでは効果がないだろう。
安楽死が人道的な処置である病態もある。
マトリックスメタロプロテアーゼは胎盤が剥がれるときには働いていないのでしょうかね?抑制すると胎盤が停滞して子宮内膜からエンドトキシンを吸収してしまう。マトリックスメタロプロテアーゼを促進すると蹄葉の破壊が進んでしまう。というジレンマがあったりして。
しかしながら何が起きているかぐらいわかれば蹄壁が離開することを阻止する手立ても出てきそうな気がします。
MMPは蹄壁の角質を真皮からを遊離させる決定的な因子であって(離開させるのは体重かと)
そこから前の段階はまた要因が細分化されていくように思えます。
MMP外因説を聞いたときは???と思いましたが急性かつ劇症の蹄葉炎を形成させるパターンの一つとしてはあっても良いように感じます。
胎盤停滞も因果がよくわからないですから、この辺の研究の進展も興味深いです。
このブログもいくらかお役に立つようでなによりです。
英語で馬の解剖や蹄葉炎の話を聞いて理解できるのはすごいです。さすがです!
「蹄葉炎とまでは言わないけれど、シンカーになっている」
と訳のわからないことを獣医さんに言われていました。
別の獣医さんにセカンドオピニオンとしてもう一度レントゲンを撮ってもらったところ、
「蹄底がものすごく浅いだけで、シンカーでも蹄葉炎でもない」
と診断されてとてもホッとしていました。
私もいろいろ蹄葉炎のことを勉強してきましたが、蹄骨が落ちているかどうかは蹄壁と蹄骨の距離で見るのではなかったかな?と思っていたところでしたので、またまたこのタイムリーな記事で自分の知識を再確認できて助かりました。
『蹄壁の厚さは18mm以下のはず。平均で14.6mm。』
二度と忘れないようにします!
追伸
ひとつ前の日記にコメントさせていただいたシャロンは蹄葉炎についての知識も豊富で、
以前hig先生に教えていただいた蹄葉炎に関する英語の文献に書いてあったエンドトキシンとの関連なども説明してくださいました。
シャロンの話を聞いて、hig先生に教えていただいた文献を勉強しておいてよかった!と思いました(そうでなければ英語で何を言われているかさっぱりチンプンカンプンだったと思います。笑)
具合が悪くなるほど立ったまま寝ようとしない馬という動物にとって、蹄葉炎は悲惨な病気です。世界中で蹄葉炎の研究が行われていますが、いまだに蹄葉炎でダメになる馬が後を絶たないのが現状です。宿命。でしょうか・・・・
流産後は胎盤停滞する率が高いのでしょうかね? 担当の先生は当初から子宮洗浄、抗生物質投与を行い、胎盤の用手除去も試みたそうです。馬もそんなに太った馬でも、高齢馬でもありません。
しかし、先を読んで、予知、予防することは大切ですね。
大阪の藪で遭難とは!?気をつけてください。スズメバチにも。
田んぼには落ちてませんか?!
情報ありがとうございます。最初の写真のベルトでは馬を吊り上げると馬が「バナナになって」しまいます。ようはお尻が落ちてしまいます。幾分、負重を楽にしてやることは出来ると思いますが。
2枚目のHPは立てない馬を起こすためのものです。同じ会社のanderson slingは蹄葉炎の治療・管理に使えると思います。
3枚目の写真のように削蹄師や獣医師まで寝転ぶ必要はないと思います。私はほとんど横臥している馬しか削蹄しません(笑)。
吊起帯を使えば蹄がない馬も生きていけるか。残念ながら、答えは否です。
当牧場でも産褥性蹄葉炎が多発し頭を抱えたことがあります。
個人的には、MMPよりもエンドトキセミアがprimaryな素因だと考えています。
そこで、予防のために
日頃の繁殖牝馬のBCSを低めにコントロールすること、
流産直後から、濃厚飼料のカット、エコーによる胎盤遺残のチェック(+/-子宮洗浄)、抗生剤・消炎剤投与のルーチン化、厩務員さんに肢動脈・蹄熱感チェックの
方法を教えることで、蹄葉炎で廃用になる馬が無くなりました。
手間とコストがかかり、此処でしかできないことだと仰る方もいると思いますが、
一頭の牝馬を失うこと、あの悲惨な末路を見ることに較べれば、やっていく価値
があると信じています。
(時期から考えると当然のことなのですね、生産わかっておりませんので・・・^^;)
肥満、流産というと、人で「妊婦は太ってはいけない」という最近の傾向を連想してしまいます、
検診で何回か血糖値検査もあったような…
馬でも同じようなことがあるのかもしれませんね?!!
雨があがったのでちょっと散歩に行きましたら薮の中に迷い込んで遭難しかけました(大ゲサです、が雨でずぶぬれ^^;)
こちらの薮にはクマがいないので安心です(スズメバチが怖いです)
肢を挙げられない馬の処置には、sling の使用
http://www.naturalhorsetrim.com/Gem_5-15-2000_sling_trim.jpg
http://www.largeanimallift.com/products.htm
や、横になった状態での処置
http://www.naturalhorsetrim.com/Nancy.Tracy_trim_prone.jpg
などの方法があると思います。
無論、どちらも安全性を熟慮しなければなりませんが・・・
4本脱蹄で生存はすごいですね。しかし、寓話的でしょう。
スタイロフォームやアドバンスドクッションサポートは考えられる方法ですが、肢を挙げられず、負重できず・・・
MMPマトリックスメタロプロテアーゼ、体内で産生される蛋白分解酵素、リュウマチの悪化因子として注目されている。ですか・・・
馬での研究が進むことが期待されますが、蹄が痛くなる前にどうやって治療するかが課題ですね。
後肢の踏み換えは、正常な馬でもやる後肢片方休めの姿勢を意味しました。
以下のページ後半に載っているレントゲン写真を見てみてください。
http://www.hoofrehab.com/jessica.htm
(このなかではシンカーとは表現されていないと思いますが)
今回の馬とは状況が全く違いますが、reversing distal descent of P3、下がった蹄骨を戻す事、は状況によっては可能です。
ご無沙汰しております。以前、お話したかもしれませんが、私は四本脱蹄して、現在元気に生きている道産子をしっています。スタイロフォームで蹄底負重させてからのナチュラルフーフケアに可能性は無かったでしょうか。
以前十勝の講習会で総合研究所のK先生とお話したときに、今青木先生のところにあるDVDの中で語られていたMMP原因説について仰られていました。NHCでは、蹄骨に著しい損傷が見られる場合に安楽死を選択肢にあげていますが、シンカーにおいても、回復例があるようです。
聞きかじりの知識を動員すれば胎盤を剥がそうとMMPが異常産生され流産と同時に葉状層の離開が起きた、と説明されるのかもしれません。
MMPはいくつかタイプがあるようですので、いつか短期的にリスクを推測することができるようになるのかも知れません。
後肢を交互に踏み替えるのは重心を前に移せないために仕方なしにしているように思えます。
流産して翌日には蹄が痛かったそうです。4日目にはもう歩けませんでした。
予知も予防も治療もしようが無い感じです・・・・
すごいシンカーですね! 経過はどれくらい早いのでしょうか。
産褥性蹄葉炎はさすが馬産地ですね、しばしば診られるのでしょうか。
一次的な疾患になってから蹄葉炎の症状が見られるまでどれくらいの時間でしょうか。
後足の蹄冠部の出血が恐ろしいです、子馬かわいそうで牧場の人も大変でしょうね。
両後肢が痛いと、前肢を後踏みして前肢に体重をかけようとします。今回の記事の馬の集合姿勢もそうだったのだろうと思います。前肢をかばったときと、後肢をかばったときと、どちらが免重できるか・・・そして、4肢とも痛くなりますね。
3肢がsinkerになったら治療をつづけるべきではない。というのはセオリーだと聞いたことがあります。
後肢は交互に踏みかえれますが、前肢はできませんよね。私は後肢が悪化しやすいという印象はないのですが・・・
後肢が代償性に負重を軽減できないとはどういうことでしょうか?馬は後肢片側は休めることができますよね?
この馬は産褥性蹄葉炎でした。産褥性蹄葉炎は後肢に多いのでは?という人がいますが、調査したことがありません。妊娠馬の荷重が後肢にかかること、エンドトキシンの局所作用などがあるのかもしれません。
1蹄なら脱蹄しても生き延びた馬もいるようです。重輓馬は食べているものとか、体重とか、特別な事情があるでしょうね。
こちらでも蹄葉炎は増えていると実感します。馬がいぜんより太り、濃厚飼料を与えられているからでしょう。
それと、蹄を手入れされていないひどい蹄をした馬の蹄葉炎を見たことがありません。これはなぞです。
かなりではなく、「最悪」だと思っています。慢性化していないので、よく見る典型的な蹄葉炎の形態をしていませんが、慢性化させることもできないタイプの蹄葉炎です。
この馬が蹄葉炎を発症した理由はどこにあったのでしょうか。